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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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幕間 第十四話 千草隼人(事故当時27)の場合

今回は今までと違って本当に胸糞悪い部分があります。胸糞レベル特A級です。
胸糞悪いことが嫌いな方は今すぐ戻ってください。
 ついてない。全く俺はついてない。千草隼人はそう思って過ごしてきた。学校の勉強だけはそれなりの成績だったので都内のそこそこ名の通った私立大学を卒業し、就職には相当苦労したものの、まぁ二流と言っても馬鹿にされないような会社に勤めていた。その会社も昨年一杯で退職してしまったが。

 彼は幼少時から少し大人びた性格で物覚えも良かったので、親や親戚からは神童と持て囃された時期もあった。また、顔立ちも良い方であった。その為か生来プライドが高く、学校の級友など周囲の人間の実力を低く見ることが多かった。別に体格は悪いわけではなかったが成長するにつれ、運動からは遠ざかり、本を読んだりゲームをして過ごすことが多かった。

 別段努力しなくても良い成績を取ることが出来たので高校に入学するまでは優等生と言っても良い成績だった。しかし、高校からは生来持って生まれた優秀な素質だけでは通用しなくなり、仕方なく勉強したが、思ったほど好成績を修めることは出来なかった。「自分は真剣にやりさえすれば出来るのだ」という根拠のない自信が後押しし、それでも真剣に勉学に取り組むことはなかった(本人にしてみれば真剣に取り組んでいたつもりではあったのだが)。

 高校の間で親友と呼べるくらい親しい友人はついに出来ず、表面的な付き合いに終始してしまったのは、やはり心のどこかで相手を低く見てしまう悪癖が身に付いていたからにほかならず、相手の欠点ばかりを指摘するような人間になってしまっていた。運動系の部活動に所属し、努力する人間を「脳筋」と言って憚らず、ひたすら漫画やゲーム、小説など自分の趣味に耽溺していた。

 また、どんな優秀な学校にもある程度いる素行の悪い連中についてはDQNと呼び、あからさまに見下してもいた。当然その中でも頭の良い連中には成績でも後塵を拝していたのだが、すぐに喧嘩など暴力に訴える性格を嫌い、蔑んでいた。だが、十代半ばから後半の年頃の子供たちの間で一番物を言うのは腕力であり、リーダーシップであることも心の底では理解していたので、密かに羨ましくは思っていたのだが、本人は絶対にそれを認めることはないであろう。何しろ、隼人は子供の頃から他人と殴り合いの喧嘩など一度としてしたことのない臆病者であり、そのコンプレックスを周囲に誤魔化すために「どんな理由があっても暴力に訴えるのは最低の行為だ」と表向き正当と取れる発言で喧嘩を避けていたに過ぎないのだから。

 そんな中で何とか中の上程度の規模だけは大きな大学に入学できたのは僥倖と言えるのだが、本人は不満に思っていた。大学では高校時代よりも更に人付き合いが減り、顔見知り程度の友人とも呼べないような奴らとたまに飲みに行くことくらいはしたが、深い付き合いに発展することもなかった。当然女性と付き合ったことなど一度もない。

 就職出来たのも何かの間違いと言っても過言ではないくらいの出来事だったのだが、その幸運を感謝することもせず、自分を書類審査だけで選考から落とした大手企業を「人を見る目がない」と言って蔑み「その会社の人事担当者が能無しだったために俺は選考から漏れた」と思ってすらいた。勿論、理系の学部ではなかったので、内勤の事務職か営業、または物流関連の部署くらいでしか使いようもないのだが、履歴書には研究開発職種を志望、と書いているあたり、いっそ哀れですらあるが、本人は「俺は真剣にやりさえすれば何でも人並みには出来るはず」という、相変わらず根拠のない自信がそうさせていた。

 このように奇怪に歪んだコンプレックスと他罰的な傾向の強いまま年齢だけは大人になってしまった彼が社会に出ても上手に世の中を渡っていけるはずもない。何十社も履歴書を送り、面接を繰り返し、そういった中でだんだんと落ちていく希望する会社のランクや、職種に糸目もつけずにひたすら行った就職活動の最中、やっと就職出来たにも関わらず、上司と上手く折り合いをつけることも出来ずに勢いで退職願を叩きつけてしまったのだ。

