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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第十八話 侵略者

7448年9月30日

「では、准男爵閣下、よろしくお願いします」

 白銀に輝く金属鎧プレートメイルに身を包み、颯爽と軍馬に跨った山人族ドワーフの若者が同様の格好で隣に立つ男に頭を下げる。
 若者の名はズヘンティス・ヘリオサイド。

 親しい者はツェットと呼ぶ、このデーバス王国軍の臨時司令官だ。 

「うむ。本隊の方は任せておけい。准爵も陽動の方、しっかりとな」

 尊大な口調と表情でツェットに返答するのは、ツェットと同様にデーバス王国白凰騎士団の百人長の位にあるギリアム・シュリカーン准男爵。
 臨時司令官に昇進する前のツェットと同格であった副司令官である。

「ふ。コミン村をおとしてしまっても構わんのでしょう?」

 ツェットより一回り上の年齢と准男爵という、准爵よりも数段上位の爵位を持つからには、如何に現在はツェットの方が上役とは言え、丁寧に接する他はない。

「ふん、そなたも冗談を言うのだな。それが可能なら勿論素晴らしいことだ」

 そもそも臨時とは言え、若く経験が浅いだけでなく、准爵という低い爵位しか持たないツェットが侵攻部隊の司令官に任命されたという事自体が貴族位を重んじるデーバス王国では異常とも言える人事だ。

 シュリカーン准男爵にしても若くして自分と同格の百人長に昇進しているツェットの存在自体が常から面白くないと思っていた。
 ツェットの武勇は認めているし、その生真面目な性格も理解している。
 それに王太子や公子といった雲上人の友人でもあることもよく知っている。
 だから年若く経験も浅いツェットが准男爵と同様に副司令官に任ぜられたのも不承不承ながら認めていた。
 しかし、今回の人事で自分を大きく追い越して五百人長や千人長とも言える、限りなく将軍に近い役職相当になったことについてははっきり言って気に食わなかった。

 ツェットとしてもそのあたりの事情は十分に理解しており、可能な限り丁寧に、謙っての対応を心掛けている。

 そんなツェットが臨時とは言え、重要な司令官に収まっているのは理由がある。

 今月の半ば、王宮から二通の通達が届いたのだ。
 そのうちの一通には本来の司令官であるデンビル男爵を「デーバス王国最強の騎士団である白凰騎士団の食料横流しの汚職の咎で捕らえ、公開処刑せよ」とはっきりと記載されていた。
 また、併せて証拠や証人なども反論の余地もない程詳細に提示されてもいた。

 公金で賄われている軍隊の食料横流しなどはどこの騎士団でも多かれ少なかれあるものだ。
 デーバス王国、いや、オース一般の国々であれば処刑される程悪辣な犯罪と言う程でもないし、デンビルは正式な男爵位を持つ貴族であるから、本来なら更迭や重くても爵位剥奪で済ますのが通例である。
 しかしながら、白凰騎士団は王家直轄の騎士団でありデーバス王国を代表する精強な軍隊だ。流石にそこでの汚職が見逃されるほどデーバス王国も甘くない。今回は綱紀の粛正と、他の同様の汚職に手を染めている者に対する見せしめの意味も込めて厳しい裁定が下された形だ。

 そして、デンビル男爵の食料横流しの汚職自体は真実である。
 真実であるが、そもそもデンビル男爵が汚職に手を染めるよう、数年がかりで罠に嵌めて同時に証拠についても併せて収集していたツェット達が決まりきった勝利を収めただけだ。

 これについて、王太子であるアレキサンダー・ベルグリッドは「誘惑に負けねば良い手駒……協力者となっていたかも知れぬが、汚職に手を染める決心をしたのはあくまでデンビル男爵である。誘導したのは我らであるが、それに心を痛める必要はない」と側近の友人に漏らしていた。

 また、その通達には処刑は王太子やツェットの友人であり、デーバス王国稀代の魔術師として、唯一無二の宮廷魔導師に任じられているレーンティア・ゲグラン准爵が魔術によって行うようにとも記載されていた。

 レーンティア・ゲグランという女性はレベルアップするためとは言え、犯罪者への魔法による処刑にも同意しなかった人物である。なお、汚職については生来の気質からか激しく嫌っている。

