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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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幕間 第十二話 相馬明日夏(事故当時21)の場合

 洋ちゃんは私が手作りしたチョコレートをあげたらすごく喜んでくれた。一生懸命に作った甲斐があったというものだ。実はチョコレートを手作りしたのは生まれて初めてだったのだ。高校の時にちょっとだけ付き合った男子がいたが、バレンタイン前に別れてしまったからだ。嫌いじゃなかったけど付き合ってから3ヶ月も経たないうちにキスを迫られたら怖くなってしまった。

 今はそれが普通のことだとは知っている。3ヶ月も経てばそれ以上のことにすら発展することもある。だけど、あの当時の私は世間知らずのネンネだったから、どうしても迫ってくる相手を怖がってしまったのだ。彼には悪いことをしたと思っているが、今となってはどうしようもない。

 なんとか東京の大学に進学し、憧れの一人暮らしが始まった。大学では面白いことが多く、今までとは比較にならないほど時間が経つのが早かった。同じ県出身の洋ちゃんとは大学で出会った。最初は特に意識をすることもなかったが、そのうちに洋ちゃんは私のことが好きなんだろうなと気がついた。学内のカフェテリアで会った時や学内図書館でレポートを書いている時にだけど特にさりげないふうを装って見られていることは知っていたし、帰省すると必ずお土産をくれた。私も地元が近いから知ってるお菓子が多かったけど。だけど、特に意識はしていなかった。

 三年生に進級する直前、洋ちゃんは私に告白してきた。それまで、高校の頃の失恋を引きずっていた私は告白されても誰とも付き合わずにいたのだけど、あんまりにも必死に、どもりながらも一生懸命告白してくる彼を見ていたら、急に「この人と付き合おう」と思えてしまったのだ。何でそんな気持ちになったのか理由はわからないけれど、全く後悔はしていない。

 彼はぱっと見だと普通の人だ。別にイケメンでもないし、格好良くもない。お洒落にだって気を使っているかは怪しいものだ。でも、いつも清潔そうな服装だったし、近づいて見てみれば悪い顔立ちでもない。私にとっては。私は彼の外見に恋をしているわけではないんだから。話は面白いし、私の好きそうな映画をさりげなくチェックしていてくれる。一緒にレポートを書いている時に詰まると相談に乗ってくれる。音楽の趣味も合ったし、お笑い芸人も趣味があった。常に気を使ってくれるところもポイントが高い。

 きっとこのまま結婚するんだろうなと思っていた。二人共都内の会社から目出度く内定をもらえたし。でも、あんなことになるなんて夢にも思っていなかった。あの日は二人で楽しむために出かけたのだ。こんな運命に遭うために出かけたわけじゃない。



・・・・・・・・・



 命名の儀式の時に驚いた。吃驚した。驚愕した。腰を抜かすかと思った。魔法だ。私は今までずっと赤ん坊である立場に甘えてずるずると時間を浪費してきた。生まれ変わって思うところがなかったわけではないが、赤ん坊でもあることだし、別段何かしようともしなかった。

 命名の儀式のあと、オースの情報を集めることに執心した。英語を聞いたからだろうか? いや、違う。英語自体は聞いていたから。ある程度の名詞など、英単語は聞いていた。だが、魔法があること。そしてそれに英語が含まれていることに感動したのだ。

 まだ赤ん坊であるのは確かなので、慌てて喋りだすのも不自然だ。自分の中だけでゆっくりと言葉を覚えるよう、聞き耳をたてて生活した。聞き耳を立てるというのは比喩ではない。私は兎人族バニーマンだから立派な耳を持って生まれているのだ。兎人族バニーマンは普通の人間(オースでは普人族、と言うらしい)とは異なり、本来、耳があるはずの場所よりも少し上の位置から兎のような耳が生えている。通常だと後ろの方にだらんと垂れている感じだが、聞き耳を立てるようなときには斜め上の方にぴんと立つ。丸くて小さいけど尻尾だってある。髪の毛から尻尾までは背中の真ん中あたりにうっすらと毛が生えている。それ以外はどう見ても普通の人間に見えるけど。

 とにかく、Status Openで判明した私の固有技能も試してみたい。だけど、私の固有技能はもう少し大きくならないと試すことすら出来ないと思う。何しろ『射撃感覚』というのだ。射撃と言うからには銃など何かを発射するときに役に立つのだろう。ちなみに、ものを投げつけても何ら変わることはなかった。投射だとか投擲ではないからこれは仕方ないのか。そもそもどうやったら固有技能を使えるのかすらわからない。特殊技能で『超聴覚』というのが同時にあるが、これは耳に神経を集中して周囲の音を聞き分けようと思えばいつでも使うことはできる。

