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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第一部 幼少期~少年時代

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第四十七話 作りたい理由

7439年1月5日

 昨日から当家の中でシャーニの妊娠を祝う雰囲気になっている。と言っても手放しで嬉しそうなのはシャルにソニアくらいのもので、兄夫婦は微妙な感じがする。うん、ごめん。いや、俺だけが悪いわけじゃないと思うけどさ。これが日本なら16歳同士で結婚して17歳で出産とか、どこの中卒ド低脳で先が見えない馬鹿かと思うんだろうな。

 だが、ここオースでは決して珍しいことでは……オースでもまぁ珍しい範疇かなぁ。結婚してすぐに子供ができること自体はままあるけれど、そういう夫婦はお互いに二十歳すぎだったりするし、若い夫婦だって子供が出来る前に蜜月期間を取りたがるのが一般的だ。勿論珍しいとは言え無作為に夫婦を抽出したら10組中2組くらいはこういう夫婦はいるから特段気にするようなことでもないか。

 兄夫婦だって家族計画くらいは考えていたようだし、10代後半くらいは誰だって子育て以外の人生を楽しみたい時期だろう。その当てが外れて何とも言えないような表情が伺えるが、シャーニはちょっとだけ嬉しそうな感じも隠せないようだ。

 昨晩、ファーンに「お前が作ったものだから信じてたんだぞ……」と困ったように言われた時には、申し訳ないとは思ったが「そんな事言ったって、僕はまだ10歳ですし、その、経験だってないですし、テイラーやエンベルト達が話しているのを盗み聞きして作ったものだって言ったじゃないですか。だいたいちゃんとつけてたんですか? 僕は自分で使って確かめられないから丈夫かどうかは保証できないって言いましたよ……」と言い返したらファーンも流石に何も言い返せず沈黙していた。

 シャーニの妊娠については従士のショーンとラッセグが一昨日出発したヘガードを追いかけて伝えるそうだ。ウェブドス侯爵にとっては初めての曾孫になるのだし、次にゴムの納品に行くのは4月になるから、シャルが急げばまだ追いつけるだろうし今のうちに伝えたほうが良いだろうと考えて後追い伝令をさせた。



・・・・・・・・・



 義姉が妊娠したので俺は今ウォーターベッドの開発に再度取り組もうと頭をひねっている。妊娠中は出来るだけリラックスした姿勢でいるのがいいだろうと慮ってのことだ。以前に取り組んだ時、最初は単にでかいゴムクッションをつくってその中に水を入れればいいかと考えて試作したが、当たり前のことにそれだと単にゴム製のでかい水袋にしかならなかった。

 水が多いと硬い感じで心地よくないし、少ないと体重のせいでゴム板を引いた床に寝ているのと大差がない。調節して丁度よくしても当人以外だと体重の関係で結局は一緒だ。こんなもの個人個人向けにカスタマイズなんかしてられるか、とボツにした。だいたいクッションの中身が抜けないから水だといつかゴムが劣化してしまう。これを防ぐには栓をつけて、使わない時には水を抜いて乾燥させないとダメだ。

 栓自体はゴムボートや浮き輪を作っていたからまぁなんとかなる。しかし、ウォーターベッド(というかウォータークッション)だと空気のように圧力がかかっても水は空気ほど体積が小さくならないので内圧は全てゴムが受け持つことになる。そして一番弱いのは栓の部分だ。前世の浮き輪やゴムボートなどの弁付きの栓の構造がわからなかったので、あの内部に押し込められる機構はオミットしていた。

 小さなエボナイトの筒を表面にはめ込み、内側の筒の穴に穴より少し大きいゴム板を端っこだけ貼り付ける。こうすると息を吹き込むときはゴム板の貼り付けた部分がヒンジの役目をして板が開くし、ある程度息を吹き込めば内部の空気圧で口を離しても板が元に戻り筒は塞がる。最終的には筒の外側にきちんとゴム栓してやればいい。完全じゃないだろうがまぁ問題は無かったので良しとした。だが、この栓だと栓自体は問題ないが、本体とエボナイトの筒が一体構造ではないから栓を取り付けた周囲がどうしても弱くなる。浮き輪やゴムボートだとあまり問題がなかったのでそのまま放置していたのだが、ウォーターベッドだと大人が寝っ転がるとそこから裂けやすかったのだ。

