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何でもチャレンジ!
作:篠原


夕方。ようやく終わりのチャイムが鳴り、部活動のない生徒が帰路につく頃。
人気の無い校舎最上階の奥の部屋からはベースの音が鳴り響く。
その音はなんとも切なげでしかしその裏楽しげで・・・聞くものの心を躍らせる。
そうして、しばらくすると今までどこかでコッソリその音を楽しんでいたのか、その部屋のドアをたたく者が現れた。

       トントン
「はーい。どうぞ、開いてますから」
「瑞樹ー!!差し入れもってきたよー♪」
「あっはっは、なんだ優奈か。帰れ」

にこやかに出迎えた青年は笑顔で入ってきた少女を見るやいなや、閉めたばかりの戸をもう一度開け、少女の首を猫のようにもつとポイッと放り出すと、ガチャっと鍵をかける。
追い出された少女―――優奈はすぐさまドアをバンバンとたたきながら不服を漏らす。

「あーちょっと!!なんで追い出すのよー!!せっかくこんな不便な旧校舎まで来てあげたっていうのにーッ!!」

実はこの学校は去年増設したばかりで、旧校舎にはあまり人がよらない。
しかし、この瑞樹という少年はどこで手に入れたのか旧校舎の鍵を所有しており、家では練習できないという理由で放課後はいつもここで相方と共に練習をしている。

「黙れ帰れ頼んだ覚えは無い。そしてその手に持っている危険物をさっさと捨てろ!!」
「あーひっどい!!今回は力作なんだから!是非瑞樹に一番最初に食べてもらいたくて持ってきたんだよ!?」
「どうせお前は俺を一番最初の被害者に仕立て上げるつもりだろうが!!」
「そんなことないよ!しのぶだって試作の方食べて美味しいっていってたもん!」

優奈がバンッと思い切りドアをたたくと向こうから鍵が開く音がした。
またも閉められないようにドアを開けると、呆れ顔の瑞樹が目の前に立っており、ため息ひとつつくといやに低い声で

「・・・その後は?」
「保健室行ってなんか熱が出たとかいって車で帰った」
「お前それ救急車だろうがッ!!帰ったんじゃなくて運ばれたんだ!!・・・やっぱりな!昼間サイレンの音を聞いてまさかとは思ったんだよ!!」
「大丈夫だよ。しのぶが食べたのは試作のほうだから」
「試作で救急車に運ばれたんなら本作は天使に運ばれそうだな」

そう掃き捨てると瑞樹はもう一度大きめのため息をついて教室の奥に入っていく。
優奈もそれにつられ、ドアをしめて瑞樹の後を追う。しかし

「ついてくんなって。それでもついてきたいならその危険物を捨てろ」
「えぇー・・・超力作なのに」

瑞樹は優奈の手に持っているものをびしっとさして言うが、言われた本人の優奈は酷く残念そうに言う。
瑞樹はやれやれといった感じで

「お前、前もそういって俺の居ない間に谷之に食わせただろ」
「うん」
「はぁ。お前な・・・お前のせいで今谷之病院で療養中だから俺今相方がいねぇんだよ」
「そうだったんだ・・・谷之君どうしたの?」
「原因は一枚のクッキーだそうだ。『明らかに殺意を持って作ったんじゃないかって』医者に言われた。普通クッキーには入れるはずの無い液体やらなんやらがたくさん入ってたって言ってた」
「酷い・・・誰がそんなことを・・・?」
「谷之が言うにはその日食べたクッキーはとある女子が『差し入れです♪今回超力作なんですよ?』と言って差し出してきたやつしかないそうだ」
「・・・もしかして、私が渡した後誰かが谷之君に毒入りクッキーをわたs「お前が上げたクッキーだよ!!」

いい加減優奈のボケっぷりに切れた瑞樹は優奈の持っていたクッキーを叩き落す。
しばらくぼーっとしていた優奈だったがゆっくりと手を持ち上げ自分を指すと

「私?」
「そう、お前」
「大丈夫だって!!今回普通の材料で普通につくったk「いい加減こりろっつってんだ!!」
「ぶぅー」
「お前、将来パティシエになりたいそうだな」
「そうだけど?もし店が出せたら瑞樹には特別サービスしちゃうよ?」

そういって優奈は可愛くウィンクするが、

「止めとけ。お前見た目は足しかに一流だが味が最悪だ。客を殺す気か」

瑞樹に軽く頭をたたかれた。

「えー酷い」
「お前のチャレンジ精神には感服するが、これ以上被害者を出す前にやめろ。お前は普通の食材で一流の危険物を仕上げるからな」
「いいじゃん。何でもチャレンジすることは大切よ?」
「時には諦めっつうもんも大事なんだよ」
「でもさ?」
「ん?」
「こうやって何度も、何度も頑張ってるといつか出来そうな気がするじゃない?」
「はぃ?」
「頑張って、もがいて、たとえ惨めだろうが、大勢の人に笑われようと頑張ったらたとえ失敗しても威張れるじゃない。頑張ったもの勝ちだよ?」
「ま、そうだけど」
「だから瑞樹も親にミュージシャン反対されても、バイトしてお金稼いでがんばってるんでしょ?」

なんだか、そんな時いつもと変わらないはずの優奈が夕日のやわらかさにつつまれて光臨した聖母マリアに見えたのは俺の気のせいなのだろうか・・・


     

           ピーポーピーポーピーポー
「おい、今日で二回目じゃねぇ?救急車来たの」
「本当だ。めっずらし・・・」
「って、あれ。運ばれてんのお前と同じクラスの瑞樹じゃねぇ?」
「あ、本当だ」
「確か前あいつの相方も運ばれてたよな。あそこ呪われてるんじゃねぇ?」
「あー・・・そうかもな」
「噂じゃ、女の子の幽霊がいるんじゃねぇかって。昔自分もお菓子が食べれなくて、その子供が自分で作った泥団子、他の誰かに自分と同じ目にあわせないように上げてるそうだ」
「泥ダンゴ・・・あーそりゃ食えば病院いきだよな・・・」


「俺、絶対お前の作ったクッキーもう食べねぇ・・・」
目が覚めたら白いシーツの上で寝ていた瑞樹は、とっさに状況を理解しそうポツリとつぶやいた。
しかし、そんな瑞樹の近くには
「ごっめん!!でも次は絶対大丈夫だから!楽しみにしててね?」
相変わらず懲りなていない、優奈の姿があった。
 
当の本人は今日も自分のことが”幽霊”と呼ばれていることには似つかず元気にすごしている。














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