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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第一部 幼少期~少年時代

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第五十四話 独り立ち

7442年2月30日

 一度村に戻り数人でまた水場まで出向いてホーンドベアーの死体を回収してきた。勿論、残してきたキャンプの為の道具の回収が本来の目的ではある。ホーンドベアーの肉は可食部は非常に美味しい部分と大して美味くはない部分とではっきりと別れており、筋肉量が多いとあまり美味くはないようだ。腹肉は脂肪分が多く、筋肉量が少ないので美味いのだそうだ。だが、別に食べられないわけではないし、回収可能なら回収した方が良いので回収しに行ったのだ。特に子熊は筋肉部でもそれなりに柔らかく、脂肪分も全身にあるので結構美味だろうとのことだ。以前と違い、今回は子熊がいたこともわざわざ人を出しての回収の決め手になったと言う事だ。

 ほかの動物や魔物に荒らされていないか心配したが、たまたまだろうか、肉食の大型動物には目を付けられなかったようだ。この水場周辺ではホーンドベアー以外の大型肉食動物は夜行性のものも含めて少ししかいないし、ホーンドベアーの死体を荒らすのはコボルドかゴブリンだろうと思っていたのだが、どうやら見つかるのを免れたらしい。従士達の話によると、ホーンドベアーが使っていた水場であれば、そもそもコボルドやゴブリンなどは獣と違って頭が良いから近寄らないようにしていたのかもしれないとのことだ。ファーンをはじめとした従士達はホーンドベアーの死体を見て、その凄惨な有様に仰天していたようだが、黙々と解体し、全員で担いで帰ることにした。

 母子熊の肝と腹肉は家族にとても好評を博した。中でも甥と姪は口の周りを肉汁でベトベトにしながらにこにこしている。その光景を眺めながら、俺はやらねばならないと決めていたことが無事片付いたことに肩の荷を下ろした気持ちになっていた。



・・・・・・・・・



7442年3月1日

 翌日、俺は家の修理をしていた。最後に出来るだけ住みやすい家にしておきたかった。14年も暮らしていればそれなりに愛着もあり、昔から不便だと思っていながら放置していた所を中心に直している。来月にはここを出るのだから、今のうちにやれることはやっておこうと、地魔法で石を出し、それを組み上げて塀を強化したり、共同浴場に使っていたシステムを流用して家の脇に石混じりの土山を作り、その上にゴム張りの風呂桶くらいの貯水タンクを設置してゴムホースを家の中まで引き、簡易的な水道を作るなどしていた。

 ゴムホースの一つはそのまま屋外に引いて、ゴムで作ったシャワーヘッドに接続すれば魔法が使えなくても使用可能なシャワーの出来上がりだ。ファーンは火魔法が使えないので水を出すだけだが、貯水タンクくらいの量であればレベル5の火魔法が使用可能なシャルが温めれば問題はあるまいと思った。風呂を作っても良かったが風呂はもう共同浴場があるのだし、わざわざ家に作る必要はないと思ったのだ。

 これらの作業と並行してファーンに貯めてあった鉄とニッケルやクロムなどの金属類を渡し(これらは殆どが鉄だが全部で4kg以上あるから火魔法さえ使えるなら合金も作れるし、なにか武具を作るのにも役立てられるだろうとの考えだ)、昔使っていた銃剣はミュンの息子であるアイラードにあげた。俺と同じアルだし、練習して使えるようになって欲しいとミュンに言ったらお任せ下さいと笑って受け入れてくれた。何を任せるんだよ。

 こうして俺の家で過ごす最後の時間はゆっくりと過ぎていった。



・・・・・・・・・



7442年4月5日

 ウェブドス侯爵の騎士団へゴムの納品に行くついでに俺も旅立つことにした。いつものようにヘガードに率いられて出発するゴムの納品の隊商は今回は大人数だった。いつもはヘガードの他にはゴム製造担当の従士から一人とファーンかシャーニのどちらか、あとは護衛の従士が二人、荷馬車の御者として二人の従士の合計7人だが、今回は兄夫婦とシャルまで同行し、俺を入れて10人の大所帯となった。キールまで約220km、六泊七日の旅だ。

 俺は新調した自作の編み上げブーツを履き、最新型のゴムプロテクターを装備するとゼットとベッキーを抱き上げて頬ずりし、銃剣をストラップで肩に掛け、馬車の横について歩き出す。次にこの村に戻るのは最低でも2~3年後だろう。勿論その頃には体に合わなくなっているであろうゴムプロテクターを新しく作り変えるためだ。

 きっとその頃にはゼットとベッキーの魔法の修行も始まっているだろうし、ゴム製品も増えている可能性がある。村も今以上に発展していることだろう。それに、ファーンが士爵位をへガードから継いでいることだってあるかも知れない。尤も、見聞中に俺が横死している可能性も否めないではないが、今考えることじゃないだろう。

