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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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幕間 第十三話 ???の場合

 自分には生まれた時から自我があった。不思議なことに、生まれた当初自分が思考していた言語はこの世界の言語ではなかった。自我と思考力は生まれた時から大人並みだったと自負しているが、一般的な他の子供同様、皆が喋っている言葉はわからず、常識も知らず変な言語と思考能力以外は別段変わったところは無かった。強いて言えば髪が黒く、瞳も黒いことだが、どちらかが黒いというのは他にもいないことはない。両方黒というのは自分くらいしかいなかったが。ついでに言うと顔はイケてない方だ。イケてない? 何だ、この言葉? うん、まあいい。言い直そう。醜いほうだ。

 また、体つきも皆とは多少違う。皆は男性はおろか、女性までもが細く引き締まり、筋肉質な体質が多いのだが、自分はいくら体を鍛えても皆程筋肉質にはなりにくい体質のようで、それもまた皆から「醜い」と揶揄される所以ゆえんだ。だからと言って別に運動能力までも劣っているわけではない。念のためだが、補足しておく。それどころか、同じ年代の間では運動能力は高い方なのだ。理由は後ほど述べるとしよう。

 自分が生まれ育ったのはエルレヘイと言う都市だ。この都市はキンルゥという名の高い山の中腹にある。都市と言ったが同時に一つの国でもある。国の名はライル。国王は女王だ。お名前をリルスと言う。恐れ多くて直接拝見したことはないけれど。自分はその国の中流の家庭に生まれた。上には病弱な体質だが兄がおり、下には弟妹が双子で一人ずついたが、二人共残念なことに幼少時に病気で亡くなってしまった。病弱とは言え、兄は聡明なので成長すれば家督を嗣ぐ事になるだろう。自分は兄の手となり足となって兄が家を盛り立てる手助けができればいい。

 また、特徴的なのは我が国(ライル)はオースでは珍しく単一人種のみで構成されている。デュロウと言うのが普通だ。一般的には闇精人族ダークエルフと呼ばれている。肌の色が黒に近い濃い紫色で逆に口唇や乳首、性器や肛門周辺など、一般的な地上の人達の肌の色の濃い場所は逆に色素が薄くなっている。自分の肌の色はあまり濃くないほうでありこれもまた醜い。瞳の形は精人族エルフ同様に微妙にアーモンド型だが、瞳の色は色素の明暗は別にして紫系統が多い。一番多いのはラベンダー色だ。また、どちらかというと色素の薄い髪が一般的だ。総白髪や、総白髪と見紛うばかりの非常に薄い紫とか。勿論、赤や緑の髪だっていないことはない。

 なお、デュロウの種族特有の特殊技能に赤外線視力インフラビジョンというものがある。これは意思によって目に映る映像が可視光線だけでなく遠赤外線を映像化する技能だ。簡単に言うと温度を視覚で捉えることができる。サーモグラフィ? 唐突に浮かんできた。何だ? まぁいい。もう一つは傾斜感知インクリネーションセンシングだ。これは今自分が進んでいる道がどの程度傾いているかを感知することができる。登っているのか下っているのかがわかるのだ。言い忘れたが我が国(ライル)は文字通り山の中にある(キンルゥ山の中、と言うか地下? にトンネルを掘っているのだ)ので我が国(ライル)で暮らすにはこの二つの能力がないと苦労するだろう。勿論魔石を利用した照明器具は家庭の中を始めとして国内至るところにあるが、照明が届かない場所はその何倍も多いのだ。

 ところで、我が国(ライル)の産業はいささか特殊だ。話に聞くだけだが、地上の国々では小麦という植物を育てる農業が中心らしい。我が国(ライル)でも農業は行われているが、それは菌類を育て、収穫することが中心だ。だから肉類を除けば食卓には必ずきのこがある。多種多様なきのこ類だが、勿論毒を持っているものは栽培されていない。いや、殆ど栽培されてはいない。

 食用のきのこ類はいろいろなものが栽培されているが、私の頭は最初からそれらきのこ類のいくつかの名前を覚えていた。但し、例の変な言語でだが。少なくとも通常皆が話しているきのこの名前とは発音からして全く異なる。皆がアベルッジと呼んで美味いと言うきのこは、勿論、自分もアベルッジと呼ぶのだが、頭の中では『これは本しめじだ』と変な知識が教えてくれる。

