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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第二十一話 初挑戦

7442年6月4日

 翌朝、いつも通り夜明け前に起きると、昨晩寝る前に整えた迷宮内部への冒険の準備をもう一度チェックし、不足がないことを確認した。食料も干し肉と乾燥豆の保存食で三日分を二人前用意し、背嚢二つに割り振って入れた。

 え? 全部ズールーに持たせればいいじゃないかって? おいおい、せっかくの忠告を忘れたのかよ。迷宮では何が起こるかわからないんだぜ。ズールーがモンスターの怪光線で一瞬にして消し炭になるとかしたらどうすんだよ。

 これは冗談だけど、迷宮では転移するというじゃないか。バラバラになった場合、誰か一人に重要なものを纏めておくなんて愚の骨頂だ。負傷したりしてどうしても運べないなどの緊急事態ならいざ知らず、分散できるものは出来るだけ分散して持っておくのが歩兵部隊のセオリーだ。

 個人の武装はともかく、食料や水筒(これは俺が魔法で水を出せるから、あくまで一応、だ)などの重要品、今はないけど、今後は応急手当用の薬類などのキットも人数分必要になるだろう。そういった地味だが重要なものを収める背嚢も新規に購入してある。

 当然今までも持ってはいたが、荷物のほとんどは馬のサドルバッグに収納していたので俺が持っていたのは小さな背嚢であり、三日分九食の食料やちょっとした下着類などを入れるともうパンパンになるくらいの代物で、更に馬上でもブラブラしないようにベルトまでついているから、すわ、戦闘というときに素早く脱げないのだ。

 で、今後のことも考慮して昨日のうちにゼノムとラルファの意見を聞いて適当なものを二つ購入しておいたのだ。彼らが使っている冒険者御用達の背嚢は大きさもそこそこあり、何より肩紐の部分に金具がついていて緊急時にはその金具を捻って引き抜くことで簡単に背嚢を放り出せる仕組みになっている。再度装着するときには装着前に金具を戻しておかないといけないので多少手間ではあるが、便利な代物だ。生地も帆布のように分厚くて丈夫なのでこれはいい買い物だろう。できればゴム引きの布で作りたいくらいだ。

 あ、そうそう、剣の鞘も剣帯とともに注文しておいた。一週間もかからずに出来上がるらしい。

 俺はプロテクターを装着し、背嚢をひとつ背負い、もう一つはぶら下げて持ち、銃剣をストラップで肩にかけると待ち合わせ場所の飯屋を目指して出発した。夜明け前、これだけの荷物でフル装備状態、且つ肩に長物(と言っても1.3mくらいしかないが)をかけているのでなんとなく前世の釣行を思い出して懐かしくなった。船が出る夜明け前、小物が入ったリュックサックを背負い、両肩にクーラーボックスと竿袋を下げて車から波止場に停泊している釣り船に向かって歩くときの子供のようにわくわくする感じ、とでも言えばいいのだろうか。

 飯屋に着くと既に三人が揃っていた。ズールーに彼の分の背嚢を渡し、背負わせる。彼は両手剣を使うが、剣の刃渡りは1m程で、柄の長さが30cmほどの物なので上背のあるズールーはその剣を腰に佩いていても違和感がない。長さ自体は俺の銃剣と同じくらいだ。

 全員で飯を食い、飯屋で水筒に水を入れてもらった。ズールーは奴隷であるにも拘らず、全員が同じメニューの食事であることに感謝していた。いいんだよ、体が資本なんだから。ちらっと聞くと、普通の冒険者の奴隷や軍隊で使われている戦闘奴隷だと、量はともかく料理の質は数段落ちるのが当たり前らしい。ふーん、そうなのか。

 だが、この飯屋で俺たちの食っている朝飯より質が落ちるメニューでも一食あたり百Z(銅貨一枚)しか違わない。俺達の朝食は三百Zでそれより落ちる朝食は二百Zなのだ。ここで百Zケチることに意味があるのかどうか……。たくさん奴隷を抱えているならいざ知らず、まだ一人なんだしなぁ。

