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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第三十六話 ベグリッツ

7449年3月26日

 昨日滞在したハロス村を治めるゲーヌン士爵と、今日到着したミード村を治めるジンケーゼ士爵の両名はこの地を治めることになる俺に対して相応の礼を払ってくれていたようなのでそこそこ満足だった。

 尤も、二人共俺という男の性格や嗜好などについて碌に情報すら持っていた筈もないのだから、当り障りのないように接するのは当然と言えば当然なので満足したというのはちょっと言いすぎかもな。
 だけど、何らかの隔意やこちらを冒険者出身と侮るような態度はおくびにも出していなかったのは確かで、その点については感じたまま判断してもいいと思う。
 むしろ隔意云々よりもドラゴンを倒した勇者という扱いで大歓迎に近いものだった。

 俺は素直に歓迎を受け取っていたのだが、国王から押し付けられた女の一人が「お屋形様、こちらの様子を窺うような者も居りますね」とこっそり伝えてくれたばかりか、「なんだか嫌な視線を感じます」とか言っていた。
 俺たちに纏わり付くような視線自体は俺も感じていたので一応は隙を見せることの無いように注意を払って過ごしていた。尤も、そんな視線を送ってきているのは平民のうちでもあまり身なりの良くない、税を納めるのにも四苦八苦していそうな連中だけだ。

 この娘さんは神経が過敏になり過ぎているんだと思うんだよね。
 その証拠に俺も含めて他の奴は誰一人として村の連中の中から送られて来る視線なんか気にしていない。クローやマリー、トールといった社会の底辺を知っている転生者たちも視線を感じていることは確かなようだが普通に受け流しているし、ズールーを始めとする俺の戦闘奴隷たちも悪意のある視線ではないと判断しているようだ。

 彼女は王都でそれなりの規模の商売を営む商家の娘である。
 家格は准男爵で、その末娘なので現在は准爵だが、べグリッツに着いてすぐに俺の従士として新たな平民家を興す予定だ。
 これまでの道中では農業について、奴隷を始めとする農業経験者に熱心に質問を浴びせていたのが印象的な、快活そうな娘だった。

 恐らく、今までの育ちとまだ成人したばかりという年齢から推測して羨望や嫉妬、用心といった視線に晒されたりそういう視線を送る人との付き合いには慣れていないのだろう。

 新しい領主が来たのであればどんな奴か、金は持っていそうなのか、無茶な税を設定して禿げ上がるまで厳しく取り立てそうなのか、そういう風に考えて見極めようとする奴も居るだろう。
 俺が見た限りだと、どう見てもそんな感じにしか思えなかった。

 冷静にこちらの弱みを探ろうだとか、どこかに綻びを見つけようだとかする目つきではなく、怯えや畏れを多分に含んだ目つきをして俺を含む皆の言動を観察していた者が数名見受けられた程度だ。

 オースのような世界では当たり前のことだ。
 だが、嫌な目つきであることは確かだし、そんな目で見られている俺だって気分は良くない。

 人がそんな目つきをする原因は単純で、生活に余裕が無いからに過ぎない。
 生活に余裕が無い人ってのは、どうしても他人の懐具合や自分がどういう扱いを受けそうなのか心配で仕方がなくなるものなのだ。

 育ちの良さと人の良さ、それにまだ簡単な家業の手伝い以外に碌に働いたことがないと言っていたので、そういった視線に対して過敏に反応してしまったのか。

 ま、色んな人がいるよね。
 正直言って、こんなんで農業とかやっていけるのか個人的には心配だけど、そこは良さそうな奴隷を見繕ってやることでなんとかカバーしてやるべきだろう。
 幸い彼女はまだ奴隷を購入していない。
 現地に着いた後で、現地の土地や農業を良く知っている奴隷を買うのが良いと親に言われていたそうだからね。

 願わくば、俺が治めることで生活に余裕の無い人を少しでも減らしてやりたい。
 少なくとも現時点の俺の領地には日々の生活にアップアップするような人もいる事が判ったのだから、当面の目標は見えた。

 それはそれとして、昨日から降り始めた雨には気が滅入る。夕方前には止んでくれたけどさ。
 大雨という程でもないのが幸いで道はあまり泥濘まなかったのが救いだが、気温は真冬かと思うほど下がってしまったのが辛かった。
 俺は【多用途の指輪ユーティリティ・リング】を嵌めていたので苦じゃなかったけど。



・・・・・・・・・



7449年3月27日

 雨の止んだ昨日の夕方、クローとマリーを先触れとして送っていた。
 ミード村からべグリッツまでは一〇㎞かそこらしか離れていないので、大して急がなくてもクローとマリーなら一時間程度、夕暮れ前には到着できる。