 生まれてから何に対してもずっとこの調子だったので自分が異常な赤ん坊であるとかなり早期──生まれてから数ヵ月後くらいから気づけたのは本当に幸運だった。かなり頭が良く、歳の割には知恵が回り、運動能力が高いというだけの『いろいろと優秀な子だが、普人族みたいで醜い』と見られただけで済んだからだ。

 少し話が横道に逸れた。修正しよう。そうだ、我が国(ライル)の産業のことだ。菌類の栽培だけでなく、食肉用の家畜も飼っている。その辺は地上の他の国もそう変わらないと聞く。だが、根本的に我が国(ライル)が他国と異なるのは、現在保有している以上の不動産の取得にはあまり興味がないということだ。普通は農業のための土地や家畜を飼育する土地の確保などのため国同士が不動産である土地の所有権を争っていると聞く。いや、これは表現が悪い。現在のところ、領土的な野心はない。少なくとも我が国(ライル)の元老院の連中はそう言っているからきっとそうなんだろう。同時に時期が来たら地上に打って出て国を大きくするとも言っている。これはまだまだずっと先の話らしいからどうでもいいけれど。

 とにかく、菌類の栽培と家畜の飼育が主な産業だ。但し表向きの。裏の産業は暗殺だ。金さえ支払って貰えるのであれば誰からでも依頼を受け、どんな相手でも必ず暗殺する。我々が暗殺したという証拠を残さずに。おっと、これは言い過ぎか。依頼人を知られることなく、だ。当然失敗して暗殺者が捕えられる事もある。そういった場合には依頼人の情報が漏れないよう自ら死を選ぶことによって秘密を守る。勿論逃げられるようなら逃げるけれど。自殺は本当に最後の手段だ。とにかく剣や魔法を駆使して暗殺の依頼を遂行するのだ。だから国外で仕事をする暗殺要員は必ず魔法が使える者から選別されている。

 え? そこまで秘密が守られるならあなたも我が国に仕事を頼みたいって? 勿論、然るべきルートできっちりとゼニーを払って貰えるならまず問題なくあなたの仕事は受理されるだろう。我が国(ライル)に仕事を頼みたいなら周辺各国にある我が国(ライル)の出先機関に依頼するよりない。我が国(ライル)に直接赴いてエルレヘイの入口を守護するお役目の人達に頼んでもいい。エルレヘイには入れてくれないだろうが、依頼は受け付けてくれるはずだ。但し、報酬は必ず一括で前払い、しかも、ターゲットにもよるがかなり高価だ。

 だから暗殺の仕事なんて滅多にない。一年に数回もあれば良い方だ。国自体あまり大きくはないし、人口だって三千~四千人もいるかどうかだから国内産業だけでほぼ自給自足ができる。だから裏の産業は外貨を稼ぐための中でもあくまでも補助的なものだ。あとは干して乾燥させたきのこ類やそれらから作成される秘薬類を近隣の国に輸出することで外貨を稼いでいる。または傭兵として人を輸出していないこともない。戦闘奴隷とも言うが。

 このように裏の仕事を行っているため、地上の国々ではデュロウ、つまり闇精人族ダークエルフの評判はあまり良くないのではないかと思っている。だが、誰もが暗殺者という訳でもないという事も同時に知られているので、いきなり剣を突きつけられるなどと言う事はまず無いそうだ。何となく、本当に何となくだが、地上の人たちはお人好し過ぎるのではないかとも思う。あまりにも一本気過ぎる。楽天的とでも言ったらいいのだろうか? よくわからないが、不自然な感じが拭えない。

 話が前後して恐縮だが、我が国(ライル)の政治形態はいささか特殊だ。先程も言ったが女王であるリルス陛下の下に十人で構成される元老院がある。この十人の元老は毎年一人ずつ入れ替わる。我が国(ライル)には元老になることのできる家系が二十ほどあり、持ち回りで元老を輩出している。国の決め事は全てこの元老院で決定されている。女王陛下は何百年も姿を現しておらず現人神だと言われている。偶像アイドル? また何かよく判らない言葉が浮かんだ。元老達によると時が満ちた時には、女王陛下は姿を現わされ、我らを導き、地上に打って出て我ら闇精人族ダークエルフの楽園を築くための一大戦争を地上に対して仕掛けるらしい。これは我らの間で王道楽土建設計画と呼ばれている。

