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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第二十七話 また遠のいた

7442年6月5日

 しばらく進むと洞穴は昨日とは打って変わってクネクネと曲がり始めた。これじゃ地図なんかまともに書けない。まだ分かれ道こそ無いが最終的にどちらの方向を向いているのかなんて分かりっこないわ。本当にラルファのMP増量を急がなきゃな。何とかMP7まで上げることさえ出来れば5分おきくらいには正確な方向を確かめられるのだ。既に地図を書くのを諦めた俺はそう考えながらも先頭を行くゼノムの背を見ながら用心を怠ることだけはしなかった。

 ゼノムは罠がないか慎重に地面の様子を確認しながらそろりそろりと進んでいく。そろそろズールーとでも交代させたほうがいいだろう。その時、ゼノムがぼそりと言った。

「これは、棒か何か長い竿が欲しいな。流石に疲れる」

 竿か、確かにな。

「そうだな。帰ったら用意することにしよう。ズールー、先頭を交代しろ」

 俺はそう言って今度はズールーを先頭に立たせるとまたそろそろと進んでいく。ゼノムは最後尾で警戒だ。

 その後、しばらく進むと俺の鑑定が前方にモンスターの集団を捉えた。鑑定してみるとノールだ。ひのふのみの……十三匹か。ちょうどいいな。俺はズールーの肩に手をかけ、進行を止めると後ろを振り返った。

「魔物の気配だ。多分ゴブリンか何かだろう。数はおそらく十ちょい。音を立てておびき寄せよう。ゼノム、ラルファ、ズールーが前に立って迎え撃つ。俺とベルは後ろから支援する。いいな」

 小声でそう言うと、隊列を整えさせた。俺はズールーに声を上げて魔物をおびき寄せろ、と指示をすると最後尾に下がって督戦することにした。当然後ろからの襲撃に対して注意を払うのは俺の仕事だろう。まぁ一本道だったから多分大丈夫だろうけどね。

 ズールーが何やら大声を上げた。意味のある言葉ではないようだが、鬨の声かなんかだろう。ノール達はすぐに気がついたようでこちらに向かって走ってきた。さて、鑑定ウインドウを開いてゆっくり観戦でもしようか。誰を鑑定していようかな? ここはラルファにしておくか。前衛に立っている三人の中では一番非力だしHPも低いしな。

 ゼノムを真ん中に左翼にラルファ、右翼にズールーというポジションで横一列に並んだ俺たちを三人しかいないと見たのだろうか、ノール達はギャルギャル言いながら駆け寄ってきた。途中で先頭の一匹をベルが弓で撃ち抜いた。胸のど真ん中に矢を突き立てたノールはもんどりうって倒れたようだ。先頭のノールが倒れたため、元々隊列すら無いようであったノールの群れはもうぐちゃぐちゃになりながら突進してきた。

 乱戦になったらまずいかも知れないな、と思いながら、いつでも援護できるように銃剣を構えながら三人を見ていた。勿論左手はいつでも魔術を放てるように力を抜いている。だが、俺の心配を他所に、三人は落ち着いてノールに対処しているようだ。ノール達は短槍を使っているようで、リーチに不利なゼノムとラルファは完全に防御に徹して時間を稼ぐことだけを考えているようだ。彼らの隙間を縫ってたまにベルが弓を放つ。

 流石は『射撃感覚』の所有者だ。ラルファの鑑定ウインドウを開きっぱなしだから固有技能を使っているのかどうかは分からないが、今のところ百発百中で矢をノールに命中させている。ズールーの方は両手剣のリーチがあるので、槍を叩いたりして体勢を崩したノールの隙を突いて剣を突き込んだりして倒しているようだ。

 うーん、判りにくいな、こりゃ相手が悪かったな。経験値の分析についてはショートソードや棍棒を使うような相手の方が良いかもしれない。少なくともゼノムとラルファのリーチ短い組みも相手に攻撃を当てられるような環境が望ましいな。

 おっと、サボっていると思われたら心外だ。一匹くらい倒しておくか。様子を見ながら適当な奴にでも『ストーンアロー』をぶち込んでおけばいいだろ。そう思っていたが大した危機もなく戦闘は終わってしまった。ノールやゴブリンなんて子供に毛が生えたくらいの相手だしな。最後に残った三匹もゼノムが逃げる背中に手斧を投げて一匹仕留め、残りの二匹はベルがこちらも背中に矢を撃ち込んで華麗に始末していた。

