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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第一部 幕間

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幕間 第六話 栗田浩一郎(事故当時16)の場合

初稿:2013年 10月 06日
「え? あれってそうじゃねーの?」

 正志が俺の隣で独り言を言っている。先ほど購入したゲームの攻略本に夢中になりながらの独り言なので気持ちが悪い。俺はそんな正志を横目にスマートフォンで本を読んでいた。正志の買った攻略本のゲームには興味がないからだ。俺もゲームはやるがどちらかというとシューティングや落ちモノなどのアクションやパズル系のゲームの方が好みなのだ。クソ長いRPGやアドベンチャーなんて時間の無駄のような気がしてやる気が起きないからだ。

 ゲームなんか暇潰しの為にやるものであって、ゲームをやること自体を目的にすることの意味が理解できない。尤も、そんな事を主張しても周りから孤立するだけなので言ったことはないが……。あと10分もすれば目的の停留所に着く。バスの車内には前方の方に小太りのおばさんとサラリーマン風の男女が数人座っているだけで、あとは高校生ばかりだ。俺達は車内左側の後半部分にある二人掛けの椅子に腰掛けているが、俺たちより後ろには誰もいない。

 ふと前を見ると数人の女子高生の集団が座ったまま姦しく何か話している。その脇ではつり革に掴まったままぼうっとしている男子生徒がいる。制服はそこそこの進学校のものだ。その傍に座っている男子生徒は始終俯いていて、後ろからだと何をしているのかは判らない。本でも読んでいるか俺と同じくスマホでも眺めているのだろう。

 バスが踏切にはいったようだ。路面から伝わる振動が舗装された道路からガタガタの線路の路面に入ったことを教えてくれる。その瞬間、左から派手なスキール音が聞こえ、反射的に左側を見てしまった。あまりの事態に声も出せず、口をあんぐりと開けるだけだ。電車が俺達の乗ったバスに突っ込んできた。

 一瞬で死ねたのは幸福かも知れない。何しろ苦しむ時間なんか無かったと言ってもいい。本当に一瞬にして意識が刈り取られた。



・・・・・・・・・



「う、うぎゃあ、あ、あ、あんぎゃあ!」

 畜生、何だか上手く声が出せない。あれから何日か何週間か過ぎた。目にも靄がかかったようにぼんやりとしか見えない。たまに何か柔らかいものを口に押し付けられて薄いミルクのような液体に近い流動食のようなものを飲ませて貰えるのでなんとか命があるのだろう。冷静に考えてバスに電車が突っ込んできたというものの、命が助かったことは本当に運が良かったのだろう。あ、そう言えば正志は無事だろうか? あのときは俺が窓側に座っていたので最初に突っ込まれたのは俺のはずだ。俺が助かっているのだから、正志も助かっているのではないだろうか。

 しかし、誰も見舞いに来てくれない。そこまで俺は孤立していなかったし、正志以外にも親しく付き合っている友人は何人もいた。だいたい、姉と弟はともかく、両親のどちらも見舞いに来ないとはどういうことだ。ああ、そう言えばここは外国だった。変な言葉がたまに聞こえてきていたんだった。何言ってるのかさっぱりだが。

 一体何を喋っているん(・・・・・・・・・・)だろう(・・・)、と思ったら目の前に変な文字列が表示されたかと思うとその下にカタカナの行、その下に漢字交じりの日本語の行が表示された。日本語には「ああ、この子も元気に生まれて良かったけど、あまり泣かないのはなぜかしら?」と出ている。日本語の文字の単語単語に視線を動かすたびに視線の先の単語が反転し、上のカタカナの一部とその上の変な文字も一部同じように反転する。

 暫く単語ごとに反転表記される文字を眺めて、一体これは何だ? と思っていた。何しろくっきりと物が見えるのはあの事故以来初めてのことだし、目がいかれていないことがちゃんと確認できて嬉しかったのだ。それまで俺は事故の後遺症か何かで視力が0に近くまで落ち込んでしまったのだと思い込んでいた。

