挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

96/510

第二十四話 ベルナデット・コーロイル

7442年6月4日

 両手剣を片手に持ち、力強いストライドで駆けるズールーはまるで風のようで、暫く進むと俺も着いて行くどころか置いて行かれ始めてしまう。まだ道程の半分程だというのにもうズールーとの距離は30m以上も離されてしまった。後ろを振り返る余裕などないが俺とラルファ、ラルファとゼノムの間も似たように離れているのだろう。

 バークッドの狼人族ウルフワーの狩人であるドクシュ一家も能力値は俺と一緒くらいか俺よりも低いのに山野で獲物を追うときなど、驚異的な動体視力と身体能力を発揮していた。まるで次にどの位置に踏み出せばちょうどいい足場なのか、細かい石などが顔を覗かせていないのか予め知っているかのような走り方だ。

 ゴム底の手製戦闘靴を履いた俺ですら細く曲がりくねり、土や雑草、石ころが転がっている山道の地面の様子が気になるというのにズールーは裸足の癖に地面の様子を全く気にしないかの様な走り方だ。なに、その動体視力。大体その速度で1Km以上も山道を登ってから更にどこに行ったか、方向くらいしかわからないであろうセマヨースケを追って、場合によっては戦闘になるかも知れないんだぞ。

 わかるところまでは全力でいけと言った俺にも責任があるのかもしれないが、お前、わかるところまで行ってからぶっ倒れたらまじで怒るぞ。それどころか石を踏み抜いて怪我しても治療は後回しだからな、この野郎。

 しかし、俺の心配を他所にズールーは全くペースを落とすことなく走り続け、多分セマヨースケ達が待ち合わせに使ったであろう場所まで到着すると、こちらを振り返った。口を大きく開け、ぜぇぜぇと息を吐きながら100m近く後を追いすがってくる俺を確認すると、あっちだというように大きくジェスチャーをすると今度は道を外れて左に降りる道なき斜面を下っていった。まだ辛うじて日は残っているので日没寸前の太陽に照らされたバルドゥックの西の斜面を駆け下りていく。

 すぐに斜面を覆う木々にズールーの姿は隠されて見えなくなった。くそう。頂上であろう待ち合わせ場所まで行かずにこのままショートカットしてやろうと思ったのによ。結局ズールーと同じ道を通ったほうが早いか。なんとかセマヨースケが使ったであろう待ち合わせ場所近辺に到着すると地面に<みたいな記号が書いてあった。あと、弓と矢筒、ショートソード、それから背嚢が落ちている。こっちの方向か。簡易的な矢印みたいな記号が示すのは先ほどズールーが消えた方向だ。斜面を降りながら前方を見るとちらっとだけズールーの後ろ姿が見えた。

 とにかく彼を追うしかない。道中、またさっきのような矢印があるのかと思ったが、見つからなかった。あったのかも知れないが見落としていたのかもな。別にどうでもいい。なぜなら、150m程斜面を下ると木の幹に隠れるようにして斜面の下を覗き込むズールーを見つけたからだ。

 探す素振りを見せていないのでセマヨースケを発見したのだろう。聞いた話だと女を背負って移動しているらしいから、移動速度はかなり遅いだろう。俺は歩くくらいまで速度を落とし、ズールーの隠れている木の幹まで行くと小声で彼に話しかけた。

「っ、ズールー、見つけ、たのか?」

 まだ息が整わない。

「はい、ここから200mくらい下でしょうか。多分天幕だと思いますが木の枝などで目立たないようにしている小屋が見えます。恐らくあそこにいるのかと」

 ズールーも流石に多少息は上がっているようだが、はっきりと返事を返してきた。俺は彼が指差す方向を見たが、怪しそうなものは何一つ見つけられなかった。鑑定による視力で見てみる。ズールーが指差す方向を丁寧にスイープする。と、見つけた。多分あれだろう。

 一見すると潅木の茂みのようだが、木々の隙間で不自然に輝度が上がる点の集合体があった。数人が休めそうな大型のテントだろう。三角屋根じゃない。四方から縄で天井を木から吊るタイプだ。それに木々をかぶせて偽装しているのか。完全に覆うことが出来ていないようだが何かあると注意して見ていないのであれば見つけることは相当困難だ。そのまま鑑定するとやはり天幕テントだ。

