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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第十二話 人生の岐路

7442年4月29日

 すっきりとしたいい目覚めだった。昨晩の酒も残っていない。ふと気がつくと日は既に登っており、今は多分朝8時から9時くらいだろう。これだけ寝坊すればいい目覚めなのは当たり前だ。腹が減っているが、トレーニングが先だ。今日は昼から行政府前でイベントもあるしな。少し早めに行って行政府の傍の飯屋で何か食えばいいだろう。

 ゴムプロテクターを身に付け、ランニングに出かける。キールの街は既に活動を始めて何時間か経っているはずだが、道を行き交う人の数は夜間にも劣るようで人影は少なかった。人口が万を超える街なはずなのにこんなに人が少ないのはどうしたわけだろう。そんなことを思いながらいつも通り出来るだけ邪魔にならないように裏通りを走る。街の外まで行ったらまた折り返して別の道を選んで走った。

 汗が吹き出て目に流れ込もうとするのを首にかけた手拭いで拭き取りながら走り続けた。そろそろ1時間になろうとしている。あと半分だ。ここからがランニングの本番だ。頑張れ俺。自分を励ましながら体を虐める。つい先日まで馬でドーリットに行っていて一週間近くもランニングをサボっていたから体がなまっているかと思っていたがそんな事はないようだ。うーむ、14歳の体ってすっごいな。毎朝超元気だし。なんたって親指の角度だぜ。へそにつくんじゃね?

 もうひと頑張りしようとキールの町外れを目指して走っていたとき、前から人馬の集団が近づいてきたのに気がついた。なんだろう? と思ったがあれはウェブドスの騎士団以外にあるわけがない。大方町の外で訓練でもしていたのだろう。邪魔にならないように道の端に避け、正式な騎士団の集団の行進を眺めていた。騎乗した騎士が20人弱、多分従士なのだろう徒歩で騎士に付き従っている集団は何十人もいるようだ。

 すげー、かっけーな。全員鎧を着て槍や剣で武装している。俺はこんなに沢山の騎士や従士が整然と行進している姿を見たのは生まれて初めてだったので興奮して眺めていた。きっと目をキラキラと輝かせているだろう。

 先頭に立っているのはセンドーヘル団長だろうか?

 面頬付きの兜を被っているので顔がよく見えない。うーん、自衛隊のパレードなんかとはまた違う迫力があるな。鎧は全員まちまちで装備も規格品で統一されているわけではないが、これは格好いい。戦国時代の騎馬武者の行進もこんな感じだったのではあるまいか。

 勇壮な行進が近づいてくるのをぽけーっと眺めていたら、俺の前に差し掛かったところで先頭の騎士が左手を上げた。するとすぐ後ろに付き従っていた騎士が「全体、止まれ!」と号令を掛けた。なんだなんだ?

 先頭の騎士は兜の面頬を上げると俺に声をかけてきた。

「やあ、アレイン君。早速お手柄だったようだね。昨晩の件は報告を受けたよ。流石はファーンの弟だ。よくやってくれた」

 やはりセンドーヘル団長だった。

「いえ、私は大したことはしておりません、むしろ昨晩の件は指揮官であるゴーフル卿の果断なご判断と配下の騎士、従士の方々の迅速なご対応が功を奏したのだと存じます。私など僅かながらご判断の材料を提供したに過ぎません」

 俺は兄に習った通り跪きながら神妙に答えた。

「ふっ、アレイン君、謙遜も度が過ぎると嫌味になるぞ。報告は聞いているし、昨晩からこっち彼らは全員取り調べで騎士団本部に詰めている。罪状の報告については今朝早くに父上の元に報告が行っている。その際に君のことについても報告されている。何しろ、報告は私がしたのだからね。これから本部に戻り次第、君の逗留している宿に使いを出そうとしていたところだったのだが、丁度いい。今日の昼に行政府前で領民に対してべグル一味の処分が申し渡される。その場に来なさい。いいね」

