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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第二十三話 そこで待っている

7442年6月4日

 ズールーと昼食を終えたあと、俺は腹ごなしに散歩でもするか、その前に茶でもしばきに行こうかと少し考えた。今日はまだ日課のトレーニングをしていないから、散歩はしないで一服しようか。その後、ランニングでもすればいいだろう。腹がくちくなったので豆茶を飲もう。もう豆茶には慣れた、と言うより実は結構気に入っている。

 俺は数分歩いたあと適当な飯屋に入り、豆茶とお茶請けの煎豆を注文し、13Z也の大賤貨と賤貨を払うと椅子に浅く腰掛け、足を伸ばした。器から湯気を立てるほど熱い豆茶を啜りながら煎豆を二三、口に放り込むとボリボリと噛みしだく。口の中にローストした豆の香りが充満する。煎豆の塩加減はちょうどいい感じで、これからお茶時にはこの店を贔屓にしようかな、などと考えつつまた豆茶を啜る。

 昼過ぎだというのに結構混んでいるのはこの店の豆茶の評判なのだろうか。座れてよかったな。落ち着いたところで今日の迷宮での出来事を順に思い出す。ノールの一団。ゴブリン同士の争い。スカベンジクロウラー。数々の戦利品。結果だけ見れば大満足だ。しかし、内実はどうか。結構歩き回った気もするがどうも聞いている話からするとあれで迷宮の第一層のほんの一部分らしい。第一層の何%位を踏破できたのだろうか?

 数%だとすると第一層を踏破して第二層に到達するまでは毎日潜っても一月はかかるだろう。転移した先が重なったりしたらもっと時間がかかることもあると考えたほうがいい。だいたい、数時間しか迷宮にいなかったというのにあれだけ神経をすり減らすのだ。毎日休みなしで迷宮に挑むのも無理がある話じゃね? 週に二日くらいは完全に精神を休めないとどこかで致命的なミスにつながりかねない。一週間は六日だから当分の間は二勤一休にするか。これから先、三層や四層に向かうのであれば迷宮の中で野営するようにもなるだろうし、そうなった時には帰ったあとは数日休みを入れないときついな。

 何つったっけ? ほら、あのトップチームと呼ばれている五つのパーティだって十年選手がごろごろいるらしいし、そんな連中ですらまだ五層を突破出来ずにいるのだ。俺が目にしたのは緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドだけだが、あのパーティのリーダーらしきエルフの年齢は39だった。レベルも19とアホみたいな高レベルだったしなぁ。能力だけで考えると、俺は三倍近い効率で経験値を稼げるし、レベルアップ時の伸びも三倍だ。だから彼らが十年かかったのなら俺なら一年ちょいで追いつける計算になる。尤も、そのためには俺があと七人いると仮定してのことになるのだけど。

 いや、俺があと七人いても一年ちょいで追いつくのは無理か。彼らと俺とでは決定的に経験が違う。一層に潜る回数まで九分の一になるとは思えない。道を覚えたりどこに罠があるかなど経験でしか覚えられないことは多いだろう。やっぱり地図買ったほうがいいかなぁ。金貨一枚分もしないから思い切って買うべきだろうか。今日の稼ぎで買っても良いかも知れないよなぁ。罠がある場所さえ分かるなら迷宮の通路であそこまで気を張る必要もなくなるなら安いものか。だけど、完全な地図なんて無いだろうしなぁ。気を抜けるようになる訳でもないのかなぁ。

 金あるんだから買えばいいじゃないかと思われそうだが、罠が記入されている地図は一層だけのものでも80万Zだ。80万円だよ。おいそれと買えるわけない。バークッドなら六~七人の家族が一年暮らしてお釣りが来るんだぞ。農奴の家族なら何家族暮らせるのやらだ。装備品まで含めたら軍馬が買えるほどの大枚をはたいてズールーを買ったばかりだ。それに、今回の迷宮での稼ぎはボーナス要素が強すぎる。いつもいつもこんなに稼げるはずもないだろうしな。もしそうなら一層だけでたった五~六年頑張るだけで充分な資金が稼げそうだ。一層には即死するような罠はまずないらしいから安全に稼げるなら誰が二層以降なんぞに行くもんか。奴隷を買ったのすら勿体無いわ。

