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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第七十九話 ゆっくりでも着実に 4

7449年10月12日

「用意が終わりました。いつでも出発できます」

 行政府の執務室でミヅチと二人、書類を眺めながらあーでもない、こーでもないと話していたところに役人がやってきて報告した。
 今の時刻は午前一〇時を少し回った頃だろうか。

「ん、ご苦労。じゃあ俺は少し顔出してくるわ」

 返事をしながら椅子から腰を上げる。
 因みに役人の報告はダート平原に駐屯している王国騎士団への補給品の用意が整ったという知らせだ。

 俺の領内に駐屯している王国騎士団は合計して約一〇〇〇人。この他、国からの命令で別の領地の郷士騎士団も食い扶持以外は無償で駐屯してくれており、そちらは合計して二〇〇人くらいいる。
 王国騎士団の駐屯の費用として、安全保障費という名目で王国への上納金は当然支払う。だが、俺が支払った後で食料や医薬品、被服類など嵩のある消耗品をまた運んで来るのは、手間は勿論、時間的にも無駄なので現物で支払っている形だ。まぁ、軍事的な補給網を管掌している王国第四騎士団の長距離補給練度維持の問題もあるので年に二回くらい、指定された月はやんなくていいんだけどね。

「行ってらっしゃい」

 ペンのお尻で頭を掻きながらミヅチが言った。
 俺もミヅチも駐屯している騎士団への補給には夏前にそれぞれ一回づつ同行して、ダート平原各地に駐屯している部隊長への面通しは済ませている。
 従って、今日これから出発する補給物資を送り届ける部隊については俺が指揮を執る必要はない。その役目はリーグル伯爵騎士団の副騎士団長であるバリュート士爵に任せている。

 この時期、領内では小麦の収穫も終わって俺への納税のためにてんやわんやの状況である。

 そんな中、補給物資の集積拠点となっているミドーラ村までの馬車隊を都合し、帰り道では納税用の小麦袋を満載してくるなど、騎士団が(俺が)保有する貴重な馬車のスケジュール調整はバリュート士爵が全て行ってくれた。
 正直、こういった地味なスケジュール調整や訓練の指揮などを任せられるのは非常に助かっている。また、決裁はともかくとして、事務の実務処理についてもクローとマリーに投げっ放しに出来るようになったのも俺やミヅチにはありがたい限りだ。

 士爵に言わせると「大きくて性能の良い馬車が一気に八台も増えましたからな。あまり悩む必要もありません。ありがたいことです」とのことで、この業務を何年も行っている慣れた手つきであっという間に単なる白紙を線表だらけのスケジュールで一杯にしていた。

 行政府前の広場にはバルドゥックで作った六頭建ての大型馬車が四台停まっており、荷台には補給物資が満載されている。
 その中の一台の御者台に立ち上がって、護衛や御者として随行する騎士団員たちへ訓示を垂れているバリュート士爵は、当たり前だが目立っていた。

 随員たちを見回すと、元煉獄の炎(ゲヘナ・フレア)のドワーフも何人か混じっているようだ。馬車を御することに早く慣れさせようというのだろう。

 士爵は俺の姿を認めると早々に訓示を切り上げて荷台から降りて俺の前に跪いた。
 彼の行動を見た騎士団員たちも一斉に跪いて頭を垂れる。

「団長、王国軍への補給の用意が整いました。これよりミドーラ村へ出発いたします」

 そう言うと士爵は立ち上がって剣を捧げ持ち、敬礼をした。
 いつもならここで俺も訓示を行うのだが、今日は午前中のうちに処理して欲しいと言われている決裁案件が幾つか待っている。
 あまり時間を掛けたくはない。
 訓示は無しにしよう。

「うむ。……ああ、先週ガルへに行った隊商が魔物の襲撃を受けたそうじゃないか。気を付けて行ってくれ」

 鷹揚に頷きながら返事をした。

 恐ろしいことに俺の西ダート地方、特にダート平原内では平均すると一~二ヶ月に一回くらいという超高頻度でこういう事が発生する。頻度は少ないが数日と間を置かずに連続して発生することもある。
 逆に野盗の襲撃は平原内ではまず発生しないし、ここ数十年、記録もない。平原内に野盗集団が根拠地を築けるような場所などないのがその理由だ。頑張って築こうとしたところで魔物のエサになってしまうからだろう。

 因みに件の隊商はウィードに本拠を置く三号免状の小さな商会だが、きっちりと護衛を雇っていたことが功を奏して荷物への被害は無かったらしい。
 従って、行商人も護衛を多めに雇う必要もあるから平原内の村落で自給が不可能な必需品の価格は通常の二~三倍もの価格になってしまうそうだ。

 早く鉄道を通してやりたい。
 そうすれば行商人も護衛を雇う必要がなくなる。
 当然運賃は頂戴するが、自前で馬車を仕立て、何人もの護衛を雇う費用とは比較にならないほど安価になる筈(例を挙げると、ウィードからガルへまでは片道一〇万Z以内にするつもりだ)だからね。
 移動時間も圧倒的に早いだろうし。

「は。その為の彼らでもあります……」

 薄い笑みを浮かべつつ剣を収めながら士爵が返事をする。
 なるほどね。
 そう言えばあのドワーフたちが来るまでの間、補給には必ずクローとマリーも同行していた。士爵は士爵でモンスターに対する効率の良い戦闘方法について騎士や従士に学ばせる腹づもりもあったのだろう。

 補給部隊の出発を見送ってから庁舎に戻った。

 ん? 護衛の冒険者の働き口?
 そら当然無くなるんじゃないの?
 無くなるってのは言い過ぎにしても確実に減っていくだろうね。
 少なくとも護衛とか届け物なんてのは真っ先にコストカットの対象になるだろう。
 不満なら別の土地に行くか、領主に陳情でもして別の働き口を探せばいいだけだ。
 例えば馬車鉄道に乗り組む護衛とか、線路の保守・点検要員の護衛とか、真剣になって探せばそれなりに色々と出て来るんじゃないかな?

