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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第六十一話 始まりの終わり

7449年7月25日

「で、今月はどんな感じだ?」

 騎士団本部の団長執務室で、副団長のバリュート士爵に春から命じておいた内容についてその成果を尋ねた。
 簡単に言うと、べグリッツのケンドール街と呼ばれるスラム地区に巣食っていたゴロツキどもの一斉検挙についてだ。

「は。昨晩の時点で成年の名無しの男が一人、女の自由民が一人、平民の男が一人です。尤も、自由民も平民も納税の記録は無いようですので、あれですが」

 合計、僅かに三人か。
 先月からガクンとペースが落ちてるな……。
 ちなみに取り締まりを始めた最初の月である五月の成果は二三人もあった。
 それが一月経った六月で七人に激減し、今月はこの通りの数字だ。

「未成年は?」

 未成年の方は五月で一九人、六月で一四人。
 今月は……ゼロかよ。
 しかし、合計で六六人。九〇〇〇人の人口のべグリッツでは流石にそろそろ限界だろう。
 因みに五月に検挙した中で騎士団の正騎士が二人と従士も二人、ケンドール街の住人との癒着が発覚したために捕縛されている。

 彼らは今、揃って騎士団の牢に収監されいるが、牢の増築まで必要になってしまった。
 それでも人数が多いから、タコ部屋のように起きて半畳寝て一畳程度の面積しか与えられていない。一応昼には強制的に運動をさせているし、粗末だがちゃんとした食事も支給しているので健康面で問題は無い。

 こいつらは来月の裁きの日で全員俺の奴隷になることは確定である。

「ん。解った。これも騎士団員たちの努力の賜物だと言えるだろうな。よくやってくれた」
「は。お褒めの言葉誠にありがとうございます」
「ん。では騎士団の業務を通常に戻す」
「了解いたしました」

 バリュートは答えたまま出ていこうとしない。
 まだ何かあったっけな、と記憶を掘り起こすが今ここで報告させるようなことは残っていない。

「えー、この三ヶ月の間、騎士団の半数を検挙に充てて来ましたが……発生した犯罪の検挙件数は減っておりません。が、発生件数は五分の一になりました」

 何だ? そんなの最初から言っていたし、都度報告も受けていたじゃないか。
 べグリッツの街で発生していた何らかの犯罪について、その九割以上にケンドール街の住人が関わっていると聞いたから騎士団の全体訓練をうっちゃってゴロツキの検挙に努めさせたんだ。
 当然、一般の犯罪捜査について回せる余力も減ってしまうのでそちらの方は迷宮入りが多くなった。
 しかし、犯罪者やその予備軍であるゴロツキの大多数を検挙出来たことにより、発生した犯罪の数は激減し、結果として街の治安はかなり良くなったと言っていい。

 発生件数が五分の一にまで減れば誰にだって実感できるだろう。

 まぁそんなことはロンベルト王国で中級程度の役人以上であればすぐに予測出来る。
 それでもこういった一斉検挙を行う領地が殆ど無いのは警察機構である騎士団に余力がないことが大きな理由だ。
 第一に、騎士団の訓練を疎かには出来ない。
 第二に、納税額の高い平民や自由民の生活圏で起こる通常の犯罪捜査の方がスラムよりも優先されていたというだけの話である。

 俺が、いきなり何言ってんだこいつ? というような顔でバリュートを見たのでバリュートは少し恥ずかしくなったのか、僅かに顔を紅潮させている。

「ご、五分の一ですぞ、閣下!」
「ああ。だが、一般の犯罪の検挙率が落ちてるからな。解っていた事とはいえ、これからも大変だぞ」
「それは解っております。ですが最近、住民たちは騎士団の成果を褒めまくりです。今まで騎士団員達を煙たがっていた者も愛想が良くなりました」

 まぁ、解りやすい成果を出せたからなぁ。

 要するに一般の犯罪の方が捜査に手間の掛かるものの割合が高い。
 痴情のもつれによる傷害や怨恨などによる殺人、生活に窮しての泥棒などだ。
 また、犯罪では無いが商家同士の取引上の軋轢の訴えなんかもある。
 こういった犯罪はあんまり大事にはなりにくいし、犯罪が発生したことを知った人も動機や情状などの理由を知れば大抵は納得する。
 盗みを除けば大抵の場合、犯罪者と被害者にはなんらかの関係があることが多いからだ。

 対してケンドール街の住人が起こす犯罪はわかりやすいものが多く、捜査にはあまり多くの時間が掛かることは少ない。
 空き巣や強盗、喧嘩、傷害、詐欺、恐喝なんかだ。
 また、違法な賭場の開帳なんかも含まれている。
 こちらの動機は上記の一般の犯罪以上にわかりやすいが、犯罪の被害者となる人は突然に降って湧いたような災難にあった気持ちになることが多く、低い治安レベルを如実に実感することになる。
 初動捜査で捕まえることが出来ない場合は迷宮入りになる率も高いので、そこはバッサリと捜査を打ち切ることで検挙率を上げる方向にシフトさせたのが奏功したのだろう。

