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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第三十九話 領主の日常 1

7449年4月10日

 さて、昨日で前任者は全員いなくなってしまった。
 これからは本当に全責任が俺の肩に乗るのだ。

 ちょっとだけ緊張して少し早く目が覚めてしまったが、それはミヅチも同じだったようで、俺が目を覚ました時にはベッドには俺一人だった。

 そうそう、仮住まいとして今住んでいるコートジル城なんだけど、ウェブドス侯爵領のキールにあった城(名前は知らない)なんかよりもっと小さかった。
 キールの城の天守について丸亀城の天守よりしょっぱいと評した俺だが、コートジル城の天守は備中松山城が御殿の様に思える程だと言えば伝わるだろうか。
 まぁ、高さ四m程の石垣の上に建てられているし、後ろには峻厳なベロス山が聳えている、半山城と言った趣なので曲輪も一つだけで少し寂しいが、守りには向いていると思う。

 掃除も手入れもそれなりにされていて、きちんと維持されていたから当面の間ここで生活するのにあんまり問題はない。
 強いて言えば寝具が殆ど無かったんで、久々に藁ベッドで寝なきゃいけなかったのが不満だったくらいだ。

 なお、このコートジル城に来て最初に作ったのがバルドゥックの迷宮の中に作っていたシャワー設備と同じものだ。
 井戸は屋外にあるし、その傍らには小さいながらも一応城外への排水溝も掘ってあるから、シャワー設備を作るには井戸の傍が適所だったというだけでそれ以外の理由はない。

 曲輪の中に掘られている井戸まで行くとミヅチが水浴びをしていた。
 遮蔽となるような板塀なんかは用意出来ていない。
 ミヅチは傍の石にライトの魔術を掛けて明かりにしており、ミヅチの身体はその一面だけが照らされて……その、暗い中に薄い青紫色の肌が浮かび上がってるように見える。

 よーく見ないと井戸から上がってきたお化けに見えてしまうんだよ。
 少し申し訳ない気持ちになるが、どうしようもない。

 変なことを思ってしまった罪滅ぼしと言う訳じゃないけど、俺も水浴びが目的だったので一緒に浴びることにした。
 俺の場合は手から直接シャワーを出すんだけどね。
 温度の変更も自在なので冷水と熱いお湯を交互に浴びる事も可能なのだ。
 頭上の桶に開けた穴からチョロチョロと流れるお湯よりは大分マシだろう。

 因みに井戸には滑車を使った釣瓶が無いので紐をつけた桶を井戸に放り込むタイプだ。
 手押しポンプを作ってもいいかもしれない。
 簡単な図面さえ書けば鍛冶屋でも作れるだろうしね。
 ああ、ポンプの構造?
 単純なもんだし、ガキの頃掃除したことのある奴なら誰だって理解してると思う。

 バークッドでは家の傍に川が流れていたし、村には井戸も無かったのでポンプの需要なんか無かったから今まで作らなかったけど、これ、ちゃんとしたのが出来るのなら結構いい商売になるかも知れないな。

 起き抜けのシャワーを浴びてさっぱりした後、ミヅチと二人で城の周りをランニングする。
 すると、遠くの方にズールーが見えた。

 コートジル城の天守は小さいけど、曲輪の中には兵舎も建っているので俺の警護の意味も兼ねてズールーを始めとして何人か一緒に住んでいるんだ。
 トールを始めとする大半の奴隷は領主の館の傍に建っている奴隷長屋に入ってるけどね。

 尤も、食事や洗濯など俺達の身の回りの世話をさせていると言った方が現実に近い。
 警護と言っても侵入者対策はその昔、ミュンの監視のために四苦八苦して作った鳴子の魔術を使っておけば問題ないからね。
 当時と違って魔力切れで眠ってる訳じゃないから引っ掛かればすぐに起きれるし。

 ランニングが終わって体も温まり、今度こそちゃんとシャワーを浴びて汗を流す。

 そしてズールーの嫁さんのエルミーが作ってくれた朝食(すこし贅沢な具を入れた麦粥とかサンドイッチとかその程度だけど)を食べると俺はミヅチと一緒に行政府に出勤する。
 俺は決裁を中心に、ミヅチは実務を理解するために役人に混じって行政府で働く。
 午後はミヅチが残りの決裁を行い、俺は騎士団に行ってやっぱり決裁関係を行う。
 その間、ズールーは他の奴隷を伴ってコートジル城からべグリッツの街中まで伸びる道に転がっている石拾いだ。

 これがここ二週間のスケジュールだったんだけど、ズールーの頑張りのおかげで道の状況もかなり良くなった。
 お陰で今日からはやっと別の仕事を与えてやれる。

 え? 石拾いとか他の奴隷にやらせておけ?