 ゴムの柔軟性に期待して圧をゴムに逃がそうとゴムの厚みを薄くすることもしてみたが、今度は水が冷たいので夏は良いだろうが冬にはちょっと辛い。お湯にしても暫くしたら冷めちゃうしな。暫く我慢すれば体温で多少マシになるとは思うけれど、ろくな掛け布団もない冬に暫く我慢しろとかなんの罰ゲームだよと思ってこれもボツにした。だって、俺、前世でもウォーターベッド使ってなかったし。

 だいたいウォーターベッドって作るのに失敗すると結構な量のゴムが無駄になるんだよ。試作に失敗した物や製造時に失敗した物は作業小屋の脇に設えた『失敗ボックス』に入れておくと誰かが持って行って切ったりして使っているようだから完全な無駄にはならないけどね。

 こんなことを考えながらウォーターベッド、ウォーターベッドとぶつぶつつぶやいていた時、ダイアンが俺に話し掛けてきた。内容は騎士団から依頼のあったクッションの座り心地向上だ。納品しているクッションは騎乗時に使うものと馬車を御する時に御者台に敷いて座るものの二通りだが、どちらも保管時は結構膨らんでいる。そうしないと体重で座り心地も悪くなるからだが、更なる使い心地の向上と耐久性の向上を求められていた。確かに座り心地については何も無いよりは断然マシだがやはり風船に座っている感じがしないでもない。ダイアンに限らずゴム製造を担当している若手従士全員に改良点を考えて欲しいとは昨年から言っていたのだが、正直あまり期待してなかった。

 彼女はクッション内部に壁で仕切りを作り、小部屋構造にすることを提案してきた。小部屋構造は考えないでもなかったのだが、若干でもゴムの使用量が増えるし、何より各小部屋ごとに風魔法を使わなくてならないので、耐久性の面から栓を付けていないクッションには向いていないと思ってかなり初期に放棄していた考えだった。

 だが、俺はこの小部屋構造について放棄したことを後悔した。俺は面倒くささから魔法の使用回数が増える、ということを免罪符にして有効なアイデアを自ら捨てていたのだ、ということに遅まきながら気づいた。そうだ、小部屋構造だ。なぜ栓を一箇所にしなければいけないと思い込んでいたのか。一人で何でも出来はしないのだ。やはり色々な人にアイデアを出してもらうことはこんなに有効ではないか。だいたい、クッションだって小部屋にしたら普段あんなに丸々とはしないし、座り心地だっていいに決まってる。

 俺は早速ダイアンに製造の許可を出し、自分は早速ウォーターベッドの試作にとりかかった。直径10cm弱の棒状にしたゴム筒の端を閉じ、全てに弁無しの栓を付ける。それを並べてくっつけてから全体をゴム引きの布で覆う。うむ、一見してマットレス、その実ウォーターマットならぬベッドだ。早速各棒の内部に水魔法で水を入れてから寝っ転がる。

 うお、こ、これは良い物だ……。水の入ったゴムの棒と棒の隙間に空気の層があり、ゴム引きの布でその空気を逃がさないようにしているから水と空気で二重のクッションになっているのもいいポイントだろう。この試作品では付けていないが、ゴム引きの布の貼り方を工夫してここにも浮き輪のような栓を付ければもっといいだろう。うむ、俺も今晩から藁のベッドとはオサラバだな。ゴムはもう少し余ってるからシャーニの分くらいは作れる。また余ったらファーンや両親の分も作ろう。水魔法さえ使えるならこれはいい製品になるのではないだろうか? 売れるだろうな。風魔法で空気を入れてみることも試してみる。水よりは落ちるが、これはこれで良いな。クッションを作る頭はあったのに何故今まで作らなかったのだろう。やはり固定観念だろうな。そうだ、一人で考えていても見落としたり考えが及ばず諦めたりすることのなんと多かったことだろうか。

 そう言えば、玉羊羹だが、あの風船は最初こそ俺が作っていたが今はエンベルトが作っている。ゴム製衛生用品の参考になるかも知れない。彼の意見を聞いてみよう。エンベルトは風魔法も使えるから玉羊羹用の風船も作ってみたらどうか、と言って日産僅か3個から始めたのだ。早速エンベルトのそばまで行くと彼は妙な器具を使っているところだった。細長い木の板にこれまた木で作った直径1cmくらいの棒が数本立ててある変なものを使っていた。あんなのあったっけ? 俺作った覚えないぞ?