 こちらが何人かいてお互い連携していればそうそう遅れを取ることもないか。やはりオークやホブゴブリン位の相手じゃないと苦戦することもないだろうよ。十三匹のノールの死体の胸を割いて魔石を取りながらそう考えた。あ、俺だけ四匹も割いてるじゃんか。皆遅いんだよ。ゼノムとラルファが三匹づつ、ズールーが二匹、ベルに至ってはたった一匹だ。

 前世からハゼのような小さなものから1m超のヒラマサまで沢山魚を捌いていたから、骨に沿って刃物を入れるのは得意なんだけど、それよりも記憶力の方が大事だ。骨や内臓の位置や形状、魔石がどの辺にあるのか、そのためにはどの辺から刃を入れたら効率的か、そういう事は慣れと記憶力が物を言う。魚だって内臓全部を捨てるわけじゃないからな。食う場所だって結構あるんだ。

 あ、誤解される前に言っておくけど、魔物の肉なんて滅多に食べられていない。少なくともノールだとかオークだとか、人間型をして、こちらとは意志の疎通が出来なくても魔物同士お互いに何らかの意思の疎通があるようなモンスターなんか誰が食いたいと思うよ? 前世だって誰も猿を食っていなかったろう? あ、中国人は猿食うんだっけ?

 ホーンドベアーは角の生えた熊にしか見えないし、ジャイアントトードやグリーンクロコダイルなんかも人型をしていないから食べられていたのだ。まぁよほど飢えていたら食うかもしれないが、それだって緊急避難みたいなもんだろ。旨いとか不味いとか以前に気持ちの問題だ。

 魔石を採り、またさらに奥へと進んでいった。



・・・・・・・・・



 今日はほかの冒険者の遺品を手に入れたり、スカベンジクロウラーのようなヤバイ大物に出会うこともなく何度か戦闘することが出来た。勿論スカベンジクロウラーみたいな奴が出てきたら危ないから有無を言わさず俺が魔法で仕留めるつもりだったけどね。俺は戦闘時には殆ど手を出すこともなく、周囲の警戒に努めながら経験値の分析をしていた。

 簡単に言うと、モンスターのレベルとHPを乗算したものが経験値になる。何となくそうじゃないかとは思ってはいたが、俺の場合『天稟の才』の固有技能があるので計算が面倒だから今までは放っておいていたのだ。また、モンスターが特殊技能を持っているとその限りではないようで、少し経験値が増えるようだ。これは一定値なのかどうかまではまだ分からない。何割か乗算されているのかも知れない。そもそもサンプルが少なかった。ホブゴブリンは三匹しか出てこなかったし。場合によっては特殊技能の種類によっても変わるのかも知れないしな。

 なお、殺さないでダメージを与えただけだと経験値は増えない。但し、そいつがその後死んだ場合は増えていた。つまり、ゼノムでも誰でもいいが、一撃をモンスターに食らわせる。だが、モンスターがその一撃だけで死ななかった場合、経験値は入らない。しかしながらその後更にもう一撃加えてモンスターを倒したのであれば当然経験値は倒した魔物の分だけ加算される。これも予想はしていた。俺が知りたかったのはゼノムが一撃、その後ラルファがもう一発入れてそれで死んだような場合だ。この場合、経験値全てがラルファに入るのか? それが知りたかった。

 結論を言うとそんなことはなかった。さっきの例を取るとゼノムにもラルファにもそのモンスターが死んだ時点で経験値が入っていた。量はその時々によって違っていたようなので、ひょっとしたら与えたダメージ量に応じて分配されているのかも知れない。戦闘に参加せず、落ち着いて眺めていられたからこそ解ったことだ。

 そう言えば、得られる経験値で不思議に思っていたことがある。バークッドではダントツで親父のレベルが突出していた。お袋も親父より1レベル低いだけで突出していたと言ってもいい。夜中に狩りに行くようになって一時は納得していたのだが、モンスターを殺すと経験値が入る。これはいい。だが、狩人のドクシュ一家はどうなのだ? 息子のケリーは兎も角、親父さんのザッカリーはレベル10、お袋さんのウインリーはレベル9だったはずだ。彼らは狩りの途中で出会ったモンスターも殺していたろうが、獲物になる動物を日常的に殺していたはずだ。

