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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第四十一話 領主の日常 3

7449年4月12日

 行政府の執務室でミヅチと過去の出納帳をひっくり返して作業をしている時にしょーもない連絡が入ったので、「お前ちょっと見て来てやってくれ」と面倒臭そうな仕事をミヅチに押し付けようとした。

 ミヅチも「仕方ないなぁ」と言いながら呼びに来た木っ端役人と一緒に執務室から出て行こうと立ち上がったのだが、そこで木っ端役人は「恐れながら、閣下が直接ご覧になられた方が……」とか言うので一体何が出たのか聞いてみた。

「あの……ちょっとここでは申し上げ辛い物でして……」

 役人からはミヅチに対して遠慮するような感じを受ける。
 何だよ?
 っつーか、それならここまで持って来いや。

「閣下、お忙しいところ誠に申し訳ございません。どうか……」

 仕方ないので、事務仕事はミヅチに放り投げて俺が行くことにした。

 行政府からは二〇〇mくらいしか離れていないので、家の建築現場にはすぐに着く。
 建築現場では街区見回り当番の騎士団の従士が二人、家の敷地の隅の辺りに立ち、周囲に睨みを利かせている。
 基礎工事は中断しているらしく、職人や奴隷たちは家の敷地の外、庭の辺りに纏まって手持ち無沙汰そうにしていた。
 俺に気が付いたアイアンボイルが難しい顔をしつつも不安そうな面持ちで頭を下げて来た。

「大工から連絡を受けて、私が一度中を検めました。確認している時に見回りが通りすがりましたので、閣下をお呼びする間、誰も近寄らないように警護を頼んでいます」

 何よ何よ?
 お宝でも出たのか?
 そろそろ言えよ。

「いえ、申し訳ございませんが、閣下ご自身の目でお確かめ下さい」

 何勿体つけてんだよ……。
 役人の顔にはなんとも表現のし難い微妙な表情が浮かんでいる。
 お宝の類じゃないことくらいは想像がついていたが、一体何が出て来たんだよ?

 役人の後に付いて二人の従士が立っている辺りまで行くと、そこは基礎工事の為に掘り返している途中の穴が開いていた。
 確か、設計では屋根の上に貯水する辺りで、丈夫な柱を地中深くまで埋め込む為に、三mは掘り返せ、と言っていた筈だ。

 覗き込むとまだ半分の深さにも掘り返されていない。大目に見てもせいぜい一mくらいかね?
 その穴の底には何かが見える。

 あれは……かめか?

 地中に埋められた瓶の口が露出している。
 口の直径は一〇㎝程。
 金属製らしい蓋が被さっているようだ。
 いかにも古そうに見える。実際古いんだろうけど。
 今、瓶の蓋は閉まっているが、呼び出されたってことは最低でも一度は開封されたんだろうな。

「閣下、お手数をお掛けいたしますが、中身をお検め下さい。見た者は私と職人の親方だけです」

 危険なものが入っていた訳では無いらしい。

「よっ……と」

 穴の底に降りた。

 瓶は元々それ自体が木箱に入れられ、木箱ごと埋められていたようだが、相当時間が経っているために木箱はあちこちが崩れており、瓶を直接埋めていたようにも見える。
 これを持ち出すには完全に掘り出さねばなるまい。

 蓋を外す。
 蓋は銅かなにかの金属製で、先ほど外していたためか簡単に外れた。

 そして、瓶の中には古そうな羊皮紙が幾束も収められていた。



・・・・・・・・・



「それで、どうするの?」

 建築現場から持ち帰った羊皮紙の束を前にしてミヅチが言った。
 あれから一時間程が経っており、その間中、俺もミヅチも羊皮紙を読んでいた。
 厳重に封をされ、密閉された状態で長年地中に埋まっていたからか、羊皮紙はそれなりに傷んではいたものの書かれている文字を読むのに大きな支障はなかった。

 羊皮紙に書かれていた内容は、過去のリーグル伯爵領に起きた出来事を裏付けるもので、簡単に言うと併合に反発した旧ハミット王国の中心人物たちが作った反抗計画書である。

 王都での講義でリーグル伯爵領の歴史についても学んでいたので、この地にはその昔、ハミットという小さな王国があった事は知っていた。
 また、ダート平原に巣食っていた緑竜、ベルゴーフロクティが打倒されたのを機に、ロンベルト王国に併合された事についても勿論学んでいた。
 ついでに、当時の大きな出来事として、反抗計画書が漏れ、そこに記載されていた人たちが一族郎党、赤子に至るまで処刑されて反抗の芽は摘み取られたということも知識にある。

