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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第一部 幼少期~少年時代

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第四十二話 基本的にはめでたい話

7438年10月4日

 多分シャンレイドはウェブドス侯爵の息子のセンドーヘルの長女、つまりウェブドス侯爵の孫なんだろう。つまり、この領地では上から何番目、という程度には偉い人、ということになる。この場合の「偉い」は身分が高いと同義だ。別に何か偉業を成し遂げたと言うことではない。まぁそんなことは今更語ることではないけどね。それと、鑑定欄の二行目の所属のところに【ウェブドス侯爵騎士】とある。騎士団の関係者でもあったわけだ。ちょっと士爵と騎士とでどういう違いがあるのか解らなかったのでサブウインドウで見てみたい気もするが、それは話が終わってからでもいいだろう。

 しかし、一体何だってこのような立場の人間がこんなド田舎くんだりまで来たのだろうか。ゴム製品の生産拠点の視察か何かだろうか? やべー、片付けてないよ。しかし、視察にしては供もつけずに来ているのは不自然だよなぁ。まだ紹介もして貰っていないので知らんぷりを決め込んでいるが、俺の態度は急にギクシャクしていないだろうか。なんとなくこんな世界だと領主の一存でド田舎の士爵家程度、埃を吹くように消えてしまうかもしれないと思い、気が気ではなくなっている。

 とにかく全員が身軽になり落ち着くまで待つしかないか。従士の家族たちも集まってきたし、ジャッドの件についての話もあるだろう。ヘガードは従士の家族も全員が集まるまでは話さないだろうしな。

 ヘガードとシャルはミルーにゴム製品の生産状況を確認している。本来はそろそろ納品時期だし、前回の納品はしていないので在庫は沢山あるし、親父の大目玉が怖いので生産に抜かりはない。二回分の納品量を賄うくらいの在庫は生産してある。親父はそれを確認すると居残っていた従士達に明日すぐに納品に出かけるので今日のうちに品物を纏めておく様に言いつけた。品物を纏めるのは勿論これからの話が済んでからだ。

 全員が集まり、いよいよヘガードの話が始まる。集まってきた人の中から聞こえてきた「誰だ、あの別嬪さんは?」とか「ジャッドがいねぇぞ」とかの声もぴたっと止んだ。

「皆、まず今回の遠征の留守中、よく頑張ってくれた。礼を言う。それと、今聞いたが開墾も順調らしいな、本当によく頑張ってくれたな。ありがとう」

 ヘガードはそう言うと、今度は少し悲痛な表情をした。

「遠征のほうだが、ユニース、お前には気の毒なことだが今回はジャッドが戦死した。卑怯にもデーバスの奴らは矢に毒を塗っていた。その毒にやられての戦死だ。全員無事での帰還を望んでいたが、駄目だった。俺を恨んでくれていい」

 ユニースはジャッドの妻でウィットニーの母親だ。彼女は涙を流しながらも気丈に顔を上げ、ヘガードに言った。

「ウィットニーが従士を継いでくれたのであの人が遠征に行くのもこれで最後だと思っていましたが、仕方ありません。従士らしく戦場で死ねたならそれも運命です。お館様をお恨みするには当たりません」

 ヘガードはそれを聞くと再度ユニースに詫びた。その後、今回の遠征について大体の戦況を報告したあと、言った。

「そろそろ皆も知りたいだろうから紹介する。彼女はウェブドス侯爵の孫で騎士団長のセンドーヘル様のご長女だ。名前をシャンレイド・ウェブドスと言う」

 ヘガードの後ろに並んでいた一団からシャンレイドが進み出てきて頭を下げた。皆はいきなりの身分の高い人間の登場に面食らったようで、押し黙っている。俺もそうだ。

「いまグリード士爵様にご紹介に預かりましたシャンレイド・ウェブドスと申します。ですが、一月後にはファンスターン様に娶っていただきシャンレイド・グリードとなります。皆様におかれましては今後とも宜しくお願い申し上げます」

 そう言いながらまた頭を下げた。突然そんなことを言われたって……。

 皆も一瞬ぽかーんとしたが、直後に蜂の巣をつついたように大騒ぎになった。だって、そりゃそうだろう? 領主の長男の結婚だし、ましてその相手はこの地方の領主の直系の孫だという。これでこのバークッドも安泰だ。これが騒がずにはいられようか。俺とミルーは二人ともお兄ちゃん子なので顔を見合わせると複雑な表情で下を向いてしまった。そっとファーンの様子を窺うと、皆から囃し立てられて照れたような表情をしていた。隣ではミルーも俺と同じように上目遣いでファーンの様子を窺っていた。