「ズールー、お前は俺の奴隷頭候補なんだからいいんだよ」

 と言っておいた。食うのに夢中で答えてもらえなかった。別にいいけどさ。



・・・・・・・・・



 入口広場に行くとまだ結構な人だかりだ。順番を待ち、その間に迷宮への入場税としてズールーに銀貨を渡そうとしたら三人に止められた。税を払うのは持ち主の証明にもなるので俺がズールーの分もまとめて払えばいいそうだ。そういうものなのか。

 チャーチさんは今日も衛兵として徴税官の護衛を任されているようだ。彼は俺の顔をみるとニヤリと笑いかけてくれたので、俺も笑い返してやった。無事、四人分の税金を支払って四人で先に進むと石造りの地下へと降りる階段がある。どうやらこの下に転移の水晶棒とやらがあるらしいな。

 長い階段を降りると前方に廊下が伸びている。壁には松明が灯っており明かりには困らない。幅の広い廊下は石造りのせいか寒々としている。数十メートル先が扉のない部屋になっているようだ。俺の前に降りたパーティの連中が部屋に入るところだった。

 俺たちもその後に続いて部屋に向かって歩きだした。突き当たりの部屋までの間にも扉のない部屋が廊下の両脇にいくつもあるようだ。ここが迷宮から戻ってくる場所なのだろう。俺たちが歩いている時に戻ってきたパーティはいなかった。

 突き当たりの部屋の真ん中には高さ70cm程の四角く飾り気のない石の台座が設えてあり、その上に直径2~3cm程の細い水晶の棒が突き立っている。部屋自体は一辺が4mくらいの小部屋だ。台座から外に突き出ている水晶棒の長さは80cm弱だろうか。確かにこの長さじゃ十人が精一杯なのも頷ける。水晶棒の表面には薄紫色っぽい文字が明滅していた。これが迷宮内部への転移の呪文なのだろう。幾つも字が明滅している。あまり長いと覚えきれるかな?

 近づいて見てみると、あまりのことに呆然とした。文字の種類はぱっと見たところ三種類。一つは当然ながらこの世界の文字(コモン)だった。しかし、残った二つが異様だ。英語のアルファベットと日本語の平仮名だったのだ。思わずラルファと顔を見合わせてしまった。俺たち二人の異様な雰囲気を感じたのだろう、ゼノムとズールーは訝しそうに俺たちを見ている。ゼノムは、

「どうした? 意味のあるのはこれだけのようだな。バ・ル・スか。これが呪文なのか? こんな水晶はそうそう見られるもんじゃないだろうから驚くのも分かるが、話に聞いていた通りじゃないか。覚え切れん程長くもないし。さぁ、行こう」

 そう言ってゼノムとズールーはさっさと水晶棒を握り締めた。俺とラルファはもう一度顔を見合わせたが心を決めて水晶棒を握り締めた。全員、俺が口を開くのを待っている。この呪文を唱えるの俺かよ。全てが崩れ落ちそうなこの呪文を。

「バルス!」

 何も崩れ落ちることなく、一瞬にして転移が完了したのだろうか? 握り締めていた水晶と台座だけは変わったところはないが、部屋の様子は一変していた。話に聞いていたので知ってはいたが、実際に経験してみると実に驚いた。

 周囲をきょろきょろ見回しながらゆっくりと水晶から手を離す。と、全員の手が離れた瞬間、水晶は一瞬だけぼうっと黄色く光を放ち、先ほどと同じように表面に字が浮き出した。なになに? 今度はダ・リ・オ・フか。別に意味がある言葉というわけじゃなさそうだな。何故だか少し安心した気がした。

 転移した先の場所は洞窟の行き止まりのような場所だった。聞いていた通り洞窟の壁全体がほの明るい光を発している。光源は要らないと言えば要らないが、これならあったほうが良いかも知れない。明かりの魔道具を改造してランタン風にしたものを買ったほうが良いかもしれないな。

 ゼノムは早速糸を適当な石に結んでいた。棒に突き刺したボビンを左手に持つと、右手に斧をぶら下げた。俺も肩から銃剣を降ろし、先端の鞘を外してプロテクターの腰にあるDリングにぶら下げ、いつでも戦闘可能なように準備した。ラルファとズールーもそれぞれの得物を手にして準備は完了だ。

