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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第三部 領主時代 -青年期~成年期-

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第一話 プロローグ

本日この前にもう一話投稿しております。
――しかし、十年か……十年もよく覚えていてくれたなぁ――

『いや、普通はこんな妙な事がありゃ一生覚えてるだろ……』

 最初の時は……そろそろ寝ようかという深夜に鳴った携帯端末の呼び出し音だった。
 発信者情報が表示されていないのを不思議に思いながらも私が『もしもし?』と出たら、僅かな沈黙の後、不審そうな声で『誰だ?』と尊大な感じで尋ねられた。
 その時の私は顧客や会社関係者からの連絡という万一の事態を想定していたし、アルの方は当然のように最初は臣下や友人のうちの誰かの可能性を考えたそうだ。

 後で聞いたら日本語を思い出すのに少しだけ時間が掛かっていたとの事だった。

 しかし、私と似たような声(当時の私はまだ若かった)の知り合いはいないことを思い出して、混乱したそうだ。
 私は私でアルによく似た声の持ち主とたまたま交流があった。
 その人の名前を出してこんな時間に一体何事かと、仕事上で何か緊急の要件でも出来たのかと、そもそも自分で掛けておきながら「誰だ?」はないだろうと少し憤慨しながらも尋ねたのだ。

 あの時のとんちんかんなやり取りは思い出すだけで妙な気持ちになる。

――そういうもんかね?――

『そういうもんだと思うぞ?』

――そうか――

 そんな話はどうでもいい。
 今回の通信だっていつ切れたものか知れたものではないのだから。
 まずは気になっていた大切なことから話さなくてはなるまい。

『で、あれからどうした? どうなったんだ? 昔、初めて連絡取れた頃にざっと聞いただけだからな……』

――ん、そうか。じゃあ続きを話すとするか――

『ああ、頼むよ。それと、また録音させて貰うからな?』

――ふっ、好きにしてくれ――

 えーっと、確か……うん、OKだ。
 十年以上前の記憶を掘り起こして携帯端末の操作を行い、会話録音機能をオンにした。
 ついでに録音したファイルを家庭内のファイルサーバにも記録するように第三世代LED光通信(Li-Fi3)の設定も行う。

『すまん、待たせたな』

――構わんよ。で、続きか……。あれは……そうだな、丁度俺が家を出た頃だから十四の春……――

『おい! そこはとっくに終わってるわ!』

――ああ、そうだったそうだった。……伯爵になった俺は――

『そこも済んでるだろ!』

――お。ちゃんと覚えていたようだな?――

 この糞爺、バカにしやがって……。
 それとも私の記憶力でも試しているのだろうか?

『ボケるにはまだ早いわ! ……それに、お前から連絡が来なくなってから暫くは何度も聞き返したし、音声入力で文字にしたテキストまで繰り返し読んでたんだ』

――それはなんとも……ご苦労なこったな。同じ話なんか何回も聞いたって面白くなんかないだろうに……だが、心配を掛けてしまったようだな……そんな時にからかったりして本当に済まなかった――

 あれ? この程度のこと、謝るのか?
 大体、彼と殆ど関係のない、暇潰しの相手に近い存在の私に対してよくも謝るものだ。
 確かにこちらでは多くの時間が流れてしまったが、アルの方ではたった一晩らしいからなぁ。

『いや、気にしないでい……』

 あと、面白いとか面白くないとかじゃないんだよ。
 地球とは全く異なる生物、異なる常識、異なる価値観、そんな世界の話を聞いてしまったら興味を持つのが当たり前だ。
 それに、数年も毎晩のように声を聞いていた相手と急に話が出来なくなっていたんだ。
 少しは未練を覚えて録音データを聞き返したりくらいのことはするだろう。

 こいつ、本当に少しは私のことも考えてくれ……てたのか? 
 ……まぁ、下々一人一人の事を心配する王様なんていやしないだろうから、本当は私の感情など気にも留めないのが正しいのかもしれないとは思う。

 何しろアルは現代に生きる政治家でもなければ国家元首でもない。
 民主共和制度でもないのだから民衆は支持基盤たり得ないし、そもそも民衆の支持なども必要ない。
 つまり、一般大衆など一揆を起こされない程度に加減して税を搾り取れれば問題ないのだ。

