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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第四十四話 疑問符 1

7449年4月18日

『マジっすか! お、俺、キョーコってキャラやってたんすよ! メイジの! ネカマで! うわぁ、ジュンヤさんに会えるなんて……』

 ミヅチと昼飯を食うと約束していた店に足を踏み入れたらトールが日本語で何か言っていた。

『キョーコ……キョーコねぇ……ごめん、メイジとか覚えてないわ』

 ミヅチも日本語で返事をしている。
 同じテーブルに座っている他の奴隷たちはそんな二人に遠慮しているのか、小声で全く別の雑談に興じているようだ。

『何話してたんだ?』

 ミヅチの隣に腰を下ろしながら俺も日本語で尋ねた。

『あ、お疲れ様。昔のゲームの話』
『お疲れ様です。同じオンラインゲームをやってた事が判りましてね。ミヅチさん、すっごい有名なプレイヤーだったんですよ! 俺も一緒にパーティー組ませて貰った事あるんですけど、そりゃあ強かったっすよ!』

 ふうん。
 そう言えばミヅチはゲームが好きだったな。

『ま、昔の話よ。大したことじゃないわ』
『またまた、ご謙遜を。ジュンヤって言ったらフラネス鯖では最強のタンカー……あれ? あの人男だって……チャットもしたことあるんですが……え? まさか、騙りっすか?』

 トールは疑わしそうな目つきでミヅチを見ながら言っている。

『あー、はいはい。騙りよ騙り。ごめんねー』
『なんだ、騙りかよ……安心した』
『へ? 安心? 怒んないの?』
『いやぁ、ジュンヤを騙る奴は多いですし、んなことで一々怒ったりはしませんよ』
『あ、そう……』
『あ、ところでクロケットクロッケル事件って知ってます?』
『そりゃあ有名な事件だったからね』

 俺にはよく解らん話のようだし、どうでもいい。
 白パンと豚ステーキ、人参の煮物を頼んだ。
 俺が頼んだのを見て周囲の奴隷達も次々に注文を始めている。

『あれ、すげぇ話題になりましたもんね。当時の最強パーティーに加え、他にも沢山の実力者が総出で協力プレイしましたからね』
『そうみたいね……』
『実はですね。あの事件の時、グレーターデーモンからドロップしたニブルワンドを拾ったの俺なんすよ』
『え?』
『へへっ。よく覚えてますよ。あん時は丁度最高レベルのヘイストを五重にかけた直後だったんで、アクションスピードが最大までブーストされてたんすよね。で、グレーターデーモンのタゲ取るのにショートジャンプ使ったタイミングでデーモンが倒されて、ドロップしたとこに俺がいた。あれは本当にナイスタイミングでした』
『ええっ!?』
『他にもいろんな要因が重なってたんすよ。クロケットクロッケル村のノーム達の死体がいつまでも消えないで残っていて画面全体がゴチャついていたこともそうですし、グレーターデーモンが死ぬ少し前に取り巻きのレッサーデーモンが何匹も召喚されてたし、そいつらが全部発狂モードに入ってブレス吐きまくってたってのも大きかったっす。他のプレイヤーからは全く見えてなかったっぽいですからね』
『……』

「あ、俺卵焼きにベーコンと白パン、オニオンスープ」

 土曜の昼食は奴隷と食事をする日だと決めており、全額俺が持つ。
 他の奴隷と同様、トールはここぞとばかりに少し贅沢なものを頼んでいる。
 ミヅチは注文もせずに下を向き、テーブルの上で拳を握っていた。