 当然だが、我らは女王陛下を現人神として尊崇しているので地上に降りて(正確には登ってだが、エルレヘイの出入り口はキンルゥ山の中腹にしかないので、このように表現されている。実は他にもいくつか秘密の出入り口がないこともないのだが、それは関係ない)仕事をする人以外は命名の儀式なんか行われていない。国内に神社がないからだ。国外に出る必要が発生した時に近隣であるロンベルト王国、カンビット王国、デーバス王国のどれかの街に行って命名の儀式を執り行ってもらう。だから、ステータスオープンで名前が見れる人は基本的には大人か成人に近い年齢の者に限られる。勿論全員じゃない。

 このように命名の儀式を受けられる人たちのうち、まず、戦士階級から紹介しよう。三位戦士階級。これはキンルゥ山周辺の魔物を狩って魔石を得ることが仕事なので外部との接触もあるからだ。当然地下トンネルの拡張工事の際に出くわす魔物を退治することも仕事に含まれる。国内の見回りもある。次いで二位戦士階級。彼らはエルレヘイの出入り口の警護が主な仕事だ。当然外部との接触がある。そして一位戦士階級。たまにある暗殺の仕事を請け負うことが出来ると認定された凄腕たちだ。剣だけでなく、全ての元素魔法を使える必要があるし、場合によっては年単位で目標の人物の傍に潜伏するので地上の人たちとも交流が発生するから当然必要だ。

 次に獲得階級だ。オースでは一般的に商人と呼ばれる職業だ。貴重な外貨を獲得してくるため、戦士より階層が高いとされている。彼らは近隣諸国へと我が国(ライル)の産物を販売して回るのだ。彼らにも命名の儀式は欠かせないだろう。

 あとは元老たちだ。場合によっては近隣諸国へ出向いての政治的な交渉が発生する可能性があるからだ。

 その他、例外的だが、何らかの罪を犯した者が奴隷階級へ落とされる時にも執り行われる。奴隷として自らを販売し、外貨を獲得することによって罪を償う必要があるからだ。一度販売されたらそれによって我が国(ライル)での犯罪歴は抹消される。その後何らかの行動を起こし、奴隷階級から解放されれば晴れて自由の身となる。我が国(ライル)へ戻ってきてもいいし、戻らなくても特に罰せられるようなこともない。因みにデュロウの戦闘奴隷は非常に高く売れるらしい。

 また、数年に一人くらいしかいないが、何らかの理由でエルレヘイを離れ、旅立つ人もいるらしい。そういった人もまず最初に命名の儀式を受けに行くらしい。

 これら以外の我が国(ライル)の大多数を占める奉仕階級の人々は一生命名の儀式を受けることもないままその生涯を終えるのが普通なので、命名の儀式を終えた人は奴隷以外は一定の尊敬を集められる。奉仕階級と言っても奴隷ではない。家畜やきのこの栽培、地下トンネルの拡張に従事している人たち全般をこう呼んでいるだけだ。

 それぞれの人数は三位戦士階級は大体300名強、二位戦士階級は100名程度、一位戦士階級は100名程いる。元老は50名程。獲得階級も50名程。引退者もいるのでこのくらいの人数になる。元老の家系と獲得階級の家系だけは世襲なので別枠になるが、戦士階級だけは奉仕階級の中から選別される。毎年、前年に七歳になった奉仕階級の子供を一箇所に集め、剣の稽古をさせる。大抵の子供は集められる前に家族や近隣に住む戦士階級や元戦士階級の者たちからある程度の剣の手ほどきを受けている。自分の場合は既に亡くなった父親から手ほどきを受けていた。

 そして、同時に魔法の修練が行われる。個人差が大きいが大抵のものは何らかの魔法を使うことができるようになる。中でも八歳までの一年間に元素魔法を全て習得できたひと握りの者だけが一位戦士階級の予備として隔離され、別に用意された専用の教育課程に移される。同じ期間でついに全く魔法が使えなかった者はその時点で解放され、家庭に戻ることになる。両方とも全体のうち一割以下の人数だ。その後も残された八割強の人数で修練は続けられる。だが、更に一年後にまたハードルがある。ここまでに二種類目の元素魔法が使えない者は解放され、奉仕階級として家庭に戻る。ここで八割強残っていた子供たちは半数ほどが脱落する。残った全体の四割くらいの人数で訓練は続く。なお、この時点で四種の元素魔法が使えるようになったものはひとつ下の年齢で隔離された一位戦士階級の予備に編入される。

 少しだけ話の腰を折るが、魔法を使えるようになって初めて魔法というものの便利さを知った。ある程度の物理法則を捻じ曲げられるのはこんなに便利なことなのか。極端な話、絶対に不可能だと思われることも、問題なく出来る。例えば自分で出した水にお茶を混ぜる。そこから再び自分で出した水だけを除去する、等という事がわけなく出来るのだ。魔力さえあれば、もしくは量さえ少なければコーヒーと水を分離すらできるだろう。ん? コーヒーって何だろう?

