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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第一部 幼少期~少年時代

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第三十八話 間者からの解放

今回から話のはじめに日付を入れてみます。
7438年4月4日

 あれからひと月程が経ち、今は4月に入ったばかりだ。そろそろファーンが帰ってくる頃のはずだ。すでにファーンは16歳になり、順当に行っていれば既に正騎士の叙任を受けたか、もうすぐ受けるか、と言うところのはずだ。

 年が明けて最初のゴム製品の騎士団への納品の後、ヘガードが喜んで帰って来たと思ったら、ファーンが正騎士になれそうだとの知らせを持って帰ったのだ。騎士の叙任は3ヶ月に一回程度行われるそうだから、年が明けてからの次の叙任は4月だろう。ヘガードもそろそろ40の大台が見える歳になっているから、ファーンが戻り、数年してファーンに子供が生まれる頃には40代半ばくらいだろう。それまでには領地経営などについてファーンに教え込み、引退を考えているのだろう。

 オース、と言うか、ウェブドス侯爵領では家督を次代に譲り、引退した前家督者は、往々にして自由な暮らしを謳歌するものが多いと聞く。尤も、それは生活に余裕のある家庭に限られるのだろうが、当家は充分に生活に余裕がある家庭に数えてもいいだろうとは思う。一般的な田舎の領主である士爵は引退後も従士の訓練や、召集に応じた軍事的行動への参加、または農作業など、あまり以前の生活と変わらないことも多いが、責任は段違いになるだろうし、精神的な解放もあるのだろう。

 面倒な税の取立てや納税の処理、領地のインフラ開発、果てはこまごまとした領民の間で発生する争いの調停など、面倒で地味な問題からは解放されるのだ。金があるなら純粋に楽しむための旅行をすることもあると言う。

 バークッドは開拓を主とする農村に分類されているので、現時点では小麦または相当の金子での納税になっている。勿論、ゴム製品の売り上げからも税は取られているが、主な納入先は侯爵領の常設軍である騎士団なので、納品時に同時に税を納めている格好になっており、この商売は税を気にする必要はない。

 キンドー士爵領であるドーリットへの販売時には納品した品目と料金の詳細を記した納品・領収書を交わすことで、その写しとともに騎士団への納品のついでにウェブドス侯爵へ税を払ってしまえば大きな問題もない。侯爵の弟が経営する商会を通じて王都への販売を行う場合も当家が販売するのはあくまでウェブドス侯爵領のウェブドス商会なので、その時点で税は計算される。

 つまり、年貢のような小麦の税のほかは現代日本で言う消費税のようなものしか存在しないので、税に対してあまり頭を悩ます必要はないのだ。これが国を跨いだ商売を直接したりするなら関税のようなものくらいはあるのだろうと想像は出来るが、その他については今のところは不明だ。あ、自由民には人頭税がかかるし、所有している奴隷にも人頭税はかかる。だから住民税のようなものもあるにはあるのか。

 ゴム製品の増産による増収は確かにバークッドを豊かにしてくれたが、それ以上に効果的だったのは家畜を農業に利用できたことによる新規農地の開墾と旧来からある農地の深耕による増産だ。いままでよりも少ない労力で同じ面積から収穫できる農産物の量のアップはここ数年でかなりの効果をもたらした。当然新規の農地開墾が一番大きな寄与になるはずだが、開墾後5年間は無税なのでこれは当家に割り当てられた農地以外の寄与はない。わがグリード家の収入もここ4年でそれまでの1.6倍~1.7倍くらいになっている筈だ。

 作付面積あたりの収穫量はこの4年ほどで平均すると10%ほど上昇したそうだ。1割アップはでかい。あくまで作付面積あたりの昨年度の収穫量を目安に6割税を課せられるので、本来なら少しづつ税収は増えるし、農民は毎年納税額が上がることになる。そして、いつかは昨年よりも収穫量が減る時期がくるだろう。だが、へガードはそれを見越しているのだろうか。3年程前から作付面積あたりの収穫量の報告を増やしていないように見受けられる。俺の見たところ毎年前年比2~3%くらいは作付面積あたりの収穫量が増えているにもかかわらず、その分の税を徴収していない。だから当然納税もしていない。

