挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第三部 領主時代 -青年期~成年期-

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

445/518

第五十三話 領主ご立腹 3

7449年4月18日

「誰だっ!?」

 俺が声を掛けたため魔物ではなかったと判明したのか、フォロンゾが少しばかり安心したように誰何してきた。

「エストン・コーヴ並びに……フォロンゾ。領主への反抗を企図した罪により捕縛する。逃げ場はない。武装を解除して投降しろ」

 フォロンゾの名前の方、忘れちゃったよ。
 どうせ明後日には殺すつもりだからどうでもいいわ。
 出方によっちゃここで死ぬかもしれないし。

 あ、ついでだから屠竜ドラゴン・スレイヤーの能力使ってみようかな?
 あの“半径五㎞以内に存在する敵対生物の注目を集める”って奴。
 まだバルドゥックの迷宮の中でしか振るった事はないし、この剣で人を相手にするのも初めてだしな。
 人が敵対生物の範疇に含まれるのか興味もあるし……って、妙な魔物を呼び寄せても面倒だ。
 やっぱ止めとこう。

「何だと貴様ぁっ!」

 どうやらフォロンゾは少し血の気が多いらしい。

「貴様とはご挨拶だな……」

 苦笑が漏れるが、向こうはさっきまでランタンの明かりを見つめていたんだろうから、この星明かりだけでは俺の顔なんか見えないだろう。

 エメラルドグリーンに輝く刀身を高く掲げ、目の前のタバコを切り払った。
 暗闇の中、派手な残像を残した屠竜ドラゴン・スレイヤーからはなんの抵抗も感じない。

「伯爵か……」

 揃いも揃って……閣下をつけろよデコ助野郎。
 苦虫を噛み潰したかのような声で言ったのはコーヴ士爵の方だ。
 屠竜ドラゴン・スレイヤーの刀身を見せたことはないと思うので、声で判断したか。
 あんまり多く会話した訳でもないが、記憶力はまともなんだな。

「なんと! 若! これは好機ですぞ!」

 フォロンゾは士爵を勇気づけるように言う。
 たった二人で俺を倒すつもりか……。
 いっやぁ~、この俺も舐められたもんだな。
 っつーか、領主である伯爵がたった一人で来たとでも思ってんのかね?

「そうか。あくまで抵抗をするか。ならば来い。貴様ら犯罪者の汚い血ではどうにも不満だが、この剣の錆にしてくれる」

 俺の頭の中の部隊編成パーティーゼーションにはとっくの昔にゼノムたちが接近してきている事が感じ取れている。
 ここまではあと五〇mもないだろう。
 それにオーディブルグラマーを使ったからか、ほれ、タバコの葉を掻き分ける音にももう配慮なんかしていないようだ。

「……多勢に無勢か。ならば人質になって貰う迄だ! フォロンゾ!」

 コーヴ士爵が吠えるように命じると、フォロンゾはズボッとタバコ畑にしゃがみ込んだ。
 身を隠して俺の死角から接近しようと言うのだろう。

 俺はフォロンゾの頭が畑の中に隠れた瞬間に剣を大上段に構え上げた。
 左手は柄頭に当てるように添えている。

 素人に毛の生えた程度の田舎従士が。
 間合いに入った瞬間に腕の一本でも斬り落としてくれるわ。

 ……とかなんとかどっかの悪役浪人が言いそうな事を考えていたら、コーヴ士爵が俺に右掌を伸ばすのが見えた。

 魔法か。

 っつてもお前、火魔法と風魔法が二レベルに無魔法が三レベルじゃん。

 ……。

 一〇秒程が経過した。
 早くしてくんねぇかな?

「まだか?」

 長過ぎて欠伸が出るかと思ったのでつい、言ってしまった。
 士爵は魔術のために極度に精神を集中しているから聞こえてないだろうけどね。

 因みにフォロンゾの方は身を隠したまま大回りしてジリジリと俺に躙り寄って来ているようだ。
 視界の右の方で僅かに揺れるタバコにも注意を払う。

 お?
 士爵の掌に魔術光が凝集する。
 まぁ、いつ発動するか判ったもんじゃないから掌を向けられると大抵の奴は放たれる魔術を躱すか、盾なんかを持っているなら弾こうとして用心する。
 一発目が放たれれば次のを撃てる時間も推測できるから、普通は一か八かの賭けでもしないかぎりはやたらめったら突っ込む奴は少ない。

 ぺろりと唇を濡らすと剣を構える手の力を僅かに抜いた。
 タイミングが大事だ。

 ……。

 士爵の掌に集まった魔術光がパッと散ると、矢の形をした炎が放たれた。
 炎の矢フレイムアローだ!

 ズパッと飛んで来る炎の矢フレイムアローを叩き切るように剣を振り下ろす。
 それと同時に、俺の胸の前一m程のところにアンチマジックフィールドを展開する。

 おお!
 惚れ惚れするような素晴らしいタイミング!
 ナイスだ!