 話を戻そう。その後、残った者たちで引き続き剣と魔法の修練は続けられる。毎年一位戦士階級への移籍と魔法以外の剣などの修練の度合いが確認され、ここの人数は基本的には減っていく。そして、更に四年後、十三歳を迎える年になると成績の良いものから数名は二位戦士階級見習いとして門番に引き抜かれ、残りのものは三位戦士階級見習いとなって狩りと警護の任務に就くことになる。

 最初に隔離された一位戦士階級の予備集団は引き続き修練するのだが、魔法はともかく、剣などの修練の課程で規定に達しないと見做された場合、二位三位戦士階級の修練集団に戻される。そこでの毎年の見極めで規定に達していない場合は当然、奉仕階級として家庭に戻されることになる。この集団に所属したまま十三歳を迎え、一位戦士階級見習いとして一位戦士階級の下層に所属できるのは毎年多くても三~四人といったところで、少ない年は一人などということも有るらしい。

 そのため、一位戦士階級の者はかなりの尊敬を得ることができる。場合によっては一仕事で白金貨以上の報酬を我が国(ライル)もたらす事もあるのだから当然だろう。国を富ませるために体を張って戦っている者が尊敬されるのは当たり前のことだ。当然それ以上に獲得階級の者たちは尊敬されているが。獲得階級の者たちが外貨獲得のために諸国を行商する際には護衛として必ず一位戦士階級から一人、護衛達の指揮官として随伴し、二位戦士階級からも一人、三位戦士階級から六人が護衛として随行する。商品や売上金を魔物や野盗から守り、同時に我が国(ライル)にとっては貴重な馬車や馬をも守るためには必要なことだと見做されている。危険の多い地域を通る場合には外部の護衛を雇うことすらあると言う。

 あまりにもざっくりとしすぎているが、我が国(ライル)についての説明はこの程度に止めておこう。いずれもう少し詳しく説明が必要になる時が来たらその時に補足するとして、以降は自分自身の話だ。



・・・・・・・・・



 冒頭でも述べたが、自分は他の子供たちと異なり運動能力に恵まれ、更に有難い事に魔法の力にも秀でていたため、一位戦士階級に見習いとして所属を許された。戦士階級の修練には語学もあり、我が国(ライル)で普通に喋られているデュロウ語(デュロウリッシュ)以外にオース一般で通用する言語であるラグダリオス語(コモン・ランゲージ)を学んだ。かなり共通点が多いのだが、イントネーションや細かい人称の違いなどを学び、周辺各国で仕事に従事する際に困ることが無いように教育された。そのため、一人称についても「俺」や「あたい」「おいら」ではなく、「私」「自分」と言うように習った。デュロウ語(デュロウリッシュ)では一人称は性別によって別れていたのだが、ラグダリオス語(コモン・ランゲージ)では「私」か「自分」くらいしかないと教わったので、なんとなく「自分」と言うようになった。特に理由はない。強いて言えば教えてくれた人が「自分」と言っていたからだろうか? 当然ながら二・三人称や語尾、各種表現にも修正の教育を受けた。

 七歳から学び始めた魔法が使えるようになって何ヶ月か経過した頃、神に会った。きっと、リルス陛下ではないかと思う。自分の体もないような真っ白い空間で、よく解らないことを早口に伝えられ、よく判らない景色を見た。見た、と言うより流し込まれた。あのような事が出来るのは現人神であるリルス陛下をおいて他にはあるまい。

 新たに生を受けただとか固有技能だとか成長率が高いとか何だか良く解らないことを次から次へと頭に流し込まれ、混乱の極みに陥りそうになった時、最後に何か質問したいことはあるかと聞かれた。その時にはもうリルス陛下だと確信していたので「陛下」とお呼びしたのだが、頭の中に響いてくる声は「陛下?」と一瞬だけ疑わしそうなニュアンスで言った時、思い当たった。

