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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第一部 幼少期~少年時代

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第四十一話 走れない奴は……

7438年4月29日

 結局どれだけ言葉を尽くしてもシェーミ婆さんを説得することは叶わなかった。おそらく再度俺が説得に現れることを予期していたのだろう、別段驚きもせず落ち着いて応対され、そして無碍にあしらわれた。

 呪文についてはシェーミ以外からも学べないか調べたほうがいいだろう。今はシャルもいないので、魔法関係だとあまり頼れる人がいない。ミュンが何か知っているかも知れないと思い、念のためミュンに聞いて見たがやはり知らないそうだ。そればかりかシャルのように呪文は芸の1つですらあるかのように言われる始末だった。

 実際そうなんだよな。必要な集中力を低減するだけだからあんまり役には立たないことは確かだと思う。当面はいいかなぁ。腹部の治癒って言っても、そもそも腹部に傷を受けないように立ち回るのが先なんじゃないか? 攻撃をかわす身のこなしや、剣や槍での防御を練習するほうがずっと有効ではないだろうか? もしくはやられる前にやるべく、攻撃のための魔法の練習とか。

 魔法と一口に言っても当初想像していたような便利なものじゃないんだよなぁ。正直な話、俺が魔法について最初に持っていたイメージはシンデレラに出てくるかぼちゃの馬車を作り出した老婆風の魔法使いが使っていたような「イメージすれば何でも出来る」ということだった。当然箒に跨って空も飛べるし、美味しい食べ物を出したりなど、多少の固定観念はあるものの、今のような、○○系統の元素魔法とか、○レベルの○魔法と○魔法を組み合わせてどうのこうのなどと言った制限が多くて面倒くさいものではなかった。魔法の杖をさっと振って一発。望みが何でも叶う。そういったイメージを持っていた。

 だってそうだろう? 普通の日本人が持っている魔法使いのイメージは童話に出てくる黒い鍔広の帽子をかぶり、黒いローブを着た老婆か三角帽子をかぶった真っ白く長い髭の爺さんで、普段は怪しげな中身を煮込んでいる大きな鍋を掻き回していると相場が決まってる。特に俺の年代(既に俺の精神年齢は55歳だ)だとほとんどの人がこういったイメージなのではないだろうか。あとはせいぜい秘密の○ッコちゃんとか魔法使いサ○ーだろ。そりゃ俺だって大昔にコンピューターのロールプレイングゲームくらいはやったことがあるけれど、俺がやったのはごく初期のものばかりで主人公は最後まで一人で行動して魔法も使うけど、剣も使い、重厚な鎧兜に身を固め……といったものだけだ。

 そこに出てくる魔法だってコンピューターのメモリやらの制限で攻撃か傷の回復くらいしかなく、強さの異なるものが合計で十種類あったかなといった程度だった。子供心でも「ああ、いくらコンピューターでも魔法は完全に再現できるわけないよな」と思っていたくらいだ。本来であれば魔法などその存在すら信じられないし、本気で魔法について喋っているところを見掛けでもしたらその脳味噌の正気度を疑うレベルだ。だが、このオースには魔法は確固として存在している。

 存在が確認され、それに有効性が認められるなら覚えない手はない、とばかりに今まで一生懸命魔法の修行に時間を掛けて来ていたが、同時に万能ではないこともよく理解出来た。万能どころか使いすぎると精神が参って昏倒したり、魔法の使用中は精神集中のために殆ど他の行動が取れないなどリスクすら覚悟せねばならない。便利であることは動かしがたい事実なので今後も魔法の修行は継続して行うことは心に決めているものの、そろそろ魔法ばかりではなく体を作り上げることにも注力したほうが良いだろう。マラソンでもやるか? 村を縦断するだけで1kmくらいはあるので、走る場所には事欠かないし、畑の方まで行くならマラソンと言うかジョギングコースは選び放題だ。持久力もつくし、自衛隊でも嫌と言うほど毎日走らされた。