 とにかく、俺としてもこれほどに効果があるとは思っていなかったのは確かだ。

「ああ。そうだな。それを受けてという訳ではないが、五年後を目処に騎士団を大きく二つに分ける。一つは領内の見回りや魔物退治、納税警備や戦時の戦力として、警備や軍事を司る軍隊としての騎士団。もう一つは領内の犯罪捜査専門で治安の維持に務める警察騎士団だ。こちらの方は更に幾つかの部門に分かれることになるだろう……。今の人員のうち適性の有りそうな者は優先的に警察騎士団に異動させるつもりでいてくれ」
「は。今月中に適性の有りそうな人員のリストを作成いたします」
「うむ。頼んだぞ」

 執務室から出て行ったバリュートの背中を見送って手元の書類に目を通し始めた。



・・・・・・・・・



「ふぅ……出来た」

 幾棟かある領主の奴隷長屋の一室でトールは目の前に鎮座する金属の塊の一部を撫でると息を吐いた。
 たった今、一つの鋳型を作り終えたのだ。
 この奴隷長屋には本来六家族が住めるが、今この長屋に住んでいるのはトールと彼の助手に任命された手先の器用な奴隷の子供が三人だけだ。
 空いた部屋は倉庫になっている。

「お疲れ様です、トールさん」

 助手の一人が出来たばかりの型を運びだして行った。
 残りの二人はタングステン製のヤスリを使って別の鋳型の内部を磨いている。

 彼らが今作っている型は歯車を作るための鋳型である。
 挽き肉機を作る鋳型はとっくに完成しており、その経験を活かして今度は簡単なプレス機を作ることを目指していた。
 因みに、挽き肉機の鋳型は五〇〇万Zの価値があると判断され、トールの持ち主であるリーグル伯爵は「現金で今払うか、自分を買い戻す金額になるまでプールしておくか、どうする?」と褒美の支払い方法についてトールに選択させていた。
 トールは熟考したうえで貯めておく方を選択している。

「そろそろ飯にするか」

 歯車型を磨いていた助手の腹が鳴る音を聞いたトールはノミタガネ、金槌などを置いて立ち上がった。

 週給一万Z(月給五万Z)を得ているトールは贅沢をしないのであれば飲み食いならメニューの選択に困らない。
 六〇〇〇Zしか貰っていない助手達とは飯を食う店のレベルも違っている。
 尤も、六〇〇〇Zの週給はべグリッツの奴隷としては平均的であり、そこそこマシな物を飲み食いしても多少は余る。
 王都やバルドゥックとは物価が違うためだ。

 一人べグリッツの街中を歩き出したトールは『あー、あれ食いてぇ……おにぎり。ツナマヨ……』と小さく呟きながら、頭の中では昔祖母が握ってくれた梅のおにぎりを思い浮かべ、大量に出てきた唾液を飲み込んでいた。

 昼飯に選択した店に入ると知った顔が居て、手招きをされる。
 クローとマリーの二人だ。

「こりゃどーも。バラディークさんに奥さん。今日は何が?」
「よう。今日は豚ステーキとかぼちゃのスープだ」

 スープ皿にスプーンを入れながらクローが答えた。

「お、豚ステーキか。いいねぇ。姉ちゃん、俺もランチセット」

 テーブルに着きながら店のウェイトレスに銅貨四枚を渡しながら注文するトール。

「ちょっと、手ぐらい洗って来なさいよ。真っ黒よ」

 食べかけていた白パンを皿に戻しながらマリーが注意する。
 トールの手は金属粉が染みこんだように真っ黒に染まっており、いかにも不潔そうだ。
 ズボンにも金属粉が付着していたトールは、しょうがねぇな、というような顔で店の外にある水場まで出向くと手を洗った。
 席に戻った時には丁度トールが頼んだランチセットが運ばれたタイミングだった。

 食事をしながらトールとクローは前世のゲームの話に興じ始める。
 稀にタイミングが合った時にはここにミヅチが加わることもある。
 それを見ながらマリーはゆっくりと豆茶を啜りながら午後の訓練のための英気を養うのが ここ最近のいつもの流れである。

「この店、料理はそこそこだけど、煮豆があんまりだよな」

 クローが不味そうに煮豆をつつきながら評している。
 煮豆はロンベルト王国のどこでも食べられている一般的なメニューであり、大抵の場合は単に胡椒で味を整えられたお湯で大豆を煮ただけのものだ。
 大して美味いものではないが庶民の貴重なタンパク源としてこれを食べることの出来ない土地はないに等しい。

「ああ、『枝豆』の作り方教えてやろうかな……」

 トールがボソリと呟く。
 枝豆は未成熟な大豆を刈り取って塩茹するか、茹でて塩を振っただけのシンプルな料理だ。
 彼らが転生する前の世界、時代でも大豆は世界各地に伝播し作られていたし、同様に各地で大量に消費されているが、未成熟なうちに塩茹するこのような調理法で食べる土地は非常に少ない。

