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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第二十三話 コミン村の攻防、決着

7448年10月17日

「う……そうか。それは仕方ないな。解った」

 怪我人の治療をレーンに頼んでいたツェットだが、周囲の部下の目を気にしてか少し気圧されたような感じで言葉を絞り出した。

「うん。ごめんね。でも、全員をきちんと治すとなると、流石に一度には無理よ」

 昨日、コミン村を占領するまでは「命に関わりそうな重傷者のみ、命が助かるレベルまで治療してやって欲しい」との要望だったので、レーンとしてもそう多くの魔力を使う必要はなかった。

 だが、占領後の夕食の席では「怪我人全員を完全に治療して欲しい」と要求のレベルが大きく跳ね上がったのである。

 戦死者も出ている上に捕虜の見張り要員として生存者の三分の一に当たる人数が減ってしまうので、更に奥地へと侵攻するためにはどうしても必要な要求であった。
 北にあるワッカ村を攻略するにあたって、戦闘員の人数が当初の半数近くにまで減ってしまったからには僅かな不安要素でも潰しておく必要があるのだ。

 それに、兵士にとっては自分や戦友の傷が完全に癒えてすらいないまま次の戦場に赴くなど士気を大幅に下げる要因以外の何物でもない。
 まして、今は歴史的な大戦果を伴っての勝利を掴んだばかり、本来なら今帰ってもかなりの報奨が期待出来る状況なのだから、僅かでも厭戦気分を増幅させるような芽は摘んでおかねばならない。
 既に兵士達の大半は今回の戦果に満足し、命があるうちに帰りたいという気分が見え隠れしているのだから。

 レーンにしても、それは理解しているので文句一つ言わずに協力した。
 しかし、如何せん数が多すぎる。
 デーバス軍だけを取ってみても、重傷者だけで二〇人を超し、軽傷者も含めれば優に一二〇人以上の人が何らかの治療を必要としていたのだ。

 人によっては傷は一箇所ではない上に、それぞれの傷について痛みまで無くす事を要求されては、いかな宮廷魔導師といえどもたった一人の魔力ではとても足りないし、精神の方も限界近くまで擦り減らす事になってしまった。
 勿論、レーン以外でも治癒魔術を使用可能な者は総動員した上でのことだ。
 それに、ロンベルトの捕虜についても身代金が取れる可能性がある以上、最低限の治療だけはしておかねばならない事も更に大きな負担としてのしかかってきていたのである。

「……確かにな。まぁ、シュリカーン准男爵も無茶攻めさえしなければ戦線を膠着させることくらいは問題なく出来るだろうし、ロンベルトが援軍を送って来るにしてもあの場を離れられる者はもう全部着いちゃったみたいだしな」

「ああ、それ。捕虜を尋問する必要があるのは認めるけど、出来れば私に聞こえないところでやってよね」

「……すまん。気を付けるよ」

 ツェットもなかなかに思慮深く考える質だが、流石に攻められている最中の防衛拠点から半数近くの人数を抽出することまでは予想していなかった。
 実は全く予想していていなかった訳でもなく、最悪の場合はそういう事もあるかもしれない、くらいには考えてはいた。

 しかし、ガルへ村守備隊から半数も一気に抜けてしまえば流石にシュリカーンも見過ごすはずはない。勿論、増援の移動を直接阻止する動きを期待するのではなく、守備隊が半減したガルへ村に攻撃を掛けることで進発した増援を引き戻すことになるだろうと思い、大規模な増援が送られてくることについては時間的にかなりの余裕が有るだろうと予測していたのである。

 その為に、殊更自分たちの功績を大きく誇りつつも軽挙することが無いように命令を発していたのであった。

 また、今回の作戦目的として、コミン村の占領と更に奥地のワッカ村の占領についても王宮内では通達されているが、本当の目的は占領地の拡大ではない。
 ツェットら転生者達に大きな手柄を立てさせることが最大の目的であり、それ以外はかなり優先度は落ちる。
 ある意味で、最大の目的自体は既に達成していると言っても過言ではない。

