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男なら一国一城の主を目指さなきゃね 作者:三度笠

第一部 幼少期~少年時代

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第三十七話 ライバル

 今回のラテックス採集のメンバーは俺の他に合計で8名だ。従士が4名と村の若者で今回の当番の者が4名だ。従士と俺は村で正式採用となっている新型のゴムプロテクターを装着し、採集のメンバーは旧式だがちょっと前まで現役だったゴムプロテクターを装着している。但し、武装しているのは俺と従士たちだけだ。従士たちは全員剣を腰に佩いており、俺は自分で作った銃剣とそれを装着した木銃だ。

 用心しながらもいつもと変わらないペースで採集は進んでおり、作業は順調だ。半分ほど採集が終わった時には丁度昼前になっていたので、少し早いが休憩を兼ねて昼食を摂ることになった。弁当は黒パンに野菜とチキンを挟んだサンドイッチだ。ドレッシングやソース類に大したものがないので正直な話、ちっとも美味くは無いが、採集メンバーは数日置きにしか肉類を食べられない食生活をしている者達のため、皆旨そうにサンドイッチにかじりついている。

 採集の賦役は危険もあるが必ずチキンのサンドイッチが配給されるのでかなり人気があるらしい。通常の開墾などの賦役では食事はつかないので、それも人気の秘密とのことだ。俺も一つをかじりながら従士と話をする。

「休憩中に見張りを立てなくても大丈夫かな?」

「ええ、あれ以来襲撃もありませんし、まぁ大丈夫でしょう。さっさと食ってすぐに周りを警戒すれば問題はありませんよ」

 ジャッドの息子で少し前から正式な従士になったウィットニーが言う。

「でも、魔物はこういう隙を狙ってくるんじゃないのか?」

 俺はこんなことを言ったが別に臆病風に吹かれたわけではない。用心は大切だと思っているからに過ぎない。

「アル様は心配性ですね。ですが、分かりました。私がすぐに警戒に立ちます。おい、ジェイミー、お前は俺と反対側だ。南西の方を頼む」

 ウィットニーはそう言うとすぐに立ち上がり、サンドイッチひと切れを咥えたまま北東の方へ警戒待機に向かった。ジェイミーも同様にウィットニーとは反対方向である南西へ向かう。数十分で交代するのだろう。

 俺は少し安心し、また大して旨くもないサンドイッチをかじる作業に戻る。黒パンは硬いので本気でかじらないと噛みきれない。そう言えば前世の家のそばにあったパン屋は黒パンも中身はそこそこ柔らかく、こんなに酸っぱくはなかったと思う。たまに女房とスモークサーモンやお中元やお歳暮などで良いハム類が手に入った時に食べていたなぁ、とふと思い出した。女房の顔はまだ思い出せる。今も元気で過ごしているならそれでいい。

 俺がなんとかサンドイッチをやっつけた頃を見計らって休憩していた従士が遠慮がちに話しかけてきた。

「アル様、済みませんがお湯をお願いできますか?」

 食後のお茶だろう。お茶と言っても俺が勝手にそう呼んでいるだけで本物のお茶ではない。村中に生えているミントのようなハーブに熱いお湯を注ぐといい香りがしてちょっと気持ちが落ち着くものがあるのだ。俺も丁度飲もうと思っていたので二つ返事で差し出された水筒の水をお湯にした。最初からお湯を出さないのは魔法で作り出した水は勿論飲んでもなんの害も無いが、恐らく完全な純水なので不味いからだ。皆もそれをわかっているので水筒を持って来ている。水筒は木で作られたものでゴム栓をしている。ゴム栓を開けて差し出された水筒の中の水に火魔法をかける。魔法で作り出した水であればこの程度の量ならばレベル2の火魔法一発で沸騰寸前にまで温度を上げるのは容易いのだが、自分で作り出した水でないとその10倍近いMPを消費してしまう。

 俺は特に問題なく自分で作り出した以外の水を温めることが出来るので、皆からはMPが多いと言うよりも、上手に魔法を使えると思われている節も垣間見える。別段話すことでもないのでこちらからはそういった事を話題にしたことは無いが。

