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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第三十三話 出発前夜

7449年2月27日

 三連休の最後の日。
 明日からの六日間の迷宮行を最後に約半数のメンバーがバルドゥックを離れる。
 残りの半数は第二陣という形で五月頃にバルドゥックを出ることになるだろう。

 昨晩は高級レストランのドルレオンで最後の宴会をやったので、今日は戦闘奴隷も含めて全員でムローワに集合だ。
 俺を含む先発組にとっては最後の迷宮行になるので、射撃訓練がメインの目的とは言え気合が入っているようだ。

 そんな中、ただ一人浮かない顔をしている奴がいる。

 ズールーだ。

 あの野郎、結局ムローワの姉ちゃんについて一言も口にしていない。

 今までは口にしていない以上、俺から言うのもおかしいと思って放っておいたのだが、流石にもう限界だ。商売女が相手ならどうでもいいが、俺の奴隷頭が一般の女性に対して無責任な真似をするのは許せない。

 だけど、実は今日の俺はけっこう機嫌が良いんだ。
 なんせ、キールのジャバ……もとい、ハリタイドから色よい内容の手紙が届いたのだ。
 奴なら少し仕込んでやれば金勘定は任せられるだろう。
 頭から信用出来る訳ではないけどさ。

 いい事があったので忘れないうちにと今日の昼間、ムローワのおっさんに俺がその女を買いたいと言ったら、待ってましたとばかりに二〇〇万Zとの値段を言って来た。女の年齢はズールーよりひとつ下の二六才。
 本来他の種族より高価な獅人族ライオスなので、まぁ相場と言える。

 尤も、ムローワは俺の商会からそこそこ優先的にバルドゥッキーを卸しているし、街に居る時は結構贔屓にしてやっている。店の親父にとっては大切な仕入先兼顧客でもある。俺に対してあまりアコギな真似をするつもりはないのだろう。

 話を持ちかけた時点ではどうなるか分からない部分もあるので承諾はしなかったけど。

「おい、ズールー」

 皆の前であることに加えて、他の戦闘奴隷の前でもあるが、それは全部こいつの責任だ。

「は、ご主人様。何でしょうか?」

 ズールーは忠義面を下げて俺の傍まで来ると跪いて返事をする。
 何でしょうか、じゃねぇんだよ。

「お前、明日からの迷宮行が終わったらさ、その翌日、来月の四日にはべグリッツに行く訳だが……何か言う事はないのか?」

 そう尋ねるとズールーは僅かに焦ったような表情を浮かべたものの黙ったままだった。
 暫くお見合いのようにお互いの顔を眺めていたが、五秒もすると飽きてしまった。

「黙るな。言いたいことがあれば言え」

 店は騒がしいままだが、俺の傍に座っていたミヅチとトリス、ベルが気が付いたようで会話を止めたようだ。
 彼ら三人もズールーを見ている。
 きっと俺が言いたいことが解ってるんだろう。

「何もないなら身辺整理は付いたと見做して俺は全部忘れるぞ? いいのか?」

 冷たく言い放つ。
 勿論忘れるなんて事はないけど。

「ズールー、いい加減に年貢の納め時だぞ?」

 トリスが横から口を出すが、ベルに頭を叩かれながら「トリスは黙ってなさいよ」と注意されていた。
 うん。こういうのは自分の口からちゃんと言わないと駄目だ。
 早く言えよ。
 因みに、相手の女の気持ちなんか詳しいところまでは知らん。
 本来奴隷なんか、所有者がこの相手と結婚しろと言ったら断れないしな。

「そ、そのぅ……」

 ズールーはもじもじしながらも話し出そうとした。

「ん? 何だ?」

 天使のような微笑を浮かべながら返事をした。

「お、お願いがございます」

 うむ!

「そうか。他でもないお前の願い、俺に可能な事であれば聞き届けてやろう」

 俺のテーブルを中心に沈黙の輪が広がっていく。

「そ……その。じ、実は……」

 周囲の皆はひそひそと何やら小声で喋っている。
 雰囲気から何かを察したようだ。
 ニヤついている奴が多い。

「えーっと、た、盾がですね、ガタついておりまして……」

 俺の肩がガクッと落ちた。
 皆からもため息が漏れたようだ。
 店に居るはずのズールーの女が今どんな顔をしているのかとても見ることが出来ない。

「……修理は間に合いそうにないから、明日から盾無しな。……陣形フォーメーションは考えておいてやる」

 怒りを噛み殺してどうにか返事をする。
 何だその情けない誤魔化しは!
 そもそも、お願いでも何でもねぇじゃねぇか!