「よし、じゃあ行くぞ。昨日言った通り俺が先頭になって進む。俺の後ろがラルファ、その次がゼノムだ。ズールーはゼノムの糸に気を付けろよ」

 全員が頷いたのを確認して進むが、数十メートルも行かないうちに隊列を変えた。洞窟の幅はだんだん広くなり、今は幅8メートル程になっている。この洞窟をわざわざ一列縦隊で進むのはいかがなものか、と思ったのだ。今は俺とズールーが二人で先頭に立ち、その後ろをラルファとゼノムがついてくるという構図だ。また、この洞窟は床面は凸凹があるものの、石でごろごろしているわけでは無いようで、土の地肌となっている。壁も土で所々に石が転がっているという感じだ。

 ボビンの糸を継ぎ足し、そろそろ二回目の継ぎ足しの頃、前方から足音とともに「ぶわん」とか「ぎゃう」とかいう声が聞こえてきた。既に目が暗順応して久しい。視界は30~40m程はあろうか。確かにランタンはなくてもいいかな。まぁ完全に明かりがない場所もあるらしいから一つは持っていたほうがいいだろうけど。今日はそんな場所には踏み込まないつもりだったから関係ないし、下手に明かりを持っていたら遠くからでも俺たちの存在を気付かれてしまうだろう。

 全員背嚢を降ろし、武器を構えて相手に危険があればすぐに何らかの行動を行えるように身構えた。背嚢は洞窟の隅の方へ置いてある。全員壁際の方へと左右に別れて移動し、油断なく構えている。洞窟はしばらく真っ直ぐに伸びているようだ。よし、鑑定だ。俺は鑑定の視覚に頼るべく固有技能を使ってみた。前方70~80m程に小型の人影が見える。ノールだ。全員槍で武装しているようだ。数は……11匹か。真ん中辺りのノールを鑑定してみるとレベルは3だった。これならいけるな。

 もう少し近づいて来るのを待ったほうが効率がいいかな。俺は息を殺してノールの集団が近づいてくるのを待った。相手もゆっくりと近づいて来るようだ。と、相手が10m程前進したあたりでぴくん、と動きが止まったようだ。まずい、気付かれたのだろうか? まぁ気付かれたとしても大した違いはない。すぐにノール達は前進してきた。但し、口々に何か喚きながら、こちらへ突進してくる。ハイエナだけに鼻がいいのかな? 超臭覚なんて特殊技能はなかったと思うのだが。特殊技能になるほどではない技能なのだろう。

 あと50m。まだまだ。

 あと40m。流石にノールの隊列も崩れかけてきている。そろそろか。

 あと30m。今だ! 俺は通路の真ん中に飛び出すと左手をノールに向け、魔術を放出した。『アイスコーン』の魔術だ。俺の左手から円錐状に冷気の渦が拡がり、同時にカッターのような薄い氷の刃が無数に放たれる。狙いなんていちいちつけちゃいられないのでMPを注ぎ込んで刃の量を増やすことに集中させた。マイナス30度の冷気くらいでは死にはしないだろうが、剃刀のような薄くて鋭い氷刃の切れ味を維持するには充分だ。左手から前方15°くらいの細長い円錐状の空間に対して密生した氷の刃は哀れなノールどもの前衛の四匹を瞬く間に血達磨に変えた。

 ついでにもういっちょ。お次は『チェインライトニング』の魔術だ。文字通り『ライトニングボルト』の改良版で、使用するMPは更に増えるがこいつの電撃は命中した後に更に分裂して近くの別の目標に次々と当たる。分裂回数は四回までだが、命中した目標の後方九十度の範囲内で距離五m以内に別の対象がいないとそこで分裂が止まってしまうのが難点だ。だが、一度でも分裂したらそこから先はかなり広がることになる。最終的には威力は『ライトニングボルト』の半分位まで落ちるがこんな低レベルのノール相手なら充分だろう。 

 これで全滅できるとは思っていない。俺は『チェインライトニング』の分裂が終了する一秒間ほど魔法維持のため精神集中をせざるを得なかったが、この魔術で更に五匹を葬ることに成功した。残ったノールは二匹。30m程先で瞬く間に味方の大多数を失ったことに士気をくじかれたのだろう、たたらを踏んでいる間にこいつらも『ストーンアロー』をミサイルにしないで連射して殺した。