「え? 『枝豆』って、『枝豆』じゃないと作れないんじゃないの?」

 トールの呟きにマリーが反応した。
 マリーは枝豆が大豆であるということを知らなかったようだ。
 同様にクローも知らなかったらしい。

「いや、『枝豆』って元々大豆(ギイ)だぞ? 『日本』ではそれ用に品種改良されて旨くなってるものだけど、大豆は大豆だ。俺の……ご主人様もたまに食ってるって言ってたし……ああ、未成熟な期間に収穫しないといけないから、丁度その時期の畑を持ってる大豆農家に直接言わないと買えないけどな。俺もドランに居た頃はちょくちょく食ってたよ。ドランの酒場にも俺が作り方を教えてやったんだ。え? 食ったこと無いのか? 『高校生』だったクローはともかく、マリーは主婦だったんだろ? 知らないとかありえねーだろ」

 それからひとくさり、トールによる大豆講座が開かれた。
 きな粉も成熟し、煎った大豆を粉に挽いたものであり、枝豆を潰して砂糖を加えるとずんだ餡が出来ること。そのずんだ餡はリーグル伯爵の出身地であるバークッド村では寒天で加工されてヨーモと言う羊羹に似た菓子になって名物として売られていること。

「ヨーモは知ってたけど、あれ、『ずんだ餡』だったのか……お菓子なんて食べたことなかったし、バルドゥックに行ってからも単なる色付きの寒天だと思って食べた事なかったから知らなかったわ」

 マリーは目を丸くしている。

 調子に乗ったトールは豆腐や醤油、味噌、当然だが油揚げなども全て大豆から作られていることなどもまくし立てる。
 流石にこの辺りはクローもマリーも知っていたので馬鹿にすんなと怒られた。



・・・・・・・・・



7449年8月20日

 今日はこの地を手中に収めてから二回目の裁きの日だ。
 殺人などの凶悪犯罪以外の犯罪者たちには罰金を科して全員俺の借金奴隷にした。
 合計して六〇人程の奴隷が増えた勘定だ。
 ケンドール街の建物のうち空き家などを接収し、専用の奴隷長屋が出来るまで奴隷たちの家として活用する。

 彼らには線路を敷設するための労働をさせる。
 ゴロツキや名無しが多いのはまともな職が確保されていないという事がその半分以上を占める。
 俺の奴隷としてキチンと働けばしっかりと週給六〇〇〇Zを得られる事を聞いた者のうち半数くらいが喜んだ。
 残りの半数は反省が足りないのか、生来の怠け気質なのか、奴隷という階級自体への不満なのか、何なのか知らないが不満そうではある。
 逃げる奴も出てくるだろう。それはそれで仕方がない。
 当然黙って見逃すつもりはないし、捕まえたら見せしめにするとも宣言した。

 それはそうと、まずはべグリッツの郊外に伸びる街道のうち、ウィード方面に向かうバーラル街道とゾンディール方面へ向かうダスリン街道の中間地点を駅と定めた。
 とりあえずウィード方面のバーラル街道までの数百mを切り拓かせよう。
 切り倒した木々は枕木的な木材として使用する。

 軌条用のH型鋳鉄材の生産も始まっている。材料は安価な鋳鉄だけどな。
 日本の鉄道のように数分置きに車両が走る訳でもないし、鋳鉄でもかなり持つんじゃないかね?
 減りが早いようならその時にまた考えるさ。

 今は全長五〇m程度の短い線路を作ってテストを行っており、線路の幅や地面への固定法などについてノウハウを溜め込んでいる。
 同時にポイントの切り替え装置も作り始め、鉄道用の車輪を嵌めた専用の馬車についても開発を開始した。

 また、線路の軌条を埋め込む形式についても同時に研究を開始している。
 要は日本の線路のように盛り土を行い、軌条の周辺に砂利を敷くべきか、馬が牽くことになるから軌条の間には砂利を敷いた上で更に土を盛るかどうかということなどだ。
 ま、鉄道用の馬には例のそよ風の蹄鉄ブリーズ・ホースシューを履かせちまえばそれで解決な気もするんだけどね。
 いずれは魔法の品(マジック・アイテム)に頼らないようにしたいじゃないか。

 ん? 線路用地の買収?
 そんなの必要ない。
 この西ダートの地は全部俺のものだし。
 村や街によっては幾らか畑を潰さなきゃならないだろうし、そうなったらその地の領主は最初は反発することも考えられる。
 でも、すぐに鉄道路線が通ったことに感謝すると思うよ。

 その有用性に気付かずいつまでも反発するような領主アホは俺の権限で別の地の領主と首をすげ替えるなり、役人として行政府で働かせ、別の奴を取り立てるなりすることになるだろう。

 
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