 センドーヘル団長はにやっと笑いながらそう言った。

「はい、お申し付けの通り今日の昼、行政府前に参上いたします」

「うん、それはそうと、君は何をしているんだ? 鎧を着たまま走っていたようだが……」

 あ、手拭いを首にかけたままだった。俺は恥ずかしさのあまり真っ赤になりながら慌てて手拭いを取り、懐にしまいながら言うしかなかった。

「あ、あの、体を鍛えるために走っておりました。村で兄と毎日走っていたもので……その……あの……」

「ほう、走ると体が鍛えられるのかね?」

 もう、なんでそんなに食いついてくるかな。流してくれよ。

「は、長時間戦闘になっても息が上がりにくくなるので多少は鍛えられるかと……金もかかりませんし……」

「はっはっはっ。確かに金はかからんな。くっ、ふふふ。だが、いい考えだな。それに、村を出ても兄とともに行っていた鍛錬を続けているのも気に入った!」

 センドーヘル団長はそう言うと面頬を降ろしてまた左手を挙げ、馬の手綱を握った。「全体、進め!」と号令がかかりまた整然と行進が始まった。俺は道の端に避けて騎士団が通り過ぎるまでぼうっと眺めていた。



・・・・・・・・・



 残ったランニングを終えてビンス亭に戻ると11時を過ぎていた。裏の井戸で軽くシャワーを浴び、剣鞘がないので銃剣に組み立ててから先端に鞘をはめてそれを肩に掛けて行政府を目指した。時間もないので途中で串焼きでも買って食いながら行こうとしたが串焼き屋は休業だった。そればかりか結構店仕舞いをしているようだ。ひょっとして見物に行くのだろうか?

 思った通り、行政府前は既に人でごった返していた。何か祭りかな? と思ったが、日本でもヨーロッパでも罪人の刑の執行はいい見世物だったと思い出す。なるほど、祭りでもあったか。裏通りに殆ど人影がなかった理由はこれか。屋台も出ているようだ。

 良かった。もう腹が減って困ってたんだよ。焼き鳥を何本か買うとガツガツと食った。うめぇ。塩だけのシンプルな味付けだが、空きっ腹には何食っても旨い。ああ、醤油があればタレ焼き食えるのにな。俺は焼き鳥はタレ派なのだ。塩も嫌いじゃないけど、タレは店ごとに特徴があって気に入った店を探すのが好きだった。そういや椎名も焼き鳥はタレが好きだと言ってたっけ。

 ふと前世のことを思い出してしまったが、今は目の前の焼き鳥を貪る方が重要事項だ。皮のついたアツアツの身を食いながら、そう言えば何でオースの焼き鳥は部位ごとに別メニューにならないのか不思議に思っていた。串焼きのメニューは豚はロースだのバラだのヒレだの部位ごとにメニューがあるのに鶏だけは焼き鳥一本しかメニューがない。全部一口サイズに切っただけのぶつ切りを串に刺して焼いているだけの「焼き鳥」しかないのだ。許せん。俺はぼんちりが好きなのだ。

 どうでもいいことを考えながらぶらぶらと前の方を目指して歩いていく。行政府前の広場は400mトラック位の広さはあるから人でごった返していると言っても通勤時の山手線みたいにギュウギュウなわけじゃない。昼の新宿駅くらいだから誰にもぶつかることなく好きな場所に行くくらいは問題ない。人出は多分1万人くらいじゃないだろうか。

 そうやって焼き鳥を食い終わり最前列に入り込むと地面に座った。ロープで簡易的な柵が作られているからこれより前には出るなということだろう。目の前には高さ3m程の舞台がある。そう大きなものでは無いが、ウェブドス侯爵が演説でもするのであれば充分な高さだ。ここに来る間に周りを見回したがマリーもクローも見かけることはなかった。まぁ仕方ないさ。



・・・・・・・・・



 食い終わった焼き鳥の串を一本残してそれを爪楊枝がわりに咥えてぼーっと待っていたら、柵になっているロープを見回っていた騎士団の下っ端達がキョロキョロと人々の顔を見て回っているようだ。誰かを探しているのだろうか。と、すぐに下っ端たちが俺の方に寄ってきた。

