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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第一部 幼少期~少年時代

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第五十二話 騎士の条件

7442年1月15日

 模擬戦を終えた俺たちは家に戻り、シャワーを浴びつつ話を続けていた。まだ時刻は日の出くらい、6時を少し回った頃だろう。そろそろ朝飯のはずだ。

「ところで、何でまた冒険者が向いているなんて言うのさ?」

「えー? なに?」

 シャワーを浴び石鹸で頭を洗っていたミルーが言う。良く聞こえていなかったんだろう。

「だから、何で俺が冒険者向きなのかって話だよ」

「ああ、簡単よ。あんた、そのまま第一騎士団に……ううん、第一じゃなくてもいいけど騎士団に入ったらいろいろ苦労するわよ。私だって大変だしね」

「なんで?」

「騎士は飛び道具嫌いだしね」

 ああ、それはファーンから聞いたことがあるな。飛び道具とは卑怯なりぃ、って奴だろ?

「でも、姉ちゃんはあの従士の二人から褒められてたじゃんか」

「うん、まぁね。嫌いでも有効は有効だしね……。でも、そのせいで剣が疎かになるって考え方もあるわ。普通はまず剣と槍と馬。それが出来た上に余裕があれば弓とか魔法ね。弓は馬上で撃つのは本当に難しいからまずやってる人はいないわね。大して飛ばないし、射程ぎりぎりだと本当に急所にでも当たらない限りは盾や鎧ではじかれたりするし、たとえ当たっても距離があるからすぐに治癒魔法使われたらそれまでだしね。乗馬しつつ移動している相手の顔面に当てられるような人なんかいるわけないしね」

 それもそうか。俺は弓といえば狩人のドクシュ一家が使っているものしか知らない。全長は1m程度で有効射程は狩の対象となる獣相手に20mくらいだ。それ以上だと刺さっても目にでも当たらない限りはたいした傷にはならない。まして逃げている獣の目に当てるなんて出来っこない。那須与一が使っていたような大人の全身より背の高い和弓のような大弓なんか聞いたこともないし、モンゴルの騎兵が使っていたという複合弓コンポジットボウなども聞いたことはない。

 唯一例外として射程が長く威力のあるものにクロウボウがあるが、騎兵が最初に一射して終わりか、専用の歩兵が使っても一分間に一射出来るかどうかくらいの連射性能だ。射程だって水平射撃で100mくらい、有効射程にいたっては50mもの距離があるそうだ。斜め45度で曲射するならもっと飛ぶがまず当たらないと言われている。まぁ、普通の弓の有効射程である20m位までであれば板金鎧も貫通して装着者を傷つけられるようだし、クロスボウの威力はたいしたものだ。連射できないと言っても騎士には脅威だろうな。魔法には敵わないが。

「なるほどね。でも姉ちゃんだって出来る苦労なら俺だって出来るだろ」

 ミルーはそれを聞いてちょっとムッとしたようだったが、すぐににこっと笑って言った。

「アルはさ、……そうね、父さんと同じくらいの剣の腕を持っている人ってどう思う?」

「そりゃーすげー人だろ。兄貴も言ってたけど、ウェブドスの騎士だって父さんくらいの腕の剣の使い手はなかなかいなかったって言ってた」

「そうね、私もそう思うわ。で、そんなすごい人がたまたまあなたの先輩とか上役になることもある。そしてその人は剣の腕に自信も誇りも持っているでしょうね。そういう人をぽっと出のどこの馬の骨ともつかないような従士が魔法でコテンパンにしたらどうかしら?」

「……いたたまれない気持ちになるだろうなぁ」

「でしょう? そういう事を私はやってるの。あんたに出来る?」

 出来る出来ないで言ったら当然出来る。こちとら生き馬の目を抜くような日本のビジネス界で20年近くも営業をやって来たんだ。出来ない訳がない。だが、ミルーはそんな俺の本性なんか知らないだろう。仮面を被って生きてきた俺しか知らないのだ。そして、今の言葉は仮面に向かって言っているのだろう。優しいな。それよりもミルーが思ったよりいろいろ考えているのがわかり、そちらの方がミルーの成長を感じられてずっと嬉しかった。

