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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第五十五話 領主ご立腹 5

7449年4月19日

 ビンスが殴りつけて黙らせた奴は取り敢えず放っておいて、気を失った男には頭から水をぶっかけて目を覚ましてやった。

 ビンスが殴った御者はダーヴィスというらしいが、名前なんか多分すぐに忘れてしまうだろう。

 残った者たちに、なぜこんな時間にこんな場所をうろついていたのか聞くと、このダーヴィスがコーヴ男爵と士爵による緊急の招集と称してゾンディールで集合を掛けたことが理由だった事が判明した。

 ついでに緊急招集の理由についても訪ねてみたが、こちらは「男爵と士爵が急ぎで戦力を必要としている。詳しい話は現地で合流後に当人から聞けるだろう」としか聞いていないようだった。
 なお、当然ながら嘘看破ディテクト・ライは使っていたが、誰一人として引っ掛からなかったので信用してもいいと思う。

 何にしても助かった。

 えーっと、ダーヴィスだっけ?
 情報の漏洩を恐れたか何かでそう言って集めろと言われたのか、それとも寸前まで知らない事で万が一のリスクを低減するという判断の下に伝えなかったのかは不明だが、とにかくこいつには感謝だな。
 どちらにしてもコーヴ男爵や士爵が側近として連れて来ていただけの事はあったんだろう。

 そう考えれば惜しいと言えば惜しい人材かも知れない。
 だが、少なくとも殺戮者スローターズのメンバーなら成人したばかりのベンやエリーも含めてどんな時でもこいつ以上の判断は出来る奴だけ……の……はず……だ……よな?

 惜しい人材だと言っても、まぁ……遅くとも明日には処刑するんだけどな。
 ま、コーヴ士爵の一番目か二番目の子分ならしょうがないんじゃないの?

「あ、あの……。それで、この後どうすれば……」

 事情を飲み込みつつある従士の女の一人が恐る恐るといった声音で尋ねてきた。
 俺はダーヴィスを指差しながらビンスに「そいつを喋れないように……猿轡でも噛ましとけ」と命じるとゆっくりとボロいローブのフードを外した。

「先ほどこの者が言った通り、私がリーグル伯爵だ」

 今のところ大騒ぎをするような奴はいない。
 せいぜい隣の奴と小声で何かヒソヒソと会話をする者が数人いるくらいだ。

「この地を統べる伯爵として命ずる。これから反逆を企図した罪人、エストン・コーヴ士爵とその従犯である……フォロンゾ並びに……ステータスオープン。ジュスラン・ダーヴィスの三名を騎士団本部まで護送するのでその警護をしろ」

 すぐに続けて後ろの馬車の荷台を振り返ると「一度降ろして顔を見せてやれ!」と命じた。

 俺がコーヴ士爵やフォロンゾの名前を反逆者として並べると流石に大きくざわつき始める。
 馬車に乗っていた従士たちが拘束されたまま藻掻いているコーヴ士爵やフォロンゾを荷台から降ろすと「ああ!」とか「若! おいたわしや」などという声も聞こえてくる。

「静まれっ!」

 バリュートが大声を張り上げて黙らせた。

「……そなた。不服そうだったな。何か言いたいことがあれば言え」

 最前列の右端で埋まっていた奴の前まで移動して尋ねた。
 さっきまで「何で若が?」とか「お屋形様は関係ないのか?」とか聞こえていたので何か尋ねたいことがあればどうぞ、ってなもんでほんの軽い気持ちで尋ねたんだ。
 どうせならこいつら三人がれっきとした犯罪者であることを理解させるのにも丁度良いと思ったというのもある。

 しかし、俺の警護のつもりなのか、トリスとロリックが俺の両脇で剣を抜いていた。

「いえ……その……。特にございません」

 まぁ、この状況だとそうなるよなぁ。
 抜身の剣を携えている男二人が俺の両脇を固めているんだし、頭だけ出して埋められてる状態じゃあ、魔法くらいしか使えない。手や指を対象に向けて集中力を指向しないで魔法を使うにはかなり熟練している必要がある。