 とにかく、こうしてこの日と翌日、翌々日と実に三日間に亘ってデーバス軍はコミン村から出撃することは叶わなかった。



・・・・・・・・・



7448年10月18日

「まだ動きはない、か」

 バルキサス士爵は物見の兵からの報告を受けて呟いた。

「……妙ですね。おい、貴様。コミン村が一昨日占領されたというのは本当なのだろうな?」

 士爵の部下である第一騎士団の騎士が物見の兵に尋ねた。

「はっ。一昨日の夕方、戦況偵察に見た限りですとコミン村の居住区内にデーバス軍が入り込んでいたのは確実です。我が軍の兵たちは数人ごとに防柵に縛られ始めておりましたのは確実です」

「そうか……すまん。そう言っていたものな。しかし司令官。こちらの、コミン村方面が敵の本隊だとしたら、そろそろ動きがあっても良さそうなものかと思いますが。それともコミン村を占領したことで作戦目的を果たしたのでしょうか?」

 バルキサス士爵以下、第一騎士団の騎士を中心として一〇人に満たない少人数で編成された指揮部隊は、最低限の休息のみを取ることで昨日の朝にはワッカ村に到着していた。
 その際にはワッカ村が健在であることにほっとしたものだし、一縷の望みを掛けてコミン村の状況を尋ねたのだ。

 しかし、時既に遅く、コミン村は彼らがワッカ村に到着する以前に陥落していた事を知るのみであった。
 仕方がないので、既に開始されていた陣地構築の指揮を引き継ぎ、歩兵部隊の到着を待ちながら一両日中に行われるであろう戦闘に備えて迎撃体制を整えることに腐心していた。

 そうしているうちにランセル伯爵領の郷士騎士団も昨日中にはワッカ村に到着し、ワッカ村を守備する兵力の数は元々駐屯していた守備兵力と合わせて騎兵が三〇人、歩兵が二〇〇人程になったのである。
 この他、早く見積もればリーグル伯爵領の後方段列としていた第四騎士団の歩兵部隊約四〇〇が明後日の昼には到着するだろうし、明々後日には第二騎士団の第一大隊と第三大隊から抽出した歩兵部隊約一〇〇〇が到着するはずである。

「……デーバスの増援が無いというのは本当なのだな? 見落としの可能性は?」

 厳しい口調で問うバルキサス士爵。

「は。……その、私を含め、偵察部隊では増援があったことを確認しておりません。伝令は何度か出していたようですので増援の催促は行われているものと予想は出来ますが……」

 バルキサス士爵としては物見の兵の報告について疑う訳ではないが、腑に落ちないものを感じていた。それは彼の部下達も同様である。

 恐らく、デーバスは最初から本気でコミン村を落とすつもりだった筈だ。
 理由は幾つか考えられるが、報告の通り非常に優れた魔術師を擁する部隊が単なる囮として使われるというのは非常に考え難い。

 また、その魔術師にしてもデーバス軍の上層部がその実力について知らなかったなどという話はあり得ないと思っている。
 それだけ優れた技倆を持つ魔術師ならば軍人になる以前からかなりの腕であった筈であり、ある程度の名声を集めていたと考えるのが自然だからだ。
 軍人でなかったとしても、宮廷魔術師もかくやという程の腕と魔力量を誇っていたのであれば尚更である。
 事によったら本当に宮廷魔術師でも引っ張り出してきた可能性も高いとすら考えている。

 つまり、デーバス軍の上層部は魔術師について知っていなければおかしい。
 もしくは魔術師自体がデーバスの指揮官であることすら考えられる。
 宮廷魔術師を引き出した代わりにその人物に指揮官の地位を与える事くらいはあっても不思議ではないだろう。
 であれば、デーバスの作戦趣旨について頷けなくもない。

 少人数の囮部隊だと思わせておいて、実はそちらこそが本命であり、こちらの守備隊については本命に見せかけたガルへ村に集中させ、守備隊の増援の少ないうちに電撃的にコミン村を占領するのだ。
 ロンベルト側にしても元々国境守備隊の人員には多少余裕もあるから、大規模な物は難しいが守備隊の増援自体はすぐにやって来る。
 それらを含めて順々に、または一気に撃破出来ると確信に至るくらい魔術師に信頼がなければ話にならないが、信頼が置けるのであればそれなりに有効な手であると言える。