 聞き耳について意識している間は周囲の音が普段よりも良く聞き分けられるようになる感じがする。使っても別段変化はないが、集中し続けるのも楽ではない。上の兄姉がお父さんとお母さんと話しているのを聞く限りではこの『超聴覚』という特殊技能は兎人族に生まれつき備わっている技能で、兎人族なら誰でも好きな時に好きなだけ使えるものらしい。また、魔法の技能とは違って技能にレベルもないそうだ。そうか、レベルがある技能もあるのか。レベルとか今更だけどStatus Openと言い何だかゲームのような世界だ。

 五歳になる前、両親にねだっておもちゃのような小さな小さな弓を作ってもらった。小さな体の私から見てもおもちゃにしか見えない。でも、これで射撃の特殊技能を使えるのではないか。そんな気がしていた。

 小さな木の枝を飛ばしてみる。2mも飛ばない。それに適当に作ってもらった弓だからどこに飛ぶかの予想すら難しい。いくら小さくて非力な体とは言え、思い切り引いたら弓ごと壊れる気もする。木の枝を矢の代わりに弓につがえると『射撃感覚』の技能を意識しながら弦を放した。狙った場所には行かなかった。そして私は眠り込んでしまった。

 その後何度かおもちゃの弓での射撃を繰り返すと、私はこの世界に生まれ変わった原因を理解することが出来た。そう、神に出会ったのだ。5分も無いくらいに短い会見時間だったけど、かなりのことを知ることが出来た。何と言っても洋ちゃんもこの世界に生まれ変わっていることがわかったのだ。そして、ここが地球ではないこともはっきりと解った。『射撃感覚』の技能もこの世界に転生した人達に与えられるものの一つだということも解った。これは秘密にしなければならない。妬まれるかもしれないし。

 ちなみに、他の人に与えられた固有技能には『鑑定』だとか『耐性(毒)』だとか『秤』といったものがあるようだ。そう言えば『予測回避』なんて言うものもあるらしい。私の射撃と対をなすのだろうか? 全部は時間がなくて聞けなかったし、忘れてしまったものも多いが、どう考えても『鑑定』だとか『秤』だとかよりは私の固有技能の方が私の目的に合致している。

 ところで、『射撃感覚』の固有技能だが、何度か繰り返すうちに理解してきた。『射撃感覚』の技能は私の実力を底上げしてくれるものだ。実力が低いうちは底上げしても大したことはないのだ。つまり、『射撃感覚』の技能に頼ることなくある程度の実力が必要なのだ。『射撃感覚』の技能のレベルが高くなれば底上げも大きくなるような気がする。だが、この技能を活かすためには射撃の訓練が必要だ。二ヶ月近く夢中になって固有技能のレベルアップに努め、最高レベルまで上げたが固有技能を使っての稽古はそれからでも遅くはないだろう。

 だって、私はこれで強くなって洋ちゃんを探しに行くのだから。



・・・・・・・・・



 他の人が剣や槍の稽古をしている間、私は弓に没頭して稽古をしていた。勿論、弓だけでなく剣も学んだ。弓は矢が切れたら無力だから。いや、正確には無力ではない。昔、なにかの本で読んだことがある。弓の上の方に槍の穂先を付けた武器もあったらしい。だけど、そのための弓は槍としても使えるようにかなりの強度があったということだ。女の私にそんな強力な弓を引く力はないだろう。だから剣の稽古も必要だと思って最低限のことはしたのだ。剣だけは素振りなら暗くなってからでも出来る。昼間に弓の稽古で時間を取られた分は夜に取り返すしかない。

 そうして十歳になり、十一歳になる。既に村では私より弓を上手に使える狩人はいない。確かに非力な私だとあまり遠くまで矢を飛ばすことは出来ない。木の板で作った的に矢尻が貫通するくらいの威力を出せるのはいいとこ13~14m程度だ。だが、この距離なら私は走りながらでも動かない的なら当てられる。勿論中心を打ち抜くなんて器用な真似は出来ないけど、30cm四方の板のどこかに当てるくらいなら出来る。多分、私が動かずに落ち着いて狙える環境なら動いている的に当てることも出来るだろう。