 この存在はリルス陛下ではない。なぜなら、最初に語りかけてきた時点ですでにデュロウ語(デュロウリッシュ)でもラグダリオス語(コモン・ランゲージ)でもなく、自分が生まれた当初から知っていた言語で語りかけてきたからだ。リルス陛下でなければ一体何者だろうか? と思ったが、それは思うと同時に声になって不思議な空間に流れた。その存在は自分の名前は発音できないからとりあえず「神」とだけ呼んでおくようにと言い、黙った。自分も混乱したまま黙ってしまった。仕方ないのでずっと疑問に思ったまま何の解決もしないで棚上げにしていた固有技能について尋ねた。

 暫くすると目が覚めたのがわかった。目の前にはステータスオープンのような窓が浮かんでいた。そこには

「ある意味でここからがこの世界での人生の本番です。未だこの入口にすら辿りつけていない人もいますが、貴方は既にスタートラインを踏み越えているのです。これから先、何をするのも貴方の自由です。
 また、もう二度と転生はありませんので、後悔だけはしないような人生を送ることを勧めます。また、あなたは深刻な問題を抱えています。時間も足りなかったので完全に払拭する事は出来ませんでしたが、出来るだけのことはしました。その問題を払拭しやすいように幾らかの手助けはしましたが、現時点では特に何も変化を感じられないでしょう。あと1~2年も経てば何かをきっかけにして問題を解決できるかも知れません。何がきっかけになるかは私にもわかりません。いろいろ試してみることをお勧めします。」

 と書いてあった。知らない文字の筈なのになぜ読めたのか不思議でしょうがなかったのが記憶に残っている。

 とにかく、この時に知ったことは自分の人生に大きな衝撃をもたらした。嘘か本当かなど解らないし、調べるような術などあるはずもないが、あのようなことが出来るのはリルス陛下か陛下に匹敵するような存在しかないとしか思えない。

 私は別の世界で生まれ、育ち、事故で死んだそうだ。ここまでは到底納得も受け入れることも出来なかったが、理解は出来る。変な言葉を知っていたし、赤ん坊の頃からやけに大人びた思考が出来たからだ。私と同じような境遇の人間がオースに39人もいるとのことだが、そんなのは調べようもないから嘘でも本当でもどちらでもいい。そして、その全員が人生を一からやり直しているということもまあいい。

 だが、それらが本当ならば記憶と意識の連続性を保っているはずなのに、自分の場合は言語やたまに浮かんでくる妙な知識の記憶はあるが、別の世界で生きていたという記憶はない。意識と言うのが何を指しているか、その定義は不明だが、大人のような思考能力を指しているのであれば、納得出来なくもない。きっとこれが自分の抱えている大きな問題なのだろうと言うことは想像できる。だが、今更、別の世界で生きていたという記憶を取り戻したとしてどうなるというのか?

 また、生まれ変わった人間は成長の度合いがオース一般の人たちよりも大きいそうだが、それが本当なら素直に嬉しいことだし、嘘だったとしても害はない。しかし、自分の運動能力は同年代の他の子供たちを少しだが上回っている感じがする。生まれ落ちてから今まで、なんの成長もしていないなどということは有り得ないから、これは本当の事なのだと受け止められた。

 固有技能についても同様だ。自分は既に固有技能があることを知っている。誰にも、それこそ両親や兄にも話していないが、ステータスオープンくらいはまだ小さな時分に教えて貰ったから知っている。『部隊編成パーティゼーション』と言うのが自分の固有技能だ。赤外線視力インフラビジョン傾斜感知インクリネーションセンシングのように好きに使えるのかと思っていたが、そんな事はなかった。

 使い方を知らなかったし、全く解らなかったので放っておいたのだが、神を自称する存在に教えて貰った事によって理解できた。真に自分の事を理解してくれる人に対して使うそうだ。相手の心の中に、真に自分の事を理解しよう、とか、自分の事が心配だ、という意識がありさえすればいいらしい。その上で相手の意識を自分に向け、対象となる相手に接触し、自分という存在を受け入れられる必要があるとのことだった。面倒くさい。大体部隊編成出来たからどうだと言うのか?

