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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第二部 冒険者時代 -少年期~青年期-

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第九話 糸

7442年4月21日

 今日は依頼を受けてちょうど一週間だ。ギリギリまで引っ張ったがもう限界だ。ズーライド金工に行かなくちゃ。ランニングしたあとにシャワーを浴び、ゴムプロテクターのフル装備に銃剣まで担いでズーライド金工に向かった。まともな冒険者がまともに仕事受けるように思われたくて気を使ったのだ。

 ズーライド金工に行き、例の割符のようなものを見せると依頼受付の期限ギリギリではあったが特に嫌味や叱られたりすることもなく、依頼の品である剣を鞘ごと渡してくれた。届け先はキンドー士爵らしい。そうか剣を新調したのか、と思って鑑定してみたが、特にすごいものではなかった。価格も金貨1枚、100万Zだ。標準的なロングソードだな。

 俺は預けられた商品である剣を受け取ると、同時に渡された受領書を懐に入れ、ズーライド金工を後にした。あとはこいつをドーリットのキンドー士爵に届け、代金を受け取ってから受領書に受け取りのしるしを貰って5月11日までに行政府に戻れば依頼達成だ。

 さっさとビンス亭に戻り、荷物を降ろして装備を外すと身軽な格好になり、ビンスイルの店を目指した。昨日はクローが休みで殆ど一日中ビンスイルの店に入り浸っていたろうから邪魔者が顔を出すのも良くないと思って遠慮したのだ。うそ。ハリタイドに拉致されて『ダックルトン』に遅くまで軟禁されていたから行けなかっただけだよ。

 ビンスイルの店に行き、いつもの隅っこのテーブルについて朝食セットを注文する。マリーとだべっていたが、まだ彼女は魔法に未練があるようで、クローにもコツを教わって修行を続けているらしい。

 俺がとやかく言うことじゃないので放っておく事にした。まだ2~3日だしな。目の前に実際に魔法が使えるようになったクローを見せつけられちゃそうそう諦められるもんでもないだろう。また少しコツを教えたり、実演してみせたりしたが、昼の忙しい時間が近づいて来たので退散した。

 もうね『リットン』で遊ぶのは諦めたよ。なんかあそこまで深入りしたら遊べねーわ。俺の好みのタイプとかオーナーであるガマガエルに筒抜けになりそうだし。それに俺がまだ多少の『鞘』の在庫を持っていることを知られたら食いついてきそうな勢いだしな。昨晩もしつこいくらいにあと三ヶ月も待たなくてはいけないのか、とか上得意に顔向けしづらいとかさんざん言われたんだ。

 あ、そうそう、『リットン』だけど、一回のプレイ料金は銀貨三枚。30000Zだった。思っていたよりずっと高い。何せクローの給料が週で40000Zだ。こっから半分近くは人頭税に取られることを勘案するとクローは二週間くらい最低な生活をしたら一回行けるくらいだ。食品以外の購入できる生活用品やら必需品から判断すると額面通り3万円くらいになるが、平均的な農村の可処分所得から逆算すると前世日本だと十数万円くらいの感覚だ。都市部だと多少変わるがそれでも10万円近いイメージだ。無茶苦茶高級店だったわ。気軽に行けるような店じゃねぇ。

 あれで『鞘』一個8000Zとか10000Zとか乗っけられたらそれこそ客が減るんじゃねぇの? 計算すると一日30人くらい客は来るらしいから売上は90万Z、一月だと2700万Z、年間で3億2千万Zくらいの売上になる。従業員の娼婦はどうせ奴隷階級が殆どだろうから売上の殆どはハリタイドの懐だろう。金貨320枚の売り上げから一割税や各種経費を差し引いて三分の二だとしても金貨210枚。毎月今の俺の全財産近くを稼いでいる勘定だ。

 ふとクローの固有技能を思い出す。誘惑か。貴重だなぁ。あいつ、よく我慢できるなぁ。14歳なんて獣と一緒だろうに。精神年齢と肉体年齢は違うから溜まるとさ、その、辛いんですよ、いろいろと。いくらMPが超人並みにあっても欲求を適切に制御出来るだけで無くなるわけじゃないからね。短絡的に欲求を叶えようとしないだけで制御するにも限界だってあるしな。