「あのぅ、アレイン・グリード様でしょうか? バークッドご出身の」

 え? 探してたのって俺かよ。俺が頷くとこっちに来てくれと言う。何でもセンドーヘル団長がお呼びだそうだ。しかし、よく俺の顔がわかったな、と思ったがプロテクターをつけているからバークッドの人間ではないだろうかとアタリをつけたらしい。なるほどね。

 下っ端に案内されて行政府に入るとメインホールに団長と侯爵がいた。二人は何か話をしていたようだが、俺が案内されて来たのを目にするとこっちに来いと手招いてくれた。ここまで案内してくれた下っ端に銃剣とナイフを預け、俺が傍まで行くと侯爵が

「君とはシャーニの結婚式で会ったのだったね。シャーニには良い夫ばかりでなく有能な義弟が出来たことは喜ばしい。今は冒険者をやっているそうだね。この分なら将来はバルドゥックを制覇するかも知れんなぁ。はっはっはっ」

 と言って呵呵と笑った。バルドゥックというのは王都ロンベルティアの近傍にある地下迷宮だ。俺も制覇はともかくそこへの挑戦を当面の目標にしている。別に隠していないので誰かから聞いたのだろう。

「父上、それより褒賞ですが、如何いたしましょう? 私は今回の件については金には代えられない手柄だと考えておりますが……何しろ間者を挙げられただけでなく、近年の頭痛の種であったべグル一派をことごとく捕らえられたのですから」

 お、何事かと思ったら何かくれる相談かよ。うっしっし。自然と顔が綻びそうになるのを鉄の意志で捻じ曲げて神妙な顔つきを保つ。

「おお、そうだった。しかし、金子が良いのではないか? 何か入り用な物を購入できようしな」

 うんうん、金は幾らあっても困らない。金貨の1枚でも貰えれば物凄い黒字だ。2枚なら言う事はないよ。金貨1枚稼ぐのに俺はドーリットまでのお使いを10回もしなきゃならないのだから。もちろん必要経費は自腹だしな。

「うーん、貴族でもあるし馬を与えようとも思ったが、馬は既にファーンがやってるというしなぁ」

 ぬはっ、う、馬ですと。金貨6枚! もう1頭居れば馬車も使える。商売やってもいいかな。同じだけの金貰えるならそれで馬買ってもいいかも……。頭の中で皮算用が始まるが勿論表情には出さない。侯爵はそんな俺を見て口を開いた。

「なにか希望はあるかね? なんでも良い、遠慮せずに申してみよ」

「そうだ、アレイン君。この際好きなことを言ってみていいぞ。大抵のことなら叶えてあげられる」

 むっほっ。ななな、何でも良いんかい。勿論金貨100枚とか却下だろうし、現実的な方がいいか……。馬一頭で牽ける小型の馬車も便利そうだなぁ。ん? ここは……

「では侯爵様。お言葉に甘えまして希望を述べさせていただきます。私の希望は……



・・・・・・・・・



 また広場に戻ってきた。喉が渇いたので屋台でビールでも買おうか。それともそろそろ始まるだろうし、ここは我慢して見物してからにしようか……。

 お、あそこに見えるのはマリー一家とおまけのクローだな。何だ、クローの奴、すっかり家族気取りか? なんちゃって。んなわきゃねー。多分あれからクローも交えて相談していたんだろう。当事者同士だし、もともと常連になっていたくらいだからビンスイルの家族ともそれなりに親しくはあるのだろう。まぁ、まだ向こうは俺の事に気がついていないようだから別の場所に行こう。今彼らと話したいわけじゃないしな。

 しばらくするとロープの見回りをしていた騎士団の下っ端だけでなく、正騎士達も広場にやってきた。今度は正騎士がロープを張っている杭の傍に立つと下っ端連中は群衆の中に入り込み整理のため声をかけ始めた。どうやら前列にいる群衆には座るように指示している。へー、こうして見ると一応は集団に対する鎮圧の訓練なんかもしているんだな。