 後ろを振り返ってもラルファとゼノムの姿は見えない。あ、見えた。ラルファだけだけど。俺は彼女に大きく手を振り注意を引くとズールーに再度囁いた。

「ズールー、ラルファが来たら俺たちは前進だ。あそこまで行くぞ。うまい具合にこっちからだと多分天幕の側面だ」

「わかりました。到着したらどうしますか?」

「まずは様子を窺う。俺が「今だ」と言ったらお前はどうにかして天幕を倒せ。天井を吊っている縄を二本切れば天井は落ちるだろ。合図をするまでは近くに潜んでいろ。もし不都合があるようならその場に応じて指示する」

 俺は天幕を睨みながらズールーに言った。ズールーは直ぐに了解の意を伝えてきた。

 程なくしてラルファも到着した。息の上がる彼女に、俺とズールーが先に行って様子を見る、お前は息を整えてからそっと近づいてこいと言って、俺とズールーは天幕を目指して歩いていく。

 天幕まで20m程の距離に近づいてからそろそろと慎重に移動を始める。話し声などはなにも聞こえて来ない。尤も天幕の中なら普通の声で話していたとしても相当近づかないと聞こえはしないだろう。争うような物音なんかもしないが、これは女のほうが毒を飲まされているから何の抵抗も出来ないからだろう。

 更に天幕との距離が近づいた。もう5mもない。やはり俺たちの接近方向は天幕の側面か背面なのだろう、こちら側には出入り口になるような切れ目はないし、雑木の枝などでカモフラージュされている。傍までよって気がついたが、天幕の外側にネットを張り、そのネットにいろいろと引っ掛けているようだ。そろそろかなり暗くなってきた。テント内部に明かりの魔道具でもあればテントに人影が写ったりしないだろうか。その時、

『なんでこんなことするの!? ヨウチャン、解いてよ!』

 と言う、焦りを含んだ女の声が日本語でテントの中から響いた。

『ヨウチャンって誰だ? お前の男かよ?』

 小馬鹿にしたような男の声。

『え!? 騙したのねっ! あんた誰よ!? ヨウチャンはどこ! 解きなさいよ』

 状況から言って女を縛っているのか。

『ひぇっひぇっひぇっ、あれだけセマヨースケセマヨースケ言ってりゃ簡単に騙せると思ったけど、あんた、ちょろ過ぎるわ。俺が言うのも何だけど、簡単に他人を信用しない方がいいぜぇ!』

 尤もな言い草だが、癇に障る。
 中には二人しかいないと決まったわけではない。あたりを覗っても見張りらしき人影なんか影も形も無いことは確認済みだが、流石にテントの中まで見通せるほどの透視力なんぞあるわけもない。テントに人影も写っていない。テント内部には光源がないか、あっても非常に小さなものなのだろうか。もう少し様子を覗わないとな。

『ねぇ、あんた一体誰よ!? ヨウスケをどこにやったの? 彼のこと知ってるの?』

 縛られているらしいが、強気な女だな。声にはまだ張りがある。

『あ~っひゃっひゃっひゃっ、ンなもん俺が知るわきゃねぇだろ、ぶわ~かっ!』

 何だろうこれ、ムカつくな。

『あんた、こんなことしてタダで済むと思ってるの!?』

『思ってま~す。何しろあんたを見かけてからひと月近く掛けて準備したんだ。このテントだって高かったんだぜぇ! それに、俺はベテランだからね。あんたで何人目だっけかなぁ? え? アスカちゃんよう。それとも、あんだっけ? ほれ、ステータスオープン……ベルナデットちゃんがいいか? コーロイルって呼んだ方がいいかぁ?』

 テントとカモフラージュ越しに聴こえてくる会話に耳をそばだてる。この野郎……とんでもねぇ。だが、大きな声で怒鳴りあってくれれば会話の内容も聞き取れるが、ほとんどテントに耳をくっつけそうになる距離でもかなり音は減殺されている。テントって遮音性能高いのな。

『ねぇ、これ解いてよ。なんでこんな格好……』

 女の声が消え入りそうだ。

『解くわけねぇだろ。抵抗されちゃうじゃん? 麻痺を解毒してやっただけでも感謝してよ。日本語話すのも久しぶりだし、もうちょっとエスプリの効いた会話を楽しもうぜ!』

 何がエスプリだよ、クズが。しかし、テントの中はこいつら二人だけなんだろうか? 会話の様子から他に人はいなさそうだけど……万が一他に捕まっているような人がいるとか、仲間がいるとかしても不思議じゃない。ここはもう少し様子を覗うべきか。