「汚職というのは民衆への裏切り。仲間への裏切りと同義だわ。こんな世界、裏切り者だけは許せない」

 というのが彼女の弁である。
 勿論、彼女にはデンビル男爵を誘導して汚職に手を染めるように導いたことについては知らされていない。

 そんな彼女が今回従軍しているのは、表向きには宮廷魔導師としての戦場の視察である。
 だが、真実は友人であるツェットやミュールからの要請を受けてのものであった。

「今回、俺は初めて副司令官として参戦する。責任ある立場での初めての出陣だ。出来れば勝利で飾りたいし、何より戦死者を減らしたい。場合によっては人を殺める事になるかも知れないが、どうか俺を、ミュールを助けてはくれないだろうか」

 その場にいた王太子や公子からも頭を下げて頼まれ、更には懇意にしている冒険者の友人、ヘクサーからも「それなら俺を護衛として連れて行け。レーンが魔術の精神集中をしている間、きっちりと護ってやるから」とまで言われて渋々ながら従軍することにしたのだ。

 司令官であるデンビル男爵の汚職を知らされたレーンは激怒した。

「食料の横流しなんて……! 許せない! 各地から徴兵されてきた皆は薄いお粥(ポリッジ)と一欠片の干し肉しか配給されていないってのに!」

 レーンに対して食糧事情の悪化を演出するために王都ランドグリーズからの出征以降、彼女と彼女の周囲の兵士には毎食を彼女の大嫌いな燕麦オートミールお粥(ポリッジ)ばかりを配給してきたのだ。彼女の性格であれば途中で自分だけ好きな物を購入して食べるなどという事はすまいと予想されていたので効果は覿面だった。

 臨時の処刑場となったボンダイの街の中央広場に引き出されたデンビル男爵は敢えて傷だらけの縄で縛られていたのだが、処刑の寸前に獅人族ライオスの特殊技能である瞬発インスタンテニオスを使って拘束を引き千切り、遁走しようとした。しかし、レーンが念じた通りに目標に向かって追従する驚異の魔術によってあっけなく重傷を負い、動けなくなったところに更に魔術を叩きこまれて死亡した。

 そして、もう一通の通達に「臨時の司令官として副司令官であるズヘンティス・ヘリオサイド准爵を繰り上げ任命する。副司令官のギリアム・シュリカーン准男爵はそのまま臨時の司令官の補佐をするものとする」という内容が記載されていたのである。

 こうしてツェットは百人長という階級にも拘わらず、臨時司令官の椅子に座ることとなった。

 なお、十人長や百人長という階級はデーバス独自のもので、文字通りの意味ではない。
 ここで言う十人とは、指揮下に置く騎士や騎士候補たる従士、無任期の志願兵の人数をさす。
 デーバス王国軍の七割程を占める徴兵された任期制の兵士は正規軍の人数として勘定には入っていない。
 ロンベルト側の軍制に当て嵌めると十人長で小隊長~中隊長クラス、百人長で中隊長~大隊長クラスである。

 しかし、なぜツェットは大人数の部隊をシュリカーン准男爵に任せ、自分は陽動とも言える少人数の部隊指揮を受け持ったのであろうか。

 それには理由がある。

 今回の作戦目的。
 勿論、真の狙いはツェットを始めとする王太子の息の掛かった人物に手柄を挙げさせ、昇進させる事である。

 そのため、今回の侵攻作戦は表向きの作戦と実際の作戦とで二重の作戦計画となっている。
 その全容について知っているのは侵攻部隊の中でもツェットをはじめとする僅か四人しかいない。

 表向きの作戦は当初の予定通り、ダート平原の西部にあるロンベルト王国の開拓村であるガルヘ村の奪還である。村を作ったのはロンベルト王国だが、そもそもは昔デーバス王国が陣を張るために木々を伐採した場所である。
 その跡地を利用してロンベルト王国が建村して以降、一度はデーバス王国が占領下に置き、新たなガルヘ村を作った。
 しかし、七年前に再びロンベルト王国に奪い返されてしまっていたのだ。

 今回の出兵目的はガルへ村の再奪還である、と侵攻部隊には伝えられていた。
 しかし、デーバスの王宮内部には真の狙いはガルへ村の東方、数十㎞も離れた位置にあるコミン村の占領であると秘密裏に通達されている。
 昨年、満を持して攻略戦を仕掛けたものの、予想外に頑強な抵抗に遭って作戦失敗したばかりの村だ。