 極端な話、目の前にご馳走があってもそれを見たまま餓死することは難しい。が、多分俺ならMPのおかげで普通の人より長く耐えられる。同様に眠らないで耐え続けることも出来るだろう。だが、いつかは体の衰弱とともにMPも尽き、誰かが止めたとしても貪り食ったり、眠り込んだりするだろう。意志の力で抑え込むにしても限界はある。それに、耐えられる、というだけで欲求がなくなるわけじゃない。痩せ我慢が出来るというだけだ。

 真面目な話、睡眠欲と食欲についてはMPが0になった時の状態は知っているし、経験もある。死ぬ気で堪えなきゃ抗いがたい程の強い欲求になる。その二つが満足されていて、且つ溜まった状態の時にMPが0になったらどうなるんだろう? 想像するだけで恐ろしい。だからあの、マリーの言う修行法も理にかなってはいる。

 つらつらとこんなアホなことを考えながら『リットン』以外の店に行こうと中央通りから一本だけ外れた道を目指してぶらぶらと歩いていた。そういや少し早いけど昼飯にしてもいい時間だろう。適当に腹ごしらえしてから行くとしますか。

 そう思って『リットン』以外の高級店をと、ビンス亭の丁稚に教えて貰った『ピンク・モンスーン』に行くと、ガマガエルがいた。何でやねん。当然ながら見つかってしまい、鞘について『ピンク・モンスーン』のオーナーに話をさせられた。ハリタイドと違いごく普通の容姿のオーナーは「うちにも卸してくれ」と言って来た。

 仕方ないので少しだけなら、と言うことで『リットン』と同価格で卸すことになってしまった。但し、こちらの店には3ヶ月で400パックだけだ。『リットン』と併せて合計1000パック。ゴムの使用量はサンダル30足分くらいだろうから問題はあるまい。サンダルだと30足で120万Zにしかならないが、鞘なら1000万Zだからいいだろ。

 話してみたところ『ピンク・モンスーン』のオーナーは話のわかるタイプな感じがする。VIP待遇が期待できるかと思ったが「グリード様に店の従業員を充てるなんてとんでもない」とか言ってまた『ダックルトン』で接待を受けた。もういいよ。キールだと業界に顔が売れてきちゃって遊ぶことも無理そうだ。



・・・・・・・・・



7442年4月25日

 一昨日キールを出発した俺は無事にキンドー士爵へ剣を届けることができた。また、バークッドに毎月定期的に隊商を出しているサグレット商会に行き、兄への手紙を託けた。勿論、内容は鞘の納品についての件だ。ついでに、例の連絡員つなぎの所在を尋ねてみた。以前、ここの隊商の護衛でバークッドに来たこともあるからな。

 あれから隊商の護衛でバークッドに来たところを見かけていなかったから予想はしていたが、サグレット商会では今はあいつを雇ってはいないようだ。仕方ない。心当たりを聞くと一軒の酒場を教えてくれた。このドーリットで三軒あるうちの一番安い酒場だそうだ。

 俺は早速その酒場に向かおうとしたが、馬が邪魔なことに気づいた。やっべ、どうしよう。キールのビンス亭のように馬も預かって面倒を見てくれる宿を探したほうがいいな。恥ずかしかったがもう一度サグレット商会に戻り、宿を紹介してもらった。どうもいつもバークッドの隊商が利用しているところらしい。ならば安心だろう。

 宿に入り、馬の世話と部屋を取ると、現金などの貴重品などはまとめてゴム引きのバックパックごとフロントに預け、早速言われた酒場に出かけた。バークッドの関係者だと分かる様にゴムプロテクターは装着したままだ。隊商を護衛する従士達も寝るとき以外はつけっぱなしだったらしいから別にいいだろう。

 言われた酒場はすぐに見つかった。ドーリットはキールほど大きくないし、都市という程に道もごみごみと入り組んでいないしな。多少混み合って大きくしたバークッド村みたいなもんだし。迷いたくても迷えない。だいたい、バークッド同様に二階建て以上の建物なんか領主であるキンドー士爵の屋敷のほかはサグレット商会くらいしかないのだ。当然ほとんどの建物は木造だよ。

