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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第十三話 新たなる出会い1

7442年4月30日

 両親と一緒にキールに来たのが4月12日の夕方。途中何日かドーリットまで行ったが僅か3週間で俺はキールを後にする。昨日はあれから刑の執行を見て、行政府の冒険者の依頼掲示板の係の所まで行き、剣の代金と割符を渡すと報酬の100000Zを受け取りビンス亭まで帰った。掲示板まで行った際に何か出来そうな依頼がないか確かめてみたが特になかったので、ひと晩休んだ俺は今出発の準備中だ。

 荷物を纏め、それらを馬のサドルバッグに収納していく。結局剣の鞘は作らなかった。これから行く先で新たに作ればいいだろう。どうせ道中は銃剣状にしているから剣の鞘はなくても全く問題がない。むしろあれば邪魔にしかならないしな。

 クローとマリーは結局騎士団に入団することを決めた。クローは自前の剣と、安物ではあるが一応ちゃんと使用に耐え得る革鎧を持っていたが、マリーについてはそういった戦闘用の装備はない。鎧は別にしても剣は必ず必要になる。購入資金について少しだけ心配だったが、両親が蓄えから出すそうだから問題はないだろう。え? 金持ってるんだから俺が出せって? なんでさ。いくらなんでもそこまでは面倒見切れねぇよ。

 そもそも騎士団に入団出来るということは今後の働き口については全く心配が必要ないくらいエリートになれるということなのだ。マリーの両親に否やがあろうはずもない。正式に騎士として叙任を受ければ平民になれるし、良い事尽くめなのは間違いない。無料で住む所や食事も出してくれ、教育までしてくれる。おまけに給料まで貰えるのだ。こんな素晴らしい環境を、褒賞をふいにしてまで整えてやったんだ。これ以上俺にしてやれることはない。

 それを理解しているのだろう、二人は今朝早くから俺の見送りに来てくれた。別に荷造りなどを手伝って貰うほどものすごく沢山の荷物があるわけじゃないから本当に見送りに来てくれただけなんだけどね。彼らも明日、月の変わりと共にウェブドス騎士団へ正式に従士として入団する。荷物をまとめ、馬の鞍に敷いたゴムクッションに尻を乗せた俺をクローが見上げて言う。

「アル……その……いろいろと本当にありがとう。俺は……頑張るよ。折角貰ったチャンスだ。必ずものにしてみせる。この恩は忘れない。絶対に恩返しするよ……すぐには力になれそうにないけど、必ずこの恩は返す。『ありがとうございました!』」

 そう言ってクローは深々と頭を下げた。クローは昨日で勤めていた商会を辞め、宿も今日で引き払うらしい。マリーはクローの横で俺を見上げて言う。

「アル、私もクローと同じ気持ち。私は剣も知らないし、それこそ喧嘩すらしたことはないけど、ここ(オース)で生きて行くなら必要なことだとは知っていたわ。今までそんなこと認めたくなかっただけだった……貴方には本当にお世話になったわ……。これを期に私も食らいついてみせる! 必ず恩を返すわ。ありがとう、いいえ、『ありがとうございました』」

 そう言ってクローに続いてマリーも深々と頭を下げた。俺は彼ら二人を馬の背から見下ろすと、

「まぁ、そう気にすんな。俺にしてやれるのはここまでだ。あとはお前たちがどれだけ頑張れるかにかかってることだしな。勉強は日本でやってたことと比べるとそれほどでもないが、剣や馬の稽古はかなり厳しいらしいから途中でへこたれないようにな。ま、辛抱強くな……じゃあ、俺は行くよ」

 そう言って手綱を引こうとしたが、一つ追加で言っておかなければならないことを思い出した。

「一つ言い忘れた。だいたい3~4年くらいで一度様子を見に戻るつもりだ。5年以上俺が姿を見せなかった時には……俺は死んだと思ってあとは好きにしろ。あと……そうだな、マリーにこれをやろう。妊娠したら騎士団を追い出されるからな、注意しろよ」

 ゴム袋を放り投げ俺は手綱を引くと馬の腹を蹴った。よく訓練された軍馬はだく足(トロット)に移行し、北東に伸びる街道を目指して馬を進めた。後ろは振り返らなかった。だって、どんな顔してるか想像つくしな。



