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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第二十五話 就職

7442年6月4日

 ぎゃあっという叫び声が上がった。テントの中からだ。拷問でもしてるのか、ラルファ達は。まぁ、殺さない程度にしておけよ。殺してさえいなけりゃ治療できるから騎士団に引き渡す時も面倒が少ないからな。

 ……暫く適当な石に腰掛けて火の番をしていた。燃え上がる小さな焚き火を見ていると、ああ、綺麗だな、と思った。と、同時に少し不思議に思うことがあった。そう言えばあのデレオノーラは転生者だ。日本語を喋っていたし、昼間鑑定した時には『高機能消化器官』何て言う固有技能もあったのは確認しているから、これは間違いない。

 だが、ちょっと待てよ? 俺は何であいつを騎士団に引き渡すのが良いと思ったんだろう? 本来の俺であればここは見逃してやるから金を出せと言って払えないくらいの額を吹っかけて、ベグルがマリーを狙ったように性犯罪者の男でも転生者なら強引に奴隷にでもして……いや、あいつはもともと誰かの奴隷だったから無理か、いや、無理じゃない。持ち主に請求するか? 持ち主は金なんか払わずに騎士団に突き出すだろうな。いやいや、性犯罪者だぞ? 俺の手下に手を出されて不和の種になるような馬鹿な真似なんか、だいたい性犯罪なんてそれ以外の犯罪とは一線を画していると昔から常々……昔っていつだ? 転生前だ。盗み、強請、詐欺、殺人、唾棄すべき犯罪は山ほどあるが、性犯罪以外であれば場合によっては情状酌量の余地はあると思っていたんだ。なのにあいつを迎え入れる? とんでもない! そうだ、あの女だ、アスカと呼ばれていた転生者の兎人族バニーマンが男に強姦されようとしていたからだ。彼女の事を慮って騎士団に突き出そうとしたのか? 彼女の事だけを考えるなら例え復讐だとしても殺人は良い事じゃないから、正解と言え……言える。だが、翻って俺や俺と行動を共にしているラルファ、ゼノム、ズールーの今後を考えるなら転生者の手駒はいくらでも欲しい状況ではある。固有技能で差別化したのか? アスカの『射撃感覚』はそりゃ有効だ。戦闘では迷宮内はともかく野外などではかなり頼りになるだろうし、今後銃を作った時だって……それを言うなら戦闘では役に立たないが、デレオノーラの『高機能消化器官』だってそう馬鹿にしたものでもない。長期での単独潜伏や単独偵察だと食料が少ないのは荷物の大幅減に直結する。最悪どこにでも居そうな昆虫などを食っても相当凌げるだろう。『射撃感覚』とは別の方向で有用な固有技能であるのは確かだ。どっちが優れているとかそういう問題ではない。いや、固有技能の問題じゃない、あいつの人格の問題だ。性犯罪なんて理性の欠片もないような卑劣な奴と同じ釜の飯を食うなんて反吐が出……俺は何を考えていたんだっけ? 止せ、今こんなことを考えてなんになる! 今考えないでいつ考えるんだよ! 落ち着け、わからないことがあっても感情を高ぶらせるな、良い事なんか何もないぞ。ああ、そうだ、落ち着いて整理しよう。いつものように。さぁ、やるんだ。

1.デレオノーラは転生者。固有技能は『高機能消化器官』
2.アスカは転生者。固有技能は『射撃感覚』

 どちらも有効な固有技能だ。時と場合においてどちらにも一長一短がある。だからここまでは全く問題はない。両方とも仲間に、部下として欲しい人材だ。

3.デレオノーラは唾棄すべき性犯罪者である

 彼は奴隷だった。元々奴隷として転生したのか、なにか理由があって奴隷階級になったのかは知らないが、性犯罪とは関係がないだろう。奴隷であること自体には同情の余地はあると思うが、己の獣欲を満たすことのみを目的とした性犯罪を犯したことについてはどんな理由があろうと認められないと思う。あ、復讐の一環ということも考えられる、のか? そこはまぁいいや。今回はそういう理由でもなさそうだし。