 ウェブドス侯爵へ納入している税自体は毎年ほとんど増えていないからよくわかるが、確実に誤魔化している。ただ、開墾地の面積の報告はしっかりとしているようだ。最初は俺の気のせいかとも思ったが、執務室で二重帳簿を発見したので確実だ。別にその分農民から税を徴収して私腹を肥やしているわけではないので、何か考えがあるのか、それとも単に数年は皆にいい目を見させてやろうとしているのかは解らない。俺としては別に私腹を肥やしてくれていても一向に構わないし、むしろそっちのほうが安心できるくらいだ。最初は、「お、やるじゃん、親父」くらいに思っていたのだ。今のところ親父の考えが読めない。まぁこれはファーンが帰ってきて本格的な領主教育が始まると税は避けては通れない道なので、必ず説明せねばなるまいから、今は放って置こうと思っている。

 そんな状況で、俺はと言えば魔法の修行、剣などの従士達との戦闘の稽古、ゴム製品の開発・改良および製造の監督といった相変わらずの毎日を送っていた。しかし、物事は起きるときには起きるのだろう。ウェブドス侯爵からの早馬で次の紛争への参加要請が届いたのだ。ヘガードも当年とって38歳だ。あとすこしで39歳になるはずで、肉体的な衰えも出てきている。多少心配ではあるものの、相変わらず剣は冴えており、白兵戦ではバークッドで無敵を誇っているからちょっとやそっとでは死にそうにないからここは安心して送り出したほうが良いのだろう。

 俺はミュンに情報を流し、急ぐ必要もないことだが、とにかく連絡員つなぎを呼ぶように言う。コリサルペレットを流しに行くのは俺がやってもいい。そして、これからしばらくはゴム採集の際に護衛する人間からヘガードとシャルが外れる旨を伝えると、ミュンが当番で採集に行く際には必ず武器を隠し持っていくように念を押した。まだ俺が片目を潰したホーンドベアーの再襲撃は起きていなかったが、念のためだ。俺かミルーが同行するから早々危険はないだろうが、俺もミルーも戦闘経験ではヘガードやシャルの足元にも及ばないしな。まぁあの熊公も傷が癒えるにはそれなりの時間もかかろうと言う物だし、そうそうあんな襲撃はないだろう。あってたまるか。

 あ、そう言えばミュンの後任のメイドについて話すのを忘れていたな。ミュンが結婚した2年前から別の従士の家の娘が我が家でメイドとして働いている。リョーグ家の娘でゴム製造を手伝ってくれているダイアンの妹でソニアだ。年齢はミルーの一つ上で15歳だ。物覚えも悪くなく、炊事や洗濯、掃除など完全にミュンの後を継いでおり、よく働く。だが、応用力や思考を展開させていく能力は足りないのだろう、基本的に言われたことを言われたようにやるだけで特筆するような人間ではなかった。あ、メイドになってからの2年間で胸はずいぶん成長した。あれ? 俺もそろそろ性欲が出てきたのかな? でもいくらなんでもまだ早すぎるだろう?

 2週間が経ち、ドーリットからいつもくる隊商がやって来た。コリサルペレットを流し始めてからそう日は経っていないからこの中に間者が入っていることはないだろうと思ったのだが、いつかの作業員がいた。親しげに俺に話しかけて来ていつかの礼を述べてきた。その日にミュンに確認したがやはり接触は無いようで、今回の護衛は単なる偶然に過ぎないようだ。だが、俺はちょっと思いついた事があった。ミュンの死を偽装できないだろうか?