 こんなことを考えつつ豆茶を啜っていた。

「……ら……全然……で……長剣を……」
「……け……す……けど……相手も……」
「……それで……た。……と……冗談を……たんだ」
「……妙な……こ……それを……馬鹿……ははっ」

 店のあちこちから客の話し声が聞こえる。俺はぬるくなり始めた豆茶を飲み干すとトレーニングのために席を立とうとした。

「…………セマヨースケがそこで待っている、だ」

 俺の二つほど後ろのテーブルから聞こえた声が立ち上がりかけた俺を押しとどめた。セマヨースケ? なんだ? どこかで聞いたような? いや、聴き慣れたような? そっと後ろを振り返ってみた。どうやら俺の後ろの冒険者らしき一団の会話が邪魔をして聞き取りづらい。その後ろのテーブルには二人の男が座っており、なにやら会話をしている。一人は普人族の男でもう一人は兎人族バニーマンの男だ。だが、兎人族バニーマンの男の髪は黒く、顔立ちは日本人を彷彿とさせる。年代は普人族の男は十代後半だろうが兎人族バニーマンの男はどうも俺と同年代の感じだ。オースではもっと年下に見えるだろうが、あれは十代半ばの日本人の顔だ。

【ベイレット・デレオノーラ/18/3/7434 ベイレット・デレオノーラ/11/1/7434】
【男性/14/2/7428・兎人族・ガンドール家所有奴隷】
【状態:良好】
【年齢:14歳】
【レベル:4】
【HP:68(68) MP:7(7) 】
【筋力:10】
【俊敏:15】
【器用:9】
【耐久:8】
【特殊技能:小魔法】
【特殊技能:超聴覚】
【固有技能:高能力消化器官(Lv.Max)】
【経験:13425(18000)】】

 やはり転生者だ。セマヨースケというのは彼の元々の名前か。漢字までは分かりようもないが、どこかで聞いたことがある感じがしたのもそのせいか。彼らはまだ何事か話している。俺は怪しまれないように、自分のテーブルの中で対面に席を移すと鑑定を続けた。

【固有技能:高能力消化器官;非常に高い能力の消化器官。有機物で毒性のないものであれば、およそどんなものからもほぼ最大限の効率で栄養を摂取可能。それに伴い、排泄物の量も減る。摂食後に本技能を使用することにより、消化器内にある自分以外の有機物を分解・吸収する。従って、常に本技能が働いているわけでないことに留意せよ。なお、本技能には便宜上以外のレベルはない】

 なんとも……。すごい……のか? いや、すごいけどさ。生きていくのであればこれ以上にないほど有効な固有技能であることは認める。確か、食べたものから人間の消化器で吸収できる栄養は四分の一から三分の一くらいだと聞いたことがある。極論を言えば三分の一の量の食事で健康に過ごせることになるのか。いや、吸収しにくい栄養素などを考慮すればもっと効率が良いことも考えられるな。だけど……なぁ? どうなのよ? 兎人族バニーマンだけに普通の飯食っても小さなまるっこいうんこが一個くらいコロンと出るのかしらん? 違うと思うけどさ。

 会話にも耳をそばだててみる。距離があるのと間に煩いのがいることでよく聞こえない。かろうじて聞き取れたのは「今日の夕方」「北西の尾根のうちで最も」「来てくれ」「セマヨースケがそこで待っている」これらを誰かに伝えてくれということだ。これらの単語から推測できることは幾つかある。

 まずは当たり前だがこの内容で理解できる相手が別にいることだ。と、なると相手はこのセマヨースケだかデレオノーラだかの関係者なのだろう。セマヨースケと言っていると言うことは、転生者である可能性もあるが、そこまではわからない。また、セマヨースケがこいつ自身のことを指しているのかも不明だ。だが、少なくともこの伝言を聞いた相手はセマヨースケという人物のことを知っている可能性が高い。オースにセマヨースケなんて名前がある可能性もあるがどうもオースには似つかわしく、いや、ロンベルト王国には無いと言ってもいい。

 そうなると、この話に絡む人間は最小で三人。最大では何人にまで膨れ上がるのかはわからない。

 一人は当然こいつ、デレオノーラだ。

 二人目はセマヨースケだ。これはデレオノーラが兼ねている可能性もある。可能性としては高いだろう。

 三人目はデレオノーラに伝言を頼まれている男。単なるメッセンジャーボーイなのか、関係者なのかは不明だ。

 四人目はこの伝言を受け取るはずの奴。これが問題だ。一人なのか複数なのか判明しない。だが、何人であれこの中にはセマヨースケのことを知っている奴が含まれている可能性が高い。

 後考えられるのはデレオノーラ自身が誰かのメッセンジャーだった場合だ。その場合はもう複雑だ。それならデレオノーラの前にも他のメッセンジャーがいないとも限らなくなるし、何人もの伝令を介して伝言なんて内容は変わってしまう可能性も高い。これは除外してもいいかな?

