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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第二十六話 仲良き事は美しき哉

7448年10月25日

 昼に呼び出したリーグル伯爵が帰った後、ゲンダイル子爵は早速国王に面会していた。
 勿論、デーバス王国に占領されてしまったコミン村の奪還を表向きとした、デーバスの魔術師討伐の為の作戦の奏上を行う為である。

「ゲンダイル卿、そなたの言い分は理解した。確かにデーバス軍に居るという凄腕の魔術師は問題だ。可能な限り早急に処理したいというのも頷ける」
「は。では……」
「待て。そう焦るな。実は余も最初、そなたと似たようなことを考えたが思い直した」
「と、申しますと……?」
「切り札を使うならもっと有効なタイミングで使うべきだ。最前線の開拓村を一つ取られた程度、また、今も居るかどうか判らない魔術師を一人片付ける程度で奴の枷を解き放つのは間尺に合わん」

 ロンベルト王国国王であるトーマス・ロンベルト三世はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、自分を除けば軍の最高位である第一騎士団長のゲンダイル子爵を見やった。
 対してゲンダイル子爵は予想外にも国王の口から“切り札”という言葉が出たことに息を呑んだ。

「……陛下はどこまでご存知で……?」
「全部だ。ローガンから聞いているからな」

 前の団長の名前が出たことに少し目を見張るゲンダイル子爵。

――あの親父、そうならそうと言っといてくれよ。俺がアホみたいじゃないか。コミン村のデーバス軍を全滅させれば情報も漏れないだろうし、実戦でどこまで使えるか試すのに良い機会だと思ったんだがな……。

「そなたの気持ちもわかる。夜陰に乗じるなど上手くやれば、例え凄腕の魔術師がいようともコミン村如き鎧袖一触の如く潰せるかも知れんな。それに、存分に働いた切り札の能力も知れよう。だが、それを知ってどうする?」
「今後の作戦が立案しやすくなりますし、国家危急の際にどの程度持ちこたえられるのか計算が適います」
「そなたは真面目すぎるな。今の立場になってまだ一年も経っていないから無理も無いかも知れぬが、もう少し肩の力を抜け」

 一つ咳払いして国王は先を続ける。

「大方、本気を出させて試そうという腹積もりだったんだろうが、止めておけ。いや、種明かしをしよう。ローガンは言っていたぞ。そなたは機会があれば試そうとするだろう、とな」

 これにはゲンダイル子爵も苦笑いを浮かべるしかなかった。

――糞親父。お見通しだったか。

「安心しろ。これ以外にローガンはそなたに伝え忘れたことはない」
「ふっ。伝え忘れたこと、ですか」
「ああ。伝え忘れたこと、だ。だが、あやつめ。これじゃあ俺まで試した事になるって解ってんのかね?」
「男爵であればご理解の上での行いであったのかと……些か腹も立ちますが」

 二人は顔を見合わせたまま苦笑を浮かべあった。

「とにかく今は止せ。切り札が使えることは解っているんだからな。どうしても急いで試したきゃどこか山奥にでも行って好きなだけ試せばよい」
「は」
「それに、今は止せと言った事にも理由がある。今朝ほど北方から伝令が到着した」
「は……は? 北方?」
「それと、ダート平原についてだが……」
「は」

 伝令についての質問を無視された形のゲンダイル子爵だが、黙って続きに耳を傾ける事にしたようだ。

「この際だ。今後暫くの間はダート平原については守勢に徹しろ。こちらから討って出る必要はない。万が一、先の戦のようにまた凄腕の魔術師が出て来たことが確認されたり、大規模な侵攻が企図されるような報告があった場合には……距離も近くなっておろうし、弟の方を当てればよかろう」
「……は」
「不満そうだな?」
「いえ、陛下のご意思に異を唱えるなど……滅相もございません」
「別に異を唱えても構わん。だが、先ほど北方からの伝令が到着したと言ったろう? それに関連した決定だ」
「……」
「ジュンケル侯爵領について、新たな報告が入った」