 勿論、隼人の上司に全く責任が無いとは言えないであろうが、こういった場合、九割以上が本人の責任だ。折り合いをつけるのは目上の人間ではなく、目下の人間が折れるのが当たり前だ。だが、就職し、安定した生活を送れていた数年間でまた生来の性格が頭を持ち上げてきていた。「人間は皆平等だ」とか「仕事もろくに出来ない上司に頭を下げるのは嫌だ」「ブラック企業は労働基準法違反」などと本来の性格をネットで仕入れた俄知識で補強を重ね、こういった現実とは乖離したことを再び本気で思い込み始めていたので、上手く社会生活を送れようはずもない。

 こんなことを考えている人間はそれを口に出したりはせずとも、ある程度人生経験を積んだ人間から見れば大きな考え違いをして、澱のように不満を溜め込んでいることなど一目で見通されるものだ。当然仕事でも良い結果を残すことなど出来ようはずもない。当たり前のように評価は最低線を辿っていた。しかし、千草隼人だけがその評価に対して不満を感じていたことも事実であった。

 「俺は優秀な人間。まだ本気を出していないだけ」と思い込み「こんな俺のことを不当に評価する会社なんざ辞めても引く手は数多あまただ」と勢い込んで退職したのだが、2014年末で退職して以降、再就職の見込みは未だ立っていない。つまり、今までの人生のどこかで「俺の能力は良く言っても普通。やっと就職できたのだから何としてもこの会社で生き残れるよう、努力を継続するしかない」と思い直して真面目に仕事に取り組み、会社の言う多少の無理くらいは素直に聞いておけばこれからの人生も大過なく過ごせたであろう。そんな簡単なことにすら気づかないまま27歳になってしまったことこそが「ついてない」出来事であることに気付かなかったのが彼の不幸であったと言える。

 今日も再就職の面接に出向いていたのだが、面接では面接官の人事担当者のねちっこい質問につい癇癪を起こしそうになるのをようやっと堪え、なんとか愛想よく受け答えできたと思っていた。今日は昼食をまだ摂っていなかったので、バスの終点である新宿駅周辺で何を食べようかと思いを巡らしている最中、本当に「ついてない」出来事が身の上に降りかかって来る事になった。



・・・・・・・・・



 あっという間の出来事だった。今日の昼飯のメニューをバスの座席でぼーっと考えていたら、大きなショックを受け、すぐに体に鋼材のような何かが突き刺さって昇天してしまった。何が起こったのかすら把握する間もなかった。

(ああ、本当に俺の人生はついてねぇなぁ)

 呼吸もろくにできず体が締め付けられるような苦しみの中、千草隼人は相変わらず愚にもつかないことを思っていた。まぁこれを責めるのは酷と言えよう。とにかく他の事故当事者と同じく、彼はオースへと転生した。彼が転生したのはロンベルト王国の南の方にある男爵が治める街だった。その男爵に仕える平民が所有する街外れに住む農奴の三男として千草隼人は新たな生を受けた。

 当然何がどうなっているのか理解できようはずもないまま、感情の高ぶりを抑えきれずに大きな声で泣き出してしまう。どうにかこうにか僅かながら状況を掴めたのは生後半年くらい経ってからのことだ。自分は何故かは解らないが赤ん坊から人生をやり直しているらしい。そして、人生とは言ったものの人ではなく、漫画や小説にでてくるような亜人として人生をやり直しているらしいことも理解できた。新たに付けられた名前はベイレット・デレオノーラ。通称ベイルだ。

 話されている言葉は何語かさっぱりわからなかったが英単語も含まれているらしいので少しだけ安心した。知っている単語だけを聞いていても若干ではあるがなんとなく意味はわかる。とにかくコミュニケーションを取るには言葉を覚えるのが先だろう。まずは周りで話されている会話について耳を傾ける。

 そうこうするうちに更に一年ほどが過ぎ、ついに執り行われる命名の儀式。そこで冗談のような奇怪な出来事を目にする。ステータスオープンだ。その後誰にも見られていない時に自分にステータスオープンをかけて驚愕する。特殊技能に固有技能。特殊技能は『超聴覚』。固有技能は『高機能消化器官』。なんだそれ? と思ったが誰に聞きようもないので、放っておくしかない。食事の時にでも試してみようか。『超聴覚』は自分の種族である兎人族バニーマンの種族特有の技能なので聞いたことも使ったこともある。あれと同じように意識してみればいいのだろう。