「きっとアルは持て囃されるわ。私以上に魔法の才能があって、多分剣の腕もそこらの騎士くらいはある。あの変な槍を使ったら私でももう勝てないでしょうね。それどころかアルの剣を見たからわかるけど、あの槍を使えば第一騎士団の正騎士だって最初は負けると思うわ。力もついた様だし、体だって結構大きくなったからね」

 そう言うとミルーは後ろを向いて手を広げた。乾かせと言うのだろう。昔はいつもやっていたことだからすぐにわかった。乾燥の魔術を使い濡れたミルーの体と髪を乾かしていく。

「でもね、きっとあんたはそれを申し訳なく思うでしょう。自分がいなかったらもっと評価されているはずの人達が目の前にいれば特にそう思うはずよ。そして、それはきっと騎士団長くらいになるまで続くはずだわ。いえ、騎士団長になったとしても自分がいなければ代わりに騎士団長になっていたはずの人に対して、永遠にそういう気持ちを持ち続けることになるわ。だからあんたは騎士団に向かない」

 大きな勘違いなうえ、完全なる誤解だ。だが、ミルーは俺の仮面に言っているのだ。真剣に俺のことを考えて。

「だからそういった組織のしがらみのないところでやったほうがいい。そして、自分の騎士団を作ればいい。皆をまとめてゴム製品を作れるんだからね。プライドの塊みたいな騎士団にあとから所属するわけじゃないし、あんたなら出来ると思うわよ」

 やるって何をだよ、と思うがそれは「人生を歩む(やる)」ということだろう。自分の騎士団ってのは……自分の配下、とか自分の組織ということか。ああ、俺の場合自分の国ってのがぴったりだ。

「兄さんには悪いけど、あんたが長男だったらまた違ったかもね」

 そういうこと言うなよ。唯でさえ褒められて背中がむず痒くなってるのに。

「兄さんにはとても敵わないよ……。兄さんは騎士団でも魔法の技量を隠し通したんだ。シャーニ義姉さんはもう知ってるみたいだけど。それに、兄さんは……昔からまっすぐだった。曲がらず、折れず、いつだって格好良かった。兄さんが言うなら村の皆も何でも言うことを聞くだろうね。俺なんかとても兄さんの足元にも及ばないよ」

 これは本音だ。知識だとか魔力だとかを除いて、裸の人間一匹で考えると俺は前世から通して思い返してみてもファーンほど凄い人間を知らない。ファーンはいつだって真剣に考え、いつだって正しかったんだ。

 俺が素直に心情を吐露すると、それを聞いたミルーが目をむいた。

「はぁ? 当たり前でしょ? 何言ってんの? 私が言ったのはそういうことじゃない。あんたが長男だったらもう少し上手に世渡り出来るような性格になった筈ってことよ。勘違いすんな、馬鹿。あんたなんか兄さんと比べたら馬の糞にたかる銀蝿以下だわよ。蛆虫以下の下等生物のくせして兄さんと比べるほうがどうかしてるわ! もう一度殴りつけて髪と目の色に顔色も合わせてあげようか? 顔中痣で真っ黒にして解らせてあげる!」

 ……。

「っだと、コラ! もう一回コテンパンにのしてやる! ああ、そういや昔のプロテクターが合わなくなったろうから新しいの作ってやろうと思ってたけど、その気の毒な胸じゃ必要ねぇよなぁ。表に出ろこのクソアマ!」

 俺とミルーは素っ裸で殴り合いを始めようとしたが、

「いい加減にしろ! この馬鹿ども! ミルー! 従士達にも聞こえるぞ! アル! お前もそんな行儀の悪い口のききかたは止めろ! さっさと服を着て飯を食え!」

 親父が急に現れて一喝され、姉弟間の戦争勃発前に諍いは収束した。
 いつから聞いてたんだ?



