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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第一部 幼少期~少年時代

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第五十三話 決着

7442年1月18日

 朝食を摂った後、ミルーと従士二人は休暇期間の終了に間に合うように王都へと帰らねばならないので帰還の準備を始めた。従士二人は来たときに装着していた鎧をパニエの様に大きなサドルバッグへ収納し、ミルーと同様にゴムプロテクターを鎧下の上に装着していた。

 あんなにでかいサドルバッグと大人一人を乗せるとそんなにスピードは出せないだろうが、そこは大きな軍馬だし、大丈夫なのだろう。ミルーもウォーターベッドを丸めて鞍の後部に縛り付けている。真っ黒いプロテクターで揃った三人の騎士は確かに精悍な印象を与えるな。

 ミルーは最後に騎乗する前に家族全員の顔を眺め、ゼットとベッキーを抱きしめた。そして、さっと馬に跨り従士達に出発の合図をするとだく足(トロット)で出発した。にこやかに手を振る従士達と、後ろ髪を引かれるような表情のミルーが対照的だった。三頭の軍馬に跨った三人の騎士がバークッド村を南に縦断していく。真冬とは言え、畑が広がる牧歌的な風景の中に映る黒い鎧の三つの騎馬姿は否応なくここはオースなのだと俺に思い知らせてくる。あの先頭の凛々しい姿は俺の姉ちゃんなんだぜ、信じらんねぇ。



・・・・・・・・・



7442年1月25日

 つい数日前、俺のレベルはまた1つ上昇し10になった。あと20日もすれば14歳になる。加齢に伴って更に強くなるだろう。そして、そんなことよりも走りながら、剣で戦闘しながら魔法が使えるようになったことが俺の戦闘力を大きく底上げしてくれたはずだ。今は何か別の行動をしながら魔法を使う練習にかなりの時間を割いている。

 たった10日弱の練習期間だったが、一度開眼したら練習を重ねれば重ねるほど成功率が目に見えて上昇するのが手に取るようにわかる。これも何らかの特殊能力と言えるのかと思って自分を鑑定してみたが、別段変わった事はなかった。騎乗しながら弓を撃つ人だっていない訳じゃないだろうし、一輪車に乗りながらお手玉を出来るようになったとかという程度のものなのだろう。その割には4年近い修行期間を必要としたのだから、かなり難しい技術だろうとは思う。

 もともと魔法、いや魔術だって10回も練習すれば発動のための集中時間は当初の半分くらいにはなるのだ。コツさえ掴めてしまえばある程度までの上達にはさほど時間を必要としないことも頷ける。それに、この「何かをしていながら同時に魔法を使う」という技術を完成させたのは俺くらいだろう。一番簡単な魔法とは言え毎日数時間走っている間中魔法を使い続けるだけのMPなんか誰も持ってないだろうし。発動に失敗すれば得られる経験はゼロだから、俺は今まで何十万というMPを有効に使わず、修行のために捨てていたようなものだ。

 きっとこの技術は俺の大きな武器になるだろう。



・・・・・・・・・



7442年2月14日

 14歳になった。オースで14歳と言えば前世では世間からは高校卒業くらいの感じで扱われる年齢だ。農耕用の家畜を導入する前のバークッドのような村では1haくらいの畑を完全に任される事もある。バークッドでは機械化ならぬ家畜化が浸透し始めて来ているので、もう少しシステマティックになっているから最近では一人の人間が一つの畑の管理をすべて行うということはあまり見かけないが、まぁ一人前と言ってもいいくらいだ。

 両親の前で、走りながら、素振りをしながら、ファーンと組み手をしながら魔法を披露したら二人共目を丸くして驚いていた。すでにトレーニング方法(走りながら魔法を使うようにひたすら頑張るだけだが)をファーンとミルーに伝えていることを説明し、ミルーはともかくファーンは既に始めていると言ったら妙に納得したように頷いていた。多分ここ数年、俺が昼ごろになると村中を走っていたことを思い出したのだろう。ランニングは単に体を鍛えるためにやっていたと思われていたようだ。別に間違いではないし、もともと魔法が使えるようになるほうが余禄だったわけだから正解といえば正解だよ。

 その日の晩、食事をしながら妙に改まった感じでヘガードが話してきた。

「アル、お前は将来どうしたい? 何になりたい?」

 なんだ? 急に?

