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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第一部 幼少期~少年時代

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第四十八話 誕生

7439年3月26日

 ヘガード達が帰って来た。ミルーは第一騎士団の入団試験に無事合格したとのことだ。誰もが気になっていた事だったので帰り道に挨拶に立ち寄ったウェブドス侯爵やセンドーヘル騎士団長、キンドー士爵等にも会えば必ず結果を聞かれ、その度に祝福と賛辞を受けていたようだ。

 入団試験自体は完全に外部との接触を断つ形で非公開で行われたようで、どういう内容だったのかは全く判らなかったとのことだ。これは受験者であったミルーにも箝口令よろしく口外を禁じていたようで、合格が決まった後、1日だけ許された外泊の際にも語られることはなかったらしい。

 だから合格基準や受験生がどの程度の成績を修めたのかも発表はなく、単に合格者の氏名が発表されるだけという、いささか味気ない合格発表だったらしい。尤も、味気ないとは言え当然ながらヘガード以外の受験生の付き添い人は多数いたらしいので合格者の氏名が発表されるたびに一喜一憂していたらしい。

 合格発表は試験最終日の翌朝に行われ、発表が終わると不合格者はすぐに騎士団の門から出てきたが、合格者は昼近くまで出てこなかった。ヘガードら合格者の付き添い人たちは、手持ち無沙汰ということもあったのだろう、ミルーら合格者達が門から出てくるまで出身地の情報交換や受験までの苦労合戦を始めたらしいが、ミルーは別段何の苦労もしていないので多少肩身の狭い思いで口を噤むしかなかったそうだ。しかし、ヘガードと一緒に付き添っていた従士らと顔を見合わせてはニヤニヤが止まらなかったと言っていた。

 前世なら「おらが村から東大の現役合格者が出た」と言ったところなのかな? いやいや、受験可能者数や合格者数を考えると戦前の陸軍士官学校や海軍兵学校に合格したというようなレベルかも知れない。受験生の親御さん同士で情報交換とか、そんなイメージではなかろうか。

 そのあとは一晩だけの外泊を許されたこともあり、当面必要な身の回りの物を購入したり、お祝いとして高級な料理店に行って食事をしたり、その際にシャルの親や、その兄の現サンダーク公爵も現れて祝辞を述べ、贈り物が贈られ、ミルーが公爵を前にして緊張のあまり呂律が回らなくなったことなどの楽しい出来事があったらしい。

 ひとしきりミルーの第一騎士団への合格の話題の後、シャーニの懐妊についてヘガードから祝いの言葉が述べられ、気の早いことにお土産として産着などが渡された。そうか、ヘガードにとっては初孫になるんだよな。40前でお祖父ちゃんとか、本当、どこのDQN家族だと笑いそうになるが、ここはオース、普通普通。実際ヘガードとシャルの間にファーンが生まれたのだって彼らが二十歳を過ぎてからだから、ファーンとシャーニに子供が出来たのがちょびっと早いだけだ。

 また、ヘガードは産着の他に馬を二頭連れ帰っていた。この馬は農耕用の駄馬ではなく、軍馬らしい。ファーンとシャーニは正式な騎士として叙任も受けているから、当然騎乗出来るだろうとの配慮だろうか。昨年からこっち、出兵に始まりファーンの結婚やこの軍馬の購入などで当家の家計は火の車だろうに、張り込んだものだ。出費はともかく軍馬はこれから必ず必要になるだろうから、これについては、よく結婚の後数ヶ月という短期間で用意できたものだと感心したが、前回の出兵の最後で結婚が決まった際にセンドーヘル騎士団長にお願いしていたものらしい。

 とにかく、ようやくヘガードが戻ってきたのだ。ミルーはもういないが、これで家族全員が揃ったわけだ。これからは使った金銭を取り戻すために皆が一生懸命それぞれの仕事に打ち込む時期だろう。

 その晩、狩りに出かけるときには旧子供部屋だけでなく、両親の寝室からも声が漏れていた。へガードが帰って来る前に両親のウォーターベッド分のゴムが捻出出来て良かった。若いっていいよなぁ。



・・・・・・・・・



7439年9月1日

 シャーニが出産した。シェーミ婆さんが産婆を務め、シャルが立ち会った。俺はシェーミ婆さんに言われるまま湯を用意したり、産着を用意したりしてそれなりに仕事はした。しかし、前世でも子供はいなかった身の上なので急にシャーニの陣痛が始まった時には慌ててドキドキしてしまい、稽古や修行、ゴム製品の製造など全部どこかにすっ飛んでいた。皆が慌てる中でシャル一人が落ち着いており、俺はシャルにシェーミ婆さんを呼んで来いと言われた瞬間に転がるように外に飛び出て全力ダッシュしてしまった。