 酒場に着くと、すぐにあの男を見つけることが出来たので、ホッとした。特徴のある間の抜けたアホ面は離れていても簡単に判別ができるから便利だよな。俺が入ってきたのに気づいたのだろう。連絡員つなぎは俺のテーブルまでやってくると親しげに話しかけてきた。

「これは、グリード様のところのぼっちゃん。お久しぶりです。ヘンデルです。覚えていらっしゃいますか?」

「ああ、久しぶり、ヘンデル。当然覚えているさ。その後足はどうだ? 痛んだりしていないか?」

 俺も出来るだけフレンドリーに返事を返す。

「勿論でさぁ、おかげさまで、これ、この通り。すっかり良くなって大助かりでさぁ」

「そりゃ良かった。俺も治した甲斐があるってものだ。……どうだ? 少し一緒に飲まないか? あまり持ち合わせもないが、この店なら奢ってやれるくらいはあるぞ」

「ええっ? いいんですかい? じゃあ、お言葉に甘えさしていただきやす」

 奢ると言ったら目の色が変わった。

 その後は暫くどうでもいい話をしていたが、いい頃合になってきた。ドーリットはキールみたいに都会ではないから店仕舞いも早そうだと思っていたが、灯りの魔道具に光が点った。バークッド程田舎ではないし、酒場はある程度遅くまで営業するのだろう。

「そう言えば、ヘンデル。いつだったか家で働いていたメイドがゴブリンに襲われて死んだ時にさ、結構気にしてたな。お前、ひょっとしてあのメイドに気があったのか?」

 酒も回ってきていい頃合だ。俺は屋外に小便を装って出たときに魔法で解毒しているから全然酔っていない。

「ええっ? いやぁ、流石はぼっちゃん。しっかりと見ていなさいますねぇ、ですが、あれはそういうんじゃないんでやすよ。ちょいと仕事の関係でしてね」

「え? 仕事?」

 不思議そうに聞いてみる。すると連絡員つなぎはちょっとしまった、という顔をしたが、すぐに取り繕ってきた。

「いやあ、以前の大工仕事の時にね、あのメイドさんには世話になったんでやすよ」

「へぇ」

「まぁ大したことじゃないですがね、それで気になりやして……」

 挙動不審になってきた。目はあちこちを彷徨い、落ち着きがない。

「おいおい、どうしたんだ? 落ち着けよ。まぁ飲めよ」

 そう言って麦焼酎を勧める。

「へぇ、こりゃすいやせん。いやぁ、隠せないもんですな。実はぼっちゃんの仰る通り、ちょいとあのメイドさんにホの字でやしてね……照れちまいやす。ゴブリンにやられちまって残念ですよ」

 ……ふーん、そうきたか。

「そうだったのか、そりゃ全く残念だったな。まぁ飲めよ」

「へぇ……」

 ちょっと攻め方を変えてみようか。これでダメなら今晩にでも締め上げて全部吐かせてから始末するしかないな。

「話はちょっと変わるが、俺もさ、次男は冒険者でもやれって家を追い出されてからついてないんだよ。今回はうまく配達の依頼があったから良かったけどさ。どっかにうまく儲けられるような話はないもんかな?」

 ガンガン酒を注いでやる。

「そんなぁ、そんな美味い話がありゃとっくにあっしも……ああ、冒険者やってなさるんですかい。キールで?」

「ああ、そうだ」

「キールかぁ……ぼっちゃんには世話になりやしたしねぇ……どうし……うーん」

「何だよ、ちゃんと喋れよ、飲みが足りねぇんじゃねぇのか? ほれ」

 俺はこの店で一番高い豚の串焼きをヘンデルの前に押しやるとまた酒を注いだ。

「ああ、すいやせん。……旨ぇや。ぼっちゃんは普段キールにいなさるんで?」

「ああ、そうだよ。こっちには滅多に来ないなぁ」

 そう言って俺もぐびっと飲んだ。

「うーん……じゃあ俺と当たることもねぇかぁ……」

「あ? 何がだよ?」

 俺はテーブルに肘をついてやっと酒が回ってきたかのように言葉を乱し始める。

「いえね、あっしも実はキールにいる旦那に世話になってたんですよ。ドーリットより西の見回りなんですけどね、って、まぁそれはいいんでやすが、さんざん世話になったぼっちゃんに少し恩返しがしてぇと思いやしてね」