・・・・・・・・・



 客がいるからか少しだけいつもより上等な朝食だった。朝食の間中、ミルーはまた登場時のような上品でお堅い喋り方に戻っていた。猫被りやがって。

 ミルーはあと三日滞在するらしい。一月半もの休暇で、実家で過ごせるのが合計四日間か。王都は遠いんだろうな。本当にミルーとはこれで最後になるのかな。

 ミルーの従士達は相変わらず礼儀正しく食事をしている。さっきの俺とミルーの会話の全てが聞こえたはずはないが、最後の言い争いは耳に入った可能性がある。だが、彼らは丁寧に無視することに決めてくれたようだ。様子の変わったところはない。何で俺が姉ちゃんの心配をしなきゃならんのだ。くそ。

 朝食が終わり、ミルー達は散歩がてら体を休めるようだ。俺と兄夫婦は子供をソニアとシャルに預け、いつものように魔法の修行に出かける。村の外れの背の高い草原を直径50m程焼き払って作った魔法修練所だ。魔力の少ないシャーニに魔法を使わせ休ませる。MPが6を割らないように、いつも適当に魔法を使わせ、経験を積ませている。俺は『アンチマジックフィールド』の魔術でファーンの修行をサポートする係だ。ファーンもいろいろな魔法を使うが、『アンチマジックフィールド』の中でやるようにしているのでじっと見ていてもどのくらい魔法を使ったのかは解らないだろう。

 ファーンの魔法の修行が終わる頃に少しだけ回復したシャーニがもう一度魔法を使って修行は終わりだ。いずれシャーニもグリード家の魔法の秘密について説明を受けるだろう。その時にはファーンもすべてを見せるのではないか。その頃、俺はいないと思うけど。

 魔法の修行が終わると剣の稽古だ。こちらは家の傍の稽古場で従士たちと一緒に行う。俺達が稽古を始めると、三々五々従士達が集まってくる。剣の素振りをするもの、組み手をするもの、一連の流れを取り決めた約束組み手で防御や攻撃の練習をするものなど様々だ。俺は稽古場の隅に立っている木にゴム板を藁縄で巻きつけた巻き藁もどきを相手に、エボナイトで作った木銃で稽古をする。体が温まってきたところで兄夫婦を相手に組み手だ。銃剣スタイルなら二人どころか三人を相手にしても戦えるようになった。その後は木剣に持ち替えて従士を含めた全員と順番に組み手をする。最後のほうは全員へろへろだから実力が近いならいつまでもいい勝負になるのだ。そして、一休みしたあと、俺とファーンは隅っこでまた組み手をする。

 今朝出来たことを試してみよう。組み手の前に素振りをしつつ魔法を使ってみる。あ、これは出来る。すぐにキャンセルし、ファーンに向き直る。今のを見ていたのか、ファーンは驚いたような表情をしている。よし、行くぞ。ファーンとの組み手が始まった。何合か打ち合うが、これならなんとなくいけそうな感触だ。ファーンと鍔迫り合いになったとき、今朝ミルーにしたように『エアハンマー』の魔術を使ってファーンを跳ね飛ばせた。まだ失敗もあるが、何度も練習すれば確実に出来るようになるのは時間の問題だろう。

 ファーンにコツを聞かれたが、コツなんかわからん。心を出来るだけ平静に保ち、体の動きを意識しない、というくらいだな。走りながら魔法が使えるようになればじきに出来るようになるとも言っておいた。俺も4年近く毎日毎日飽きもせず頑張ったのだ。ファーンならもっと短い時間で出来るようになるのかもしれないな。今日からファーンも一緒に走るらしい。

 稽古が一時終わり昼食だ。飯を食ったら俺はプロテクターを着けたまま走りに行く。今日からファーンも一緒だ。最初だからプロテクターを外したほうがいいと言うと、ファーンは素直に従った。この素直さがファーンの取り柄だ。決して自分の力を過信せず、謙虚に受け止める。六つも下の弟から無理しないで良いと言われるとその通り受け取り格好をつけることもしない。14歳前の俺がプロテクターを着けて走っているのに20歳近いファーンは格好つけずに俺の忠告を受け入れる。

