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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第九十九話 談合

7449年12月18日

 店を出たアルはすぐに宿に戻る。
 そして、即座に愛馬を駆るとかつて慣れ親しんだバルドゥックの街へと向かった。

――さて、以前と変わらないスケジュールだと助かるんだが……。

 アルがバルドゥックに来る前から緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドは毎月五日と二〇日、それぞれ八日から十数日間の予定で迷宮に潜っている。
 黒黄玉ブラック・トパーズの方も似たようなスケジュールだ。
 今でも同じスケジュールであるかどうかまでは月に数日しかバルドゥックに行くことがなくなったサージには掴めていない。

 バルドゥックに到着したアルは二つの冒険者集団パーティーの溜まり場のうち、地理的に近い方のメルックという飯屋兼酒場を目指す。

 目的のメルックはまだ営業中で中から酔客の話し声も漏れ聞こえる。

 馬留杭に愛馬を繋ぐとゆっくりと扉を開けた。
 大して多くない明かりの魔道具に照らされた店内。
 年の瀬も押し迫り、外は寒風が吹きすさんでいるが中は大分暖かい。

「でな? 俺ぁ言ってやったんだよ!」
「ははは、馬鹿だな」
「ぷふぁ、うめぇ!」

 相変わらずの喧騒に包まれた店だった。

「いらっしゃい!」

 若い店員が声を掛けてくる。
 店員の肩越しに店の奥の方を覗くと衝立がある。
 普段はない衝立が立っているということは、あの衝立の向こうに固まっている筈だ。

「ビールをくれ」

 インバネスを脱ぎながら店員に注文すると、そこで店員は初めてアルに気がついた。

「あ、あんた! グリードヴァリ伯爵コーント!」
「ああ。バースさんは居るな?」
「はい。奥の……」
「そうか。じゃあ、ビールはあの向こうにいる奴らの人数分より一つ少ない数にしてくれ。俺の分と釣りはいらない」

 それだけ言うと店員に銀朱を二枚握らせる。
 衝立の向こうの人数が不明だが、一〇名は超えないであろうし代金としては少し多めだろう。
 脱いだインバネスを片手に掛けてアルは衝立を目指す。

「……!」
「……?」

 衝立まで近づくと向こうで行われていた会話のトーンが落ちた。

――何か重要な話でもしていたのかな……?

 少しだけ申し訳なく思うアルだが、構わずに衝立の陰から顔を覗かせた。

「おい、呼んでな……グリード君!」
「あ……」
「なんで?」

 アルを見て口々に不思議そうな声を出す緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドのメンバー達。

「やあ、皆さん。ご無沙汰しております」

 貴族らしい気取った仕草で挨拶を送ると、アルはテーブルの奥に座っていた精人族エルフを見た。

「ああ、ご無沙汰だな、グリードく、閣下。その節は……」

 アルの言葉に声を掛けられたエルフが立ち上がりながら口を開く。

「お気になさらず。敬語も敬称も結構です。今日はバースさんと少しお話しがしたくて来ました」

 エルフに倣って起立しようとするメンバーをそっと制しながらアルは答えた。

「話? 何だ?」

 再び席に腰を下ろしたバースが尋ねる。

「ここでは何ですので二人でお話ししたいのですが……ま、いいでしょう。明日、いや、近いうちに一人の矮人族ノームの女が私の紹介状を持って緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドを訪ねてきます。彼女の名はネイレン・ノブフォムといいます」
「ほう? 要件は?」
「恐らくですが、彼女はメンバーに入れて欲しいと言って来るでしょう。紹介状にも彼女の希望を検討してくれと書いています」
「で?」
「お好きなように」
「あ?」
「ご判断はおまかせしますという意味です」
「どういうことだ? 君の紹介状を持ってくるってんだろ? なら入れてやってくれって話かと……」
「ん~、無理に入れて貰う必要はないんですよ」
「あん?」
「何しろ彼女が持っている紹介状は二通ありまして、一通は黒黄玉ブラック・トパーズのアンダーセンさん宛だからです」

 アルの言葉を聞いたバースは目を細めてアルを見やった。

「じゃあ君は一体何しにここに来たんだ? 伯爵閣下はそんなにお暇なのか?」

 アルはバースの視線を肩を竦めてやり過ごすと同時に器用に肩越しに振り返った。
 ビールの用意にはもう少しかかるようだ。

「ですから話を。紹介状に書き忘れていたことを思い出したのですが、私としたことが彼女の宿を聞き忘れていましてね。探す当てもないので、彼女が来るであろう人のもとまで急いでやって来たという訳です」

 バースを除く緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドのメンバーは、迂遠な喋り方をするアルに不満気な視線を向けるが、会話に口を挟んでは来ない。

