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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第五十四話 領主ご立腹 4

7449年4月19日

 少しばかり時は戻る。

「んん?」
「明かりが!」

 コーヴ男爵家に仕える従士、ダーヴィスは魔道具を使用したランタンに照らされた路面状況に注意を払いながら先頭の馬車を御していたが、流石に道の先に急に点った大きな明かりを見逃すことはなかった。

「あれが合図かな?」

 ダーヴィスの隣の座席に腰掛ける従士が言う。
 「ご領主様と若の緊急招集だ」と言って、急いでゾンディールの従士達を集め、中でも腕っ節の強そうな者達を優先して馬車に乗せてきた。
 詳しい話をすると参加人数が減ってしまいかねない事も憂慮されていたので、道中でコーヴ士爵とフォロンゾの二人と合流することしか話してはいない。
 勿論、急な召集のために体調不良などで参加できない者も居たが、従士や従軍経験のある者の大部分を集めることには成功していた。

 明かりはまだここから二〇〇mは先だが、元々コーヴ士爵と相談していた合流予定の場所はもっと先、べグリッツの街の北に広がるタバコ畑に入ってからの筈だった。

 明かりの正体が何であるのか注意して観察するために一度馬車を停車させていたダーヴィスもその言葉を聞くまでもなく合図だと思っていた。

 よく見ると明かりの奥にはかなり大型の馬車が停まっており、明かりを挟んでその手前に二つの人影が見える。

「ありゃ若とフォロンゾさんだろ?」
「お屋形様にしちゃ二人共背が高いしな」
「馬車が足りないから調達してくれたんじゃないのか?」

 ダーヴィスの後ろの座席から身を乗り出すように明かりを見つめていた従士達も口々に言う。
 言われてみればゾンディールの領主であるコーヴ男爵が使うこの乗用馬車と、荷馬車が二台の合計三台で従士や従軍経験のある者たちを満載出来無い事については誰にだって解ることだ。
 従士長であるコーヴ士爵が希望した全員ではないにしろ、五六人にも上る人数なのでそれなりの馬車が必要になることは当然だ。

 ダーヴィスは落ち着いて馬に鞭を入れた。

 暫く進み、明かりまであと一〇〇m程にまで近づいた時。
 ダーヴィス達と明かりの中間くらいの空中に、轟音とともに炎が大きく広がったと思ったらすぐに消えた。

「ありゃ一体何だ!?」
火の玉(ファイアーボール)にしちゃでか過ぎる!」
「う、馬が! どう! どう!」
「ああ。この前の戦の時、俺は本物のファイアーボールって奴を見たことがあるから知ってる。ありゃ違う。火魔法じゃないのか?」
「うむ。一瞬だったしな」
「おい、馬を落ち着かせろ!」
「あれこそ若の合図じゃないのか?」

 三台の馬車に分乗していたゾンディールの従士達は口々に言い、ある者は馬車から降りて暴れそうになっている馬を宥めだす。
 ダーヴィスにもファイアーボールとは思えなかった。

「しっかし、若も相当に入れ込んでいるようだな……」

 コーヴ士爵が火魔法を使えることは知っていた。
 普段よりも多くの魔力を注ぎ込んで炎を大きくしたのだろう。
 大きな音も鳴っていたのでひょっとしたら風魔法とも組み合わせたのかも知れない。

「……やっと落ち着いてくれたか。若にも困ったもんだな」

 やれやれと言うように馬を宥め終わった従士の一人は馬の首を撫でながら、馬車には戻らない。
 暫くは傍に付いていてやった方が馬は安心するのだ。

「よし、行くぞ」

 三台の馬車は再び前進を始めた。

 そして、明かりまであと二〇m程にまで近づいた。
 明かりを背にしているために二つの人影はシルエットになっていて見えづらかった。

「若! ありゃあ一体何です!? 目立ちすぎですよ!」

 申し訳ないと思いつつも、ダーヴィスの言葉は少しばかり刺々しくなってしまった。
 逸っているであろうコーヴ士爵の気持ちを汲んでもう少し角のない言い方も出来たのに、とダーヴィスは僅かに後悔する。

「援軍か!?」

 人影のうちの一つが叫ぶ。

――ん? 若の声とは違うような……?