4.アスカはセマヨースケを探している。多分事故で一緒に死んだ知り合いだ。

 セマヨースケという転生者がいるのは確実、というかかなり高確率で転生しているのだろう。アスカにも確信があるから探していたのだろうし。と、するとアスカを仲間にできればこのセマヨースケも後々自動的にくっついてくるのかも知れない。

5.デレオノーラの性犯罪歴はアスカが初めてじゃない。何度かやっているらしい

 何度も性犯罪を犯している奴は……ダメだろう。意思も弱いし、自制心がない事を意味している。あいつのMPは7だったが、MPだけで考える問題でもないだろうよ。個人差だってあるはずだ。そうじゃなきゃ犯罪など起こらない世界ということになる。犯罪が発生せず、争いもない、秩序だったある意味での理想郷だが、それは所謂デストピアという奴だろう。だからMPの多寡は犯罪とは関係がない。分析してみるのも面白そうだが、今は止しておこう。

6.デレオノーラがバルドゥックにいた理由

 不明。ここで生まれ育ったのか?

7.アスカがバルドゥックにいた理由

 おそらくセマヨースケを探しに来た。出身はデーバス王国らしいからな。デレオノーラに見つかったのは偶然だろう。

 そこまで考えたときラルファとアスカがテントから出てきた。俺は考えるのやめ、彼女たちに座り易い石を譲ってやった。さて、自己紹介と行こうかね、最初から貴女に決めていました、お願いしますってやつだ。え? ねるとん赤鯨団、知らない?

「どうだった?」

 そう俺が尋ねるとラルファが答えた。

「どうもこうもなかった。最低だわ、あいつ」

 そんなラルファを見ていたアスカは申し訳なさそうに

「私も考えが足りませんでした。それらのことはあとでお話しします。まずはちゃんとお礼を言わせてください」

 そう言うと言葉を継いだ。

『危ないところを助けてくれて本当にありがとうございます。私は相馬明日夏と申します。ベルナデット・コーロイルと言うのがオースでの名前です。出身はデーバス王国ですが、もうお解りでしょう、あの事故で一緒に亡くなった恋人を探しにここまで来ました』

 ベルナデットはそう言うと俺達に丁寧に頭を下げた。落ち着いた状況で良く見りゃ可愛い顔立ちだ。まだ十四歳だしあどけなさもあるが日本人としてみた場合、ものすごい可愛さだ。こりゃ元の顔も相当美人で良かったんだろうな。オースでは受けにくいけどさ。

『ああ、いいさ。俺もたまたま、飯屋であの男が伝言を頼んでいたのを漏れ聞いていただけだ。あの男の顔つきと、話している中に「セマヨースケ」って聞こえたからピンときた。俺と同じ日本人が絡んでいるんだろうってな。だから、本当を言うと何が起こるのか想像もしていなかった。日本人同士が密談でもするのかと思って興味本位で盗み聞きしようと思っていたくらいだった』

 ラルファもいるし、別に話してしまっても問題はないだろう。盗み聞きとはあまり良い印象を持たれにくい話だが、他に言いようもないしラルファには話してあるしな。

『うん。盗み聞きしようとしたのは私からも謝る。ごめんなさい。でも、同じ日本人同士だから話してみたかった。出来れば一緒に迷宮に行って欲しかったというのは本音』

 ラルファが申し訳なさそうに言った。

『ですが、どんな理由でもあの場に駆けつけて助けていただいたのは事実です。本当にありがとうございました』

 ベルナデットはそう言ってまた頭を下げた。

『そっか、まあいいや』「あと、これからはラグダリオス語(コモン・ランゲージ)で話そう。騎士団が来たらやっかいだ」

 そう言うと俺は言葉を続けた。

「俺はアレイン・グリード。アルでいい。日本では川崎武雄。出身はロンベルトの田舎のバークッドという村だ」

「私はラルファ・ファイアフリード。ラルでいいわ。同じく日本では大野美佐。出身はロンベルトのラルファ村。捨て子だったらしいわ。さっき居たでしょ? ドワーフのゼノムに赤ん坊の頃拾われたの」