 腕試しがしたい。村の狩人の狩りについて行きたい。空を飛ぶ鳥や動き回る白毛鹿なんかを撃ってみたい。だが、両親は危険だと言って狩りに行くことを許してはくれなかった。不満に思ったが、確かに私はまだ子供だ。森には獲物だけでなく危険な魔物だってうろついている。まだ私には早いというのは頷ける。

 仕方ないので今まで封印してきた『射撃感覚』の技能の稽古でもするしかないだろう。昔少しだけ夢中になってやった記憶を掘り起こしながらやってみる。固有技能のレベルはMaxの9でその後は何年も使わないで稽古をしてきたのだ。だが、心配はいらなかった。思った通りの感覚で『射撃感覚』の固有技能は使えた。昏倒するまでに60射あまりの矢を放つことが出来る。流石に的の真ん中を射抜くことはまぐれでもない限り無理だが、30cm四方の的を5cm四方くらいの木切れにしても同じように百発百中で当てることができた。

 確かにこの固有技能は私の腕を底上げしてくれることがわかった。今後は弓の稽古の時に固有技能も一緒に稽古してみよう。既に『射撃感覚』はとっくの昔に最高レベルに到達しているが、眠くならない範囲で練習することは無駄ではないと思う。

 十三歳が過ぎた頃、大きな悩みが出来た。体が成長するにつれ、胸も大きくなってきたのだ。まだ十三歳だというのに既に前世の私の胸より大きい気がする。これは兎人族バニーマンの女性に多い特徴らしい。そう言えばお母さんも形のいい巨乳だ。

 だが、この胸が弓を引く弦の邪魔をする。下手すると右手から放された弦が右の胸に当たるのだ。ああ、そう言えば前世の弓道では胸に革製だかプラスチック製だか知らないがプロテクターのような胸当てを当てていた。あれにはこんな意味があったのか。同時にこれもまた前世で読んだ本を思い出す。アマゾネスと呼ばれた女性中心の戦士団の弓兵は右の乳房を切り落としていた人もいたらしい。

 どうしよう……。まだ私の胸は大きくなりそうだ。今みたいにさらしのようなもので誤魔化すのもお母さんやお姉ちゃんを見る限りいずれ限界が来るだろう。胸当てを作ってもすぐにサイズが合わなくなりそうだ。だけど、片胸を切り落とす勇気も出ない。だけど、このままだと弓が使いづらい。だけど……。

 結局勇気が出せないまま胸当てを作った。軟らかいが丈夫な革で右胸を保護するような形にしてある。サイズが合わなくなったら無駄なお金を使うことになっちゃうけどまた作るしかない。でも、本当にこれでいいのだろうか? 私は私を騙している。弓が使いづらいということは私の戦闘力が落ちるということだ。洋ちゃんに会えないまま死んでしまうかもしれないということだ。それでは本末転倒ではないのか? でも、どうしても勇気が出なかった。痛いのは多分我慢出来る。村の治癒師に頼めばすぐに治療してくれるだろうから死にはすまいということもわかっている。

 本当に怖いのは……片胸になったら洋ちゃんに嫌われてしまうかもしれないと言う事だ。片胸になったら洋ちゃんが悲しむかもしれないと言う事だ。いや、きっと洋ちゃんなら気にしないと言ってくれるだろう。でも、私は嫌なのだ。だって、双子が生まれたら困っちゃう。



・・・・・・・・・



 遂に私は十四歳になった。

 予てから両親には冒険者になると言っている。両親も特に反対はしなかった。古くからある村の領主であるお父さんは去年、お祖父ちゃんから準男爵の爵位を受け継いで授爵した。この地方の領主であるストールズ公爵家まで行って授爵したらしい。それまではお祖父ちゃんが準男爵でお父さんは士爵だった。今ではお父さんが準男爵でお兄ちゃんが士爵だ。次女の私は一応准男爵家の人間ではあるけれど、家督の相続権なんか下から数えたほうが早いくらいだし、家を継ぐつもりなんか最初からない。

 私にはやらなければならないことがあるから。

 どうしても私にはやらなければならないことがあるから。

 家に縛られるわけにはいかないのだ。

 神様によると私は転生してきた人たちの中では南東の方らしい。と、すると当面は北西の方、つまり、隣国であるロンベルト王国を目指すべきだろう。根拠はある。洋ちゃんについては転生した場所も、名前すらも判らないが、絶対に私を探そうとしてくれるはずだ。あの人のことだからそれなりに急いで探しに来てくれるだろう。だけど、私が洋ちゃんの居場所や名前がわからないのと同様に彼も私についての情報はわからないだろう。それに、このオースの世界だと力をつけないうちに旅をするのは危険だ。だから、早くても彼が成人(この世界での成人は十五歳だ)するくらいに出発するだろうと思う。