 10歳になって体もそれなりになったことだし、今日から走り込みをしよう。慣れたらプロテクター一式を装着して銃剣の槍も装備して適当な背嚢でも背負えばいいだろう。転生前の肉体だといくらなんでも無理だろうが今なら出来るはずだ。と言うか出来るようにならねばなるまい。防衛大学校でも教練の教官や助教に「走れない兵隊は使えない」と言われて毎日毎日走っていた。各種教育期間が終了し、駐屯地に配属されてからも若い隊員と一緒に毎日毎日走っていた。レンジャー徽章を持った隊員などはマラソン選手以上の持久力があるという。スピードを競うわけではないが一定以上の速度で重い装備を抱えながら何時間も走れると言うのはそれだけで充分優秀な兵隊だと言われたものだ。

 そうだ、走りながら魔法を使う練習でもすれば多少はマシになるんじゃないか? 時間制限があるわけでなし、練習はいくらでも出来る。思い立ったが吉日だ、早速やってみるか。

 俺は朝のシェーミ婆さんの説得に失敗し昼飯を食った後、いつも通り剣の稽古をし、ゴム製造に精を出す連中を横目に早速走ることにした。剣の稽古などである程度の持久力はあるし、能力値の底上げもあるから思ったよりは楽に走れた。だが、1時間もするとかなり辛くなってきた。ここからが本番だ。まだ何も装備していない、軽装での走り込みだからここから30分は休みなしで走り抜こう。そう決めてひたすら走る。

 村の連中の挨拶に答えを返すことすら辛い。そろそろ試してみようか。最初だから簡単なやつな。鑑定……問題ない。これは思ったとおりだ。最近思うのだが固有技能はMPを使いはするが魔法ではない気がする。まあいいや。次だ。『ライト』の魔法でいいか。無魔法しか使わないし、持続させるのでなければMPも1しか使わない。持続させないで『ライト』の魔法を使うと5分くらいしか光らないが、練習には充分だろう。『ライト』……。あれ? 駄目か。これはいい練習になりそうだ。

 結局今日は走りながら『ライト』の魔法を使うことは出来なかった。だが、出来なかったことに満足していた。疲れた体に鞭打ちながら走り込みを終えた。風呂が欲しいが無い物は仕方ない。温水シャワーでも浴びるか。あり余るMPがないとこんなことに魔法を使う奴もいないので我が家だけの特権に近いがそこは仕方ないだろ。家の裏手で汗を流すことにした。何しろ『温水シャワー』の魔法は水魔法も合わせて使う分『フレイムスロウワー』以上のMP、つまり最低で9MPも使うのだ。それに量だってある程度必要だから水魔法が3レベル以上になっていないと殆ど意味ないし、3レベルだってバケツくらいの量だからまともにシャワーを浴びようとするなら水魔法4レベルは欲しい。つまり普通はそうそう気軽に使える魔法ではないのだ。我が家では俺とミルーがいるのでかなり気軽に使えるけどね。



・・・・・・・・・



7438年5月30日

 あれから一月が過ぎた。毎日午前の魔法修行が終わった後に走り続けてはいるが、未だに『ライト』すら使えない。そうそう簡単に行くまいと思っているのでまったく焦っていない。そもそも走り込み自体は持久力アップのためにやっているのだし、魔法は余禄だから、あまり気にしていない。なだらかな起伏が多少あるが、基本的に平地が広がっているバークッド村の畑の畦道は走りやすく、トレーニングには丁度いい。まだ開墾されていないあたりは道もないから村の中央を南北に縦断する道を中心に走っている。

 初夏が近く、青々とし始めた畑の中を走っていると疲労は感じるものの開放感に包まれる気がして気分がいい。最近は昼下がりに毎日走っているので村人たちも俺が近づくと手を挙げてにこやかに反応してくれる。

 それより、走り込みを始めてから体力を使うのか、夜の狩りに行くほど体力は残っていないのが問題といえば問題だが、当分はいいか。いつも昼飯の前にシャワーを浴びている俺に気がついたのか、ミルーが一緒に走ると言い出した。一人で黙々と走るのも味気ないので嬉しかった。しかし、3日と経たずに「面倒くさい」と言って走るのをやめてしまった。畜生。