 次に推測できるのはこの話、というか伝言の内容だ。どうも待ち合わせの伝言のようだ。時間は「今日の夕方」。場所は「北西の尾根のうちで最も」最も何だよ。オースの言葉だとこのあとに続くのは形容詞だ。ちなみに「北西の尾根のうちで最も」でも「北西の尾根のうちで一番」でも発音は同じだ。意味は同じなのでどっちでもいい。うーん、前後の流れから言って普通なら「最も高い」か「最も低い」だろうな。それ以外も考えられないこともないけれど、待ち合わせならあまり複雑にするのもおかしいだろう。

 あとは「来てくれ」「セマヨースケがそこで待っている」というからにはセマヨースケは夕方前にはそこに行って誰かが来るのを待っているということなんだろう。

 ここまで考えたとき、伝言を頼まれた男がデレオノーラから金らしきものを受け取り、席を立った。どうする? この件には確実にデレオノーラという転生者が絡んでいる。今何らかのアクションを取るべきだろうか? だが、いくら奴隷とは言え見ず知らずの男、いや、見ず知らずではあるが日本人なのだから話くらいは聞いてくれるかな? しかし、夕方に街中ではなく街の周囲の尾根(多分そうだろう)でわざわざ待ち合わせをするくらいだ。誰かに聞かれたくない内容かも知れない。

 ここで俺が話しかけたら伝言を聞かれたと思って、引いてしまう可能性も考えられる。趣味は悪いけど、転生者が絡んでいるなら、とっとと先回りして話の内容を掴んで置いた方が後々便利かも知れない。ポジションを直しながら立ち上がったデレオノーラが店を出たあと、俺はラルファ達が泊まっている宿に向かった。いなかったら仕方ない。彼女とゼノムが立ち寄りそうな店を見てそれでも捕まらないようなら俺一人で行くしかないだろう。おそらくまだ十四時半くらいだ。



・・・・・・・・・



 宿に行くと予想通りズールーがいたが、ゼノムとラルファはいなかった。彼女たちは今日ボーナスとして銀貨を渡した時に身の回りの物を買うと言っていた。俺はズールーに、

「すまんが今日の休みは無しだ。ラルファとゼノムを探す。もし一時間以内で捕まえられなかった時は北西の尾根に行く道の入口で待ち合わせだ。間違えるなよ。北西の尾根に行くから入口は街の真北くらいだぞ。一番通りな。お前は衣料品店を探してくれ。俺は日用品店を当たる。見つけたら二人もそこまで連れて来い。理由を聞かれたら俺とラルファに関係することだと言っておけ。あと一応剣を持っていけ」

 そう指示をして俺は日用品を扱っている商店の多い五番の道を目指して走った。ズールーは衣料品店が多い八番の方だ。

 俺が五番通りに着いてすぐにゼノムを見つけることが出来た。彼は昼過ぎに別れた時の格好のまま珍味のような物を扱っている店先を覗いていた。酒のつまみ探しかよ。あんた、ドワーフのくせにそんなに酒に強い方じゃないんだろ? ああ、強い弱いの話じゃないよな、酒には弱いが好きなんだろう。

