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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第三十二話 兵器の開発

7449年1月2日

「やぁ、レイノルズ、エンベルト。暫くぶりだな」

 予定より少し遅れたがバークッドから隊商が到着した。
 今回はラッセグたちドンネオル家と交代でレイノルズが家長を務めるアイゼンサイド家を二家族も伴っており、子供も合計で三人同伴しているので時間を食ってしまったらしい。

 また、やはり前家督者のベックウィズは流石に寄る年波には勝てなかったようで帯同してはいなかった。

 彼らと交代でバークッドに戻るのはラッセグ、ミリー、ラフィット、ハリスだ。
 引き継ぎには二週間程の時間を取っている。

 エンベルトの家族三人のために店から歩いて三〇分程度、ゴムの作業場から五分程度のところに多少古いが小綺麗な家を借りておいたのだが、エンベルトは「奴隷の私共に勿体無いことです」としきりに恐縮していた。
 尤も、エンベルトは今でこそ奴隷という身分だが、俺がバークッドを出た時には独り身だったのでまだ平民だった。

「いいんだ。奴隷とはいえバークッドで最高の職人であるお前にはこのくらいの家でもまだ足りなくらいだと思ってるよ。気にしないで堂々としていろ」

 エンベルトは最初期からゴムの製造に深く関わっていただけあって、ゴムの性質を知り尽くしていると兄貴から聞いている。兄貴もごく一部の製品の開発能力では他の追随を許していないが、その他の大部分の製品の開発改良は彼の功績と言っても過言ではない。

 魔法を使って精密な型を作ったり、乾燥させたりすることは出来ないが、時間さえ掛けられるのであれば木を削って魔法に負けないくらい精密で、流し込むゴムの粘度まで考慮した型を作れるのは彼しかいないし、魔法を使える人に指示を出して作業を監督したり指導することにも長けている。

 正にバークッドの職人頭である。

 今バークッドで職人たちを纏めているのは俺の領地に従士として来る予定のダイアンたちリョーグ一家だが、彼らですらエンベルトの腕には及ばない。
 そのリョーグ一家のダイアンとルーク、それに命名を済ませたばかりの彼らの息子であるサムソンの三人が来るのは今年の夏頃の予定だ。
 それまでは俺の領地のゴム職人は俺だけだが、そのくらいは我慢出来るさ。

「それからレイノルズ、お前はグリード商会の番頭だ。番頭としての仕事はこいつ、バストラルが全部教えてくれる。それから手代のレイラにも大分仕込んでいるから解らないことがあったら彼女らを頼れ」

 レイノルズを番頭、レイノルズの妻であるサーラを手代として新しく任命すると同時に行政府への届けを出した。

 これでグリード商会は商会長である俺を筆頭に番頭としてレイノルズを、手代として古株のレイラとサーラ、それにバストラルの妻のキャシーが登録されていることになる。一応、名義だけでもバストラルを番頭として登録しようとしたこともあるが、彼は「付いて行くって言ったじゃないですか!」と言って頑として首を縦に振らなかった。



・・・・・・・・・



7449年1月24日

 久々に迷宮に入る。
 今回は八層の転移水晶の間の外で銃弾の生産のみを行う予定である。
 八層の守護者であったミノタウロスが復活しなくなって久しいから、余計なことに気を取られずに生産に専念することが出来るだろう。

 目指す銃弾のストックは五〇〇〇発だ。
 五〇〇〇発の理由は運ばなければならない真鍮や鉄、綿や黄色染料の重量、いや、運べる体積の制限によるものだ。
 あと、俺を含めて一八人の殺戮者スローターズのメンバーと、ズールーを含む五人の俺の戦闘奴隷の合計二三人に来週以降、一人二〇〇発づつ射撃練習をさせるためだ。
 余ってる四〇〇発は別の用途がある。

 その為に運ばねばならない材料の重量は合計で一〇〇㎏を超える。

 銃や銃弾、薬莢の材料となる金属鉱石はまだ八層に残してある分もあるから大した量を運ぶ必要はなかったが、綿はそうは行かない。
 軽いが体積はものすごく大きくなるのだ。
 ヘンリーとメックの二人と同時に中頭イムギャンガーに昇進させたギベルティには重いが体積は大したことのない鉱石を中心に運ばせ、他のメンバーには綿を運んで貰っているが、食料を運ぶ余裕が無い。