 早速その日の晩飯の際に試してみた。『高機能“消化”器官』なのだから食後に試すのが適当だろう。食事を食べさせて貰った後に試したら驚いた。満腹だった腹があっという間に空きっ腹になったと思ったら直ぐに眠くなってしまった。暫く食事のあとに使ってみるのも良いかも知れない。食って寝るのが赤ん坊の仕事だし。ベイルはそう考えるとその日は眠気に逆らわずに直ぐに眠りに入った。

 彼の両親は食事が終わると同時にすやすやと寝息を立て始めた息子に安心した。いつも食事中はむずかり、泣くのが常だったのだ。食事が終わってもげっぷと共にかなり長いあいだ起きていることが多かったのだがこの日はいつものようにあやす必要がないことにホッとしてすらいた。



・・・・・・・・・



 それから数日後。ベイルは再び驚愕することになる。夢の中で神に会ったのだ。事故の犠牲者がこの世界オースに転生させられたこと。転生させられたものはそれぞれ固有技能を授けられていることなど、一通りの説明を受けた。そして、15分だけ許された質問の時間。もう何をしても絶対に元の人生には戻れないこと。ここは地球ではないこと。『高能力消化器官』の能力の簡単な説明。ステータスオープンや命名ネームドに始まる多種多様な魔法。魔物。亜人。奴隷制度。最下級。封建制度。あっという間に時間は過ぎ去った。夢かとも思っていたのだが、覚醒後の目の前に浮かぶ人を小馬鹿にしたようなウインドウ。

 夢ではない。現実だ。一瞬だけワクワクしたのも束の間、すぐに自分がこの世界の身分制度では最下級の奴隷であることを思い出す。感情が制御できずに泣き出した。

 固有技能を家族に打ち明けようかとも思ったが、どうやらステータスオープンでは見えないらしいので黙っておいた。打ち明けたら打ち明けたで、食事の量が減らされそうな気もした。だから固有技能については秘密にしておくことにした。神とあった後でステータスオープンをしてみると固有技能のレベルが1になっていた。暫くすると2になった。これがレベルアップというやつか。考えてみるがそれが正解かどうかなんてわかりっこない。



・・・・・・・・・



 数年が経った。

 ベイルが五歳になる数ヶ月前、村にやってきた奴隷商に売られた。その年、村は不作であり、村中が貧困にあえいでいた。不満であったが仕方のないことだし、おそらく『高能力消化器官』のおかげで少量の食料でも健康的には全く問題がなかったベイルだけが買取の対象になったのだ。それよりも農奴としてこのまま一生をこの村で過ごすことを考えると気が狂いそうなくらいであったベイルは不満を口にしながらも内心では喜んですらいた。

 売られた先は国王直轄領であるバルドゥックの街の革商だ。そこで獣から取れた革をなめす仕事をするのだそうだ。馬車に乗せられ連れてこられた先で聞いた仕事内容は出身地で農業をやっていた方が余程ましと言えるものだった。革を鞣す作業は力も使うしミョウバンなどの薬品も使う。子供なので最初は小間使いのような扱いだったのが唯一の救いではあったが、じきに大人たちに混じって自分も革鞣しを本格的にやらされるのだろう。彼らのように手にひびを作って、大して多くもない稼ぎでたまに酒を飲んでは憂さを晴らす。そんな人生を送ることになるのだろうか。

 考えても絶望しか見つけられなかった。いっそのこと隙を見つけて逃げ出そうかとすら思ったこともある。だが、行く当てなどどこにもありはしないし、全くステータスを見られないで過ごすというのも非常に大変、どころかまず無理なことではある。だいたい、逃亡したのであれば、その後の人生では絶対に奴隷階級から逃れることは出来ないのだ。奴隷が契約書も持たずに単独で神社に来訪しても司祭は絶対に命名の儀式をすることはない。そして、正体が露見した場合、逃亡奴隷として追われることになりかねない。