 前日中に先触れを送っていたために、今朝ミード村を出発する頃には騎士団の騎士たちが迎えに来てくれていた。
 レベルは……殆どが一桁で二桁になっているのは年長の数名程度のようだ。
 まぁ普通だね。
 可もなく不可もなし。

 進み出てきた団長のゴッシ男爵がお決まりの文句を口にするが、なにか心配事でもあるかのようにどうにも歯切れが悪い。
 変に思ったのも束の間、男爵は言いにくそうに、且つ申し訳無さそうにしながらも詫びの言葉を口にした。

 領主の邸宅が火事を起こしてしまったとの事だった!
 ちょっと前まで雨が降っていたこともあって屋根や外壁は濡れていたためか、ギリギリ全焼は免れたが、折からの強風に煽られたことと木造が主体の建物であったためかなり大きく焼損してしまったとのことだった。
 全焼は免れたと言ってもとても人が住める状態ではなくなってしまったらしい。

 聞いた瞬間、空いた口がふさがらなかったがすぐに気を取り直して「怪我人や亡くなった者は?」と尋ねたが、不幸中の幸いかそういった人は一人も居らず、敷地がそれなりの面積だったために延焼もしなかった事が判りホッとした。
 まぁ、昨日は夕方近くまで雨が降っていたことも延焼が防げたことに寄与したんだろう。

 少し詳しく事情を聞いてみると、なんでも昨夜は気温が下がっていたので、領主の邸宅では残っていた奴隷が暖を取ろうとして主人がいないのをいいことに暖炉に火をくべたらしい。
 どうやら火魔法が使えたようだ。

 あ、主人がいないというのは引っ越しのために既に家財道具を始めとした荷物は全て馬車に積み、住み込みの奴隷には徹底的な清掃を言い付けてラフリーグ伯爵とその家族は邸宅の新しい主人となる俺の邪魔にならないように街中の宿に居を移していたからだ。

 で、何があったのか知らんが、失火を起こしてしまった。
 因みに失火の原因は掃除をさせていた奴隷のうち、子供の奴隷が大人の奴隷の目を盗んで火の点いた薪で遊んでしまったことだそうだ。
 暖炉のある部屋には絨毯が敷いてあり、まずそこに火が点いて広がり、あっという間に壁を這い上がったらしい。

 ラフリーグ伯爵はクローとマリーが反対したにも拘らず、あまりの出来事に怒り狂ってその奴隷たち全員を朝日が昇ってすぐに打ち首にしてしまった。
 まぁ、火付けは失火だとしても殺人よりも重い、最上級の重犯罪だから仕方がないのかも知れない。
 でも、火遊びをした子供はともかく、クローとマリーが反対した通り大人は可哀想な気もする……監督責任だろうなぁ。

 とにかくそれを聞いて一時俺の奴隷たちを中心に騒然としたが、領主の業務に必要な物は全てが元々行政府にあるそうだし、邸宅に住み込みの奴隷以外は傍に専用の長屋があり、そっちは無事なので当面は問題がなさそうなので強制的に黙らせた。

 とは言え、俺とミヅチは顔を見合わせて苦笑いと溜め息しか出ない。
 今日、どこに泊まるんかねぇ?

 そんなこんなで多少気落ちしながらもべグリッツの周囲に広がる農地の外れに到着した。
 当然、ラフリーグ伯爵を始めとして役人たちも勢揃いで出迎えてくれた。
 クローとマリーも憮然とした表情を浮かべながら伯爵の脇に並んでいた。

 当たり前のことだが謝罪の言葉から始まったので「経緯は聞いているので街に腰を落ち着けたあとに詳しい事情を聞く」と言ってまずは初対面の挨拶からだ。
 俺が怒り狂っていると予想していたらしい伯爵は物凄く腰が低く、気の毒になる程だったが彼の予想に反してあまり怒っていない俺を見て安心してくれた。

 いや、怒ったって燃えてしまった物はどうしようもないからねぇ。
 それに、着任前の出来事だし、正式に俺の財産になった後でもない。
 この領地の全てが正式に俺の物になるのは行政府でこの地を俺に与えるという国王発行の文書を読み上げ、領主としてこの地を治めると宣言した後の事だからだ。
 それまでは代官であるラフリーグ伯爵が領内の全権を握っている。

 それよりも多少無駄金になるが一から好きなように家を建てられるならそれはそれでいいか、と思っているだけなんだ。どうせいつまでも住むつもりもなかったし、そもそも無駄金と言ったって金貨二〇枚も出せば田舎なのででっかい屋敷を建てられるし。

