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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第五十二話 領主ご立腹 2

7449年4月18日

 この胸くそ悪い件については日付が変わる前にケリを付けたい。
 ズールーやクローたちと合流後、コーヴ男爵の監視にミヅチとズールーを残しておく。
 強襲の可能性もあるのでタイミングの調整についてミヅチに頼もうかと思ったが、部隊編成パーティーゼーションの命令回数を消費するので止めておいた。

 彼女ら二人を除いた残りは馬車に分乗してべグリッツの街の北の外れまで移動する。
 トリスまではあと二㎞あるかどうかという辺りだ。

 確か北の方の畑は……ああ、そうだ。
 ザイドリッツにタバコと小麦をやらせてるんだっけな。
 特にタバコについてはこの西ダート地方は国内でも南に位置する温暖な気候の地域なので、前年の秋に種を蒔いて下の方の葉の収穫は大体この時期となる。
 つまり、タバコの下の方の葉は刈り取りが済んでいるのでしゃがむか匍匐すれば全く葉を揺らすことなく移動が可能だ。

 何にしても先任の従士の畑じゃなくて良かったよ。
 あいつの畑なら多少荒らしてしまったとしてもあんまり心は痛まないし。

 じきに街外れに到着した。
 ここまでの道中でバリュートやクローなんかには簡単に事情を説明している。

 民家もまばらになって、ここから先の二㎞強は一面の畑が広がっている。
 窓から明かりが漏れている家はない。
 尤も、現在時刻は二三時前後なのでこんな時間に起きている農民なんか奴隷も含めて普通はいないから当たり前のことだ。

「全員降りろ。ここからは気付かれないように徒歩で行く」

 用心してゆっくりと進むにしても、トリスとの合流には一時間弱も見ておけばいいだろう。
 ギリギリ今日中に片付けられるかな?

「閣下、それは結構ですが、奴はどこに? まだここに居るとは限りませんぞ」

 バリュートが疑問を呈するが当然だろう。
 領主たちの従士連中も不思議そうな顔をして俺を見ている。

「居る」

 さっきからずっと胸糞が悪いので俺の声は不機嫌そうになってしまっただろうか。
 できるだけ平静を装ったので声の調子はそう悪いようには聞こえなかったとは思う。
 だけど、少しばかりつっけんどんだったかな?
 でも、今この場で説明する時間もなければ、ミヅチの固有技能について説明なんかしたくもない。

「それから、全員よく聞け……状況次第だがこっからは殆ど狩りだ。あの舐め腐った田舎モンに殺戮者スローターズの恐ろしさを思い知らせろ。だが、勝手に殺すなよ? 怪我くらいはさせてもいいけど。明後日の裁きの時までは生かしておきたいからな」

 バリュートにもそろそろ俺のやり方を見せておくべきだ。
 兜を被って顎紐を締めながら乱暴に宣言すると皆の雰囲気があからさまに変わった。

 ゼノムは薄笑いを浮かべ腰の魔斧に手を掛け、ロリックもお上品な雰囲気はどこかに消し飛んだように目つきが鋭くなる。
 ビンスやカームからは表情が無くなり、ジンジャーに至っては舌舐めずりをしている。
 クローとマリーの二人も少しだけお互いを見やった後で俺を見る目つきが研ぎ澄まされていくのがが良くわかった。

 ふふん。
 適度に緊張しながらもしっかりと落ち着いているな。
 それでこそだ。

「ゼノム。クローとマリー以外の殺戮者スローターズの指揮を頼む。大回りして奴らの北側から回り込んでくれ。残りは俺と一緒だ」

 ゼノムを別働隊にして俺はバリュートとクロー、それにゼノムたちが領地から連れてきた従士たちを引き連れてトリスと合流する。
 タイミングを合わせて一斉に襲いかかるつもりはないからそれぞれ様子を窺って最適だと思ったら適切に行動してくれとだけ言っておいた。