 ラルファの言ったことを聞いたベルナデットは目を丸くして驚いたようだが、相手の出生について根掘り葉掘り聞く間柄でもないと思い至ったのだろう、平静を装うと「私のことはベルと呼んで」と言った。

「あとはさっき言ったラルファの親父さんのゼノム・ファイアフリードと俺の戦闘奴隷の獅人族ライオスのダディノ・ズールーだ。ゼノムは短いからそのままゼノムと呼んでやってくれ。ズールーは姓に誇りを持っているらしいからズールーと呼んでやってくれ」

 俺はそう言うと焚き火に薪になる枝を追加した。その時、おずおずとベルが語りかけてきた。

「ところで、アルさん。それは『銃』なの?」

 『射撃感覚』の固有技能を持っているだけに銃には興味があるか。

「あ、そうそう、私も不思議に思ってた。なんで『銃』の形なの?」

 ラルファも乗ってきた。そういや今まで聞かれたことはなかったな。たまにじいっと不思議そうに俺の銃剣を見ていたことはあったけど、何も言われなかったから放っておいたんだ。

「ああ、俺は昔……そうだなぁ今からだと40年近く昔になるのか。いや、35年くらいだ。『自衛官』だったんだ。だから普通の剣もそこそこ使えるが、本当は『銃剣』のほうが使いやすいんだよ。だからこの形に作ったんだ」

 そう答えると、ラルファが言う。

「なぁんだ。私はてっきり『中二病のガンマニア』か何かだと思ってた」

 なんだそりゃ。

「でも、アルは『自衛隊』だったのかぁ。『自衛隊』辞めてから『サラリーマン』してたの? いくつなの?」

 相変わらずラルファの辞書には遠慮という単語は存在しないような物言いだ。

「ああ、『高校』を出てから『自衛隊』に入った。六年くらい『自衛隊』にいた。その後『自衛官』を辞めて『食品商社』で20年くらい営業をしてた。死んだのは45の時だから今は59だな。あと『自衛隊』だったじゃなくて『自衛官』だった、な。言葉は正確に使え」

 ぶすっとして答えた。中二病のガンマニアとか……このクソガキ。

「うへぇ~、59とか、もうおじいちゃんじゃない。しかもいちいち細けぇ~」

 けらけらと笑いながらラルファが言う。こ、この……

「うっせ。お前だって『高校生』だったんだろうが、それならもう30超えてるおばちゃんじゃねぇか。だいたいオースではまだ14だ、俺ァ!」

 俺たちのバカみたいな言い合いを眺めながらくすくすと笑っていたベルは

「それじゃあ、私も死んだときは21だったから今は35のおばちゃんですね」

 と言ったので、俺たちは不毛な言い争いを止め、彼女の方に向き直った。ごめん。

「もうこいつのことは放っておいていいや。で、セマヨースケというのがベルの恋人か?」

 そう聞いてみた。露骨な話題転換だ。

「はい、そうです。大学の同級生でした。同じ岐阜県の出身で仲良くなったんです」

 ベルが答えた。

「じゃあ、あいつはセマヨースケじゃないんだな? まぁ恋人なら顔見りゃわかるか」

 俺がそう答えると、ベルは意外そうに言う。

「え? 生まれ変わっても顔は一緒なんですか?」

 こいつ、水面見たことないのかよ?