 なかなか出来ることじゃない。そして、全てに一生懸命に取り組むのだ。効率よく長時間走るための走法や、呼吸など、取り入れられるものはどんどん取り入れ自分の力にしていく。効率のいい方法になるように改良したりなど、工夫もする。そしていつか先達をも追い抜くのだ。騎士団でもこうやって頑張っていたであろうことは疑う余地もないだろう。絶対にいい領主になると思う。従士達は物好きにも走っている俺たちを横目に稽古の続きをしている。走りながら魔法を使ってみるとやはりある程度使えるようになっていた。失敗確率は5割といったところだ。うむ、ついに掴んだな。

 ランニングから帰ってきてからはゴムの製造だ。俺はもう殆ど手出しすることもない。俺は俺の魔法の修行に出かけることが多い。ダイアン達ゴム専従の従士やファーンが指導、監督役だ。また魔法修練場に出かけ、魔法の精度を高めたり、魔法による攻撃の練習をしたりする。土山を出して走りながら打ち込む練習もした。多少は成功確率も上がったかもしれない。

 そうして修行をしている時だった。ファーンが走ってきた。緊急事態か!? ファーンは笑っているようだ。一体なんだろう?

「おい、アル、これを見てくれ」

 ファーンが差し出したものは……薄茶色の物体だった。

「これは……?」

 風船のようだ。いや、玉羊羹じゃないし、勿論ただの風船でもない。そうか、ついに……。ついにやったんだな。流石だよ、兄さん。

「まだ試作だが、いろいろ配合を試した。ゴムを無駄には出来ないから少しずつやっていたんで時間がかかっちまった。だが、こいつは凄いぞ。厚さは今までの半分近くになったが、耐久力は倍ほどではないがかなり上だと思う。厚さが一緒なら耐久力は2~3倍以上ってことだ」

「なるほど、確かに凄いですね。これなら破れ難いでしょう。たいしたものです」

 ファーンは少し照れたように微笑みながら言う。

「ああ、試作するたびに工夫を重ねてきたからな。配合率もばっちり記録してあるから偶然じゃないぞ。ありがとう、アル」

 なぜ礼を言うのか。

「そんな、礼を言われるようなことはして「いいや、礼を言わせてくれ。最初に考えたのはお前だ。俺はそれに乗っかって改良したに過ぎん。おそらくお前が考えてくれなかったら俺は一生、豚の腸で満足していたかも知れん。豚だってそうそう潰せないからな。これならゴムもちょっとしか使わないし、いいものが出来たのはお前のおかげだよ」

 俺の功績にしてくれるのか。

「で、これは幾らくらいで売るのですか?」

「え?」

「あ、いや商会への卸値ですね」

「え? 売らないよ。だって俺のために作ったんだし……」

 は?

「売らないって……勿体無いですよ。売れるんじゃないですか?」

「え? 売れるかな? 完全に生ゴムだけじゃないけど、これだけ薄いと村から商会に卸すときには硬くなっちゃってると思うぞ?」

 ああ、その件があるから売らないと言ったのか。

「いやいや、こうやってくるくる巻いて小さくすればいいですし、これを小さなゴムの袋に入れてきちんと閉じて中に例のローションを入れておけば暫くは保つのではないでしょうか?」

「おお! そうだな! だが、一個ずつゴム袋に入れるとなると手間だな。あ、ゴム袋を少し大きく作って10個くらい纏めて入れればどうだ?」

「それはいい考えですね」

 いいアイデアだと思う。纏め売りになるから売り上げもあるだろうし単価も少し抑えられるかもしれない。何より10個単位で買ったら、顧客は10回は使うことになるだろう。勿体無いし。そうしたらこいつの魅力に取り付かれるだろうな。