「じゃあ、先に行く。マリーは馬車を頼む。あと――」
「わかってる。しばらく通行止めでしょ? でも念の為に一人欲しいわ」

 マリーはそう言いながら右の太腿に装着していたナイフシースの留め金を外した。

 うん、気付いていたなら全部言う必要もないだろう。

 急に変わった俺の口調やそれに答えるマリーの話し方にバリュートが目を剥いて口を開きかけたが俺のひと睨みで慌てて口を閉じた。

「わかった。そろそろお灸を据えとくべきなのは確かだけど、まぁ穏便にな。じゃあお前、こいつに付いとけ」

 誰かの従士の一人に命じると俺はバリュートたちを引き連れて北へ伸びる街道を歩き出した。
 一㎞程進んだあと、適当な畦道か畑の中を突っ切ってトリスと合流するつもりだ。

「じゃあ俺達も行くか。とりあえずトリスの北五〇〇m辺りまで行く。そこからは……」

 ゼノムがジンジャーなんかにおおまかな移動道程の指示を始めた。
 俺の方はゼノムより短距離の移動だが、素人に毛が生えた程度の従士を引き連れている以上、どうしたって移動速度は落ちる。
 対してゼノムの方はベテランの冒険者だけで構成されている。
 しかもゼノムとカームは赤外線視力インフラビジョンまで持っているから用心しながら進んだとしても俺達より早く周囲を取り囲む位置に付けられるだろう。



・・・・・・・・・



 アルやゼノムが北の街道に消えて数分。
 従士とともに馬の首を撫でながら彼らを見送る振りをしていたマリーは、その実一軒の家を注視していた。
 その目は既に暗順応して久しく、星明かりもあることから家を出ようとした人影を見逃すことはない。

 マリーはいきなり右手でナイフを引き抜くと左肩の辺りに振りかぶって投擲した。

 ナイフは回転しながら音もなく飛翔し、マリーが注視していた家の脇の地面に突き立つ。
 突き立った瞬間だけ地面に突き刺さるサクッとした音がした。

「えーっと、ザイドリッツだっけ? そこに居るのはわかってる。両手を頭の上に上げて出て来なさい。ゆっくりとね」

 マリーがいきなり普通に喋り出したために従士はかなり驚いたが、その言葉を聞いて腰の歩兵用の剣(ショートソード)を引き抜いた。

「あら、出てこないつもり?」

 そう言うとマリーは今投げたばかりで地面に突き刺さっているナイフに向かって右掌を翳すとぎゅうっと睨みつけた。
 数秒後。
 マリーの右掌から細長い物体が飛び出すと空中を飛翔してナイフに命中し、ばしゃあっと飛沫を散らす。

「次は家の屋根に火を点けるわ」

 水の矢(ウォーターアロー)を見せつけたうえで脅迫する。

「お、お待ちを!」

 果たして家の陰から姿を現したのは大柄な獅人族ライオスの男、ガロン・ザイドリッツである。
 両手を頭の上にあげ、まるで万歳をするかのような姿のまま、ゆっくりと歩いてくる。
 真っ黒い服に身を包み、薄い革で作った靴まで履いている。