 部屋の外から男の声がした。つい、声のした方へ視線を移してしまったら、急激に眠気に襲われた。抵抗しても意味がないのですぐに寝てしまった。



・・・・・・・・・



 何回か試して判ってきた。俺以外の誰かがなにか喋っている間か、その直後に「喋っている意味が知りたい」と思うことによって翻訳が出るのだ。「何を言っているのか解らない」とか「解るように喋れ」とかだとダメだ。だが、翻訳をするとすぐ眠くなってしまうことも判り、ちょっと憂鬱ではある。カタカナは発音らしいが、よく聞いていると単に発音に近いカタカナを当て嵌めているようなものだということもわかった。外国語を無理やりカタカナ表記にするようなものだろう。多分そのまま喋っても通じないか、カタコト喋りみたいに聞こえるのではないだろうか。

 そうこうしているうちに、ついに会ってしまった。そう、神様だってさ。嘘くせぇ。しかし、最初に知識を流し込む形で説明してくれた内容は納得はともかく、筋は通っていることはわかるし、こんなことが出来るのは神様しかしない、と思えば納得せざるを得ないだろう。やっぱりあの事故で死んでいた事はしょうがない。少なくとも俺にはどうしようもなかったことも解った。

 まぁ事故自体が人為的な(神為的?)な物であったということには怒りを覚えた。だって、こっちは完全なとばっちりだぜ? 簡単には許せないが、神様も別に許しは求めていないことはすぐに理解できた。だいたい、誰がアリを踏み潰したとしてそのアリに許しを求める? 言い争いか相手を貶めるためか建前かはどうでもいいけれど、固有技能や記憶を継承したままで新しい人生を貰えるだけでも感謝すべきだろう。そのくらいの分別はつく。

 そうそう、固有技能だ。俺の固有技能は「言語理解」というものらしい。神様の説明によると知らない言語でもある程度早く理解出来るようになるというものらしい。翻訳機能自体はおまけのようなもので、どちらかというと知らない単語の意味を調べる辞書的な使い方をした方が有効とのことだ。

 また、この世界には固有技能だけでなく、特殊技能というものも存在し、なんと魔法は特殊技能で、誰でも修行さえすれば使えるようになるとのことだ。これは嬉しい。だって、魔法だぜ? 火の玉を撃てるようになるとか、夢がひろがりんぐ。

 そして、こうも言っていた。技能は大別して二種類、固有技能と特殊技能。更に別の分け方だと、先天性のものか後天性のものか。そして更に別の分け方だと受動的か能動的か。俺の言語理解の技能は先天性で受動的なもの、且つ固有技能なので世界でも俺一人のものらしい。勿論辞書のように使うことで能動的発動も可能だそうだ。だが、能動的に使うと魔力を使うので魔力が無くなる。完全になくなった場合、休息すれば回復するが、俺の体はまだ赤ん坊なのでそもそもの上限が低いそうだ。増やすには加齢による成長の他は、特殊技能である魔法を習得してのレベルアップなどの魔力の修行か自分自身のレベルアップでも増えることがあるそうだ。

 要は放っておいても加齢と共に少しずつ増えるが、魔法を使うことに代表される魔力の修行、レベルアップなどで増えるということだ。情報としては充分だろう。それと、重要なことだが、俺を含めたあの事故の犠牲者は39人いて、全員なんらかの固有技能を持ってこの世界に同時に転生しているらしい。この世界は現在の日本よりもだいぶ文明の発展が遅れているそうだから、出来れば早急に合流したいものだ。

 一人じゃ不安だしな。ああ、親がいたか。



・・・・・・・・・



 暫くして体の変調を感じる。だるいし、熱もあるようだ。風邪でも引いたのだろうか。風邪なら栄養をつけて薬を飲んで寝ているのが一番だろう。安静にしなければ……薬を飲んで? 薬なんかあるのか?



・・・・・・・・・



 咳が止まらない。飯は母親の母乳だけだ。体がだるい。



・・・・・・・・・



 泣く気力もない。全身の倦怠感と発熱がひどい。咳は相変わらずだ。これはまずいのでないだろうか?



・・・・・・・・・



 体力が限界まで落ち込んでいることがわかる。心配そうな声がする。既にしゃべっている内容はある程度理解出来るのだが、理解する気力も無い。脳細胞が働いているだけで体力が減っているのではなかろうか? 下らない事を考えても体力の浪費だ。



・・・・・・・・・



 ……。ああ、しんどい。もう何も食いたくねーよ。寒い。



・・・・・・・・・



 畜生。ちくしょう。チクショウ。ここで終わりか。悔しいなぁ。



・・・・・・・・・



 多分もう熱もないだろう。発熱するエネルギーがない。風邪で死ぬとかw



・・・・・・・・・



 ……あ………………。

 
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