「どうした? そんなに慌てて」

「ゼノム……まだ酒は飲んじゃいないようだな。すまんが午後の休みは無しだ。ちょっと……ああ、ゼノムには言ってもいいのか。転生者が見つかった。手伝ってくれ」

「ほう」

 ゼノムの表情が改まった。この前言った転生者狩りのことでも思い出したのか。

「ラルファはどこだ?」

「ラルファなら今日のボーナスで靴を買いに行くと言っていた。何と言ったっけか、そうだ、ゴムの靴と言っていたな」

 10万Zぽっちじゃ買えないよ。ってかサンダルならぎりぎり買えるかも知れないな。買えなくても不思議じゃないけど。

「そうか、なら衣料品店の方だな、ならズールーを向かわせた。俺たちは落ち合う場所を決めてあるから先に行こう」

「これ、買ってからでもいいか?」

 なんだそれ? 蛸の足の燻製みたいなものか。美味そうだな。

「いいさ、好きなだけ買っていけ。俺も買うわ」

 日用品を扱っている店の多い中、一軒だけ珍味を取り扱っている店があって良かったのか、悪かったのか。とにかく蛸の足の燻製をひと袋、800Zで買った。ゼノムと一緒に一本口に入れガムのようにくちゃくちゃと噛んでみると、これがまた旨かった。熱燗欲しいな。

 待ち合わせ場所まで歩いていくと既にズールーとラルファが俺たちを待っていた。どうやら二人は走ってきたようだ。悪いな。ちゃんとラルファの腰に手斧がぶら下がっているのが確認できる。

「何で二人共口から蛸の足生やしてるのよ」

 初夏のいい天気の中、走ってきたであろうラルファが、ゆっくりと歩いてきた俺たちに不満げに言った。

「まぁまぁ、一本やるよ。食ってみろ。なかなか旨いぞ。ズールーもどうだ?」

 そう言って一本ずつ太い足を渡してやったら黙った。な、旨いだろ?

「で、だ。これからの計画を話す。みんな、よく聞いてくれ」

 全員の顔を見回しながら言う。全員口から蛸の足が生えていて何とも間の抜けた絵面だが、仕方ない。

「今日の夕方、北西の尾根で、誰かと誰かが待ち合わせをしている。その時話されるであろう内容を盗み聞きする必要があるんだ。回りくどい言い方ですまんがな……。名前は一方しかわからない。一人はセマヨースケという名前らしい」

 俺はラルファを見つめながら言った。

「セマヨースケって……男か。やっぱり、その……」

 流石にラルファはすぐに気がついたようだ。ちらっとズールーを見て遠慮がちに言っている。

「ああ、多分な。で、これも多分だが、そのセマヨースケは兎人族バニーマンの男だと思う。それから、待ち合わせの場所は多分北西の尾根で一番高いか一番低いかのどちらかだと思う。多分多分ですまんが、北西の尾根で一番、までしか聞き取れなかったんだ」

 そう言ってまた蛸の足の生えた皆の顔を見回した。俺は更に言葉を継いだ。

「待ち合わせている人数はわからん。一人づつなのか、複数同士なのかも不明だ。だから俺たちはふた組に分かれる。俺とゼノム。ラルファとズールーだ。万が一のことを考えて武器のリーチの差でチーム分けだ。あと、俺とラルファは別れる必要がある。理由はラルファが解ればいい」

『言葉の問題ね』

 ラルファはすぐに解ったのだろう、日本語で言ってきた。話が早くて助かる。あと、いざという時、ラルファの傍には戦闘力から言ってゼノムのほうがいいかも知れないが、盾としてならズールーの方が使い捨てできる分まだマシだと考えた。そこまで汲み取ってくれるなら言う事はないが、多分無理だろうな。これはズールーが判っていればいいからいいけど。多分ズールーなら判っているだろう。

「そうだ。この中では俺とラルファしか知らない言葉がある。相手もその言葉を使って会話する可能性が高い。だから俺とラルファは別々にする。あと、何が話されていてもどんなことが起きてもこちらから戦闘を仕掛けるな。姿も見せるな。聞いていることを気づかれるな。どれだけの力を秘めているのか全くわからん。いいな、絶対にこちらから仕掛けるな。気づかれた場合にはまず逃げることを考えろ。戦闘は本当に最後の手段だぞ」

「わかった、ズールーもお願いね」

「わかりました。こちらからは何があっても仕掛けません」

 彼らも真剣に答えてくれているが、蛸の足をくっちゃらくっちゃら噛みながらだと締まらないね、どうにも。

「あとは時間だが、夕方、以外の情報はない。夕方、というからには多分まだ日のあるうちだとは思うが、本当のところは日没前か日没後かすらわからん。ある程度長期戦になる覚悟もしていてくれ。ラルファとズールーは一番高い尾根で待ち合わせに使えそうな場所の傍に身を隠せ。草木を被って偽装したほうがいいだろうな。俺とゼノムは低い方の尾根だ。もし、相手の用が済むまで隠れ通せたなら合流する。後の指示は合流してからだ。いいな」