 俺の旅立ちを村中の人が見送ってくれた。いつかのミルーのように。

 その中にアイラードを抱いたミュンもいた。その姿を見て昨日挨拶のためトーバス家を訪れた時のことを思い出す。必ずミュンに伝えなければならないと思い、決心した俺はミュンに「キールに行ったら必ずべグルという奴を探し出して後顧の憂いを断つ。必ずだ。だからミュンは安心してくれ」そう伝えた俺をミュンは優しく抱きしめてくれ言ったのだ「アル様、私は今凄く幸せです。ありがとうございます」俺は胸を叩いて、大船に乗った気で任せろと請け合ったがこんな慣用句はオースにはなかったので通じなかった。

 だが、ミュンは「何かの役に立つかもしれない」と言ってサグアルの腕輪を俺に押し付けた。どうせミュンしか使えないものだし要らないと断ってもミュンは譲らなかった。「売れば幾らかにはなるでしょう」とも言われた。しかし、これはミュンが昔から持っていたもので、彼女の為に作られた魔道具だ。俺が持っていても役には立たないだろうし、何よりミュンがどう思おうとこれはミュンの両親から貰った唯一の品の筈だ。いや、ミュンから実の両親を恨んでいるなんて言葉を聞いたことないから知らないけど。折角の厚意だが、これは受け取れないと言った俺にミュンは、では代わりにと魔石をくれた。直径3cm程で色はかなり白っぽくなっていた。

 きっと、昔から夜の狩りで貯めていたものだろう。価値は十万を超えていた。金貨くらいの価値がある。ミュンはあまり大物を狩ってはいなかったからここまで貯めるのにバークッドに来てからの戦果を全てつぎ込んでいたんじゃないだろうか。15年くらいかかったはずだ。じゃあ、交換しようと言うことで俺はこの前倒したホーンドベアーから得た魔石をミュンに渡した。こっちの直径は5cm近いが色は灰色で価値はミュンのものと同じくらいだ。これならいいだろう、ミュン。俺はミュンには既にいろいろ貰っているのだ。これ以上は負債超過で俺の心が耐えられないよ。

 昨日のことを思い出しながらじっとミュンを見つめるとミュンはアイラードの手に自分の手を添えて振ってくれた。



・・・・・・・・・



7442年4月12日

 予定通り侯爵領の首都キールに着いた。俺はこの世界に転生してからバークッド以外の村や街を見るのが初めてだったので途中で通り過ぎたドーリットやバルゴーの街でもずっときょろきょろと辺りを見回していた。だが、それらの街はバークッドの拡大再生産といった感じだったのに対し、ここキールは都市と呼んでもまぁ差し支えない感じだ。

 建物は石造りのものが多く、使っている漆喰も上等なものに思われる。町並みも地形に沿って無計画に伸びた感じは少ないが、古くからあるような建物もかなりあるため、昔から計画的に都市として開発されてきたことを窺わせた。街の中央を流れる川も水量は豊富そうで街全体が明るく活気があって豊かな印象を俺に与える。町並みを眺めながら通りを歩き、中心街を少し外れた辺りの騎士団の詰所まで行った。石造りの塀で囲われた立派な建物だ。既に顔パスになっているのか誰何される事も無く、門内に入ると騎士団の下働きだかの従士よりも身分の低い者たちがばらばらと集まってきた。

 通りかかった数人の騎士や従士にへガードやファーン、シャーニが挨拶される。そして会計か輜重担当者であろう人間が連絡を受けたのか、駆け寄ってきて、納品物の検分が始まった。検分はざっとではあるが滞りなく進み、じきに終わった。もう夕方近い時刻であるためか今晩と明日の昼頃までかけてしっかりと検分し、代金は明日の夕方に支払われるそうだ。つまり今日と明日の夜はキールに宿泊するのだろう。ファーンとシャーニとはここで一時別れることになる。

 彼らは今晩はシャーニの父親であるセンドーヘル騎士団長の家に宿泊するらしい。残されたヘガード以下の面々はいつも常宿に使っているところがあるそうで、今回もそこに宿泊する予定らしい。ビンス亭という宿に行くと店の主人だか番頭だかがヘガードに丁寧に頭を下げていた。

 今日はヘガード達と一緒に晩飯を食べ、この宿に泊まる。村のみんなとも今日明日でお別れだし、初めて酒を勧められた。ぬるいビール(エールだろう)で乾杯し、ちょっと高級な料理に舌鼓を打った。ぬるいとは言え、久しぶりに飲んだ酒は美味かった。よほど火魔法で温度を下げてやろうかと思ったが。ヘガードは酒にはあまり強くないので、美味くて飲みすぎでもしたらまずいから止めておいた。

 翌日、朝から両親にキールの主要な場所を案内して貰い、夕方には宿に帰った。宿では騎士団の経理担当者が待っており、今回の納品分の支払いを行っている。俺は両親が途中で購入した土産物などの荷物を置きに部屋に行き、淡々と流れていく最期の時に思いを馳せていた。暫くぼーっとした後、宿のロビーに行くと支払いと雑談を終えた経理担当者をへガードとシャルが見送っているところだった。そこに丁度いいタイミングでファーンら兄夫婦が戻ってきた。家族が揃っていることを確認したヘガードは全員で集まる為、部屋に集合しろと言う。彼らはバークッドに向かって明日の朝から出発する予定だから、最後に話がしたいのだろう。

