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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第一部 幼少期~少年時代

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第四十五話 別離

7438年10月22日

 ゴムの納品を終えてヘガードが帰って来た。結婚は来月の10日に行われるとのことだ。前日にはウェブドス侯爵の一行も司祭を伴って村に到着する。流石に一方が身分の高い貴族の結婚とあらば当日に司祭が伴って結婚式も行うようだ。一行の総勢は28名もいるとのことで宿泊先の割り振りが行われた。

 そう言えばファーンからミルーの騎士団の入団試験までに以前ファーンに贈ったのと同様の剣を用意出来るかと訊ねられた。ミルーに贈るのであれば確かにそろそろ用意に入ったほうが良いだろう。貯めた鉄も剣を一振り作るくらいは充分にあるし、なんだったら三振りくらいは作れる。三振りは流石にちょっと足りないかな? 二つ返事で大丈夫だと答えるとファーンは俺を家の裏手に連れて行った。

「アル、実は以前お前と父さんに贈ってもらった剣なんだがな……。これは非常によい品物で俺も何度も助けられた。この前の戦の時も他の騎士の剣が傷み、予備の剣と交換するような状況でもこの剣は全く問題なく使えた。この剣と同等の剣をミルーにも持たせてやりたいんだ。多分入団試験は実技だけとはいえ何日か行われる。俺が聞いた話だと真剣による連続組み手も試験項目にあるらしい。真剣の組み手は武器を破壊されたり叩き落されるとその時点で負けとなる。叩き落されるのは仕方ないが、普通の剣だと何度も組み手をやっていると剣がすぐにぼろぼろになってしまうんだ。
 ……そうだな、力が同等なら10人も相手にするとまずダメになると思っていい。だが、その点この剣ならまず大丈夫だと思うんだよ。当然相手はミルーよりも力も技もあるだろうが、真剣の組み手だからそうそう体に当ててくることは無いはずだ。勿論盾を使っても良いんだが、ミルーは盾が苦手だろう? 左腕に固定する小型の盾だけを使わせて剣も防御に使ったほうがいいし、そういう盾なら場合によって両手で剣を握ることも出来るから強い打ち込みも出来る。
 だから、頼む、アル。ミルーに良い剣を贈ってやりたいんだ」

 うん、真剣の組み手については良く知らなかったけど、そういう事情もあるのか。そもそも剣を贈ることには賛成だ。

「ええ、でも、兄さんにも作成を手伝って貰った方が姉さんも喜ぶでしょうから、そこはお願いします。アルノルトが鍛冶の設備を監督していますし、実は兄さんの剣も僕のこの剣もアルノルトがいなければ作れなかったんです。この剣は作るのに大変に力が要りますから手伝いが必要なんです」

「そうか、それは問題ない。俺も鍛冶は騎士団でちょっとだけ習った。大丈夫さ」

「いえ、多分兄さんが予想している内容よりきついと思いますよ。それに作るのにはかなり時間もかかります。アルノルトは農具の修理など他の仕事もありますからね」

「ああ、試験に間に合えさえすれば時間は問題ない。それに時間がかかると言ってもせいぜい二日とか三日だろう? 鉄を溶かして型に流し込んでから叩いて細かい調整をするくらいだろ?」

「ふふっ、まぁ楽しみにしていてください。あ、兄さんは領主になるのですからお教えしておいたほうが良いですね。あの剣は材料を地魔法と無魔法で作り出しています。剣一本分くらいの分量の材料を作るのに僕なら休みなしでそれだけに集中して頑張って十日くらいかかります。この時間は後始末に使う魔力については考慮していない時間です。一日に三回くらい休憩してその度に魔力も全部使い切ることまで必要です。それから、その材料を使って鍛冶をするのですが慣れるまでは大変時間がかかります。この村で肝心なところを鍛冶で作れるのはアルノルトだけです。父さんも力仕事で手伝ってくれるくらいしか出来ません。勿論、僕にだって出来やしません」

「え……そ、そんなに大変だったのか……。じゃあ一体、後始末や他の仕事しながら普通に材料を貯めるんだとどのくらいの時間がかかるんだよ……。地魔法と無魔法だけで材料を作れるんなら俺にだって出来そうだけど、気が遠くなりそうだな……」

