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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第四十七話 疑問符 4

7449年4月18日

 さてさて、コーヴ男爵には「ガラスが気に入ったのなら持って帰ってもいい」と言ったが、無事に持って帰れるかな?

 パーティーが開始される前、俺とミヅチは警護隊長のバリュート士爵に命じてヨシフ・ロンザルという男を放火の疑いで逮捕させに向かわせていた。

 この、ロンザルという男についてだが、キブナル士爵から話を聞くことが出来たのは本当に僥倖だったよ。
 ロンザルはコーヴ男爵の従士で、今行政府には居ないが、男爵親子と一緒にべグリッツまで来ているところを見たそうだから、今頃はどこか安宿にでも滞在しているか、安酒場で酒でも飲んでいることだろう。
 さすが俺、運がいい事この上ないな。

 ああ勿論、バリュートがこの場を離れる訳には行かないので逮捕に向かったのはこの場で警護についている者以外の正騎士のうち、士爵が信用できると言い切った者数人に加え、クローとマリーを指名している。
 万が一何かあった時のために彼ら二人を警護に組み入れないで待機させていたのはこういう時の事を見越していたためだ。嘘だけど。
 当然ながら機動性が大切なので、騎士達には特例で俺の連れてきた軍馬を使えと命じておくのも忘れていない。

 とにかく、ロンザル逮捕のその後に続くこの場での結果が最悪の場合、コーヴ男爵と士爵親子はそのまま騎士団の牢に収監する可能性もある。
 男爵や士爵などの下級貴族なんぞ、俺の気分次第で打ち首でも何でも可能だ。

 犯行自体は俺が赴任する前の出来事なので、俺に関係が無いと言われればその通りだし、一度はラフリーグ伯爵の所有していた奴隷の火の不始末ということでカタのついた事件でもある。
 だが、事件の真犯人が判明したのであれば話は全く別だ。
 一時間ほど前、領主たちの顔見せの際に言った「誰にだって勘違いはあるし、人であれば間違いだって犯す」という言葉はこんな時だからこそ輝くよね。

 それにしても放火の罪は重い。王国の法ではたとえ失火でも本人の死罪が一番軽い刑罰となる。
 ましてそれが領主の屋敷に対する故意のものだとすれば……。
 キブナル士爵の話を聞いたことで、先任の領主たちやハミット王国の末裔だというコーヴ男爵家の人たちの気持ちを思って多少同情心を持っていたが証拠隠滅を図って放火をした事は簡単に許せることではない。

 実行犯のロンザルには断固たる態度を以って死罪を申し渡し、教唆したと思われる男爵親子には、相応の罪を被って貰う必要がある。
 とは言え、先方の態度や申し開きの内容如何では刑罰を減免してやるつもりでもいる。

「では、乾杯と行こうか。音頭はファイアフリード男爵に任せる」

 今度こそコーヴ男爵がしゃしゃり出て来る前にゼノムを指名してやった。

「……では、私、ファイアフリードが乾杯の音頭を取らせて頂きます。此度、皆さんとご挨拶をする機会を作って頂いた伯爵閣下ならびに奥方様の今後のご健康とご領地のさらなる発展を願って、乾杯!」

 乾杯の音頭についてはゼノムに頼むと予め言っておいたのでゼノムはそつなく音頭を取った。
 全員が美しい透明なワイングラスに口をつける。

 その後はバリュート士爵に命じていた結果の合図が来るまで楽しい歓談の時間だ。
 ゼノムやトリスなんかの後任の領主たちに対してはミヅチが部隊編成パーティーゼーションを使って「何が起きても落ち着け」という意味の暗号を伝えている。

 簡単でも一人づつ時間を取って説明しなかったのは彼らは彼らで先任の領主たちと交流を深めるためには非常に意義のある時間だし、先任の領主たちだって俺が連れてきた者達との交流の場は大切なものであるからだ。
 だから、そんなことで僅かでも時間を取られたくなかったということに加えて、内緒話をしているところを誰にも見られたくなかったというのがその理由だ。

 パーティーは和やかなムードで進行していった。

 そこそこに上等な料理と飲み物、そして鋳鉄を透明なガラスに変化させた俺の魔法の技。
 領内に出現する魔物や野盗団の情報。
 有名なバルドゥックの迷宮で高名な冒険者として名を馳せていた殺戮者スローターズのメンバーによる冒険譚の数々。
 騎士団で行った模擬戦やその前の余興。
 ダート平原では当たり前とされる通常の農法との違い。
 殺戮者スローターズのリーダーとして、僅か六年で迷宮を制覇した俺の偉業。
 王国辺境のこの地では珍しい、大都会ロンベルティアの綺羅びやかな話。
 珍しい文物の話。