「そこで止まりなさい。ゆっくりと膝をついて……そう。そのままうつ伏せになって両手と両足を広げなさい」

 ガロンがマリーに命じられた通り地面にうつ伏せになるとマリーは従士に命じてガロンの体中を探らせた。

 特に武器などは所持していない事がわかるとマリーは腰の長剣ロングソードを引き抜いてガロンの首筋に当てる。

「ねぇ、何をしようとしていたの?」

 冷たい声で訊ねるマリー。

「い、いえ、わ、わたしは便所に……」

 慌てたように返事をするガロン。

「ふーん、そう。ま、いいけどね」

 剣の平をうつ伏せになったままのガロンの頬にぴたぴたと当てながらマリーは言う。

「ほ、本当です」
「あなた、伯爵が嘘吐きがお嫌いなこと知らないの? ちなみに私も嘘吐きは好きじゃないわ」
「そ、そりゃあ嘘が好きな人なんて……」
「いる訳無いわよね」
「ええ」
「もう一度聞くわ。何をしていたの? あなた、陛下の遠縁なんでしょ? あまり妙なことをすると陛下のお顔に泥を塗る事になるわよ?」
「す、すみません。さっきから人や馬車が通っていたので一体何があったんだろうと思って……」
「そ。好奇心は猫をも殺すって言うわ。あんまりなんでも首を突っ込もうとするのは良くないことよ」
「いや、そんな……」
「ねぇ、こっちが大人しくしているうちに素直にごめんなさいしときなさい? 私は拷問なんか好きじゃないし、やりたくもないけど、あんまりいつまでも認めないならやらざるを得なくなるわ」

 マリーはそろそろ飽きてきたとでもいうように喋り方もぞんざいになってきている。

「あなたがどこの誰と繋がっているかなんて、伯爵も私も解ってるし、今更あんまり興味がないの。どうやって連絡を取るのか、その方法も別にどうでもいいの。本当の飼い主に何をどう報告してるのかもどうでもいいから好きにすればいい。でもね……」

 ここで一つ息を継いだマリーはうつ伏せになって横を向いたガロンの鼻の頭ギリギリに長剣を地面に突き刺す。

「やるならせめてこっちに気付かれないようにしなさいな。あんた程度の動きを気が付いていないと思われるのは癪だわ。あんまり舐めないで欲しいの。ここに来る前、あんたがどこに住んでたか知らないけど、陛下の遠縁なら殺戮者スローターズの名前くらい知ってるでしょ?」

 鼻先の地面に刺された長剣を見たままガクガクとぎこちない動きで頷くガロン。

「別にとって食おうとは言わないから安心して。ただね……殺戮者スローターズを知っているならもう少し敬意を払って欲しいだけ。知りたいことがあればこそこそ盗み見るんじゃなくて頭を下げて尋ねなさいよ」

 そう言うとマリーは地面から剣を引き抜いて鞘に収めた。

「立ちなさい。これからのことは明後日の裁きの時に明らかになるから、今日はもう大人しくしておいて。伯爵や私達の剣技が見たいなら騎士団まで来ればいつでも見れるし、邪魔もしないから幾らでも見ればいい。まぁ、私はあんまり強くないんだけどね。但し、当たり前だけど畑仕事の方はきちんと頼むわね」



・・・・・・・・・



 トリスまであと三〇〇mくらいの地点に到着した。

 トリスが潜んでいると思われる少し先の辺りを注視してみたが、星明かりのせいもあって何も発見できない。
 トリスとの合流を急ごう。 

 ここまで全員腰を落としながら移動してきたためか、従士の中には相当疲れた様子の者も居るようだ。
 しっかりと名前を覚えておいて後でご主人様に言いつけてやろう。
 もう一度鍛え直す必要がある。

 なお、クローは勿論、バリュートも鍛えているので息は乱れていない。

「よし。ここから畑の中を進む。葉っぱに気を付けろ」

 低い声で全員に命じた。

「か、閣下、それではお召し物が……」

 畑の中に入るとなると、当然靴は汚れる。
 特に「葉っぱに気をつけろ」などということは、俺が着ているローブも泥だらけになることを意味するのでバリュートとしては俺を諌めたいところだろう。

「つまらんことを気にするな。それにどうせもう汚れてるしな」

 そう答えるとタバコ畑の畝に入っていった。
 鎧はともかくとして、今着ているローブはしっかりと洗濯こそしているものの何年も着ていてすっかりこ汚くなっているし、裾もほつれているのだ。