 勿論、現実には確かに仕事は厳しいし、贅沢だって出来はしないが、奴隷でも革鞣しはそこそこ給金の良い仕事なのだ。真面目に働き続け、贅沢し過ぎる様な事さえ無ければ主人の援助を元に家だって買える可能性すらある。何より革鞣しは職人と言っても過言では無い仕事なので、品質のいい革を作ることが出来れば名前も売れるし、自分が作った品物目当ての固定客だって付く可能性もあるのだ。

 現に、彼を所有している革商も今では50絡みの歳だが、出自は奴隷だ。いいスポンサーが付き、自由民になれたのだ。その後も一生懸命に高品質な革を供給し続け、金を貯め、手広く商売をするために平民の階級を買ったのだ。平民は軍人階級でもあるのでなるのは難しいと思われがちだが、都市部であれば領地を治める貴族に金を払って形だけ平民になることはそう無理なことでもない。但し費用は最低でも金貨数十枚は必要になるが。それも腕のいい職人であれば貯められない金額というわけではないのだ。

 だが、生来、真っ当な努力というものをして来なかった彼にはそんなに時間のかかる方法に挑戦する気力はなかった。こうなったら刹那的に生きてやる、と思い始めるまでそう時間を必要とはしなかった。



・・・・・・・・・



 更に数年が経ち、ベイルは十三歳になっていた。刹那的に生きると言っても犯罪行為は怖くてできなかった。盗みは見つかったら鞭打ちだし、割に合わないと思われた。強盗や殺人も同様だ。思い切って道を外す勇気すら持てずに不満を抱えながら過ごしてきた数年間だった。十歳からは本格的に革鞣しを行わせられ、ここ数年は子供の体力で重労働を行っていたために常に疲労していたことも手伝って、遊ぶような体力も残ってはおらず、仕方なく毎日毎日革鞣しを行っていた。

 だが、それに伴って給金も上がったことが、ベイル自身にとって良い出来事であったのかどうか……。確かに彼は固有技能のおかげで非常に少ない量の食事でも充分な栄養を吸収することが出来た。従って、増えた給金も全て貯蓄に回せばかなりのペースで金を貯めることが出来たのだ。

 酒こそ嗜むことはなかったが、先輩の奴隷に連れて行かれた娼館にハマってしまったのだ。前世から妙に潔癖性なベイルは金で女を買うことについて忌避感もあったのだが、犯罪行為に手を染めるような刹那的な生き方が出来ないのであれば、どうせなら道を踏み外してみるのもいいだろうと思ってしまったのだ。そしてそこで行われる一連の行為の虜になってしまうまで然程の時間を必要とはしなかった。最初のうちこそ先輩と一緒に行っていたが、そのうち一人でも行くようになった。

 別段、店の女に入れあげた、という訳でもない。ただ肉欲の虜になっていたに過ぎない。金を払って良い女の時間を買う。その買っている時間は奴隷を所有することができるのだ。自分以外の誰かを支配下に置くことの快感はベイルの人生観を変えるには充分過ぎるほど大きな衝撃を与えた。ベイルはすぐに思った。ああ、前世で風俗店に入れあげていた奴らはこの快感を知っていたのか、と。当然これは思い違いも甚だしいのだが、前世では女性と付き合ったこともなく、風俗店に行ったことすらなく、大学や会社での少ない社交経験でも意図的にそういった話題から遠ざかっていた彼には比較しようもない話ではあった。

 とにかく、ベイルは女を買い、買った時間中、女を自分の下に組み敷いて無理やり犯し続けることに耽溺した。当然だがなけなしの貯金などすぐに底をついた。大して高級とは言えないレベルの娼館ではあるので料金は知れたものではあったが、幾ら何でも毎日のように通っていたら当たり前である。

 金に困ったベイルはついに犯罪に手を染めることになる。盗みは見つかる可能性が高いと思われた。ここバルドゥックの街でも何ヶ月かに一回くらい、犯罪者の裁きが行われている。大抵は食い詰めた冒険者が盗みを働いたり、獲得した財宝の分け前をパーティ内で揉め、殺めてしまったりなどだ。どう考えても自分より荒事に向いていそうな冒険者達でも盗みが発覚しているのだ。自分に出来るとは思えない。