「正確に一緒というわけじゃない。例えば俺は俺が十四の頃の顔だちにこの世界の普人族を掛けたような顔だ。日本人だとハーフみたいな感じだろう? 本人や家族レベルで親しかったなら見分けくらいは充分につくと思う。ベルは鏡や水面を見たことはないのか?」

 俺がそう言うと、

「鏡はなかったし、川は流れてるからよく解らないし……ああ、何かに溜めてみれば良かったのか……自分の顔自体にはもともとあまり興味なかったから、私」

 そういうもんかね? 確かにラルファも水面に自分の顔を写して見ることなんか考えもしていなかったらしいからな。生まれ変わったら赤ん坊で、何ヶ月か動くこともままならず、動けるようになったらなったで自分の顔なんかよりももっと重要なことを理解しようとするので精一杯だったろうからな。そんな生活を何年もしてりゃそりゃ顔には無頓着になる……のか? 透明度が高いまともな板ガラスが発明されていないからちゃんとした鏡はない。だが、写りは悪くとも高級品だとしても全く鏡がないわけじゃない。俺は男だからそもそもあまり気にしていなかったし、マリーも俺より少し若いくらいで充分にばばぁと言って良い精神年齢だったろうから今まであんまり気にしていなかった。

 だが、ラルファは元女子高生だし、ベルも大学生だった。日本で生まれ育った若い女が自分の容姿についてそこまで無頓着になるものなのか? オースで生まれ育った環境のせいでそうなったのか? なんだろうなこの違和感。だいたい俺だって男だからと言っても生前は毎日何回か鏡を見て自分の容姿を整えるくらいのことはしていた。ま、今は置いとこう。考え込んでも仕方ない。

「まぁいい。で、顔立ちだが、これは俺の主観だけの話じゃない。ここにはいないが俺はあと二人、男と女の転生者を知っている。あ、転生者ってのは生まれ変わった日本人のことを俺がそう呼んでいるだけだ。彼らと知り合った時に色々情報交換をした。顔立ちもその一つだ。どうも生前の顔にこの世界の種族的な特徴が入り混じったような顔立ちになっている。ああ、男の方はベルの恋人じゃないよ。小島って言ってたかな、『高校生』だったらしいしな。そいつらは今俺の出身地で騎士団に入ってしごかれてるよ」

 そう言ってやるとベルは安心したような表情をして言った。

「じゃあ、じゃあ、私が彼の顔をみたり彼が私の顔を見れば判るんですね!」

 嬉しそうだ。

「ああ、多分ね」

 俺がそう言うと今度はラルファが口を挟んできた。

「騎士団、遅いね」

 む、そろそろ結構な時間も経つし、いい頃合か。

「そうだな。もうそろそろ来てもいい頃かな? ベル、詳しい話をもっとしたいだろうがそれは後で話そう」

 俺はそう言って尻を払いながら立ち上がりかけた。

「あの、その前にちょっといいですか?」

 ベルがそう言ったので俺はまた腰を下ろした。

「皆さんは冒険者なのですね。バルドゥックの迷宮でお金を稼いでいるんですか?」

 ベルは勢い込んで言う。

「そう、冒険者よ。まぁバルドゥックに着いたのはつい先日、一週間前くらい。迷宮にもまだ一回しか入っていないけどね」

 ラルファが何故か自慢げに胸を反らせて言った。

「そうですか。もし宜しければ洋介が来るまででも、いえ、貴方達がこの街にいる間だけでもご一緒させて貰うわけにはいかないでしょうか? 私、一人だし、あんなことがあって心細くて……」

 む、勿論それは良いけど。ラルファが俺の顔色をちらっと窺いながら言う。

「強い転生者は大歓迎よ。ね、アル、いいんじゃないの?」

 当然いいさ。だがな……。

「ベル、金に困ってるのか?」

 条件を決めないとな。

「いいえ、今のところ特に問題はありませんが、私はこの街で最低10年は彼を待とうと思っています。流石に10年も街で暮らしていくほどの資金はありませんので……」

 10年か。外国人とは言え貴族だから税は考えなくても……あれ? 外国人の場合どうなるんだろう? あとで調べておこう。とにかく無税だったと仮定した場合、最下級の宿に滞在すれば食費も含めて一日辺り1500Zくらいで暮らしていくことはできるだろう。最悪町外れで野宿でもすればもっと安くなる。最低限の食費だけなら年間20万Zもかかるまいよ。だが、流石にそういうのはどっちも無理だろ。乞食寸前の生活だし、健康に悪影響も出かねない。普通に宿に泊まることや、食費以外の雑費のことも考えるなら年間100万Zはかかると思ってもいい。まぁ、ベルは準男爵家の出らしいから数年やそこらは暮らせるくらいの金はあるんだろ。

