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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第三十四話 領地へ

7449年3月4日

「じゃあな。先に行く」

 見送りに来てくれた居残り組の皆を前にして一言だけ挨拶を送った。
 話しておかなければいけないことは既に散々話しているから今はこれでいい。

「アルさん。今年中には必ず呼んで貰えるようにしますから。ね!」

 バストラルは少しだけ焦っているような表情をしている。

「忘れないで下さいよ!? ね!? ウヤムヤは無しの方向で!」 

 ちゃんと呼ぶし、忘れたりしねぇから安心しろよ。

「グリード様。皆の事はお任せ下さい」

 旦那と違ってキャシーの方はにっこりと微笑んで見送ってくれた。
 いい嫁さんだな。

「「ご主人様、お気をつけて!」」

 工場なんかを警備する為に雇った戦闘奴隷たちは手を後ろに組んで腰を折りながら声を揃えて別れの挨拶を言っている。
 やくざの若い衆(彼らはあんまり若くないが)が親分を見送る時のようなポーズだった。
 どうやらバストラルが仕込んでいたらしい。
 ……実は結構余裕あんのか?

 警備の方? 心配はいらない。流石に真っ昼間なら工場の方については半数だけ残すガキの奴隷たちが居れば問題はないだろうと言う事で、バストラル夫妻は彼らも連れて来ているんだ。

「お前らもしっかりやれ」

 小さな溜め息を漏らしつつ答えた。

「お父さん、肉ばっかり食べてちゃダメだよ? ちゃんと毎日野菜食べてね」
「ああ、分かってる」
「本当? ならいいけど……あと、着替えはこっちのサドルバッグに入ってるから」
「昨日も聞いとる」
「うん……五月には私も行くから。洗濯とか出来る?」
「出来るさ。お前が小さい頃はおしめも俺が洗ってたんだ。それに身の回りのことは奴隷がいるからな。問題ない」
「ちょっとラル。そのくらいにしときなさいよ」
「グィネの言う通りだ。お前、養女だからってゼノムさん舐めてんのか? それに、俺が居るからな。奴隷たちにお屋形様の大切なお着物を洗濯させるなんて……お屋形様には何一つ不自由をさせやしないさ」
「うわ。ケビン、あんたキモ……」
「なんで気持ち悪いか!? そうや、ケビンはんの言う通りやないか! お屋形様! 今からでも遅ぅありまへん。どうかワイも一緒に……」
「あ、また抜け駆けだよ、こいつ!」
「相変わらずの糞リーダーっぷりね」
「手前ぇだけお屋形様に忠義見せてんじゃねぇよ、クズ!」
「俺達はお嬢と一緒に五月出発って決まってるだろ?」
「いい加減にしなさい!」

 暫しの別れを惜しむファイアフリード親子たちの周囲は賑やかだったが、従士長且つ貴族であるジンジャーの一喝で静かになった。

 その隣ではカロスタラン士爵家が別れの挨拶を交わしている。

「ジェル、ミース。五月……いや、来るのは夏近くになるのか? とにかく奴隷たちを宜しくな」
「ああ、こっちは任せといて下さい。次に会うときには驚くほどきっちりと鍛えときますから」
「頼りにしてるわ」
「奥様、こいつのことはちゃんとフォローしますのでどうかご安心下さい」
「うふふ。貴方達の家は一軒でいいのよね?」
「え? ま、まぁ……二軒は、その……無駄になっちゃいますから……あ、いや、ガルへ村は農地で戦闘があったばかりですし、そんなに余裕がある訳がないです! 先任の従士達に無理を強いるのも申し訳ないですから! しょうがないからですよ!?」
「はいはい。そういうことにしとくわ」
「ええ……ソウイウコトニシテオイテクダサイ……」

 トリスの奴隷頭のビルサインも呆れて見ているだけだ。
 三十路近いんだからもうさっさと結婚してガキ作れよ、こいつら……。
 その為に二人はトリスんとこに纏めたんだからさ。

