挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第三部 領主時代 -青年期~成年期-

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

454/510

第六十二話 ヘソクリ

7449年8月20日

 ラルファとグィネの二人は一緒にウィードを発った。
 朝日が昇って一時間もしないうちの早朝の事である。

 ラルファ達は先月末にウィードに到着しており、そこでベルを始めとする領内南部に向かう者と元煉獄の炎(ゲヘナ・フレア)のメンバーに率いられたべグリッツに向かう者と分かれていた。
 また、殺戮者スローターズの中心メンバーに使われていた部隊編成パーティーゼーションはラルファ達のウィードへの到着に伴って解除されている。
 部隊編成パーティーゼーション内で行える命令の残り回数もゼロになって久しいために、不便なのを覚悟でギリギリまで第二陣の安全を見ておいてくれたと感謝すべきである。
 年末にアルが王都に行く際にまたかけ直すのだろう。

 ラルファが四週間ほどもウィードに滞在していたのには理由がある。
 街を治める貴族の一員として従士や街の有力者達に対して挨拶や会食もしなければならないし、ファイアフリード男爵家が所有する奴隷への顔見せにもかなりの時間が取られていたからだ。
 加えてファイアフリード家が所有する坑道や農地を一度は見て回る必要もあったし、従士長を務めるジンジャーや領主である男爵を補佐する従士達の案内を受けてウィードという街を見て回り、良く知る時間が必要だった為だ。

 そのせいもあって、到着以来グィネとは事務的なものを除いてゆっくり喋る機会はこの日まで殆ど取れていなかった。

「今日って裁きの日なんでしょ? 昨日のうちに出発出来てれば見物出来たのにねぇ」
「ラル。あんた、裁きを見るのあんまり好きじゃないって言ってなかったっけ?」
「ん~、裁きを見たい訳じゃないよ、そりゃ。でもアルが裁くんでしょ? どんな顔して悪人を裁くのか見てやりたいじゃん。あと、裁きの日は出店とか沢山出るからさぁ」
「ああ。あれはお祭りみたいで楽しいよね。色んな物食べられるし」
「呑めるし」
「だよね~」

 二人は馬を並べてべグリッツへと伸びるバーラル街道を進んでいく。
 二人が駆る馬にはそよ風の蹄鉄ブリーズ・ホースシューという非常に貴重な魔法の品(マジック・アイテム)を履かせているため、その速度は時速にして六~七㎞のだく足だ。
 休憩すら碌に取らずに頑張れば夕暮れにはべグリッツに着けるが、それでは騎手の方も相当に参ってしまう。
 何よりグィネが地形をゆっくりと見る必要もあるので今晩は途中のハロス村で一泊する予定である。

 道中のダモン村で昼食を摂ると、残暑の残る夏日の下、二頭の馬は二人のうら若き女性を背に乗せて再び歩き出した。

「ちょっとごめん、ラル。あの辺りをよく見たいから少し道を外すよ」
「ん。ところで、この辺ってモンスターとか出てくるの? オークとかゴブリンとかさ」
「ん~、南のダート平原に入っちゃうとボロボロ居るらしいけど、この辺はまず大丈夫みたいよ」
「ふーん、そっか。そりゃモンスターがしょっちゅう出てくるようなら好き好んで誰も住まないか」
「そりゃそうでしょ」
「そう考えるとトリスとかロリックとか貧乏籤よね」

 二人は世間話のような会話をしながらも用心深そうな視線を周囲に飛ばしている。
 野うさぎか何かだろうか? 正体不明の小動物が森の下草の中を逃げていった。

「……だよねぇ。聞いた話だから私も詳しくは知らないけど、あっちの方だと毎週村の周りをパトロールしても足りないくらいらしいよ。村の従士さんとかも交代で夜起きて畑を見張らなきゃいけないんだって」
「へー。ウィードもモンスターなんかいないって言うし、良かったわよね」
「うん。私んとこも畑じゃなくて坑道貰えたからさ。畑の心配しなくていいのは助かってるよ。前の人の奴隷も引き継げたから、掛かったのは最初のお金だけだしね」
「へぇー、グィネんとこは奴隷何人いるんだっけ?」
「バルドゥックで買ったのが六人と引き継ぎで四一人の合計四七人。でもそのうちの八人はまだ働けないような子供だけどね」

 話をしつつ街道から少し離れたところにひときわ高い木が生えているのを見つけたグィネは、その木に登りたいと言う。
 二人はそちらの方へと馬首を巡らす。

「子供が八人も混じってれば結構安かったんじゃない?」

 周囲を見回しながらラルファが尋ねた。

「ん~、奴隷商を通さないでカズム男爵の従士さんから直接買えたからね。一億四〇〇〇万ちょっとしかしなかったのはお得かな。みんな坑道掘りのベテランだし、お陰で貯金も結構残せてるから大助かりだったよ」
「ふぅん。うちは鉱山奴隷と農奴も合わせて合計四〇〇人くらい引き継ぎで買ったからなぁ。お父さんは一六億くらい使ったって言ってた。そのうちの一〇億以上はアルに借金だよ。お陰であれからバルドゥックで稼いだお金も金貨一枚残して全部取り上げられちゃった」
「えっ!?」