 拙い俺の知識では大量のすこしぬるめの湯と清潔な布、あと分娩台が必要だったはずだ。そういや分娩台なんか見たことないわ。シェーミ婆さんの家のどこかにあるのではないかとぼんやりイメージしていたくらいだったが、そんな物あるわけなかった。そもそも出産は自宅内で行われたしな。

 出産時に治癒魔法が必要になるかと思っていたが、治癒魔法が必要になるのは出産後らしい。出産中に治癒魔法をかけると産道が元の通り収縮してしまって赤ちゃんを殺しかねないらしい。考えてみりゃそらそうだ。出産イコール怪我とも言える。途中で治療してどうすんだ。

 あ、ファーンとヘガードは焦燥感を滲ませながらうろうろとしていただけで何の役にも立っていなかった。やっぱり男はそんなもんか。

 まぁシャーニは騎士団で鍛えられ健康で丈夫だから出産で命を落とすことは考えにくいだろう。異常妊娠だった時だけ気をつけていればいいのだろう。そのための産婆だしな。何かあってもすぐに飛んでいけばファーンが役たたずでも俺なら冷静に治癒魔法を掛けられるだろう。

 子供は双子で無事に産まれた。兄がゼルロット、妹がレベッカーナと名付けられた。ゼットにベッキーか。家には乳幼児用のベッドは一つしかなかったので追加でもう一つ急遽用意しなければならない。数年前に子供が生まれたショーンの家まで行き、既に使っていないベッドを借りられたので事なきを得た。しかし、二卵性双生児か。妊娠中のシャーニを鑑定しても【状態:良好(妊娠中)】としか表示がなかったので双子とは思いもよらなかった。そうだよな、鑑定は俺の視線が通るものしか出来ないしな。



・・・・・・・・・



7440年2月14日

 俺は12歳になった。精力的な夜の狩りの結果もあり昨晩更にレベルは上昇し9になった。力ではそうそう負けなくなったが親父や30歳前後の従士と本気の力比べをすれば敵わない。しかし、さほど見劣りしない程度にはなった。剣の腕も上昇しているようだが、まだ親父や兄夫婦には勝てないでいる。しかし、体格も大きくなったので銃剣スタイルになれば圧倒することもある。今まではテクニックで誤魔化していた部分が大きかったが身長もそれなりに伸び、それに伴って体重も増えたのである程度の力技も使えるようになったのが大きい。

 シャーニも年明けから稽古に復帰し、久々に兄と二人がかりでのシゴキが始まった。だが、半年以上のブランクもあり鑑定してみると筋力や俊敏、器用に耐久と全て少し落ちていた。俺はレベルアップや加齢による成長、気持ちだけだがランニングによる耐久アップもあり能力の成長が著しい。思っていたほどの辛さではなくなっていた。ゼットとベッキーもすくすくと成長している。多分今の体重は6~7Kg程ではないだろうか。

 家族の中で評判の良いウォーターベッドだが、あまりにも大量にゴムを使うので量産は見送られていたのだが、昔植えたゴムノキがそろそろいい頃合だろう。来年以降もどんどん増えるので限定生産を始めてみてもいいかも知れない。ウェブドス商会を通じてある程度領外へも流通があるようで、遠方からの注文ということで前回あたりから商会からの注文も急増している。玉羊羹だけじゃなかったのか。

 シャーニの体調も戻り、4月の納品時には兄夫婦も初めて同行するらしい。その時にはゴム製造を専業にしたリョーグ家からも何人か随行することになるだろう。やっと収入も安定し始め、昨年末にはバークッドで初となる牛も導入された。俺が牝がいいと普段になく強硬に主張したので多少割高にはなったが牝牛が購入された。牛乳も飲めるし、作り方は知らないけど頑張ればバターやチーズも作れるかも知れない。普段は農耕に担ぎ出されるから生産量は乳牛よりは落ちるだろうが、全くゼロということはあるまい。だいたい乳牛は品種改良されたものじゃないのか? よくは知らないけど。