 実際に冒険者として働いていた俺が言うのも何だが、一般的に言う冒険者なんて、まず碌なもんじゃない。言うなれば街のダニ(ヤクザ)とかゴロツキよりは少しはマシ、まぁ、似たようなものとも言えるだろう。
 勿論例外はある。
 俺は直接の交流はしていなかったが、キールやバルドゥック、ロンベルティアなどで活動している冒険者にはそういう例外は沢山いた。

 大抵の場合、そういう人たちは一つの土地に住んでいる事が多い。定宿を持っているか、中にはきちんとした自宅を構えている人だっている。
 おとなしく適当な仕事を請け負って稼いでいるだけなら何の文句もないし、先の通り、現に何割かはそういう人もいることは知っている。

 でも、何割かは始末に負えない人がいることは確かだ。
 定宿のない奴や流れ者なんか、ほんの一握りを除いてまず碌でなしだ。
 詳しくは知らないけど、ゼノムなんかはそういった例外だったんじゃないかな?

 懐が寂しくなったら適当に仕事を請け、それで小金が入ったら酒を呑んでクダを巻いたり女や男を買ったりする。ここまでは問題ない。でも、大抵の場合、酒場で他の客に絡んだり、質の悪い奴なんかだとすぐに喧嘩沙汰だ。
 良く知ってるけど、ラルファ……まぁいいや、自分からは滅多に喧嘩を売らなかったし。

 縄張り意識の薄い流れ者なんか、地元のヤクザを恐れることなくカツアゲや盗みまですることもあるし、無銭飲食をしようとする奴なんて後を絶たない。尤もこれは大抵の店が前払いなので滅多に成功しないけど。
 割の良い仕事が発生した時なんか、同業者間で仕事の奪い合いから諍いに発展することもあるし、おかげで治安の維持に騎士団は四苦八苦だ。

 為政者という立場にしてみれば、そんな冒険者は全員消えてしまえばいいとすら思っているくらいだ。



・・・・・・・・・



 午後。
 もうそろそろ暗くなり始めるという一六時過ぎ。
 副団長を欠いた騎士団はミヅチに任せて俺は執務室で一人書類と格闘していたが、ノックの音に顔を上げた。

「入れ」

 若い役人が来客を告げる。
 ラルファとグィネがゾンディールから戻ったらしい。
 今日の仕事はここで切り上げることにした。

 執務室に入ってきた二人は挨拶もそこそこに地図を広げ始めた。

「四パーセントくらい小さく報告してたみたいね」

 鼻息も荒くラルファが言う。

「隠し畑は無いみたいですし、正確には測れないでしょうから……四パーセントくらいは誤差かとも思いますけどねぇ……」

 グィネはやれやれと言った様子で肩を竦めている。
 正直言って俺もそう思う。

「何にしてもご苦労だった。で、線路の方はどうだ?」
「川に橋を架けるのに良い場所があんまり……それでも候補は絞ったんですけど、どれも今の街道からは少し東寄りになっちゃいますね」

 グィネが地図を指し示しながら言う。
 実際に行って見てみたい気もするけど、でっかい石板なんかで工事しちまえばどこもあんまり変わんないだろうな。

「そうか。あまりカーブを作りたくないから、このあたりが良さそうかな……」

 俺の独り言を聞いたラルファは、多分わかっていないのにふんふんと頷いている。
 そうれはそうと、グィネの地図作成能力は本当に頼りになるな。

「……うん。この地図は助かるよ。ところで、次はハッシュ村の方を頼むな。ミード村と同じく一〇㎞の距離らしいから、調査日程は一週間も見とけばいいかな?」

 べグリッツの西にあって、領内では唯一海に面しているハッシュ村も海産物などの輸送のために出来るだけ早く馬車鉄道を敷いておきたい。
 決して刺し身が食いたいからじゃない。
 決して日帰りで釣りに行けそうだからじゃない。

「そうですね。でも明日は休みますよ」
「うんうん。休養は必要だしね」
「そりゃ構わんさ」

 ああ、そう言えば。

「この前は一緒に飯を食えなくて悪かったな。鶏料理の旨い店行かねぇ?」

 ラルファがニンマリした。

「勿論……」

 嫌らしい目つきだね、お前。

「ああ、好きなだけ飲んで食ってくれていいさ」

 ちゃんとしたテスターがないからなんとも言い難いが、ダイオードの方も歩留まり率一〇パーセント(笑)というかなりの精度で「これは」という物が作れるようになっているから、今日は酒飲んで寝ちまってもいいだろう。

 
前回は今週の水曜日に更新したいと言いましたが無理でした。
もう無理な目標を言うのはやめます……。
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