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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第二十四話 意外な報告

7448年10月20日

「そうか、ロッコがねぇ……すげーな」

 王城から帰って来ると、丁度ミヅチに率いられた救済者セイバーズが迷宮から戻ったところだった。
 その後、一緒にボイル亭に帰って部屋に荷物を置いたり、着替えたりしながらミヅチから簡単な報告を受けていたところって訳。

 今回の救済者セイバーズのメンバーはミヅチを筆頭に、ラルファ、グィネ、キム、ジンジャー、ロッコ、ミース、ヒス、ルッツ、ズールーである。
 なお、マールとリンビーに加えて新人戦闘奴隷のベンとエリーも迷宮デビューを果たしたし、戦闘奴隷を買った奴もいるので殺戮者スローターズ内のメンバー配分は結構ごっちゃになっている。

 まぁ、八層をメインの狩場にして(九層以降だと魔法を使うコボルドやゴブリン、インプなんかが部屋の主として召喚されて来る事があるので、俺がいないと危険過ぎるのだ)あわよくばお宝を望むのが救済者セイバーズ。クローとマリーを擁して七層でオーガ相手にひたすら戦闘を繰り返すのが虐殺者ブッチャーズ。四層か五層あたりでガキの戦闘奴隷たちがアンデッド相手に泣いても頑張らせるのが根絶者エクスターミネーターズって感じかね?
 あとは一層あたりで昔俺が皆を扱いたように購入した戦闘奴隷を扱いているのが何人かいる、というところだ。

 で、ロッコの件なんだけど、今回の迷宮行で彼は大活躍だったそうだ。
 八層の部屋の主、一遍に六匹も出てきたケイブトロールのうち半数に当たる三匹も同時に相手どって急所狙いの剣ソード・オブ・エイミングで大立ち回りを演じたんだと。
 たった一人で三匹ものケイブトロールを同時に相手取るなんて、そんなことが可能なのは……ゼノムなら出来るかもしれない。
 俺? 俺は……やって出来無いって事はないだろうが、魔法抜きだと結構厳しいだろうな。
 それはミヅチも同様だと思う。

 ここ最近熱心に頑張っていた成果が現れたって感じなのかね?
 気負いすぎているのかと少し心配になって聞いてみたら、本人は戦闘終了後に「いや~、きつかったな」とあっけらかんとしていたそうだ。
 ミヅチも同様の心配をしたらしいが、その言葉とその時の口調を聞いて「こいつやっぱり何も考えてねぇ……だけど、剣と盾の使い方はやっぱり殺戮者スローターズで最高だなぁ」と思ったそうだ。

 それはそれとして、ガルへ村の戦況は結構いい感じらしい。
 先日戻ってきた伝令によると、想定通りデーバス軍は囮の攻撃部隊をお隣のランセル伯爵領のなんとか村方面へ出発させているようだ。

 城軍尚書のベストール伯爵によるといつもの紛争とあんまり変わりは無いみたいで、まず問題なく追い払えるだろうって事だった。
 ついでに、囮攻撃については当初から予想されているので、それによって防衛部隊が動揺するなんてことはないから心配はいらないと太鼓判を押してもくれた。

 デーバス軍の作戦について大まかにでも見抜いているなら、姉ちゃん曰く第一騎士団の良心と言われているバルキサス士爵が全体の指揮を執り、リチャード殿下まで小隊長として参戦しているうえ、第二騎士団も二個大隊を派遣しているんだから、ガルへ村の防衛なんか楽勝じゃねぇの?

 俺の領地が攻められている最中だけど、それに対して今出来ることも無いし、心配しても始まらない。
 ガルへ村は一度デーバスに取られてしまってもいいや、くらいに思ってたんだしね。

 そんな事より目先の心配事をまず何とかしないといけない。
 現在俺には三つの心配事、と言うか、悩み、と言うか、問題を感じている事、と言うか、どう言ったら適切なのかな? とにかく、解決しなきゃいけない事がある。

 まずは、バークッドへの帰りを引き延ばしているラッセグ達への経理関係の仕込み。
 実は結構順調に行っている。これは、ラッセグとその妻のミリーや前家督者のラフィットが優秀という訳じゃなくて、その息子のハリスが優秀なんだ。ハリスは今年十四歳になったんだけど、流石に若いだけあって飲み込みも早いようだ。あと、アンナとハンナもね。