 そう思ったダーヴィスだが、気が逸っていて声がおかしいのかもしれないと思い直す。

「ええ! 五六人も連れて来ました!」

 誇らしげに、そして嬉しそうに胸を張って言った。



・・・・・・・・・



 御者は嬉しそうな声で俺の言葉に返事をした。
 確か、ゾンディールの従士家の数は二一だったから、従士本人や跡継ぎ、前任者、兄弟なんかも混ざっているであろうことを考えると大部分の家が参加したという勘定かな?

 すげぇな。

 どう言って説得したんだろうか?
 それとも、コーヴ士爵の人徳かねぇ?

 しかしながら、五六人というのは多い。
 多過ぎる。無視できない数だ。
 今後のことを考えると、どうしたって軽々しく処分して良い数ではない。

 それ以前に全く解せないんだけど。

 彼らが使っているのは俺の作った特別製の大型馬車でもない、ごく普通の馬車だ。
 先頭の奴なんて壁こそないが天蓋付きの少し高級そうな、少人数しか乗れそうもない乗用馬車だぞ?
 たった三台の馬車に五〇人以上が乗るなんてインドかどっかの混雑列車か?
 とてもそんな風には見えないぞ?

 俺のシルエットを見やすいように少し体をずらして大きな動作で手招きをした。

 ゆっくりと馬車が進み始め、一〇m程手前まで来た時。
 ブルズアイランタンよりも強烈な明かりを背に負っているためか、ここでやっと俺たちがコーヴ士爵やフォロンゾではないと気付いたようだ。

 バリュートが一歩進み出て「そこで止まれ!」と叫ぶ。

「あんたらどこのもんだ? うちの若は?」

 御者は片手を上げると払うように下ろす動作をしながら用心深そうな声で尋ねた。
 彼の動作が合図だったようで、乗用の馬車だけでなく後続の馬車の荷台からも革鎧レザーアーマー鎖帷子チェインメイル姿の武装集団が飛び降りた。
 彼らは先ほど降りたまま馬の傍に付いていた者に刀槍を手渡している。

 俺はこ汚いローブのフードを下ろしたままだし、バリュートも鎧は身に付けておらず、寝入りばなを叩き起こされただけなので平服である。
 俺たちの傍に立つ従士連中も服だけはそこそこに良い物(田舎の村から領主に会うために出てきたのだからそれなりの服を着ている)だが、旅の途中で一張羅が汚れないように俺と同様にコートやローブを羽織っているために田舎従士の一行だとでも思われたようだ。

「貴様も馬車から降りろ! 下郎!」

 バリュートは大声で先頭の御者を怒鳴りつけながら指をさす。

 うーむ。御者を入れても二〇人もいるかどうかじゃねぇか。
 五六人って言うからには残りは馬車に乗り切れなくて歩きかな?



・・・・・・・・・



――下郎だと!?

 バリュートに怒鳴られたダーヴィスはその言葉を聞いて少し苛ついた。
 勿論、その原因はいきなり頭ごなしに怒鳴りつけられた為である。

 彼の上司でもあるコーヴ男爵家の長子、従士長を務めるコーヴ士爵に「証拠を隠滅するために領主の館に火を放ったロンザルは、その所業が露見して死罪を言い渡された。そればかりではなく、男爵家も准男爵家に降格、私自身も士爵としての貴族位を剥奪された」と伝えられた時の怒りは、まさに怒髪天を衝くものであった。

 それはゾンディールの、旧ハミットの王族や貴族をないがしろにするロンベルト王国そのものに対する怒りに近かったとも評することができる。

 つい先日は「例の証拠は完全に燃え、今後は大手を振って生きて行ける」と言われ、つい安心してしまった気持ちを恥じてもいた。

 そんな折に、コーヴ士爵から「反乱計画をでっち上げてリーグル伯爵夫婦を討ち、それを以ってコーヴ家の上級貴族への昇格を王国に認めさせる」と言われたのである。
 ダーヴィスにしてみれば強大な力に物を言わせ、無理矢理に旧ハミット王国を併合したロンベルト王国の上級貴族に一泡吹かせ、主家であるコーヴ家が名実ともにこの西ダート地方を領有する絶好のチャンスだと思えた。

 コーヴ家を頂点としてハミット王国の貴族達がこの地の実権を握る寸前。
 頭ごなしに下郎と怒鳴られて水を差された気持ちになったのである。

――若から合流すると聞いていた場所まではまだ少しあるが……。てっきり若が別の村の領主にも声を掛けたんだと思ったんだがな。しかし、この偉そうな奴は誰だ? 俺を、俺達をコーヴ男爵の従士と知っての言い草か?

