挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

87/510

第十七話 盆地の街

7442年5月13日

 昨晩はラルファとゼノムを言いくるめて二人を雇うことに成功した。途中で急にラルファが「契約なら内容を詰めよう」と言って来たのには少し驚いたが、所詮は高校生レベル。ちゃんとした契約などしたこともあるまいと高をくくっていたらやはりそうだった。大まかに言って

1.俺は彼ら二人に合計で月間40万Zの報酬を月初めに前払いする
2.雇用期間は最低一年間
3.一年ごとに契約更新、更新の際には新年度の報酬について話し合って考慮する
4.二人は二人の命に関わるような命令以外なら従う
5.お互いに相手の健康について考慮し、心を配る
6.俺はラルファに魔法習得のための指導をする
7.前項はラルファが治癒魔法を使えるようになるまでは続けられる
8.今月に限ってはサービスで報酬はなし(但し、金を得ることがあったら山分け)
9.雇用期間中の冒険の過程で得た金(報酬含む)や物品については俺のもの
10.野営するような場合、見張りは公平に時間分配する

 という内容に落ち着いた。ちょろ過ぎるわ。誠意条項もないし、極端なことを言えば俺が「ラルファ、ちょっと体を売って稼いでこい」「ラルファ、新型の衛生用品の性能をテストさせろ」「ラルファ、お前の持ち物を売って金を作れ」とか言えば断れない。拒否権は命に関わるような命令だけだしな。まぁそんなことするつもりはないけど、追い詰められたら何言うかわからんでぇ。

 ロプロスとポセイドンゲットだぜ。ロデム候補はいないものだろうか?
 無償じゃないから違うか。

 とにかく、バルドゥックまでの道すがら、契約書を作れそうな村か街に着いたら契約書を作成し、お互いに持ち合うことで落ち着いた。少なくともそれまでは無茶なことを言うつもりはない。尤も、無茶なことを言った場合、その時は何とかなっても、その後最長でも一年間程で契約が切られるので、言う場合はそれこそ追い詰められた時だけだ。

 まぁそんな事言っても究極的にはあんまり意味ないんだけどさ。この世界なら個人間の契約不履行でのペナルティなんか無きに等しいだろうからな。

 そう思いながら、ゼノムとラルファを乗せた俺の軍馬の脇を走っていた。毎日二時間、出来る限りランニングは欠かさない。移動距離も稼げるしな。でも、流石に外の街道は走りづらい。足を痛めないように気を遣いながら走るとそんなにスピードは出せないから何時も馬を歩かせているよりほんの少し速いかな? という程度のペースだ。一日の最初に二時間走ったら一時間の休憩を入れる。馬も休憩なしで二時間はへばるからな。あとは昼食時を除いて一時間ごとに10分程度休憩するくらいだ。俺も馬に乗ったり、降りて歩いたりしながらだから、全員の疲労を分散させられるようになったのは大きい。あれ? 俺だけ損しているような気も……まぁいいか。若いうちから馬の背に揺られてばかりというのもよろしくない。

 途中、ある程度の規模の街で丸二日程休んだりしながらバルドゥックを目指し、三週間近くかけてやっとバルドゥックに到着したのは5月末日の30日のことだ。ああ、契約書は作ったよ。紙とペンさえあれば俺が書くと言ったのに「契約はちゃんとしないと」とか言われて“ちゃんとしない理由”を説明出来ず代書屋みたいなところで作成してもらった。何でだか知らないが10万Zも取られたわ。糞。



・・・・・・・・・



7442年5月30日

 バルドゥックの街に到着したのは昼下がりだった。直径6~7kmくらいの大きくなだらかな円周状の丘に囲まれたすり鉢の底にあるような盆地の街だ。話に聞いていたが、農地のようなものは街の周囲の斜面にちょっとある程度だろうか。盆地の底が直径3~4kmくらいの平野になっており、その中心あたりに有名なバルドゥックの迷宮があるらしい。その入口を中心に歪な放射状に八本の道が伸びており、盆地の周囲の丘の頂上あたりをぐるりと取り囲む道に接続している。八本の道はお互い細い道で繋がれているようで、蜘蛛の巣のような感じと言うのが適当かも知れない。

 南からバルドゥックを目指して進行してきた俺たちは、5m程の木に覆われた丘を登るとその頂上あたりで十字路にぶつかった。当然真っ直ぐに進めばバルドゥックの街に行くし、左右なら盆地を取り囲む道を行くことになる。ふむ、この円状の道はランニングコースにいいんじゃないかな? などと益体もないことを考えながら眼下の盆地に密集する街を眺めた。どこからか木に斧を入れている「コーン、コーン」という音が響いている。

 ゼノムとラルファもバルドゥックに来たのは初めてらしいから俺と一緒になって丘の頂上から街を眺めていた。ラルファは「ここって火山の火口とか……クレーターみたい」と言ったが本当、その通りだと思った。尤も火山の火口やクレーターの周囲はこんなになだらかじゃないだろうから違うのかも知れない。でも、長い年月を経ているのであれば風雨に晒されて崩れたりしてこんなになだらかになることもあるのかも知れない。

