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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第一部 幕間

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幕間 第七話 研堂阿矢子(事故当時66)の場合

初稿:2013年 10月 06日
 今日は新宿のレストランで同窓会がある。もう卒業して何年だろう、50年近くなるのだろうか。何十年も会っていなかった旧友を思い出すが、思い出せるのはごく親しかった数人で、それも当時の若く、溌剌とした外見だ。彼らから見た私もそうなのだろうか。こんなおばあちゃんになっているなんて、笑っちゃうわね。

 駅に滑り込んできた列車に乗り込むと、平日の昼下がりのためか随分と空いている。同窓会の前に買い物でもしようかとかなり早めに出たのがよかったのだろう。車両中程の空いている席に座り、流れる景色を楽しむ。景色に乗って思い浮かぶ、学生時代の楽しかったエピソード。そう言えば数年後にまた東京でオリンピックが開催されるらしい。前回は在学中に開催したんだっけ。オリンピックに間に合うように、父が無理してテレビを購入していたことを思い出す。

 あの頃と大して変わっていないようで、大分変貌した景色を見ながら若い頃の記憶に思いを馳せていた。こんな年になっても若い頃の記憶は色褪せず、輝いている。ああ、そう言えば同じクラスの剣道部の選手だった男が好きだったな。彼は今どうしているのだろう? 今日は出席するのだろうか。もう自分には中学生になるような孫もいるのに、一体何を浮かれているのだろう。

 そんな事を考えながら、いつの間にか顔が綻んでいたのを自覚して急に恥ずかしくなった。あらら、にやにやしていたのを誰にも気づかれてないわよね。久々に同級生に会うためにちょっとだけ若作りしてきた化粧を直すふりをして手鏡を出し、覗き込んで誤魔化した。

 手鏡をバッグにしまい、澄ました顔でまた景色を眺める。と、急に列車が急制動でも掛けたのだろうか、自分も含めて周囲にいた人達が口々に驚きの叫び声を上げながら車両の先頭に向けて吹っ飛んでいく。自分も例外なく吹っ飛んでいく。ああ、宇宙飛行士の無重力ってこんな感じなのかしらん。



・・・・・・・・・



 苦しくて意識が覚醒してくる。何だか体が締め付けられるようだ。多分、あの事故でも何とか助かったのだろう。ひょっとしたら大怪我をして生死の境を彷徨っているのだろうか? 同窓会に行けなかったのは返す返すも残念だけど、命があっただけでも拾い物だ。きっと主人も心配しているだろう。

 心配……? 心配だ。主人もそうだが、このまま後遺障害でも残ったら大変なことになる。心配な感情が抑えられない。

「あ、あ、ああああああああっ」

 体の拘束が無くなったことを幸いについ心配で叫び声が出てしまった。これでは看護婦さんや医者に笑われてしまう。ああ、恥ずかしい。

「あ、う、うああああああああっ」

 あまりの恥ずかしさにまた声が出た。

「#$%’”*+)”#$”(!=~>」

 外国語だろう、良く判らないが人の声がする。ひょっとしてあの列車には外国人も乗り合わせていたのだろうか。だとするとここは大部屋の病室だろう。ああ、でも列車事故なら何十人も怪我を負っているだろうし、もともと入院していた人かも知れない。

「?_}+#)’&{‘¥!!%#!?」

 今度は別の人の声がしたが、やはり外国語だ。何を言っているのかさっぱりだ。この病室には外国人しかいないのかもしれない。まずいなぁ、私、英語はよくわからないのよね。せっかく同じ病室なのだから、少しは話が出来ると気が紛れるのだけど……。以前、病気で入院したときは同室の人達と仲良く過ごすことが出来て、全く不安はなかった。しかし、外国人がいるようだ。それも、複数。会話ができないのは不安だわ。日本語が通じないといろいろ不便だし、心配。ああ、心配だわ。

「えぁ、あ、あ、うぁぁぁああぁぁぁっ」

 また泣いてしまった。私ったら、こんなに簡単に泣いちゃうのね……。



・・・・・・・・・



 数ヶ月が経ち、やっと周囲の状況が掴めた。ここは外国らしい。自分の名前を言って家族に連絡を取って貰おうと努力しても、口がうまく回らず、赤ん坊のような声しか上げられない。それもそうか、目がはっきりと見えるようになってわかったが、自分の体はどうみても赤ん坊になっていた。

 おそらく、父親と母親、それにお手伝いさんもいるようだ。家人の服装や窓から見える景色、家の中の調度品から、ヨーロッパのような感じもする。でも、テレビはおろか、ラジオも携帯電話も無いみたいだ。よほど貧しい家庭かとも思ったが、服に使われている生地は天然繊維の高級品だし、毛布や布団もポリエステルは使われていない、天然繊維の手触りだ。

 何が起こったのか良く解らないが、これは輪廻転生なのだろうか? そうでも考えないと自分が赤ん坊になっているということは説明がつかない。今日も母親の乳房に吸い付きながら薄いミルクのような母乳を飲みながらそう考える。