「人を下郎呼ばわりする前に貴様こそ名を名乗れ! 我々はコーヴ男爵の従士隊だ! それにその薄らでかい馬車をすぐにどかせろ!」

 ダーヴィスは返事の最後に馬車から降りた従士達に「おい」と声を掛けた。
 従士達は武器こそ抜かないまでもいきり立つようにしてざわつく。

「貴様、私を知らんのか? 私はリーグル騎士団の副団長、バリュート士爵だ!」

――騎士団? 騎士団だと? さっきのは騎士団に対する何らかの合図か? しかし、なぜこんな時間にこんな場所で……? 計画が露見したにしては人数が少な過ぎるから違うようだが……。

 確かに伯爵に襲撃を掛け、有無を言わさずに討ち取る計画が漏れていたのであればこんな数人では済まないし、逆に幾ら騎士団の正騎士だとしてもこんな人数で足止めなんかできっこないのは火を見るより明らかだ。
 何しろバリュート士爵を名乗る男の他に地面に降りているのは頭からローブを被った男が一人きり、馬車の荷台にはまだ数人が乗っているように見えるが降りてくる気配もない。

――ちっ、間が悪いな……。

 コーヴ士爵との合流を果たすまでは余計なことに関わり合いたくはないが、今怪しまれるのは得策ではない。
 ダーヴィスは軽々しく「若」と発言してしまったことを後悔するが言ってしまったものはどうしようもない。
 むしろ「若」という単語に対して碌に反応を示されなかったことに対してホッとした。

 バリュートの言いざまにダーヴィスら従士達が絶句しつつも忙しく頭を回転させている間にバリュートは「貴様ら、コーヴ男爵の従士と言ったか。丁度良い、たった今貴様ら全員を徴用する。大物犯罪者護送の警備を手伝え!」と言いながらずかずかと三台の馬車に歩み寄ってきた。
 腰に佩いた剣一本、しかもそれすら抜かないままに敵性の集団に対して平然と歩み寄るあたり、バリュートの肝もなかなかに太いようだ。

「ほれ」

 バリュートは従士らしき若者の一人に右手を突き出す。
 その剛毅な振る舞いに気圧されたように若者はバリュートのステータスを検めてしまう。

「た、確かに。バリュート閣下です!」

 バリュートのステータスを検めた若者はバリュートではなくダーヴィスの方を向いて言う。
 貴族に対して非常に失礼な行為だが、どうやらバリュートにはそれを咎める意図はないように見える。

「そうでありましたか。これは失礼を」

 若者に報告されたことでダーヴィスも非礼を詫びながら御者台から降りる。

――副団長か……。貴族を殺す訳にも行かんし、まだ騎士団員も数人居る。こんな所でつまらない怪我人を出す訳にも行かん。それに、この場所に居るってことは、若も面倒だとやり過ごしたのか……仕方ない。合流は後回しにするしかないか。

「ところで、騎士団の援軍ではないようだが、騎士団の者には会わなかったか?」

 バリュートはなんの気なしというようにダーヴィスに尋ねた。

――そう言えば犯罪者の護送とか言っていた。騎士団の援軍も近づいているようだし、さっさと終わらせた方が良さそうだ。

「いえ、存じませんが……ところで大物と言うと、あのゲンズ一味でも捕まえたのですか?」

 ゲンズ一味とは、このリーグル伯爵領と隣のランセル伯爵領のある西ダート地方を荒らす野盗と山賊のあいの子のような犯罪者集団である。
 大抵は人数の少ない隊商を襲う程度で、その際に重罪にならないように殺人も犯さないために、騎士団も捜査を後回しにしがちであった。
 街道の治安維持も大切な仕事ではあるが、それよりも街や村などの市街地内の治安維持や、ダート平原内に出没する魔物を退治する方が余程大切であり、人手が限られている以上、より優先度の高い方から処理せざるを得ない為である。

