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華氷姫 〜Marguerite〜
作:保科 郁






 昔々、ある王国にたいそう美しい姫君がおりました。

 雪のような純白の肌理(きめ)細やかな肌、艶やかな紫がかった黒髪に、吸い込まれそうな紫紺の瞳。
 そんな美しさと、姫が生まれた時に妻を亡くした事も関係していたのでしょう、王様は姫君をとてもとても大切に育てておりました。
 その甲斐もあって、姫君は大きな怪我も病気もせずに健やかに育っていきました。
 ……ただ一つ、表情がないことを除けば。
 そう、姫君の表情は凍り付いたかのように動かなかったのです。

 華のように美しいけれど、氷のように表情のないお姫さま──。いつしか姫君は 華氷(はなごおり)姫、と呼ばれるようになりました。
 でも姫君はとても美しかったので、その事で姫君を悪く言う人は誰もおりせんでした。民は皆、姫君が笑ったなら とても可愛いだろうに……と、残念がりました。
 王様は姫君の成長を間近にみているので、残念さも一入(ひとしお)でした。

 そんな中 姫君はすくすくと育ち、六歳の誕生日を迎えました。表情は相変わらずありません。
 王様はついに我慢できなくなり家臣達に命令を下しました。姫君を笑わせる事を。そして笑わせた者にはとても素晴らしい褒美をとらす、とも明言しました。
 家臣達は 王様と同じく姫君の笑顔を見たかったのと、褒美をもらえるのとで(こぞ)って参加しました。

 けれど、誰一人として姫君を笑わせることはできなかったのです。
 それに苛立った王様は『そなた達が本気にならないから姫が笑えないのだ。次に笑わせる事ができなければ、死刑に処す!』と言い放ちました。
 それを聞いた家臣達は、恐れ(おのの)きました。王様が本気で言っている事が分かったからです。

 家臣達は死に物狂いで姫君を笑わせようとしました。けれど その必死な行動にも関わらず、姫君の表情はぴくりとも動きません。
 王様は怒りで顔が真っ赤になってきています。家臣達の顔は逆に青ざめ、ガタガタと震えている者もいました。
 王様はそんな家臣達を尻目に すくっと立ち上がると、近くの付き人に処刑人を呼びに行くよう命令しました。付き人は戸惑いましたが、王様に一睨みされ慌てて部屋を飛び出していきます。

 そんな中 一部始終を静かに見つめていた大臣は、近くに居た医師に、そっとある事を提案しました。医師は驚き 止めるよう言いましたが、彼の意志は堅く聞く耳を持ちませんでした。結局、医師は押し切られる形で その提案を了承せざるをえませんでした。

 そうこうしているうちに、付き人が処刑人を連れて戻ってきました。処刑人は身の丈 二メートル近く、筋肉が盛り上がった体つきをしています。頭には黒い頭巾を被っていました。












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