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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第八十一話 接触者 2

少し遅いですが、新年明けましておめでとうございます。
今年も宜しくお願い致します。
7449年10月13日

 馬房から引き出されてきたアルの愛馬ウラヌス号に飛び乗るミヅチ。
 馬具を装着したままにしてあったのは当番のウラヌスだけで、ミヅチの玉竜や普段ズールーが使っている軍馬など他の馬は馬具を外していたために用意にはそれなりの時間がかかるためだ。

「行政府に馬を停めるから」

 カルスロンに手を差し伸べて後ろに座らせると「飛ばすから、落ちないようにね。私の腰に手を回して」と言うが早いか即座に鞭を入れる。

 アルは苦虫を噛み潰したような表情をしてその言葉を聞くと、カルスロンに視線を送って威圧した。
 まるで“余計なところに触れたら殺す”とでも言わんばかりの鋭い眼光であった。

 アルの視線を受けるまでもなく、カルスロンにはミヅチにしがみ付くような真似をするつもりはない。
 幾ら過去に顔見知りであるとは言え、今や貴人となったばかりか、ライル王国の元老と同格という者に直接手を触れるような真似は恐れ多くて若いカルスロンにはとても出来るような行為ではないからだ。

「ギジェラルスはどこで監視をしているの!?」

 内側からコートジル城の城門をくぐり抜けながら、後席の人物を振り返りもせずに懐かしいデュロウ語(デュロウリッシュ)で問いかけるミヅチ。

「んざ、ザイドリッツの、家か、から五〇、mくら、くらい離れた、干し草の山の、中です!」

 カルスロンの方も喋り慣れた言葉で返事をしたが、上半身が大きく揺れているためにうまく喋れてはいない。

「ちょっと! しっかり掴まりなさい! 私の腰に手を回せって言ったでしょ! これじゃ飛ばせないじゃない!」

 振り落とされまいとミヅチの座る鞍の後ろにあるハンドルを握るだけのことに全力を傾けていたカルスロンはここまで強く言われてやっと片手をミヅチの腰に回した。

――うお! や~らけ~!

 一般に闇精人族ダークエルフは女性でも脂肪が付きにくい体質のために細身の者が多く、若い者はほぼ全員が獣のようにぎゅっと引き締まった体つきをしている。
 しかし、ミヅチだけはそんなダークエルフの中でも例外的に脂肪が付きやすい体質のためか、筋肉の上には薄っすらと脂肪の層があるし、バストのサイズも飛び抜けて大きい方だ。
 とは言え、あくまでそれはダークエルフを基準とした話であり、普人族ヒューム精人族エルフを基準としてみた場合には腹筋はきっちりと八つに割れており、非常に鍛え抜かれた印象を持つだろうし、バストサイズだって馬鹿でかいという表現には程遠い。

 片手だけ手綱から手を離したミヅチは遠慮がちに伸ばされてきたカルスロンの腕を掴むとしっかりと自分の腰に回し、もう一方の手もハンドルから離させると腰に回させた。

――ミヅェーリットさんって、昔から地上の女みたいな体つきだったよなぁ……。

 未だ一七歳と若いカルスロンだが、女性には慣れている方だ。
 しかし、ライル王国の細身の女だけしか知らないため、女の体には胸と尻以外にも柔らかい部分があるということを初めて知って驚いていた。

「顔を横向きにして体を私にくっつけなさい!」
「は! は、しかし!」

 カルスロンはつい先程受けたアルの視線を思い出して戸惑った。

「早く!」

 催促の言葉に上半身をミヅチの背中にくっつけて顔を右向きにした。
 カルスロンの鼻孔を仄かに甘い香りがくすぐる。

「閣下……も、申し訳ございませ……糞、何だこれ? ……剣か」

 ミヅチの腰の後ろに挿してある剣が邪魔になり、体を完全に密着させることが出来ないことに気づく。

「え? なに?」
「い、いえ、何でも!」

 慌てて返事をするカルスロン。

「私達が戻るまでに接触してきた奴らが家を出たら!?」
「可能ならば拘束するでしょうが、複数ですし騒がれてもまずいので尾行して行き先を突き止めるだけです!」

 あっという間に鑑定の射程から外れてしまい、渋面のアルはギリリと歯を咬み鳴らして溜め息をついた。
 アルには地肌の覗いているミヅチの腰に手を回すカルスロンの服が見えていたのだ。
 やれやれというように頭を振ってから側に控えているベンに声を掛ける。