「おお、良し、それで行こう。もうすぐ5番の畑もゴムが取れるようになるだろう。そうだ、こいつの名前を考えないといけないな。折角だからアル、お前がつけてくれ」

 コンドームなんて言ってもそんな言葉はオースには存在しないから意味わかんねぇだろうし、困ったな。

「うーん……いい名前が思いつきません」

「そうかぁ、そうだよなぁ。ああ、そうだ。最初の発明者はお前なんだし、お前の名前で『アレイン』ってのはどうだ?」

 勘弁してくれ。国作りの障害になる未来しか思い浮かばねぇ。将来の禍根は早めに絶つべきだ。

「単に『鞘』ってのはどうですか? 剣になぞらえて」

「『鞘』、『鞘』か。よし、それで行こう」

 気に入ってくれたようだ。

「で、どの位の値で卸しますか?」

「そうだなぁ。10個一組って言っても大してゴムは使わないだろうしなぁ。その割には手間もかかるし、ローションも必要だ。10000ゼニーくらいかな?」

 そりゃ高いだろうな。10000ゼニーと言ったら哺乳瓶と同じくらいだ。感覚的には一万円くらい。銀貨一枚。農奴を所有していない平民の農家の一年間の可処分所得の50分の一くらいだ。あ、いや、まてよ?

「うーん、キールあたりだと豚の腸は幾らくらいで売っているのでしょう?」

「え? うーん。だいたい1000ゼニーくらいかな? 豚一頭分だと10000ゼニーくらいだろうなぁ」

 ソーセージが流通していない訳だわ。

「だとすると少々高くはありませんか? 豚一頭の腸からだと沢山作れますよね?」

「ああ、高いな。だが、安くすると普通の奴隷達や娼館などでも大量に使われるだろう。いくら少ししかゴムを使わないと言っても一気に沢山使われると生産に響くだろう。特にこいつは包装に手間がかかりそうだから、注文を捌けなくなりそうだ」

 確かにその問題はあるな。

「うーん、そうなると幾らの値をつけたものか僕は良くわかりません。父さんに相談してみたらどうでしょう?」

「ええっ!? 父さんにこいつの話するのかよ……実際に試してもらうって言ってもなぁ……ちょっと考えさせてくれ……」

 無理もない。

「お願いしますね。僕から話すのはちょっと、その、どうかと思うので……」

「うーん、お前から話してくれると有難いんだが……もういい年だし、お前もうしたことはあるのか?」

 そりゃ結婚してたくらいだし当然ある。ここんとこはとんとご無沙汰だが。だいたいそろそろ14歳になるのだし、早い奴は結婚だってする年齢だ。

「僕、親しくしている女の子がいるように見えますか?」

「見えねぇ……そんな時間無いだろうし、万が一子供でも出来ちまうと問題だしな……いや、からかうつもりはなかったんだ。騎士団に入れば先輩がそういう店に連れて行ってくれることもあるんだが……俺も最初はそうだったし」

 ファーンは玄人相手に捨てたのか。別にいいけど。何となくだけど、シャーニが最初だと思ってたわ。そんなわけねぇか。

 俺は12歳くらいになったときに性教育を受けた。田舎士爵の次男とは言え、一応貴族なので変な相手に子供を作らないようにだ。村の人間ならまだマシだが、隊商の護衛の冒険者の女なんかは要注意だとも言われていた。世継ぎを設ける前にファーンが戦死したりすればグリード家はミルーか俺が継ぐことになるし、そういうのを狙う女だって居ない訳じゃないのだ。だから、貴族には身持ちの固い人間も多いらしい。将来のトラブルを防ぐためだ。

 俺の知る限り、シャーニはファーンが最初だと思う。村に来た直後に痛がっている声を聞いたこともあるしな。彼女もウェブドス侯爵の直系の孫で長女だ。男の兄弟が複数いたからファーンに嫁いできたのだし、きっと身持ちも固かったのだろう。