 コミン村に攻撃を掛けた当初は大した魔法を使っていなかったようなので、ある程度増援を集めてから叩くつもりだったというのは信憑性が高いと思われた。

 多少の抜けはあるものの、ここまではバルキサス士爵らもほぼ正確にデーバスの作戦を見抜いている。

 問題は現在の状況であった。

 想像通り、コミン村を占領した部隊が本隊だとすれば、当然その後方には占領を維持する部隊や獲得した捕虜を後送する部隊、失われた戦力の補填を行う予備兵力、また、常識で考えれば増援が存在していなければ不自然である。
 なぜなら、コミン村へはまず周囲の村から援軍を送っていたため、このワッカ村にしても居残っていた守備隊は一五〇人を切っていたのだし、それは他の村も同様である。
 それだけの魔術師を擁しているのであれば手薄になった後方の村に対して追加の攻撃を行い、切り取れるだけ切り取るのが筋というものだからだ。

 コミン村の戦況について報告を受けた際に、これらのことについても予想をしたからこそバルキサス士爵は大胆にも戦力の半数を増援として送る決定を行ったのだし、自らもワッカ村防衛に急行したのだ。

 それが完全に肩透かしを喰らってしまった形であった。

 とは言え、未だ増援兵力も到着しておらず、デーバスの攻勢に対する用心を怠る訳にはいかない。
 コミン村の奪還に向かう事についても魔術師の存在に加え、ワッカ村を空にする訳にも行かないので現時点で採用可能な行動ではあり得ない。

 こうしてバルキサス士爵達は粛々とワッカ村の防御陣地構築に精を出すほか、可能な限りの偵察隊を送る以外に出来ることはなかった。



・・・・・・・・・



 深夜のコミン村。
 臨時司令部として接収した前領主、ミドッジズ士爵の邸宅の一室ではツェットとミュール、ヘックスの三人が額を突き合わせて小声で話し合っていた。

 ダヴリン卿には酒を大量に飲ませて客間らしき部屋で大鼾を掻いて貰っているし、レーンは戦闘奴隷のジャックに変身したアークに見張りを頼んで別の家で休んでいる。

『で、どうする? ワッカ村も平らげるのか?』

 ミュールが炒り豆を齧りながらツェットに尋ねた。

『それな。まぁ、可能なら当然やるさ。流石にまだそう多くの増援なんか来ちゃいないだろうし。明日は無理でも明後日なら行くだけは行けるだろ』

 ツェットもボリボリと豆を噛みしだきながら返事をする。

『まぁ、ポーズだけはしっかり取っとかないとな』

 ヘックスは接収して解体した豚のヒレステーキを噛み千切りながら言った。
 調理されてからかなり時間が経っているのでステーキは冷たく、固くなっている。

『ん……向こうさんの守備体制がよっぽど後手を踏んでいるようなら当然ワッカ村も戴く。でも、流石に守備隊の一〇〇や二〇〇は残ってるだろ……ロンベルトの豆は不味いな。ステータスオープン……ヒエ豆? 知らんわ』

 ツェットは炒り豆の乗った皿を脇に押しやると塩コショウのみで味付けされた豚ステーキにナイフを入れた。

『そうか? 俺は結構気に入った。生の豆持って帰ろ。まぁ、攻撃するって言ってもマジな話、行けるのは一〇〇人くらいだし、幾らレーンが居ても流石に攻略は難しいだろうな……よっぽど守備隊が少なそうなら話は別だけど。ちらっと見てさっさと帰って来るさ。兵隊達も今更危険な突撃なんか誰も本気でやりゃしないって。中途半端にやらせても犠牲が増えるだけだ』

 ミュールはツェットが押しやった皿を引き寄せて、残っている豆を自分の皿にあけた。

『そりゃそうだ。折角勝ったんだし、誰が今更真面目にやるかっつーの。それに、今手柄を立て過ぎてもまずいんだろ? アレクもセルもあんまやり過ぎんなって言ってたしな』

 ヘックスはこれも接収したミドッジズ士爵秘蔵のワインを瓶から直接飲んだ。

『ん~、まぁ、ワッカ村についてはやり過ぎって程じゃないけどな。でも、レーンが居ればいつでも取れるし、今回は当初の予想以上に多く捕虜が得られている。一気に手柄を上げ過ぎてもな。これ以上やっかみの方が大きくなったらそれはそれで面倒くさい』