・・・・・・・・・



 6年が経ち、すっかり言葉も覚えた。私の新しい名前はレーンティア・ゲグランというらしい。言葉を完全に覚えるよりも先に、ここが地球ではないことは解った。解った時にはパニックになりかけたが、母親が抱きしめて必死にあやしてくれたのでほどなく落ち着いた。そう、両親は魔法使いだったのだ。あれは1歳か1歳半くらいだろう。多分二歳にはなっていない頃だと思う。お手伝いの女性が料理を作っている時に、鍋をこぼしてしまい、足に大火傷をおってしまう事件があった。彼女の叫び声と自分の叫び声に慌てて両親が台所へとすっ飛んできた。

 すぐに私には何の外傷もないことを確認すると両親は火傷した足を魔法で治療したのだ。ぐつぐつと煮えたスープを零して、足はひどい有様だった。しかし、両親が手を青く光らせ、ゆっくりと足に近づけ、火傷を触った。すると、信じられないことに表面がべろんべろんになっていた足の皮膚がみるみるうちに回復していく。まるでフィルムの逆回しのようだった。

 びっくりしているのは私だけで、魔法によって治療されたお手伝いさんも、治療されたことに感謝はしているようだったが、魔法自体にはまったく動じていない様子だった。その後は言葉を理解しようと努めつつ、いろいろ観察した。すると、地球ではありえないことが、出るわ出るわ。それはもう、驚きの連続だった。

 ステータスオープンと唱えながら何かを触れるだけで、その触れたものの名前などが小さな窓が開いてわかる。電源も来ていないのに電球の様に光る、どう考えても不思議な道具もある。電池でも入っているのかと思ったらそんなこともない。大体、光を発する部分が電球ではなかった。ああ、言葉を喋れるようになる前に気がついて良かった、と思う。

 いきなり日本で事故に遭い、気がついたらこの家の赤ん坊になり変わっていた、などと言っても信じてもらえそうにない。いずれは言うにしてもそれは今ではない、最低でも成人するなり、仕事を見つけるなり、自活できるようになってからだろう。



・・・・・・・・・



 ところで、魔法については不思議なことが多い。喋れるようになって暫くしてから、思い切って「魔法を教えて欲しい」と両親に頼んだことがあったのだが、答えは「もちろん教えるが、それは体が成長して大人になってからだ」と言われた。どうやら大人になる前は魔力が足りなくて魔法は使えないのだそうだ。

 しかし、小魔法キャントリップスは教えてもらえた。小魔法は読んで字の如く、小さな魔法なのでそれほど魔力は消費しないから良いのだそうだ。それほど消費しなくても魔力を消費するならまずいのではないか、と思ったが、訊いても小魔法キャントリップスなら問題がないの一点張りだ。

 勿論、小魔法キャントリップスと言えども魔法は魔法なので、喜んで練習した。実はちょっと前に流行った魔法学校を舞台にした映画に憧れていたのだ。別段他にやることがあるわけでもなく、時間だけは有り余っていたのでじきに小魔法キャントリップスは問題なく使えるようになった。しかし、魔力が少ないと修行が出来ない、というのは本当らしい。私は一度小魔法(キャントリップ)を使うと眠るまで使えなかった。どんなに根性を入れ、気合を込めても使えなかった。

 それを両親に訴えると、両親は笑って「だから、まだ体が成長しきっていないからだよ。魔力が足りないんだ」と言うだけだ。休息を取れば再度使えるようになるとも教えてくれたのは有難かったが。そんなことを言いながらも完全に小魔法キャントリップスを使いこなす私を見て両親は「流石我々の子だ」と嬉しそうにしている。

 両親が嬉しそうだとなんだか自分も嬉しくなる。そう言えば、喋れるようになって分かった事だが、物事の感じ方も若々しくなっていた。口調についてはさほど苦労せずに大人のように喋れるようになったが、なにかを考えたり、感じたり、それを表現しようとするとつい口を突いて出てくる言葉は年相応の可愛らしい言葉になることもあった。意識して喋れば問題は無いが、ちょっと気を抜くと子供みたいに喋ってしまう。まぁ子供なのだから問題は無いと言えば無いけれど。



・・・・・・・・・



 私があまりに口煩く「魔法を教えて欲しい」と言うのが煩わしくなったのかもしれない。あるとき「そこまで言うなら」と言って魔力を感じるところから、という条件で魔法を教えてくれることになった。

 小魔法キャントリップスで魔力検知というのがあるらしい。この小魔法キャントリップスを常に失敗せずに使えるならば魔法の素質があるということだった。両親からは「我々の娘なのだから当然素質は有るはず、諦めないでしっかりやるように」と言われ、心が引き締まった。前の人生では66年も生きたのだ。そして、新しい人生を赤ん坊から始めている。前の人生くらい生きれば合計132歳だ。加えて魔法も使えるようになるかもしれない。こんな幸せがあるだろうか。

 両親は火を付ける魔道具に魔力を込めるとそこから出る火の魔力を感じ取ることからスタートさせた。これが魔法の修行の第一歩らしい。また、私はまだ幼いので、魔法を使えるようになるまでは辛抱強く修行を積まねばならないそうだ。どうせ大してやることもないのだ。せいぜい一生懸命修行することについては何の心配もない。それどころか魔法が使えるようになるという期待感の方が圧倒的に強い。

 今日も私は着火の魔道具の火に手をかざしている。

 
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