 俺の後ろをバリュートが付いてきているが、予想通り高さ一m半程のタバコは下の方の葉は全部収穫が済んでいた。

 そして、無事にトリスと合流を果たした。
 トリスの方も俺たちが接近してくる事に気付いているから何の問題もない。

 黙ったままトリスが指を差す北の方、五〇m程先にぼんやりとカンテラらしい明かりが見える。

 あそこか。
 やはり想像していた通り、街の耕作地の北の外れに居るようだ。
 トリスが潜んでいるのもさっきまで俺たちが移動してきた高さ一m半程のタバコ畑で、少し身を屈めてしまえば発見は難しい。

 ゼノムたちはターゲットの北側を半包囲するように俺達を中心に半径二〇〇mの半円状に広がっている。

 北を頂点とした半円状に並んでいるが、西の端はゼノムでそこから時計回りにジンジャー、ロリック、ビンス、カームが位置している。
 一番北に位置するロリックは確実に耕作地から外れた林の中だろう。

「じゃあ行くぞ。一気に拘束してもいいが、一発くらい殴ってやるか心底びびらしてやらなきゃ気が済まん。まずは二〇mまで接近する」

 少し時間を掛けて奴らから二〇m程の場所に到着した。
 地面に置いているらしいカンテラの灯りははっきりとわかる。
 星明かりがあるとは言え、真夜中にカンテラなんか灯していたらここに居ますと言っているようなものだ。
 って、あいつらも合流するつもりなんだっけ。
 そりゃ目印はいるよな。

 援軍は馬車で連れてくるみたいだから、あいつらは判っても援軍が気が付くことは出来ないだろうから通り過ぎちゃうよね。

「まず俺だけで行く。わざと取りこぼすから逃がすなよ」

 そう言って匍匐しながら一〇mくらいまで近づく。
 彼らは地面に腰を降ろしている。
 喋ることもないのか、二人共ぼんやりとカンテラを見つめているようだ。

 ふふん。

 そっと膝立ちになってすぐに行動できるように姿勢を正すとオーディブル・グラマーの魔術を最大音量でコーヴ士爵(鑑定したのですぐにわかった)の背中の辺りに使う。

 パーン!

 車のタイヤがパンクした時のような音が深夜のタバコ畑に響き渡る。

「うわぁっ!?」
「なっ!?」

 士爵と従士フォロンゾは文字通り飛び上がって驚いた。
 感心なことにフォロンゾの方は腰の剣に手を掛けながら辺りをキョロキョロと見回している。

 んじゃもう一発。

 パーン!

 今度はフォロンゾの背中の方で鳴らしてやった。

 ちっ。
 驚いたことは驚いたようだが、今度はさっきみたいな醜態を晒すところまでは行かなかったようだ。
 士爵も剣を抜いてフォロンゾの後ろに何か潜んでいないか覗き込むようにしている。
 勿論、フォロンゾも振り返っていた。

 しかし、この期に及んでランタンを消さないとは、揃って阿呆だな。

 次、どうしようかな?
 あ。
 あれ試してみるかな。
 幻影ファンタズマゴリアの魔術。

 もう一発驚かしてやろうかと精神集中をしようとしたところで思い直した。

 つまらん。
 本当につまらん。
 元々コーヴ士爵に対して好感も持っていなければ悪印象も持っていなかった。

 反抗計画に名前があったと言ってもそれは彼の先祖の話であり、そんなことで貴族を失うのはアホくさいと思ったので咎めるつもりなんかもさらさら無かった。
 咎めたのは虚偽を申し立てたことと、放火などという凶悪な犯罪を教唆したからだ。

 事情を考慮して少しだけ同情するような気持ちも無くはなかった。

 立ち上がるとゆっくりと剣を抜いた。
 エメラルドグリーンの輝きを放つ屠竜ドラゴンスレイヤーは結構目立つ。

「コーヴ、フォロンゾ」

 俺が声を掛けるまでもなく彼らは俺に気が付いたようだ。

 
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