『解いてよ! 解けぇぇぇ!』

 女が大声で抗議している。せせら笑う男の声が聞こえる。ここで他の人間の笑い声など聞こえないか耳に神経を集めるが、わからなかった。その時、ラルファがそっと近づいてきた。掠れそうな程の声で

「どう?」

 と聞いてきた。

『まだ縛られているだけみたいだ。麻痺させられたらしい。女の麻痺はもう解けているようだ』

『どうするの?』

『まだ中に何人いるか判らないんだ。あと、やはり二人は日本人のようだな、まぁ聞いてろ』

 小声で会話する。中の声が響いている様子から判断して俺たちの会話は中には聞こえないだろう。

『ほっどっきっまっせ~ん! セマヨースケなんか来ねえよ! ぎゃっはっは! 呼んでもいいぜ、聞こえねだろうけどなぁ!』

 耳障りな声だ。

『っぐ! ヨウチャン、助けてよ! ヨウチャン!』

 女は涙声になっている。

『ヨウチャ~ン! 助けてぇ、私、犯されちゃう~! ってかぁ!? ふぇっふぇっふぇっ、ああ、そういやあんたもバニーマンだったなぁ、アスカちゃん? 俺も見ての通り、バニーマンなんだよなぁ。これがどういう意味か解るかぁ? ああ?』

 知るか、ボケ!

『だから何よ! いいから解きなさいよ!』

 まだ涙声のようだ。

『ほへ~、余裕だねぇ、アスカちゃんよう。同種族ならよ、種族を増やすのに協力し合おうぜぇ、ほれ、こいつでよ』

 ! こ、こいつ。

『ひっ、まさか、なにそれ? そんなもの見せないでよっ』

 ゆ……

『ハッハァー! こいつでよう、アスカちゃんによう……楽しませてやるぜぇ、嫌がってくれよう、たまんねぇから』

 ゆる……

『やめて……ねぇ、やめてよ。お願い』

『今更止めるわきゃねぇだろうが、ヴォケ! さあ~て、アスカちゃんもヌギヌギさせないとねぇ、俺だけじゃ不公平だよねぇ』

 ゆるせ……

『お願い、止めて!』

『まずはこん中にたっぷり出してやる。好きでもない男のガキでもこさえなぁ! 産みなとは言わないぜぇ! それまで生きてるか解んねぇしよぉ! なぁ、思いっきり嫌がってくれよ! 泣き叫んでくれよ! 燃えるからよ!』

 許せん! もう許せん! 何人いようが知るか! いたところでコイツの仲間ならぶっ殺してやる!

「もう我慢できん! 俺が突入する。お前らは待ってろ!」

 そう小声で言い捨てると俺は天幕の周りを入口に向かってダッシュした。物音を立てるだろうが、もう知らん! 頭にカッと血が昇り、興奮しているのを自覚したが、この男を殴り倒したくて感情が抑えられない。久々の感覚だった。

 俺は天幕の入口から大声で雄叫びを上げながら銃剣を構えて飛び込むと、いきなりの闖入者に仰天している二人を正面に見た。テントの奥で仰向けに肢体を拡げられ、手足を地面に打ち込んだ杭に縛られている女がいた。それからその女の股間にしゃがみこみ、ナイフで脛丈くらいのズボンを裾から切り裂いているケツを剥き出しの男がいて、慌てて立ち上がろうとしている。

 俺はそのままスピードを緩めずに突進すると銃床で横殴りに男を打ち据えると、直後に剥き出しの股間を思い切り蹴り上げた。ぐしゃりと何かを蹴り潰したような感触が伝わってきた。

 蹴り上げると同時に素早く左右に視線を送るが、彼ら以外の人影は見えず、がらんとしたテントだった。再度悶絶して横向けに倒れている男に目をやり、その横腹を上から踵で思い切り踏みつけると同時に叫んだ。

「ズールー! ラルファ! 入ってこい!」

 すぐに二人共テント内部に飛び込んできた。中の状況を説明するより先にすることがある。なお、テントの中には明かりの魔道具こそなかったが、小さなローソクのようなものはあった。明かりが小さすぎてテントの生地を通さなかったのだろう。このテント、そこそこ上等なもののようだから、結構生地は厚そうだし。