 反逆罪は最上級の大罪であり、直系血族は勿論、傍系も三親等まで処刑、五親等までは手足を一本切り落とされる事になっているのだ。
 因みに、ここで言う反逆の定義は“直接的な武力を用いて国王や王権に反抗し、世に乱を起こす。またはそれを企図する”ことを指す。
 どっかの大貴族がある日突然、独立を宣言してもそれは反逆には当たらない。
 所有する領土はその貴族自身の物であるからだ。
 その宣言が認められるか認められないかというのは全く別の話になるが。
 但し、どっかの大貴族が軍備を整えて王国全体の支配権を奪い取ろうとすることは反逆と見做される。

 こんな大変な代物が掘り返されてしまったのであればアイアンボイルも腰を抜かす程驚いたろう。
 すぐ傍の行政府に転がり込んでしまったのも頷ける。

 アイアンボイルはそれでも話す相手を選んだようで、常から付き合いのある区画整理などを担当する役人のうち、貴族とは縁が薄そうな、この街の自由民の役人を選択したのは大正解だ。
 その役人も証拠品となる計画書を一目見て大騒ぎするような事もせず、まず俺だけに見せようとしたから、それなりに頭が回るんだろう。
 あいつの名前は確か……そう、サミュートだ。覚えておいてやろう。
 まぁ、こうしてミヅチにはすぐに相談しちゃったんだけどね。

 とは言え、出土した証拠品によって語られた犯罪は今から一〇〇年少し前のことであり、当時から現在まで生き残っている人なんか一人も残ってなどいない。

 少なくとも三・四世代は過ぎ去っている筈だ。
 よしんば、一〇〇歳を超えて長生きしているのが居たとしても当時は赤ん坊とか子供とか、そういった年齢の筈である。

「どうしたらいいと思う?」

 何の気なしに質問に質問で答えてしまった。
 だがミヅチは特に気にした風もなく、端正な形をした顎に指先を当てて答えを口にする。

「私があなたの立場なら、処刑するかしらね……領地に封ぜられたばかりで国法よりも寛大な処置をするのは憚られるし……」

 その意見も尤もなものだが……。

「でも、今回に限ってはそう簡単には行かないでしょうね。何しろ、国法に則って裁くなら、前から居る領主達のうちで残るのはたった一人になっちゃうし、従士も七割方は家族ごと消えてしまうことになるわ」

 そう。
 それが問題なのだ。
 この犯行計画書に書いてあることが真実で(血判状のつもりなのか、計画書の中には契約書のように拇印が押してあり、未だにステータスも見える物が残されていたから真実なんだろうが)、国法に則って裁くのであれば俺の領地は大変なことになってしまう。

 何しろ北の方のヘンソン村を除けば領主が残るのは俺の身内が治める街と村だけで、それ以外の全ての領主と、そこに住む従士もかなりの数を処刑しなければいけないのだ。
 ついでに、騎士団の人員も領主の一族や従士の血縁者で七割以上を占めるし、行政府の役人たちだって三割くらいはそれらの血縁者が居るから直系の人もそれなりの人数になってしまうだろう。

 これが村の一つや二つ、騎士団や役人の一割程度であれば、物凄く苦労するだろうが、まだなんとかカバー出来なくもない。

 しかし、これだけの数の領主や軍人、役人を失ってしまうと領内はあっという間に無法地帯と化してしまうだろう。
 べグリッツやゾンディール、ウィードなんかにはスラム地区もあるが、伯爵領全体がスラム化してしまうのもそう遠い日ではないと思う。

「だよなぁ……。処刑なんか出来る訳ねぇ。まぁ、大昔の話だし、先祖の罪を今の奴らが被るってのも俺は好かん」
「じゃあ、放っておくの?」
「いや、流石に何もしないというのはな……」

 アイアンボイルとさっきの役人にはしっかり口止めしておいたけど、いずれは漏れると思っていた方がいい。
 勿論、今日明日という事もないだろうが、こういうのはいずれ必ず漏れる。