 ラルファの話を聞いてグィネは驚く。

 グィネの記憶では、今朝の出発前にゼノムは金の入っている袋を持って、それをラルファに渡すつもりだとジンジャーに言っていたことを覚えている。
 袋の中から硬貨が触れ合うような音もしてしていたので、あの袋にはかなりの額が入っていたとしか思えない。
 その袋を入れるつもりか、ラルファの馬のサドルバッグの蓋を開けようとしていた所も見ている。
 なんとなく、見るものではないと思ったので、実際に入れる瞬間を目にした訳ではないが。

 これから数ヶ月は伯爵領のあちこちを見て回らねばならないのだ。
 それも、べグリッツに行ってからは護衛としてマールとリンビーの二人も伴ってである。
 その間の食費や宿泊料などを考えるとラルファが持参しているという一〇〇万Zだけでは少し心許ないし、ゼノムもきっとそれを解っていたからこそのあの行動のはずだ。

「ラル。右のサドルバッグ」
「ん?」
「開けてみなさいよ」
「なんで?」
「いいから」

 馬を止めたラルファは馬の尻の左右に振り分けでぶら下がっている、右側のサドルバックの蓋を止めているベルトを外し始めた。

――ゼノムさんの心遣いが幾らなのかなんて、私が見ちゃいけないよね。

 そう思ったグィネは周囲の地形を覚えることに努める。

 ごそごそとサドルバッグを探っていたラルファは「一体何だってのよ? 別に変わった所はないよ?」とグィネに声を掛けた。

 ラルファはあの袋を受け取っていないのだろうか? 

「ええっ? ゼノムさんが袋に入ったお金を……」

 つい、口に出してしまったがこれは言っておくべきだろうとグィネは思う。

「おおっ!? そーかそーか。お父さんがねぇ」
「ごめん。ゼノムさんがお金の入った袋をそこに入れる直前、見ちゃったんだ」

 グィネの言葉を聞いたラルファは上機嫌になると丁寧にサドルバッグを漁り始める。

「……無いんだけど。ほんとに入れるとこ、見たの?」
「入れる瞬間を見た訳じゃないけど……」

 入れる瞬間は見ていないし、その後はケビンと話したりしていたのでグィネもよく覚えていない。
 ゼノムは結局、金を入れたのでなければ何をしていたのか?
 ラルファによれば特に覚えのないものが入っているという事でもないらしい。
 念の為に反対側のサドルバッグも漁らせたが徒労に終わった。

――お金、どうすんのよ? わ、私が……?

 グィネは目を見開いたまま絶句してラルファの顔を見つめた。

「そんな顔しなくてもいいじゃん。心配いらないよ。お金が無いって言えばアルが都合してくれるっしょ!」

 何故か自信たっぷりに言うラルファ。

「な、何で? あ! まさか、アルさんに言われた仕事だから給料出るとでも思ってるの!?」
「出ないの?」
「出るわけ無いでしょ! アルさんはもうご領主様なんだよ。そして、ゼノムさんはその従士長であんたは従士。その見返りとして貴族に叙せられた皆は領地だの徴税権だの貰ってるんじゃん!」
「うっそ『マジで』!?」
『マジよ』
「あ、あんたは?」

 ラルファは驚いたような顔をしながらもグィネに尋ねる。

「そこから? ま、いいけど」

 少し話が長くなりそうな雰囲気を察したグィネは目標の木に辿り着く前に馬を止めた。

「今回の件、形式はこうよ」

 前置きをしてグィネは話し始めた。

「まず、この領内の物は本来すべてアルさんの物。要するに、私の物とか言ってる坑道や住んでる家、いま着ている服、あんたんとこの畑とか持ってる奴隷、商売してたりする自由民、誰かが飼ってる豚とか鶏、果ては店先で売ってる肉やパンなんかも本来は全部アルさんの物。単にこの領内を通りがかった人なんかも一部の例外を除いて全部アルさんの物。唯一の例外は他の領地に本家がある貴族だけ。ここまではいい?」
「そ、そりゃそういうことになってるってのは知ってるし」

 常識なので流石のラルファも口を尖らせて不満気な顔をした。

「ならいいわ。まぁ、実際にはそう主張するご領主様なんかいないけどね。だとしたらバルドゥックで買った奴隷とか連れて来れないし、駐屯する王国軍の人なんかも困っちゃうしね」
「うん」
「でも、この領地での法律を定める権利を持っているのはアルさんだから、その気になれば全部没収して取り上げることも可能。そういう法律を作ればいいだけだしね」
「そんなん、王様が認めないっしょ」
「そりゃ認めないでしょ。でも、それは王様とアルさんの間での話であって、実は私達には関係ない。まぁ、そんな事したら当然王国との関係は破綻するのが目に見えてるからアルさんも含めてそんな事するご領主様なんか誰も居ないけど。っつーか、バルドゥックでアルさんが講義してくれてた時、あんた何聞いてたの?」

