挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第三部 領主時代 -青年期~成年期-

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

501/518

第百八話 辺境にて 1

 7449年の終わり頃。

 二人の男女がゲイレットの街の中心に向かう道を進んでいた。
 ゲイレットはロンベルト王国の東部に位置するリーンフライト伯爵領の中でも更に東に位置する、あまり規模の大きくない街である。
 だが、隣国であるカンビット王国へと続く街道の宿場街として、普段は規模の大きな隊商などが羽根を休める、交通の要衝でもあった。

「いつも通り、まずは行政府に?」

 鞍に座り、馬の手綱を操作しているのは女の方だ。
 安物だが手入れの行き届いた革鎧を着用し、革製のヘルメットも被っているようだが、ヘルメットの上部には二つの穴が空いており、そこから丸い輪郭で、黒い毛の生えた耳が少し飛び出している。

「うむ。依頼を確認せねばな。手紙の配達はその後でもいいだろう」

 女が騎乗する軍馬の隣を歩いていた男が返事をした。
 彼の方は身を軽くするためか、身に着けている防具の類は頭に被った革に金属プレートを当てたヘルメットだけだ。
 こちらもヘルメット上部のスリットから女と同様の丸い耳が顔を覗かせている。
 加えて、そのお尻では細長くて真っ黒い尻尾が揺れていることから、二人はどうやら虎人族タイガーマンのようだ。

「あそこかしら?」

 女は道の前方に見える、建物が集まっている辺りを指差して言った。

「そうだな。建物も多いようだし、あそこが中心街ダウンタウンだろう。行ってみよう」

 そう言うと男は少し歩く速度を上げた。
 女が操る軍馬が「ぶるるる」と鼻息を鳴らす。
 軍馬と言っても、恐らくは最下級のそれであろう。
 年老いて、少し痩せ気味で疲れているように見えた。

 二人が行政府に到着すると、中ではちょっとした騒ぎが起こっているようだ。
 ゲイレットの街は大した規模ではなく、それに似合って行政府も小さな建屋であるため、中の騒がしい声が外にも聞こえたのだ。

「……ヴァーンだって!?」
「……確か、前の時……依頼主だった……」
「……リーンフライト伯爵は……」

 二人は顔を見合わせると、並んでいる馬留杭の端に馬を繋ぎ、手分けしてサドルバッグを担いで行政府へと入っていった。

 騒ぎの原因はすぐに分かった。

 どうやら、数匹のワイヴァーンが南からやってきて、隊商を襲う被害が短期間で複数回も発生したらしい。
 当然、国境の関所を護る第三騎士団は隊商の警護(少人数での退治は無理であるため、襲われたら追い払うくらいしかできない)に掛かりきりになってしまった。
 勿論、王国中央やこのあたりの土地を所有するリーンフライト伯爵へ応援の要請も行っている。

 だが、王国中央は物理的にかなりの距離があるし、カンビット王国とは外交的に比較的友好な状況が長期に亘って続いているために、国境警備隊には余剰人員などいない。
 また、リーンフライト伯爵が持つ郷士騎士団は一〇年近く前にも発生したワイヴァーン退治で、中核戦力が半壊したままであった。

 増援は確実に駆けつけて来ると見込まれているが、到着にはまだ数週間は要するであろう。
 国境の関所を防備する第三騎士団の隊長は、犠牲になったり重傷を負って戦力として数えられなくなった部下が三割を超えるに及んで、急遽傭兵を募ることを決定していた。

 その傭兵募集の案内が行政府の掲示板に貼り出された数分後に、二人が行政府に到着したのであった。

 掲示板には通常の冒険者への依頼案内の上に、でかでかと書かれたポスターが貼られていた。

――求む勇者。
  僅かな報酬。
  暴虐への抵抗。
  恐怖への挑戦。
  絶えざる危険。
  生還の保証無し。
  但し大成功の暁には名誉と賞賛、財宝を得る。
  我こそはと欲するものは馳せ参じるべし。
  王国第三騎士団四一四中隊第二警備小隊長――

 掲示板の係員に詳しく話を聞くまでもなく、掲示板の前に集まっていた一〇人程になる冒険者達が、顔を出した二人に解説してくれた。

 国境警備の騎士団に合流し、ワイヴァーンからの隊商の警護が仕事内容だという。
 数週間後には中隊規模の増援が派遣されてくるためそれまでなんとか持ちこたえて、カンビット王国との通商を保つことが目的であり、ワイヴァーンの退治などではないそうだ。

 条件は食事完全支給で一日あたり一人二万Zだという。
 なお、一時的に第三騎士団へ嘱託として所属することになり、警護対象の隊商を選ぶ権利などはない。

 そして、希望者は増援の到着後も引き続き同額で仕事を請け負うことも出来る。
 その場合はワイヴァーン退治の一員として騎士団と共に戦うことになるが。
 尤も、見事にワイヴァーンを退治できた暁には働きに応じてボーナスが得られる。
 ボーナスは退治したワイヴァーンの鱗の現物支給であり、過去の実績では一人三〇〇万から時には一〇〇〇万Zを超えることもあったという。