 彼の固有技能によっては身を守ることが難しいかも知れない。だから、体が成長する成人くらいまではじっと我慢しているだろう。それに、当てずっぽうにうろついてもそう簡単に会えるわけがない。普通、冒険者と言ったらあちこちで便利屋さんのように仕事の依頼を受けて、その依頼を達成することによって礼金が貰える。道中お金も必要になるはずだ。お大尽の家に生まれたのでもない限りは必ずどこかでお金を稼ぐ必要がある。

 お父さんとお母さんには冒険者が一番お金を稼げる所はどこか聞いている。生まれ育ったデーバス王国にもあるが、それは迷宮だそうだ。しかし、デーバスの迷宮はもっとずっと南にあるとのことだ。と、すると事故の犠牲者が生まれ変わった範囲の南東の方の私のいるラーライル村よりずっと南にあると言うベンケリシュの迷宮は範囲外ということになる。

 ロンベルト王国にあるという迷宮はバルドゥックと言ってここからだと北西の方角らしい。距離まではよくはわからないらしいけど、こっちが正解だろう。今のうちにバルドゥックを目指そう。そして、必ず来るであろう洋ちゃんを待とう。

 十四歳の誕生日を迎えた翌日、私は故郷を後にした。

 私が頼むのは弓とひと振りの剣、そしてこの腕だけだ。餞別に丈夫に縫製のしてある服と幾許かのお金を貰い、身の回りの品だけを持った私、兎人族バニーマンの戦士、ベルナデット・コーロイルは、愛しい人との距離を縮める最初の一歩を踏み出した。



・・・・・・・・・



 村を出て何日も経った頃、国境を越え、ロンベルト王国に入った。国境には関所のようなものがあるかと勝手に想像していたが、両親から聞いていた通り、関所のようなものは影も形もなかった。もっと西のダート平原では国境を巡って争っていると聞いていたので、警戒されている可能性も高いと思い込んでいたから多少の回り道も仕方ないと思っていたし、目をつけられないように注意深く用心も怠っていなかったのだが、拍子抜けした。

 確かに、考えてみれば国境線を全部警戒するなんて無茶苦茶な話だ。それに、兎人族バニーマンの私には丈夫な両足があるから、道のない山の中だって多少苦労する程度で歩くことはできる。生まれた時から裸足で過ごしてきたから靴も必要ない。あれば嬉しいが。 

 二日前に訪れたデーバス王国側の村で聞いた話だと、国境なんていい加減なもので、この村の北にロンベルトの村があるのだが、その間の山脈がだいたいの国境線になっているらしい。だから尾根を超えたここはもうロンベルト王国なのだ。山脈と言っても一番高いと思われるところでせいぜい1000mもあるかどうかのものだ。高尾山に毛が生えたくらいだろうとチャレンジして良かった。

 用意してきた保存食もあと一週間くらいは充分に持つから問題なく眼下に見える村に着くことができるだろう。いや、用心はし過ぎて困ることはあまりないから、一つ先の村を目指してみようか。どうせ傍まで行けば街道もあるだろうし……。

 しかし、30本も用意してきた矢はもう残りが10本程しかない。いつもいつも回収できるとは限らなかったし。これからだってそうだろう。そろそろどこかで補給しないと厳しいだろう。あの村の狩人の家で補給してから行ったほうがいいだろうか? それとも用心を重ねて次の村か街まで引っ張った方がいいだろうか?

 迷ったが、結局次の村まで無補給で行くことにした。



・・・・・・・・・



7442年5月1日

 ラーライル村を出てから二ヵ月半、休みなく歩き続け、やっとバルドゥックの街に着いた。ロンベルト王国に入ってから心なしか魔物との遭遇も減ったため、相当距離を稼げた日もあったから、これだけ早く着けたのだろう。とにかく、私はこの街に腰を据えて冒険者として洋ちゃんを待つのだ。

 洋ちゃんが私を見つけてくれるまで何年でも待とう。お金はまだ100万Z近く残っている。とりあえず、安い宿を取り、久しぶりにお湯を買い、体を拭いた。さっぱりしたらお腹も空いてきたので、ちょっと出かけてみよう。このあたりだとデーバスより美味しいものがあるかも知れない。宿に入る途中で通り過ぎたいくつかの屋台を思い浮かべながら、また外出のために汚れた服を着る。いい加減着替えも欲しいな。


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