 ……と、なると……。

 確か来週末に領内の領主たちが全員このべグリッツに集まってくる。
 引き継ぎも終わり、領主の業務について慣れて来た頃を見計らって俺に挨拶をするためだ。

「どっちにしろ来週末には全員勢揃いするからな。その時に沙汰をするさ。だが、処刑までするつもりはないよ」
「じゃあどうするの? 罰金?」
「うん。罰金で済ますという手もあるな。だけど、それもどうかねぇ? ま、来週末までには考えておくさ。例の件に名前の上がっていないラノクス士爵にも納得して貰わないといけないしな」
「そう。あ、そろそろ騎士団に行く時間よ? ご飯食べに行こう?」
「おお、もうそんな時間か。今日は何食う?」
「シチューがいいかなぁ?」
「シチューか。いいな。そうしよう」



・・・・・・・・・



7449年4月13日

 王都、グリード商会。
 ラルファとキムは幾つかの用事があってやって来た。
 二人共馬に跨っているが、キムの方はまだ不慣れな様子が見て取れた。
 ラルファの方は何年も前から馬にはちょこちょこ乗っているのですっかり慣れた手綱捌きである。

「あ、ラルちゃんだ!」

 店の前の通りのベンチに腰を掛け、午前中に持ち込まれた修理依頼品であるゴムプロテクターの表面の汚れを拭き取っていたハンナが鎧をベンチに置いて立ち上がった。

「こら、ハンナ。ファイアフリードさんは貴族よ。そんな風に呼んじゃダメでしょ! すみません、ファイアフリードさん」

 ハンナの隣で同じようにゴムプロテクターを拭いていたアンナが妹に注意をする。

「いいのよ。そんなこと気にしないでも。もう来てる?」

 馬から降り、馬留杭に手綱を結びながらラルファは尋ねた。
 まだ約束の時間までは少しあるが、念の為に確認したらしい。

「いいえ、まだイミュレークさんはいらっしゃっておりません」

 イミュレークは王都の傍で食肉用の牧場を経営している平民である。
 今日は来月出発する移民について打ち合わせをする約束をしていたのだ。

「はい、これ。お土産よ。お姉ちゃんと分けて食べてね」

 キムはサドルバッグから飴玉の袋を取り出してハンナに渡している。

「うわぁ! ありがとうございます!」
「すみません。キムさん。どうもありがとうございます」
「いいのよ。ラルがこれがいいって言うからこれにしたんだけどね」
「あ、これ、グレンの飴ですね。私これ大好きです!」
「私も~」

 二人の姉妹の声を背にラルファは開けっ放しになっていた商会の入り口をくぐった。

「レイノルズさん。こんにちわ」

 商会に顔を出したラルファは店に居た番頭のレイノルズに声を掛けた。

「ああ、これはラルファさん。こんにちわ。どうぞ」

 レイノルズは妻のサーラ、古株の従業員でアンナとハンナの母親であるレイラと一緒にサージによる経理事務の講義中であった。

「ああ、もうそんな時間か」

 ラルファが顔を出したことでサージは今の時刻を思い出したようだ。

「じゃあ、続きは明日にしましょう。私は工場の方に行っていますんで。ラルさん、後よろしくです」

 サージは手早く講義に使っていた羊皮紙を丸めてレイラに手渡すと「じゃあ」と言って店を出て行った。

 講義が終わったことで空いた応接セットはこれから本来の目的に使用される。
 今日はこれから牧場主であるイミュレーク、その後は鎧職人のカーリムという男と話し合いが行われるのだ。
 内容は移民にあたって運ばねばならない荷物はどの程度の大きさになるのか、という事である。

 一応、アルが出発する前に詰めている内容ではあるが、その後変更が無いか確認しておく必要があった。
 その他にもう一点、彼女らにはアルから命じられていた確認もあった。

 牧場主のイミュレークは約束の時間よりも少し遅れて到着した。
 携帯可能な時計の魔道具はかなりの高級品であるために、オースではよくある話だ。

「以前グリード閣下とお打ち合わせさせて頂きました内容から少し変更があります」

 彼の荷物は非常に多く、アルが製造した六頭建ての馬車にして大体四台分程度と見積もられていた。
 内容は彼の家族が合計六人、牧童として所有している奴隷が十五人、その他家財一式もある。
 そして、一番重要な牛馬や豚だ。
 牛が種牛である牡牛が二頭に雌牛が四頭。これで馬車一台分となる。
 馬も同様に種馬である軍馬と見まごうばかりの大きな牡馬が三頭に牝馬が三頭。
 更に羊が牡牝合わせて四頭ずつ、山羊も牡牝四頭ずつだがこれで馬車は三台も埋まってしまう計算であった。

「豚も持って行きたいんですよね……ダメでしょうか?」

 彼が持って行きたいと言う豚は牝が一頭だけだったので、動物用の馬車として改造する荷台の仕切りを変更する代わりに一頭あたりの面積が多少狭くなる事を説明し、納得させた。