 ジュンケル侯爵というのは、ロンベルト王国の北方にある山岳地帯に領地を持つ大貴族の一人で、六〇年ほど前のグラナン皇国との戦争の際に皇国へと寝返っている。それ以前も何度も寝返りを繰り返してロンベルト王国とグラナン皇国の間を行ったり来たりしており、最早ジュンケル侯国と言っても差し支えないほどだ。なお、ロンベルト王国とグラナン皇国との間では六〇年前の戦争の後に不戦協定が締結されている。それは今でも続いており、政治的には小康状態を保ってきた。

「かなり大掛かりに兵を集め始めたらしい」
「そうですか……遂に……それにしても総領事のマヒアル伯爵も相当なタヌキですな」
「全くだ」

 かの土地からはこの半年程きな臭い動きが報告されていたが、本格的に軍備を整え出したことが伝えられてきたのだ。
 勿論、大貴族は独自に騎士団を編成しているのは当然のことなので、軍備を整えること自体は不思議でも何でもないし、文句を言う筋合いでもない。しかしながら、軍隊には土地の面積や人口にあった規模というものがある。それを上回る勢いであれば、それは戦争の準備を開始したと予想されても無理からぬ事だ。

 従って用心を怠る訳にはいかないし、北方国境線沿いに配備している軍隊の配置や規模についても変更は必至である。今までは不戦協定により、少数のパトロール隊を張り付けていただけに過ぎないが、こうなるとこちらもある程度の規模の守備隊を送る必要があるだろう。それに、デーバス王国とは異なり、ジュンケル侯爵領を擁するグラナン皇国の軍隊はロンベルト王国軍とほぼ互角の力を有していると言っても良い。

 それを考慮するとデーバス王国よりグラナン皇国の方がロンベルト王国にとっては余程脅威である。いかに肥えている土地であるとは言えども、ダート平原に対して入植や開発が開始されたのは、そこに巣食っていた緑竜、ベルゴーフロクティが蒼炎ブルー・フレイムを名乗る冒険者一行に打倒された一五〇年ほど前からに過ぎない。勿論、緑竜以外の魔物はそのまま残っているし、両国が境界を主張して紛争を繰り返したりしているので碌に開発の進んでいないダート平原に固執している場合ではなかった。

「切り札は北方に送るようにしろ。ボーエンには言っておくから、ダート平原の方は第四騎士団から王都駐留の本隊を送れば良いし、他からも五個中隊くらいは集められよう。ついでに南方の指揮は奴に任せてやれ。そなたは北方の守りについて心配しておけ」
「は。陛下の仰せのままに」



・・・・・・・・・



 午後の講義を担当してくれる筈だった役人には突然の体調不良によりどうしても休ませてくれと言って、第一騎士団の駐屯地に向かった。
 姉ちゃんに面会を申し込むと模擬戦の最中だったようで暫く待たされてしまったが、面会自体は問題なく叶った。

 通された応接室は向かい合わせのソファの間に低いテーブルが置いてある小さな部屋だった。

「姉ちゃん」
「何よ、急に。どうしたの?」

 アポイントメントもなく急に面会を申し込んだためか、姉ちゃんは鎧も脱がずに部屋に入るとそのままソファに腰を下ろした。
 汗に濡れた髪が額に張り付いている。
 風魔法が使えないと不便だねぇ。
 ハンカチを差し出すと、姉ちゃんは礼も言わずに受け取って額を拭った。
 レディならハンカチくらい常に携帯しとくもんだぜ。

「さっきゲンダイル卿と話をしたんだけど……」
「団長と? 何話したの?」
「あ、これから言う事って口止めはされてないから、そっちは安心して」
「いいから早く言いなさいよ」
「ひょっとしたら近々に第一騎士団総出での出動があるかもしれないって……」
「え? 本当に?」

 姉ちゃんは汗を拭った後のハンカチを……手前ぇのポーチにしまった。
 いらねぇよ。んな汚くなった布っ切れ。
 糞、セリカ産の絹だぞ!?