 全員の水筒の水をお湯にして返す。そこにハーブの葉を入れて1分ほど蒸らすとお茶というか、ハーブティーと言うか、ハーブ湯の出来上がりだ。やけどに気をつけてゆっくりと啜る。いい香りだし、あと口がスッとするので慣れると美味く感じる。

 そんな感じでゆっくりと休憩をしていた。

 そんな折、ウィットニーの叫び声が聞こえた。

「魔物だぁっ!!」



・・・・・・・・・



 ついに来たか。俺を含む従士達は立ち上がり武装を確認する。従士の一人が村へ走って援軍を呼びに行った。あらかじめ、こういう時には誰が行くのかは決めてあったので迷いや戸惑いは無い。残った一人にはジェイミーを呼びに行かせ、俺はウィットニーの元へと全力でダッシュだ。

 ウィットニーは恐らく200mくらい離れたところにいるはずだ。下生えがあまりないとは言え、凸凹のある林の中だ。平地を走るほどスピードは出ない。多分30秒くらいはかかるだろう。少しでも早く行きたいが転ばないように注意もしなければならない。転んだら余計時間がかかるのだし、俺の場合、視界にさえ入れば魔法があるからウィットニーと肩を並べるまでの距離まで近づかなくても攻撃なり何なりの行動が出来ることが強みだ。

 木銃を抱え、急いで走る。その間に鑑定を使って一体何が出現したのか少しでも早く確かめようとする。ほどなくウィットニーと争っている魔物が視界に入った。コボルドだ。

【 】
【男性/20/7/7435・小犬人族・ボゾ氏族】
【状態:良好】
【年齢:3歳】
【レベル:2】
【HP:16(16) MP:1(1)】
【筋力:3】
【俊敏:3】
【器用:1】
【耐久:2】


 こんなのが4匹いる。コボルドは犬を擬人化させたような外見をしており、二本足で歩行する魔物だ。手は人間の様に器用で棍棒をはじめとした武器などの道具も使う程度の知能はある。体中の体表は小さな鱗に覆われているが、頭は犬そのものだ。いや、犬なのかハイエナなのか、はたまた狼なのか知らないが。まぁ狼人族や人狼ではないので狼という事はないか。ここら辺では比較的ポピュラーな魔物だ。夜行性ではないので夜の狩りの時に出会ったことはないが、昼間に見たことは何度かある。普通はこちらの数が多ければそのまま回れ右で逃げていく程度は状況を見るだけの頭もあるので見かけても戦ったことはない。今回はウィットニーが一人でいたので襲いかかってきたのだろう。

 別に大した魔物ではない。魔法を使うまでもないのでさっさとウィットニーの所まで行って一緒に格闘したほうがいいだろう。俺は

「いやああぁぁぁ!」

 という鬨の声を上げながら銃剣を突き出しつつ端っこのコボルドに突っ込んだ。胸のど真ん中に銃剣を突き刺し、突っ込んだ勢いを利用して蹴りつけて銃剣を抜く。ウィットニーは4匹が相手だったためか防戦に徹して時間を稼いでいたようだ。ざっと見たところ今のところ彼が傷を負った様子はない。

 とにかくこれで四対一から三対二になった。コボルドが相手ならもう大丈夫だ。全滅させるのも時間の問題だろう。そもそもウィットニーだってある程度危険を覚悟すれば一人でも何とかなるはずだ。あとは安全を考えてジェイミーともう一人の従士が援軍に来れば三対四になるのでそれから一気に畳み掛ければいいだろう。

 俺達はコボルドの使う棍棒をよけ、剣や銃剣で受け、振り回された攻撃をタイミングを見て躱すことに集中する。その時だ。

『ゴアアアアァァァァオオオゥ!!』

 咆哮が轟いた。

 一瞬で体が硬直する。これは……。あれか? ホーンドベアーか?

 コボルド三匹は恐慌状態になったのかへたり込む。

 ウィットニーも多分恐慌状態だろうがコボルド程ではない。

 すぐさま体勢を立て直し、ホーンドベアーの出現に備えなくてならない。

 魔法で一気に倒してやる。

 そう思っていたが、ウィットニーを間にして、もう数十m先にホーンドベアーがいるのを発見した。

 奴はこちらに向かって猛ダッシュで近づいてくる。

 まずい。

 ウィットニーが邪魔で水や土が出せない。生成してから無魔法で飛ばしてもダメだろう。

 こいつ相手に肉弾戦かよ!?