 そうしたいのは山々だったんだけど、他の奴隷は他の奴隷で畑仕事やらなんやらがあって、そっちが優先だ。
 戦闘奴隷なんて戦争か迷宮くらいでしか役に立たないんだから……。

「ズールー。道の整備はもう充分だ。今日からは俺について回れ」

 飯が終わり、馬を引き出すとき、数人の奴隷を伴って石拾いに行こうとするズールーを呼び止めた。

「わかりました。ご主人様」

 ズールーはすぐに兵舎に向かった。
 武器を取りに行ったのだろう。



・・・・・・・・・



 午後、ミヅチと一緒に役人の中のお偉いさんと適当な飯屋で昼食を摂った後、俺は騎士団に向かった。

 団長執務室に入り、麦や肉など食料品の購入依頼書に目を通して決裁のサインをしていた。
 ところで、行政府もそうだけど、ここの騎士団も事務用紙はちゃんとした紙じゃないのな。

 安物の樹皮紙だ。
 なんとかという木の樹皮から作るらしいんだけど、表面がざらついていて書き味が悪い。
 因みに、世の中には羊皮紙なんかもあるし、結構使われているけれど羊皮紙の新品はそれなりに高価だ。
 でも羊皮紙の場合、普通の中古品は重量で取引されるから削られまくって薄くなった中古品はかなり安い。
 強度的に羊皮紙は結構丈夫なので行商人や軍隊、冒険者なんかが好んで使う。
 王都やバルドゥックではもう少しマシな紙が使われているんだけど、それでも藁半紙より品質は低いにも拘らず一般に流通している中では最上等で価格も最高だったりする。

 正直な話、紙職人を引っ張って来れなかったのは個人的に痛恨事だ。
 なんでも紙の製法は門外不出であり、同業者間でも厳しい監視の目が光っているそうで、転居なんかしようものなら暗殺者を差し向けられることまで覚悟が必要になると言われちゃ無理も言えなかった。

 まともな紙だけは輸入に頼らざるを得ないのが癪に思う。

 何枚目かの書類にサインをした時に羽根ペンの先が樹皮紙の表面に引っかかってインクが滲んでしまったのをどうやって誤魔化そうかと考えながら、いつの間にか後ろ向きな事に思いを馳せてしまった。

 仕方ない。
 訂正の拇印を押すか……。
 痛いからあんまりやりたくないけど他にどうしようもないしな。

 因みにズールーは執務室の扉の外で直立不動の姿勢を貫いて立っている筈だ。
 少しだけ羨ましい。

 正直言ってこんな決裁中心の事務処理なんかさっさと誰かに押し付けてしまいたいが、騎士団の金の流れや運営のされ方を理解するためには最低でも一年は続けなければなるまい。
 でも、会計だのなんだのの実務についてはさっさとクローとマリーに押し付けるつもりでいる。

 彼らはウェブドス騎士団でも専門の会計官すら舌を巻くほど計算が得意だと評されていたのでそもそもの書類の作りがしっかりとしている筈だ。
 と、言うか、俺に解りやすく作ってくれる筈だ。
 複式簿記なんかすぐに理解出来る頭も持っているのは確実だし。
 話を聞く分にはウェブドス騎士団時代に複式簿記の手法を一部取り入れて大層感心されたりもしていたようだからね。

 王都での講義でもそうだったけど、オースでは未だに単式簿記が当たり前なのだ。
 まぁ、現代日本でも官庁会計など一部では単式になるので、そう馬鹿にしたもんじゃないが、資産の動きや損益の状態など流動性を見るには複式簿記で記録されないと非常に解り難いのだ。
 会計手順は多少複雑になるが複式簿記計算書を単式に書き換えるのは容易いし、何よりぱっと見て俺が理解し易いから利点の方が多い。
 勿論手間は掛かるがそんなもの、いずれは全部下っ端にやらせるからいいのだ。