「そうか。じゃあその書き忘れた内容とやらを……」
「ええ。まず、彼女は迷宮でそれなりに経験を積んでいます」
「そりゃそうだろ。幾ら君でもド素人に紹介状なんか持たせやしないだろうからな」
「……ですね。彼女の魔法技能は全元素に及びます」
「ほう?」
「それから、魔力量はかなりのものです。私見ですが、おそらくカムシュさんや往年のヴィルハイマーさんをも凌ぐかと」
「なに?」

 バースだけでなく他のメンバーも目を丸くする。

「レベルは?」
「さあ、そこまでは」

 また肩を竦めてアルは答え、メンバーからは小さな溜め息が漏れた。

「そうか。歳は?」
「私と同じで二一歳ですね」

 店員がビールを持ってきた。

「話は以上です。ああ、これは皆さんのご歓談を中断させてしまったお詫びです。お代は済ましていますから、どうぞ召し上がってください。では、失礼いたします」

 言うだけ言ってアルは会釈をすると背を向けた。

 アルが扉に手を掛けた時。

「ちょ、少し待ってくれ」

 バースが追いかけてきて声をかける。
 アルは構わずに扉を開けて外に出てから返事をする。

「何でしょう?」

 しかし、振り返りもせずに愛馬の傍らまで行くと馬留に結んでおいた手綱を解き始めた。

「その、俺のところに来るっていう女は同い年といったな? 君のなんなんだ?」

 アルはじっとバースを見つめるだけで答えない。

「だいたい、迷宮に潜るってんならサージなんかと一緒でもいいじゃないか。今でもたまに見るぞ」

 ここでアルは口を開く。

「バストラルなんかはもう迷宮の一層か、せいぜい二層程度までしか行ってませんよ。彼女にはどうにもそれが不満のようで」
「それで深い層に行ってる俺達や黒黄玉ブラック・トパーズへ?」
「そういうことです。深い階層のほうが稼げるのは真理ですからね」

 アルは鐙に足を掛けながら答えた。

「報酬は? どの程度を望んでるんだ?」
「そこまでは……ああ、一つ言い忘れました。彼女はある程度ではありますがバルドゥックの迷宮について、我々と同様に深い知識があると思いますよ。その上で私との関係はご想像にお任せします。では私はこれからアンダーセンさんのところへ行きますので」

 そこまで言うとアルは馬の背に乗り上がった。

「確かに黒黄玉ブラック・トパーズは今迷宮には入っていない。同じ話を彼女にもするつもりか?」
「……相変わらずお互いの情報を共有しているようですね」

 アルは質問には答えずに確認をした。

「効率の問題だよ。で、彼女にも同じ話を?」

 バースはニヤリと笑みを浮かべて答え、再度質問をする。

「そのつもりですが」
「ウチのメンバーに入れてもいい」

 アルの返答を聞いたバースは即座に提案した。

「ほう?」
「君らの情報を持っているということは、そうなんだろ?」
「何がです?」
「あの場じゃ言いにくいってことは……そうなんだろ?」
「だから何がです?」
「今更とぼけるのはよしてくれ」
「さて、何の事やら……。ですが、私は彼女に、ってこの彼女はノブフォムという女の事ですが、彼女にはどちらでも入れてくれるというなら好きな方に入ればいいと言っています。今、彼女を受け入れると言っていただいたことについては感謝いたしますが、私としては緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドにも黒黄玉ブラック・トパーズにも同じように情報提供をすべきだと思っていますので」
「……俺も一緒に行っていいか? アンダーセンさんと話がしたい」
「構いませんよ。私が話した後で貴方がアンダーセンさんとどういう話をするのかについても関与はしません。但し、これだけは忘れて欲しくないのですが……」
「分かってる。決定権はその、ノブフォムという女にあるって言いたいんだろ?」

 アルはバースが並んで歩けるようにゆっくりと馬を歩かせた。



・・・・・・・・・



「寝入りばなを叩き起こしてくれただけあるようね……」

 ここは黒黄玉ブラック・トパーズのリーダー、レッド・アンダーセン准爵が投宿している楡の木亭というバルドゥックで一番高級な宿だ。
 以前、緑色団ベルデグリ・ブラザーフッドのリーダーを務めていたロベルト・ヴィルハイマーが使っていた部屋を現在は彼女が使っているのである。