 とにかく牝牛が導入されたのがシャーニがゴムの納品に同行できる大きな理由だ。赤ん坊たちの乳の心配をしなくていいからな。あとはゴムの作業小屋の隣に浴場を作った。オースだと水魔法と火魔法が使えればお湯を作ることはわけないので風呂は一般的かと思っていたがレベルやMPの関係でそうでもないらしい。以前シャワーの時にも話したことはあるが、風呂につかれるくらいの量のお湯は最低でも水魔法と火魔法が4レベルは必要だ。そこまでレベルが高くなるには一般人だとまず無理だ。本格的な魔法の修行や、魔法で直接魔物にダメージを与えるなどの実践が必要になる。うちの従士連中だってゴム製造に係わる人間を中心に半強制的に魔法の修行をさせるまで誰一人4レベル以上の魔法が使える人間なんていなかったのだ。シャルは確かに両方とも5レベルに達しているが風呂に入るためにMPは使っていなかった。万が一風呂の用意をした直後に緊急事態などで治癒魔法や攻撃魔法を使わなければいけないことを考慮していたのだ。

 今はダイアンが4レベルになっているし、シャーニも2レベルだ。他にも何人かいるし、俺でもいい。ゴムの製造からは殆ど手を引いているからその分の魔力を廻せると言い訳すれば問題ない。ちまちまと貯めたゴムをエボナイトにしてそれで風呂桶内部を塗り固める。栓は床に穴を開けてゴム栓を突っ込んでおけばいい。あとは水を張っておけば入りたいときに火魔法で暖めれば良いし、水が汚れてきたら交換すれば良い。浴槽を二つ用意して一つだけを入浴に使うようにした。もう一つは注ぎ湯用だ。注ぎ湯用の浴槽は高い位置に作り、ホースで入浴用の浴槽と繋げる。その湯だけは沸騰寸前にまで暖めれば二時間以上注ぎ湯として充分な温度のお湯が供給できる。

 村ではこの湯殿を住人に開放してから、魔法の修行を再開する人間が増えたようだ。魔法の修行方法は既に確立されている、と言うか元素魔法は使えば使うだけ微量だが経験値が入るからMPにさえ気をつければ毎日魔法を使っても問題は無いのだ。農業が主体なのでもともと水魔法を使える人間は多少いるしな。尤も、農業に水魔法を使うのはシャワー状に放水できない限りは難しいのであまり使用はされない。川が近くにあるのだし用水路さえきっちり作ってあれば農民が使えるくらいの水魔法なんか無視できる量にしかならないからな。

 だって、考えてみてくれよ。ここに平均的な農奴の男が居ることを想像してみてくれ。彼は7歳くらいから農業に引っ張り出され、15歳で成人を迎え、そこで初めて一応魔法の修行っぽい事をしてみる。才能があって使えればそれでよし、この時点で十人に一人くらいだ。そして水魔法が使える人間は更に四人に一人とか二人だろう。大人二、三十人に一人くらいが水魔法が使える。だが、最初はほんの少し、スプーン一杯位しか出せない。農作業は待ってはくれない。のんびりと魔法の修行なんかしていられるはずも無いのだ。そうして結婚したり子供が出来たり、その子供を食わせるために更に農業に精を出さねばならない。

 普通の人は魔法を使えるようになってから何ヶ月も毎日魔法を使って初めてレベル0からレベル1になる。それで出せるのはコップ一杯位。その後も1年くらい毎日毎日飽きもせず飲んでも大して美味くない水を出して、やっとある日自分のステータスを確認すると赤文字のレベル表記が2になっている。どのくらい出せるのかと期待してもどんぶり一杯位だ。それでもまだ若い十代だ。加齢によるMP上昇の恩恵も殆ど無い。魔法を使うには集中しなければならないがいい加減慣れてきた、頑張ろう、と思って更に毎日毎日魔法を使う。魔法を使うたびにMPがゼロになるわけではないが、もともと大して多くもない魔力だからそれが減れば精神的に不安定になる事くらいもう承知している。

 親や兄弟、友人や場合によっては配偶者からいい加減諌める言葉が出てくるのがこの辺りじゃないだろうか。そして挫けるのだ。ああ、魔法なんてそうそう便利なものではない、なんて思ったりもするのだろう。その後は魔法のことなんかは忘れたり、もともと無い物だと思って農作業に精を出す毎日が続くのだ。お館様の奥様は貴族の出だと言うし、冒険者もやって魔物を倒したり出来るほどの才能をお持ちだ。そもそも生まれが違う上に才能まであるのだ。農奴や平民の俺が頑張っても無理に決まってたんだ。そう思って、自分を慰め、更に農作業に精を出す。たまには思いついたように魔法を使うこともあるだろう。