 そう思って暫く放っておいたが、いつだったか、そう、十一歳位の時、初めて使ってみたことがあった。相手は当時既に成人していた兄だ。その当時既に両親は他界していたから、自分のことを心配してくれたり、理解してくれそうな相手は兄しかいなかったのだ。休暇を貰って家に帰った時に心配そうな顔で訓練について質問をうけた時に、ふと気がついて使ってみたのだ。テーブルに載せた兄の手を握りながら「心配はいらない、自分は頑張っている」と伝えながら使ってみた。その時、少しだけ兄は驚いたような顔をしたのが印象的だったが、すぐに微笑んでくれた。

 すると、その後しばらくの間、なんとなくだが、兄の居場所の方向や距離などが朧げに認識できた。一時間もするとそんな奇妙な感覚は消え去り、それを除けば別段変わったことはなかった。神に会ってからの一時期、自分と一緒に缶詰状態で訓練を受けていた仲間に対して同じようなことをしてみた時があったが、こんな感覚になったことは無かった。

 やはりあれは本当のことだった。多分家族である兄は損得抜きで自分のことを心配してくれていたのだろう。それに対して、自分の容姿などが原因で嫌われ者に近い存在だった自分の周囲にいた仲間達は兄ほど自分に対して心を砕くことはなかったから使えなかったのではあるまいか。そう思うといよいよ自分の心は周囲に対して固く閉ざされていくのがわかった。そんなある日、自分の考えを改める出来事があった。

 当たり前のことだが、一位戦士階級の教育課程では教育課程に参加した年度で教育内容が異なっている。当然だんだんと高度な内容になっていく。すると脱落して奉仕階級として家庭に帰るものも出てくる。十三歳になる年に見習いとして配属されるから五年間の教育期間の最終年度になると同い年はもう三~四人しかいない。そこに一人か二人くらい上の年齢の子供が混じる程度が普通だ。残っている同い年の中に毎年の見極めでいつもギリギリの成績で何とか引っかかっている子供がいた。

 ギリギリで引っかかっているとは言え、一位戦士階級の教育課程は非常に厳しいのでそれなりに優秀ではある。いつも頭一つ飛び抜ける形で高成績を修めている嫌われ者の自分とペアで修練をしてくれるものなど誰一人いなかったのだが、この最後の教育課程に進む際にその子といつもペアを組んでいた子が見極めで二位三位戦士階級の教育課程へと戻されてしまった。放り出された子は、いつも自分に対して容姿を元になじってくるような子だったから、自分の心は痛まなかったし、ペアでないとクリアできないような修練でも何とか一人で乗り切れてきたため、自分は気にしていなかった。

 しかし、その、アーウィック・レンサラスという女の子はペアがいないと今後の修練を乗り切ることは難しいだろうと誰もが思っていた。そこで、教授のデンダロッズ先生はアーウィックと自分が新しくペアになるようにと言った。成績が最低であるアールと成績だけは最優秀の自分とをペアにしようとしたのだろう。正直言って自分にとっては今更ペアがいたところで何も益するところはないのだが、教授には教授のお考えというものがあるに違いない。仕方なくアールとペアを組んだ。アールは今までの彼女のパートナーと違って自分の容姿に対して否定的なことを言っていた記憶がないのも大きい。

 なぜだか知らないがアールは自分に良くなついた。家族以外で愛称で呼んでもらった初めての人になった。なんだかこそばゆい気もしたが悪い気はしなかった。ひょっとしたらアールの髪がある程度色素の濃いワインレッドのような色だからだろうか? 自分と同じように醜い髪の色に劣等感を抱いていたのだろうか? 今となってはどうでもいい。

 自分と彼女の距離は次第に近づいていった。わだかまりのない気のおけない友人付き合いが出来るようになるまでそう時間はかからなかった。自分と彼女の間に、自分だけが掘っていた溝はいつしか埋まり、自由に行き来出来るようになった。彼女ならひょっとしたら? 半年近く経った時にいつか兄にしたように『部隊編成パーティゼーション』を使ってみた。兄にしたときと同じような感覚に包まれたことが解った。

 アールはにっこりと微笑んで「なんだかミヅチが身近に感じる」と言ってくれた。ミヅチというのは自分の愛称で、ミヅェーリット・チズマグロルと言う名前を縮めたものだ。自分もアールに微笑んでいた。その後、行われた修練では我々のペアは他のペアを圧倒するような好成績を修めることが出来た。

 いよいよ見習いとして配属を迎える前の、最後の見極めの日もいつも通り『部隊編成パーティゼーション』を使用して好成績で乗り切ることができた。この年、一位戦士階級見習いになれたのは自分とアールのたった二人だけだった。