「なお、申し訳ありませんが、先程グリード士爵様よりご報告がありました、今回の戦の件ですが、少しご報告に追加がございます……。今回の戦は当ウェブドス侯爵領のウェブドス騎士団が戦力の中核にはなっておりましたが、戦全体の指揮は王国第一騎士団より副団長である、騎士ジェフリー・ビットワーズ卿が派遣され、指揮を執っておいででした」

 シャンレイド・ウェブドス嬢はそう言うと、少し言葉を溜めた。そう言えば今までヘガードが出兵の報告をした時にはそういった情報について話したことはなかったな。

「今回の戦は先程士爵様よりご報告のあった通り、ダート平原の西部で行われました。双方ともに兵士の数はあまり変わらず、地形の問題もあって正面からぶつかり合う格好が多かったのですが、最終的にはロンベルト王国側が勝利した形になりました。本来であれば痛みわけに近い形になることが多い、ほぼ同数の軍による衝突だったにも関わらずです。戦を指揮したビットワーズ卿の采配もさることながら、バークッド村の部隊の活躍もそれに貢献したと言えるでしょう」

 一体何が言いたいのだろうか、少しだけ詳細にはなったが先程ヘガードが皆に言っていた事とあまり変わりがない。

「ですが、それだけではありません。幾つかの戦闘がありましたが、ロンベルト側が優勢になったのは何回か行われた戦闘の中盤からです。それまでは双方共に被害としてはあまりなく、最終的にはこのまま痛みわけになると思われていました……。そのような小競り合いとも言える戦闘が何度かあり、あるとき私の所属する騎士団の小隊の指揮官が戦死しました。それはままあることなのでここでは問題ではありません。その後から大きく戦の趨勢が動いたことが問題なのです。小隊の指揮を引き継いだのはこの春に騎士の叙任を受けたばかりのファンスターン・グリード卿でした。勿論後継として隊長に任命したのは私の父である騎士団長ですが、その人事采配によってファンスターン・グリード卿は小隊の指揮官としてかなり異例の抜擢を受けたのです。通常ではまずありえない采配です。小隊には先輩の騎士も所属していましたから。普通なら騎士の叙任を一番古くから受けた騎士が次の指揮官に任命されることが多いのです」

 まぁ兄貴なら当然のことだ。優秀だしな。俺には何が問題なのかさっぱりだぜ。横ではミルーもさも当然だという顔で話を聞いている。だが、やっかみなんかもあったんだろうなぁ。

「おそらく騎士団での平時の訓練などで父には思うこともあったのでしょうが、とにかく団長の強権を発動して騎士としては一番若いと言ってもいいファーン、いえ、ファンスターン・グリード卿が私の小隊の隊長になりました。当然、年嵩の騎士の中には不満を抱えた者もいたのですが、ファー、ファンスターン・グリード卿は実力で彼らを黙らせました。指揮を引き継いだ最初の戦闘で敵兵を6人も一人で倒したのです。その後はもう誰も彼の立場について不満を述べるものはいなくなりました。その次の戦闘では敵陣への切り込みを成功させ、さらにその次の戦闘では後退時の殿を任され、これを味方の被害をゼロに抑えて成功させました。その次はある程度の部隊自体の自由裁量を受け、戦闘開始後に最適のタイミングで突出して相手に大きな被害を与えることに成功しました。さらに次、最後の戦闘時にはご自分でビットワーズ卿に進言なされて最初から戦場を大きく迂回して敵が進撃に移ろうとした瞬間に敵の側面から突撃を敢行し、敵の指揮官であるコービット男爵を討ち取られました」

 だんだんとざわめきが大きくなり、敵の指揮官を討ち取った時には「すげぇ」とか「流石はファーン様だ」とかいう声が聞こえてきた。ふふん、兄貴なら造作もないことばかりじゃないか、何を驚くに値するというのか。ミルーも別段驚いた様子はなかったが誇らしそうな顔をしている。俺もそうなのかな? そんな事よりもファーンとか慣れ慣れしいだろ。あ、いいのか。

「王都に凱旋した後は功一等として称揚され、金子と騎士団内での昇格か王国第一騎士団への編入も検討されましたが、ファンスターン・グリード卿はそれらを全てお断りなされ騎士団を辞し、バークッドへの帰還をご希望なされました。ご自分はお父上であるヘグリィヤール・グリード士爵様の後を継ぎこの地の発展に寄与せねばならないとの理由でした」