 要するに俺の仕事も楽になるってこと。
 その上、組織というものは金の流れを理解している奴の方が楽に力を掴むものだ。
 言い訳くさいけど。

 善は急げだな。
 早速やらせよう。

 クローとマリーを呼び出すと、部隊行動の訓練のため街外れに出向いてしまっていて居なかった。
 急ぎという訳でもないから明日でもいいか。

 あ、一応副団長のバリュート士爵には話を通しておくべきか。
 彼も部隊行動訓練に行っているのか聞いてみると騎士団の訓練場で従士連中に稽古を付けてやっていたらしい。
 あれで結構、下の者の面倒見は良いのは彼の美点だな。

 程なくしてバリュート士爵がやって来た。

「お呼びでしょうか」

 彼は初日以降、すっかり大人しくなった印象を受ける。

「ちょっと相談があってな。だがその前にそなたの所見を聞きたくて呼んだ。クローとマリーの二人についてだ」

 俺の机の前に立つ士爵の顔には稽古の汗が流れている。
 俺は二人が騎士としてどの程度の実力なのかを聞いてみた。
 俺の見立てでは充分な戦闘力を持っていると思うが、念のためだし、万が一満足な実力を持っていないのであればまずはそちらを鍛える方が優先されるからだ。

「……剣も槍も騎士として充分な技量を持っていると存じます。また、白兵戦は滅法得意のようですな。流石は団長が冒険者としてお鍛えになられたと……」

 ふぅん。一般的な騎士としては充分なのか。だが。

「おべっかはいい。公平に見て彼らの弱点はどこにある?」

 俺の答えに鼻白んだ士爵は言いにくそうな顔をしている。

「遠慮するな。そなたが思ったこと、感じたことをそのまま述べてほしい」

 すると、ぼそぼそと話しだした。

「その、騎乗戦闘が些か不得手だと存じます。率直に言って白兵戦の技量はなかなかのものですが、騎乗した途端に平均以下になってしまうように思えます。ですが、突きや払いの鋭さ、速さ、膂力については目を見張るものがございます」

 そうか。
 俺もそうじゃないかと思っていたよ。

 ……嘘だけど。
 つい忘れていた。
 あいつら、ウェブドス騎士団で正騎士の叙任を受けたのは確かだけど、その地位に居たのはクローで半年以下、マリーに至っては数日とか一週間とかそのくらいの筈だ。
 勿論、正騎士の叙任を受ける前、従士時代にも多少は訓練をしただろう。
 でも本格的な訓練の前に騎士団を辞めてしまっている。

 これについてはロリックからも聞いていた。
 彼も騎乗戦闘訓練なんか碌に経験する前に騎士団を辞めているからあんまり得意じゃないと言っていた。
 勿論、通り一遍の事は知っているし、ある程度は出来る。
 だが、地上で、自分の足で戦うほど上手には出来ないと言う。

 ここで思い至る。

 や・ば・い。

 俺もそうだ!
 王都の講義でもひと通りのことはやったし、実技試験で合格点も貰えはしたけどね……。

 俺の常識では部隊指揮官(自衛隊で言う中隊長以上)が最前線に立って敵と直接刃を交えるなんて言語道断だ。
 もしもそうなったらその戦場はボロ負け寸前だとも言える。

 しかし。
 しかしである。

 オースは未だ近代兵器を並べて戦う時代ではない。
 王都の講義でも聞いていた。

「閣下は騎士団長をご兼任なさるのでしょう? 兵士達を率いる際に最も心を砕かねばならないのは味方の士気を保つことです」

 味方の士気を鼓舞する効果的な方法も幾つか聞いている。

 突撃の際に先頭に立って鬨の声を上げること。
 自ら敵兵を直接倒すこと。
 味方の兵士の危機を救うこと。
 相手の指揮官や高名な騎士などと一騎打ちの機会があるならそれを行って倒すこと。