「周りくでぇな。何だよ。いい話でもまわしてくれんのかよ?」

 これは、べグルのことだろうか? 俺の頭の芯が冷える。

「そうっすね。キールに『ロベリック』という、まぁ普通の宿がありやしてね。そこを根城にしているベグルって旦那に俺から聞いたと言えば、多分仕事をくれやす」

「へぇ、べグルね。なんだか名前を聞いたことがあるな」

「ああ、有名人のベグルって旦那もいやすからね。キールのゴロツキどもを締めてるって話でやすよ。あっしが言っているベグルの旦那はそのゴロツキの元締めみたいなベグルの旦那の知恵袋みたいなもんでさ。本名はあっしも知りやせんし、数える程しか会ったことはないんでやすがね。まぁ2~3回会っただけのあっしが言うのもなんですが、思うに、ご自分の正体を明かさないために有名なべグルってのを名乗ってらっしゃるんだと思いやすよ」

 いい感じに酒も回って来たし、豚串もたっぷり脂が乗っていて口の滑りも良くなったと見える。

「そっか、ヘンデルはその旦那さんとはわざわざキールまで行って会ったのか?」

「いえいえ、ここ、ドーリットでやんすよ。それも紹介がありやして、向こうからわざわざ来てくれやしたんですよ。ぼっちゃんは覚えてらっしゃいますかねぇ……昔ドーリットにバルクっておっさんがいやしてね。そのバルクのおっさんが俺のことをべグルの旦那に自分の後継者だって伝えてくれてたんでやすよ」

 !! バルクってのは昔俺が殺した冒険者だ。隊商の護衛でバークッドに来て、ミュンに接触してきた奴がバルクって名前だった。俺の初体験の相手だしな。流石に名前は忘れないよ。それにべグルとの繋がりも確認できた。あとはこの糸をたぐり寄せるだけだ。

「へぇ、そうか。『ロベリック』って宿に行ってベグルの旦那と会いたいって言えばいいのか?」

「いや、旦那は用心深いお方ですんで、目印を渡すんでさ。『ロベリック』の受付の親父に「ロンベルトからだ」と言って赤い布を渡すんでさ。すると親父がべグルの旦那に声をかけてくれやす。で、話が出来るって寸法でさぁ」

「なるほど、赤い布は何でもいいのか? 大きさとか、色合いとか、いろいろあるだろう?」

「ああ、大抵のものなら大丈夫みたいですぜ」

 そっか、なら大丈夫だろう。その後俺は閉店までヘンデルに奢ってやった。安い店だけあって会計は6000Zもしなかった。沢山飲み食いしてこの金額かよ。

 会話中も散々悩んだが、殺すのは止めておいた。どうせべグルをっちまえばこいつにデーバス王国のサグアル家と連絡する伝手は残っていないだろうし、自分で伝手を作ってまで報告するようなこともしないだろうと思ったからだ。甘いと言ってくれていいよ。



・・・・・・・・・



7442年4月28日

 ドーリットで更に一泊し、ゆっくりとキールまで戻ってきた。時刻は既に夕方近くになっている。取り敢えずビンス亭に行くか。一泊5000Zは痛いが、高級な宿だけあって居心地はいいし、馬の世話も頼める。何より部屋に置いてある荷物の心配を全くしなくていいことは贅沢なことだ。

 部屋を取り、馬の世話を頼んだあと、プロテクターを外してからバックパックの底に突っ込んであったボロい服に着替え、念のため剣だけは腰に下げて早速『ロベリック』へと向かった。いい加減革紐を巻いてあるだけだとまずいよな。鞘くらい買ってもいいかな? 明日時間があれば鞘を買おう、と心に決め『ロベリック』へと向かう。