 予定より半年くらい遅くなるけど、今年の年末には新しい従士の一家がバークッドからやって来て交代するまでに一通りの仕込みは可能だろうとバストラルは言っている。
 彼らには長男のハリス以外にサラという女の子がいるんだけど、彼らがリョーグ家と交代で二年前に来た時はまだ小さかった。仕方なくラッセグの弟が婿入りしたトーバス家に預けざるを得なかったんだ。可愛い盛りに一緒に生活させてやれず、それについては本当に申し訳なく思っている。
 あ、トーバス家ってのは俺の恩人であるミュンの家だよ。つまり、サラはミュンが育てているということになる。え? 忘れてたって? そりゃ酷くないか?

 彼らドンネオル家と交代で年末に来るのは、レイノルズが家督を継いだアイゼンサイド家になる予定だと聞いている。レイノルズの父親で先代の従士長を務めていたベックウィズは流石にもういい年なので来ないだろうけれどね。レイノルズは妻子の他に弟のエンベルトとその妻も伴って来るそうで、彼らが住む住居についても探しておけと言われている。因みにエンベルトは結婚を機にアイゼンサイド家の奴隷となっているが、相変わらずゴムプロテクターを作らせたら最高の腕だそうだ。

 このアイゼンサイド家にも経理関係の仕込みを完了させればバストラルとキャシーは晴れてお役御免、俺の領地に連れて行ける。
 だから、この件については心配事と言うより時間が解決してくれる問題だ。
 でも、最初からバストラル達を連れていけそうにない事について、どうにも焦りに近い感じを受けている。なんとなく、不公平に扱っているような、いや、不当に扱っている気持ちがするのだ。

 冷静に考えて適材適所だとは思うし、勿論不公平でも不当でもない。後から参入したメンバーは一緒に連れて行くのに、バストラルだけその希望に反してまで居残りをさせるというところに……この妙な気持ちについては意味のないものだと理解してはいるんだけど、若くなった精神性が余裕を失わせている。

 次は、俺の領地への移住者についてだ。
 農奴を含む奴隷については金さえ出せば幾らでも買えるからあんまり問題はないんだけど、従士となる平民なんかについては少し問題がある。
 俺と入れ替わりにリーグル伯爵領から引き揚げて来る貴族たちも従士を持っている者が多いから、今決定している従士の数だけだとやっぱり足りないんだ。

 勿論、煉獄の炎(ゲヘナ・フレア)の連中を振り分ければかなり足しになるとも言えるが、それはそれで問題がある。まず、彼らにはゼノムのような平民家の家督者は一人もいないし、殺戮者スローターズのメンバーのように長年俺と行動を共にしてきた訳でもない。
 そのうえ、山人族ドワーフばっかりしか相手にしないから、教育の為にも騎士団に放り込む以外に選択肢は少ない。勿論、他のメンバーに不満が出る可能性もあるから騎士団に放り込むと言っても、本当の最下層からのスタートになる。つまり、当分の間あいつらは領地経営については戦力外だ。

 ああ、前にも言った通り鎧職人のおっさんと肉牛を飼育していたおっさんは囲い込んだ。
 だけど今話しているのはそういった商業的な、金で平民位を買ったような人や、戦闘訓練もしていない人ではなく、ちゃんとした従士の家系で生まれ育ってきたような人についてだ。
 農奴を指揮して土地を開墾して作物を育て、収穫してきちんと税を払い、いざとなれば剣を執って戦う事の出来るような、本当の平民だ。屯田兵みたいだけどな。ちょっと違うか。
 これらの平民候補者についてはわざわざ募集するまでもなく勝手に集まって来るのが頭痛の種になっている。

 俺の叙任式に参加した貴族たちが次から次へと紹介しに来るからねぇ。
 でも、自分の従兄弟の娘の三男だとか義理の弟の娘だとかなんだとか、よく知らない人を紹介して貰ったって困るんだよ。

 え? なぜ断るのかって?
 国王の遠い親戚の息子や娘を五人ばかり受け入れることを約束させられてるんだ。
 だって、庶子との婚姻を袖にした関係もあるからさ、断りきれなかったんだ。