「え? 将来……ですか。……なりたいものはあります」

 ちょっと、全員の注目を浴びて恥ずかしいじゃないか。

「ん? なんだ? 騎士になるか? お前ならミルーを通じて第一騎士団に入ることも出来るかも知れんし、仮に入団試験を断られてもウェブドスの騎士団ならなんとか押し込めるかも知れん。……それとも、商売でも始めるか? 今なら多少の蓄えはあるから援助も出来るだろう」

 するとシャルが口を挟んできた。

「そうねぇ、あなたはこのまま従士になるのは勿体無い気もするわねぇ。商人になっても成功しそうだし、騎士になってもかなりのところに行けるでしょうけど、流石に家の子が三人とも騎士になるのは寂しいわね」

 母親だからなのか、ミルーが居なくなって寂しいのかシャルは俺を遠くにはやりたくないようだ。

「ちょっと待って、父さん、母さん。アルはなりたいものがあるって言ってるじゃないか。アルの話も聞かずに勝手に話を進めるのはどうかと思うよ。アル、正直な話を言うと、お前のおかげでバークッドは豊かになった。さっき父さんが言ったとおり蓄えもそれなりに出来た。もともとゴムだってお前が見つけてきたものだからな」

 ファーンが助け舟を出してくれるようだ。続けてファーンは言う。

「だから、本来から言えばお前は家の従士になるのが普通だけど、選択肢は沢山ある。騎士だって商人だってそれなりに元手は必要だ。別に父さんや母さんをクサすつもりは全く無いけど、ゴムがなければバークッドは俺達が子供の頃のままだったと思う。多分俺がウェブドスの騎士団に入るときは剣はともかく鎧で大きな出費があった筈で、それはきっと家にとってものすごい負担になったと思う。なぁ、シャーニ、そうだろう?」

 急に話を振られたシャーニはちょっと驚いたような顔をしたが、すぐに答えた。

「そうね……ウェブドスの騎士団だってスプリントメイルはともかく、スケイルメイルやチェインメイルくらいは持って入るのが普通だしね」

「そうだ。ゴムがなければゴムによる収入も無く、そういった出費だけがあったはずだ。ゴムは丈夫で優れた鎧にもなったから、出費も必要で無いばかりかゴム製品を売ることで大きな収入をもたらしてくれたんだ。忘れがちだけど、出兵にあたって村の従士達も直接的に守ってくれた。誰が何と言おうが今のバークッドを作ったのはお前の見つけてきたゴムなんだよ。だから、お前は何も気にせずやりたい事をやれ。もしお前が別の村の開墾を目指すならその援助だっていくらでも大丈夫だ」

 シャーニの言葉を受けてファーンが言った。

「貴方だって自分の考えを言ってるじゃない。お義父さまとお義母さまに何も言えないでしょう?」

「い、いや、俺はただ、そういう道も選択できると言うことをだな……」

「もういい。アル、悪かったな。お前はどうしたいんだ?」

 不毛になりそうな会話を引き取ってヘガードが俺に尋ねた。

「……僕は、僕は外国に行ってみたい。いろいろな場所を見て、聞いて、どんな国があるのが確かめたい。そして……」

 話し始めた俺に再び注目が集まる。

「そしていつか……僕は……いや、俺は……小さくてもいい。俺の国が欲しい」

 シャルは少し目を見開いたあと、微笑して俺を見ている。
 シャーニは意外そうな顔で俺を見つめている。
 ファーンはちょっとだけ寂しそうな表情をした後、真剣な顔になった。
 ゼットはスプーンでオートミールを掬うのに熱心で。
 ベッキーは手を伸ばしてゼットの皿から焼肉を取って自分の口に運んでいた。

 そしてヘガードは、俺の言葉にしっかりと耳を傾けた後、言った。

「いつかこうなる気がしていた……。いつか、お前は似たようなことを言って家を出ると思っていた。家を出るのはいい、次男だしな。だが、今の言葉は本気で言っているのか?」

「ああ、勿論本気だよ、父さん。俺は、俺のために、俺の国が欲しい。ここロンベルトだって500年前にジョージ・ロンベルト一世陛下が作ったと言うじゃないか。ならば、俺はアレイン・グリード一世を目指す。いつになるか、どこになるかはわからないけど、俺の国を作るんだ」