 ファーンは剣を作る労力が想像以上だったことに絶句しているようだ。

「まぁそのあたりは時間が必要ですが、絶対に無理なことは無いです。時間さえ掛けて練習すれば兄さんにだって出来るはずです。まぁその辺りの事は追々説明します」

「あ、ああ……わかった……そうか、そんなに大変だったとはな……知らなかった。アル、本当にこの剣には助けられた。感謝しているよ」

 ファーンはそう言うと俺を抱き上げた。もう10歳になっているんだから重いし、恥ずかしいよ。嬉しいけど。あ、そうだ、良い機会だしついでにこれも……。

「兄さん、全く違う話なのですが、子供はどうするのです? 早く欲しいのですか?」

「ん? ああ、いや、俺もシャーニもまだ若いしな……。もう少し、そうだな二十歳くらいには欲しいかもな……でもなんでだ?」

「実はですね……

 ゴム製の衛生用品を最初に使ってもらう場合は本来の目的で使用してもらうのが一番だろ? 潤滑剤は干した海草を水につけておけばすぐに取れるしな。豚の腸も悪くは無いんだろうが俺が思うにムードぶち壊しだろ。



・・・・・・・・・



7438年11月10日

 ファーンとシャーニの結婚式はつつがなく終わり、宴会も大変に盛り上がって終了した。もう夕方近い時間だがまだ酒を飲んで騒いでいる連中も沢山いる。

 ウェブドス侯爵には初めてお目にかかったが小太りの優しそうな感じの爺さんだった。もう60歳を超えているそうだから爺さんでもいいだろう。息子のセンドーヘル騎士団長は一見すると普通のおっさんだが、近くまで寄って見るとヘガードにも負けず劣らずの体格で、興味本位で鑑定したらなんとレベルは15もあった。ヘガードと一緒のレベルの人は初めて見た。年齢はヘガードより二つほど上の40歳だが髭はきちんと剃っておりヘガードより若く見える。

 もっとも、奥さんが三人もいて、そのうちの一人はまだ19歳だった。なんだよ、それ。これが若さの秘訣だろうか。シャーニにしてみれば僅か三歳年上なだけの母親と言うことになるのだろう。複雑な気持ちなんだろうな。っと、いやいや、ここは日本じゃない、オースだ。普通普通。

 結納返しというわけなのかは知らないが、シャーニの嫁入り道具として高級そうな箪笥とそれに詰まった服、あとはなんと馬車を一台贈られた。でも、これ金貨50枚に見合っているのかというと足りない気もするが、まぁ良いだろう。皆納得しているし。

 ミルーの第一騎士団の入団試験については侯爵もご存知だったようで、大変期待しているとの事だった。ウェブドス侯爵領から第一騎士団に入団できた人間はここ20年くらいいないそうで、侯爵から直接言葉を掛けられたミルーは緊張から変に鯱張しゃっちょこばっていた。



・・・・・・・・・



7438年11月22日

 ミュンに手裏剣投げを教わった。昔からミュンが持っていた千本のような奴だ。魔法があるから遠隔攻撃手段は必要ないとは思わないでくれ。知っていて損な事もないし、魔力を使いたくないときや、夜間など魔法を使う時のように手が光ってばれる事も無くある程度離れた場所へのほぼ無音の攻撃手段があることは有効だろ?

 でも、難しいな、これ。格好をつけて指の間に三本くらい挟んで投げようとしたらミュンに笑われた。ちゃんと一本ずつ投げないと威力も落ちるし狙いもつけづらいのだそうだ。まぁ常識で考えればそうだよな。毒を塗って投げるから相手に深く突き刺す必要は無いと思っていたんだけど、表皮にちょっと傷をつけたくらいですぐに吸収され、相手を殺したり昏倒させたりするような毒なんか知らないと言われ、出来るだけ深く、急所に刺さるように使わなければ折角の毒の効果も半減だとも言われた。

 ミュンは同時に毒の作り方も教えてくれた。ガンビ草の葉と青蛙の血を混ぜて痺れる毒を作れるそうだ。あとはこのあたりの動植物から作れるような毒については知らないと言っていた。毒か。これも有効だよな。ロンベルト王国の騎士は毒は卑怯と言って嫌うそうだが、俺は騎士じゃないし、別に毒を卑怯とは思わないのでいいや。