「が、運よく退治できたとしても、冒険者は囮役を仰せつかる事が多くてな。最初に狙われた囮集団にいたらそりゃあ悲惨だ。そこの半数くらいは死んじまうのさ」

 二人への説明役を買って出てくれた男はそう言って肩を竦めた。

 だが、別の男は「とは言え、首尾よく退治して生きて戻れりゃン百万はかてぇ。傷でも負わせられりゃ褒賞金は跳ね上がる。俺ぁ行くぜ」と言って掲示板の係員に声をかけて割符を受け取っている。

 他にも「囮役なんざ冒険者に限った話じゃねぇ。騎士団員も一緒だぜ。要は最初に目を付けられなきゃいいだけだ」と嘯いて、同様に割符を手にする男もいる。

 更には「二年もこんな田舎街で待ってた甲斐はあった。ようやっと俺にも……チックショウ!!」と、嬉しそうな顔で割符を受け取った者もいた。

 それらの冒険者達を横目に、男の方は腕を組んでポスターを睨んでいる。
 女の方は少し心配そうな表情をして男の横顔を見たものの、やはりポスターの文面を注視していた。

「ワイヴァーンか……噂は子供の頃から聞いていた……」

 男がポスターを睨みながら呟いた。

「私は聞いたことありません」

 そう答えるグレースの方は王国南西部の出身で、ワイヴァーンとは縁のない生活を送っていたためか、少し興味深そうに答える。

「そうか。聞いた話だと全長数mにも達する、蝙蝠の様な翼の生えた大きなトカゲだと……」
「飛ぶの?」
「結構な速さらしい。それに尻尾の先には毒のある棘があって、それで獲物を突くという。だが、その鱗は物凄い貴重品でな……。鱗を加工して鎧や盾など防具にすることが多いらしいが、一揃えで一〇億Zはくだらないらしい。見たことはないがな」
「一〇億! す、すごいですね……」
「ああ。確かに凄いが、ワイヴァーンとはどれ程強いのだろうな……?」

 その言葉を耳にして、女は「またいつもの病気が始まった」と思い肩を竦める。
 だが、すぐに思い出したように話しかける。

「でも空を飛ぶんでしょう? 私達は弓を持っていないわ」

 女の言葉を聞いた男は、少し意外そうな表情を浮かべた。

「俺の話を聞いていなかったのか? ワイヴァーンの鱗は高級な防具になるほどの逸品だ。加工しなければならないとは言え、普通の弓如きでどうにかなるものだとは思えん。地面から撃ち上げなきゃならんだろうし、余程近くないと貫通せんのじゃないか?」
「じゃあ、どうやって退治するんです?」
「さっきも言っていたろう? 囮役が地面まで引き付けて、槍なんかで……いや、弩なんかでもいいのかも知れんな……だが、ふふふ……」

 男の目にギラリと不穏な光が点り、掲示板の係りへと歩き出すのを見て、女はゆっくりと首を振った。



・・・・・・・・・



 翌夕刻。

 ロンベルト王国とカンビット王国を結ぶマンハラーク街道の関所近辺には、常にない多くの人が集まっていた。

 西のロンベルト側の関所には、関所に詰める二〇名程の軍人の他に更に四〇人程の武装した者達が、東のカンビット側の関所にも数十名の物々しい格好をした人々がいる。

 彼らの大部分は両国の関所がそれぞれ、近隣の街や村々に激を送り、北上して来たワイヴァーン退治のために集まった者達だ。
 軍人以外の者のうちで、半数以上が近隣の村の従士やその後継者であるが、街の行政府に張り出された檄文を見て馳せ参じた冒険者達もそれなりに含まれている。

「我々の“今”の仕事はカンビットから来る隊商のゲイレットまでの護衛である! また、ゲイレットからカンビットへと赴く隊商をこの関まで護衛することでもある! 道中、万が一ワイヴァーンが出現しても、無理に退治しようとはせずに、荷を護って森林内へ退避せよ!」

 関所の守備隊長である王国第三騎士団四一四中隊第二警備小隊長である騎士、エノーグ卿は関所の前の広場に集まった部下や周辺の村から馳せ参じた従士達、そして檄文に呼応したか、欲に目をぎらつかせた冒険者達に訓示を行っていた。

 エノーグは平民出身の三〇になったばかりの普人族ヒュームだ。
 以前は別の地方で治安維持の任に就いていたが、幾度か手柄を立てたことで小隊長の地位を得てこの地に赴任してきたのである。

 訓示を終えたエノーグは関所に詰める騎士団員を自分も含めて五名だけ別にして、残りの五〇名以上を八つの班に分けた。
 戦力的には大体均等になっているように見える。
 増援の到着まではこの班単位で行動して、それぞれが街道を行き来する隊商の護衛に付くのだ。