 重要な部分はきちんとメモを取っていたグィネは、髭の先に結ばれた小さなリボンを震わせて言う。

「退屈だから興味あるとこ以外は目ぇ開いて寝てた」

 ラルファの答えを聞いたグィネはねばつくような視線でラルファを射抜く。

「……器用ね。はぁ……面倒くさくなってきた……。要は、私はゼノムさんの従士だから権利を貰った坑道の収益からゼノムさんに税を払うけど、残りは全部私のものだって認めて貰ってる形なの。だからお館様であるゼノムさんの言う事を聞かなきゃいけない。今回はアルさんがゼノムさんに命じて、ゼノムさんが私に命じた形だから私はその命令に従って領内の調査に行くってこと。で、その間、私の家の事についてはケビンさんに面倒を見ろって命じてる。実態はともかく形式上はそうなってるの」

 途中の部分をかなりすっ飛ばしてグィネは結論を口にした。

「ふうん。じゃあグィネも無給ってこと?」
「あんた、今の話聞いてなんでそうなんのよ。対価はもう貰ってるって言ったじゃない! 坑道の権利。それが給料みたいなもんよ」
「へー」

 頷きながらもラルファはまだ良くわかっていないような顔をしている。

「あーもう。わかりやすく言うわ。アルさんは『コンビニ』の店長。あんたはそこの『バイト』。オーケー?」
「お、オーケー」
「あんたは『時給』を貰って雇われてる。その間は店長の指示に従って掃除したり品出しする。『レジ打ち』もする。オーケー?」
「オーケー」
「よし。じゃあ、ある日、酔っぱらいが来て店の中で盛大に戻しちゃった。こんなことは滅多に無いよね? それを掃除しろとアルさんがあんたに言った。それで給料増える?」
「え? そりゃゲロ掃除なんて時給増やして貰わなきゃやってらんないっしょ? あ、アルが自分で掃除すりゃいいじゃん。自分の店なんだし」
「……私がバカだった」
「バカなの?」
「あんたがね」
「え? 私? むきー」

 天を仰いだグィネはそれ以上取り合わずに目的の木に向かって馬を進める。



・・・・・・・・・



7449年8月21日

 午後三時頃。
 二人はべグリッツの街に到着した。
 初めての街なので地理がよくわかっていないのが不安だったが、大して大きな街でもないので行政府前の広場にはすぐに辿りつけたようだ。

「ふーん。あそこが行政府ね。この時間ならアルかミヅチが居るだろうけど、どうする? 今行く?」

 馬を降りて手綱を引きながらラルファがグィネに尋ねた。

「うーん。今日の宿を取るのがまず先じゃない?」
「それもそうね」
「それに、今日も暑いから喉乾いた。なんか飲みたい。しゅわしゅわする奴」
「あ、それいーね! 一杯だけ飲んでから行こっか」

 広場を歩く人に尋ね、それなりの格の宿の場所を聞くと二人は宿に向かう。
 と、広場から路地を一本隔てた場所に魔道具屋の看板を見つけた。

「あ、ちょっと待って。あそこ寄らして。実は今日のお昼を食べた時に細かいの殆ど使っちゃったんだよね。あとは金貨一枚だから……」

 魔道具屋を指差しながらラルファが言う。

「崩すの? 魔道具屋で?」

 そう言うグィネの言葉を聞き流して、ラルファは馬の手綱をグィネに預けるとサドルバッグから頭陀袋を取り出して魔道具屋に向かって小走りに駆け出した。

――あっ、あの袋!

 ラルファが手に持っているのは見違いようもない、グィネにも見慣れた袋だ。
 バルドゥックで迷宮に潜っていた頃に、倒したモンスターから採取した魔石を入れる袋。
 第一陣として出発するときにアルがラルファに「やるよ」と言って渡していたのを見た覚えがある。

 恐らく、ラルファはバルドゥックで得た魔石を換金せずにそのまま持っていたのだ。
 その量自体は大したものではないようだが、袋の膨らみ方を見れば……。

――あれがオーガの魔石なら二億はカタそうな……。そうじゃなくてもゴブリンとかノールとか安いのを貯めてるとは思えないし……部屋の主クラスのだとしても数千万Zにはなりそうね……。

 暫くして戻ってきたラルファはふくれっ面をしていた。

「見てよ、これ!」

 ラルファは小さな紙片を差し出した。

 そこには……。

――これだけの隠し財産があるなら金はいらんだろう。無駄遣いするなよ。

 こんなことが特徴のあるゼノムの筆跡で書かれていた。

 グィネは苦笑いを浮かべるとラルファが提げている頭陀袋を指差して言う。

「あんた、そんだけ魔石持ってるならお金いらないでしょ」
「うーん、グィネと同じようにバークッドの鎧買おうと思っててさ……」

 ラルファは少しだけ申し訳無さそうな顔をして言うと、ぺろりと舌を出した。

 
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