 俺はビンスイルの家族から30mくらい離れた場所に座り、舞台を見つめた。そろそろ侯爵の登場だろうか? 行政府の両開きの扉が開いた。いままでざわついていた群衆の声がぴたっと止んだ。聞こえてくるのはまだ幼児らしい子供や赤ん坊の泣き声くらいだ。そこまで制御するのは無理だろうから、十分静かであるとは言える。

 扉からセンドーヘル団長と遅れてウェブドス侯爵、あと数人の役人らしき男たちがゆっくりと現れ、舞台の方へと歩いていく。舞台の傍には椅子がいくつか用意されており、そこに全員が腰掛けた。

 すると、また一人扉から男が現れた。50絡みの熟年の犬人族の男性だ。鑑定したい気持ちに駆られたが、戦闘に発展したり、俺に直接的な危害がないような状況での鑑定は出来るだけ止めている。好奇心だけで誰かを鑑定するのは初対面の人間に理由もなくいきなりステータスオープンをするよりひどいと思うからだ。鑑定された方はそれに気づかないというのも理由の一つだ。子供の時分や世間の常識を知らなかった頃ならいざ知らず、目的もなく鑑定するのは止めよう。目的があれば別だけどね。

 男は舞台に上がると大声で喋り始めた。どうやら男はキールの役人の長らしい。行政実務を取り仕切っている、日本の市町村なら助役と言ったところのポジションのようだ。これから法に基づいて刑を言い渡すというようなことを言っている。普段あまり大声を出すことはないのだろう、最後の方では声が枯れていた。

 次に団長が舞台に上がると罪人どもが引き出されてきた。全員昨日のメンバーだ。他に俺が知らない奴も何人かいるし、女も数人いる。合計24人だ。昨日しょっ引かれたのが13人。その他、女が5人で男が6人だ。全員が舞台の前に跪かされている。なお、昨日しょっ引かれた13人は全員両脇から役人なのか騎士団の下っ端なのかに抱えられていた。足が凍傷になっているのだろう。

 ウェブドス侯爵が立ち上がり、助役と交代する形で舞台に登った。一緒に舞台に登った団長の左に立つと大声を張り上げる。さっきの助役より数段堂に入った声量だ。侯爵ともなればこのように群衆に向けてなにか言う機会もあるのだろう。これから罪人の刑を執行するとかなんとか言っている。

 隣の団長は侯爵が喋り終えるのを待って口を開いた。まず一人目。俺の知らない男だ。窃盗らしい。罪を認めるか団長が男に訊いた。男はうなだれたまま首肯した。すると侯爵から鞭打ち5回との刑が言い渡された。

 すぐに刑は執行されるようだ。並べられた罪人の前に引き出され騎士団の下っ端に鞭打たれた。鞭はうなりを上げて上半身を裸に剥かれた男の背中に食い込んでいく。5回目で男は失神したようでぐったりとした。

 こうして刑の執行が執り行われていく。ちんけな窃盗は鞭打ち5回。強姦も5回。詐欺は1回に罰金。強盗は15回。殺人は片足の切り落としだった。でかい斧で足を切り落とされた男は泣き喚いていた。流石に放っておくと死ぬのではないかと思ったが、すぐに魔法で最低限の止血の治療を施されたようだ。止血だけなので痛みは残っているのだろう。いつまでも喚いているのでどこかへ連れて行かれたようだ。

 なお、罪状についてこの場において再度否認した場合、団長は証人を大声で呼んだ。そして証人に証言させると侯爵が証人の言い分と罪人の言い分を聞いて裁きを下した。一つもひっくり返ったものはなかったが、情状酌量で刑が軽くなったものもあった。

 弁護士不在の即決裁判だ。あ、一応被告が弁護士も兼ねているな。検事と裁判官も分かれている。そう考えるとバークッドよりはましなのか? バークッドでは親父が被告以外の全てを兼任していた。恣意的にやろうと思えば何でも出来たはずだ。殺人だの強姦だのと言った犯罪がなかっただけで窃盗くらいはあったし。