「ズールー! こいつを見張ってろ。抵抗したら殺せ。ラルファは足の縄を解いてやれ、俺は手を解く」

 ズールーは片手で持っていた剣を両手でしっかりと逆持ちにすると、男を跨いで仁王立ちになり、剣を喉に突きつけた。男は泡を吹きはじめている。ラルファも片手に斧を持ったまま女の足元にしゃがみ込み、斧を地面に置くと縛られた縄を解き始めた。俺は、

『安心しろ、もう大丈夫だ。怪我はないか?』

 そう言って頭の方に回り拡げられた左手の方にしゃがみ込み、縄を解き始めた。女は、

『え? なに? 誰?』

 と、混乱していたようだが、ラルファが『もう大丈夫だから、あの男はもう抵抗できないから』と言うと少しだけ安心したのか手の縄を解いている俺の様子を窺ってきた。俺は固く結ばれた縄を解くのに苦労しながら、にっと笑顔を向けてやったが『ひっ』と怯えられてしまった。あんまりだろ。

 数分後、合流したゼノムと一緒になって縄を解いてやった女は俺達に礼を述べた。男は悶絶したまま気を失ったようだ。とりあえず男は女が縛られていたように両手両足を広げて杭に縛り付けた。これはズールーにやらせた。だってなんか触りたくないし。少し落ち着いてきた女をテントの外に出してやると既に日は沈み、あたりは暗くなっていた。

『自己紹介とかそういうのは後にしよう、まず、あの男だがどうする? 俺は殺してしまってもいいつもりで突っ込んだが、結局はまだ生きてる。水でもぶっ掛けりゃ気がつくとは思うが、あんたが決めてくれ』

 俺は女にそう言った。ラルファは俺の言葉にうんうんと頷いている。

『え? あの……その……』

 急にそんな相談を持ちかけられた女は混乱しているように見えるが、いい加減落ち着いているはずだ。これは迷ってるんだろうな。

『殺してもいいよ、私たちは誰にも言わない。このことを知っているのは多分私たちだけだし』

 ラルファがそう言うが、もし殺そうとするのであれば俺は止めるだろう。まぁ、ここは女の判断を聞いてからでも遅くないし、急かす必要もない。その間にこの女を鑑定しよう。

【ベルナデット・コーロイル/4/4/7429】
【女性/14/2/7428・兎人族・コーロイル準男爵家次女】
【状態:良好】
【年齢:14歳】
【レベル:5】
【HP:72(72) MP:63(63) 】
【筋力:10】
【俊敏:16】
【器用:10】
【耐久:9】
【固有技能:射撃感覚(Max)】
【特殊技能:超聴覚】
【特殊技能:小魔法】
【経験:27239(28000)】

 ! 射撃感覚!? あとの能力値などは平均的な兎人族だがレベルも高い。殆ど6じゃねーか。固有技能から見てみよう。

【固有技能:射撃感覚;射撃時に使用者の感覚を鋭くさせ、射撃の正確さを高める能力。レベル0で本来の射撃能力に5%の補正がつき、以降レベルの上昇と共に補正は5%づつ高まっていく。補正とは本来の射撃の才能や経験によって得られた射撃能力の底上げ全般の総称であり、何か特別な能力を付加するものではない。この能力は能力使用から60秒以内に発射される射撃に対して一度だけ効果を発揮する。あくまでも使用者の射撃感覚を補佐する能力であることに留意せよ。従って、射撃装置本体の性能や、それによって投射された物体の飛距離や威力にはなんの影響も及ぼさない】

 ……これは……稀有な人材だと言えよう。なんとしても配下に欲しい。君が欲しいんだ! 違うか。あとは準男爵家の人間ということがわかる。コーロイル家なんて聞いたことないが鑑定のサブウインドウを見たらデーバス王国の出身だった。知るわけねぇよ。でも、次女なら家督の問題はなさそうだし、一緒に行動できる可能性も高い。興奮してきた。落ち着け、俺。クールに行こうぜ。

 その時、やっと女が口を開いた。さて、どういうお裁きかな、と少し楽しみにする。ここで人格の一端を窺えよう。

『騎士団に報告します』

 うん、それがいい。殺してもいいが、それだと、伝令役の男から足がつく可能性がある。

『それでいいの? あんな奴、死んでも物足りないくらいだと思うけど』

 ラルファ、もう少し考えようよ。だけど、その考え方、嫌いじゃないぜ。

『よせ、ラルファ、直接の被害者であるこの子が決めたことだ。さて、もうひとつ聞かせてくれ。あの男の治療はどうする? 俺は玉を蹴り潰してやった。あと、多分アバラにもヒビくらい入っているだろう。今なら魔法で治療出来ると思う。君が望むなら彼の治療をしてやってもいい』