 こいつも確かに連絡員つなぎをしていたのだから、ベグルとか言う奴との繋がりはある筈だ。相変わらず口が半開きで抜けていそうな顔つきはそのままだ。まぁだからと言って本当に抜けているのかは確かめようが無いが、こいつならそこそこのトリックで騙せそうな気がする。いくら馬鹿でも潜入させている間者の死を報告しないということはないだろう。

 俺は早速ミュンに相談を持ちかけた。村中でグルになるわけにも行かないので、ミュンの死は俺たちとこいつだけが知るように出来れば満点だが、流石にそうはいかないだろう。だが、ボッシュには申し訳ないが一時的に村の住人達を含めて全員を騙すことが出来ればいいのではないだろうか? つまり、こいつの滞在中にミュンが死んだと発表する。しかし、ミュンは生きていてこいつのいる間だけどこかに身を隠す。こいつが帰った後にひょっこり出てくればそれでいい。

 現代日本のような遠隔地とすぐに連絡が取れるような道具なんか存在しないし、そんな魔法も少なくとも俺は知らない。シャルも知らないと言っていた。だいたい、こんな田舎の村の従士の女房が死んだくらいではニュースにすらならないので、一度死を装い、それが成功すれば、その後生きていたとしてもその情報があとから漏れる事もまずないといって良いだろう。

 問題はこいつがこの先も生きていて、再度護衛だかなんだかでバークッドに来てミュンを見つけてしまうことくらいだ。万が一そうなら、今度こそこいつを始末してしまえばいいだろう。その時は既にミュンは死んだことになっているから間者として始末されたと判断されることもあるまい。

 その日はゴムの作業が終了してから、製品の改良にミュンの意見が聞きたいと言って、二人で相談する時間を設けた。ある程度の計画を立て、翌日早速実行することにした。



・・・・・・・・・



 翌日、俺はヘガードに新しいゴム畑(既に畑といっていいくらいの面積は開墾されている)の候補地を探しに行きたいと申し出た。へガードは護衛に従士を何人かつけようとしてくれたが、出兵の準備で忙しいだろうし、村からそう大きく離れることもないから危険は少ないはずだと断った。それでもヘガードは引き下がらなかったのだが、俺が折れる形で、ミュンと一緒に行き、万が一のことがあったらミュンが村に異常発生を知らせるようにする、という形で納得させた。

 朝からミュンと一緒に出発し、村の外周をそれらしく見回るようにしてミュンが村の外へ出ることを印象付けた。俺は地質判断用とか適当なことを言ってゴム袋を持っていたが、これは当然偽装で、中にはミュンの当座の食料が入っている。村から少し離れた木の洞に隠してあった、昔手に入れたブロードソードを回収してミュンに渡す。俺は当然銃剣だ。

 森に入って数十分。村から1~2Kmは離れただろうか。ここら辺りで良いだろうということになった。俺とミュンはあたかも戦闘があったかのように地面を荒らす。適当な木に切り傷までつける。途中で狩った数匹の狸だか兎だかの死体を利用して血も擦り付けた。そんなつまらない作業に没頭していた。

 だからだろうか、魔物の接近に対して気が抜けていた。気づいたときにはミュンの先50mほどにまで近づかれていたのだ。油断無くそっと近づいてきたようだ。奴は茶色い体毛で左目が潰れており……。畜生、あいつかよ。

 俺は咄嗟に両手をホーンドベアーに向け魔法を使おうと試みるが、奴との間にはミュンがいる。ミュンに警告を発し足元に置いていた銃剣をセットした槍に手を伸ばす。

「ングオオオォォォォ!」

 びくっと体が硬直する。まずい。まずいがミュンに警告を発した後でまだ良かった。ミュンもMPは10以上あるから一発で行動不能になることはないだろう。せいぜい恐慌(小)のはずだ。と思ったら、ミュンは硬直することも無く流れるような動きでブロードソードを引き抜き、構えながら振り返った。

 は? え? 何で平気なの?

 俺はそう思いながらもすぐに硬直が解けたので魔法で攻撃すべく銃剣から左手を離し、その手をホーンドベアーに突き出すようにしながら、ミュンを射線から外すために地面を転がった。ミュンが平気だったのは今はいい。それよりもあいつだ。

 奴はこちらに向かって四足で駆けてくる。俺は距離も近いし余裕も無いのでいつかのように5本の氷の槍を生成して、それを全てホーンドベアーに向かって放った。今度こそ奴に一本でも突き立てられれば修行した新魔法『ライトニングボルト』を刺さった氷の槍目掛けてぶち込んでやる!