 エンベルトは普段サンダルを作っている。バケツにソールとなるラテックス原料を攪拌したものを入れ、それをサンダルやブーツのソールになる型に流し込む役目だ。多過ぎず少な過ぎずで注がないとなかなか均一の厚さにならない職人技を要求される大切な役目だ。最初はソール型から溢れても木の棒などで溢れた表面を削るようにして同じ厚みのソールを作っていたがどうしてもゴムに無駄が出るので型を少し深めに作ってくれと言い出したのだ。ちょっと深めに型を作ることで多少入れすぎてもスプーンなどでバケツに戻せるし、慎重に注げばぴったりの量で作ってみせると豪語したので作ってやったのだ。果たして彼は見事にソールを作っていたから今では安心して任せていた。

 一体その変ちくりんな物で何をするのかと思って傍まで行ったものの声を掛けずに様子を見ていたらラテックスの入ったバケツに板に突き立っている棒を浸し、板を持ち上げる。すると板に突き立っている棒の表面は当然ラテックスに覆われている。板をひっくり返し、作業台の上に置くと数本の棒が作業台から生えている感じだ。同じ作業を別の板に交換しながら何度か行うと、作業台は剣山のようになった。一息ついたようなので声を掛けると、やはりこれは風船を作っているところであったらしい。

 こうすれば風魔法も必要なく大量に風船を作れる。後で乾燥の魔法を掛ければあっという間に沢山の風船の出来上がりだ。そもそも放って置いてもゴムの量自体が少ないので多少時間はかかるが乾燥の魔法すら必要ない。これは目から鱗が落ちるな。こ、これなら、コ、コ、コンドームもいけるんじゃね? あとで誰にも見られないように試作の型を作ってみようと心のノートにしっかりと書き込んでおいた。



・・・・・・・・・



 ウォーターベッドは非常に喜ばれた。ゴムも厚く丈夫に作ったし、さらにゴム張りの布で全体を覆ってあるから、この上にシーツを敷いてプロレスごっこをしてもそうそうは壊れないだろう。そっとファーンに「かなり丈夫に出来ていますから多分二人で寝ても壊れませんよ。もっとゴムに余裕ができたら大きめのを作りますから」と耳打ちしておいた。俺は本当に兄思いだ。

 兄思いついでに試作品の型を作る相談もしてみよう。母ちゃんと義姉さんがきゃっきゃと無邪気にベッドメイクをしているので兄をそっと旧子供部屋から連れ出して相談してみる。もう低い耐久性などの失敗を恐れる必要も無いので耐久性や使用感などのテストについてはやり放題だ。そもそもこればっかりはファーンから意見を聞いて改良するしかないし、材質の研究だって兄が中心となってやったほうが効率はいいだろう。

 ファーンはやはり微妙な表情だったが了承してくれた。よしよし、俺が一人前となってこの村を出るまでには立派な逸品が量産体制に入っていることを期待しよう。この村では見たことは無いが、ファーンが言うには騎士団にも性病患者はいるらしいし、キールなど大きな町に行けば鼻が欠けたりしてる人も見かけるそうだ。性病自体はやはりポピュラーなものであるらしい。細菌等の性交渉による接触感染のメカニズムなどは理解されていないようだが、経験則から「性病患者と性交渉を持つと病気が伝染うつることがある」ということは知られているようだ。

 量産できれば「コンドームをしていれば性病患者と性交渉を持ったとしても病気が伝染うつる可能性がかなり減る」という一般認識を作れるかもしれない。それを説明するのは難しいので、避妊具として売り出すより無いのだが、それでも何もしないよりは良いだろう。

 え? 性病に感染したら魔法で治療すればいいだろう? うん、勿論そういう考え方もある。だが、魔法での病気治療は大変高度な技で、俺ですら上手くはいかない。せいぜいHPを回復させる魔法を掛けて免疫力の上昇に期待するくらいが関の山だ。

 病気になると鑑定した状態が【状態:病気(○○)】になる。○○には病名が入ることもあれば原因が入ることもある。普通は病気の原因は身体の免疫力を上回る病原体の身体への侵入を意味する。病気の進行度合いがほんの初期であればHPの現在値がちょびっと減少するくらいで、ほぼ治癒魔法一発でじきに治る。しかし、ある程度病状が進行すると身体の体力を使うからなのか、鑑定の筋力や俊敏、耐久の値が減少し始める。それに伴ってHPの最大値も減少する。元の値は括弧表記で残されているが何故かその部分は赤文字になっている。