「じゃあ、サンノ、ルッツ。あとは頼む」
「ああ、任しとけ! いや下さい!」
「結局お前の言葉遣いは碌に直らねぇな。お屋形様、こっちは心配いりません。しっかりやっときますから」
「ルッツ、お前……」
「俺達しかいないところでなら言葉遣いなんて無理しなくてもいいさ」
「いいえ、ダメです。ファルエルガーズ家が舐められます。次に会う時までには私が責任を持ってしっかりと直させます」
「そ、そうか?」
「分かった分かった。最近小うるさいなぁ、ルッツは。それより、デンダー、カリム。お屋形様を頼むな」
「勿論です」
「もう少ししたら久々に土いじりが出来ます。ご主人様に私が作った物を食べて頂けるんですからね。頑張りますよ!」

 ロリックんとこも相変わらずだ。

「ロッコ。あんた、お屋形様を宜しくね」
「おう、任せとけ! カームにゃあ矢の一本すら撃たせるつもりはねぇよ」
「まぁ確かに腕っ節だけは強いから。ロッコが居れば本当に私の出番はないかもね」
「ふ。そう褒めるな」
「はぁ、あんたさぁ……まだカームって。お屋形様のお名前を直接お呼びするのは失礼だって言ったでしょ! 本当に大丈夫?」
「大丈夫に決まってるさ、従士長殿!」
「……心配だわ。ねぇカーム、今からでも……」
「あ、キム、お前だって今カームって言った!」
「そんなのいいから。キム。ロッコには道中に私がちゃんと計算出来るようにしとくけど、言葉遣いは無理だわ」

 カームのとこはロッコに手を焼いているみたいだけどいつものことだし、ロッコはなぁ……あんまりカタに嵌めるのもどうかと思う。
 難しい事は考えずに先陣切って突っ込んでいくのが彼の持ち味だからね。
 ラルファに似ているっちゃ似ているけどラルファはそんなんで終わらせるつもりはないけどね。
 カームはそこんところ、よく解っているみたいだから任せておいて問題はない。

「ヒス。あいつらの事は頼むな」
「ええ、私もあと二人奴隷を買おうと思ってますから。問題ありません」
「そうか。じゃあ向こうで待ってる」
「はい。あ、あと、精人族エルフでよさ気な人が居たら……」
「ああ、解ってる。俺も嫁さん探さないといけないし……」
「そうですね」
「うん。家を持つってやっぱ大変だよな……」
「ええ……」

 なんでこいつらはしんみりしてんだろ?

 まぁいいや。
 くるりと振り向くと愛馬ウラヌスの方へと向かった。
 そっちの方には姉ちゃんを始めとして商会の連中なんかが固まっている。

「しっかりやんなさいよ」

 姉ちゃんはそう言うと俺の背中を叩いた。

「ああ。姉ちゃんも元気な赤ん坊を産んでくれ。お義兄さん、姉を宜しくお願いします」

 義兄となったマーティンさんに軽く頭を下げ、ミルーの体を気遣って欲しいと頼んだ。

「は、伯爵閣下、頭をお上げください!」

 義兄とはいえ平民の彼に頭を下げたことでお義兄さんは慌てた様子で恐縮している。
 彼の言葉通り身分は大事だ。
 しかし、俺はリーグル伯爵家の家督者となり、姉ちゃんも独立したグリード家の家督者となっているが、それ以前に兄貴の方のグリード家としての序列から言えば俺の方が下だ。

 いや、理屈はどうでもいい。

 姉ちゃんにはリラックスして初産を迎えて欲しいし、何より姉ちゃんが選んだ人なんだから俺が頭を下げるのが当然だろう。

「お、お義姉さま……その……アルの事はお任せ下さい!」

 ミヅチも姉ちゃんに頭を下げていた。

「うん。ミヅっち……ちょっとこっちに」

 姉ちゃんはミヅチを引き摺って脇に退くと何やら耳打ちしている。
 どうせ禄でもねぇ事だろう。
 面を見ればわかる。
 大方早くガキ作れ、回数が大事だ、とか発破をかけてるんだ、あれ。
 ンなこた解ってんだよ。