 前回より多少は落ち着いて対応できたからだろうか、今度は前回みたいに奴が大きく見えるような事は無かった。四足状態での体高は1mあるかどうかだろう。いつか倒した番のホーンドベアーよりもだいぶ小さい。ああ、こいつはあいつらの子熊なのかも知れないな。そんなことを思いながらも槍を誘導し奴の体に突き立てようとした。

 ミュンは俺が魔法を使う気配を感じたのだろうか、俺とは反対側に横っ飛びに飛び退すさると、ブロードソードを構えている。全力で氷の槍を飛ばし、ホーンドベアーには俺の誘導もあって全部命中した。前回は土煙で視界が塞がれていたから仕方ないが、見えていればこんなもんよ。ざまぁみろ。

 ざまを見るのは俺の方だった。いくら魔物とは言え、一度食らった攻撃に対する学習能力はあるのだろう。飛んでくる槍を認識したとたんに片腕で顔面をカバーしている。おかげで残った右目には槍を突き立てることは出来なかった。そればかりか、命中する寸前に体をずらして防御力の高い場所で受けたのだろうか、槍は一本も刺さらなかった。ああ、勢いが足りな過ぎたのか、槍が小さすぎたのか全て分厚い体皮だか毛だかに弾かれてあらぬ方向に逸らされてしまった。

 そして、一瞬突進の勢いは衰えたものの、やはり俺を指向しているらしい。ミュンに気を取られることもなく、俺に向かって突撃を敢行して来る。このままだとまた体当たりを喰らっちまう。前回は肩口から喰らったので弾き飛ばされるだけで済んだが、あの額に生えている角でやられたらいくらプロテクターをしているとはいえ、良くて重傷だろう。俺が重傷を負ってしまえば次はミュンの番だろうし、重傷を負った状態で魔法を使うための集中力があるかどうかもわからない。ここは少しでも突進の威力を削ぎ、狙いを外すために地魔法を使ってクッションの効果を期待すると同時に、奴の視界を阻害するしかあるまい。

 風呂桶一杯くらいの土を俺の眼前に出すのとどちらが早かったのだろうか。いつの間にか接近していたミュンがブロードソードをホーンドベアーに突き入れたのだ。そのおかげもあり、土を跳ね飛ばしながら突っ込んでくる角ばかりか、体当たりもなんとか避ける事が出来た。

 ブロードソードを突き込まれたとは言え、そう傷も深くなかったのだろうか、体当たりをかわした俺を睨み付けながら振り返ったホーンドベアーが息を吸い込んだ。ああ、あれだ。咆哮だ。まずいぞまずい。ここで硬直したら本当にまずい。俺が魔法を使うのとどっちが早いのか。

『バシィィィィィィ!』
「ウオォォォォォン!」

 一瞬にして俺の左手から電撃が伸び、咆哮したホーンドベアーに絡みつくが、ほぼ同時に始まった咆哮に集中を乱され電撃は霧散してしまう。だが、咆哮の影響を受けない手札がこちらにはあった。ミュンは再度ブロードソードでホーンドベアーに斬りかかった。咆哮をしている間はホーンドベアーもそれなりの集中が必要なのかは知らないが、数少ない今までのホーンドベアーとの戦闘では咆哮しながら何かの行動をしたことは無かったはずだ。

 ミュンの一撃は綺麗に決まった、という程でもなかったがそれでもホーンドベアーに再度傷を負わすことには成功したようで、新たな傷が出来たようだ。俺も1秒くらいで硬直が解ける。すぐに飛び退ったミュンは俺の右にいる。

 ホーンドベアーは傷口から血を流しながらもじりじりと後退しある程度の距離を稼ぐと急に方向転換し走り去っていった。今度こそ鑑定をしてみた。

【 】
【女性/11/1/7434・ホーンドベアー】
【状態:切創】
【年齢:4歳】
【レベル:7】
【HP:58(83) MP:1(3)】
【筋力:20】
【俊敏:9】
【器用:4】
【耐久:15】
【特殊技能:咆哮】