 とすると、どうしたらいいのか? 考えあぐねたベイルが直截ちょくせつ的な行動に出るまでには流石に半年以上の時間を必要とした。最初はもうすぐ十四になろうかという一月半ばの冬の晩だ。一人で酒場から出てきた千鳥足の女の後を密かに着け、人目がなくなったところを見計らって襲ったのだ。後ろからいきなり猿轡を噛ませ、刃物をちらつかせながら人気のない建物内に引きずり込んで思う存分に欲望を叩きつけた。

 商売女とは違う新鮮な反応はたった一度の行為ですっかりベイルを虜にした。あまりの快感に何度も絶頂を迎え、精神的にも充足した気分になった。最後にボロくずのようになった女の首を絞めながら行為に及んだのだが、恐怖に歪んだ表情と涙、その持ち主を征服し、蹂躙しているという背徳感。気も狂わんばかりの快感であった。そして気がつくと多少ではあるが力が漲った気もする。女の死体は予め用意しておいた頭陀袋に詰めて、しっかりと口を縛ると重石をつけて街の中にある池に沈めた。

 それから暫くはびくびくと怯えながら暮らしていたが、ベイルの犯行であるとは露見しなかった。死体が発見されたとの噂も聞かなかったので女の出自は未だに不明だ。大方酔っ払った初心者の冒険者だったのだろうとアタリをつけた。確かに、バルドゥックの街には冒険者は沢山いるし、街に定住しているわけでもない。迷宮に挑み、帰って来ない者は後を絶たず、一人二人減ったところで気にする者はそうはいまい。

 時は過ぎ三月も近づいたある晩、ベイルは二度目の犯行を行った。今度は用心して予め狙いを決めていた。間違っても実力の高いベテランの冒険者を襲う事のないように、新しく街に来たばかりの冒険者に狙いを定め、慎重に一人になるのを待ったのだ。今度も上手く事を運ぶことができた。新たな犯行によって得られた快感は前回を上回るほどの凄まじいまでの充足感をベイルにもたらした。彼女の所持金は金貨こそなかったが数十枚に及ぶ銀貨や銀朱を得ることが出来たという、副産物までついてきた。久々に娼館に行ってみたが、二人の女に対して行った時ほどの快感を得ることは出来なかった。

 これが発覚したら手足を切り落とされることになるのだろう。だが、そういったリスクを背負ってこそ得られるものは大きいのだと自分に言い聞かせた。四月の半ば、また新たな犯行に成功した。今度は美しいエルフの娘だ。黒髪だが綺麗な青い瞳、すっと鼻筋の通った整った顔立ち。小さいがぷっくりと膨らんだ真っ赤な唇。そこに浮かぶ嫌悪の表情。その表情が次第に絶望へと変わっていく様。

 それら全てがベイルにとって甘露であった。流れ落ちる珠の涙を舐め取り、青い宝石のような美しい瞳に舌を這わせ、尖った耳に歯をたて、抵抗できないように縛り付けた肢体を汚す興奮は何ものにも代え難いものであった。惜しむらくは声が出せないようきつく締めた猿轡であったが、流石にこれだけは如何ともし難い。

 三度に及んだ犯行はベイルの精神を安定させることになった。溜まっていた不満はいつしか消え去り、仕事にも熱が入るようになった。主人は熱心に革を鞣すベイルを見て顔をほころばせている。不思議と仕事でも充足感を得ることが出来ることにベイルは驚いたが、やはり自分は他人とは違い特別な星の下に生まれてきたのだと納得した。

 そんな五月の頭。新たに街に流れ着いた冒険者らしき女の姿が目に入った。黒髪の兎人族バニーマンだ。顔立ちはどことなく前世の日本人を思わせる。そうだ、俺はまだ同種族である兎人族バニーマンといたしたことはなかったな。同種族であれば妊娠を匂わすことで更なる恐怖の表情を見せて俺に大きな快感を味あわせてくれるだろう。次のターゲットはあの女がいい。

 今までの女と違って見たところまだ十代前半だろうが、豊満な体付きが特徴の兎人族バニーマンなだけあって発育は良さそうだから前回まえのエルフと違ってがりがりの痩せっぽちの肢体ということもあるまい。あの柔らかそうな肉に跡がつくほど歯を立て、そこを舌先でてろてろと舐めて癒してやりたい。いや、いっそのこと体中の噛みごたえを愉しむのもいい。一口くらい噛みちぎって目の前で咀嚼してやろう。きっと今まで食べたどんなものよりも美味であろう。