「ズールーはいつまで寝てんだ? さっさと起こしに行け」

 馬の足音や怒鳴るようなミヅチの声がしていたために兵舎からは何人かの奴隷達が出てきていたが、その中に奴隷頭であるズールー夫妻の顔は見えなかったためだ。
 昼間の鉄道工事で疲労し、日が暮れてからは妻の要求に応えて更に体力を使っていたズールーは精魂尽き果てて大いびきであったし、妻のエルミーナの方も掃除や洗濯などコートジル城の家事に加えて思いもよらぬ激しい火の付き方をしたズールーの攻撃に撃沈されていたのだが、そんなことはご主人様には何の関係もないのである。

 ところで、ミヅチの体臭を愉しむ余裕もなく、必死でしがみついていただけのカルスロンだが、ふと異変に気が付いて目を丸くする。

――ば、馬鹿な!? もう三分以上も全力疾走だ! こんなペースでも潰れないって……!?

 カルスロンは隊商の護衛をしたこともあるので馬について全く知識を持たない訳ではない。
 馬に限らず動物というものは全力疾走が可能な時間など限られており、せいぜいが数十秒といったところである。
 それ以上の長時間を疾走せねばならない場合、途中で意図的にペースを落とすなどして幾らかは休憩させてやらないと体が持たないのだ。

――そうか。これが軍馬という奴か……俺が知ってるのは荷運び用の駄馬くらいだし……世の中には凄い馬が居るもんだな!

 カルスロンが目を白黒させて感心している間に周囲の光景は農耕地から建物が立ち並ぶべグリッツの市街地に移り変わる。
 あまりの速さに更に感心しているうちに行政府前の広場に到着してしまった。

 行政府の門を二人で守護していた騎士団でも若手の従士達は物凄い勢いで広場に駆け込んで来た軍馬を認めると素早く槍を構えた。
 月の明るい晩だが、騎乗者の正体など余程近くに寄らないと判らない。

「私よ! 槍を戻しなさい!」

 馬上から伯爵夫人の声がしたため、衛兵達は体の正面に槍を立てて持ち、慌てて敬礼をした。
 ミヅチは鮮やかな手綱捌きでウラヌスを停めると馬の背から飛び降りて手綱を衛兵に預ける。

「そこらに留めといて!」

 衛兵が返事をするよりも早くミヅチは謎の同乗者を伴って街の北方へと走り出す。
 常人には考えられないような速さでミヅチとその連れは夜の闇に消えていった。

「おい……今のって……」
「ああ、ミヅェーリット様だよな?」
「この馬も閣下のだし……」
「あの格好……」
「見たよな?」
「そりゃあ……」
「け、尻が半分くらい……ゴクリ」
「背中も……」
「しかし、早いな。もう見えなくなっちまった」

 衛兵達が顔を見合わせて僅かな会話をしている間に、二人の姿はとっくに見えなくなり、衛兵の佇む空間にはウラヌス号のブルルッという鼻息だけが木霊していた。



・・・・・・・・・



「あ、あそこです! あの干し草の中に……!」

 囁く様な小声で言いながらカルスロンは幾つかある干し草の山のうちの一つを指差した。
 干し草の山から少し離れたところには一軒の家が建っており、窓の隙間からはちらちらと明かりが漏れているのがわかった。

「近すぎるわね……」

 ミヅチは家と干し草との位置関係を見て取ると呟いた。
 ザイドリッツに気取られたくはないので、事に及ぶには家からもっと離れた方がいいだろう。

「まだ居るようならギジェラルスを呼んできて。接触してきた者達が既に帰って尾行しているようなら後を追うけど、ここまで誰とも出会わなかったから……」

 どこかの宿や飲み屋にでも入られていたら少し面倒なことになる。

「ええ。その場合は落ち合う場所と時間を決めています」

 その場合、余程の幸運にでも恵まれない限りはその時間まで無駄な時を過ごすことになるだろう。
 なお、ギジェラルスの尾行が接触者に露見し、巻かれたり戦闘に発展して彼が斃されるような事態は全く想定していない。
 ミヅチにしても殺すくらいなら逃げろと命じられているダークエルフの戦士階級が間者風情に遅れをとることなど万に一つもないと思っているからだ。