・・・・・・・・・



7438年6月30日

 まだ『ライト』は使えない。そんなことよりそろそろ暑くなってきたから温水シャワーでなくてもいいかもな。ミルーから「なぜそんなに熱心に走るのか」と聞かれたので、格好をつけて「走りながら魔法を使えるようになりたいから」と答えたら馬鹿にされた。まじ畜生。

 たまたまだが、俺がゴムの樹液ラテックス採集に同行した折、あのホーンドベアーと出会った。襲い掛かってくるかと身構えたが脅しの咆哮もあげずにさっと体を翻すと一目散に退却して行った。俺はほっと胸を撫で下ろしたが、同行者たちは「アル様に恐れをなしたのだ」とか勝手なことを言っている。あんまり調子に乗せないでくれ。



・・・・・・・・・



7438年7月30日

 やはり『ライト』は使えない。別の魔法でも試してみたが、駄目だった。シャワーは普通の水に切り替えた。ゴム製品の納品は、戦争で両親が出兵しているため休みだ。騎士団については一緒に出兵しているから大丈夫だろうが、キンドー士爵には説明しておくと言っていたが問題になっていないだろうか。これは何とかしたいな。従士だけでも納品できるように教育しないといけないだろう。必要なことだと思うので両親が帰って来たら早速ご注進だ。ミルーに「走りながら魔法を使えるということは、剣を振りながら魔法を使えるようになるのと同義で、冒険者には必要なのではないか」と言ったところ、鼻息を荒くして一緒に走ると宣言された。ミルーは14歳。ガキを騙すのはチョロいな。しかし、ミルーを説得するための、この論法を思いつくのに1ヶ月もかかるとか、俺も馬鹿だな。



・・・・・・・・・



7438年8月30日

 そもそも走りながら魔法を使うのは無理な気がしてきた。走り込みを始めてから4ヶ月、体力もついてきたのか時間も当初の1時間半から30分ほど伸び、2時間くらい走っていられるようになったかと思って時計の魔道具を使って計ってみたが20分くらいしか伸びていなかった。今あと10分追加で走るのは難しいだろうな。夜の狩りに行ってみると狩り自体は思ったより大丈夫だったが翌朝起きるのが辛すぎる。意外なことにミルーとはまだ一緒に走っている。



・・・・・・・・・



7438年9月30日

 なんと、一瞬だけ魔法が成功したような感じがした。光はしなかったが、魔力が流れるような感じがした。これはいけるかも知れん。しかし、いい加減両親たちが帰ってきてもいい頃じゃないか? 出立してからそろそろ5ヶ月だ。前回は確か4ヶ月くらいで戻ってきたと思う。まぁ長いときは半年以上かかることもあるらしいから仕方ないのかな? ミルーに一瞬だけだけど魔力が流れた感じがしたと言ったらものすごくはしゃぎだした。いや、魔力が流れたのはミルーじゃなくて俺なんだが。

 ある晩の狩りで俺はレベルが上がった。これであいつともまともに戦えるといいんだが、こういう場合、大抵あいつもレベルアップしている気がする。もう贅沢は言ってられない。蛭だろうとホブゴブリンだろうと選り好みしていられないだろう。



・・・・・・・・・



7438年10月4日

 ついにバークッド村派遣部隊が出発時の10名に加えて1人余計に帰って来た。成長し、騎士となったファーンも一緒だからだろう。2年以上ファーンを見ていなかったが、その成長具合に驚いた。この年齢だと相当成長しているだろうとは思っていたが、多少のあどけなさは残っているものの、騎士団仕込みの精悍な体とぴしっとメリハリの利いた所作、大人びて落ち着きのある表情をしていた。俺とミルーは成長したファーンに飛びついたり抱き上げられたりされたのでその成長具合も余計に感じられた。だが、喜ばしいことだけではなかった。