「んんっ」

 ミヅチが咳払いをした。
 わざとらしいが、俺が怒っていることをズールーに伝えたのだろう。
 ズールーは一度だけギュッと目をつぶり、再び目を開けると

「あ、あの……その……もう一つ。……奴隷の分際でこんな事をお願いするのも……願い出て良いのか……」

 額に汗を浮かべながら、ズールーはしどろもどろに話し出した。
 格好良くズバッと言われるのはもう諦めるしかないが、今回も腰が引けて誤魔化すようなら、そんな情けない奴を奴隷頭にはしておけん。
 ヘンリーかメックにすげ替えて平の奴隷に降格だ。

「……ダズ。頑張って」

 店の奥から誰かが注文した料理の皿を運ぼうと手に持ったまま、ズールーの女――確か、エルミーと言った……うん、エルミーナだ――が立ち尽くしたまま呟いた。
 彼女の気持ちについては確認するまでもないと思っていたが、やはり必要なかったな。

 ほれ、ダズ!
 女が見てるぞ。
 これ以上格好悪くなるな!

「……えっと……ご主人様!」

 うわ、いきなりでかい声出すなよ。
 少し身を乗り出していたから仰け反っちゃったじゃないか。

「お、女を、エルミーを買って下さい! そして、結婚させて下さい!」

 ズールーは真っ赤に上気しながら叫ぶように言った。

「おおー!」
「よく言った!」
「かっこいいよ!」
「え? かっこいい……?」

 など周囲から歓声があがる。

「……最初からそう言えよ。まぁいい。分かった。おい親父!」

 その願い、聞き届けようじゃないか。
 俺はムローワの親父を呼んでエルミーナを買うと言い、その場で金を支払った。
 どうせ販売証明に必要な紙なんか置いてないだろうからと、それも予め用意してある。
 当然だが親父とは交渉済みだったのですんなりとOKが貰えた。

「おいズールー。俺たちは明日から迷宮に行かなきゃならんから、今からすぐ神社に行くぞ」

 何故だか知らんが、神社では結婚の儀式だけは二四時間受け付けて貰える。
 但し、神官の自宅を知っていればだけどね。
 寝てるところを叩き起こして神社まで引き摺って行っても危害を加えたことには当たらないのか、雷に撃たれる事もない。

 なお、奴隷が結婚する際には、必ず持ち主の同席が必要になる。
 ロンベルトの国王や大貴族など、多くの奴隷を所有している人なんかは何ヶ月に一回とか日を決め、纏めて何組も神社で結婚の儀式をして貰うのだそうだ。
 尤も、基本的に奴隷は個人の持ち物と言うよりは“家”の財産なので家督者の配偶者か直系血族であれば付き添い自体は誰でもいいらしいのだが、特別な理由がない限りは家督者が付き添うのが常識だ。

 ムローワの店には追加の酒や料理を頼み、恐縮しながらも嬉しそうなズールーとエルミーナを伴って三人で結婚の儀式をして貰った。
 なお、貴族の皆からは祝い金として一〇万Zが贈られている。
 平民や奴隷なんかは迷宮から帰ったら贈るとの事だった。

 流石に滅多に無いことなので嫌がられるかと思ったが、嫌な顔一つせずにニコニコと結婚の儀式を執り行ってくれた神官は良い人なんだろう。
 ああ、そういう人じゃないとそもそも神官になることは出来ないんだっけ。
 とにかく、エルミーナの命名に加えて結婚の儀式をして貰った。
 喜捨と言うか、費用の合計三五万Zは勿論持ち主である俺が支払う。

「ズールー、エルミー。結婚おめでとう。子供は沢山産んでくれ。それからこれは俺の気持ちだ」

 二〇万Zを祝い金として贈り、明日からの一週間については王都でもどこでも好きな所に行って羽を伸ばしてこいと言った。

「そんな! ご主人様! 私は奴隷ですので休暇など……!」
「そ、そうです! 仕事をさせてやって下さい」

 二人は揃って遠慮をして来る。
 ズールーは半ば予想していたが、エルミーもそんな言い方をして来るとはちょっと意外だったな。
 普段から俺の奴隷頭として働いていることを誇らしげに語っていたのだろうか?
 それとも、奴隷が休みを貰うという事に対しての単なる遠慮なのか?