 ……ついでだ。全員に尋ねておくか。

 一人づつ何か言いたいことがあれば言えと尋ねて回るが、こんな状況で不平を口にすることなど出来る奴なんかなかなかいない。

 それでも何か言って来る奴もいるかと期待したんだが……。

 よく考えたら俺が反逆者だと宣言した時点でこの三人は重犯罪者として処断されることはほぼ確定事項であり、余程大きな反証がない限りもう覆らない。

 俺は一体何を考えていたんだろう?
 ゾンディールの従士たちの支持だとか納得だとか、どうでもいい話だった。
 選挙なんかないんだしな。
 それを心配するのはここにはいないコーヴ男爵の方だろう。

 甘ちゃんもいい加減にしておくべきか。
 ま、いいか。

「そなたら、後になってから何か言うなよ? そういう奴が現れたと耳にしたら……こうだ」

 ちらりと右の方を向いて使い慣れた威力のファイアーボールを林に向かって何発も連射した。
 それを見た従士たちは揃って口をぽかんと開け、すぐに恐怖に顔を引き攣らせる。

 林は当然生木だが、流石に何十というファイアーボールを撃ち込まれたらあっという間に火の海となる。
 周囲の空気がごおごおと音を立て始め、すぐに強い風となって吹き荒れた。

 この光景には流石のゼノムやトリスも顔色を失ったようだ。
 かなり広範囲にファイアーボールを撃ち込んだから火災の規模も非常に大きく、俺でも制御出来ないと思ったのだろうか。
 まぁ、見てろって。

 大量に水を出して火を消してやった。
 当然水はこっちにまで流れて来たが、即座に俺たちを取り囲むようにアンチマジックフィールドを張って濡れないように消滅させたばかりか、アンチマジックフィールドの輪を大きく広げて消せるだけの水を消した。
 ここら辺りは耕作地でもないので、幾ら燃えようが泥濘もうがどうでもいい。
 例え火が完全に消えておらず、後で更に燃え広がったとしても消す方法なんか幾らでもある。
 むしろ後日の開拓の助けになるだろう。

 ふと振り返ったら地面に転がされたままのコーヴ士爵とフォロンゾの二人が目を見開いて一部始終を見つめていた。
 うん。
 俺もファイアーボールを領民に向けて使わないで済んだから良かったよ。

 敗者をいたぶる趣味はないので放っておくことにしてローブのフードを被り直した。
 尤も、連続して魔術を使い、精神集中に疲れた俺の顔を見せたくないという理由もあるけどね。

 もう一度だけ気力を振り絞ってアンチマジックフィールドを使い、従士たちを埋めていた土を消すと、驚き過ぎて腰でも抜かしていたのか、何人もがその場にへたり込んでいた。

 じゃあ、一休みしたら騎士団に向かうとしますかね。

 因みに、騎士団に到着したら、門のところで衛兵当番として立っている二人の従士の他に合計五人の騎士と従士が鎧を着込んだ完全武装で立っていた。
 彼らは近づいてくる俺たちを認めると揃って転がるように走ってきてバリュートに声を掛けた。

「ああ、副団長! えっ!? 団長も? ご無事で!」

 ああ、俺、またローブ着てたしな。
 えっと、確かこいつ、サイアスっつったっけ?
 ああ、そうだ。
 カムリード・サイアスだ。
 あとの従士はいちいち名前なんか覚えていない。

 とは言え、従士たちの名前を思い出そうとしていると後続の馬車に乗っていたゾンディールの従士たちから幾つか声が上がる。

「カムリ!」
「キース!」
「お前、ダッジス!」

 こいつらの縁者か。
 しかし、なんでこいつら鎧なんか着てるんだ?

「お前ら、こんな時間に鎧なんか着て何をしている?」

 俺が何か言う前にバリュートが騎士たちに声を掛けた。

「はっ。報告致します! ゾ、ゾンディールのコーヴ士爵が……」

 そういうことか。

「良い。もうカタはついた。詳しい話は中で聞かせろ」

 ふーん。
 コーヴ士爵に与しない奴もいるんだな。
 これもバリュートの教育の賜物だろうか?
 それとも前任の団長だったゴッシ男爵の功績だろうか?
 はたまたこいつ自身の判断か?
 ……どれでもいいけど、願わくば自身の判断であって欲しいものだ。