 俺は狩りの時にはモンスターしか殺さないようにしていたのであまり気になってはいなかった。漁師はバークッドには居なかったが魚を獲る漁師だと大量に殺す事になる。釣りなんかだと大物が釣れた時なんかはすぐに締めてその場で殺してしまうが、漁だと滅多にそういうことはしないからだろうか? 船に引き上げて窒息死させるのも殺すうちに入る気がするんだが……。それを言うならゴブリンやコボルドなんかも小動物を狩って暮らしているはずだ。毎日か何日おきなのかまでは知らないが、日常的に何らかの動物を殺していないとおかしい。殺せば経験値が入るはずだから、なんぼなんでも2レベルとか3レベルってのは低すぎる。

 あの俺が狩りまくっていたラージリーチですら10ポイントくらいの経験値が入るのだ。そういやあいつも特殊能力で『吸血』なんてのを持ってたな。あれも加算されていたんだろうか? 普通の狩りや漁なんか行かなかったから普通の生きた動物を鑑定した記憶は薄い。何匹か見たこともあるが、内容なんかいちいち覚えているわけもない。鑑定した動物の殆どが〇〇の死体ってなった後だしな。あ、そう言えば豚と鶏のレベルは0だった。あいつらは自分の力で餌を取ったりしていないから仕方ないのかもしれないけど。馬もレベル0だな。俺の軍馬ですらレベルは0だ。軍馬ならそれなりに訓練されていると思うんだけどなぁ。

 え? 釣りやんなかったのかって? 針もないし、糸だってバークッドでは貴重なんだ。だいたい俺は海釣り派なんだよ、ハヤみたいなちっこい魚くらいしかいないような川しかないバークッドでどうやって何を釣るって言うんだ。海までは5kmくらいあるんだぞ。しかも魔物の棲む森を抜けて行かなきゃならないし。そんな状況で誰が釣りになんか行くもんか。

 いい頃合になったので迷宮の帰り道の途中、ローテーションで安全な列の中央辺りになった際にこんなことを考えていた。あ……そう言えば、豚の解体や鶏を締めるのを何度も見たことはあるが、魔石はなかった……。MPがないと魔石が出来ないのか? ラージリーチですらMPはあったし……。一回しか見たことはないけれど、ブラウンスライムにもMPはあった。まぁ全部が全部の謎がそう簡単に解けるわけもないか。



・・・・・・・・・



 ゴブリンの魔石が価値平均で150くらいが27個。ノールの魔石は2000くらいの価値のものが21個。オークの魔石は4500くらいのが12個。ホブゴブリンの魔石も4500くらいのが3個。
締めて113214の価値の魔石を回収出来た。80万Zくらいの売上になった。ゼノムとラルファとベルに銀貨を2枚づつボーナスとして渡し、皆で晩飯を食いに行った。

 一応、予定通り明日は休みにした。皆にゆっくり休んでくれと言い置いて、一人、宿屋に向かう俺。ほかの四人は一緒の宿なんだよなぁ。俺だけぼっちとか……。あ、いい機会じゃんか、お楽しみに行っちゃおうかな。今日だけで70万円以上稼いだようなもんだし、少しくらい楽しんでも……別にいいけど、今日もまだランニングをしていないことを思い出してしまった。昨日もなんだかんだでランニングをしていない。二日連続でサボっちゃダメだろ。明日は休みなんだし、明日でもいいじゃんか。逃げたりしないさ。

 腹ごなしも兼ねていっちょしっかりと走り込みますか……



・・・・・・・・・



7442年6月6日

 日の出前に起き、もそもそと服を着ると、朝飯を食いに行った。卵の入ったオートミールとスズキだかなんだかの白身魚のソテーの朝飯を食って豆茶を啜ると頭もしゃっきりとしてきた。今日はお楽しみに行こう。そうしよう。一度宿に戻り、銀貨を7~8枚ばかり財布に入れ、洗濯物をカゴに入れて廊下に出しておいた。

 ぶらぶらと散歩がてら見て回って良さそうな店があったらフリーで入ってみよう。そう考えてハタと気づく。そう言えば指名制ってあるのか? キールの『リットン』ではセバスチャンが女を並べて選ばせるような感じで連れてきたことがあった。あの中から選べと言うことなのだろうが、あれは俺がウェブドス侯爵のプレートを見せたからだという気もする。特にそういった事のない普通の客だったらどうなのだろうか?