 当然回復すれば元の値に戻るのだが、HPの最大値が減少しているためかどうかは不明だが完全回復までは治癒魔法を掛けてもHPは元の値までは回復せず、現在の最大値までしか回復しない。こうなると治癒魔法は一時的に身体を多少楽にしてやるくらいの効果しかない。病気の治療専用の回復魔法はあるにはあるらしいが、これだ、これさえ掛ければ大丈夫、という魔法は無い、か発見されていない。または発見されていても何らかの理由で秘匿されているのだろう。

 傷口の化膿を止めたりする魔法がそこそこ知られているくらいで重い風邪(肺炎か?)ですら症状が進行すると先ほど述べた通り、治癒魔法をかけて少しずつ免疫力の回復に貢献するくらいがせいぜい出来る事だ。俺は昔からこれについて考えていたが、今ではある仮説を立てている。治癒魔法は無魔法の他には水魔法が基本になるのだが、他にも地魔法や火魔法を使う方法がある。どちらかというと地や火魔法も併せて使うほうが回復量も大きいようで、要するに効果が高い治癒魔法と言える。ひょっとしたら、病気の治療のための「回復魔法」ってやつは病原体への攻撃魔法なのではないだろうか?

 抗生物質だって細菌類やウイルスなどに対する毒攻撃と言えなくもないだろう? 尤も、俺はカビを培養してペニシリンを作る知識なんか持ち合わせちゃいないので抗生物質はとっくの昔に諦めているんだけどね。毒を造り出す魔法は水魔法と地魔法が中心だ。治癒魔法も同じ魔法を使う。昔、赤痢が持ち込まれてバークッド村に惨禍をもたらした時に治癒師のシェーミやシャルが治癒魔法で大活躍したらしいがそれだってある程度病状が進行したら助けられなかったと言っていた。

 多くの性病には潜伏期間があり、長いものは数年だ。その間に病気に罹患しているという意識が無ければ治癒魔法なんか自分にかけないし、まして自分で魔法を使えないのならば誰かにかけて貰うはずも無い。そもそも治癒魔法だって自分で使うのでなければ普通は代価が必要だろうしな。気がついたら急速に病状は進行し、魔法だと殆ど手がつけられなくなるのではないだろうか。

 俺の知る限り生き物の状態をチェックする魔法はないので何らかの自覚症状か外傷でもない限り異常状態を知る手段はない。医者もいることはいるのだろうが、こんな田舎の村になどいるわけもない。そうすると俺の鑑定の固有技能はすごいな。どんな異常でも確実に発見できるし医者いらずだわ。あ、最悪これで生きていく方法もあるな。診断士か。



・・・・・・・・・



 その夜、狩りに行こうとそっと寝ぐらに使っている倉庫の戸を開け、装備をざっと確認し、意気揚々と出発する時に旧子供部屋の外を通った。窓の戸は締まっていたが声が漏れ聞こえていた。聞こえないふりをしてそっと通り過ぎた。ぼくはじゅっさいだからきょうみはないよ。

 病気の予防が第一義なのだ。破れにくくて丈夫なものが作れればそれでいい。こいつのおかげで生まれながら性病に母子感染している子供を減らせればいいのだ。使用感など二の次だ。二の次だ。いや、重要だよね。使用感が悪いと使ってくれないだろうし、そうなると普及もしないだろう。うん、両立はしないとね。

 そうなるとローションも必要だけど、今のコンブだかワカメだかのような海藻から作れるローションでも問題ないと思うので、こっちは改善の必要を認めないな。それよりもコンドーム自体の保管をどうするかだよな。ビニール袋なんかないし、生前海外で買ったやつの様に小麦粉だか片栗粉だかをまぶして小さな紙袋に入れておいて別売りのローションと併せて使ってもらうしかないだろうな。あ、密閉を考えたら勿体無いけど小さなゴム袋という手もあるにはあるのか。

 このあたりは王都やそれ以遠の場所に販売するときには必ずネックになるだろうなぁ。ああ、そうだ。もう一人で悩むのは止そうと思ったばっかりだ。明日またファーンに相談しよう。そうしよう。

 その晩はスッキリ晴れやかな気分で夜行性の魔物を沢山狩った。

 
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