 ま、いい。
 そういう反応自体は喜ばしいし、俺も気持ちよく休暇をやれる。

「ズールー。お前は奴隷頭だ。これからも皆の手本となる男だ。お前が休暇を取らないと他の奴が結婚した時にも遠慮しちまうだろ? いいから胸を張って遊んでこい。お前には十分にその資格がある」

 半ば強制的に休暇を取らせた。
 でも、あんま無駄遣いすんなよ?

 ……それなりの時間は掛かるだろうがお前には褒美やなんやとは別に、自分自身の働きと稼ぎで己を買い戻して欲しい。
 奴隷たちの手本になる男なんだから、俺の奴隷頭なんだから、ズールーには夢物語だと言われているそれを実現して貰いたいものだ。



・・・・・・・・・



7449年3月3日

 八層の転移水晶の間の外に広がる広大な空間で最後の射撃練習を行っている。

「うーん、また脇が開き始めてるぞ」

 マリーの射撃も大分良くなってきたが、まだまだだな。
 前回射撃練習をしたクローの方はすぐにサマになったが……。

「え? うん」

 だが、注意された点についてはすぐに直そうと努力する姿勢はいい。

「よし。射撃用意!」

 マリーが膝打ちの姿勢で構える。

「撃て!」

 笛が無いので口で発射の指示をする。

 パン! ガシャコッ!

 発射の直後に銃の右側面にあるボルトを引いて遊底をスライドさせ、排莢を行うと今度はボルトを前面に押し出して次弾装填を行う癖はしっかりと付いたようだ。

「よし。射撃用意!」

 再びマリーが膝打ちの姿勢で構える。

「撃て!」

 パン! ガシャッ!

 今のが挿弾子クリップに残った最後の一発だったのでスライドは引いただけだ。
 マリーは空になった挿弾子クリップを取り外し、新品の物と入れ替えるとボルトを操作して新たな初弾を薬室チェンバーに送り込んだ。

 二〇〇m先に設えてある的から三〇m程離れた岩陰ではグィネが監的を行っている。
 因みに監的とは射撃訓練の際にきちんと命中したかどうかの確認や、的の取り換えなどを行う役目のことだ。

 俺はグィネからよく見えるように右手を上げる。

「二番が二発に三番が三発でーす!」

 的に駆け寄ったグィネが大声で報告してきた。

 三番とは、的自体には命中したが、的に描かれているターゲットマークの範囲内ではなかったという意味で、いつの頃からか誰かがそう言い始めたのでそのまま使用されている隠語だ。
 ターゲットマークの中心点に命中したら一番であり、中心ではなくてもターゲットマークの中であれば二番、的に命中しなければ単に外れと言われる。

 今のグィネの報告では外れは無いのでマリーは射撃要領をきちんと飲み込んでいると評することが出来るだろう。
 急所ターゲットマークじゃなくても当たればいいのだ。

 俺のライフル銃の照準器は環孔照門ピープサイトという、照門リアサイトが穴状になっており、その先に照星フロントサイトが銃身の先に山があるだけの、小銃で多く採用されているものだ。
 どちらかというと二〇〇~三〇〇mくらい先の目標を狙うのに適している。

 ま、64式小銃しか触った事はないから単に俺が使った経験があるからと言うだけで別段拘りがある訳ではない。
 起倒式ではなく、機関部と一体の固定式にしたうえ、ネジでの調整もオミットしている。
 規整子ガスレギュレーターと並んで64式小銃のあんまり良くない点なのでここだけが拘りポイントと言えるけど。

 因みに、照星は銃の製造時に少しだけ高く作っており、それをヤスリで削って調整する。
 二〇〇mでのゼロイン(弾着を見ながらの照準調整)は【射撃感覚シューティングセンス】を使用したベルにやって貰っている。

 余談はともかくとして、射撃訓練で連続十回以上一番を出したことがあるのはベルと今は亡きエンゲラの二人しかいない。

「よし、次。連続射撃一分間。立射で五発。以降自由」

 俺はグィネに大きく左手を振って連続射撃の開始を告げた。

「射撃用意!」

 立ち上がったマリーは少し前傾姿勢になるとしっかりとライフルを構えた。

「撃て!」

 パン! ガシャコッ! パン! ガシャコッ! ……ガシャッ!