 やっぱさ、間取りとか台所とかミヅチの好きなようにしてやった方がいいと思うんだよね。
 それに、面倒な改造をすることなく最初から水洗トイレも作れるだろうし、風呂だって作れるだろ。悪いことばかりじゃないさ。

 定形のやり取りを終えてベグリッツの行政府に到着したのは丁度お昼時であった。
 因みに燃えてしまった居館と行政府までの距離は二〇〇m弱と言ったところで、徒歩でも三・四分、馬車ならゆっくり行っても二・三分という丁度良い立地だった。

 行政府は街の中心から少し外れた場所にあり、目の前にそれなりの大きさの広場がある点はキールやバルドゥックなんかと共通している。
 べグリッツは街自体の人口が九〇〇〇人程度と上記の二つ程大きくはないので建物の大きさもそこまで大きくはない。
 執務室や役人たちの働く事務室、応接間、書庫など付帯設備を全部入れても田舎の小学校よりも小さい感じがする。
 二階建ての横長の建物だからそう感じるのかも知れない。

 ふむ。近いうちにこんな建物じゃ手狭になるようにしてやるからな。

 少し広めの応接間に通されると会食の用意が整っており、ラフリーグ伯爵夫妻と俺とミヅチで昼食を摂ることになった。
 他の奴らは取り敢えず少し離れた騎士団の本部で食事が出されるらしく、一時的に別れることになった。
 食材はそこそこ上等なものを集めて作らせたようで、相当に気を遣われていたことが窺える。

「まずは改めてお詫びを申し上げます。折角のご着任早々、領主居館を失ってしまい、誠に申し訳ございませんでした」

 初老のラフリーグ伯爵夫妻は揃って頭を下げるが、既に聞いている事だし今更どうしようもない事なので、まずは今晩の宿と当面の住居をどうしたら良いか聞いてみた。

 実は、当てがあるんだよね。

 そう。

 キールにもあったけど、普通の貴族領には有事の際の砦とか城が必ずある。
 ましてここは対デーバス王国の最前線。
 無い訳がない。

 王城での講義でも教えられているしね。

 その名も初代の代官で建城者から名を取ったコートジル城だ。

 街の南の外れ、ベロス山を背負った麓にあると聞いている。
 当初はこのべグリッツの街もコートジル城の傍からスタートした歴史がある。
 月日が経つうちに水の便が良く、耕作地に行くのにも楽な北の方、北の方へと街は発展して行き、今に至っているのだ。

 今日はともかくとして街中の邸宅が完成するまでの数ヶ月はコートジル城に住むのも悪く無いだろう。

「コートジル城ですか。定期的に清掃や整備を行っているので住み心地はともかくとして、生活は可能だと思いますが……」

 どうやら城から街中までそれなりの距離が有ることと、道中の道の状態があまり良くないことから行政府や騎士団本部に行くのに手間や時間が掛かりそうな事を心配されているようだ。

「当面は私が騎士団長も兼任する予定ですし、馬車を使うことも多くはないでしょう。それに戦場では路面を選ぶことなど出来るはずも無いでしょうから馬に親しむ良い機会だと思うことにしますよ。家内も騎士団には行かせますからね」

 と、ニッコリと笑って言った。

「いや、そう仰って頂けて本当に救われます」

 ラフリーグ伯爵は弱々しい笑みを浮かべて頭を下げる。

 後は今晩の宿は手配済みであることや、今後二週間に渡る業務引き継ぎのスケジュール、行政府で働く役人のうち殆どは現地採用の人ばかりなので大半が残るようなことを聞いているうちに和やかに会食は終了した。

 食事とお茶を済ませ、行政府の役人たちを全員、行政府前の広場に集合させる。

 いよいよ宣言だ。

「……係る王命によってこの地はたった今から私、リーグル伯爵アレイン・グリードが領有し、治めることとなった。この地に生える草木、動物の全て、生を営む全ての民は我が物であることをここに宣言する!」

 この瞬間、俺は正式にリーグル伯爵領の領主として全権を手に入れた。

 領主としてまずやることはね、公共事業。

 ウィードからこっち、二日も時間を掛けてのんびりと移動して来たのは村々を観察する意味や、出迎えの用意を整えさせるための時間稼ぎもあったけど、真の理由は道をゆっくりと観察することだったのだ。

 幸い、べグリッツの南のベロス山やウィードの街の北にあるウィード山、領地の北西部にあるゾンディールの街を囲むようにして聳えているバシュケル山からは王国南部の他の領地程ではないが、それなりの量で良質な鉄が採れる。

 これを使うんだ。

 
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