 その分、他人の感情への配慮については自分の配下や味方をしてくれる者に対して行うべきなんだろう。
 それですら不公平感を与えない賞罰や、裏切られないように餌をちらつかせるだけでも効果は十分である。
 野蛮な世界の野蛮な王を目指しているのだ。
 地球で言うなら下克上で成り上がる戦国大名や、もっと前の時代、隙あらば容赦なく侵略し、奪い、殺し、犯すような時代の為政者だ。
 親子で殺し合い、兄弟親戚で跡目を巡って殺しあうなんて当たり前の時代と世界。
 己の価値観を信じ、なりふり構わず目標目指して一直線、というのがオース本来の正しいあり方なんだろう。

 尤も、それにアルのやり方が完全に合致しているかと言われるとそうではないとは思うが。

 老子の言葉に「太上、下知有之、其次親誉之、其次畏之、其下侮之」というものがある。
 最上の王とは一般大衆が王の所業を意識しない。
 「王」というものが存在しているという程度の認識だということだ。
 下々から敬愛され、尊敬される王はそれよりも劣る。
 更に劣るのは下々から恐れられる王。
 そして一番最低なのは下々に侮られ、馬鹿にされる王である。
 という意味だ。
 要するに理想的な王とは、臣下達が力を併せて物事を為すようにさせて「我々の力で国が良くなった」と自らを誇れるようにするのだ。

 大国だというロンベルト王国ですら人口は数百万人。
 それも下の方で、四捨五入すると一千万ではなくゼロになる。
 現代ではどう考えても絵に描いた餅でしかないが、そのような時代、土地には合っているのかもしれない。

 最初は自ら切り拓くのもいいだろう。
 だが、その後は後進に任せて王本人は更に別のことを切り拓いて行けば、いずれは物事の殆どに王が関わること自体が少なくなる。
 そして、切り拓かれた事業を受け継いだ次代、次々代の臣下達はいずれ切り拓いたのが誰であったかなどは忘れ、過不足なく運営している自らを誇るようになる。

 そもそも利害関係すらない私など……いや、ギブ・アンド・テイクの間柄である筈だ。
 とは言え、彼が必要としていた情報については既に調べて教えてしまってはいる。
 最初に彼の身の上話に興味を持ってしまった私の負けだ。

『……もっと気にしろ。そうだ、ここ十年、暇を見つけて纏めたものがある。俺の想像や予想なんかも混じってるんだが、聞いて貰えるかな?』

――んん? へぇ、そうなのか。それは是非聞いてみたいな――

『もし変なところやあまりにもかけ離れて違っている部分があれば言ってくれ。じゃあ、纏めた資料を持ってくるから少し待っててくれよ……』



□■□■□■□■□■



7448年4月14日

 ロンベルト城から戻ったアルにはやることが山積みで残っている。

 まず、直臣となる貴族枠への人選。

 今回の件で封ぜられることになった領地、西ダート地方にあるリーグル伯爵領は現在国王が任命した代官(アルの前の正式なリーグル伯爵はロンベルト王国の国王その人である)や、それに連なる者達が派遣されている。当然、彼らは多少の時差はあれどいずれ必ず全員が王都ロンベルティアに戻り、新たな任に就くことになる。

 勿論、リーグル伯爵領には根付きの貴族もいるし、現地で採用されて代官に仕えている下級貴族や平民も多いので、極論を言えばアル一人が赴いたとしても即日領地経営が崩壊するようなことにはならない。なぜなら、表向きはアレイン・グリードという男にリーグル伯爵位を禅譲しただけで、リーグル伯爵領は依然としてロンベルト王国の一部だからだ。詳しい事情を知る者が少ないため、一般的には「国王の貴族位の一つが禅譲によって移管したことにより、今まで天領とされていた土地が普通の貴族領になった」というだけに見られている。

 このような事例は過去に何例も存在しているので珍しくもなんともない。

 そういった場合、当初に代官として赴いていた貴族などは正式に誕生した領主に遺漏なく引き継ぎを済ませ、仕事が終わると新たな任が下るまで王都で待機するのだ。新たな領主の配下に引き継ぐべき人がいない場合は当然新たな領主に対して引き継ぎが行われることになってしまう。