・・・・・・・・・



7438年12月30日

 大晦日までもつれ込んだが、ミルーへ贈る剣が完成した。ファーンが熱心にアルノルトに師事し、火傷を沢山作りながら(すぐに魔法で治療していたが)造り上げた逸品だ。

【ロングソード】
【鍛造特殊鋼】
【状態:良好】
【加工日:30/12/7438】
【価値:896000】
【耐久:4070】
【性能:122-192】
【効果:無し】

 耐久性はファーンの剣より若干劣るがほぼ同性能の剣だ。尤も、俺は材料を提供しただけで、後は作成中に耐久力を見ながらもっと左のほうを叩けとかいやいや違うとか適当なことを言うだけの楽な仕事だった。だが、柄と鞘だけは俺が手ずから作った。格好良く丈夫に出来たとは思うがろくに装飾も無いので気に入ってくれるかどうかは神のみぞ知るってところだ。

 また、ミルー用のプロテクターも作った。当然成長も考えて大きめに作ったが、入団試験に落ちたら元も子もないので今の身体に合った物も作り、慎重にサイズあわせを行った。今回ミルーに贈るプロテクターは胴体や腰の各部にエボナイト製のDリングを取り付けてある。同じくエボナイトと少量の金属で作ったカラビナを着けた小さなパックをプロテクター上のDリングのハードポイントに着脱出来る様にしたら便利だろうと考えてのことだ。

 簡単な剣や武具の手入れキットや携帯食料、予備のゴムベルトなどを入れておけばいいんじゃないかな。などと思って一人悦に入っていたら、ファーンに「そういう小物類は従士が持つものだ」と言われ地味にへこんだ。

 盾については思案の結果、手の甲から肘くらいまで覆う腕のプロテクターの前腕部分に腕に沿っていくつか穴を開けその穴に金属棒を差し込んで盾の代わりに出来るようにした。盾を持ったり装着するよりは軽いのではないだろうか。重い時は抜けばいいし、抜いてもエボナイト製の表面だからそれなりの防御力は残るだろう。



・・・・・・・・・



7439年1月3日

 日本なら正月気分真っ盛りだが、今日はミルーの入団試験への出発の日だ。馬車にミルーの武具一式と納品用のゴム製品を積み込んで出発だ。馬車には御者としてベックウィズが乗り、その横にミルーが腰掛ける。ヘガードは軍馬で同行し、護衛に従士が二人徒歩で同行するいつもの編成だ。

 ついにミルーは走りながらの魔法は使えるようにはならなかった。だが、毎日の走り込みでかなり体力がついたのだろう、能力値の耐久が1ポイント上昇している。無駄じゃなかったし、入団試験の前に成果も現れたのでトレーニングには意味があることは証明された。俺? 何でだか知らないけど上がってないよ。でも俺ももう少しで耐久が上がる気がするんだよね。

 出発前にファーンはミルーに剣を贈った。ミルーは剣を抱きしめながら「行ってきます」と言うと剣帯に剣を吊るした。その後、残留するシャルにも挨拶し、俺のところに来た。何も言えないでいる俺を抱きしめると俺の額にキスをして「ありがとう」と一言言うと剣を抜き、皆が見守る中で長く美しかった金髪を切り落とした。うん、絵になるけど切り口が変だしそう言う事はやめといたほうがいいと思うよ。

 その後、ミルーは馬車の御者台に乗り込んだが前を向かずに後ろ向きのまま御者台の背もたれに片手をかけると膝立ちになって見送りの人々に手を振った。

 村人全員の見送りに陽気に応えながらミルーが出発する。

 5m、10m、ミルーが離れていく。これで子供部屋も広くなるってもんさ。

 15m、20m、もうミルーには会う事も無いかもしれない。

 30m、40m、ミルーが向き直って御者台に座りなおした。

 50m、60m、振っていた手を降ろすと腰にぶら下げているスリングショットの柄に当たった。

 70m、80m ミルーの姿が小さくなっていく。

 急に感情が溢れ出す。制御できないのは久しぶりだ。

「姉さん! 姉さん!! 姉さん!!!」

 俺は叫びながら走り出す。

「姉さん!!!!」

 くそっ何だよこの気持ち。

「うっ……ねえちゃん!!」

 もうわけわかんねぇ。

「ぐっ……ねえちゃーん!!!」

 既に全力で走っている。

 ミルーが振り向いたのがわかる。

 ミルーは笑っていた。

 泣きながら。

 
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