 俺が経営者ならフリーで入ってきた、常連ではない客の場合、あまり客のついていない女の子をまず付けるだろう。新人とかさ。その後何度か来るようであればアンケートなどで客の好みを把握してその客が好みそうな女の子を付ける。顔や体、サービス、話など客が何を好むかわからないし、そうやって少しづつ常連となるような客を増やしていくしかないのだ。うむ。そういやジャバは元気だろうか? 風俗店の経営をやらせておくには惜しいほどの男だった。顔は二度と見たくはないが。

 ま、いいさ、こんな小難しいことなんかどうでもいい。俺は休暇を楽しむためにうろつき始めたんだから、ぱぁっと楽しめばいいのだ。そう思って飯屋ではなく飲み屋の多いと言われている六番通りを目指して歩んでいく。飲み屋が多ければ繁華街だろうし、繁華街であれば風俗店も傍にあるだろうという安直な考えだが、あながち外れた考えでもなかろうよ。

 うろうろとかなり遠回りをしながら町並みを眺めつつ六番外へと近づいていく。ああ、お楽しみを終えたら本気でバルドゥックの街を把握すべく、歩き回ったほうが良いかもな。単純な作りの街だけど、実際に歩いて見て回ったほうが覚えられるだろう。

「ジョシュアよう、今日も行くのか?」
「おうよ、休みだしな。昨日も稼げたし、腰が抜けるまでやるぜぇ」
「本当、好きだなお前ぇ。変な病気もらったばっかだろうに。そのご面相じゃ断られるかもしれないぞ」
「へっへ、『ルクソー』なら大丈夫だよ、あそこは金さえ払えば入れてくれるさ」
「んな安い店ばっか行ってから、そうなるんだよ」

 え? 思わずジョシュアと呼ばれた奴の方を見て鑑定してしまった。【状態:病気(性感染症)】だった。うーん、梅毒とか淋病とかエイズとか病名まで出てくれるわけじゃないのか。鼻に醜い痘痕のような腫瘍みたいなものが出来、とても見られた顔じゃない。おおまかに表記されただけの鑑定ウインドウを消すと、更に考え込んだ。ここは地球じゃない。梅毒だとか淋病だとか地球と同じ病気だけがある訳じゃないかも知れない。俺の知らない病気なんかがあったらまずいのかな? ポケットの中のゴム袋を弄びながら考える。

 魔法では病気を一発で治せない以上、お楽しみは考え直したほうがいいのだろうか? ことが済んだら暫く治癒魔法を定期的に掛けてみれば大丈夫だろうか? 風邪くらいなら初期であればそれで治せるんだよな。絶対大丈夫な相手を選ぶ方法は……女の子を鑑定してみて状態を見てみるのも手かも知れないが、潜伏期の病気まで鑑定出来るのかね? 梅毒やエイズなんて、潜伏期は年単位だぞ。長い時は10年以上だ。そんなとこまで鑑定できるのだろうか?

 焦って変な病気でも貰ったらコトだ。幾らコンドームがあったとしても、絶対じゃない。どんなに短く見積もってもどうせ一年以上はこのバルドゥックに釘付けだろう。商売女も出来るだけ沢山鑑定してみて安全を確認してからの方が良くないだろうか? だいたい、性病なんて貰ってきたらラルファやベルに軽蔑されそうだ。幾らなんでも部下である彼女たちにそういう見方で軽蔑されるのは避けたい。

 ああ、彼女たちは変な病気を持っていないからって、ラルファとかベルを相手にするなんて全く考えられない。見た目だって俺の常識からすりゃまだ子供だ。まぁ見た目は俺も同じだけどさ。とにかく、それもあって俺はラルファのMP枯渇問題には神経質なんだよ。それに、俺は社内恋愛に対しては否定的な見方をする方だ。仕事の間柄で恋愛関係に発展した場合、良い事なんかあんまりないんだよ。社内恋愛するなら結婚するくらいでなきゃ認めん。結婚するなら良いよ。

 え? ラルファはズールーのことを気に入ってるんじゃないかって? いやいや、流石に本気では言っちゃいないと思うよ。だって、ズールーは亜人だしね。前世でもさ、俺は黒人の女性に性的魅力を感じなかった。いや、人種差別の話じゃない。だが、人種が違う(そもそも亜人は人間じゃないから人種がどうこうとは別問題だけど)のであればなかなか好みにはなりずらいのは本当らしい。