 そう言いながらツェットはスープを啜り、口髭に付いたスープをナプキンで拭う。

『確かにな。今後の事もあるし、ハードルはあんまり上げ過ぎない方がいいだろ。そっちのワイン、美味いか?』

 ミュールは豆をワインで飲み込みながら、ヘックスの持っているワインにも視線を注いでいる。

『結構いける。ほれ』

 ワインの瓶をミュールに渡しながらヘックスは、そろそろ帰れそうだな、と考えていた。



・・・・・・・・・



7448年10月20日

「そうか、防御陣をな……それに黒鎧も居たのか」

「は。なお、守備隊の兵力は二〇〇以上、三〇〇未満かと……」

 ワッカ村への偵察隊の一部が帰還して来た。
 因みに偵察隊は正規兵を五チーム、それぞれ二人一組で昨日から送り出していたが、無事に帰還を果たしたのは僅かに二チームのみであった。
 流石にこの犠牲はツェット達も読めなかった。

「増援もありませんし、無理でしょう」

 ミュールは殊更に増援がないことを言い立てる。

「サグアル卿の言う通りですな。今回は囮役の我々のみでコミン村を占拠できましたし、これだけ大量の捕虜を得られたのです。大勝利ですし、こちらも増援が到着するまで防御を固めた方が得策かと……」

 ダヴリン卿も訳知り顔で頷いた。
 彼もデーバスの軍人であるからには可能ならワッカ村も攻略出来た方が良いとは思っている。
 しかし、確実に成功する見込みがあれば、の話だ。
 レーンを擁するとはいえ、戦死者や彼が指揮するコミン村の維持部隊を除けば当初の半数近くにまで減ってしまった攻撃隊では倍の戦力が守備を固めるワッカ村への攻撃は無謀とも言えた。

「……戦力がない以上、致し方ないな。宮廷魔導師殿がおられても流石に人数差が大き過ぎる」

 心から残念そうにツェットは言った。

――もう第一騎士団が到着して防御陣も完成間近だとは……軽々しく攻撃しなくて良かったか。あと一〇人もやられたら攻撃部隊すらまともに割れない以上、こりゃ本当にどうしようもない。

「司令官殿、そう気を落としなさいますな。今、この場に増援が無いのは元々囮部隊ですし、仕方ありません。それに、充分な戦果を上げておられるではありませんか」

 ダブリン卿はツェットを慰めるように言うが、その口調には紛れも無い安心感も滲み出ている。
 もしもツェットが攻撃を仕掛けて敗れたのであればコミン村まで奪還されかねないのだ。
 そうなってしまったらここまでの戦果も水泡と帰してしまう。
 捕虜の後送部隊は今日の夕方に到着する予定であるので、何としても明日までは攻撃を受けたくない。

 レーンを擁してコミン村に篭って居る限りはこちらの数倍する敵が攻めてきても相当な期間粘れるであろう。
 攻めるより守る方が格段に楽であるのだから。
 そして、コミン村占拠の報についてはとっくの昔に発しており、こちらの増援は後送部隊と共に、確実に近づいてきている。
 増援である占領維持部隊が到着し、二、三ヶ月様子を見たうえで何事も起こらなければ王都に凱旋が叶うのだ。




・・・・・・・・・



 七四四八年十月二〇日。
 コミン村の攻防はデーバス軍の偵察隊六名を最後の犠牲として終息した。
 戦後処理としてデーバス王国からロンベルト王国に請求された身代金は総額で五十億五千万Zにも達し、そのうち半年以内に支払われた金額は三十七億Zにも満たなかった。
 払えなかった金額の大部分は余裕のない平民や自由民出身の兵士の身代金である。

 両国の国境紛争において、村を失ったり得たりすることは度々あるが、デーバス側がこれだけ多くの捕虜を得た記録はここ数十年来一度もなかった。

 
 先日、カドカワ様の小説投稿サイト、カクヨム(https://kakuyomu.jp/)がオープン致しました。

 本作の版元という御縁もあり、カドカワBOOKS様の公式連載ページにて私も一つ、書き始めています。
 小説は「銀河中心点-アルマゲスト宙域-」というタイトルで、ジャンルはSFです。

https://kakuyomu.jp/works/4852201425154963628

 1960~70年台あたりの古い香りがする感じの作品になると思います。
 SFというジャンルですが、いわゆるハードSFみたいなガチガチなものではなく、緩くて考証もデタラメな作品です。

 もしご興味があればご一読頂けますと幸いです。
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