 そう言って締めると俺たちは尾根に向かって坂道を登りだした。

 坂を登っている途中でラルファに蛸の足をせがまれたので袋ごと渡してやった。



・・・・・・・・・



 多分ここが一番低い尾根だ。北西部の一番高い尾根とは道沿いに1.5Km近く離れている場所だ。ラルファとズールーももう到着しただろうか? 遠すぎるし、尾根の外側は高さ5mくらいの森になっているから、あの辺りかな? と見当をつけるくらいしか出来ないので彼らの姿を見ることは出来ない。

 そこには待ち合わせにはちょうど良さげな石がいくつかある。俺とゼノムは相談すると石の裏、3mくらいのところに身を隠した。今のところ誰も通らないので少し森の奥に入って枯葉を集めて来てそれを被って寝転がって待つことにした。交代で眠ってもいいかも知れない。

 一応二人共石に腰掛けたりしてセマヨースケのように振舞ってみた。多分これならそうそう気がつかれないだろう。兎人族バニーマンは聴覚に優れているが、特殊技能を使っていない間は普人族より少し良いくらいだから派手に身動きしなければ問題ないだろう。

 ゼノムが石に腰掛けて独り言を言うのもよく聞こえる。俺がそうしてもゼノムもよく聞こえると言っていた。うん。隠れ場所としては最適だな。じゃあ、交代で眠ろう。先に俺から眠った。



・・・・・・・・・ 



 夕暮れが近づいた頃起こされた。すっかり西日になっており、尾根の影になっているバルドゥックの街の西部は暗くなっているだろう。俺たちが潜んでいるのは尾根を挟んで街の外側の方なのでこのあたりはまだ明るい。

 交代したゼノムが寝息を立て始めた。だ~れも通らない道をひっそりと身を隠しながら監視するのも楽じゃない。寝っ転がりながら情報を整理してみる。まず、北の尾根での待ち合わせ。これはいい。それからそこで最も、最もの先が不明だ。俺は高さだと踏んだのだが、最も眺めの良い場所とか、最も座り心地の良い石とかも考えられないこともないが、それでは主観的すぎるし、待ち合わせ場所の指示としてはあまりに不適切すぎる。待ち合わせの人がよほど近しい人同士で何度も一緒に来たことがあるなら別だけど。

 だから、普遍的な価値である高さが妥当だと思う。あとは高低の問題だけど、高い場所よりは低い場所の方が来るのが楽そうだから、こちらのほうが確率は高いかと踏んだのだが、よく考えてみれば街中から尾根に続く道は八本もある。北西の尾根に到着する一番近い道を選んだが、この道を使って登ってくると決まっているわけでもない。別の道を使って上り、尾根の上を通っている道を辿ってきても不思議ではない。登山口、というか、上り坂自体を監視することを止めた理由の1%くらいはこのせいだ。残り99%は会話内容が聞きたかったからにほかならないし、出来ればその会話の中から日本人の転生者を手下にできるようなネタを拾い上げたい、という気持ちが強い。

 まぁどっちでもいいんだけど、転生者の部下は欲しいよな。なんだかんだ言ってラルファはレベルの低い学校とは言え日本で教育されていただけあるし、下地がオースの人々とは比較にならない。それに加えて成長率三倍はでかすぎる。

 そろそろ空が暗くなってきた。西に沈む夕日は下の端が海面に付いている。あと30分くらいで日が沈むのではないだろうか。

 退屈だな。



・・・・・・・・・



 日が半分ほど沈んだ頃に、ラルファとズールーがこちらに向かって坂を駆け下りてくるのが見えた。慌てているようだ。俺はゼノムを起こし、立ち上がった。ゼノムに「向こうで何かあったようだ」と言うと、眠そうな目をこすっていたのが急にシャッキリと目を見開き立ち上がった。やはり娘のことは心配なのだろう。

「あそこの道を駆けてくるのはラルファとズールーだろ? 行こう」

 俺がそう言うとまだ数百メートルも離れているのにゼノムは駆け出した。慌てているようではあるが何かに追われている感じでもない。だが、あの様子だと確実に何かあった。向こうが正解だったか。俺もゼノムの後を追って走り出す。すぐに追いつき、追い越した。

「アル、見たわ! 聞いたわ! ちょっと急がないといけない」

「落ち着け、一体何があった?」

「だから急いでこっちに来て!」

 話にならん。俺はズールーに顔を向けるが、

「ご主人様、ラルファの言う通り急いだほうが良いです。話は道中にでも」

 え? お前もかよ。ところで、ラルファの事は呼び捨てなのな。主従関係がないからか?