 同行した従士が一人戦死していた。ジャッドだ。息子のウイットニーが既に正式な従士になっているので家督の問題はないが、知っている顔が戦死したと聞かされるのはショックだ。以前にホーンドベアーに襲撃を受けて六人も同時に死んだときと同じようなショックを受けた。死因は戦闘中に流れ矢を受けたのだが、その矢に毒が塗ってあったらしい。打ち込まれてからさほど経たないうちに死んでしまったそうだ。シャルは地魔法が使えないので解毒が出来なかったと悔やんでいた。

 あれ? そうすると人数が合わないぞ。一人多いじゃないか。俺はゆっくりと全員の顔を確認する。と、知らない女性が一人いた。皆と同じようにゴムプロテクターをしていたから分かりにくかったんだ。誰だろう? ミルーも気がついたようで親父に聞いている。

「父様、あのお方はどなたですか?」

「ん? ああ、客人だ。あとで紹介する」

 という会話が聞こえてくる。知らない女性は髪を綺麗に黄緑色に染めあげ、ちょっと見ると振り返るくらいの美しさだ。シャルも若い頃はあんな感じだったのだろうか。

 ファーンが彼女の傍まで行き、プロテクターを外すのを手伝いながら親しそうに話している。おいおい、俺の兄貴となに親しそうにしてんだよ、ファーンに向けて恥ずかしそうな顔つきをするな、この売女が。ちょっと綺麗だからってお前みたいなどこの馬の骨とも知れないような奴がグリード家の跡取りと直接話をするだなんて、十年早いわ。歯軋りしそうになるのを我慢して外したシャルのプロテクターを物置から引き出してきた鎧掛けに掛けていく。

 そこにファーンがこれも一緒に掛けろ、と彼女のプロテクターも持ってきた。受け取ったプロテクターは予備用にと作った奴だ。プロテクターをしていたから騎士団の従士か何かだろうとは思っていたが、これは新型の奴でまだ村でしか使っていないタイプ、そう、今回の出兵時に予備で持っていったもののはずだ。

 この中では古いタイプのプロテクターを装備しているのはファーンだけで、それも年季が入っている。成長期の体にあわせて何回かゴムベルトを変えているのでそこだけが新しいが、肩当をはじめ、胸や腹部を守るプレート部分は昔のままで傷はついているし、いくつか修復した跡も残っている。既にファーンの体には小さいようでこれを使い続けたのは大変だったろうし、苦労もあったろう。ファーンもゴム製造は一通り出来るから、騎士団への納品の度に少量のラテックスと木炭や硫黄を瓶に入れて持っていって貰っていたのでゴムベルトは自分で作って且つ修繕もしていたのだろう。

 しかし、なんだか釈然としない。村のプロテクターを着けていたのだから騎士団の関係者ではないようだし、親父は客人と言うし、一体何者だよ。鑑定してやろうか。

【シャンレイド・ウェブドス/1/4/7438 】
【女性/13/5/7422・普人族・ウェブドス家長女・ウェブドス侯爵騎士】
【状態:良好】
【年齢:16歳】
【レベル:5】
【HP:62(62) MP:15(15) 】
【筋力:8】
【俊敏:12】
【器用:10】
【耐久:9】
【特殊技能:地魔法(Lv.1)】
【特殊技能:水魔法(Lv.1)】
【特殊技能:火魔法(Lv.1)】
【特殊技能:風魔法(Lv.1)】
【特殊技能:無魔法(Lv.2)】
【経験:27655(28000)】

 へ? あ、あれ? どこぞの馬の骨は兄貴のほうだった。

 
ファーンは栄養状態もよく、騎士団で鍛えられているので能力値がちょっと高いです。

【ファンスターン・グリード/1/4/7438 】
【男性/21/1/7422・普人族・グリード士爵家長男・ウェブドス侯爵騎士】
【状態:良好】
【年齢:16歳】
【レベル:7】
【HP:78(78) MP:338(338) 】
【筋力:13】
【俊敏:12】
【器用:10】
【耐久:12】
【特殊技能:地魔法(Lv.5)】
【特殊技能:水魔法(Lv.6)】
【特殊技能:無魔法(Lv.6)】
【経験:51624(60000)】
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