 アルとしても引き継ぎが行われることについては王都の役人から充分に説明を受けており、その為の人選を進めねばならないのである。

 リーグル伯爵領の首都であるベグリッツは自らが治めて騎士団長も兼任するとしても、人口八千人程とベグリッツ並みに大きな街、ウィードの領主となる男爵が一人、その部下となる士爵が一人空く。
 それから、秘匿開拓村が四つあるが、そのどれもが領主となる士爵が空席となる。

 つまり、最低でも六人の貴族を選出する必要がある。
 それだけではない。
 領主となる貴族にはその手足となる従士が必要であることも忘れてはいけない。
 代官として派遣されていた貴族には当然従士を召し抱えていた者もいた。
 ダート平原から離れた場所にある街についてはどうしてもすぐに必要になるものではないが、特に秘匿開拓村については入植者が多いために村民の歴史も浅く、村に残った従士たちの利害調整なども必要になる。

 場合によっては力を示して上から強制的に押さえつけることもある筈だ。

 従って、貴族として秘匿開拓村を任せる者にはそれぞれ複数の従士を付けてやる必要がある。

「ウィードの領主について、ゼノムは鉄板でいいけど、誰を補佐にするかなぁ……」

 因みに、ラルファはゼノムの娘でもあるので貴族位については特に定めない。
 そのままでも准爵になることは確定だからだ。
 補佐としてジンジャーを士爵に任じて付けてやる。
 そして、グィネをゼノムが従士として召し抱える形を取らせて平民にする。
 それから、同じドワーフであるケビンも同様にゼノムの従士として新しいファイアスターター家を興させ、その当主にする。
 ここまではすぐに決まった。

 しかし、街の規模がそれなりに大きいため、もう一人二人、従士を付けてやりたいと思っていた。
 当初はケビンと仲の良いロッコを据え付けるつもりであったが、ロッコには開拓村を任せた方が良いと思い直したのだ。
 年長であることに加え、分かり易い剣の腕は古参の従士を押さえつけ、従わせるのに必要であろうとの思惑からである。

 また、トリスとベルについては六月に結婚するつもりらしいから分ける訳には行かない。夫婦で一番最前線に近い開拓村を任せるつもりでもあるし、そこにはミースとジェルを付ける。トリス達は既に二十人に及ぶ奴隷の購入を済ませ、教育を施しているところだ。

 二つ目の開拓村はロリックに任せ、彼を慕うサンノとルッツを付ける。
 戦闘奴隷のデンダーとカリムの二人については奴隷のままにするのか、解放して自由民にするのか、はたまた一足飛びに平民として、従士として召し抱えるのかについては所有者であるロリックが決めることだ。因みにロリック達も合計して二十人以上の奴隷を購入済みである。

 三つ目の開拓村には准爵であるビンスを士爵にして送り込む。比較的初期の開拓村であるために地理的にダート平原の端に近く、首都であるベグリッツからもそう遠くない。戦場となる可能性は低いので彼にはヒスのみを付ける事にしている。後は彼ら自身の奴隷が十人程になる。

 最後、四つ目の開拓村はカームを士爵として領主に据え、キムと、ここにロッコを付け、必要ならアルの戦闘奴隷から数人回しても良いと思っていた。適任なのは元騎士であったヘンリーとメックあたりであろう。彼らであればそれなりの教育も施されているはずなので領地経営について助言を行うことも可能である。

 今、悩んでいるのはアルの直臣となる残りの人達のうちから誰をゼノムのところに付けようかということであった。

「バストラルにはやらせたいこともあるしなぁ……」

 バストラル夫妻についてはアル自身の従士として平民に取り立て、当面は王都の商会との連絡などを行ってもらう必要がある。

「ズールーはなぁ……俺の奴隷頭だし」

 メモに殴り書きをしながら頭を抱えるアル。

「ジェスとルビーは手元に置いておきたいし……」

「マールとリンビーをもう少し鍛えて付けてあげたら?」

 いつの間にかミヅチがアルの部屋のベッドに腰掛けて、王都の役人から貰った領地の資料とアルがダークエルフやクロー達に調査させた資料とを見比べていた。
 クローとマリーの二人はリーグル伯爵騎士団に送り込む事は既定路線であった。
 なお、騎士団長は当面アルが領主と兼任する予定である。
 トリスとベルには子供が生まれるか、生まれない場合には最大三年後、領地経営が安定した頃にどちらか一人は戻って騎士団の勉強を兼ねて団長をやれ、とは言っている。