 デーバス王国としてもあまり開発の進んでいないダート平原の西方の村よりも中央に近い場所を勢力下に置いた方が何かと都合が良い。
 そのため、王宮では再攻略について根強く主張する者も少なくはなかった。

 彼らの意向を汲むと同時に将来への橋頭堡の確保、ツェットを含む関係者の昇進や発言力の強化を目的として企図された作戦である。

 真の作戦では徴募兵も含めて僅か二百人という手勢のみを率いてコミン村に侵攻するツェットの部隊こそが本隊であり、シュリカーン准男爵が指揮するガルへ村侵攻部隊の方が陽動である。

 レーンが従軍を良しとしないのであれば彼女にも真の作戦目的を明かして改めて協力を取り付けるつもりであったが、渋々ながらも従軍してくれたために必要以上に明かされることなくここまで首尾よく事を運べたのは上出来と評して良いだろう。
 尤も彼女自身、薄々は感づいてもいたし、今後のデーバス王国発展に尽くす覚悟も固まっている上に、自分自身の駒としての能力や戦力的な価値についても知悉していたことも大きい。
 レーンもベンケリシュの迷宮内で出会った冒険者を殺したこともある。

 勿論、シュリカーン准男爵に預けた部隊でガルヘ村が占領出来ればそれはそれで万々歳ではある。
 しかし、ボンダイの街に侵攻部隊であるデーバス王国軍が集結していることについてはとっくにロンベルト側にも抜けているであろう事は想像に難くない。
 ロンベルト側もむざむざと占領させる筈もないのでそれなりの陣容を張って待ち受けている筈である。

 シュリカーン准男爵にはせいぜい粘って貰い、ロンベルトの守備隊主力を引き付けておいて貰わねばならない。
 その為にツェットは「臨時司令官を拝命せよとの事ですが、百人長としての先任はシュリカーン卿です。ガルヘ村攻略部隊についてはシュリカーン卿に率いて頂くのが適切かと存じます」とシュリカーンのプライドをくすぐるように言って自分は陽動と目されるコミン村への部隊指揮を申し出たのだ。
 勿論、シュリカーンが指揮する部隊については決して本隊などと発言したりはしていない。
 また、自分の指揮する部隊についても陽動部隊ではなくあくまでコミン村攻略部隊と呼称していた。
 全軍の一割にも満たない少数を本隊と捉えることは難しい。

 シュリカーン准男爵も「宮廷魔導師殿も我が部隊の視察を希望しております。一緒に連れて行っても?」と言われて鷹揚に頷いていた。

 シュリカーンとしては僅か二百人程度の部隊で陽動を行うツェットに器の大きさを見せつけたいという事もあるし、多少の戦力になろうとも宮廷魔導師を激しい攻略戦のさなかに失ってしまっては功績に傷もついてしまう。むしろ宮廷魔導師の援護無しでガルヘ村の攻略を成し遂げ、功績を独占したいと考えての了承でもあった。
 陽動であるコミン村に対してそこそこの魔術の使い手が参戦していることも、どうせすぐにロンベルト側に伝わるであろうし、そちらの方がコミン村への守備隊の移動を促せる可能性も高まる。その分ガルへ村に留まる守備隊の人数や質を減ずる事すら考えられると思ったのだ。

 作戦開始はコミン村攻略部隊が戦端を開くのが二週間後の十月十二日。
 情報がロンベルト側に伝えられ、ガルへ村の守備隊の陣容が薄くなり、早急に戻ることが難しいと思われる日程が三日後の十月十五日であり、ガルヘ村攻略部隊はそれに合わせるため、十月十一日にはこのボンダイの街を出発する予定である。

 ツェットはミュールを含む十人の騎士と二十人の従士、五十人の正規兵、百人ほどの徴募兵、それに宮廷魔導師であるレーンと彼女の護衛を受け持っている冒険者のバーンズ、固有技能を使って戦闘奴隷に変身しているストライフを伴って小雨の降る森の中を、コミン村を目指して出発した。



・・・・・・・・・



7448年10月12日

 ……ピィーッ!……

 南西の方角から掠れそうな程小さいが特徴的な笛の音が響いた。
 村の周囲を取り囲む森の奥、数百mは先だろうか。 

 それを耳にしたのはロンベルト王国の天領、ランセル伯爵領の最南端のコミン村を守備するために駐屯している第二騎士団の第四大隊、第三中隊の中隊長であるベグローズ准爵である。