 狙いを定めながら一発づつ丁寧に発射したマリーはクリップを交換し、今度は膝打ちの姿勢を取る。
 膝打ちが好きなんかね?
 それともこっちの方が中たりやすいと思ってるのだろうか?

 パン! ガシャコッ! パン! ガシャコッ! パン! ガシャコッ!

「撃ち方止め!」

 一分間で八発か。
 まずまずかね?

 グィネに合図を送り、彼女からの報告を待つ。
 的は既に穴だらけなのでグィネの記憶だけが頼りだ。

「二番一発、三番四発、三発外れぇ~!」

 連射で五割以上の命中ならまぁ合格点だ。

「う~ん。弾倉マガジン替えるのが手間ね……でも八発も撃てたわ!」

 心なしかマリーも上機嫌だ。

「ま、それでも世の中にはその銃と同じ構造、装弾数で一分間に一六発も一番を出す人も居たんだ。あと、弾倉マガジンじゃなくて挿弾子クリップな。用途は似てるけど微妙に違う」

 世界最高の狙撃手と言われたフィンランドのシモ・ハユハさんが使っていたソ連製のモシン・ナガン小銃も現代の狙撃銃も、これと同じ鎖閂式ボルトアクションのライフル銃だ。
 弾倉は銃の内部にあって、そこに挿弾子で纏めた弾丸を装填するのも同じである。

「なにそれ……。挿弾子クリップの交換には急いだって時間が掛かるのに……一六発って三回も交換したっての!? 化物ね」

 最初の一発を予め薬室チャンバーに送っておけば交換は二回だけどな。
 ま、そっちに勘違いしてもいいさ。

 目標は高い方がいい。



・・・・・・・・・



 迷宮から戻ると女房を連れたズールーが待っていた。

「ありがとうございます、ご主人様。お陰でこいつも大喜びでした」
「ご主人様、私……そのこんなに良くして頂いて……」

 頭を下げる二人に「その分これから働いてもらうからな」と笑いながら言って迷宮から引き上げた荷物を運ばせる手伝いをさせた。
 最後だったから本当に大荷物だったしな。

 借りていた倉庫には六頭建ての馬車が八台(うち五台は人員用である)も待機しており、その大きな荷台には既に必要な物を積んでいる。
 荷馬や軍馬も俺とミヅチの軍馬を除いて四八頭も用意して街外れに預けてある。
 用意は完璧に整っている。
 明日の朝、お昼の弁当を積んで、バストラルがラーメン店とソーセージ工場から二〇人の奴隷のガキを連れて来たら、午後にはべグリッツ目指して出発だ。

 流石に今日は誰も酒を飲もうとは言わ……。

「ねぇグィネ、ビール飲みたくない?」
「私、明日出発だし、今日は荷物確認するから……ごめん」
「あ、そう……。ベル! もうどっか行っちゃったの? じゃあキムさぁ……」
「あんたね……まぁ、私もあんたと同じで五月組だからいいけど」

 屁こき虫は五月になってから移動するんだった。

 こいつは転生者だが領地を与えた貴族ではないので急いで赴任する必要はない。
 バストラルとグィネにクローとマリーもそうだが、バストラルには商会の奴らへの教育があるし、グィネは何度か往復することによって広く地形を覚えて貰う必要がある。
 クローとマリーについても煉獄の炎(ゲヘナ・フレア)の連中よりも先に騎士団に入れておきたいとの思惑から俺と一緒に明日出発の予定だ。

 消去法で五月に予定される後段の移動についてはこいつに任せるしかなかったんだ……。
 いや、勿論、ジェルやミース、ヒス、キム、サンノ、ルッツなんかの殺戮者スローターズの五月組も頼りにしているんだけどね。

 ああ、念の為だけど、五月組のリーダーはキムに任せているんだけど……心配は心配だが、ラルファも馬鹿じゃないから……馬鹿じゃない筈だから、勝手なことはしないだろう、と期待している。

 
 今週末からのゴールデンウィークですが、旅行のため更新が滞ります。
 申し訳ありません。
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