「あいつらか……どうなんだ?」

 最近、彼ら二人はやっと迷宮に入ることを許されて殺戮者スローターズの一員となっている。

「そりゃまだまだよ。でも、集中的にやらせれば来年にはそれなりになってるでしょ」

 ミヅチは資料のページをめくりながら言った。

「ん……そうか。じゃあそうすっか……はぁ、もうこれで決めた」

 両手を頭の上で組んで伸びをしながら立ち上がるアル。

「ちっとシャワー浴びて頭をスッキリさせて来るわ」



□■□■□■□■□■



――おい、勝手にセリフ入れてんじゃねぇよ――

『いいだろ?』

 どうやら少しだけアルは憤慨しているようだ。

――確かにあん時ぁ結構悩んでたけどな。でも、結局自分一人で決めた――

『嘘つけ』

――当たり前だ。人事は全て領主の責任だからな――

『そりゃそうだ。だが、お前が誰にも意見を求めなかったなんて事はないと思ってるよ。それを採用するかどうかは別として必ず意見は聞いた筈だ。これでも少しはお前の好みそうなことを考えて出来るだけ一人で考えたように書いたんだぞ』

 私が携帯端末に向かってニヤけながらそうツッコミを入れるとアルは息を詰まらせたように沈黙した。

――……それはそうと、俺、最初の配置の理由とか言ったっけか?――

『露骨に話題転換をするな。……言ってない。想像だよ』

――ん、そうか。大体合ってる。大したもんだ。でも一つ抜けてるな――

『ん?』

――ゼノムもラルファもグィネも農業の経験が全く無かったからな。その分、ジンジャーやケビンをつけた理由でもあるんだけど。尤も、そっちの方は役人で残る人も多かったからあまり問題にはならなかった。農地の面積や農奴自体の数が大きくても当時のウィードの主体はやはり街の、商業的な部分も大きい。対して開拓村の方はどう頑張っても農業、特に開墾が主体だ。あと、駐屯している王国騎士団との調整なんかだな。そのあたりの事も勘案している――

 私も必ず抜けがあるだろうとは思っていたが、そんなことに考えが及ばないとはと少しだけ落ち込んだ。

『なるほどな。クローとマリーを手放さなかったのは一度領内を見ていることと騎士団の経験があるし、騎士団掌握に必要だったからだろ?』

――ん、そんなとこだ。でも、マールとリンビーをつけた理由は……あの時にミヅチが言ったからじゃないぞ。確かあれ、ギリギリまでズールーを付けてやるか決まらなかったんだ。赴任する直前にミヅチの意見を採り入れて……――

『へぇ、そうなのか。となると結構違ってるとこが多いんだろうな』

――まぁ、致命的なほど違ってるって訳でもないし、別に重要なポイントじゃないだろ? それよりも自分の事を聞くのは少し面映ゆいな――

『ん? なら自伝でも書いたら?』

――書くか、そんなもの!――

『だろう? だから代わりにこうして俺が書いてやってるんじゃないか』

――……そうか……なんだか……ありがとう……――

『おい、いやに殊勝だな。そろそろ寿命なのか?』

――ピンピンしてるって言ったろう? 死ぬにはまだまだ掛かりそうだよ――

 ならいい。

『で、どうする? まだまだ続きがあるんだが、聞くか?』

――ああ、是非聞きたいな。なんだかすこし恥ずかしいけどな。誰が聞いているという訳でもないし……だが、伝記なら出来るだけ正確に書くべきだろう。それこそ格好つけなんか必要ない。間違ったところや恥ずかしいところまできちんとな……違ってる部分があったら修正するぞ?――

『ああ、それは助かるよ。適宜ツッコミを入れてくれるとこちらも助かる』

――うん。じゃあ聞かせてくれ――

『ええっと、でも書けたのは十年、いや、そっちじゃ一日か。昨晩聞いたところまでだぞ?』

 どうせ明日明後日は休みだ。
 なら久しぶりに声を聴くことが出来た旧友の為に使ってもいいだろう。
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