 それに、兄貴や親父との関係もあって、ウェブドス侯爵の方からも是非にと頼まれちゃ嫌とは言えない。
 侯爵の親戚やバークッド近隣の村々の従士の次男次女など、こちらも合計して一〇人以上を受け入れる予定になっているんだ。
 彼らはその大半が独身で、辛うじて平民に引っ掛かっている者が殆どだけど、中には結婚して主家の奴隷になっているような人もいる。
 本当はリョーグ家の者達のように気心の知れたバークッドの出身者を引っ張ってきたかったんだけど、ゴム園の開墾や製品の製造なんかで実家バークッドだって人手は欲しい。だからこれ以上の無理は言えない。
 因みにバークッドでもそう簡単に新たな平民家を興すというのも後々問題になる可能性があるので、人手が足りない点については奴隷を増やすことで対処している。これは平民家がしっかりと土地に根ざし、奴隷たちの信頼と尊敬を集めているから出来ることだ。

 ……何にしてもこれだけ押し付けられちゃあ流石にお腹いっぱいパンパンだよ。

 つまり、既に移住が決まっている僅かな人たちを除けば選びたい放題の筈だったんだけど、やっぱり世のしがらみという奴は無視出来なかった。
 どうせよく知らない人なら少しでも関係がありそうな人の方がまだマシだろう。
 その御蔭で俺と縁のない全ての申し入れについて断らなきゃいけないのがかなりの負担になってるんだ。
 特に、俺の配偶者がミヅチ一人しかいない事を知って、自分の娘はどうだとかこうだとか言って来る人もいるので、そちらも一々丁寧に断るのが面倒くさ……困ってる。

 あとは本当に優秀そうな人が居れば若干名、というところだろう。

 で、最後の一つ。
 これがなかなかに難問だ。
 いや、難しくはないんだけどさぁ……。

 ラルファとグィネだよ。

 こいつらはこのところ勉強会には毎回顔を出すし、稽古も今まで以上に熱心にやっている。
 人を指導したいという欲求も出ているみたいで空き時間にはジェルに面倒を見させている俺の若手の戦闘奴隷の稽古をつけてくれてもいるようだった。

 ここまでならいい。全く文句はないし、むしろ喜ばしいとさえ思う。
 問題は先月辺りから普段の行動が妙な方向へとズレ始めて来た事だ。

 ある日の夕方、王城から丁度帰ってきた時にボイル亭に汚ったない身なりをした二人の浮浪者が入っていったので小僧に一言「あんなの泊めるんじゃねぇよ」とクレームを付けに行こうとしたら、嫌そうな顔をした支配人と浮浪者がフロントでなにやら話をしていた。知っている声だったのでよく見たら浮浪者に見えたのはラルファとグィネだった。

 別の日にはその薄汚れた汚い格好をして顔を隠すようにスラムをうろつく。
 顔を隠すようにしているのは二人はこの街ですっかり有名になってしまっているからで、他に意味は無い。
 で、スラムに根付くヤクザや冒険者崩れに挨拶されずにどのくらいの時間ウロウロ出来るか、みたいな事をやっている。

 理由を聞いたら胸を張って「スパイの練習」だと言われた。
 正体を隠して街に溶け込み情報を得るんだそうだ。
 それを聞いて暫し呆然とした後「……上手く行くといいな……」と言ったら「任せといて!」と胸を叩いて返事をされた。

 またある日、ゼノムに用があって部屋に行ったら扉から槍が出てたので覗き込んだら、胸ぐりが大きく開き、且つ臍も見えるような丈の短いシャツを着て、パンツが見えそうな短いスカートを穿くと言う、本当に品の無い格好をしていた。

 それだけなら苦々しいけど勝手にしろと思うだけだが、その格好のまま左腕だけに肩当て(スパールダー)から上腕当て(リアブレス)肘当て(コータ)前腕甲(ヴァンブレス)籠手ガントレットまでを付けて、右脚は腿当て(クイス)から膝当て(ポレイン)脛当て(グリーブ)戦闘靴ブーツを履き、妙なポーズで貫きの槍スピアー・オブ・ピアシングを構えるグィネを見てしまった。
 それを見ながらラルファが「右手はもう少し、こうね」とか言っていたのだ。