 努めてクールに言う俺。初対面の印象が大事だ。

『あなたはどう思うの?』

 辛そうに彼女は言う。

『君が決めたらいい。俺の意見を言っても意味がないよ』

 優しそうな表情で言うが、内容は突き放している。だが、俺の意見なんか言っても本当に意味はない。あ、俺は放っとく派です。

『怪我は命に関わらないようであればそのままでもいいと思います。それくらいの事がないと反省もしないでしょうし……それに、話がしたいです。なぜ、あんなことをしたのか、どこまで知っているのか、確かめたい』

 そっか。ちなみに玉を蹴り潰しているので命に関わるとは思うよ。こっそりと一番簡単な治癒魔法、じゃない治癒魔術で回復させる必要があるな。でもむき出しの玉を触るのは嫌だから体にだけしかかけないけど。

『わかった。多分話なら今でも出来るようにしてやれるが、今がいい? それとも、あのまま放っておいてもすぐには目を覚ますこともないだろう。明日にするか? だが、そうなると今晩はここで過ごしてもらう必要がある。騎士団に報告してからだと話なんか出来ないだろうからね』

 正直、俺は面倒くさいのでこれからすぐ話してくれる方がいい。

『では、今からでも大丈夫ですか? お願いできますか?』

『わかった、その前に騎士団に報告に行かせる。ちょっと待ってくれ』「おい、ズールー、騎士団まで行って事情を説明して何人か引っ張ってきてくれ。俺の名前を出せば大丈夫だろう。それと、ここで焚き火を焚いておくから、それを目印に来いと言ってくれ。罪状は……そうだな、略取と強姦未遂だ」

 本当はズールーにウェブドス侯爵のプレートでも持たせれば完璧だろうが、流石にズールーと言えどあれを渡すことは出来ないしな。すると、ゼノムが口を開いた。蚊帳の外にしててすまん。

「俺も一緒に行こう。そちらのほうが良かろう。あと、あんた、宿はどこだ? もし取ってないのなら、俺達の宿で良ければ一人追加しておくが?」

 ゼノムはぶっきらぼうに言った。気をきかせてくれているのか。

「お願いします」

 女はそう言うと、ゼノムに頭を下げた。

「あ、ズールー、頂上に弓とか剣とか落ちたままだからそれも全部回収しておけよ」

 俺は歩き出したゼノムとズールーにそう声を掛けるとテントの入口を潜った。俺の後ろに女とラルファがついてきたが、俺はラルファに

『ラルファ、焚き火だけ起こしておいてくれよ。暗いしさ』

 そう言うと、ラルファは素直にテントを出て行った。俺は四肢を広げて縛られているデレオノーラの頭の上に右手を当てると治癒魔術を掛け、その後水魔法で丼いっぱいくらいの水を出してデレオノーラの顔にかけてやった。すぐに男は気が付いたようだ。

 暫く憎まれ口を叩いていたが、ヒビの入っているであろう脇腹を軽く蹴り飛ばしてやると、痛みを訴え始めた。そりゃそうだろう。痛くしているんだから。わざと見えるように銃剣から剣を外し、デレオノーラの前に突きつける。

『質問に答えろ、クズ野郎。正直にな。嘘か本当かは俺が判断するから嘘をついてもいいぞ。ただし、嘘だと思ったらもっと痛い目を見ることになる。明日の朝日が拝めるといいな』



・・・・・・・・・



 デレオノーラの尋問が始まって暫くするとラルファがテントの中に入ってきた。俺はデレオノーラの顔を見続けるのが胸糞悪かったのでラルファに剣を渡してやると外に出て焚き火の番をすることにした。ロンベルティアの隣町で魔物なんか現れないだろうし、よしんば現れたとしても今の機嫌の悪い俺が相手だとかわいそうなくらいだ。

 外だと細かい話は聞けないが、基本的にはあの女の個人情報などをどうやって知ったとか言う話や、本物のセマヨースケの話だろう。どうせ大した内容じゃないだろうし、複雑なこともあるまい、後でラルファにでも聞けばいい。

 
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