 深夜に騎士団が動いており、大物の犯罪者を捕まえたと聞けばあまり不自然ではないセリフである。

「ふん、ゲンズどころではない大物よ。それはそうと、先ほど五六人とか言っておったようだが……そんなに多くは見えんぞ?」

 バリュートは人数について疑問を呈した。

「貴様ら、一度並べ。五人で一列にな!」

 大上段に命じるバリュート。
 ダーヴィスは「馬車に乗れたのは私も含めて二〇人だけなんで……」と答えるが結局バリュートの言葉に従って一度整列させられてしまう。

 その時。

 いつの間にかバリュートの傍に近寄っていたローブ姿の男がダーヴィス達に向けて右手を上げた。



・・・・・・・・・



 結局バリュートは荒事には発展させなかった。
 それなりに色々な状況になることを想定して打ち合わせをしていたが、貴族の威光や副団長の地位を利用して相手に何もなせないように威圧的に振る舞うことを選択したバリュートもなかなか使える男だな。
 ゲンズ一味のことは報告として聞いていたが、俺としては取るに足らない小悪党だと頭の隅に追いやっていたし。
 こういった先の読みにくいケースでは過程よりも結果を評価したい。

 皆にも領民である彼らを殺さないまでも、怪我を負わせるような真似をさせないで済みそうだし、何にしても上手く行って良かったよ。

 そう思いながら俺は整列しようとしている従士達を首だけ出して土で埋めてやった。

「なっ!?」

 口々に驚きの叫びを上げるコーヴ家の従士達。

 幾人かは魔法でも使おうとしたのか、俺やバリュートを睨みつけて精神集中を始めたように見える。
 ストーングラベルを額にぶち当てて精神集中を乱してやった。

「黙れ!」

 バリュートが大声を張り上げるとかなりの人数が黙ったが、当然ながら不平を言う者も居る。
 俺が土で埋めた事を確認して傍に寄って来ていたゼノム達が素早く土の上に登ると不平を口にした者を小突いたりして黙らせた。
 従士たちは突然に現れた殺戮者スローターズに肝を冷やしたようで目を白黒させている者も多い。

 俺はフードを上げ、兜を被った顔を上げて話し始める。

「下郎共、よく聞け! 先程、バリュートが言った通り、貴様ら全員を臨時に徴用する! ……土からはすぐに出してやるから安心しろ」

 徒に不安を煽りたい訳ではないので最後の方は宥めるように落ち着いた声音で言う。
 しかし、それでも不満そうな顔をしている奴もいる。
 そのくらいは仕方ないだろう。

「貴様らはこれから大罪人を騎士団本部まで護送する際に、その警備をしろ!」

 すっとゼノムが俺の隣に来る。
 何か喋りたそうだったので腰を折って耳を低くした。

「一番前の左端の奴。あいつが宿から馬車で呼びに行った奴だ」

 ほう。
 先頭の馬車で御者をしていたからそうじゃないかな、とアタリは付けていたが、やはりな。

「さて、大罪人は三人いる。一人は謀反を企てた主犯、残る二人はその従犯だ。まずはしゅ……」

 そこまで言った時。
 最前列の端で埋まっていた先頭の馬車の御者が驚いたような顔をして俺を見ていた。

 こいつの顔なんか知らないが、御者の顔は俺がリーグル伯だと気がついたという顔だった。
 なんだ? 俺の顔が珍しいか?
 それともご領主様のご尊顔を拝することが出来て幸せいっぱいか?

 御者が大声を上げるように息を吸い込んだのがわかった。

「き、貴様がリーグル伯爵か! 若を、コーヴ士爵閣下をどうしたっ!?」

 最前列の端っこという丁度良い位置に居た事を恨め。

 即座にファイアーアーバレストを顔面に叩き込んでやっても良かったが、思い留まった。
 ビンスが埋まったままの男の顔面に剣の柄を思い切りぶちかましたのだ。

「貴様、伯爵閣下に対してその口の利き方は何だ!」

 顔面のど真ん中を殴られた御者は鼻を潰され、歯も何本か折れてしまったようだ。
 御者の隣に居た若い男は数十㎝横で起きた惨劇に腰を抜かしたのか、埋まったまま気を失ったようだ。
 おいおい、暴力はイカンよ。穏便に行こうぜ。
 ……別にそんくらいいいけど。

 
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