「おい。お前は?」

 ミヅチに声を掛けると俺と同じものでいいと言われた。
 俺は傍にいた別の奴隷と農作業についての話を始めていた。

『何よりもサブのPC立ち上げてたのも最大の要因です。身代わり用の1レベルのサブアカがダイヴァー・シティにログインしっ放しだったし、万が一の為に双方にターンオーバー・リングを嵌めてたのも最高でした。使う度に高確率で壊れちゃうから一度しか使った事なかったんですが』
『あれ、使ったことあるの? 超レアアイテムじゃない? 九九%壊れるから使った人は殆どいないって……』
『ええ、手に入れた時はそんなレアアイテムだなんて知らなかったんです。でも、あれバグがあるんすよ』
『バグ?』
『ええ、説明文やウィキだと対のリングを持っているキャラと使ったキャラの位置を瞬時に入れ替えるだけなんですけど、キャラに掛かってるバフなんかの位置は入れ替わらないんですよ。要するに俺のメイジに掛かってたヘイストは一レベル、裸のキャラと位置を交換するとそのキャラに掛かるんです。ほら、あのゲームって持ち物の重量で移動速度とかアクションスピードも変わるじゃないですか。だから……』
『位置を交換した裸の身代わりキャラが物凄く速く動ける……?』
『その通りです。まぁ、賭けだったんですけどね。すぐにサブPCに移ってニブルワンド拾って速攻トレードしました。ログにはそのキャラがニブルワンドを拾ったって残りますけどね。で、メイジのキャラで受け取ったら……』
『受け取ったら?』
『賭けに勝ったんすよ! ターンオーバー・リング、壊れてなかったんです!』
『……ってことは……?』
『そりゃ当然もう一回使いますわ。俺のメイジがあの場にいないと怪しまれるじゃないすか』
『……それって……』
『へへ。すぐにサブキャラは削除っすよ。戦闘のログに残ってるのは謎のキャラがニブルワンドを拾ったってことだけ。ありゃすげぇアイテムでしたわ』

 料理が運ばれてきた。
 この店、すごく旨いという訳じゃないけど量は少し多目なんだよな。
 奴隷たちにはいい店だと思う。

『……お』

 お?

『……おぉ……』
「どうした?」

 早く食えよ。冷めるぞ?

『おぉぉまえかぁぁぁぁ! 思い出したぁぁッ! あのボス、倒すのにどんなに苦労したと思ってんのっ!? 私なんか虎の子のエリクサー四つも使ったんだからっ!』

 ミヅチが大声でトールに詰め寄った。
 どうやらゲームで起きた何らかの件で腹を立てているらしい。

「うるせーよ。いいから食えよ」

 そんなゲーム如きのことでカッカしなさんな。
 今日は領主たちも沢山来るんだからさぁ。 

『えっ? エリクサー四つもって……ジュンヤさん? さっき騙りだって……ま、マジで!? すげぇ!』

 騒がしいねぇ。

 その後少しして丁度飯を食い終わる頃。
 騎士団の従士で行政府の守衛の当番の奴が一人、息せき切って店に駆け込んできた。

「か、閣下、ハッシュ村のキブナル士爵閣下がご到着なされました」

 ハッシュ村は領内で一番西にあり、べグリッツから見ると南西の方にある、ここから一番近い村だ。
 領内では唯一海に面しており、漁業も行われている。
 来年あたり、もしも数日程度の纏まった休みを取るとしたら釣りに行こうと思っていた。
 それまでにリールくらいはタングステンのベアリングやチタンを使って作るつもりだった。
 糸? ちょっと勿体無いけど絹糸で充分だろう。

 そのハッシュ村の領主が到着したという。

「ん。わかった。すぐに行く。おい、来たってよ」

 ミヅチは未だにトールに何か言っている。
 トールも何か言い返しているようだ。……ネナベ? なんのこっちゃ?

「ほれ、着替えなきゃならないんだから行くぞ」

 尖っているミヅチの耳を引っ張りながら言う。

「ああん、痛っ! もう、わかったわよ。行くから」

 ぷうっと頬を膨らまし、唇を尖らせながらもミヅチは席を立った。
 これから夕方にかけて、領主たちは続々と到着するだろう。

 さて、キブナル士爵さんはどんな人かねぇ?
 確か四十代半ばのおばちゃんと聞いている。

 例の反抗計画書にもご先祖様の名前があった。

 ……うーん。
 正式な対面までに会えるなら会っておいた方がいいと思っていたが……。

 俺もミヅチも例の計画書を手に入れているなどという件について顔に出すほど間抜けではないが、ひょっとしたら既に情報が漏れているかもしれない。
 勿論、まず漏れていないであろうとは思っているが万が一だ。

 これからすぐに挨拶をしたとして、向こうからその件に触れられてしまえばその場で決断を迫られかねない。

 当時の事情も碌に把握してないうえに、一度聞いてしまったら他の領主に対しても何もしない訳にはいかない。

 糞真面目な奴がいて、打ち首にして下さいとか……流石にそりゃねぇか。

 何にしても公平に、初対面は全員一緒に顔を合わせ方がいいかな?