 アンチマジックフィールドを展開した瞬間に士爵の放った炎の矢フレイムアローは小さな薄紫色の板に阻まれて消えた。
 勿論、その瞬間にアンチマジックフィールドも消している。

 今度こそ剣で切り払ったように見えたことだろう。
 皆、今の見てた?
 ちゃんと見ててくれたかな?

 少しだけ興奮して鼻の穴が広がった。

 振り下ろした剣を再び振り上げながら士爵に向かってダッシュ!

 そう思って一歩を踏み出そうとした時。

 コーヴ士爵が被っていた鍔の狭い帽子の天辺に明かりが灯った。

「うわっ!」
「若っ!?」

 明かりは真っ白い蛍光灯のような輝きを放って辺りを照らす。
 ライトの魔術だ。
 うーん。こいつもいいタイミングだ!

 トリスか、ロリックか。
 はたまたクローか。
 もしも従士の誰かだったのなら後で褒美をやろう。
 ゼノムやロリックが作る包囲の輪はもうその直径が二〇mくらいにまで小さくなっている。

 士爵がライトの点いた帽子を放り捨てると近くのタバコに引っ掛かった。

 それと同時に俺から見てコーヴ士爵の右の方のタバコが揺れた。
 フォロンゾが動き出したようだ。

 コーヴ士爵の方も剣を振ってタバコを切り払いながら俺に向かって来るつもりらしい。
 ならばわざわざ俺がダッシュする必要はない。
 迎え撃ってやろうじゃないか!

 ……しかし、遅いね。
 ああ、鎧を着てなきゃそうそう無理な突進はしづらいか。

 そう思ったのも束の間、士爵の右後ろの方のタバコ畑からビンスの頭が飛び出し、次いで右腕が士爵に対して伸ばされた。

 その掌に青白い魔術光が凝集し、それが弾けるように掻き消える。
 掌から水の矢(ウォーターアロー)が撃ち出されたのだ。

 コーヴ士爵とは異なり二秒程度しか掛かっていない。
 まぁ、殺戮者スローターズ時代の模擬戦や訓練でさんざん使っているからな。

 ビンスの放った攻撃魔術は狙い違わず士爵の背中のど真ん中にバシャアッと派手な音を立てて命中し、四散した。

「ぬおっ!?」

 士爵はマヌケな声を立てると俺とはまだ五m以上の距離があったからか、振り返った。

「く、糞! やられたっ!」

 慌てたその声を聞いて思わず噴き出しそうになる。

 士爵の叫びが耳に届いたのか、少し離れた位置でフォロンゾがタバコ畑から頭を出した。
 しかし、そこに間髪入れずに青いガスが広がる。

「わ、若! 大丈ぶううっ! ぐぇっ! げぼっ!」

 士爵を心配するフォロンゾの叫びは途中で虚しく中断され、直後から苦しむ声がする。
 あの苦しみ様はスタンクラウドか……ロリックだな。

 青いガスが広がっている辺りではフォロンゾが目眩を起こしながらゲロを吐いて転げまわっているらしく、タバコの葉が盛大に揺れている。

「フォロンゾ! 畜生ッ!」

 コーヴ士爵は叫ぶなりタバコを掻き分けて走り出した。
 俺に背を見せて。

「あ」

 それを見て思わず間の抜けた声が出てしまう。
 苦笑しながら構えていた剣を下ろす。

 士爵は左にあるはずの街道を目指そうとしているらしく、俺に背を向けながらも段々と左の方に向かうようだ。

 だが。

「ごっ!」

 少し走ったあたりでつんのめるようにして盛大にコケ、その体は一瞬にしてタバコ畑に飲み込まれて消えた。

 脳内に展開される部隊編成パーティーゼーションの位置からして、ジンジャーが足でも引っ掛けたのだろう。

 後ろを振り返ると肩に抜身の長剣を担ぐようにして立ち上がっているクローの呆れたような顔と視線が合った。
 俺のすぐ後ろ、三mくらいのところにいたので、ライトに照らされていた事もあってクローの表情はよく見える。
 一瞬だけクローに俺の妙技が見破られたのかと心配になったが、どうやらその表情は醜態を見せたコーヴ士爵に対してのものらしい。

 それを理解したら今度は俺の妙技を目にしていなかったのかと少しだけ不満に思った。

「あひっ! ひぃっ!」

 コーヴ士爵の叫び声が聞こえたが、すぐに何も聞こえなくなった。

「えぶっ! はあっ、はあっ……」

 何とかしてスタンクラウドの効果範囲から逃れたらしいフォロンゾが息吐く声がする。

「ごぎゃっ!?」

 なにやら形容しがたい音が響くと同時にこっちも黙った。
 ああ。
 カームが口でも蹴り上げたのかな?
 残酷なやっちゃ。

 ところで、バリュートはクローの少し後ろで、他の従士と同様に頭だけを畑から出していた。
 彼らは驚きの表情を浮かべ、憧れの視線で俺を見つめていた。

 うむ。
 うむうむ。

 そんな君達には心の座布団を一枚。

「マリーを呼んで来てくれ。ああ、馬車も引っ張ってこい」

 えっと……カームんとこの従士だっけな?
 それともゼノムんとこの従士だったっけ?
 一番キラキラとした目つきで俺を見ていた二〇代前半に見える若い従士に命じると、彼は「ははっ!」と良い返事を残してタバコ畑を横切り、街道に出ると南に向かって駆け出していった。