 配属は当然ながら別れた。残念だったが致し方ない。ただでさえ若く、教育課程を終えたばかりの新人を二人纏めて使うなどということはしない。貴重な一位戦士階級を使い潰すことにも繋がりかねない。当面はそれぞれ先輩とペアを組んで仕事をするのだ。一年後に再度見極めが行われ、見習いの称号が外れるまでは意見など言えるわけもない。

 自分とアールはお互い先輩の女性の一位戦士階級の20代前半の中堅の戦士とペアを組んで仕事を習い始めた。一年後、晴れて見習いの称号が取れた。お互い無事に十四歳になれたことを祝い、初めて酔うほど酒を飲んだ。一位戦士階級は仕事がない間は何をしていても許される。昼間から酒を飲んでいても白い目で見られることはない。

 アールにはすぐに新しい仕事が来た。カンビット王国のある上級貴族からの依頼だった。政敵の暗殺らしい。目標も上級貴族だから屋敷の下調べや行動パターンの情報収集等に多分時間がかかるだろう。アールは初めての単独任務に張り切っている。自分はまだ単独の仕事を割り振られていないので、彼女のことが少しだけ羨ましかった。

 数ヵ月後、自分にも依頼が来た。内容は政敵の暗殺と依頼者自身の護衛だった。依頼者は、アールの目標だった。極稀にこういうことがある。出来れば誰かに代わって欲しかったが、やっと見習いが取れたばかりの自分の初の単独任務だ。それに、病弱な兄のために、常に高価な薬が必要だ。自分には粛々と依頼を遂行するしか出来ることはない。

 自分の護衛対象である上級貴族の家に忍び込んできたアールに剣を突き立てた時の驚いた顔は一生忘れる事は出来ないだろう。彼女は直前まで自分のことを援軍だと思い込んでいたのだ。だが、死ぬ間際に「苦しませてごめん」と謝ってきた。泣きながらアールの依頼者である自身の目標を殺し、自分の依頼者もアールが受けた任務達成のために殺した。我が国(ライル)では依頼者も死ぬのだからどうせばれるはずはないと、アールを見逃すようなことは許されない。代金を払って貰ったからには、可能な限り正確に依頼を遂行するのだ。最初の依頼をすぐに達成できなかったアールの力不足が悪かったとされてお仕舞だ。

 自分の心が再び殻に閉ざされたことを感じた。



・・・・・・・・・



 月日は経ち、いくつかの困難だと思われた任務を遺漏なく遂行した自分の戦士としての評価は高まっていた。だが、常なら結婚相手が殺到してきてもいい立場ではあるが、醜い容姿と、金食い虫と思われている病弱な兄のため、自分に結婚を申し込んでくる酔狂な人は一人も現れることはなかった。とっくに凍りついている心はそんな事を残念に思う感情すら消えていた。

 唯一、我が国(ライル)の非情さに嫌悪感を抱き続けていることだけが自分にまだ感情らしきものが残されている証だが、兄を置いて出奔など出来ない。年々衰弱していく兄だけが僅かに残った自分の心の支えだった。気のいい叔父夫婦が兄の身の回りの世話をしてくれているから自分は安心して金を稼ぐ任務に没頭することができる。叔父夫婦には頭が上がらない。自分の一位戦士階級としての給金や依頼達成の褒賞はどうしても必要な経費を除いて全て兄の薬代に費やされている。叔父夫婦にお礼の金を渡すことも出来ない。

 十六歳の頃だ。あるケチくさい任務を遂行し、疲れた体を引きずってゆっくりとエルレヘイに帰ろうとしていたとき、それは起こった。ロンベルト王国のバルドゥックと言う街にある有名な迷宮の中でのことだ。体力を使い、神経をすり減らして疲れきっていてつい罠を作動させてしまった。直接命に関わるものではないが、どう考えても命に関わるものだ。下の階層へと続く落とし穴に嵌ってしまった。傾斜したヌルヌルと滑る床と壁に抗えず、どんどんと下の層へ落ちていく。

 傾斜感知インクリネーションセンシングなど使うまでもなくわかる傾斜した落とし穴は摩擦係数が低いのだろう。ろくな手がかりもなく、抵抗出来ない自分を深部へと引きずりこんでいった。

 
今まで描写されていた世界と全く異なるので説明多めの内容になっています。
固有名詞など、わかる人だけニヤリとしてください。
なお、次回からまた暫く通常の話に戻ります。
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