 あ、そうそう、すっかり忘れていた。魔法を使われたらまずい。今まではたまたま魔法が使えなかった相手ばかりだった。俺としたことが、ステータスの確認を忘れていた。怪しまれないように近づき、ステータスを確認する。犯行はそれからだ。まずは彼女の行動パターンを把握したほうが良いだろう。

 時間をかけて彼女の行動を観察しているとすぐに気がついた。どうやら人を探しているらしい。そして、同時にもっとずっと大切なことを確信した。彼女は俺と同じ日本人だ。セマヨースケという男を探しているらしい。どういう字を書くかまでは分からないが、セマヨースケというのは日本人の名前だろう。恋人か兄弟か、はたまた家族かは知らないがあれは男の名前だろう。

 これは良い情報を得ることが出来た。いつものように不意をついて捕らえるのではなく、俺がセマヨースケになればいいのではないだろうか? そう思った。そして俺をセマヨースケと信じるなら、俺を買い取らせて奴隷階級から解放させることも容易だろう。もしもそこまでの金がないのであれば……。そう、セマヨースケのまま日本語で楽しむことができるかも知れない。

 日本語で脅し、日本語で恐怖を煽る。そして好きな男のいる女を組みしだく。ああ、想像しただけで達してしまいそうだ。もう奴隷階級からの解放なんてどうでもいい。俺をセマヨースケと誤認させれば怪しまれずにステータスも確認できるだろうし、二人きりになることも容易いだろう。魔法さえ使えないことが確認できればそれでいい。多分使えないと思う。日本人なら俺と同様にあの事故の犠牲者なのだろう。と言う事はまだ十四歳のはずだ。成人前だから魔法の修行なんか始めていないはずだ。

 信じていた相手に拘束される。その時点で俺の正体を明かしてやろう。抵抗出来ないようにしてから思う存分楽しめばいい。誰かに想いを寄せる女を味わうのはきっと最高だろう。セマヨースケの名を呼ばせながら、肉体だけでなくその精神までをも同時に味わうことができるのだ。ああ、これはあれだな。折角だから街中ではなくて出来るだけ町外れまで行った方がいいだろう。そうすれば猿轡を外しても誰も気がつかないだろうから、視覚と触覚、臭覚や味覚だけでなく、ついに聴覚でも楽しむことが出来るはずだ。ちらと考えただけで体の中心部が熱く脈打ってくるのがわかる。

 そうと決まれば場所の用意をしておく必要がある。数日間、いやいや最低でも数週間は楽しみたい。その間俺たち二人が過ごす為の快適な空間が必要だ。街を囲むクレーターのような尾根の外側の森の中に野営地を作るか。仕事が終わってから毎晩通うのは面倒ではあるが、小さな面倒事を厭っていては大きな糧を得ることも出来ないのだから。冒険者の多い街だから野営用のキットなども手に入りやすい。金も幾らかあることだし、ここはいっちょ高級な天幕でも用意しておいたほうがいいだろう。

 ベイルは以前の犯行で手に入れた金を使ってある程度高級な天幕を購入した。天幕をカモフラージュする為の網や獲物を縛り付けるための丈夫なロープも購入した。本当はテーブル等も購入しその上に縛り付けたいのだが、流石にテーブルを背負って街中を歩くのは憚られる。目立つし、誰かの記憶に残りそうだ。そして、街の外まで足繁く通い、丁度良い場所を見つけるのに一月程の時間をかけた。丁寧に下準備を行ったのだ。全ては至高の瞬間を味わうためだ。



・・・・・・・・・



「今日の夕方、街の外、北西の尾根で一番高いところに来てくれ。セマヨースケがそこで待っている」

 必ずそう伝えてくれと何度も念を押した。7442年6月4日の午後、ある飯屋でのことだ。適当な男に茶を奢り小銭を握らせ伝言を頼むベイルの姿があった。男が店を出て行ったのを見届けたベイルは、熱に浮かされたような上気した顔で舌なめずりをしながら立ち上がると下履きに手を突っ込んで中身を揉みほぐしながら店を出て行った。

 
最初のベイルの犯行時に、力が漲ったのは比喩ではなくレベルアップです。
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