 しかし、それらの心配は杞憂に終わった。
 ギジェラルスは未だ干し草の中に潜んでおり、監視を続けていたのだ。

「二人共、ホールクトキソはある?」

 二人のダークエルフはかぶりを振って返答とした。
 そもそもホールクトキソとはなんぞや、というような表情も窺えた。
 因みにホールクトキソとはダークエルフの暗殺者が好んで使う痺れ薬である。
 ライル王国謹製のキノコ類を原材料に使用しないが、かなりの即効性を誇る毒薬であり、上手いこと脳に近い血管にでも流し込めたのであれば僅か数秒で昏倒せしめることが出来る非常に強力な痺れ薬だ。
 なお、オーガには殆ど効果はない。

「ん……三位じゃあ知らないのも無理はないか……」

 ミヅチはホールクトキソについて、一位戦士階級の最終教育課程で習ったという事をやっと思い出し、口の中でだけ呟くとすぐに言葉を続ける。

「ホールクトキソは強力な痺れ薬よ。これを使いなさい」

 ミヅチは右の太腿の袴の膨らみから小さな小瓶を取り出して手渡しながら言うと、更に指示を与える。

「ギジェラルス、出てくるまで貴方はここで監視を続けて。私達はあそこの……判る? 農具小屋と奴隷の家の間で待ち伏せする。間合いに入ったらウェッブで拘束するから吹き矢かダートを使って首を狙いなさい。弓は威力が強すぎるからダメ」

 拘束するために毒薬を使うので武器に威力は必要ない。

「ギジェラルスは私から見て右側か後ろ側の方、カルスロンはその反対の方をお願い。もしも相手が三人以上なら……効果範囲を増したスリープクラウドを使う。でも、こっちは発動するまでちょっと時間が掛かっちゃうから、発動した時にうまく効果範囲に入っていない可能性もある。この場合は静かに拘束することは諦めるわ。多少の音や叫び声は致し方ないものとして、ウェッブを連発して拘束する」

 頷く二人を見て、理解したことを確認するミヅチ。
 冷静な事が多い彼女にしては大切な事が抜けているが、下ろしたばかりの新しい装束に身を包んだことで若い精神が高揚し過ぎてしまったためか、つい、抜け落ちてしまったのだ。
 二人のダークエルフはそれに気付いていたが、元老に逆らうなどという大それた考えは微塵も持っていない。

「三人なら真ん中、四人なら真ん中二人は残っちゃうから出来るだけ素早く仕留めて。私もダートを投げるから……」

 そう言いながらどこかから取り出したダートを一本。
 その先端をカルスロンに渡した痺れ薬の小瓶に漬けた。

「じゃあ位置について」

 即座に散って持ち場につく三人。


 ――三〇分後。
 果たしてザイドリッツの家から出てきた者は二人組の男達だけであった。

 最悪の場合として彼らにザイドリッツ夫妻を含めた四人を相手取る可能性を考慮していたのは無駄になったが、そもそもザイドリッツ夫妻が混じっていた場合には襲撃せずにやり過ごさねばならない筈なので、そんな事態に陥らなかったのは運が良かったと評することも出来る。
 尤も、時刻を考えればまだ子供のいない若い夫婦とは言え、朝の早い平民の夫婦が出歩くには遅すぎるのでこうなる可能性のほうが圧倒的に高かった。

 とにかく、人数的にも劣る男達は痺れ薬を使う上に手練であるミヅチを含んだダークエルフ達に対して碌な抵抗をする間もなく、あっという間に拘束されてしまった。



・・・・・・・・・



 コートジル城の中庭に床机を用意させ、ミヅチたちの帰りを待つことにした。
 中庭には四つの篝火を焚かせ、明かりと同時に僅かながら暖房も確保している。

 ミヅチ達が戻るにはまだそこそこの時間が掛るだろう。

 ぼーっと待っていても暇過ぎるので一度天守内に戻って手作業でもしようかと思った。
 だけどベンとエリーが実力の伸びを見て欲しいと主張するので、久々にチェックしてやるのもいいかなと思って暇潰しがてら稽古を見てやることにした。

 魔法を使うのが面倒臭いけど、ここは明かりも増やしてやろう。

 彼らの実力についてはズールーから報告を受けているので大体掴んでいたが、真面目に稽古に励んでいたのであろうことが良く分かる。

「おいエリー、そこで肘打ちは早過ぎるぞ。槍を構えている時にそこまで入り込まれたら肘打ちなんかする前に槍を落として剣を抜け。それからベンの方、今の踏み込みはなかなか思い切りがいいな」