 西隣りのリーグル伯爵領のガルへ村への侵攻を企図して組織されたであろうデーバス王国軍がボンダイの街に入ってから二ヶ月近く経過していることは彼もとっくに知っていた。

 ガルへ村攻略の陽動としてコミン村に対しても攻撃が仕掛けられるであろう事は予測されており、その予測通り二週間ほど前に少数の部隊が本隊から先発しているという報告も入っている。それ以来どこかの村が襲撃を受けたという報告はない。あの笛の音は予測が正しいという証明だ。

 定期的にパトロールに出していた小部隊の行動を南西方面に重点を置き、侵攻してくるであろう方向に哨戒網を絞っていた甲斐があったとベグローズ准爵は胸を撫で下ろす。

 合図の笛を吹いたパトロール部隊も今頃は必死に後退をしているであろう。

「よーし、合戦準備! 数はこっちの方が少し多いからな! 撃退するぞ! あと、ロブ、お前、相手の人数を確認してからワッカ村までひとっ走り行って敵襲を伝えてこい!」

 ベグローズ准爵は部下たちに檄を飛ばすと慣れた動きで軍馬に跨る。
 少しでも高い場所から見渡した方が戦況も分かり易いし、発する命令も遠くまで届く。

 コミン村は他の開拓村と同様に村の周囲の森を切り開いて耕作地にしている。
 中心部の居留地は大体円形をしており、その周囲のみ簡易的な柵を張り巡らして騎馬や外敵の侵入を防いでいる。
 柵は日本で言う馬防柵の出来損ないのようなもので、堀も土塁も無いが、当然その手前で敵の進撃は止まる。
 その形状は先を尖らせた直径二〇~三〇㎝程、高さ二~三m程の木材を数一〇㎝間隔で杭のように地面に生やし、その間を横木で三段に結んだものだ。
 耕作地は居留地よりも圧倒的に広いので、耕作地全てを守ることは流石に難しいことと、開墾によって段々と広がっていくために耕作地に柵はない。

 准爵の部下達が耕作地に出ている農奴や平民に避難を促す。

 耕作地を所有する者達には申し訳ないが、折角再建の進んでいる耕作地は再び蹂躙されてしまうだろう。

 ベグローズ准爵が率いる守備隊がこの村に駐屯を開始してから半年ほどが経っているが、その間に親しくなった者達の顔が彼の胸に去来した。彼らはじきに全員が村の中心部、領主の館周辺に避難を完了するだろう。

 先ほど命じたロブが彼の軍馬に跨がり、北側に位置する門から出て行った。
 北の森に潜み、襲撃を行ってきただいたいの人数を把握したらそのままワッカ村に向かって報告に行くのだ。もしも襲撃部隊の人数が予想より多かったとしてもワッカ村にいる連絡員が更に奥地にあるガーランスの街まで報告に行き、そこに駐屯している部隊を引っ張ってくるまでどんなに遅く見積もっても一週間だ。

「こっちに向かっているのは輜重も含めて二百人程度らしいからな。落ち着いて対応すれば全く問題にならん!」

 部下の気持ちを落ち着かせるため、准爵は余裕たっぷりの表情で言う。

「さぁて、避難が終わったら門を閉めろ! 槍持ちは定位置へ! 弓隊は五人組での行動を心がけろよ!」



・・・・・・・・・



7448年10月15日

 コミン村に襲撃を掛けてきたデーバス王国軍は総勢で百数十名だと思われた。
 時折散発的に騎馬が畑を踏み荒らして回っているが、弓の届く距離に近寄りそうになるとすぐに後退し、両軍とも戦死者すら出ずに睨み合いを続けている。

 陽動攻撃にありがちな露骨な足止め策と言える。

 デーバス王国軍が姿を現してから今日で四日目。

 そろそろガルへ村でもデーバス軍の姿が見られた頃だろうか。

 ベグローズ准爵がそう思って、粘って無理をしなければ戦死者ゼロもありうるな、と思った時だ。

 村の北側の柵で大きな爆発があった。

「まさか……ファイアーボールか……? 信じられん……」

 本格的な攻勢の狼煙が上がった。

 
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