「それだけの話であると認めてくださったのは嬉しいですね」

 アルは出された茶を口に含むと返答した。

「おかわりは? ゾフィー」
「いえ、私はそろそろ失礼しますので結構です」

 ヴィルハイマーから引き継いだらしい普人族ヒュームの奴隷女はおかわりの動作を始めたが、アルの声を聞いて動きを止めた。

 席から立ち上がったアルは丁寧に挨拶をすると部屋から退出していった。

「……なんであんたが付いて来たのかよくわかった」

 部屋に残っているバースにアンダーセンが言う。

「まぁね。ここは平和的に話し合いと行きたいもんだと思っただけですよ、准爵閣下。ところで俺にはおかわりはないんですかね?」

 ソファに腰を埋めたままのバースが答えた。

「……ま、いいわ。ゾフィー」

 奴隷女が継ぎ足すお茶は眠気覚ましなのか非常に濃く淹れられており、それがバースの好みに合っている。

「さて、どう思います?」

 バースが自分のカップに注がれるお茶を見つめながら言った。

「今のところはなんとも言えないわね」

 冷めかけたお茶を口にしてアンダーセンが答える。

「確かに。でも、何か臭いますがね」
「それはそうね。何しろあのグリード伯爵がわざわざ紹介状を書いただけじゃなく、書き忘れたと言って、こんな時間にここまで来るくらいだからね」
「彼にとってそれなりに大切であることは……」
「まず間違いないわね」
「今、たまにバルドゥックへ入ってるのはサージを除けばロートルの戦闘奴隷だけです。彼らと一緒じゃ稼げないってことからして……」
「それなりの腕はあると見ても良さそうね」
「ええ……」

 カップに口をつけてバースは満足そうな顔をして返事をした。

「何にしても腕を見ないことには決められないわ」
「それはこっちも同じです」
「あんた達は雇うならどのくらい出すの?」
「そりゃ言えるわけないでしょうが」

 フン、と鼻を鳴らしてバースは答えた。

「……あんた、ロベルトの真似が板についてきたわね」

 アンダーセンはじっとりと湿っぽい目つきで言う。

「そうですかね?」

 少しおどけたような表情で答えるバース。

「ええ。ま、いいけど」
「ふふ。灰皿あります?」

 バースは懐からタバコ入れを出しながら言った。

「あるけど、私、煙草の煙はあんまり好きじゃないからよしてくれない? この部屋に染み付いた匂いだってやっと薄くなってきたんだから」

 アンダーセンは顔を顰めて言った。

「わかりました。遠慮しときます」
「……狸っぷりもよく似てるわ」
「そちらこそ。よくわかりましたよ。雇わないつもりなんか無いってね」

 出しかけたタバコ入れを戻しながら答えるバースにアンダーセンは苦笑を浮かべる。

「そりゃそうでしょ。あの殺戮者スローターズのアレイン・グリードが推薦するなら、ね」
「確かに」
「まぁ選択権は向こうにあるってんだからこっちからは条件提示くらいしか出来ることはないけど」

 ソファの背もたれに体を預け、足を組み直してアンダーセンが言う。
 年の割には健康そうな太ももがローブからちらりと見えた。

「青天井になったら目も当てられませんからね」

 アンダーセンの仕草には何の関心も寄せず、バースは肩を竦める。

「そういうこと」
「話が早くて助かります。ウチは諸々経費こちら持ちで月三〇万。魔石の二から三ってとこです。魔道具や魔法の品は獲得した戦闘での役立ちっぷりで投票です」
「一割から一ってとこね。相変わらずなのね」
「伝統ですから」
「大した伝統なんか無いくせによく言うわ」

 アンダーセンは少し呆れた表情を浮かべる。

「アンダーセンさんがいた頃と同じですよ」
「ま、いいわ。じゃあこちらも同じ条件でいい。但し新参者になるからね。魔石は二にした方が」
「いいでしょうね」

 二人の話はまだもう暫く続くようだ。



・・・・・・・・・



 俺が思った通り、緑色団ベルデグリ・ブラザーフッド黒黄玉ブラック・トパーズも餌に食いついたようだ。
 とは言っても小魚が食いついただけだ。

 ま、あの二人が俺の推薦した者を無視するとはハナから思ってはいなかったけど。

 針に掛かった小魚を泳がせて大物が食いつくように誘ってくれるかまでは予想もつかない。
 誘ったところで目に入らずに無視される可能性だって高いだろうしな……。
 どうなるんかね?

 何にしても双方が迷宮に入っていなくてよかった。
 お陰で今日はベッドでゆっくりと眠れる。

 なんとか涼しい顔を保ってはいたけど、二日も馬を走らせっぱなしだったから俺の方もかなりバテていたからねぇ。

 もう今日は王都には戻らないでここで……王都に宿取ってるし、戻るか。
 尾根を超えて走らせりゃ一五分くらいだろうし。

 明日と明後日で商会の税金処理をして、明々後日はガラス作って……。

 姉ちゃんとこに行くって言ったのは何日だっけ?
 ああ、二二日だ。
 二三日はグラナン皇国、バクルニー王国、カンビット王国の大使館だか領事館だかに行って伯爵就任の時に貰った贈り物のお返しをしなきゃ……。
 登城は二八日の予定だから、えーっと……。

 くそ、面倒臭ぇ。

 
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