 ……。まじか、流石兄貴、かっけぇな。王国第一騎士団と言えばロンベルト王国の常備軍の中の精鋭という話だし、そこに所属できるのは一握りのバリバリの軍人だけで、ものすごく名誉なことだとも聞いている。普通は騎士の叙任を受けて、その後経験を積み、実力が認められたものに対して更に厳しい入団試験が課されるとも聞く。金子が幾らかは知らないが、ウェブドス騎士団の中での昇格だってたいしたものだろうに、それを全部蹴ったのか。皆も唾を飲み込んでしわぶき1つ立てないで聞いている。

「トーマス・ロンベルト三世陛下も残念ではあったのでしょうが、事は領地の継嗣についての問題ですから本人の希望が優先されたと聞いております。後はグリード士爵様、お願いします」

「あー、その、なんだ、あまり息子のことを褒めるのもどうかと思ってな……。ま、そういうことだ。で、だ。ミルー、お前ファーンの代わりに来年度の王国第一騎士団への入団試験が決まった。来年年明け早々にやるらしい。お前ももうすぐ大人になるし、いいチャンスだ。頑張って来い」

 え? えぇぇぇぇぇ!? ヘガードが何の気負いもなしにさらっと言ったことって凄い事じゃないのか? 思わずミルーを見る。ミルーも何を言われたのかまともに理解していないようだ。と、ファーンが親父の横に進み出てきて補足した。

「ミルー、お前は剣の腕も立つし、魔法も俺より使える。駄目でもともとでビットワーズ卿にお願いしてみたら、いいと言ってくれたんだ。別に俺の身代わりにお前を売ったわけじゃないぞ? 第一騎士団は王国騎士団の中でも一番規模は小さいが精鋭揃いだと言う、入団試験を受けるだけでもいい経験になると思うんだが……お前は騎士団の経験も無いから戦闘の実技試験だけでいいらしいし、たとえ落ちたとしても第一騎士団の入団試験経験者なら他の王国騎士団の入団試験だって受けられ……おい、嫌なのか?」

 ミルーがぽかんとしてろくに反応も示さなかったためか、ファーンの声もだんだんと自信なさげなものに変わって行った。いや、吃驚して声も出ないだけだと思うよ。だって皆吃驚してるもん。

「え? い、嫌じゃないよ、です。でも本当に私が第一騎士団に入れるの?」

「だから入団試験があるって。もう受かったつもりなのかよ? 試験は相当厳しいらしいぞ?」

 ファーンがそう言って茶化すが、目は笑っていなかった。

「あ、うん、はい。試験……試験があるんだよね……です。はい、頑張ります!」

 ミルーの言葉遣いが怪しくなっているが内心の動揺もあるのだろう。

「ああ、試験までたっぷり鍛えてやる。それに、もう解っているとは思うがシャーニも騎士の叙任を受けてるからな、二人掛りできっちりと絞ってやるから覚悟しておけよ」

 ありゃ、兄貴も愛称で呼んでるよ。しかも気づいてねぇし。

「はい、グリード卿、ウェブドス卿、宜しくお願いします!」

 ミルーもすっかり立ち直ったのか、よそ行きの喋り方で答えている。
 その答えに満足したのか、両親や兄貴も頷いているが、シャーニの表情はちょっと硬い気もする。やっぱり知らない村人たちの前で緊張しているんだな。

 それからはジャッドの葬儀とファーンとシャーニの結婚の日取りや、その宴会にはシャーニの両親だけでなく、領主であるウェブドス侯爵本人とその妻である祖母も参加するとの事で宿泊場所などの手配でてんわやんやになった。宿泊場所はどうしようもないので家の部屋をいくつか空けるしかない。



・・・・・・・・・



 ところで、兄貴の結婚に当たって考えなければいけないことがある。

 シャーニと結婚するのはいい。まぁ反対する理由もないし、基本的にはめでたい話だと言えるだろう。だが、当家の秘密についてどこまで公開するのか。または何をいつ頃まで秘匿するのか。その辺りを確認しておく必要がある。

 当然、田舎とは言え、貴族の跡取りの結婚なのだから本人同士の納得よりは家同士の納得もあるはずだ。シャーニの様子を見る限りファーンに対して隔意を感じることはないし、好感さえ持っているように見受けられる。そこは問題無いと思っている、と言うか思いたい。確認は必要だが。