 しっかりと親父の目を見つめながら答えた。

「そうか……お前が自分で決めたんだ。夢物語だろうと俺は何も言わん。で、いつ頃出たいんだ? 時期はもう考えているのか?」

「ええ、それなんだけど、春位を考えているんだ。気候も良いし、当面は世の中を見て回りたいですから。それに、出る前にゴムの製造について完全に指導しなきゃいけませんし、他にもやらなきゃいけない事もあるしね」

 言葉遣いが変になったが最初はこんなもんだ。

「そうか。わかった。春頃か、いいだろう。アレイン、家を出ること許可する。それまでに片付けなきゃならんことはやっておけ。皆、いいな、この話は終わりだ」

 ヘガードは俺の夢に共感はしてくれなかったが理解し許可を与えてくれた。それだけで充分だ。



・・・・・・・・・



7442年2月30日

 ゴム製品の指導についてはもう殆ど俺を必要としていないので、実は無いも同然だ。俺がやらなきゃならないのは、インフラの改善になるような試作品と言えるものをいくつか追加で作ることと、もう一つ、あのホーンドベアーを今度こそ一対一で殺すことだ。

 今俺は村の北西部の山地にある獣や魔物の水場に来ている。ここでキャンプして四日目だ。水場から少し離れた場所をキャンプ地と定め、ハンモックを張り、ハンモックの1mくらい上に更にロープを張ってそこにゴム引きの布をかけて布の端はロープを伸ばして地上に固定する。こうすると即席のテントの出来上がりだ。食料などの荷物は同じくゴム引きの布で作った袋に入れ、ハンモックから吊るして置けば濡れる事も無い。

 昼間はテントから距離を置いて水場を監視し、夜だけ戻って休むという生活は、非常にしんどいものだった。いつあいつが現れるかわからないから適当に魔法を使って修行するなどということもいざという時のことを考え自粛せざるを得ないし、剣の稽古やランニングなどもってのほかだ。

 匂いを消すために出来る限り泥を体になすりつけ、水場が見える場所に身を潜めて過ごす時間のなんと辛い事か。今日も冷たい泥を体になすりつけ、さあ、退屈な仕事を始めようとした矢先、ホーンドベアーが現れた。

 遂に来たか。遠目に鑑定するとやはり目的の奴だ。のっそりと水場を目指して歩いている。いつもいつも奇襲を受ける俺じゃないぜ。今度はこっちが先手を取ってやる。出来れば一撃でカタをつけたいから、ここは『アイスジャベリンミサイル』でやってやろうか、お前の父親を殺した魔術だ。

 落ち着いて魔力を練り、電信柱のような氷の槍を作り、加速のためにさっさと後方へ移動させる。もう少し、もう少しで誘導の射程圏内に入ってくる。あと50m、40m……。水場を挟んで若干左方向から寄って来るホーンドベアーを睨み付けながらタイミングを窺う。射程に入ったらすぐに加速して発射だ。あの距離なら充分に一撃で殺せる。電信柱こいつの威力なら貫通するかも知れんな。ほくそ笑みながら死神のような気持ちで舌なめずりをする。あ、唇に塗った泥も舐めちゃった。汚ねぇな。

 射程圏の200mまであと10mくらいのとことで奴は振り返った。今なら発射しても最後の10mくらいは慣性で充分な勢いがついたままだろうから、行けるだろう。こちらの方向を見ていないうちから加速させられるのもいい条件だ。よし、行くぞ。加速開始だ。

 俺の後方200mに氷を維持したまま誘導で浮いている電信柱に対して魔力をつぎ込み発射する。同時に加速開始だ。多分三秒ほどであそこまで届く筈だ。俺を中心にして400mの距離を速度ゼロから三秒。最終的な速度は時速5~600kmくらいじゃないだろうか。方向を微調整して邪魔になる木などを避けつつ『アイスジャベリンミサイル』を加速しつつ誘導する。

 これだけの重量で、且つ先を尖らせている。貫通させてやる!! 今まで何度も煮え湯を飲まされてきた相手を目掛け、全身全霊の集中力で俺の魔力の結晶を翔ばす。電信柱が俺の誘導圏内を飛び出し、今、まさに今、振り返った姿勢から改めて水場に視線を移そうとした奴の肩口から串刺しするような格好で突き刺さった。