「アル様、お元気で……」

 今年からグリード商会の番頭となっているレイノルズが家族たちを代表して進み出ると、俺の手を取ってくしゃっと顔を歪ませた。

「レイノルズ。商会の方、よろしく頼むな。当面はバストラルを頼ってもいいが、お前には皆を纏めて貰わなきゃいけないし……おい、そんな顔するなよ。どうせ年末には顔を出すんだから」

 そう。
 当たり前だが、グリード商会の商会長は伯爵となって領地を賜った今でも俺のままだ。
 要するに、相変わらず商会の方の納税だの何だのについて行政府とやり取りをするのは依然として俺の仕事である。

 これは昔の地球でもそうだったらしいし、支店が出来にくい理由の上から二・三番目くらいだろう。
 勿論、最大の理由は距離が離れていると素早い通信が行えず別拠点の内実を把握するのが難しい、と言うか実質的に無理だからなんだけど……。

 ま、そよ風の蹄鉄ブリーズ・ホースシューとグィネが作成する地図さえあれば王都で一週間を過ごすと考えても、往復で二週間もあれば充分に行き来は可能だ。
 何しろ一日で一〇〇㎞も……人目を気にしないで済む夜にでもスピードを出して駆け抜ければ一日で二〇〇㎞も移動出来るだろうし、本気で急げば馬を乗り潰すこともなく半日で五〇〇㎞近くもの移動だって夢じゃないんだしね。騎手は瀕死だろうけどさ。

「アル様……いよいよですね。ご立派になられて……」

 レイノルズの弟のエンベルトも兄貴に負けす劣らず顔をクシャクシャにしている。
 俺としては兄のレイノルズよりもこのエンベルトの方が付き合いは深い。
 何しろ彼がいなければ殆どのゴム製品は量産体制が確立されることはなかったのだから。

 俺もエンベルトの前に行くとその手をしっかりと握りしめる。

「お前には感謝してる。ありがとう。これからも大変だろうが商会の事務もしっかりと覚えてレイノルズを助けてやってくれ。それと、ゴム製品の修繕やなんやだけじゃなくて、工場や店にも気を配って貰わなきゃいけないな……。苦労をかけてすまん」

「アル様……」

 言葉を詰まらすエンベルトの手を離し、ウラヌスの鐙に足を掛けた。

「じゃあ。皆、見送りありがとう。レイラたちにも宜しく言っといてくれ」

 六頭立ての馬車が八台。
 そのうち三台には荷物が満載で、残り五台の荷台には八人掛けのベンチシートが向かい合わせ二列の合計四列も並んでいる。
 そこに座るうちの約半数が俺の所有するガキの奴隷なのであんまり狭くはない。

 なお、四列並ぶベンチシートのうち、中央で背中合わせになっている二列だけは荷物入れの上に乗っているので少し高くなっている。
 また、荷馬車のうちの一台は周囲の監視用として御者台の後ろに小さな櫓のようなものが立っていて、そこがグィネの定位置となっている。

 馬車のほか、一六頭もいる軍馬には俺、ミヅチ、ゼノム、ケビン、ジンジャー、トリス、ベル、ロリック、カーム、ロッコ、ビンスのほか、ズールー以下の戦闘奴隷たちのうち、ビルサインやヘンリー、メックといった騎乗経験のある者が跨っている。
 徒歩はいない。

「よし、出発!」

 俺の号令の下、結構大きな荷馬車隊はバルドゥックの街を後にした。



・・・・・・・・・



7449年3月8日

 ドラン方面へと伸びるザリドール街道の途中から南へと向かうコリドーク街道も今のところ整備状況がよく、全く問題なく進むことが出来ている。
 ゴムタイヤにボールベアリング、簡易的でもサスペンションを使った馬車の評判はすこぶる良く、ベンとエリーや工場で働いていたガキどもは嬉しそうにはしゃいでいた。まぁ、馬車自体滅多に乗ったことがなかったのだから当然といえば当然なんだけど。

 でも、乗り物酔いをした奴も出た。
 揺れない訳じゃないし、休憩だって異常に少ないからこれも当然だ。
 だが、子供の適応能力は高い。
 今日で馬車移動は四日目だが、今日は誰も乗り物酔いを訴えてきていない。