 今回、根絶者エクスターミネーターズを指揮するカームには多大な負担を強いるが、彼らには四層まで食料を運んで貰い、キムが指揮する虐殺者ブッチャーズには七層までそれを降ろして貰うことにした。

 綿を運んでいるとバレないように出来るだけ圧縮して大きなリュックサックがパンパンになるまで詰め込んでも一〇㎏にも満たないが、登山者もかくやと言うほど巨大なリュックサックは目立つ。

「これは閣下、お久しぶりですね」

 暫く顔を見ていなかったチャーチさんが声を掛けてきた。
 俺も挨拶をすると「しかし、今日はすごい荷物ですね。長くなるのですか?」と聞かれた。
 今までも度々長い間迷宮に籠もっていたこともあるからあまり珍しがられるようなことはなかったが、あまり目を引いても嫌なので適当に「皆の戦闘訓練ですよ。これはその道具なんかです」と言って誤魔化した。



・・・・・・・・・



7449年1月29日

 やっと五〇〇〇発もの弾丸を作り終わった。
 トリスも魔力の尽きるギリギリまで弾丸を作るのを頑張ってくれたが、結局は殆ど手作業で弾頭を薬莢に嵌め込まねばならなかった。

 他の皆も火薬を作ったりして忙しく働いている。
 あのラルファやグィネにしても文句一つ言っていない。
 成長してるんだなぁと目頭が熱くなる。

「久々にパンパン撃てるね」
「結構楽しいよね」

 ……楽しみにしてただけだった。

 とにかく、これだけあれば皆の射撃練習には充分だろう。
 ついでに余った時間でM1ガーランドチックな半自動セミオートライフルを五丁、リボルバー型の拳銃を二丁作った。
 “チック”の理由は弾倉を一列五発のクリップ型にして、撃ち尽くしたらクリップが自動ですっ飛ぶ機能がないからだ。
 装弾数はオリジナルより少ないけど、ま、いいだろ。

 また、初期に作ったライフル銃は網撃ち用も含めて全て廃棄してしまった。

 八層にミノタウロスが出なくなって久しいし、もう九層の転移水晶の間やその先に行く事もないだろうからね。
 もしも行くような事があったとしても次からは銃器を沢山持っていけばいいだけだ。

 今のところ半自動セミオートライフルは合計で七丁、拳銃は三丁だ。
 領地に行ったら俺のところにライフル二丁、あとは生え抜きの領主に一丁づつ渡すつもりでいる。

 また、拳銃については俺のところに一丁、ラルファとグィネに一丁づつ渡す予定だ。

 なお、弾丸はライフル銃も拳銃も本来は共用出来る設計だが、流石に拳銃については薬莢の長さを短くして装薬量も半分近くにまで減らした専用の物を作成している。弾頭部だけは面倒なので共用にしている。

 拳銃自体、当初作成したリボルビングライフルの機関部に短銃身とピストルグリップを付けただけのものと言えるし、ガス圧を利用して次弾を装填する機能なんかないリボルバーなのでそのままなら普通のライフル弾でも発射は可能だ。しかし、反動はものすごく強烈なので回転弾倉シリンダーの長さを短く作り直し、薬莢の小さな専用の弾丸を開発したのだ。

 元々、自衛隊でも拳銃は殆ど撃たなかったし、あくまで緊急時の護身用だからこれで充分だろ。
 一五m先のマンターゲットの急所に当てられれば上等と言える。
 おそらく実戦で使用するにしてもせいぜい五mくらいの距離じゃないかね?
 それだって練習しないと動いている相手には外すのが普通だしな。

 そうそう、余ってる四〇〇発は拳銃用の弾丸だったのだ。
 え? 予想してた? あ、そう。

 来週からは救済者セイバーズはローテーションでメンバーを入れ替えて実弾射撃の練習をさせる。

 なお、来月中には今回製造した弾薬は全部練習で撃ち切り、可能なら薬莢を回収して迷宮は終わりだと宣言して地上に戻った。



・・・・・・・・・



 迷宮から地上に戻って「さぁ飯だ」と階段を上がったら、入口広場で人が待っていた。
 レイノルズの妻のサーラだ。

「アル様、ミルー様がお戻りになられました。王都へお急ぎになられてください」

 とか言ってんの。
 姉ちゃんが北の国境の守備に赴いてからまだ三ヶ月も経ってねぇぞ?