 槍自体は俺もガキの頃に少し仕込まれているから解ったんだが、どう見ても実戦的な構えではなかったので「それじゃ腰の入った突きが出来ないし、鎧を着けるならちゃんと全部着けないとバランスも悪くなって碌な動きは出来ないぞ」と口を出したら真っ赤になった二人に枕を投げつけられて扉を閉められてしまった。

 ふくれてミヅチに言ったら「ああ……なるほど」とか言ってあいつまで一緒になって妙なことをやり始めた。なんでも決めポーズや登場の仕方の練習らしいけど……呆れて物も言えなくなった。だいたい、見られて赤くなる程恥ずかしいなら最初からやるなよ。

 先週なんか、二人には全く似合わない品性の欠片もないようなどぎつい化粧をして表通りを歩いている所を見かけた時にはふとゼノムの顔が思い出されてしまい、何故か心の底から申し訳ない気持ちで一杯になった。

 慌てて追い掛けて声を掛けるとシナを作った声で「あら、坊や。お姉さんたちは高いわよ」とか抜かしやがった。反応が予想外過ぎていたたまれなくなったあまりに絶句しているうち、どこかに消えちゃうし。化粧の仕方はベルやミヅチに教えて貰ったらしいが、もし頼まれたのだとしてもあの二人があんなどぎつい化粧をしてやるとは思えないので、ラルファとグィネのオリジナルだとは思う。

 思い余ってミーティングの時に一言くらい言ってやろうと思って手ぐすねを引いていた。
 格好のこととか言動だとか、二十歳を過ぎた大人に対して一々指摘するのも大人げないと思う気持ちもあった。
 でも、養親であるゼノムの気持ちや、そのゼノムを召し抱えている俺の体面もあるから改めさせなければならないと思ったのだ。
 そうしたら、その時だけはごく普通のまっとうな格好をして来やがんの。

 それを見て俺も「流石にこいつらも恥を知ったようだ、もう大人なんだし自分で気が付いたのならいいか」と思って何も言わずに見逃してしまった。
 それに、皆の前で「品のない、みっともない格好をするな」とか「何だあのロッコが好きそうな服は」とか若い女性に対して服装のセンスを扱き下ろすような事を言うのも憚られたし。

 でも、それは大きな間違いであった。

 やっぱり大人だろうがなんだろうが、そんなの関係なしに“皆の前で”言ってやった方が良かった。

 ビンスとジンジャー、カームが言い難そうに文句を言いに来たのだ。

「お屋形様。ラルとグィネの事なんですが……」
「あの突拍子もない格好、バルドゥックに居る間くらいは……」
「スパイに必要な事かも知れないけど、変よ」

「はん? 必要な事?」

 思わずオウム返しになってしまった。だって、あまりにさぁ……。
 いや、ちょっと待て。スパイ?
 因みに、間者という語の一般的なラグダリオス語(コモン・ランゲージ)の発音は“キュピオン”と言う。
 昔、ミュンに『スパイ』と発音して通じなかったし。
 それを何でカームが?
 ま、いい。誰かが教えたんだろう。間違ってる訳じゃないし。

「え? お屋形様の命令で仕方なくって……」
「伯爵のご指示だと……」

「ああん? 俺ぇ?」

 予想外すぎる。
 訂正せねば。

「チキューの常識だって、皆も……」

 皆って……おい。

「いや、ちょっと待ってくれ。俺もあの二人の格好やなんかについては苦々しく思ってたくらいだぞ? そもそも何で俺が?」

 詳しく聞いてみると、二人は俺に伯爵領内の殺戮者スローターズ出身者以外の領地の様子などを探れと命じられたという。
 これは別にいい。
 皆に隠すようなものでもないし、根付きの領主達にもそれと気が付いて、囮の動向に注目して欲しいくらいなんだから。

 百歩譲ってスパイと呼べなくもない。

 でも、ラルファとグィネの奇行についてはこの三人だけでなく、皆も妙に感じていたので理由を聞いてみた。
 その返答はこうだったそうだ。

 “俺に間者働きを命じられた。地図を作りながら領内の様子を見て回れと言われた。つまりこれは領主たちの弱みを探れということで、要するに“スパイ”である”