 疑った見方をすればゴムの製法について情報を取られた後に離婚されてしまうとかいうことさえ考えられる。離婚した家庭は知らないので一般的かどうかはわからないが。俺達兄姉は領主の子供と言う立場から稽古やゴムの製造などであまり親しい付き合いの友人は村には居なかった。それでもファーンやミルーは人当たりも良いし、見た目も良いので俺が生まれる前、剣の稽古が始まる前まではそれなりに年代の近い子供たちと遊ぶことも多かったようだが、俺は物心ついたときから人と一緒に遊ぶことなど殆ど無かったし、稽古や見回り、ゴム製品開発で忙しく、もともと精神年齢がすでにいい年でもあった事から遊ぶことに積極的ではなかった。だって40代後半から50代半ばになろうという精神年齢で幼児と何して遊ぶんだよ。時間は有限だし遊んで無駄遣いする余裕なんて無きに等しかったのだ。

 だから、一般常識の入手先は家族以外はミュンだけだったと言っても良い。大人や青年との会話も事務的なことばかりで離婚がどうのなど話すこともないし、話題に上らせることなんて考えもしなかった。最近は余裕も出てきたのでその限りではないが、それにしても物事には順序がある。結婚制度についてなんて優先度は低いだろう?

 親父は母ちゃんと兄貴とシャーニと晩飯前から酒を飲みつつ陽気に何か喋っているし、だいたい今日は両親とも遠征から帰ってきたばかりだから休養は必要だろう。明日にでも適当に人払いして話をすればいいだろう。多分明日からは兄夫婦(もうこう呼んで差し支えないだろうし、いいだろう)はミルーの訓練にかかりきりになるだろうから両親と話す時間はその気になればいくらでも作れるだろう。



・・・・・・・・・



 その晩、宴会のような夕食の後、ミルーと話した。

 ミルーは冒険者になりたがっていたはずだ。そのあたり、どうなのだろう?

 思うところはあるはずだと思ったが、王国第一騎士団は更に魅力的だったようで「え? 冒険者? そんなの第一騎士団とは比べ物にならないでしょ。私、これから頑張るからね。剣ももっと修行して試験に受からないと」とか言って全く未練は無いようだ。まぁ未練が無いのならそれで良いやと思っていたが、なんと代わりに俺に冒険者を薦めて来た。もう家は兄に任せておけばいいし、領主の孫の嫁もいれば安泰だし、次男のあんたなんか冒険者で頑張るしかないじゃない、というのがその理由らしい。

 尤も、俺としても他に選択の余地は少ないし、いずれは家を出、更に国を出て、自分の国を作らねばならないのだ。暫くは冒険者も良いかも知れない、とは思い始めるくらいには説得力があった。だいたい、自分の国を作ると一口に言っても俺が考えていたのはこの国で軍人になって出世して軍を率いて独立、なんて内乱か革命や下克上みたいな方法ではなく、どこか別の国で仕官でもしてそこでのし上がるか、野盗のような自分の手下を集めて兵を起こすとか、なんとなくこの時勢に合うような合わないような方法を漠然と考えていたに過ぎないのだ。

 俺のほかにいる転生者を探して味方になってもらう方法だって取れなくは無いだろう。戦闘に向いている向いていないは別として、転生者はレベルアップ時の成長が大きいから確実な戦力になりやすいだろうし、日本で学んだ知識を生かせるなら政治の分野でも魅力的な人材がいるかも知れない。それになんらかの固有技能だって持っているはずだ。その内容によっては有効な手札になる可能性も高い。

 場合によっては俺以上に優れた奴だっている可能性もある。そのときはそのときだがな。とにかく今は体を作り地力を高める努力を怠ることは出来ない。レベルアップだってしなきゃならないし、剣や槍の修行も必要だ。やること、やらねばならないことは沢山あるのだ。

 
 この世界の紛争程度では殲滅戦などまず起きません。普通は適当にちゃんちゃんばらばらやってあまり死者も多くはありません。そう思っておいてください。なので一度の戦闘で六人も倒したファーンはものすごい手柄です。まぁ倒した相手はレベルの低い従士とか、もしいたならば傭兵あたりではないでしょうか。また、戦争の終息はどちらかが降参した時です。普通は軍隊の指揮官が相手に使者なり戦場での口上なり使者に持たせた手紙なりで降参したことを伝えます。今回は相手の大将を討ち取ったので問答無用での勝ちでしょうね。でも本当なら捕虜にして身代金をせしめるのが最良です。なので、偉くなればなるほど戦死することは逆に珍しいと言えます。死ぬのは下っ端の仕事なので。勝負がつかない場合も当然ありますが、兵糧が無くなる前にどっちかがさっさと退却するでしょう。夜戦なんかまずないので。

 勿論、侵略を目的とした本格的な侵攻/防御戦や攻城戦などが全く無いわけではありません。そのような大戦争は数十年~百年に一度あるかないかくらいです。そういった国家間の大規模な戦争は大量に資金や資源を消費しますのでなかなか出来ないという事情も関係します。
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