 うーん、レベル7か。そう言えば咆吼は自分と同じレベル以下にしか効果はないんだっけか。ミュンのレベルは9の筈だから無効化されたのか。ひょっとしたら野生の勘というか、そういったもので相手の生物的な力量を量った上で使うのが普通なのかも知れないな。親熊の時はレベルが13だったから、あの時いたメンバーは全員咆吼の影響を受けたし、前回こいつに襲われた時もレベルが8以上の高レベルの人間はいなかったから全員咆哮の影響を受けた。ヘガードやシャルが冒険者時代に倒したとか言っていたが、彼ら二人のレベルはかなり高いから咆吼の影響を受けないだろうし、ある程度経験を積んで相手の力量を量れるような大人の個体であればそもそもその時点でスキの出来る咆吼を使うことはなかったのだろう。

 とにかくホーンドベアーを撃退することは出来たので、その点では一安心だろう。また奴の傷が癒えるまではちょっかいをかけて来ないと思いたい。と言うか、いい加減あいつとは決着をつけないといけないだろうな。正直なところ今回も危なかった。咆吼の影響を受けないミュンが居なかったらと思うと空恐ろしくなる。だが、今回の件で解ったことも多い。レベルさえ上昇させれば咆吼は無視出来ることと、接近戦でもきちんとダメージを与えられるということだ。ミュンが使っていたブロードソードの品質は一般的なものだったので、俺の銃剣ならばもう少しマシなのではないだろうか。

 まぁ考察はこのくらいにして、今はミュンの偽装だ。戦闘跡をでっち上げる件は、この戦闘で充分だろう。あとはシナリオだ。俺たちが考えていたのはコボルドやゴブリンの集団に襲撃を受け、ミュンが死亡。俺は命からがら退却した、というものだ。勿論、あとあとミュンは死亡しておらず敵集団が引いた後にその場を離れて安全を図り、隠れていた。多分戦闘時に踏まれたか何かで足を捻挫してしまい、村まで戻れそうにないので適当な木の洞に隠れて過ごしていた。俺は戦闘のどさくさでミュンの死亡自体は正確に確認できなかったものの、あの状況では死亡以外ないだろうとミスリードさせるような報告をする、というシナリオを考えていた。

 俺の評判は落ちるだろうがそれは別にいい。当然ボッシュには恨まれるだろう。だが、それも仕方ないと思っている。俺は村で人気者になりたいのではなく、ミュンが安心して暮らせるようにしたいだけだからだ。それに恨まれたり蔑まれたりしたところで、俺に面と向かってそれを糾弾できるのは家族だけだろうしな。

 俺の家族は俺が無理だと思って引いたのなら、本当に無理だったのだと信じてくれると思う。そのくらいの信用はある。あるはずだ。あると思いたい。ミュンは最後まで俺の立場が悪くなるのでは、と心配してくれたが、実は俺はそんなに心配していなかった。何しろ魔物がある程度うろついていることは普通だし、魔物と戦闘も発生するのだ。怪我人だって出るし、この前は6人も殺されているのだ。そして俺は領主の息子で過去の戦闘でも領民を見捨てて逃げたことは一度もない。魔法だって相当使える。なによりまだ10歳の子供だ。

 そう言ってミュンを安心させる。ミュンは俺のプロテクターにブロードソードで傷をつけていく。勿論これも戦闘の偽装だが、俺はプロテクターを装着したままだ。ミュンを納得させようと適当に言い訳をしながら、その相手に斬られている。なんだかシュールな図だな。

 ミュンはこれから移動し、村を迂回して川沿いに南下して身を隠す予定だ。俺は村に戻りミュンの死亡を伝えたあとで隊商の出発を待ち、頃合を見て川にコリサルペレットか何かを流すことで合図する。合図を確認したミュンは村に帰還する。