 ズールーの嫁さんのエルミーが淹れてくれたお茶を啜りながら二人の戦闘奴隷の批評をしている。

「はい。わかりました」
「はい! ありがとうございます!」

 二人はそれぞれの顔つきで返事をする。

「よし、もう一回だ。ベンは槍を落とす時に無理に相手に当てようとしなくていい。まだそんな事に気を使う必要はない。それよりも出来るだけ早く剣を抜くようにしろ。エリーの方はベンが槍を落とす瞬間を見極めるようにな。お前の場合はベンが剣を抜くのを邪魔するように槍を投げ捨てた方がいいだろう」

 格闘技の約束組手のような連続した型稽古をやらせているが、完全な約束にはなっておらず、その時その時の体勢や状況に合わせて個々人の動きは調整される。
 一方が突き掛かりなら槍を捨てて接近戦を挑み、もう一方はそれを邪魔する、という程度の流れ程度の約束しかないのだ。
 突きや接近方法などには色々な型があって、その中から稽古者本人が状況に即したものを選ぶという、どちらかと言うと模擬戦に近い形式の稽古だ。
 完全な模擬戦よりは得られる経験値は低いが約束組手や単なる型稽古よりも微妙に多く経験値を得られ、且つ相手の大体の行動が判っているので余程大きく実力が開いていない限りは大怪我をする可能性も低いところが長所なのでこの変則的な約束組手による稽古を奨励しているのだ。

 ……うん。なかなかいい感じだね。

「結構仕上がってるな……なぁ?」

 二人の熱のこもった稽古を見て、感心した俺は後ろに控えているズールーに声を掛けた。
 鉄道工事の合間に稽古を付けてやっているというズールーの功績大なり、といった所だろう。
 コートジル城に住むにあたって小頭であるルビーとジェスはべグリッツの領主の館の傍にある奴隷長屋に住まわせていたのでベンとエリーの面倒はズールーに引き継がれているのである。

 ズールーから返事はない。
 真剣に見ていて聞き落としてしまったのだろう。

 と思ったら、余程眠かったのか立ったままうとうとしていやがった。
 ご主人様の前で居眠りとはいい度胸過ぎる。

 掛けていたガウンを脱ぎ、ゴムサンダルのベルトを締めた。

 服は寝間着のままだが、洗濯済みの寝間着もあるから多少汚してもいいだろう。

「おい、俺に木剣を寄越せ」

 ズールー対ベンとエリーと寝間着サンダルだがかなり本気の俺という、超変則の模擬戦をさせてやった。

 ズールーがズタボロになった頃、俺の愛馬の背にウェッブで簀巻になった男二人を載せてミヅチたちが戻ってきた。
 どうやら麻痺でもさせているようだ。
 ミヅチは麻痺パラライズの魔術はまだあまり得意ではなく、発動までにかなりの時間を要する筈だが……。

 ま、そんな事はどうでもいいや。

「ちょっと、夜中に何やってるの? 寝間着もドロドロじゃない」
「少し稽古に熱が入り過ぎた……おいズールー、いつまで寝てんだ。さっさと着替えて来い」

 ズールーは地面に大の字になってぜえぜえと息を吐いている。
 因みにズールーの怪我はついさっき治してやっているのでもう痛みは治まっている筈だ。
 単に疲労困憊で倒れているだけだ。

 ズールーに声を掛けると俺も着替えに戻ろうと……おっと。

「それからミヅチ。何その服は? お前も着替えろよ」
「えっ、何で?」
「何でって、お前……皆も目のやり場に困ってるだろ?」
「ふふん。こういうの、今まで無かったからね。思った通り、これも動きやすくていいわ」
『それ、なんかのコスプレなのか?』
『機動くノ一の不知火のコスチュームを元にしたの。知ってるでしょ?』
『何だそれ?』
『知らないの!? 森山由比が声当ててたじゃない! キャラデザも小池さんで……』

 誰だよそれ……?

 しょうがねぇな……好きにしろよもう。

 
今年度の下期に入ってから殺人的に忙しくなってしまいました。

何とか更新ペースを戻したうえ、とっとと誤字脱字の修正もしたいのですが、毎日家に帰ってもどうにも疲れてしまって碌に何もできずに寝てしまうという日々が……。
+注意+
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