 ……うーん。畑の真ん中で多数で取り囲んで、最終的にはタコ殴りか。
 これがバルドゥックのトップ冒険者と言われた殺戮者スローターズの狩りか……いや、狩りだ。
 まぁ、接近されるまで気づかなかったコーヴ士爵は矢継ぎ早に繰り出される魔術や、どこからともなく現れた奴らに捕まったりして恐ろしかったろうな。



・・・・・・・・・



7449年4月19日

 日付が変わって数時間。

 流石にこれ以上畑を荒らすのも気が引けたので、畑がなくなる辺りまで少し北に移動していた。

 北へと続く街道のど真ん中に馬車を一台。
 通せんぼでもするかのように横に置いて、簡易的なバリケードを作った。

 士爵とフォロンゾは指の骨を折ってからふん縛って猿轡を噛ませた上で、バリケードのように横を向けた馬車の荷台に放り込んである。
 見張りには従士を四・五人付けているからむーむー唸るだけでもう何も出来ない。

 深夜遅くになって遠くの方を移動する明かりが見えた。
 光源はかなり明るいもののようだ。
 あれは小さな灯りの魔道具を組み込んだブルズアイランタンだろう。

「来たようだな」

 耳をほじりながらゼノムが言うと、ほじった指先を吹いた。

「どうします?」

 トリスがどう対処するか尋ねてくる。

「ん。さっき打ち合わせた通りで行く」

 俺がそう言うとゼノム、ビンス、カーム、クローは俺の前一〇mおきくらいに道の左側に生えている木の陰に隠れた。
 トリス、ジンジャー、ロリック、マリーは反対に道の右側だ。

 馬車の前には俺とバリュート、従士が二・三人。

 道にしゃがむと幾つか適当な石を拾い上げた。
 それ全部に効果時間を延長したライトの魔術を掛けると馬車と俺達の間にばら撒いた。

 星明かりしかない真夜中に大きな明かりが輝いているので、しっかりと角度を計算して木の陰に隠れている皆の姿を見つけるのは難しいだろう。
 ついでに、明かりを背にしていることで俺やバリュートたちの顔を見分けることも難しいはずだ。

 いきなり大きな明かりが幾つも灯ったことでこちらに向かって移動するブルズアイランタンは用心したのか一度動きを止めたようだが、すぐに動き出した。

 こんな真夜中に移動する馬車なんかまず居ないからあれはコーヴ士爵がゾンディールから呼び寄せたという援軍以外には考えられない。

 二〇〇m程先まで近づいてきた辺りでブルズアイランタンは馬車に取り付けられていることが判った。

 馬車は大小合計三台もあり、先頭の一台にはブルズアイランタンが二つ取り付けられているようだ。
 残りの二台には普通のランタンが一つづつ御者台の脇にぶらさがっているらしい。

 さて。

「ぶっ放すぞ!」

 そう言うと右手を斜め上の上空に向けて伸ばし、その手首を左手で掴んで精神集中を始める。

 一分近くも掛かって精神を集中し、魔力を練り上げた。
 この威力はあんまり使ってないから長いんだよ。

 ギリッと奥歯を噛み締めて魔術を完成させると熱を持ったように火照る感じの右掌に意識を集中する。

 パッと右掌から青い魔術光が迸り、すぐにぎゅうっと凝集した。
 その直後。

 練り上げた魔力の塊を解き放つ。
 接近してきた三台の馬車の先頭までは一〇〇mと言ったところだ。

 直径七〇㎝を超えるほど大きなファイアーボール。
 威力は通常の二〇倍だ。
 燃え盛る溶岩の塊のようなそれを相手の馬車とこちらの馬車の中間の上空に向けて撃ち上げたのだ。

 当然のことだが、即座に使い慣れた七〇〇MPを注ぎ込んだアンチマジックフィールドもその下に展開する。

 大きな爆発音と派手な炎が上空を彩る。

 たぁ~まや~。

 騎士団から引っ張ってきた馬車を牽くのは俺が連れてきた軍馬なので特に問題は無かったようだが、ランタンをぶら下げた三台の馬車を牽く馬は沈着冷静な性格になるよう躾けられてはいなかったようで、怯えた鳴き声を上げると立ち上がるように前足を上げて暴れだした。

 御者が必死になって宥めようとしている声がここまで聞こえてくる。
 同時に馬車の荷台からも何人もの人が飛び降りて馬に駆け寄っている。

 暫くしてやっと馬も落ち着いたのか、馬車は動き出した。

 そして、俺から二〇m程先にまで近づいた辺りで、再び御者は馬車を止める。

「若! ありゃあ一体何です!? 目立ちすぎですよ!」

 ファイアーボールだとは思っていないのか。
 拍子抜けした。
 バリュートや従士共なんか、声も出ないほど吃驚して固まってるっつーのによぉ……。

 ……。

「援軍か!?」

 叫ぶように問うた。

 
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