「簡単に言うと、兎人族バニーマンが一人ずつ待ち合わせしていたみたい。一人は女。女は急いできたみたいで待ち合わせ場所には走って来た」

「うん、で?」

「女の方はヨウチャンと言って叫んでた。男の方は先に来て落ち着いてた。女が叫んだから少し吃驚してたみたいね」

「そうか」

「殆ど日本語で話してた。でも女の方がいろいろ早口にまくし立てて殆ど会話にはなってなかった。女は男の方を知っていたみたい。男の顔が少し変わったとか言ってた。あと、女の方の名前はアスカ。自分で言ってた。走ってきた女が息を切らしていたから、すぐに男が落ち着けと言って何かを飲ませたみたい。水か何かかと思ったけど、毒みたいね。それを飲んだ女はその後暫くしたら倒れちゃったの」

「え?」

「いいから聞いて! 女が倒れたら男は女にステータスオープンしてた」

「は?」

「その後、男の方はゲラゲラ笑いながら『やっぱり魔法が使えなかったか』と言って女を担いで街の外の方の森の中へ降りて行ったのよ!」

「なんでだよ?」

「私が知るわけないでしょ!」

 意味わからん。ズールーが補足してくれた。

「私は話されていた内容まではわかりませんでしたが、女は男に会いたかったようで、会って嬉しがってかなり興奮していたようでした。男は女が最初に大声を上げた時以外は落ち着いていました。ですが、あれは最初から女を攫うつもりだったのでしょう。上手く飲んでくれた毒が効いたようで、その時初めて男の方は大笑いしていました」

「攫う?」

「ええ、そうです。あれは女を騙して毒を飲ませるつもりで呼び出したのでしょうね」

 わからん。恨みでもあったのだろうか? それともなにか他の目的……そう怨恨以外なら何だ? わざわざ日本人同士で……転生者狩りか!? だが、そうだとしても辻褄が合わないことが多い。

「そんなこといいから、もっと急いで! 間に合わなくなっちゃうかも!」

「何に間に合わなくなるんだよ?」

「はぁ? 男が女に毒を盛って攫うなんて目的は限られるでしょ! 犯っちゃうか売り飛ばす以外にあるの!? あんた、あれを救いたかったんじゃないの!?」

 相手も女だなんて知らなかったからそんなこと露ほども考えなかったわ。だが、おかしい。なぜラルファの思考の道筋に俺も辿り着かない? こいつより頭が回らないのか、俺は。それとも、犯すとかそういった事を考えないようにしているのか? どんな童貞小僧だよ。一体。

「わかった。確かにそうだな。女の方も『日本語』を喋っていたんだな!? 転生者は確実か!?」

『モチのロンよ!』

 お前、いくつだよ。女子高生だったってサバ読んでるのか?

 今はラルファとズールーの先導について行くしかねぇ。別に女が犯されようが売られようが俺に関係がなく、知らない所でならどうでもいいっちゃいい。だが、流石に寝覚めが悪くなりそうだ。それに、知ってしまった以上、とても見ないふりは出来まいよ。それも元の世界で顔見知り同士なら尚更だ。それを利用してゲスい欲望を満たすつもりか。貴様それでも日本男児か! ああいうのは同意の上でのことだろ。

 俺はラルファとゼノムのスピードにイラつき始めていた。これが俊敏と耐久の能力値の差か。ズールーはまだ余裕があるようだ。

「ラルファ、俺とズールーは先に行く。お前はゼノムと一緒に後で来い。出来るだけ音を立てるなよ!」

 そう言うとズールーの背を叩き、走る速度を上げた。

「ズールー! わかる所までは全力でいけ!」

 俺もランニングを続けていなかったら果たしてズールーに追いつけたかどうか。

 スピードを上げた獅人族ライオスはマラソン選手もかくやという程の速度で走り出した。

 ……この速度って1kmを三分くらいじゃね?

 
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