 そうして男が6人、女が1人の7人が裁かれた。どうも残っている女4人はべグルのメンバーらしい。騎士団長が最初に言った犯罪は昨晩のものだ。女4人は勿論否認したが男たちは全員首肯した。団長はビンスイル一家とクローを呼び出した。あと、俺も。ビンスイル一家は証人として呼び出されることを知っていたのか、小奇麗な服装だった。クローも心なしかましな感じだ。彼らは俺と顔を合わせると何も言わずに俯いた。仕方ないな、やはりいきなり冒険者は嫌なのか。

 俺たちは団長に言われるまま証言をした。当然昨晩の出来事に女は含まれていないので男たちだけだ。罪状は強請と詐欺。鞭打ち2回と罰金刑だ。証言が終わったら、とりあえず俺たちは横に待機していろと係の騎士だか従士だかに言われたので邪魔にならない端っこに控えることにした。

 刑はまだ執行されず、更に罪状は続くようだ。騎士団長が罪状を言うが、罪はいくつも出てきた。殺人も含まれている。ゲールフという商会の隊商を襲撃した件もあった。どれもこれも昨晩ビンスイルの店で自白させた内容だ。団長はこれらの罪は訴え出られた物ではなく、自白によって得られたものであることを言うと罪人達は全員俯き、中には泣き出す者もいた。

 最終的に刑は罰金で金貨2枚と銀貨25枚に加えて鞭打ちが合計87回と足の切り落としが3本、腕の切り落としが2本という、とてつもないものになった。女だけが鞭打ちが85回だった。うーん、全部やられたら達磨じゃねぇか。あ、女に足は3本もないな。俺だったらいっそ一息に殺せとお願いしているだろう。こんなことやられたら死ぬに決まってるわ。

 しーんと静まり返った広場には罪人のすすり泣く声と赤ん坊の声くらいしか音がなかった。ビンスイル一家もクローも押し黙って団長を見つめている。団長は罪人達を見やると正面を向いて大声で刑の執行を宣言した。だが、あまりに刑が多いので死罪らしい。罰金も払えるわけがない。絞首刑だそうだ。刑はまた一時間後に執り行われるということでそれまでは晒し者にするようだ。

 さて、一段落がついたところで俺はビンスイル一家とクローに向き直った。びくっとした親父さんに言う。

「どうでしょう、お気持ちの整理はつきましたか?」

 すると親父さんではなく、クローが返事をしてきた。

「アル、お前……仲間が欲しいにしても強引過ぎねぇか? 弱みにつけ込むようなこと言いやがって……」

「まぁまぁ、俺はお願いしただけだぞ。断るならそれも仕方ないと思ってる。だいたいお前、昨日の話ちゃんと聞いてたのか? 俺は今日返事をくれと言ったんだ。強制的に俺に付いて来いなんて一言も言ってない。金もいらないとも言ってる」

 全員が意外そうな顔で俺を見つめた。

「え? あ、こ、断ってもいいのか?」

 惚けた様にクローが言った。
 マリーの両親も意外そうな顔で俺を見つめてきた。

「だ、だって、助けたお礼に仲間になれって……あ」

 同じようにマリーが言った。
 俺はマリーに頷きながら言う。

「拒否権無しなんて一言も言ってない。だいたい俺に命令するような権利があるはずないことはわかるだろうに。そもそも、拒否を認めないならじゃあなんで一晩考えろって言うんだよ。嫌ならそれでもいいんだ。マリーは定住して定職があったほうがいいみたいな考えだろうしな。クローは知らんけど、冒険者をやってたことも有るからマリーよりは心理的なハードルは低いと思っているけどね。それより、ちゃんと一晩考えてくれたのか?」

