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姫君が健康的な体型になると、医者は散歩に誘うようになりました。無理して運動する必要はありませんが、日の光りに全く当たらないのは体に悪いと思ったのです。姫君は嫌がるかと思われましたが 特に何も言わずに誘いを受けました。
医者は姫君の体調に合わせてゆっくり ゆっくり歩きます。姫君はあまり外に出ていなかった為か周囲をじっと見ていました。もちろん姫君は無表情だし、会話もほとんどありませんでしたが 医者は気にしませんでした。
陽だまりの中で数分間 庭を歩き、姫君の血色が良くなったのを確認すると 医者は部屋に戻ることにしました。さり気なく姫君を部屋に促します。まだ初日ですし、姫君が疲れ過ぎないよう配慮したのです。二人は庭に出たのと同じくらいゆっくり時間をかけ、部屋に戻りました。
部屋に着き、医者が姫君の為に扉を開けようと手を伸ばすと中から侍女達の声が聞こえてきました。侍女達は姫君が居ないのをいい事に、好き勝手に無駄口をたたいていました。それは主に姫君の中傷でした。
≪表情がなくて気持ち悪い≫
≪いつも無言で何を考えているか解らない≫
≪感情がまるでない人形のようだ≫
医者は思わず眉をひそめていました。侍女達は扉の向こうに姫君がいるとも思わず、聞くに耐えないお喋りをかしましく続けています。
話し声はそれ程 大きくありませんでしたが小さいとも言えず、部屋の外からでも充分聞こえてるものでした。隣いにいる姫君にも もちろん聞こえているはずです。医者は恐る恐る隣を窺いました。
医者の予想に反して、姫君は ただ静かに佇んでいるだけでした。表情の変化は全く見られません。けれど、ショックを受けていない筈が無いのです。医者は姫君を、庭の近くにあるテラスに誘いました。
再び庭に戻り噴水が見えるテーブルにつくと、医者は助手にお茶を頼みました。姫君は膝上に揃えた手を じっ、と見つめているだけで さっきから一言も言葉を漏らしてはいませんでした。
助手は紅茶とお茶受けの用意を手早く終わらせ、静かにその場を下がりました。姫君は相変わらず手を見つめています。医者がお茶を勧めても飲もうとしません。
医者がどうしようか悩んでいると、とても……とても小さな 今にも消え入りそうな声で姫君は呟きました。
『……どうして、私は……こんななのでしょう……』
その顔は表情もなく、声にも抑揚はありませんでしたが 何故だかとても悲しみに満ちた声音でした。医者には、姫君が今にも泣いてしまいそうに感じられました。
きっと侍女達は姫君が小さい頃から、似たような話をしていたのでしょう。表では“可愛らしい”と誉め、姫君の居ない裏でこっそりと。
けれど いくら侍女達がそれを隠し 仕事を全うしていても、気持ちは態度に出てしまうものです。侍女の態度はいつしか、淡々としたものになっていったのでしょう。それこそ、幼い姫君が気付いてしまう程あからさまに。
姫君も自分が異常なことは分かっていたので、侍女達に反論することなど到底 考えられませんでした。それで姫君は、侍女達の中傷を当然の事だと受け止め ずっと自分を責め続けていたのです。
小さな子供が冷たい環境の中で過ごした事を思い、医者はいたたまれない気持ちになりました。 |