 その晩、エノーグの詰めているロンベルト側の関所に、数人のカンビット兵がやってきた。
 彼らはカンビット側の関所に詰めている兵士達であり、カンビットの方でも付近の街や村から集めた人手がそれなりの人数になったため、お互いに顔合わせをしておこうという提案に来たのである。

 先にも述べたが、ロンベルト王国とカンビット王国は緊張状態にはない。
 お互いに友好な状態にあるので、通行証の確認や荷を調べて関税を取るだけの退屈な仕事しかない関所に詰める兵隊達には、普段からそれなりの交流がある。

 隊商の護衛を引き継いだりしなければならないし、その際に知らない顔が混じっていると無用な緊張が起きるかもしれない。

 そう思ったエノーグは八個班に分けた者達を整列させてカンビット兵を迎えることにした。

――今夜くらいは両国入り乱れて飲み食いしてもいいかも知れないな。

 流石にこの時刻になってから隊商は来ないであろう。
 路面状態の良くない山道なので夜間の通行はたとえ明かりがあっても危険なのだ。

 それに、オーガはともかくとして、赤外線視力インフラビジョンを持つホブゴブリンやオークなどによる襲撃は夜間の方が恐ろしい。

 数十人を引き連れて現れたカンビット側の隊長もエノーグと同様の考えのようで、何名かは酒瓶を提げていた。



・・・・・・・・・



 酒盛りは両国の関所の中間地点にある少し開けた場所で行うことになった。
 中間地点と言っても、両国の関所は一〇〇mも離れていない。
 どちらの関所の建物も一番大きな部屋でも精々十数人しか収容出来ないからというのがその理由である。

 関所の見張りに数人ずつだけ残して、残りの全員が中間地点に集まり、幾つもの焚き火を囲んで車座になる。

 エノーグもカンビットの隊長も堅苦しい挨拶はさっさと終わらせ、すぐに交流が始まった。
 そこここで笑い声や唄が湧き起こる。
 焚き火の周囲には串に刺した肉や魚などが突き立てられ、良い匂いも漂いだした。

 エノーグは関所の長として、酒は最初の一口だけで後は水を飲んでいた。
 カンビット側の見慣れない者達の顔を見回して、一人残らず記憶に留めなければならないからだ。

 こういった特殊な事態下では、ワイヴァーンが退治されるか、元の住処へ退散する頃には往々にして関所破りが行われることが多いからだ。
 特にこの辺りでは比較的豊かなロンベルト王国に行きたいと考える者は多い。

 そんなエノーグに話しかけて来る者がいた。

「隊長殿。一杯どうですかな?」

 見たところ、まだ中身がかなり残っている酒瓶を突き出して男は言った。

「ありがとう。だけど、私は酒に弱くてね。遠慮するよ。えーっと、君は……」
「フィオレンツォ・ヒーロスコルと申します」
「ああ、ファルエルガーズ騎士団にいた……」

 男はロンベルト側の冒険者で、かつてはファルエルガーズ騎士団に所属していたというまだ若い虎人族タイガーマンだった。
 正式な騎士の叙任を受けていたということと、その割には若年で騎士団を辞しているという経歴のため、顔だけはしっかりとエノーグの記憶にある。

 ちらりと周囲を窺うと、隣の車座には彼の連れ合いが座っており、エノーグの部下の一人と何か話している。

「騎士団にいたのは何年も前です。今はしがない流れ者でござる」

 フィオは自嘲するような笑みを浮かべると酒瓶を脇に置いてエノーグの隣に腰を下ろした。

「今奥さんと話している奴には気を付けておいた方がいい。あいつは女ったらしだからな。こんな所だ。新しい女を見ると見境がなくなりかねん」
「グレースなら大丈夫ですよ。ところで、冒険者の募集文は隊長殿がお考えになられたのですか?」
「……ん。恥かしながら私が考えた」
「良い文です。義侠心のある者ならあれを読めば皆立ち上がるでしょう」

 フィオは微笑みを浮かべて檄文を褒めた。

――そうか。あれはこの御仁が考えたものか……日本人が絡んでいるやも知れぬと思ったが、私の思い違いだったようだ。

「はは。それは君に義侠心があると言いたいのかね?」

 エノーグは冗談めかして言う。

「いやぁ、これは手厳しい」

 少し赤くなってフィオは頭を掻く。

「任務中に話し掛けてしまい申し訳ありませんでした。ですが、あの文に触発されたのは確かですぞ。それは私一人だけではござらん。では……」

 そう言うとフィオは酒瓶を持って立ち上がり、グレースの方へと歩いた。

 その時、更に向こうの焚き火の正面でフィオに注目する視線に気がついた。
 フィオの目が大きく見開いた。

――あの顔立ち……。まさか!?
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