「なんで戻ってきたんだよ?」
「ご懐妊だそうです」

 は?

「なんでも任地に着いて暫くしたら体調が優れなくなったそうで、医者に見て貰ったらご懐妊なされていたそうです。それで、帰還しろとのご命令が出たと……」

 な、なんと。
 結婚して一週間くらいしか一緒に暮らしてなかった筈なのに……あのマーティー、人の良さそうな顔をしてやりおるわ!

「こうしちゃいられないわね! すぐに行こう!」

 ミヅチも興奮している。
 行くのは構わないが、鎧姿で行くつもりかよ。
 せめてシャワー浴びて着替えてから行こうぜ。
 逃げやしないんだしさ。



・・・・・・・・・



「お義姉様、この度はご懐妊なされたそうで、おめでとうございます」

 ミヅチが花束と高級な贅沢品であるみかんを大量に渡している。
 姉ちゃんの腹はまだ膨らんでいるようには見えない。

 ……本当に【状態:妊娠中】になってやがる。
 出発の時、鑑定しなかったしな。気が付かなかったのも無理は無い。

「ありがと。でもなんでみかん(オロンジ)?」

 姉貴は不思議そうな顔をしつつも嬉しそうに受け取っていた。

「妊娠すると酸っぱいものが食べたくなると言うじゃないですか。だからみかん(オロンジ)がいいかと……」

 ミヅチが言う事は尤もだが、個人差もあるらしいし、第一オースのみかんは日本のみかんとは比べ物にならないほど酸っぱいけれど、それでも数少ない甘味の一つだ。
 止めておけと言ったんだが、ミヅチは「いいの。気持ちだから」と言って譲らなかった。

「ふーん。初めて聞いた。でも、わざわざ来てくれて嬉しいわ。入って」

 姉ちゃんは結婚にあたって購入した新居に招き入れてくれた。
 小ぢんまりとしているが住みやすそうないい家だ。
 前の住人も余程大切に手入れをしながら住んでいたと見える。

「伯爵閣下、わざわざお祝いにいらして頂き、誠にありがとうございます」

 マーティーさんもニコニコ顔で非常に上機嫌だ。
 そりゃまぁ、家督者が跡取りを身籠ったとなれば機嫌がいいのも頷けるし、なにより新婚早々離れて暮らしかけていたんだから嬉しさも一入なんだろう。

 姉ちゃんは任務として赴いたにも拘らず個人的な問題で戻らざるを得なくなったことを悔しがっている様子だったが、それでも時折腹をさする際に戸惑うような妙な表情を浮かべていた。
 いずれ母親のような表情になることだろう。

 また、ミヅチに対しても早く子供を産めと言いたいような表情をすることもあったが、俺とミヅチは種族が違うためにそう簡単に子供が出来そうにないことを思い出したのか何も言わなかった。

 確かに子供は出来難いのかも知れないが、転生者同士なら異種族間の着床確率も上がるらしいから俺としてはあんまり問題に思ってはいないんだけどね。でも、それは今じゃない。もう少し落ち着いてからだろうな。



・・・・・・・・・



7449年2月6日

 八層の転移水晶の間で野営を張り始めてから三日目。
 今回の救済者セイバーズのメンバーは俺、ミヅチ、ゼノム、グィネ、カーム、ロリック、サンノ、ルッツ、ヒス、ギベルティである。
 俺とグィネ、ギベルティを固定メンバーとして後は順次入れ替えるのだ。

 固定メンバーを除くとロリック、サンノ、ルッツ、ヒスの四人が初めて銃を触る。
 俺が基本の射撃姿勢などを指導し、経験が長いミヅチ、ゼノム、グィネ、カームが的の用意なんかの手助けをしてくれる。