 部屋に集まった家族を前に、へガードが俺に話しかける。

「アル、お前に渡すものがある。当座の金だ」

 ヘガードはそう言うと、金貨を20枚渡してくれた。すごい大金だ。今ではその価値がわかる。

「こ、こんなに……。いいんですか?」

 あまりの大金に目眩がしそうになった。確かに俺はかなりの金を稼いだろう。金額だってこの何十倍にもなっているとは思う。しかし、金貨20枚は価値としては日本円で約二千万円。地球の発展途上国並みのウェブドス侯爵領の田舎に行けば一人なら贅沢さえしなければ10年以上遊んで暮らせる金額だ。勿論、きちんと税を払った上でだ。いくらなんでも14歳の小僧にいきなり渡していい金額じゃない。

「あと、金貨だけだと不便だろうからな。銀貨と銀朱、銅貨も渡しておく」

 ついでに銀貨30枚と銀朱2個、銅貨30枚を渡された。合計して金貨一枚分には少し満たない額だが、それなりの金額だ。

「いいか、財布には銅貨全部と銀貨を2~3枚だけ入れておけ。あとの金は絶対に盗まれない場所に隠せ。それから、これをやる」

 スリだか強盗だかに対する対策と一緒に渡されたのは木札だった。宿に宿泊している客の馬や、馬車の番号札だ。この札と引き換えに預けている馬だとか馬車だとかを用立ててもらえるようになっている。このビンス亭というのはそれなりに高級な宿だからな。しかし、これは一体……?

「お前には馬も用意した。馬具もすべて揃えてある。出発する時は宿の者にその札を渡せ。この宿の代金はこの先10日分は先払いしている。その間の飼葉や世話も頼んである」

 一体どういうことか、ぽかんと口を開けたままの俺にとんでもない財産まで用意してあると言う。何が起こっているのかよく理解できない俺に、ファーンが言う。

「馬は俺が騎士団で騎士になった時に乗っていた奴だ。気立ても良いし、よく言う事を聞く。今は7歳くらいだし、頭も良いからお前にぴったりだと思うぞ」

 え? 馬は兄貴が用立ててくれたのか?

「あ、あの……ありがとう……ありがとうございます。可愛がります」

 ようやっと礼が言えた。

「次は私ね。アル、これを持って行きなさい。ロンベルト王国の国内ならどこに行っても通用するわ。これは貴方がウェブドス侯爵を後ろ盾に持っているという証明になるわ。何か困ったことがあれば役人や騎士に見せなさい。小さな村でも領主に見せれば解るはずよ」

 シャーニはそう言うと、縦10cm、横5cmくらいの銅板を渡してくれた。銅板にはなにやら精緻な紋章が彫ってあり、裏側には署名っぽい彫刻と今日の日付が彫ってあった。これは貴重なものじゃなかろうか?

「あの、シャーニ義姉さん。いいんですか? その、このようなもの……」

「いいのよ。持って行きなさい。だけど、それは貴方の身分を保証するものだから、無闇に他人に見せびらかさないようにね。万が一無くしたりして悪用されたら問題になるからね」

 シャーニが微笑みながら言った。

「義姉さん、ありがとうございます。決して無闇に見せるようなことはしません」

「じゃあ、アル。最後は私。これを持って行きなさい。大きな街なら魔道具を扱っている店で必ず買い取って貰えるわ。お金に困ったら売りなさい」

 シャルがそう言うと、俺の手に袋を渡してくれた。この袋は、魔石を保管している袋じゃないか! ずっしりとした重みからかなり多くの魔石が入っていることがわかる。ひとつに固めていないのは小売や使用する際の便を考えてのものだろう。

「あ……母さん、ありがとうございます。父さん、母さん、決して無駄遣いはしません」

 頭を上げられなかった。有り難くて涙が溢れる。

「アル、俺たちはお前が無駄遣いするなんて思っていやしない。必要な時に必要なだけ使えばいい。それから、キールにはしばらく滞在してみるのもいいかも知れん。少なくとも宿代を払ってある10日くらいは滞在して街の様子に慣れておいたほうがいい。この宿は部屋に荷物を置いておいても大丈夫だ。信用が置けるからな。さぁ、最後の食事にしよう。ファーン、今晩はダックルトンのレストランを予約してあるんだろう? 早速行って美味い物を腹いっぱい食おう」

 ヘガードはそう言うと、膝を打って立ち上がった。
 その晩は大いに飲み、食べ楽しんだ。
 両親や兄夫婦からは村で何度も聞いていた都会の常識や俺の経験したことのない慣習などについて何度目かの説明を受け、夜も更けていった。

 翌日、朝日が昇り、暫くしたくらいに皆は家路についた。

 俺は、ついに独立して生計を営むことになったのだ。

 
これで第一章は終了です。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
第二章は来週くらいからスタートの予定です。
今週末は章構成の変更などで意味のない更新情報が飛ぶと思います。
おまけとして週末は幕間を少しだけ入れさせていただきます。
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