 この四つが最高に効果があると言われている。付随して捕虜を得られれば花マルだ。
 だが、流石にこれらについては、かなりの危険と隣り合わせなので通常の場合あまりオススメはされないとも言われていた。
 ドラゴンスレイヤーという豪傑である俺の場合は是非やれとも言われたけど。
 なお、戦場で騎乗したまま魔術を行使出来る者はいないのでその辺りは全く考慮されていない。

 次点は常識的なものだ。

 最前線より少しだけ引いた、周囲の様子を確認出来る場所で的確に陣形の指示を行う。
 敵部隊の急所を見出し、弓兵や槍兵などを利用して相手部隊を突き崩す芽を作り出す。
 前進や後退、転進のタイミングを過たない。

 普通はこれだけで士気は上がる。最悪でも保たれる。
 敵との交戦距離が短く、相手の顔が見える戦場は、同時に兵士も自軍の指揮官の顔が見える。
 勢いに乗り、自信たっぷりに指揮を執る指揮官ほど頼れるものはないのである。
 こいつの指示に従っておけば勝てると思わせることがまず大切なのだ。

 当面の間、余程の事態にでも陥らない限りは鉄砲など火薬を使った武器を使用するつもりがないので、いざ戦争となったら俺も馬に乗って戦う必要がある。
 勿論、部隊の指揮は誰かに任せ、俺は味方に影響を及ぼさないように単独で魔術を使いながら相手を殲滅してもいいのだが、それでは騎士団の面々は俺から信頼されていないと思ってしまいかねない。

「どうされました?」

 暫し黙り込んでしまった俺を見てバリュート士爵が声を掛けてきた。

「ん? あ、いや。そう言えば俺、じゃない。私も騎乗戦闘は苦手だったと思い出してな。明日から私もそなたに鍛えて貰うとしよう」

 引き継ぎが終わったと思ったらとたんに忙しくなってしまった。
 仕方ないけど。

 整理して考えてみると、行政府の事務処理の方はもう少し慣れて様子を掴めたら多少は短く出来るだろう。
 今は内容について、いちいち精読しているから時間が掛かっている部分も大きいからね。
 理解出来た範囲についての決裁権限はどんどん渡してやればいい。

 騎士団の方も同様だ。
 クローやマリーも俺やミヅチと同様に騎乗戦闘について訓練をする必要はあるだろうが、事務仕事も手伝って貰わなきゃならない。
 彼らにも時間を捻出する苦労を分かち合ってもらうべきだろう。

 俺の耕作地だってかなり広大だからその把握もしなきゃいけないし、無線機や銃も作らなきゃいけない。
 秘密の射撃練習場も必要だろう。

 それに、領内における物流面の整備も急務だ。

 ついでに、あと一〇日もすれば兄貴がウェブドス侯爵領出身の平民たちを連れて到着する。
 彼らに対する耕作地の割り当ても考えなくてはいけない。

 ああ、そうだ、あれも……。これも……。

 大変だけど、そもそもこれは俺が望んだものだ。
 やり甲斐はあるさ。
 おかげでこのところは何食っても毎日飯がうまい。

 確かに短期間でやらなきゃいけないことはそれなりに多いけれど、全く無理・無茶・無謀と言う訳でもない。
 少しづつ余裕を作って一つ一つ解決していけばいいだけさ。

 必ず出来る。

 あ……屋敷の案も固まったから、今日は四時から工務店に行って金払わなきゃいけないんだった。

 
本文中に出てきた丸亀城は香川県にある有名な城です。
現存十二天守の一つで建造時そのままで遺されている、数少ない遺城としても名高いです。
天守自体はアルが言う通りかなり小さく、裏に回って傍で見ると本当にこれが城なのか? 大きな蔵じゃないのか?
という感じですが、丸亀城の真価は天守だけでなく、渦巻きのような本丸や二の丸の造りにあります。
60mもの高さ(日本一の高さだそうでう)に積み上げられた立派な石垣に守られた姿は正に堅固な要塞であり、遠目に見ても立派なお城に見えます。

また、備中松山城(岡山県)の方の天守は現存している天守閣では一番小さなもの(高さ11m)ですが、臥牛山(標高430m)の山頂付近に建つため、日本で一番高所に建っています。
こちらも高い石垣を備え(丸亀城ほどではありませんが)、難攻不落の要害に見えます。
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