 丘の高さは体感で150m。高いところでも170~180mもないくらいだろうか。円周状の丘の斜面は今まで登ってきた坂と眼下に伸びる下り坂を見たところ10%前後くらいの勾配だろう。盆地内部の斜面の道以外の場所は外側と異なり潅木と草地が広がっていて眺めはいい。この程度の勾配なので斜面に対して坂道は斜めになるようなこともないと思ったが、盆地の外側はともかく、盆地の中の坂は少し斜めになっていた。ああ、街の周囲に少しある斜面の農地に水を運ぶのにそうしているのか。

 盆地の中心部に広がる街の中には少し東側に小さな池と言うか泉というか、水たまりのようなものも見える。とても湖とは呼べない。上野にある不忍池の三倍くらいの面積があるかどうかだろう。そこから西に向かって川が流れている。川は西の丘を削って数Km先に広がる海に流れ込んでいる。多分、西側の丘だけそのために切り崩したのだろう。川の両側が急峻な崖のようになっているのがわかる。崖を繋ぐ橋はないからランニングは川沿いを登って盆地を囲む丘をぐるりと一周し、川の反対側の坂を降りるしかないだろう。川が海に流れ込んでいるところを見るとあの池は泉で湧き出る水量もそれなりにあるのだろうし、盆地の底は周りの地上よりも幾分高くなっているのだろう。

 見たところ、街の建物は新しいものとある程度古いものが混在しているようだ。新しい建物はキールの街並みにあったようにしっかりと漆喰で塗り固められた壁を持ち、一階や基礎部分は石造りのようだ。気がつかなかったが丘のどこかに石切場のようなものでもあるのかもしれないな。高さは三階建てどころか数える程しかないけれど四階建ての建物まである。土地が限られているから新しい建物は土地を有効活用するために上に伸びているのだろうか。古い建物は木造で、せいぜい二階建てどまりだ。オース一般の建物とそう変わりはない。瓦や茅葺きでない板の屋根を除けばどことなく江戸時代の日本家屋風な感じがするのも一緒だ。勿論豪華に瓦屋根の建物もないことはない。

 昼食を摂ろうと最初に目に付いた飯屋に入った。そこで、簡単に今後のことについて相談する。まずは腰を落ち着けるための宿を決めねばなるまい。俺たちは今後しばらく滞在するに相応しい適当な宿を取ろうとしたが、ここでゼノム達と意見が割れてしまった。彼らは一人一泊2000Z~3000Zの下級の宿で充分だと言っているが、俺はキールで滞在していたビンス亭クラスの一泊5000Zくらいの宿を考えていたのだ。そう言えばここに来る途中で二日間休んだ街では空いている宿は5000Z程度の宿しかなかったから文句もなかったのか。

 だが、部屋を空けている時に荷物の心配をしなくてよく、馬の面倒を見てくれることは必須条件とも言える。それに伴って料金がかかるのは当然だろう。それだけでなく、いろいろとサービスのメニューも多く、清潔なことは大切であると一席ぶったのだが、それでも結局彼らは安い宿に滞在することを選ぶようだ。何かあった時にすぐに連絡が取れないことは不安だが、俺はこの条件を下げる気はさらさらないので宿が別れることも仕方あるまいと、自分を納得させた。

 契約を盾に無理やり納得させる手も無い事は無いが、そう軽々しく使えるカードでもない。それにこんなことを無理強いする意味も薄い。ろくに財産らしい財産も持っていない奴には理解できようもないことだろうしな。貧乏自体は悪いことではないが、それを、又はそれで良しとする精神性は害悪だ。世の中には清貧という言葉もあるが、俺は昔から自己欺瞞の言葉だと思っている。別に贅沢を推奨するつもりは全くないが、必要な経費を切り詰めてもそれはケチなだけだ。精神性も貧しくなる。金がないなら仕方ないが、ないなら稼げばいいだけのことだ。まぁこのあたりはそれぞれの考え方や価値観というものもあるからあまり拘っても仕方ない。俺の考えを押し付けるつもりもないしな。連絡に多少不便なことはあるが、それさえ容認できるならお互い相手が腰を落ち着ける宿さえ確認できれば別に問題があるわけでもない。

 そう思って、そこそこ上質のベッドに寝転がりながら弛緩した。もう少し休んだら、予め決めてある飯屋に行ってこれからのことでも相談しよう。ああ、そうだ、あとででかい桶でも買ってくるか。風呂は無理にしてもシャワーくらいは人目を気にせずにゆっくりと浴びたいしな。そう思って浅い眠りについた。

 夕方近く、目覚ましの小魔法キャントリップスで起こされた俺は、普段着のままブーツを履き、落ち合う約束をした飯屋に行った。まだ彼らは来ていなかったので、入口から入るとすぐにわかる場所のテーブルを選び、ビールを注文した。まだ夕方近い時間ということもあり、客席はまばらに埋まっているだけだ。他の客席についている数少ない客を観察すると、冒険者風とでも言うような肉体派の奴らは見かけなかった。多分、この町の住民が少し早い食事を摂りに来ているだけなのだろう。