 ここまでは前述した通り、いい。
 弱みを握れとか勝手に付け加えているところが、何と言うか、呆れポイントその1だけど。

 “スパイはオースで言われている間者とは違う”

 勿論、違わないから混乱しないで欲しい。

 “スパイとは単独もしくは極少数で敵地に潜入し、情報を収集する。戦闘を行い敵を倒すことが目的ではないので可能な限り正体を隠し、密かに行動する必要がある。その為、変装などは大切な技能である”

 最初から全然違うし。
 百万歩譲ってヒューミント接触の一つの理想形として認められないこともない。
 一方向にだけ異常にとんがってるけど。

 “従っていかなる事態においても慌てない冷静さ、知力、判断力、決断力、広範な知識も必要とされる。また、情報収集の過程において正体が露見してしまった場合など、必要に応じて単独で敵を撃破することが要求されるため、戦闘力に優れている必要もある”

 当然だが、否定した。
 いねーから、そんな奴。
 CIAやMI6でも裸足で逃げ出すだろう。

“情報収集のために色仕掛けを行うこともあるので美貌も兼ね備えていなければならない。まさに我々二人だけが条件を満たしていると言えよう”

 ここまで来ると呆れて物も言えなくなったがまだ続きがある。
 これを聞いてどう思ったんだ? と尋ねる事すら億劫だ。

 “地球という、我々転生者が育ってきた文明はオースよりも数段進んでおり、スパイについての研究もなされていた。その最新の研究成果に基づく科学的なトレーニングを行っている”

 と聞いてしまっては、頭の中に悪性の腫瘍でも出来たのかと思うくらいに気持ちが落ち込んだ。
 ミヅチやベル、トリスなんかも悪乗りして「その通り、彼女達こそ適任だ。しかし、トレーニングは必要である」と言っていたらしいから余計に始末が悪かった。
 尤も彼らにしても「ラルファ達がお館様の手の者として注目を浴びるなら、領主たちも気を遣わざるをえないだろうし、逆に安全だろう」と考え、また「もしもお館様に対して重大な隠し事をしているのであれば、わざとらしい手法で注目を集めようとしている事に気付いて今まで以上に気を張ることになり、不自然なアラが出て来る可能性もある」との結論に至っていたようだ。
 俺の狙いもそれに近いのでその点は安心したけど。

 転生者ではない皆にしてみれば半信半疑ながら、それならしょうがないのかなという気持ちだったようだ。既に実現した小銃や拳銃を始め、詳しい事までは話していないがほぼ全員が宮廷魔術師以上に高度な教育を受けている事などは知っている。オースの人にしてみれば「どうもおかしいように思えるが転生者達が揃って言うならそうなんだろう」と思っていたようだ。

 簡単に言うと「地球ではね、スパイは頭が良くて美貌を兼ね備え、且つ個人的な戦闘力も高い、優秀な人でないとなれないし、務まらないの。私達みたいな」と言っていたのを信じていた。ついでに「私達だって好き好んでやってる訳じゃない。アルに言われたから仕方なしにやってるんだ」と言っていたので彼女らはわかってやっていると思っていた。

 しかしながら、流石に奇矯過ぎるので俺が侮られたりすまいかと心配になったようだ。

 俺は「心配かけたようですまん。もう少し控えるように言っておくよ」と言って彼らを退出させると頭を抱えた。

 ラルファとグィネなら多少変な事はするだろうが、注目を集め易くなるから少しくらいならいいだろうと思っていたらこれだよ。

 別に彼女らに注意することは大したことではない。一言いえば済むし。
 問題は、バルドゥック中に“アホを飼っている貴族”だと宣伝しちゃったってことだ。
 ゼノムまで“アホの親”と思われたかも知れない。いや、きっと思われた。
 恥ずかしいよねぇ。



・・・・・・・・・



7448年10月23日

 いつも通り九時になる三〇分前に登城したら門番に「急いで二の丸へ向かえ」と言われた。
 指定された部屋に行くとブスっとした国王とゲンダイル団長、それに高位の政治家や騎士団長達が居た。
 ダースライン宮内尚書までいて、微妙な顔つきをしている。