 時間にして僅か10秒程で11匹のノールを仕留めることに成功した。一層の平均的な敵がこの程度であればいいのだが……。

「楽勝だったな。魔石を取るぞ」

 そう言って背嚢を拾い上げて歩きだした俺の後を呆然とした三人がついてきた。ゼノムまでがあっけにとられているようだ。ちょっと景気良すぎたかな? そう思ったが、最初の戦闘だ。気合も入ろうというものじゃないか。最後の『ストーンアロー』も含めて八十近いMPを使ったが、俺のMP保有量の1%にも満たない量だ。それに、このくらいなら六~七時間で回復する。

 ズールーにナイフを渡し、俺以外の三人が魔石を採るのを待つ間、俺は少しだけ進んで先からモンスターが来ないか警戒していた。作業中の三人から会話が漏れ聴こえてくる。

「ご主人様は物凄い魔法使いなのですね、昨日は治癒魔法くらいしかご使用になられなかったので存じておりませんでした」

「ああ、俺たちと出会った時にも魔法を使っていたが、あれほどとは……」

 うはは、もっと言っちゃってもいいのよ。俺は褒めて伸びるタイプだから。

「私も魔法使える様になったから、早くああなれるようにならないとねぇ」

 それは無理だと思うよ、お嬢さん。

 数十分で魔石を全て回収できた。鑑定してみたら価値は二千くらいだ。七割くらいで売っぱくれば十五万Zくらいか。なお、ノールの武器は先を尖らせた木の槍だったから回収しないでおこうかと思ったが、何かに使えるかもしれない。長さも1m強くらいだし。とりあえずズールーに三本くらい持たせておいた。ところで、木材なんか一体どこで手に入れたんだろう?

 また用心しながら進んだ。分かれ道どころか曲がり角すらない。糸いらねぇじゃんか。

「なぁゼノム、道が分かれるところまで糸使わない方が良くないか?」

 そう言って見ると、ゼノムも同じように考えていたのだろう。すぐに「そうだな、少し待っててくれ」と返事があり、最初の地点めがけて走り始めた。まだ400mくらいしか進んでいないから、転移の水晶のあたりまで戻って、石に結びつけた糸を解きに行ったのだろう。

 ゼノムが戻ってくるまで特にやることもない。十分程度小休止だ。と言っても転移してから移動時間はここまで十五分程度。魔石を採っていた時間の方がよほど長い。戦闘も十秒くらいだったしな。前方を警戒しつつもゼノムが帰ってくるのを待った。程なくしてゼノムが戻ると、糸を巻き取り始めた。ああ、そうか。巻かなきゃまた使えないよな。巻きながら帰ってきてくれりゃいいのに、と思ったが、誰か一人が糸を繰り出しながらボビンを回転させたほうが確かに効率いいし。

 合計30分近く無為に過ごしてしまったが、気を取り直して用心しながらゆっくりと奥に進む。

 更に300m程進んだ。相変わらず洞窟は真っ直ぐに伸びている。罠も見当たらなかった。だが、どこにあるかもわからない罠を警戒しながら進むのは結構疲れるな。もっと楽に進めるかと思っていたが、これは舐めていたようだ。途中で先頭をゼノムとラルファの二人と交代し、俺とズールーは後ろに下がった。

 と、交代してすぐに前方から小さな物音が聞こえてきた。戦闘の音のようだが結構距離は離れていそうだ。ゼノムが俺の方を振り向いている。俺は彼に対して頷くとあくまで用心しながらゆっくりと進むように言った。ついでに「敵が俺達と同数なら今度は剣で戦おう」と言っておく。このまま魔法で突き進んでもいいが、それだと俺だけが経験を稼ぐことになりかねないしな。

 まだ戦闘らしき物音が伝わってくる。心なしか大きくなった気もするが気のせいかも知れない。ラルファが振り向いて囁いてきた。

「誰かが戦ってるみたい。助けに行かなくていいの?」

「え? なんで?」

「だって結構長いみたいだから、苦戦してるのかもしれないでしょ?」

 確かに最初に物音と叫び声を聞いてからもう1分くらい経っているだろう。おそらく苦戦していると思われる。だけど、なんで助けに行く必要があるんだ? 俺が言葉に詰まっているとゼノムが助け舟を出してくれた。