 そろそろ人に出会うことも減ってきた。
 出会うのは荷物を担いだ徒歩の行商人とせいぜい二頭か一頭の荷馬か荷牛に牽かれた荷車を操る行商人くらいになっており、それも一時間からせいぜい三〇分おきくらいに出会うかどうかといった所だ。

 それでも念を入れて一五時を過ぎるまで遅いペースを維持し続けていた。
 この時間になればこの先の村からこちらへと移動してくる者がいることは考えにくい。

「よし、五分経った。後ろからは何もないな?」

 時計の魔道具で時間を確認して言う。
 異常なし、との返事に時計の魔道具を腹に結わえ付けてある物入れにしまった。
 うーん、腕時計サイズの魔道具、一個くらいは確保しておくんだった。

「行くぞ、全体全速!」

 二〇分前にズールーを先行させ、その五分後にビルサインを先行させた。
 以降五分おきにヘンリーとメックを先行させている。
 これは街道の状態がそこそこ良い内に満載状態の荷馬車の最高移動速度を計測する最後のチャンスだ。

 グィネの記憶している地図によると、ついさっき通り過ぎたケグニッツァ村から、この先のマーリム村の農地の端まではほぼ一三㎞であり、今俺達は丁度三㎞を過ぎた地点に居る。
 荷馬車隊の後方にはミヅチとジンジャー、トリス、ベルがほぼ等間隔に居て後方から目撃されないように監視を行っている筈だ。

 号令の直後、ウラヌスに鞭を入れて全速で走らせる。
 今日も朝からずっと移動してきているが、ウラヌスには疲れの色は見えない。

 力強く大地を蹴り、ウラヌスは街道を駆ける。

 俺の後ろにはゼノムやロリックの軍馬が追走し、その後ろにはギベルティや戦闘奴隷たちが操る馬車が砂塵を上げ始めている筈だ。
 馬車は停止状態からの急加速は出来ないからね。

 周囲の風景は流れるように後ろへと過ぎ去り、時速にして四〇㎞程も出ているような体感速度だ。

 街道の先、馬をゆっくりと歩かせていたメックの背中がすぐに見えた。
 メックは俺たちが迫ってくるのを確認すると馬に鞭を入れた。

 彼の後ろ姿を追うようにスピードは緩めない。
 メックは速度を調整して俺の横につくとそのまま並走する。

 じきにヘンリーとビルサインとも合流し、ズールーの背中も見えてきた。

 後ろを振り返っても軍馬の連中はともかく、馬車は見えない。
 こちらに気が付いたズールーは「農奴以外に目撃者なし」の合図である左腕を立てている。

 スピードを緩めてズールーの傍で停止した。
 経過時間は……約一四分。
 最初の加速時間もあるから、優に時速四〇㎞以上は出ていた計算だ。
 それから八分程経過して、やっと子供の奴隷だけを満載した馬車が到着した。
 こちらも時速二七㎞程は出ていたと考えていいだろう。

 軍馬も馬車も馬は全く息を乱していない。

 続いて大人と子供の奴隷を混載した馬車が到着し、僅かに遅れて大人の奴隷を満載した馬車が到着した。
 その後、程々に荷物を積んだ馬車が到着し、最後に荷物をギリギリまで満載した馬車が到着したのはスタートから三二分が経過した頃だ。

 この移動速度については非常に満足が行く。
 馬車は最初、ゆっくりと動き始め、段々と加速していく。
 止まる時も単騎の馬のようにすぐには止まれないのでゆっくりと速度を落とさなくてはいけない。
 今回みたいに、荷物を満載した馬車の場合、最高速から停止するまでには五〇〇m程の減速距離を必要とするのだ。

 つまり、スタートとゴールの近辺では最高速は出せないにもかかわらず、平均時速で一八㎞を超えているということは、最高速での巡航速度は二〇㎞を超えられるということに他ならない。

 人員であれば首都のべグリッツから俺の領地のどこにだって三時間以内に到着させることが出来るだろう。

 ま、それにはそこそこ道が整備されている必要があるけどね。
 それは追々だ。
 領地に着いたらダート平原内を含む各村との連絡時間や移動時間についてもう少し詳細に調べられるだろう。

 
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