 うん、やっぱやめた。

 時間まで待たせておこう。
 何しろ俺は領地に封ぜられたばかりなので忙しいのである。
 時間まで会わない理由としては丁度いいだろう。
 それによって俺を仕事の出来無い、ノロマな奴だと思うならそれはそれでいい。
 考えること、想像することの出来ない間抜けを判定するにもいいしね。



・・・・・・・・・



 夕刻。
 行政府の大会議室を臨時の謁見の間としている。

 本来の謁見の間(来客用の部屋)もあるにはあるが、面積の問題でこの部屋を使わざるをえないのだ。
 それでも学校の教室程度の面積しかないから領内一五箇所の街や村から領主たちが集まってくると少しばかり手狭に感じてしまうが、そうそうあることでもないし我慢するよりない。

 今、部屋の中には俺の警護隊長である騎士団の副団長、バリュート士爵を筆頭に護衛が四人。
 それに当然だがゼノムやトリスも含めて十五人の領主たち、あとは将来的に各領主の家督を次ぐと目されている一人だけだ。
 大抵の場合、長子である。
 子供がいない領主は配偶者をその座に付ける。
 子供を持っている領主の配偶者や従士長など、その他の人は明日以降に挨拶の時間を取っているのでここにはいない。

 部屋には全ての領主たちが揃っている。
 俺とミヅチは部屋の入口を護衛する騎士の脇で例のかぼちゃパンツに白タイツを穿いて係の者に呼び出されるのを待っている。

「この西ダートの地を治める第四代リーグル伯爵アレイン・グリード閣下、及び奥方であらせられるミヅェーリット様のおなぁ~りぃ~」

 仰々しい声が響いたと思ったら部屋の内側からそっと扉が開けられた。

 部屋に足を踏み入れると勢揃いしている領主たちは一斉に跪いて臣下の礼を取った。
 ちらりと見渡すと、当たり前だがそれなりの人数が居た。
 ええっと、後継者を含めて二五人の貴族か。
 ゼノムはラルファがいないから一人だし、他の皆も結婚していないので一人だ。
 トリスだけは結婚をしているが、ベルは今王都に第二陣を迎えに行っているからな。

 ふん。
 特に領主たちの並び順などは定めていなかったが、自然と俺の手下……もとい、新任の領主達は揃って部屋の後ろの方に追いやられているようだ。
 ゼノムだけは男爵だからか、最前列に居たが端っこの方だ。

 勿体付けるようにゆっくりと歩く。
 俺の後ろにはスカートの裾をつまみ上げたミヅチが続いている気配がする。

 俺の入ってきた扉は教室の教壇に向かうのに丁度良い感じのように部屋の奥の方の隅にある。
 教壇があるべき場所には他とは異なる絨毯が敷かれ、そこには国王が座る玉座程ではないが、そこそこ豪華な造りの椅子が一脚だけ用意されており、部屋には他に一切の家具はない。
 また、玉座のように床が一段高くなっているようなこともない。
 絨毯一枚分だけ高いとも言えるけど。

 ゆっくりと椅子に腰を掛け、肘掛けに両肘を乗せる。
 ミヅチは俺の斜め後ろに立っている。

「皆の者、面を上げろ」

 俺の前で跪いていた二五人は一斉に顔を上げた。
 知った顔も知らない顔も平等に見渡した。
 ゆっくりとウィンドウを読んでいる暇はないので【鑑定】はこの後の会食の時でいいだろう。

「遠路ご苦労だった。私がリーグル伯爵アレイン・グリードだ。そして、後ろに立っているのが妻のミヅェーリットだ。以降、皆の者には見知りおいて欲しい」

 俺が言い終わると同時にミヅチが軽く頭を下げたような気配がした。

「さて、幾つか話をしたい事もあるが、まずは皆の顔と名前を一致させたい。この中には私と長く付き合ってきた者も居るが、以前よりこの地で街や村を治めて来た、謂わば“先任”領主の者には今が初対面の者も多い筈だ。一人ずつ私の前に来てステータスを見せよ」

 俺がそう言うと、それ以上何か言う前に俺のすぐ前に跪いていたおっさんがすっと立ちあがって近づいてきた。
 自分がこの領内でナンバー2であると自負しているのか、ゼノムに対して目配せすらしていない。
 まぁ、でも常識で考えりゃそうだわな。

「お初にお目にかかり恐縮です。グリード閣下。私はゾンディールの街を治めております、ヘイルーン・コーヴと申します」

 俺の前に跪き、右手の甲を差し出して来た。
 ステータスを見ると当たり前だが、確かにヘイルーン・コーヴ男爵その人である。
 少し太り気味の普人族ヒュームの男性。四四歳。
 ハミットの王族の末裔の筈だ。

「うむ。コーヴ男爵。他の皆にもしっかりと顔を覚えて貰え」

 俺がそう言うと「ははっ」と返事をし、一歩下がるとゆっくりと振り返った。
 彼の後頭部を見ながら【鑑定】してしまった。
 素早くコーヴ男爵家のサブウインドウを開くと、やはり出自はハミットの王族と書いてある。