「ラルファ、迷宮での冒険は自己責任だ。苦戦しているなら強力な敵かも知れない。用心しながらゆっくりと進んだほうがいい」

 そうだそうだ。

「それに、獲物を横取りするな、といらぬ恨みを買うかも知れない。仮にこのまま傍まで行ったとしてもいきなり手を出さないほうがいい。あくまで冒険者たちが助けてくれと言ってくるまでは傍観だ」

 そうだそうだ。

「……わかった。そうね、ゆっくり行きましょう」

 ラルファも納得したようだ。俺は、

「そうだ、それにまだ別の冒険者と決まったわけじゃない。モンスター同士で争っているのかも知れないしな」

 と付け加えた。なんだ、ゼノムの説明で良かったのか。ラルファも冒険者をやって久しいから割り切りは出来るし、きちんと説明すれば納得もする。どうも元女子高生、見た目14歳の女の子から「助けに行かないの?」とか言われると責められている気持ちになってしまうよ。

 俺たちは改めて用心しながら進んだ。50m程で初めて洞窟は右に折れ曲がるようだ。分かれ道ではないので糸も必要はない。角を右に曲がると急激に物音が大きくなった。今までは角である程度物音が減殺されていたのだろう。何かの叫び声も聞こえるが、言葉になっていない。モンスターの叱咤するような声と複数の戦闘音だけだ。

 もし、冒険者が戦っているのであればたった一人にまで打ち減らされているはずだ。走れば間に合うだろうか? 根拠は薄弱だが、多分俺なら助けられるだろう。有り余る魔力で連続して魔法を打ち込めば助けることも出来るのではないだろうか? 自己責任とは言え、見殺しも夢見が悪いよなぁ。

 その時、前を行くゼノムが右手を挙げてしゃがみこんだ。何だ? と思ったが、ゼノムの言葉を聞いて疑問は氷解した。

「罠だ。落とし穴だと思う。……洞窟の端っこなら大丈夫そうだな。注意してくれ」

 確かにゼノムの言う通り、彼の先の洞窟の真ん中あたりに直径5mくらい多少不自然な盛り上がりがあるようだ。やっべー、焦って援護に走っていたら見抜けるわけなかった。下手したら全員落とし穴に嵌るところだったわ。

「ズールー、傍にさっきの槍を立てておけ。罠の目印になる」

 この先に強力なモンスターがいた場合、撤退の可能性もある。撤退中に罠の場所を見落として見つけていたはずの落とし穴に嵌るとか全く笑えない。槍を回収させておいてよかったぜ。本当はズールーに投槍ジャベリンの代わりに威嚇で投げさせようと思って回収したんだが。

 ズールーはすぐに俺の意図を理解したようで、落とし穴を回避すると洞窟の真ん中に槍を突き刺して目印にした。この槍の先には落とし穴ありだ。洞窟は更に五十m程先で今度は左に曲がっているようだ。俺達は更に用心しながらもゆっくりと進んでいった。戦闘音とモンスターの叫び声はまだ響いている。もう最初に気がついてから十分近く経っている。曲がり角に近づくと物音は更に多くなった。もう数十m先だろう。この角を左に曲がったら見えるんじゃないだろうか?

 俺はそう思うと皆を制して左の壁に体をつけると慎重に顔だけ出して通路の先を覗いてみた。既に鑑定の固有技能は発動済みだ。因みに、鑑定だと落とし穴の罠は見抜けなかった。多分落とし穴の上に薄い布か板でも渡してあってその上に土をかぶせてあるのだろう。だから俺の視線は罠の構造まで通らないから鑑定では見つけられなかったと思われる。

 曲がり角の先三十mくらいのところにゴブリンが二十匹ほどいて争っていた。数匹倒れ込んでいるものもいる。冒険者らしき人影は見えない。モンスター同士の争いのようだ。何匹か鑑定してみたがレベルは二~四といったところで、それほど強力ではない。俺はそっと皆の所に戻ると言った。