 国際結婚が珍しいのは単に知り合う機会が少ないことも大きいのだけれど、この相手との子供が欲しいか、という生物としての根源的な欲求もあるという説もあるらしい。オースでも種族を超えての婚姻はあるが、やはり前世の国際結婚並みに珍しいことだし、子供が出来難いという弊害もある。子供が出来難いのであればヤリ放題じゃんかという意見もありそうだけどね。それはそれ、これはこれ。一夜の遊び相手ならそれもいいさ。だが、俺は婚姻を前提とした話をしているんだ。

 だから、ラルファとズールーが結婚したいと言うなら反対なんかしないが、単に付き合っているとかっていうのは……。そんとき考えよう。あ、ベルは恋人が居るんだよな。相手がまだベルのことを好きなのであれば結婚すればいい。そうでなきゃそんときはそんときだ。なるようにしかならんだろ。

 なんか醒めた。若いんだから走って発散した方が良いかも知れない。だいたいまだ十四歳だ。こんな年齢で娼館通いもいかがなものかと思う。俺のこの自制心もいつまで続くかは知らんが……多分あんま長続きはしないだろうな。

 格好をつけたように聞こえたかもしれないが、その通り。俺の本音は単純だ。よく考えれば性感染症を感染うつされたら嫌だ。魔法で治せるかも知れないが、魔法はイメージ力が物を言う。だから、もし俺の知らない病気なんかだと直せないかも知れない。それから後悔しても遅い。従って、誰か別の奴でテストしてからじゃないと遊ぶに遊べないってことだ。

 もっと簡単に言うと、誰か健康な奴を数人くらい目星をつけて、そいつらに性病を感染うつさせる。で、俺が魔法で治せるか試す。OKなら大手を振って安心して遊べる。ダメなら風俗店で遊ぶのは何らかの理由で俺のMPがゼロになって性欲を抑えきれない時に限定されるだろう。

 あ、誰かにコンドームを使って何度か遊んでもらって、どれくらいの確率で感染うつるのかの統計も欲しいな。恐らく数%、悪くても20%は超えないくらいだろうが、そう考えるとキールを出たのは早すぎたかな? 『リットン』のジャバ、もといハリタイドなら喜んで協力してくれそうだったのに……。

 ズールーを使う? おいおい、コンドームにもサイズってもんがあるのを忘れてやしないか? あいつ、身長は190cmくらいあるんだぞ。俺より頭一つくらいでかいんだ。……悔しいが、俺の手持ちの奴はМサイズなんだよ。Sじゃないところに変なプライドがあるが、実はそもそもSサイズを作ってなく、サイズはМとLしかないのは俺とあんたの秘密にしといてくれ。あ、六つ上の兄貴はLなんだ。兄貴は全てにおいて大きな男だからな。

 よし、そうと決まったらここは長期戦の構えでいいだろう。繁華街のど真ん中とは言え、もともと酒場の多い通りだから閉めていない店だってあるだろうよ。そこで通りを眺めて鑑定しまくってみよう。いささか俺の主義に反する部分もあるけれど、最終的には感染症を防ぐことにつながる可能性も高いし、何より俺が楽しめるかどうかと言う崇高な目的を叶えるためだ。鑑定も状態しか見ないようにしよう。っつーか、余程の事でもない限り名前とか興味ねぇし。

 適当な酒場の、通りに面したテーブルに陣取ると道行く人々をMPに任せて鑑定しまくった。すぐに後悔した。記録を取って統計を取らなきゃあんま意味ねぇ。俺の主観になっちまうよ。面倒だが筆記具を用意して出直そう。あ、目的はこの繁華街をうろつく人のうち、どのくらいが鑑定の性感染症に引っかかるかという割合な。



・・・・・・・・・



 宿へ筆記具を取りに行こうと、またてくてくとバルドゥックの道を歩いていたら、声をかけられた。ベルだ。何か用でもあるのかと思ったら、何でもラルファ達と話し合って手分けして探し物らしい。探しているのは靴だそうだ。定収入も出来たことだし、まず靴を買いたいと言うことだった。で、どうせ買うならちゃんとしたゴム底の靴が欲しいとの事で、靴を売っている店のついでに俺を探していたのだそうだ。