 貫通こそしなかったものの、電信柱のお尻は奴の体内にある。もう少しで完全に貫通したのにな。まあいい、俺は獲物を検分するために立ち上がり、ゆっくりと歩いていく。鑑定すると状態は死亡を通り越して【ホーンドベアーの死体】になっている。即死を通り越したようだな。あのでかい体を貫通するほどの勢いで電信柱をぶつけたのだ。幾ら耐久の値があってもHPは一気にマイナスになっているだろうしこれも当たり前だろう。

 はっはっは。やったぜ。遂にやってやった。ストラップで肩に担いでいた銃剣から剣を取り外し、それを意気揚々と振り回しながら鼻歌さえ口ずさみたい気分で歩いて近づいていく。取り合えずこいつから残っている肝を取って腹の肉を多少削って帰れば今晩はあの美味しい熊鍋だ。ゼットとベッキーも喜ぶだろう。おっと魔石も回収しないとな。

 ここ数日、思い切り塩胡椒の効いたベーコンばかり齧っていたからジューシーで新鮮な肉を心ゆくまで堪能出来る期待に胸を膨らませる。楽しみだなぁ。あ、そうだ、解体するなら長剣じゃなくてナイフのがいいか。いやいや、あんなでっかい熊だし最初は剣じゃ無いと切るのも大変だ。ああ、キャンプに置いてあるゴム引き布やハンモックを諦めればもっと沢山肉を持って帰れるだろう。ハンモックとかはあとで取りに来ればいいや。まだ早朝だし、今日のうちに往復くらい充分に出来るだろう。次は誰か人を連れてきてもいいしな。

 ホーンドベアーの死体まであと50mくらいだろうか、傍に何か居るのに気づいた。びくっとして剣を握りなおす。同じ毛色なので気がつかなかった。あと、出しっ放しの鑑定のウインドウに隠れていたのも原因だろう。子熊だ。体長1mもない子熊がホーンドベアーに寄り添っている。こいつの子供だろう。子熊は俺など眼中に入らないのかしきりと母熊に体を寄せているようだ。もう乳離れ出来ているのかいないのかは解らないが、きゅるると鳴いている。

 ああ、お前はこいつがいたから振り返っていたのか。こいつがいたからここ暫く姿を見せなかったのか。

 とにかく子熊がいるからには父熊もいる筈だ。昔は番で殺したのだ。鑑定のウインドウを消し、さっと姿勢を低くしてあたりの様子を窺う。暫く観察したが特に大型の動物はあたりには居ない様だ。父親が傍に居ないのは意外な気もするが理由なんか考えても解るはずも無い。

 視線を戻すと子熊はまだ母熊の死体の傍にいた。母親が死んだことを理解できないのか相変わらず、きゅるる、きゅるると鳴いている。一見すると可哀想で、同時に愛らしくもあるが、こいつはホーンドベアーだ。鑑定にもホーンドベアーと出ている。放って置いてもいずれ死にそうな気もしないではないが、魔物に違いない。いや、ただの獣かも知れないが、咆哮なんていう特殊技能は普通の獣では持っていないだろう。

 10mくらいまで近づき、用心深く様子を窺ってみるが、子熊は相変わらずこちらには注意を向けてくることは無かった。俺くらいの小さな尻をこちらに向け、子熊はしきりと無反応な母熊に何か訴えるように泣き声をあげていた。お前のお袋さんはたった今俺が殺した。可哀想だが仕方ない。場合によっては数年前の俺がこうなっていたかも知れないんだ。そして、俺は可哀想という理由でお前を見逃すつもりは無い。

 大きくなったらゼットやベッキーに襲い掛かるかもしれないお前を放って置くのは無理だ。右手に剣をぶら下げたまま、左手を子熊にかざす。そして、青く光る掌から電撃が放たれる。ぎゃん、と鳴いて子熊が倒れこんだ。再度鑑定し死亡を確認した後、子熊に近づくとゆっくりと胸に剣を立て、解体する。そして、母親のあいつも解体する。

 肝を取り、腹の肉を削ぎ、それらをゴム袋に入れる。そして電信柱が貫通し飛び散った肉片から魔石を探し当て回収する。子熊の魔石はまだ黒っぽかった。二つの魔石を結合させることなく、俺はそっとポケットに入れた。



次回で第一章は終わりです。
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