「この先三十mくらいのところでゴブリンの集団が争っている。数は合計で二十くらいだ。見た感じだと俺たちなら奇襲すれば勝てるだろう。魔法なら一撃でカタをつけられるが、どうする?」

 するとズールーが小声だが驚いたように言った。

「まだ魔法が使えるのですか! ですが、お役に立ってみせますよ。ゴブリンくらい蹴散らしてやります!」

 ゼノムは

「二十匹か……多いがゴブリンなら勝てるだろう。行くか!?」

 と言った。血気盛んなことだ。

「二十匹ねぇ。じゃあ、私たちが突っ込むからアルは逃がさないようにいつでも魔法を使えるようにしていて」

 ラルファもやる気まんまん、と言うことか。よし。

「じゃあ、ズールー、お前が先頭だ。突っ込め。ゼノムはズールーの右後ろ。ラルファはゼノムの死角のカバーだ。俺はノールの槍でも投げつけるけど、これには期待するな。最初の威嚇程度くらいにしかならん。まず、俺が角から出て槍を一本投げる。俺が角から飛び出すと同時に皆は突撃だ。誰かが怪我を負ったら、ゴブリンが逃げようが治癒を優先する。いいな」

 簡単に突撃順を決めるとそれを指示した。ゴブリン程度なら力押ししても問題はないだろう。それに、即死でもしない限りは手当もしてやれるからまぁ問題ないだろう。

 タイミングを見計らって角から飛び出すと、ズールーを先頭にゴブリンの集団めがけて三つのしも、もとい、俺の仲間たちが雄叫びを上げながら吶喊して行った。

 彼らの背中を見ながら俺は体全体を使って筋肉を弓のように引き絞ると、ノールの木槍を彼らの頭上を飛び越すように投げ放った。当然狙いも糞もない。大体、槍投げなんかしたこともない。当たらなくてもいいのだ。そう言い訳しながらも当たることを念じて槍の飛ぶ先を見たが、ゴブリンの集団の手前の地面に突き刺さったのが見えた。なさけねー。今度、投槍器アトラトルでも作ろうかな。

 すぐにズールー達がゴブリンの集団に襲いかかったのが見えた。今まで争っていたゴブリン共は何が起こったのかまともに把握すら出来なかっただろう。ズールーの両手剣に背中から刺し貫かれた不運な奴を皮切りに、ゼノムとラルファの手斧トマホークに一撃で頭部を叩き割られ脳漿を飛び散らせた奴らが出ると、ゴブリン達の混乱は一層ひどくなったようだ。最初にやられた三匹が所属していた勢力は、ズールー達を相手方の助っ人とみなしたようで、相手方の勢力は味方が増えたと勘違いしていたようだ。

 俺はそれを見ながら、最後に残った一本の木槍をもう一度構えると、少し近づいてから端っこにいる奴を狙って投げた。だが、槍は今度も外れ、目標の傍で既に死体と化しているゴブリンに突き立った。慎重に狙ったつもりだったのだが、単なる木の棒の先を尖らしているだけだし、狙って投げてもそうそう当たるものでもないだろう。

 ズールーは鬼神のように両手剣を振り回し、ゴブリンを全く寄せ付けず、彼の剣のリーチ内に存在するゴブリンは死んだゴブリンだけになっている。その暴風のような鉄の嵐が移動するたびに一匹、また一匹と動くゴブリンの数が減っていく。ゼノムとラルファは一体ずつ確実に致命傷となるような一撃を打ち込んでいく。

 数分でゴブリン達は半数以下にまで打ち減らされており、残ったゴブリンはただ喚いて持っている棍棒を闇雲に振り回しているだけで恐慌に陥っているようにしか見えない。俺は逃げようと背中を見せる奴にだけ『ストーンアローミサイル』の魔術で遠くから打ち抜く、もはや作業とも言えるようなことだけに集中していれば良かった。

 結局、十分とかからず三人とも無傷で二十匹のゴブリンを殲滅することができた。その後はまた魔石を採り、更に迷宮の奥を目指して進んでいった。

 まだ朝の八時くらいだろうか。初日にしてはいい滑り出しだ。

 
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