・・・・・・・・・



 キールの市街を抜け、人家もまばらになった。一面に畑が広がる牧歌的な風景の街道を歩んでいく。道とそれに並行して流れる川の両脇に広がる畑はよく耕されているようで、畝がきっちりと平行に伸びている。やはり馬や牛を農耕に活用しているようで、農作業は効率的且つシステマティックになりつつあるようだ。ところどころに牛馬に犂を曳かせている姿が見える。

 この街道の先には、ルード、ホルグ、という二つの村があり、その先にキルグという街がある。キルグを抜けるとウェブドス侯爵領からペンライド子爵領に入る。キルグの街まで約65km。頑張れば今晩中に到着できるだろうがそこまで急いでも仕方ない。今日はホルグ村で宿が空いていれば宿を取り、空いていなければ領主に断って空き地ででも野営するつもりだ。

 しかし、あれだね。この馬ってやつは慣れれば本当に面白いな。微妙な手綱の操作で本当に以心伝心かのように行きたい方向が伝わるんだ。今は道のど真ん中を歩いているが、左側や右側に寄りたいと思って微妙に手綱を引くだけですぐに思う方向に思うだけの量で動いてくれる。

 街道は川沿いに伸びているので途中での小休止の際に馬に飲ませる水に心配はいらない。尤も俺の場合は魔法でも水を出せるからあまり心配しなくてもいいんだけどね。川のせせらぎを聞きながらのんびりと馬を歩ませていた。多分昼にはルードを通り過ぎることができるだろう。

 畑を通り過ぎ、潅木が茂る中を進んでいく。遠くを鳥が飛んでいる。まだキールに近いこのあたりでは魔物、いやモンスターを警戒する必要はない。クローに教えてもらったが、地球にもいた動物類などは獣、それ以外のオース産のものを魔物と大きく区別しているようだ。こちらに攻撃してくるようなものはまず魔物と思っていい。

 アフリカやインド、中国の山奥みたいなところならライオンや豹、虎などの危険な獣がいそうなものだが、このあたりはそうした大型の肉食の獣がいるなんて聞いたことはない。危険があるとすれば魔物の方だ。その魔物についてもキール周辺ではまず見かけないそうだし、被害なんかもたまーに微々たるくらいなものらしいのでルードあたりまでは昼寝をしながらでも行ける。

 そう思ってうとうとしているうちに昼頃になり、ルードに着いた。ルードから先はバークッド程ではないが魔物、いやさ、モンスターの被害もあるらしいから警戒を怠るわけにはいかない。この村で腹ごしらえだ。保存食も用意してあるが、ちゃんとした物は食えるときに食っておいたほうがいいだろう。村の中ほどに飯屋があったのでそこに入って食事にすることにした。

 キールと王都であるロンベルティアとの間にはウェブドス商会が定期的な商隊を往復させているし、ペンライド子爵領とも交易があるから飯屋の需要もあるだろうし、だいたい、キールとどこか別の領地を行き来するにはこの街道を使うしかないから当分人家のあるところでなら飯に困ることはあるまい。菜っ葉の入った麦の玉子粥とプロシュートみたいな燻製していないポークハムを挟んだ黒パンのサンドイッチで昼食を済ますと、歯に挟まった菜っ葉をほじくりながらまた馬上の人となり、ルードの村を後にした。

 今日目指すはホルグだ。ここからホルグまでは約20km。この20kmはバークッドから隣村のバーデットまでの20kmと思って警戒しながら進んだほうがいい。鞍の後ろに結わえてある銃剣を再度確認し、再び周りに注意を払いながら馬を進める。とりあえず街道の右側を流れている川の方は注意しなくてもいいだろう。左の方へ警戒の視線をやりながらも相変わらずのんびりとした速度で街道を進んでゆく。

 特にモンスターの襲撃を受けることなく夕方前にホルグ村に到着した。問題なく宿を取り、豚のステーキとオートミールの晩飯を食って早々に就寝した。



・・・・・・・・・



7442年5月11日

 このように、都市近郊では気を抜いて、郊外では気を引き締めつつ、2週間(12日)程が経った。今俺がいるのはペンライド子爵領を抜け王直轄領に入って数百Kmの街道の上だ。目指す王都近郊の街、バルドゥックまでは多分あと10日もかからないだろう。で、なんでこんな事を言いながらぼけーっとしているかと言うと、ここからおよそ500m程先に人が二人、俺と同じ方向に歩いているのを見つけたのだ。