「思ったより早く来たな。だが、早いならいい。座れ」

 大臣や騎士団長たちに挨拶をしながら指された席に座った。

「つい一時間ほど前、伝令が到着した。それによると、コミン村が陥落する可能性がある」

 俺が席に着くやいなや、国王は苦々しげな声音で衝撃的な言葉を吐いた。

「は?」

 思わず声を出してしまったが、それは俺だけじゃないようで、他の大臣クラスの人も何人か驚いた顔をして同じように声が出て騒然となった。

 でも、ちょっと待って。
 えーっと、確かコミン村って俺の領地じゃないよね?
 ……うん、違う。
 確かお隣のランセル伯爵領にある開拓村で、去年から今年にかけてそこそこ大規模な攻撃に曝され、ケンドゥス隊長率いる姉ちゃんたちによって防衛された。
 今回の戦ではガルへ村に対する囮攻撃があるだろうって言われてた村の筈だ。

 囮攻撃の規模は二〇〇乃至それ未満。
 対して駐屯している防衛兵力は二〇〇。
 防衛側が有利なことに加えて後方や周囲の村にも防衛兵力は駐屯しているからいざとなったらその倍は集められるから問題ないって……。

 つい先日、当時の二週間くらい前の最新情報だとベストール伯爵から聞いたばかりだし、数字は合ってる筈。
 それがたった一晩でなぜ?

「静まれ。ゲンダイル卿、説明せよ」

 ゲンダイル団長の説明によると、コミン村は今月の十二日にデーバス軍の攻撃を受けたらしい。
 その規模は当初の予想通り二〇〇弱くらいの数で、攻撃方法もあからさまな足止めであり、そんな時お決まりの嫌がらせに近いものだった。
 念のため、コミン村からは援軍要請が発せられたが、これは当然なのでいい。
 しかし、十五日になってから状況は一変する。

 当初の推測の通り俺の領地であるガルへ村は概算で二〇〇〇程の兵力による攻撃を受けた。
 だが、こちらはそれを上回る兵力で防御陣地を構築済みであり、後方にも予備兵力はいたので余裕だった。

 とりあえず余裕のガルへ村は置いておく。

 同日、コミン村に対する攻撃が切り替わったのだ。
 宮廷魔術師もかくやという程の高度な攻撃魔術が使用された。
 しかも連続して何発も。
 村の居住地を覆う防御柵は各所が壊されてしまったそうだ。

 このことから騎士団内部ではデーバス軍は複数の宮廷魔術師を投入したと判断した。
 そうなると周囲の村から多少援軍を集めた程度だと防衛しきれない可能性があるとの事だった。

 これを聞いて俺は僅かに動揺を感じた。

 何だ? この動揺。
 ……宮廷魔術師並の魔法使い?
 一人や二人ならそういうこともあるだろう。
 だが、もっと多い可能性が高いとの予測だ。
 幾つか考えられる。

 一つは、それほどの戦力をデーバスは隠して整えていた。
 今回、充分に整ったために囮と見せかけた作戦を立案し、コミン村に攻めてきた。
 ……無いとは言えない。でもそれだけ多くの魔術師を隠せる程の情報統制って果たして可能なのかね?
 ありそうな可能性としてはライル王国から戦闘奴隷を購入した、ということもある。
 今まで少しづつ買っていたとか。

 一つは、魔術師が複数じゃなかったら?
 はっきり言って俺や姉ちゃんなら可能だ。
 その場合、デーバスには魔力を著しく増大させた奴が居るという事でもある。
 転生者かも知れないし、そうじゃ無いかも知れない。
 でも、ここは転生者を疑うべきだろう。

 他には……。

 
先日、カドカワ様の小説投稿サイト、カクヨム(https://kakuyomu.jp/)がオープン致しました。

 本作の版元という御縁もあり、カドカワBOOKS様の公式連載ページにて私も一つ、書き始めています。
 小説は「銀河中心点-アルマゲスト宙域-」というタイトルで、ジャンルはSFです。

https://kakuyomu.jp/works/4852201425154963628

 1960~70年台あたりの古い香りがする感じの作品になると思います。
 SFというジャンルですが、いわゆるハードSFみたいなガチガチなものではなく、緩くて考証もデタラメな作品です。

 私は隔週更新で勘弁して頂いおりますので次回は14日の予定です。
+注意+
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