 コーヴ男爵が元いた位置に戻り、こちらに跪くと残りの男爵は一人なのでゼノムに目配せをした。

 俺の目配せを受けたゼノムが立ち上がろうと体に力を入れた時。

 コーヴ男爵の隣で跪いていた若い男がすっと立ち上がった。

 ゼノムには待つように頷いてやった。

「初めまして。お会いできて恐悦にございます。グリード閣下。私は先にご挨拶申し上げましたヘイルーン・コーヴの長子でエストン・コーヴと申します。過分ながら現在は父の補佐をするため士爵位を賜っております」

 俺とあんまり変わらない年齢のためか、若輩という単語を使わない程度には公式での発言を心得ていると見える。

 中肉中背の普人族の男性。二三歳。

 こうして先任の貴族から順々に挨拶を交わしていく。
 コーヴ男爵や息子のコーヴ士爵を始めとして、今のところ様子のおかしい者はいない。
 貴族たちの継嗣の中には俺の知った顔も混じっている。
 勿論、騎士団の騎士や従士、行政府の役人などで既に顔を合わせているからだ。

 そして何人目かの貴族が俺にステータスを見せるために立ち上がって近づいてきた。

「は、初めましてグリード閣下、奥様。お会い出来て光栄ですわ。わたくしはルシンダ・キブナルと申します。以降、息子共々どうぞ宜しくお願い申し上げます」

 彼女が立ち上がった場所の隣には息子らしい青年が居た。
 顔は知っている。
 騎士団の従士で来年辺り騎士になると評されている男だ。
 しかし、様子が変だ。

 部屋は大して暑くもないのに額には少し汗が浮いている。
 母親のキブナル士爵の方もなんだか動揺していると見える。
 必死に取り繕っているようだが、注意して見れば顔色は僅かに血の気が引いており、唇もほんの少し震えているのが判る。

「どうした士爵? あまり顔色が良くないようだな。体調でも優れぬのか?」

 本当に体調が悪い可能性もある。
 あまり興味がなさそうなふりをして彼女の手を見る。
 ……【状態:良好】

「い、いえそんな。あ、いや、はい。少し体調が……」

 体調不良の原因は精神的なものと見える。

「ふむ。それ程酷くは無いようだし、今暫く我慢して欲しい。後ほど治癒師まで送らせよう。いや、治癒魔術なら私も得意だから直接診てやろう」

 じっと彼女の目を見ながら言ってみた。

「は。あ、有り難いお申し出、ま、誠に恐縮でございます。ですが本日は……」
「良い。私はキュアーオールも即座に使える。時間は取らせぬよ。下がれ」

 彼女と入れ替わりに挨拶に来たのは息子のオズマンド・キブナル准爵だ。

「うむ。お前とは何度か顔を合わせているし、今更だな。皆に顔を見せてやれ」

 ステータスの確認をすっ飛ばしてやった。
 十六歳の男の子だけに、母親程上手に内心の動揺を隠せないようだ。
 それでも露骨に表情を動かすことなく、上辺だけはそれなりに挨拶を終えている。

 この二人、何か知っているな?
 計画書が出たことか、はたまた全く違うことか……。

 だが、あの落ち着かない様子からは恐れを感じる。

 騎士団の従士ということもあるし、あの時の見張りから情報が漏れたのだろうか?
 でも、あの二人は内容までは知らない筈だ。

 出土したのが反抗計画書であり、当時の参加予定者の署名や拇印が押されていると確実に知っているのは俺とミヅチの二人だけ。
 工務店の親方のアイアンボイルも役人のサミュートもチラ見をした程度で詳しくは見ていない。
 ディテクト・ライの魔術を使って確認していた。

 要するに、反抗計画書らしきものが出土したと知っているのは俺とミヅチ、アイアンボイル、サミュートの四人だけ。内容について詳しく知っているのは俺とミヅチだけ。
 それ以外の大工や騎士団の見張りは、何かかめに収められた古い書類の束が出てきたことは知っているが、内容までは知らないはずだ。

 アイアンボイルとサミュートの二人については毎日魔術で確認しているので内容についての情報が漏れたとは考えにくい。
 書類の現物は再び厳重に封をしてズールーが寝泊まりしている兵舎、奴の下着が詰まっている箪笥の引き出しの奥で保管しているのだ。

 と、言うことはこれは一体どういうことだろうか?

 全く別の要因があってそれに対して警戒しているのだろうか?

 
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