「勿論歓迎する。給料も出すよ。一月20万Zだ。あとは迷宮で戦利品があった時には都度ボーナスも出す。これで良ければラルファとゼノムのように契約書を作ってもいいよ。だが、その前に一つ質問させてくれ。ベルの彼氏……洋介さんをバルドゥックで待ち続ける根拠だ。なぜだ?」

 俺がそう言うとラルファも言って来た。

「あ、それ私も聞きたい」

 そうだろうともさ。彼氏を探して旅する途中でバルドゥックを通過するならわかる。でもまるでバルドゥックに必ず彼氏が来るみたいな言い方じゃないか? ああ「最低10年は」と言うからには必ず、というわけでもないのか。

「彼も必ず私を探そうとするはずです。どんな家庭に生まれたのであれ、私を探す旅をするにはお金がかかるでしょう? だから、お金を稼げると言う噂のバルドゥックに来ると思っています。それに、オースには魔物もうろついています。ある程度成長してからでないととても旅には耐えられないでしょう。だから、私は成人する前に家を出て、真っ先にここを目指しました。慎重な彼のことですから成人くらいまでは我慢してそれからまずここでお金を稼いでから私を探そうとするに決まっています。私はそう信じています」

 なるほどね、薄弱ではあるが全く根拠のない話というわけでもないのか。と、言うより知り合いの転生者同士がお互いに出会おうという目的を叶えようとした場合、それなりに根拠があると言えなくもない。闇雲にうろついてもそれこそ出会うことは困難だろうしな。

「そういうことか。わかった。さっきの条件でいいなら明日にでも契約してもいいよ。どう? ああ、深く考えないでくれ。そうだな、俺が社長の会社にでも就職するくらいの気持でいいよ」

 但し、あんたの場合、そう簡単に自主退職は出来ないがな。

「ラルもそうなの?」

 ベルはラルファに聞いた。お前もこいつのとこの従業員なのか? こいつは信用できるのか? そんなところだろう。

「うん。ちゃんと契約書も作ったよ。私はゼノムと二人で月40万Z。今日は運が良かったからボーナスで10万Zずつくれたよ」

 ラルファはニコニコしながらベルに言う。いいぞ、ラルファそのまま勧誘だ。

「それに……あとで話すけど、私たちと一緒にいたほうがいいと思う。ベルの顔つきのことも……相当可愛いし。ううん、それだけじゃない。多分聞こえないと思うけど、あんな奴に聞かせたくないこともあるし。もし迷ってるならあとで話してあげる」

 ラルファはそう言いながらテントの方を見て、俺を見た。なんだよ、言いたいことはわかるけどさ、いちいち俺を見なくてもいいだろうに。

「アルは大丈夫。強いし、魔法もすごく上手に使えるし、私も今アルに魔法を教わってるんだ」

 よせよ、照れるじゃないか。

「まぁ、おじいちゃんだし? 私は日本人顔よりこっちの人の顔のが好みだし? ズールーは格好いいしさ」

「くっ……俺だってガキは願い下げだわ、この野郎!」

 しかし、こいつの好みがわからねぇ、ズールーかよ。奴隷に恋する平民の女ってのも珍しいな。身分違いの許されざる恋愛か。別に珍しくねぇし、どうでもいいわ。勝手にやってろ。

 ベルはそんな俺たちを見ると可笑しそうに笑いながら言った。

「解りました、アルさん、私を雇ってもらえますか?」

 よしよし、いい子だ。罠にかかった蝶に擦り寄っていく蜘蛛の表情で俺は言う。

「ああ、ガキと違って美人は大歓迎だ。これから宜しくな」

 そう言って差し出した右手を掴んだ手はタコでごつごつしていた。

 遠くから俺を呼ぶ声がする。ズールーとゼノムが騎士団を引っ張ってきたようだ。

 
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