「うん。何でもコミン村ってのが陥落したらしい」
「はぁ? コミン村って今年の春まで私が居たところじゃない……。それに今回はあんたのところのガルヘ村がデーバスの目的だって……」

 姉ちゃんは何かの間違いだろうとでも言いたげな顔付きをして言う。

「うん。ガルヘ村は大丈夫。でも、デーバスの本命は囮だと思われていたコミン村だったんだって」
「あのバルキサス卿が指揮を執っておられたのに……信じられないわ」

 ゲンダイル卿から聞いた内容を姉ちゃんに話した。

「要するに、コミン村に対してデーバスは相当な魔術師を送って来た。そいつの魔術でやられちゃったみたい。で、ゲンダイル卿は村を取り返すのは勿論なんだろうけど、今後のことを考えて今のうちにその魔術師を始末しておこうと考えているみたいでさ。陛下のご許可が得られれば、第一騎士団総出で明日にも行きかねない勢いだった」
「まぁ、勝負は時の運もあるからね。負ける時もあるわ。でも……」

 姉ちゃんの顔から表情が消え……いや、昔俺を苛めてた時のような獰猛な表情がちらりと……。

「そいつに姉ちゃんをぶつけるって言ってた。そいつが本国に帰っちゃう前に……」
「そう……コミン村に居る間に倒すって訳ね」

 流石に何年も第一騎士団で過ごしてきただけあって、おっかない目つきは一瞬で消えた。

「……」
「そういうことなら今夜にも話があるでしょう。忙しくなるわね」
「……」
「それはそうと、あんた、それを伝える為だけに来たの? 来年領地に行くまではずっと忙しいって言ってなかった?」
「もし姉ちゃんが行くなら俺も行くから」
「はぁ? 何でよ?」

 自分の領地の話でもないのに行くという俺の言葉について、その意味を図りかねているようだった。

「なんとなくだけど、その魔術師、相手が悪い気がする。でも、もしもまだコミン村に残っているのなら、俺が行けば確実に倒せると思う」
「あんたに出来るなら私にだって……」
「出来るかも知れないね。でも、姉ちゃんも解ってるだろ? 俺が本気になれば……」

 姉ちゃんの言葉を遮りながら、迷宮でモンスターを相手取る時のように冷たい目つきをして言った。

「……あんた……」
「確かに姉ちゃんが本気になって魔法を使えば強い。でも、俺の方がもっと強い。この際だから言っておく。俺の魔法の特殊技能は、今じゃ全部九レベルだよ」
「きゅ……え?」

 俺の魔法のレベルを知って絶句しているが、その姉ちゃんだって魔法の特殊技能のレベルは非常に高い。
 地魔法と火魔法が六レベルだし、無魔法と水魔法の方はつい最近七レベルになっている。齢二四にして筆頭宮廷魔術師のダースライン侯爵を超えているし、勿論魔力量なんか比較にならない。正面から魔法合戦を行えば全属性を使えるミヅチにすら押し勝てるかも知れない程だ。

 今まで俺が出会った転生者の中では技能レベル、魔力量ともに闇精人族ダークエルフのミヅチが最高だった。
 そんなミヅチでも、頑丈に作られているという防御柵を破壊出来る程の威力のファイヤーボールを複数人の仕業に間違われるほど何発も撃てる訳じゃない。
 尤も、例のコミン村では村の周囲を回りながら撃っていたそうだから魔力を回復をさせながらであればミヅチにも出来るとは思うけど……そこまで間が開いてた訳じゃねだろうなぁ、流石に。

 しかしここは、デーバスの魔術師の魔力量はミヅチを超え、姉ちゃんに迫るかそれ以上だと考えるべきだ。
 ダークエルフの戦闘奴隷という線もかなりの可能性で残されているが、用心に越したことはない。
 世の中は広いんだし、俺みたいな奴が居ないとも限らないのだ。

 ……居ねぇか。
 常識で考えりゃ判る。

 幼少期から魔法に親しめる環境。しょっちゅう寝てても問題のない家柄。それに文句も言わない両親。一〇歳までの人生を殆ど捨てるに近い覚悟。そして、絶対に必要なことだが、固有技能の使用には魔力を消費するという知識に加え、魔力消費に都合の良い固有技能が全て揃って初めて可能なことだろう。

 魔力増大(正確には固有技能の使用回数の増大だろう)の法則に気がついて、それを増やそうと思ったのなら似たような事をする奴も居る可能性はあるが、俺ほどに徹底している奴ってのはまず居ないと思う。
 俺だって、固有技能の使用が魔力の使用とは別であったのであれば……そうだな。一〇〇回くらい使えるようになったらそこで満足してやめてたと思う。