 だが、そんなある日、数年前から始まったゴム製品の作業小屋の脇に湯殿が出来たと言うじゃないか。農作業や従士様達の剣の稽古、勿論ゴム製品を作っていらっしゃる従士様達の仕事が終わったら誰でも好きに使えると言う。川があるので水には困っていないから水浴びはよくやるし、たまには湯を沸かして身体を拭いたりもする。だが、湯に浸かるなんてしたことはない。そう言えば隣のハンスの奴が気持ち良かったとか言っていたっけ。どれ、一つ俺も入って見ようか。

 手ぬぐいと貴重品と言うほどでもないがそれなりに値段の張るちびた石鹸を持って早速行って見る。結構な人出じゃないか。これだけの奴らが来るほど気持ちが良いのか。一辺2m四方くらいの大きなゴムの張られた浴槽という黒い桶に50cmくらいだろうか、湯が湛えられている。何人も浸かっているので水深は60cmくらいにはなっていそうだ。どれどれ、俺も入れてくれよ、浴槽をまたいで入ろうとすると既に湯に浸かってる連中から声がかかる「おい、カニンダー、体を洗ってから入れよ」あいつはサクリガンだ。俺に注意しながらもまるで酒に酔ったような赤い顔で笑いながら言ってくる。

 ふむ、そうか、と思い周囲を見回すといくつか手桶が転がっている。既に身体を洗っている奴を見よう見真似で参考にして身体を洗い、いよいよ湯に浸かってみる。ぬるいが確かに気持ち良いな。するとじわじわと湯が温かくなってきた。が、入っていられないほど熱くなる前に温度の上昇は収まった。どうもこの大きな桶の隣に作られた土山の上にももう一つ大きな桶があり、そいつは更に熱い湯で満たされているらしい。入浴に使っている桶のお湯が冷めて来たら上の桶からこの桶まで垂らされているゴムの管に挿さっている栓を抜いて熱い湯を足すようだ。うん、こいつは気持ち良いな、疲れがゆっくりと抜けるようだ。

 サクリガンは「先に上がるぜ」と言って浴槽から出た。俺はもう少し浸かって居たかったから「ああ」とだけ答え、更に湯を楽しむことにした。浴槽を出たサクリガンは右手を頭の上にかざした。なんだろう? 禿でも気になったのか? と思ったら右手が光る。魔法を使ったようだ。奴の右手からどんぶり位の量の水が噴出し、サクリガンは「うひゃあ、冷てぇ!」とか言っている。当たり前だろう。水なんだから。サクリガンは振り向くと粗末なものをぶらさげて言う「お前も水魔法使えたよな。風呂から出るときに同じようにやってみな。気持ち良いぜ」

 風呂から出るときにサクリガンのようにやってみた。魔法を使うのは久々だが、問題なく出来た。おお……こいつは確かにさっぱりするな。手拭で身体を拭き、家に帰る。女房にも勧めてみよう、明日は女が入る日だそうだからな。あいつは水魔法が使えないから手桶いっぱいの水を持って行くように言うのも忘れないようにしなきゃいけない。

 とまあ、こんな感じで魔法を再度使おうという流れになっている。まぁ、全部俺の妄想なんだけどな。だが、魔法のレベルを上げようと暇を見つけて魔法を使うこと自体は、今後村の地力を上げることに繋がると思うので、風呂を中心に水魔法と火魔法について一定レベル以上の人間なら風呂管理の賦役として給金を払う、との触れを出したら皆その気になって魔法の修行を始めたのは本当だ。また、地魔法と風魔法が一定レベル以上ならばゴムの型制作や場合によっては乾燥の魔法でも使い道があるかもしれないのでこちらでも触れを出した。要は魔法が使えるなら給料出すから働きに来てもいいよってことだ。

 少なくとも力仕事の賦役には向きそうにない女性や老人などに仕事を提供できることは意味があるだろう?

 そんな事を考えていた12歳の誕生日、ゴムの樹液ラテックスの採集の護衛のため同行した折、俺は妙なものを見つけた。勿論、護衛をつけているくらいだから採集先は昔からある村からかなり離れた採集地だ。

 道中にある木の幹の大人の背より少し高いくらいの位置に、傷のある木がいくつかあったのだ。傷は平行に3本の線が走っている。すべての傷はまだ新しいものだ。

 ああ、そうか。

 そろそろ来るんじゃないかと思っていたよ。

 決着をつけてやる。

 
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