・・・・・・・・・



7449年4月20日

 べグリッツの行政府前の広場は沢山の人で溢れ返っていた。
 勿論、今日が裁きの日であると布告していたためだ。

 この人出を前にして俺は、キールやバルドゥック同様に一般の人たちにとって裁きの日はお祭りのようなもので、数少ない楽しみの一つであると改めて実感する。
 俺も、俺以外の転生者たちもオースで生活して二〇年になるが、人が刑死したり鞭打たれているところを楽しんで見る趣味は持てていない。
 実のところ、少数派ではあるが生粋のオースの人にもそういうのは趣味じゃないと言っている人もいる。
 だけど、屋台を中心とする露店が並び、どさくさに紛れて雑貨なんかを売るような露天商も店を出したりして市場のような活気を感じられもするからそれを目当てに集まる人も多いんだよ。

 勿論メインのイベントはお裁きだが、まぁ、お裁き自体は見世物のような感じでどちらかと言うと賑わいやそれを商機と見て沢山の人が集まると言ったほうが実情に近いと言えると思う。
 捕まるなどという間抜けを晒した犯罪者を眺めながら旨い物を食って酒を飲み、大騒ぎが出来る日なのだ。

「えーっと、最初が強盗、次が空き巣だっけ? で、喧嘩の結果の傷害が七件に同様の殺人が二件、そして最後が例の件か……」

 行政府の中でミヅチに確認する。
 今回はゾンディールやウィード、他の村からの凶悪犯は送られてきていない。
 まぁ、放火だの大量殺人だの、領主への反逆なんかでもない限りそうそうは回ってこないんだけどね。

「最初の強盗は二件ね。でも、両方共『カツアゲ』みたいなもんだから、強盗とまで言えるかどうか……」

 そうこうしているうちに騎士団の従士が俺たちを呼びに来た。
 さて、一発楽しませて来るとしますかね。



・・・・・・・・・



 キールやバルドゥックで行われていた裁きの日と同様に、少し高い壇上に立って裁きを執り行う。
 二件のカツアゲはたまたま犯人を捕らえることが出来た騎士団員の功績大なりと言える。
 普通はそう簡単にはこんなけち臭い犯罪者は捕まえられない。

「ふむ。素直に罪を認めるか。ならばそなたは被害相当額を返却の上、鞭打ち三回の刑に処す」

 カツアゲ犯は二件とも素直に犯行を認めたので殆ど悩むことなく機械的に処理が出来た。
 勿論、証人を喚問することすら必要ない。
 鞭打ちの回数も少ないので刑の執行にも時間がかからないから犯人はすぐに広場の隅にある臨時の刑場に引き出されて鞭打ちを受ける。
 鞭打ちはある程度熟練の技が必要だ。

 熟練の技と言っても、派手に風切り音を発した上で背中に当たった時にある程度大きな音を立てられる事が最低要件なので、少し練習すれば誰にでも出来る。
 騎士団の正騎士や従士は誰でも出来る。

 クローやマリーもウェブドス騎士団に所属していた当時、罪人への刑の執行は何度か経験していると聞いている。
 ああそうだ。週が明けたら彼らの正騎士の叙任もしなきゃいけないんだった。
 実は二人共、正式にはまだリーグル騎士団の従士なんだよね。
 正騎士の叙任は命名の儀式も伴うので、どこの騎士団でも叙任を行う日というのを定めている。
 大きな規模の騎士団なら毎月あるし、俺のとこみたいに大したことのない騎士団だと何ヶ月かに一回という感じだ。
 で、一番直近の叙任の日は四月の二五日。第五月曜と定まっていたのでそれまでお預けを食わせていたんだ。

 容疑者の否認もないまま淡々と犯罪を裁いていく。

 殺人犯の二人は両方とも犯行を否定したり、情状酌量を訴えてきた。
 一件は酒を飲んで酔った上での喧嘩の延長であり、目撃者も大勢いたのであまり迷うことなく片腕切り落としの量刑とした。
 もう一件は喧嘩の末、相手だけでなく止めに入った者まで殺し、更にその遺体から財布を盗んだ凶悪犯だったために死罪を申し渡した。

 まぁ、この程度の数なら一万人に満たないと言われているベグリッツの人口を考えると普通じゃないかな?

 そして、遂に反逆を企図したコーヴ士爵たちの裁きになった。

 引き出されてきた三人を壇上から見下ろす。


 
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