「馬や牛を歩かせても良いんですがねぇ……そうしたらもっと数を増やしても……」

 そう言うイミュレークだったが、二人はアルから「食肉用の牛馬を歩かせて運ぶことは考えるな。あいつがそう言ったとしても絶対に認めるな。肉質が変わっちまうからな」と言われていた為に、丁重に断るしかなかった。
 もしどうしてももっと多くの牛馬を運びたいのであれば、馬車隊とは別になること、移動速度も大幅に違ってしまうため、護衛についてもイミュレーク自身で雇う必要があると言って納得させた。

 イミュレークが帰った後、暫くして鎧職人のカーリムがやって来た。

「予定に変更はありません。人数は私を入れて大人が五人に子供が二人で七人です。また、荷物の方もあの馬車であれば一台で充分です」

 カーリムとの引っ越しの話はそう長引かなかった。

「さて……それで、例の件ですが……」

 カーリムはそう言って懐から小さな袋を取り出す。
 袋の口を開け、中身をテーブルの上に取り出した。
 それは合計で十枚ほどの、直径にして三㎝程の黒い鱗であった。

 鱗は一枚一枚に小さな札が貼り付けてあり、色艶も少しずつ異なっているように見える。

 カーリムはその中から色調や表面の色艶がかなり異なる二枚を摘みあげ、二人に見せた。

「これが以前のワイヴァーンの鱗で、こちらがそれと同じように処理を行ったものです」

 これこそがラルファとキムの二人がアルから命じられていた事である。

「ステータスオープン……ふぅん。結構曲がるんだね」
「私にも見せて。ステータスオープン……【原種ワイヴァーンの鱗】ね。確かに柔らかいわね」

 二人はまずワイヴァーンの鱗を見て、触って、しっかりと感触を確かめる。
 鱗は硬質な印象を受けるが、それなりに力を込めて捻るとそこそこの弾性を発揮している。

「そのワイヴァーンの鱗で一〇m程の距離から放たれた、普通の弩の矢(クォーレル)程度ならほぼ完全に弾きます。五mを切ると少し傷が付く物もありますが」

 その情報は二人も耳にしていた。
 初めて聞いた時は信じられない思いもした。
 だが、そのワイヴァーンの鱗が鎧や盾に仕立てられて王子の身を包むことになり、更には固有名までついてしまった上、一着で数十億Zもの価値があると評価されて結局は領地の対価となった事を伝えられた。
 それを聞いてようやっと「世の中にはそのような素材もあるのだ。だからこそ天文学的な価値を認められたのだ」と得心していた。

「こちらもどうぞ」

 カーリムから受け取ったもう一枚は、ぱっと見た感じだと今のワイヴァーンの鱗とあまり変わらないように見える。
 しかし、よく見れば明らかに色艶が異なっている他、決定的に違う部分もある。

 ワイヴァーンの鱗の方は、良く見れば表面に何かの紋様のような模様が浮き出ているが、今差し出された方にはそういった紋様は何も浮かんでいない。
 明かりに当てて見れば鱗自体が持つ、木の年輪のようなごく普通の模様があるんだな、という事が判る程度である。
 また、ワイヴァーンの鱗の色調は全体が黒っぽいが僅かに光を透過するような感じであるのに対し、今の物は鱗の内部に黒い紙が埋まり、その表面に透明なガラスなどの特別な素材でコーティングがしてあるような印象を受ける。
 また、殆ど同じ大きさ、同様の厚みであるにもかかわらず、重さはこちらの方がワイヴァーンの物よりも少し軽いようだ。

「ステータスオープン……ふぅん」
「ステータスオープン……まぁ、知っていたけどね」

 彼女らの目には【ロンガルザムリュゾルファレンの鱗】と映っていた。

「丈夫さはそちらの、ワイヴァーンの鱗と比較すると僅かに勝るようです」

 それを聞いて二人はニンマリとした笑みを交わす。
 確実に高い値が付くことが予想されたからだ。

 彼女らが暮らす土地の領主の大きな収入源になるのであれば、どういう形になるにせよいずれは彼女らにも適切な形で還元されるだろうと思ったからだ。

「そしてこちらがこの鱗に合わせて私が処理方法を少しずつ変えたものです。どうぞお確かめになって下さい」

 カーリムは札に書かれている印を見ながら一枚一枚、丁寧にテーブルの上に並べた。

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