 俺はバルドゥックの街は迷宮があり、冒険者たちが一攫千金を狙ってぞろぞろ集まってきていると聞いていたので、拍子抜けしていた。だが、迷宮に挑戦し、一攫千金を狙うには長時間迷宮に滞在することもあるだろうし、この時間ならまだ働いて(?)いる時間かも知れないと思い直した。沢山の冒険者が命を落とすという危険な迷宮だから情報収集でもしようかと思っていたが、それはまたの機会にでもしたほうが良さそうだ。ちびちびとぬるいビールを啜りながら、豆の煮物を摘んでいく。この豆の煮物はどこにでもあるよな。家でも食ってたし、ドーリットやキールでもあった。ここまでの道中でもさんざん食ってきた。

 なんとなく日本で言う、お新香だとか、納豆だとかそんな感じのロンベルト王国のソウルフードとでも言うべきものなのだろうと思ってはいたが、否定する材料もないし、きっとそうなのだろう。嫌いじゃないし、十年以上もしょっちゅう食ってりゃ慣れもする。

 ゼノムとラルファが来ると彼らも同じものを頼んだ。彼らもぬるいビールを啜りながら豆を食っている。食事も一段落した頃、宿の情報を交換し、いよいよ明日からの計画を練ろうとしたとき、店に数人の男たちが入って来た。どことなく汚い格好で、なんとなく粗野な振る舞いをし、ほのかに立ち上る汗臭い体臭。喋る言葉はどこの方言かは知らないが多少下品な内容もある。冒険者だ。こういう奴らが迷宮に潜っているのだろう。戦力はどの程度なのだろうか。さりげなく鑑定してみると全員レベル7だった。魔法が使えるやつもちらほらいるが、技能のレベルは2とか3で低い。と言うかこれが普通か。

 どうやら迷宮の一層でノールの集団に出会ったらしい。ノールはコボルド以上、オーク未満程度の強さの魔物、いやさ、モンスターらしい。やはり集団で現れ、こちらを攻撃してくる。ハイエナの様な人型をしたモンスターで武器も防具も使うとのことだ。やはり何匹か傷つけると仲間をかばいながら退却する程度の知恵はあるとゼノムが教えてくれた。さすがはゼノムだ、何でも知っているな。

 とにかく、ノールに追い散らされた実力の低い冒険者のことはどうでもいい。だが、バルドゥックの迷宮の第一層程度ならこの程度の実力でも生きて帰ってくるくらいは出来るということか。そう思いながら、既に何度も聞いているゼノムの迷宮のレクチャーに耳を傾けた。少し長いがおさらいだ。まぁ聞いてくれ。

・迷宮では何が起こるかわからない。常に油断するな。

・迷宮に入るためには一人頭10000Zの税金が必要。

・ある程度の情報はバルドゥックの行政府に行けば説明してくれる。

・今までに踏破された階層は第八層。それも何百年も前のこと。踏破者は初代ロンベルト一世。彼はその時得た財宝でロンベルト王国の基礎を築いた。

・迷宮に同時に入れるのは一部隊十名まで。それ以上の人数は部隊を分ける必要がある。理由は迷宮の入口を降りると地下室になっており、そこに水晶の棒がある。それを握って、握ったうちの誰かが迷宮内部に転移する呪文を唱える必要があるから。呪文は握る前の水晶の表面に浮かび上がっている。但し転移のために使われる毎に変わるから覚える必要はない。水晶の長さの制限でいいところ十人が限界。

・転移先は必ず迷宮の第一層のどこか。

・転移先には同じような水晶があり、同様に呪文を唱えることで入口の水晶の部屋の脇の部屋に転移できる。但し、この水晶はこの場所に転移した者しか見ることも出来ないし、触ることもできない。

・第一層の中心部と思われる場所に同じような水晶がある。入る時と同様にそれを握りながら呪文を唱えることで入口の水晶の脇の部屋か、次の階層に転移させられる。戻るときの呪文は一定で「我らを戻せ」。

・迷宮内部で他の冒険者の部隊と出会うこともある。但し、あまりに広いのと、どこに転移するかわからないので狙って会うことは無理に近い。双方の実力が相当高ければ落ち合う場所を決めて会うことも不可能ではないというが……まず無理。

・各階層の広さはとてつもなく広い。伝えられている内容によるとこの街くらいの面積は余裕である。地図を売っているらしいが完全なものとは言えない。

・一層一層が異なり、各階層はそれぞれ特徴的。一層は洞穴。地面や壁は土、もしくは岩。モンスターもそう強力なものはいない。罠も大したものはない。

 取り敢えずこんなところだ。その他二層以降の情報もあるにはあるが今語っても仕方ないからそれは後日、必要な時に語るとしよう。この内容だってゼノムが昔、人伝に聞いただけだから、どこまでが本当か怪しいと自分でも言っている。多分最初の三項目以外は眉唾くらいに思っておいたほうがいいだろう。

 俺達はまた明日、この店で昼食を摂ってから改めて行政府で情報収集することにしてこの晩は別れた。

 
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