 射撃練習が始まり、轟音や反動なんかに驚く様子を見て少し楽しんだ後、俺には別の作業が待っていた。
 去年のうちにRDX火薬の製造は成功させ、簡単だが試験も終わらせている。

 別の作業とはこのRDX火薬を使った武器、いや、兵器の製造だ。

 自衛隊時代に何度も見たことのある指向性散弾地雷を多少性能が落ちても作るのだ。
 あと、可能なら80式対人地雷もね。

 自衛隊が使用している指向性散弾地雷は俗にクレイモアと呼ばれる米軍の指向性対人地雷をより大きく、凶悪な威力にしたものだ。
 クレイモアの最大射程(加害距離)は二五〇mだが、指向性散弾地雷は一㎞以上もの最大射程を誇る。
 扇状に発射される鉄球もクレイモアの直径一mm強、七〇〇個なんかとは比べ物にならない直径九mm以上でその数は一二〇〇個だ。
 散布界もクレイモアは距離四五m先で、幅四八m、高さ二mに対し、指向性散弾地雷は一五〇m先で幅一〇〇m、高さ四mもの広範囲にばら撒ける。

 プレートメイルを着て、騎乗していたとしても郷士騎士団程度なんざ丸ごと吹き飛ばせるんだぜ。
 陣形にもよるけど。

 まぁ、その分本体重量もクレイモアの十倍以上の二四㎏と非常に重いけどね。

 構造は簡単。
 奥行きを短かく、扇状にカットした肉厚で短い鉄の筒に、こちらも扇状に曲げた丈夫な底をくっつける。
 肉厚の理由は真横に鉄球が飛び散らないようにするためで、銃で言えば銃身にあたる。
 起爆したら跡形もなくすっ飛ぶけど。
 跡形もなくすっ飛ぶ前のごく僅かな時間さえってくれればいいのだ。

 底にはワックスなんかの可塑性樹脂を混ぜ混ぜしたRDX火薬を敷き詰める。
 別にわざわざプラスチック爆薬にしなくてもいいんだけど、運送時や設置時の安全性や、厚み=爆発力=爆速を均一にするにはこちらのほうが都合がいいのだ。

 そして、その上には丁寧に鉄球を並べる。
 ここは本当に丁寧に並べなければ綺麗に広がらない。
 多少ぞんざいに並べても威力は大して変わらないだろうが、散りムラが出来てしまうのは好ましくないからね。
 で、蓋をしておしまい。

 火薬が一気に爆発するように本当はちゃんとした電気雷管が欲しいところだけれど、先がスパークするようにした導火線にライトニングボルトの魔術を撃ちこんでも大丈夫だろ。
 起爆時の爆風(バックブラスト)が発生する後方を含む爆発危険範囲には注意が必要だ。

 なお、80式対人地雷については鉄球を詰め込んだ缶が埋設された地面から飛び上がって爆発するタイプなんだけど、これ、難しいよね。
 挫けそうだ。

 ま、テストあるのみだな。

 
 作中に出てくる「指向性散弾地雷」は現在、「指向性散弾」と名を変えて障害Ⅱ型として使われ続けています。
 また、「80式対人地雷」はその殆どが破棄済みか障害Ⅰ型に改造されたもの以外は訓練用に少数が残されているだけみたいです。
 因みにどちらも威力や殺傷能力は有名なクレイモア地雷より上です。

 これらは日本が対人地雷全面禁止条約を批准した事が理由です。
 (すごく簡単に説明すると、地中に埋まっている地雷の起爆スイッチ踏んだり、仕掛けてある引張線に刺激を与えるなどして“起爆操作を行う人が居なくても自動的に起爆する”タイプの地雷を使うのを止めましょうという条約です。遠隔操作可能なシステムは地雷には当たらないので上記の“元”地雷は起爆方式を限定された形で生存しています)

 地雷は本来、間抜けで注意力散漫な敵兵を倒すために使われるものではなく敵の部隊の進軍を遅滞させることが本当の目的です。従って、遠隔操作可能で地中埋設型でない上記の障害システムは防御兵器として地雷とは性格が異なるものです。
+注意+
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