 いつしか先任の領主たちはそれぞれ適当な後任の領主の周りを取り囲んで話を聞いて笑ったり感心したりしていた。

 乾杯が行われて三〇~四〇分も経ったろうか。

 誰かが一階にあるトイレに向かった時に身を屈めて会議室に入り、部屋の隅で豪華な料理に未練タラタラの視線を送っていたバリュート士爵に耳打ちをした者がいた。
 衛兵として立たせていた従士の一人だ。
 俺がバリュートに視線を送ると、バリュートは重々しく頷き、剣の柄に手をかけるとすぐに離した。

 首尾は上々か。
 だが、急がなきゃいけない訳でなし、少し時間をくれ。

「さて、ここでひとつ、皆の者には確認しておきたいことがある」

 なんとかという精人族エルフの領主の美しい奥方からワインを注いで貰うと部屋の中央に移動して声を上げる。
 俺が少し大き目の声で喋ったことで、それまでざわついていた部屋は水を打ったように静かになった。

「先日、私が住む予定だった屋敷が奴隷の失火によって完全に燃えてしまったことについて耳にしていない者は居るか?」

 周囲を見渡すが何の反応もない。

 全員が既に知っていたという顔だ。
 そらま、痩せても枯れても貴族なんだし、領主の屋敷が焼失したという大事件を知らない方がどうかしている。
 まして、今日のこの時間ギリギリにべグリッツに到着したのでもなければ午後のうちに耳にしているのは当たり前か。

 中には痛ましいような表情を浮かべている者もいる。
 少し緊張したような表情をしている者もかなり多い。
 なるほどね……。

「では、全員知っているんだな? うむ。まぁ、燃えてしまったものは仕方ないから新しく建て直し始めているんだが、完成は年末近くなってしまうそうだ。だから私達は今、コートジル城を仮の住まいとしているのだが……」

 緊張していた者達の表情が少し和らいだ。

「勿論今夜もコートジル城まで帰らねばならない……べグリッツの宿はそなたらと従者たちで殆ど埋まってしまっているだろうからな」

 ちょっとだけ冗談めかして言う。
 勿論、俺とミヅチの部屋を取るくらい訳ないけどな。

「と、言うわけで私と妻はそろそろ酒は遠慮しておく。酔っ払って馬に乗ると奴隷頭がうるさいからな」

 ほとんど追従だろうが、小さな笑い声も起きた。

「ねぇ。私も折角皆さんと顔を合わせた日にもう美味しいワインが飲めないのは残念ですわ」

 少し離れたところでミヅチが相槌を打ってくれた。

「いやはや、閣下ご夫妻には本当にお気の毒ですな。しかし、閣下。確かに閣下の奴隷が心配するのも道理ですぞ。酒に酔って馬を操るのは危険ですからな」

 コーヴ男爵が言った。
 言ってくれた。
 俺が笑みを返すと他の貴族たちも口々に言い始める。

「本当に残念ですね」
「失火はラフリーグ伯爵の奴隷だというじゃありませんか」
「ああ、聞きましたよ。子供だそうですね」
「ところでミュアー殿、ご息女の戻り、遅いですね」
「ラヒュート殿、女性は色々と時間がかかるものです」
「子供に掃除をさせたラフリーグ閣下にも困ったものですな」
「それはそうですね」

 こいつら……。
 ん?
 そう言えば、ずっと部屋の隅の方で碌に会話にも加わらずに黙々と飲み食いしているのは……ラノクス士爵とその息子か。
 息子の方は六年ほど前に正騎士の叙任を受け、村に帰っていると聞いている。
 結婚する予定だった女も居たが結婚直前に事故かなんかで死んでしまって以来、未だに独身を貫いているそうだ。

 確か、あんまり評判が良くない領主だ。
 しかし、彼らも俺への忠誠を誓った以上、無碍に扱うつもりもない。
 加えて、例の反抗計画書にはラノクス家の署名は元々無かった。

「ははは。だが、失火したという奴隷はラフリーグ閣下が迅速にお裁きなされたからな。私としては気持ちのやり場がなくて忌々しいが、それに腹を立てる訳にも行かん」

 豚肉の煮込みを取り皿に取るとフォークで一口食った。
 実はパーティーが始まって以来、初めて食い物を口に入れたんだ。
 塩コショウ中心の味付けであんまり美味くないがそれでも空きっ腹には有り難い。
 時間稼ぎの理由はこれだけなんだけどね。