 だって、転生する前でだって、体を鍛えたり、一心不乱に勉強を続けられない奴の方が圧倒的に多かった。その割合なんか比較するのもバカバカしいくらいだろう。その効果は殆ど全ての人が理解しており、体系的なトレーニング法や参考書が渦巻いているにもかかわらず、だ。
 固有技能は置いておいても魔法の使用にはかなりの集中力を必要とされるから、俺を含めて誰だって魔法なんか好んで使いたくない。
 兄貴も姉ちゃんも辛くて泣き出したこともある。

 正直な話、俺だって一〇歳という限界が解っていたから出来たことだ。
 知らなきゃあそこまで必死にはやってない。
 だって、永遠に増えるのであれば体力も無いガキの頃に無理せず後回しにしたって別にいいんだし。
 そうそう、今だって一%の確率で魔力は増加するが、俺ももうやってないしね。

 おっと、口を半開きにした間抜け面を晒しているのが実姉だと認めることが出来ず、思わず現実逃避をしてしまった。

「何て顔をしてるんだよ。まぁ、技能のレベルは置いておいても、俺はたった二人だけでドラゴンを倒した勇者だぞ。今じゃ姉ちゃんより強いのは当たり前だろ」

 口を閉じた姉ちゃんは、ついでに暫く目を閉じて何か考え事をしているようだった。

「……あんた、ばか?」

 考えた結果、あまりにも直接的な表現をなさる。この姉上は。

「は? え? 何を……」
「騎士団の経験も無い、戦争にも行ったことのない単なる冒険者上がりの癖によく真顔でそんな恥ずかしいことが言えたわね。伯爵閣下になっちゃったら周りの人は誰も言ってくれなくなったの? ミヅチにしっかり言っといてあげるから呼んできなさい」
「……」

 憮然とするしかない。

「まだそこまで教わってないみたいだから教えてあげる。戦争ではね、統一された部隊行動が大切なの。騎士の訓練はその部隊行動を素早く、正確に行えるようにする為のものだと言っても言い過ぎじゃないわ。要するに一緒に訓練をしていない、した事のないあんたがいきなり混ざって来たって行動を乱すだけよ。どんなに強くたってね。こんなこと、前にも言った事あると思うけどねぇ……本当、ミヅチもなんでこんな馬鹿と結婚したかなぁ」

 知っとるわ、そんな事!
 こちとらお馬さんに跨った第一騎士団なんぞよりもっと統一された部隊行動訓練を経験してるわ!
 その指揮だって執った事もある。
 普通科小隊、二七名までだけど。
 大体その程度、初夏に始まった軍事関連の講義でいの一番に聞いてるよ。
 あ……。

「姉ちゃんさ。統一された部隊行動が大切なのは、そのくらい俺も知ってるからそこは安心してくれ。そんな事よりも、ごまかすなよ。俺や姉ちゃんの本気の攻撃魔術ならそんなもの、何の意味もないことくらい知ってるだろ……」
「……」

 今度は姉ちゃんが黙った。

「今から嫌なこと言うから予め謝っとく。ごめん。コミン村なんか、全部纏めて埋め立てられる。まるごと焼き払ってもいい」
「やめなさい」

 姉ちゃんは静かな目で俺を見つめている。

「わかった。もう言わない。でも、俺の気持ちはわかるだろ?」
「……解るわよ……。気持ちの悪い奴ね」

 は?

「あんた結婚したんでしょ? いくら私に惚れてたって無駄よ。私は姉弟でどうにかなるつもりなんかないから」
「殺すぞ。このクソアマ」
「おーおー、怖い怖い」
「そんな気持ち悪い事をスラスラ言えるから嫁き遅れてんだよ。それを理解しげべっ!」

 右の脛に激痛が走った。
 ソファの間に置いてあったテーブルを蹴って俺の脛に当てて来やがんの。
 まぁ、狙ってたんだけど。
 だから避けなかった。
 ……骨は折れていないようだが、物凄く痛い。

「ありがと。来るならあんたの分の糧食くらいはなんとか出来ると思うわ」

 さて、もう一度騎士団本部に行くとしますかね。
 おっと、片足を引き摺ってちゃみっともないし、その前に治しとこう。

 
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