 本当にこれで上手く行くのかはわからないが、やるしかない。

 俺はほうほうの体で逃げ帰るとミュンの死亡を報告した。かなり強力で大規模なゴブリンの集団に襲撃を受けたと報告した。一生懸命頑張ったものの、ぎりぎりまで襲撃に気づかず、先手を取られたこと。最初の一撃でミュンが昏倒させられてしまったこと。俺の力では倒れたミュンを連れ帰れなかったことなどを抜群の演技力で報告した。尤も、抜群の演技力というのは俺が思っているだけなのだが。

 当然村では騒ぎになる。ボッシュにも半べそをかきながら報告した。ボッシュは唇を噛み締めながら報告を聞くと、襲撃を受けた場所を尋ねてきた。ヘガードはボッシュの様子を見るとゴブリンの討伐には連れて行かないと宣言した。理由は平静ではいられないだろうし、従士になってまだ2年と日が浅く、昔の勘を完全に取り戻せていないことの二つだった。確かにボッシュは成人してからミュンと結婚するまでの9年間、農作業に従事しており、レベルも従士の平均をかなり下回る5だ。だからヘガードの決定は頷けるものがあるので、兄のラッセグやダングルに慰められていた。

 そうこうしているうちに隊商は出立していった。俺もわざとらしくミュンの死亡を間者である例の男に伝えて様子を窺って見ると、やはり何か思うところがあったようで、最後の様子などを聞かれたので、確かに死んだと答えておいた。

 隊商が出発した二日後に俺はコリサルペレットを流し、ミュンに合図を送った。翌日の夕方にミュンは村に戻り、シナリオ通りに報告し、ボッシュを始めとした関係者全員を安心させた。だが、シナリオに無い事を言い始めた時には焦った。

「私は最初に頭を殴られて倒れ込みましたが、意識はありました。ですが頭に傷を負っていたので体が痺れて動けなかったのです。アル様は戦闘中にも関わらず私に治癒の魔法をかけてくださいました。そのおかげで私の傷は回復しましたが頭を殴られたショックまでは回復はしませんでした。なんとかショックから回復した時には戦場は移動しており、私はアル様を追いかけようとしましたが、その時になって足を捻挫していることに気づきました。足手纏いになっては元も子もないのでアル様が戦っているのとは逆方向に進みました。ゴブリン達はアル様と戦うのに夢中で私には注意を払っていませんでしたので、なんとか安全な距離まで離れられましたが、捻挫は悪化してしまい、動くに動けなくなったので様子を見るしかありませんでした。アル様、アル様のおかげで私は逃げ延びることが出来たのです。ありがとうございます。そして、最初に攻撃を受け足手纏いになってしまい、誠に申し訳ありませんでした。あれがなければアル様のことです。魔法で一気に対処できたことでしょう。しかし、私が倒れてしまったことで、魔法を使えなかったことだと思います。本当にどうお詫びしていいものやら……」

 こんなことを言ってくれた。
 もともと恨まれたりはしていなかったが、この言葉が決定的なものになったのだろう。俺は従士の家族を思いやって生存の可能性に賭け、使えたはずの魔法も使わず、身一つで敵集団を自分に引きつけてミュンを生存させた良い奴になってしまった。



・・・・・・・・・



 4月の終わりごろ、準備を整えたへガードはシャルやベックウィズなど10人のバークッド村派遣部隊を率いて出陣して行った。今回は当然といえば当然なのだろうが、出陣した先でファーンらウェブドス侯爵領の騎士団と合流することを楽しみにしているようですらあった。うん、先方にファーンがいるのならまず大丈夫だろう。ファーンは火と風の元素魔法こそ使えないが、魔法のレベルはシャルを超えているのだし、MPは比べ物にならない。おそらくそれは隠しているのではあろうが、万が一ヘガードやシャルが危機に陥った際には必ず大きな助けになるはずだ。

 
この時点でファーンは騎士になっていたとしたら、出陣が目前に迫っているため、騎士団を退職してバークッドへの帰還は許されないでしょうし、騎士になっていないのであればそもそも戻って来ないので、いずれにしてもヘガードやシャルはファーンに会えると思っています。
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