 そこで一度言葉を切ってから威圧的な表情で続けた。

「まさかとは思うけど、本当にまさかとは思うけど、一晩中俺に対する恨み言や愚痴を言い合っていたんじゃねぇだろうな? 今更考えてなか……ちっ」

 全員揃って俯いた。くっそ。悪者か、俺は。助けたお礼に金も要求せず、奢られもせず、仲間になってくれって頼んだだけでどんなひでぇこと言われてたんだ? つい不満が口をついて出そうになったが我慢した。

「あのさ……まぁ、いいや。で、結論は出たのか? 聞かせてくれ」

 お互いに俯きながら顔を見合わせてもじもじしていやがる。もじもじ君の集団かよ。

「どうなんだ? 黙ってたらわかんねぇよ」

 相変わらず全員赤くなって下を向いている。恥かしがっている、ということは考えてなかったな、こりゃ。

「もういい、ちょっと待ってろ」

 俺はそう言うと絞首刑のための絞首台を引き出している団員を横目にセンドーヘル団長を呼びに行った。俺が騎士団長と何か話をしたあとに、騎士団長を伴って帰ってきたのを見て、一斉に目を丸くしている。糞が。

「当然知っているとは思うが、こちらはウェブドス侯爵のご長男で騎士団の団長職にあるセンドーヘル・ウェブドス卿だ。ウェブドス卿、彼らの紹介の必要は無いですね」

「ああ、先ほど私自身が証人として呼び出したからね。紹介の必要はないよ」

 団長は穏やかに言った。

「さて、答えを聞かせてくれ。騎士団長が証人だ。充分過ぎる人選だろ?」

「おいおい、アレイン君。君も人が悪いな。ちゃんと話をしたのかね?」

 ビンスイル一家とクローは少し怯えているようだ。仕方ねぇな。

「今更だが、選択肢を増やす。俺と一緒に来るか、断ってそのままの生活を送るか……もう一つ、ウェブドスの騎士団に入って鍛えて貰うか選べ。騎士団に入った場合にはお前らが正式に騎士になる頃にもう一度来て意思を聞いてやる。その時に俺についてくるか、騎士団を退職して元の生活に戻るか、騎士団を続けるか選ばせてやる。騎士団にいる間は当然給金も出る。従士の間は週に43000Zだそうだ」

 一息にそう言うと俺は彼らを見つめた。全員あっけにとられている。まぁそれは無理ないわな。10秒ほど沈黙が続いた。センドーヘル団長は沈黙に耐え切れないようにくっくっと笑うと言った。

「二人共14歳だってね。14歳なら少し早いが貴族の子弟が騎士団に入団する年齢だ。このアレイン君のお兄さんも14歳でウェブドス騎士団に入団し、2年で正騎士の叙任を受けた。
 尤も、君達は基礎からになるだろうからもう少し時間がかかるだろうけれど、無理ではないと思うよ。
 それから、これは解ってるとは思うけど念の為に言っておく。
 本来騎士団への入団条件は平民以上にのみ許されるものだ。
 そして、一般的には15歳以上の年齢で入団する。
 また、当然ながら入団試験も課される。大したものではないが、あまりに実力の足りないものを入団させても鍛えるのに時間と費用が掛かるからね。
 これらの条件を超えるのに、アレイン君は今回の間者の暴露と犯罪者集団の捕縛の褒賞を全て差し出している。
 こう言ってはなんだが、本来であれば君たち二人は騎士団に入ることは出来なかったろう。これはあくまで今回限りの特別な機会だと思ってくれていい」

 団長はそう言うと一歩下がった。あとは俺に任せるというのだろう。俺はクローとマリーを手招きして呼び寄せると二人の肩を組んで耳元で小声で言う。

『いいか、前にも言ったが転生者は成長率がオースの人たちと違う。昨日の俺を見たろ? もうこんなチャンスは二度とない。一生キールの片隅で何かに怯えながら過ごすか、騎士団で鍛えて貰うか今決めろ。断っても俺は恨んだりしない。お前たちの人生だからな』

 そう早口の小声で日本語で言った。

 二人の目に光が宿った。

 
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