「わかりました。努力はしてみますが、タイミングとかありますし……兄さんもタイミングがあれば僕よりも先に話してくださいよ」

「ああ、そうだな……」

 俺たちは顔を見合わせるとため息をつき、家路に着いた。



・・・・・・・・・



 家に帰るとミルーたちも戻っていた。しょうがねぇな。

「姉さん、ちょっといいですか。サイズを測ります」

「……ちゃんと作ってくれるんでしょうね?」

 うっせぇな。やる気が削がれるだろうが。

 帰るまでにはちゃんと作ってやるよ。

 プロテクターは鎧下の上に装着するから鎧下の上からサイズを測る。胸囲を測るあたりでいやみっぽくクスリと笑ってやった。食堂でやっていたので興味深そうに従士達が作業を見ていたからか、殴られはしなかった。殺されそうな目つきでにらまれたが、そのくらいは計算済みだ。

 明日には当たりをつけた物が出来、内側の修正をして完成だ。プロテクターの製造スケジュールを話していると従士達はそんなに早く出来るのかと驚いていた。大体の型はあるから微調整が必要なくらいでどうせ大して手間もかからないし、一緒に作ってやろうか? 一応ミルーに確認したら仕事が増えるし商品を作るゴムがその分減るとか抜かしやがった。じゃあ、お前のプロテクターだって一緒だろうが、馬鹿姉貴。だいたいお前が心配することじゃねぇよ。

 馬鹿は放って置いて、折角村まで来たし、こんな奴のお守りも大変だろうからとへガードから言ってもらい、一緒に作ることにした。二人は非常に感謝していた。そういえばプロテクターを販売したのは狩人のドクシュ一家だけだな。ファーンとミルーを除けばこの二人が始めて村以外の場所で恒常的に使うことになるのか。へガードはちゃっかりとプロテクターの良さをアピールしていた。ウェブドスの騎士団から販売の打診を受けたときもゴムの量が足りないからと断っていたはずなんだが、どういう風の吹き回しだ?

 そう思ってあとで聞いてみたら、今まではチャンスを狙っていたそうだ。第一騎士団に直接納入を構想しているらしい。それに、第一騎士団御用達となればブランド力は一気に高まる。値も吊り上げて売ることが出来る。当面はサイズも測らなければいけないし、ここまで来れることが条件になるだろうが、まとまっての需要があれば王都まで出向いてサイズを測りに行ってもいいと言っていた。

 ブランド化か。いいアイデアだ。親父は商人の方が向いてるんじゃね? そもそも鎧は非常に高価なものらしい。革鎧くらいだと銀貨50枚くらいする。金属製の鎖帷子で金貨10枚前後、薄い金属の板を重ねて作るスプリントメイルとかスケイルメイルって奴だともっと高くて金貨20枚以上に跳ね上がる。全身板金の鎧だと最低でも金貨4~50枚はくだらないと言う。騎士は最低でも鎖帷子以上はないと格好はつかないから、非常に金がかかるというのも頷ける。

 既に騎士団を退職しているファーンはいいとしても、ずっとゴムプロテクターのミルーは金属鎧でなくて格好はつかないのだろうか? 急に心配になってきた。恐る恐る従士たちに尋ねてみると、実は皆欲しがっているらしい。軽くて取り回しも良く、その割には金属鎧に迫る防御力が魅力なのだそうだ。だが、ミルーに聞いても「販売はしていない」という返答で諦めていたそうだ。勿論鎧は常識としてかなり高価なものなので売っていたとしてもおいそれとは買うことは出来ないだろうが、田舎者のミルーだって最初から使っていたのだからスプリントメイル程度の値段だろうと思われていたらしい。

 俺はせいぜい金貨3枚くらいだろうと思っていたのだが、鎧って物凄く高いんだな。確かに商隊護衛の冒険者は革鎧しか着ているのを見たことがない。こりゃあれだけ感謝されるのも頷ける。只でサンプルをあげるんだから一生懸命宣伝してくれよ。

 翌日出来たミルーのプロテクターは胸の表面を盛ってやった。俺の優しさに涙しやがれ。

 勿論、感謝などある訳もなく、微妙な顔でプロテクターを眺めていた。

 
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