 夕暮れ間近で細長い影を引き摺りながら、今日一日馬に揺られ、疲れた体を引き摺って歩く。『ロベリック』に着いた頃、遂に日が沈み始めた。まぁ今日はべグルBに会えればそれでいいや。一応確認だけはしておいて後で一人になったところで有無を言わさず魔法でぶっ殺せば後顧の憂いは消え去る。仮に『ロベリック』に居なければそれはそれでまた明日以降来ればいい。

 赤い布も安物だがハンカチのような手拭のようなものを購入してある。

 『ロベリック』の戸を開け、受付の親父に「ロンベルトからだ」と言って布を差し出した。親父はちらっと布を見ると念のためか周りを確認してから口を開いた。

「今日はいねぇよ。大仕事で出かけてる。今日帰ってくるかは解らん。どうしても急ぎならこいつを持って『ビンスイル』って飯屋に行きな。旦那はそこにいるはずだ」

 何を言ってるんだ? ビンスイルだって? 黒いコインを受け取りながら不思議そうな顔をしている俺に気がついたのだろう。親父は続けて言った。

「大仕事の舞台が『ビンスイル』って店なんだよ」

 !! どういうことだ。急いで『ビンスイルの店』に行きたいが、少しでも情報が欲しい。俺は逸る心を無理やり捩じ伏せながら訊く。

「へぇ、大仕事って何だ? 押し込みでもするのか?」

「……赤い布に合言葉を言ってるから、あんたもデーバスの連絡員つなぎなんだろ? どこの隊だ?」

 まずい。ええい、ままよ。

「……サグアルだ」

「サグアル、か。その名は久しぶりに聞いたな。べグルには隠れ蓑がいてな、そいつも名前が、ああ、姓じゃないほうの名前だが、べグルって言うんだ。こいつは冒険者崩れの乱暴な奴なんだが、腕っ節が強いのと多少おつむも切れるから隠れ蓑に連んでるんだ。名前も一緒だから隠れ蓑にはぴったりだろう? で、その隠れ蓑の方は多少おつむが切れるといっても、所詮は冒険者崩れだからな、たまにガス抜きしてやらねぇとおつむが茹だっちまうのよ」

 『ロベリック』の親父はつまらなそうに言った。

「それで、そのガス抜きが大仕事ってことか?」

「あぁ、ガス抜き自体は大仕事でも何でもねぇ。詳しくは知らねぇけど今回は『ビンスイル』って飯屋の娘を攫うことが目的だとよ。あんたと同じように黒髪でよ、高く売れそうではあるけどな。あそこの店で騒ぎを起こして借金漬けにして奴隷にするんだとよ。日が沈んで暫くしたらやるらしいぜ。だから今日は帰って来ないかも知れん。急ぎの連絡あれば行ってみたほうがいいかもな。『ビンスイル』は川沿い東通りの南の方にあるから行けばわかると思うぞ」

 なんだって? マリーを奴隷にして売っ払うってことか? 時間を無駄にしてる場合じゃねぇ。

「へぇ、そうか。じゃあ、ちょっくら行ってみるよ。このコインを見せればいいんだな?」

「そうだ、じゃあな」

 俺は『ロベリック』を出た。日は半分以上沈んでいる。周りを見回し全速力で駆け出す。まだ少し時間の余裕はあるだろうが、ビンス亭に戻ってプロテクターを付けたり騎士団に駆け込むほどの余裕は無い。

 マリーやクローに手助けする義理など……まして恩なんか無いが……クソッ!

 
ロベリックの親父は「借金漬けにして奴隷にする」と言っていますが、これは実は正確な表現ではありません。

自由民以上の階級の人間(亜人もですが)が奴隷階級に落ちるには幾つか条件があります。全て最終的には神社で命名の儀式が必要です。
1.何らかの理由で本人が望み、神社で命名される
2.借用書のカタに売られる(本人の納得は必要ありません)
3.年季奉公に出る(その期間は奴隷同等になります。命名の儀式はちょっと特殊なものになります。2に近いです)
4.奴隷階級と結婚し、自分がその奴隷家の当主にならない(ほぼ1と同条件です)
5.何らかの犯罪を犯し、その罪として奴隷階級になる(2に近いです)
6.戦争や紛争等で捕虜、または戦利品として連れ去られる
+注意+
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