「そうですね。でも私は自由に間取りを考えられて嬉しいですけど。ああ、新しい屋敷の間取りは私が考えているんですのよ。ホホホ」

 ミヅチもアスパラガスっぽい何かを焼いたやつを口に入れている。

「それは奥様、良うございました。しかし、こんな日にお酒を控えなければならないのは少しお辛いですね」

 どっかの士爵婦人がそう言うとミヅチは大きく頷いて肯定する。
 それに乗るようにトリスとロリックが犯人をくさし始めた。
 あら、何も言ってないのにこいつら……なんとなく予想をつけたんだろう。
 気を回すなよ。素直に言えよ。
 ほら、場の雰囲気がそっちの方に行っちゃったじゃんか。
 まぁ、それはそれでいいけどさ。

 ゼノム、ビンス、カームは妙な表情をしている。
 酒に酔っても俺とミヅチなら解毒リムーブ・ポイズン毒中和ニュートラライズ・ポイズンの魔術を使えばいいのに、とでも言いたそうだ。
 丁度いい。
 ビンスに言って貰うか。

「なにか言いたそうだな。ゲクドー士爵」

 ニヤッと笑いながら言う。

「ん……その、閣下なら酒なんか魔術で幾らでも……」

 少し不思議そうに言うビンス。
 それを聞いた貴族たちは「魔術で酔いを……話に聞いたことはあるが……」とか言っていた。

「そうだ。確かに私は魔術で酒を抜くことくらい朝飯前だ。だが、今は多く飲みたくはない」

 取り皿に乗ったままの豚肉の煮込みに別れを告げ、丁寧にテーブルに置きながら言った。

「私もね。なんでだと思う?」

 上品に口をナプキンで拭いながらミヅチも言う。

「え?」

 ビンスはやっと“何かあったな”と気付いたようだ。

「バリュート!」

 俺が命じると忠実な副騎士団長はしゃらっと腰から長剣ロングソードを引き抜き、コーヴ男爵に突きつけた。
 他に部屋に居た三人の警護の騎士も剣を抜いてコーヴ士爵を取り囲む。

「い、一体何を!?」
「そうです! これはどういう事ですか!」

 慌てて狼狽しながらも両名ともにグラスを手放さないのは見上げた根性だ。
 他の貴族たちは事情を知っているキブナル士爵母子を除いて全員が一体何事かと仰天している。

「コーヴ男爵、並びにコーヴ士爵、お二人を領主の館に対する放火教唆の容疑で逮捕する!」

 バリュートがそう言うと部屋にいる貴族のうち大部分が真っ青になった。

「馬鹿な! 閣下、放火とはどういう事ですか!? 火事はラフリーグ閣下の奴隷が! もう裁きも終わっております!」

 コーヴ男爵が叫ぶように抗議する。

「そなた、バリュートの言葉を聞いていなかったのか? 放火の容疑ではない。放火“教唆”の容疑だ。入れろ!」

 俺が大声で命じると廊下に控えていたクローが後ろ手に手を縛った上に猿轡を噛ませ、腰縄まで打った男を連れて入室してきた。
 マリーは男に剣を突き付けている。
 その後ろには先程トイレに行ったミュアー士爵の娘が怯えたような顔をしてくっついていた。
 トイレから戻った所をロンザルを連れて待機していたクローとマリーが部屋に入らないように今迄捕まえていたのだろう。

「跪け、コラ」

 クローはそう言うと乱暴に男の膝の裏を蹴った。

「団長、放火犯、コーヴ男爵従士ヨシフ・ロンザルを拘引して参りました」

 マリーは冷たい目でロンザルを見下ろすと俺に報告する。

「猿轡を解いてやれ」

 マリーに命じると、鮮やかな剣捌きで一刀のもとに猿轡だけを切り捨てた。

 貴族たちは周囲の顔色を窺うばかり、しーんと静まり返っている。

「閣下!」
「黙れ!」

 コーヴ士爵が抗議の声を上げるのを大声と気合いで黙らせた。

「これより臨時の裁きを行う! この場にいるものは全員証人として宣誓せよ!」

 貴族たちはコーヴ親子も含めて何も言わ……言えないようだ。

「私、トルケリス・カロスタラン士爵は、真実のみを述べることを法、及び真実の神に誓います」

 トリスが口火を切る。

「私、ロートリック・ファルエルガーズ士爵は、真実のみを述べることを法、及び真実の神に誓います」

 トリスから右回りに宣誓をするようだ。

「私、ゼノム・ファイアフリード男爵は、真実のみを述べることを法、及び真実の神に誓います」
「私、ルシンダ・キブナル士爵は、真実のみを述べることを法、及び真実の神に誓います」
「私、オズマンド・キブナル准爵は、真実のみを述べることを法、及び真実の神に誓います」

 ……。

「私、ゴンゾイル・ラノクス士爵は、真実のみを述べることを法、及び真実の神に誓います」
「私、ヴェンデル・ラノクス准爵は、真実のみを述べることを法、及び真実の神に誓います」

 うむ。
 騎士団員を含めて拘束されている三人以外の全員の宣誓が終わったようだ。



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