 うーん。ここでゴム底の靴なんて手に入らないと思うけどな。サンダルなら可能性もあるような気もしないでもないが、靴はウェブドス騎士団に納めているゴム底のブーツしか作ってないはずだ。俺の編み上げブーツも一品ものだしなぁ。俺が家を出るとき、ごく少量ではあるが騎士団に納めているブーツと同じものをウェブドス商会にも入れ始めた頃だ。ゴムはともかく、元になるブーツの生産が追いつかないんだよ。

 俺は話しながら彼女の足を見るとラルファ同様に裸足で、指先の爪も固くなっているようだった。この分じゃ足の裏の皮も厚くなってるんだろうな、などと思って気の毒そうな顔をしたら、ベルは恥ずかしそうにしていた。もう見られているからか、開き直った顔で言う。

「とても女の子の足には見えませんよね。家でも両親や兄だけは靴を持っていましたが、私たち下の兄弟姉妹には靴はなかったんです。準男爵家とは言え、それ程裕福なわけでもなかったですから……外反母趾の心配がないのだけが唯一ましな点でしょうか」

 うん、俺もこの靴を作ったのは家を出る時だったから、それまでは裸足だったよ。それどころか長兄であったファーンですら騎士団に入団する時まで靴を貰えていなかった。実家の財布は俺の家の方がきつかったと思うよ。それはともかく、ゴム底の靴か……。

「うーん、ゴム底の靴ねぇ。多分見つからないか、あったとしても目の飛び出るような値段だと思うよ。普通のサンダルなら3000Zくらいだし、革ブーツでも15000Zも出せばそこそこの買えるからそっちにすれば? 正直な話、ゴム製だとどっちも卸値でその十倍以上するぞ」

 俺は忠告のつもりでそう言った。

「うん、それはラルからも聞いてました。でも、革底だと修理ですぐにお金が掛かるんですよ……サンダルだと使い捨てのようなものですし……」

 確かに、普通の革サンダルだと一週間も連続で外、と言うか畑仕事や隊商の護衛をしたら使い物にならなくなるらしい。街中や家の中で履くものだ。ブーツの方はサンダルと比べて丈夫に作ってあるが、それも護衛などの旅をしたら二週間から三週間で底を張り替える必要がある。

 俺も前世で革底のビジネスシューズを持っていたが、毎日手入れをしても、外歩きの営業だと一月からいいとこ二月で靴修理屋で底の張替えだ。あれって一応薄いゴムの底も足裏の中心部と踵に貼ってあるけど、厚さは1mmあるかどうかだし、そのゴム底が削れてしまうと、あっという間に革底まで削れてすぐに張り替えだ。あまりにもランニングコストがかかるので普段使いなんか御大尽でもない限り無理だ。と言うよりそもそも通勤以外の外を歩くのには向いていない。社内の絨毯やフロアタイルの上で履くものだ。俺の場合はここぞという時の商談に臨む際に履いていた。

 ところ変われば贅沢品も変わるもんだなぁ、などと思っても何も解決しない。確かに靴はあったほうがいい。足の裏の皮が厚くなっていたところでゴム底には敵わない。地面の様子を気にせず走れるだけで大きな戦力アップとも言える。これはあれかな? なんとか手紙でも出してバークッドと連絡を取ったほうが良いだろうな。ああ、ウェブドス商会でもいいのか。

 そう言えば、キールの行政府の冒険者への依頼の掲示板にロンベルティアまでの護衛の依頼があったな。キールを出てペンライド子爵領を抜け、王直轄領に入ってしばらくした頃に馬車が何台も連なった隊商を抜いたな。あれ、いつ頃だっけかな。もう隊商はロンベルティアに着いたのだろうか? それともまだ着いていないだろうか? バルドゥックは街の作りが特殊だからわざわざ通り抜けたりはしないだろうなぁ。この街を迂回してロンベルティアに向かうと思う。

 王都に行けばどこかでバークッド産のゴム底ブーツも買えるような気もするが、商会に卸してる数なんて10足くらいじゃなかったっけ? すぐに売り切れになってる気もする。このあたりの事情をベルに説明してやった。とにかく、ウェブドス商会かバークッドに手紙を出してみようと思っているから、それまでは我慢するか、別ので誤魔化せとしか言えなかった。

 
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