 遠くてまだ性別もよくわからないが、なんとなく子供のように見える。一人は体つきからして男だろう。がっしりしている感じがしないでもないので子供のように見えるが、山人族ドワーフかも知れない。もう一人は相方と比べ、細い感じがする。子供か、女か。多分このままの速度で歩いていくと20分くらいで数10m位の距離に近づくだろう。

 ここまでの道のりでホブゴブリンやゴブリンの集団に襲われたことはあったが、野盗には会わなかった。どちらにしろまだ時刻は昼前で、追い抜かなくてはならないのだ。せいぜい用心しながらさっさと追い抜いてしまったほうがいいだろう。馬を走らせて抜こうとも思ったが、襲撃と勘違いされても嫌なのでそのまま進むことにした。

 銃剣を肩にかけ直し、馬を歩かせた。ここからもう暫く進むと街道は今まで両脇が潅木だったのが、広葉樹を中心とした森になるようだ。出来れば森に入る前に抜きたかったな。意外と歩くのが速いな。相当歩き慣れている感じだ。結局25分くらい進み、森の中に入ってしまった。昨晩俺と同じ村に宿泊していたのであれば俺よりも相当早く出発したか、別の道を来たのだろう。いくつかこの街道に合流してきた道もあったからな。

 先行する二人は途中で一度だけこちらを振り返った。男と女のようだ。男は予想通りドワーフで、がっしりとはしているが、やはり背は低い。女の方と同じくらいに見える。150cmあるかどうかといった感じだ。体格から女はドワーフではなく、普人族か精人族エルフだろう。髪が背中の真ん中くらいまであって縛っていないようなので耳が見えなかったのだ。

 女の髪は黒髪だった。だが、黒髪自体は少数だがいないことはない。あ、そうそう、もう滅多に髪を染めたりしているような人がいないことは知ってるぜ。ピンクだの緑だの青だの信じられないような髪の色は本当に一般的だったのさ。ちなみにドワーフの男のほうは薄いピンク色の髪だ。

 二人は大型のリュックサックのようなものを背負っている。行商人かも知れないな。腰には剣ではなくどうやら斧を下げているようだ。大型の鉈かもしれないけれど、あの形は斧だろう。多分片手でも使えるサイズの手斧だ。と、するとあの斧は茂み(ブッシュ)を切り分けるときにでも使うのだろうか。

 先ほどかなり急なカーブを曲がってまたまっすぐ伸びる道になっていた。一度は視界から消えた彼らだったが、また荷物を背負った背中が見えた。彼らに追いつくまであと100mもない。彼らは同じペースで歩き続けている。うーん。これだけ歩く速度が速ければ今日の夕方前に到着する予定の村で一緒になるかも知れないなぁ。そう思った矢先の出来事だった。森の中から数本の木製の投げ槍(ジャベリン)が飛んできたのだ。ああ、俺にじゃない、先行している二人組に対してだ。投げ槍は運良く二人のどちらにも当たらなかった様だ。

 待て待て、のんびりと解説してる場合じゃない。何者かの襲撃だ! 巻き込まれたらたまらないが、生憎今移動中の街道は一本道だ。襲撃者は俺のことを認識しているだろうか? 認識していないのなら引き返す手もあるが、それでは夜になるまでに次の村にたどり着けない可能性がある。認識しているなら今更引き返したところであまり意味はない。馬を走らせてしまえばそうそう追いつかれることもないだろうが、どっちにしろ次の村まではこの道を使うしかないのだ。

 出直してきても今回みたいに待ち伏せされたら結局一緒だ。ここで彼らに助太刀するか、馬を走らせて一気に抜き去った方がいいか……。助太刀するかどうかはもっと近くまで行って襲撃してきた相手を見て決めよう。俺は一瞬で判断を下すと肩にかけていた銃剣を下ろし、どちらに転んでもいいように、少し馬の速度を上げた。

「ゼノム、右よ!」

「おう、ラルファ、お前は俺の後ろを守れ!」

 二人の叫び声が聞こえた。

 
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