 おいおい、冗談じゃねぇ。

 だが、どうする!?

 このまま退却はウィットニーの見殺しを意味する。

 とてもそんなことは出来ない。

 仕方ねぇ。

 俺は恐慌状態のウィットニーの前に出て木銃を構える。もう10m程しか距離はない。木銃を槍のように突き出す。四つ足で駆けてきたホーンドベアーは意外にも俊敏に頭を狙った俺の攻撃を躱し、そのまま俺に体当たりをしてきた。巨体の肩口から俺の胸に体当たりされ、弾き飛ばされる俺。ゴムプロテクターがなかったら肋骨が折れていたかもしれない。という位の勢いだった。

 10m程も飛ばされて地面に転がった俺は咳き込みながらも立ち上がろうとしたが、上手く立てなかった。外傷を受けた訳では無いのだろうが、肺の中の空気が全て漏れ出したような感じでホーンドベアーを睨みつけるのが精一杯の有様だ。だが、早く何とかしないと、ウィットニーがやられてしまう。ホーンドベアーは恐慌状態に陥ってへたり込んだコボルドから始末しようとしたのだろう。コボルド達の方へ向き直ると右腕を振り上げた。

 地面から見上げる格好だからだろうか、ホーンドベアーがやけに大きく見える。額に屹立する黒光りしている10cm程の角がキラリと太陽の光を反射した。

 ホーンドベアーはそのまま右腕を振り下ろし、端っこでガクガクと震えていたコボルドに命中させた。グシャッともグチョッともつかないような形容しがたい音を立ててコボルドの頭は血煙のように消えた。

 このままボーッと見ているわけには行かない。いつ標的がウィットニーになるか知れたものではないし、俺だってまだ呼吸がうまくできない感じなのだ。何とか片膝を立て、左手を木銃から離して掌をホーンドベアーに向けた。魔法を使いながら、よく木銃を離さなかったものだと自分に感心する。

 俺は改良した『フレイムスロウワー』の魔法で細長いバーナーのような火を作り出し、それを振るって、と言うか魔法で操ってホーンドベアーに絡みつかせるように飛ばした。左手から発生した炎がガスバーナーのように細く収束されするすると伸びて行く。こちらに対して左側面を見せていたホーンドベアーの頭に向け必死に誘導し魔力を込める。

 ホーンドベアーはまだ俺が魔法を使っていることに気付いてはいないようだ。今度は左手を振り上げている。くそっ、振り上げた左手が邪魔で頭を直接狙いづらい。構うもんか、取り合えずあの左腕を貰ってやる!

 今にも振り下ろされようとしている左腕に生き物のようにガスバーナーの様な『フレイムスロウワー』を絡みつかせ、同時にそれを絞る。ホーンドベアーは炎の熱さに耐えかねて声を上げる。

「ギャオオオオオン!」

 今度は特殊技能の咆哮ではなく、苦痛の声だったようだ。体が硬直することはなかった。ぎりぎりと炎で締め上げる。ホーンドベアーの左腕に絡みつかせた『フレイムスロウワー』は容赦なく体表に生えている茶色い毛を焼き、表皮を焦がしているようだ。ホーンドベアーは俺を思い出したようにこちらを向き左腕を焼かれながらも再度威嚇するように咆哮を上げた。

「ゴオオオォォォガァァァッ!」

 ビクッと体が硬直すると同時に魔法への集中が途切れてしまった。腕に絡みついていた『フレイムスロウワー』はあっと言う間に消えた。硬直が解けると同時に咆哮も終了し、完全に俺がターゲットにされたようだ。くそ、次だ。胸が苦しくて仕方ないが、へたり込むわけには行かない。俺は目くらまし程度になれば充分とばかりに地魔法で風呂桶くらいの土を出し。それを思い切り無魔法と風魔法で散らす。

 直後に今度は氷の槍を出す。時間もないので大きさは普通の槍より少し大きいくらいだ。だが、複数の槍を俺の周囲に出した。合計5本だ。その槍を加速のための助走を付けている暇はないのでそのまま出来るだけの速度でホーンドベアーの頭を最後に見た辺りに飛ばした。一回だけずぶっという音がした。

 ホーンドベアーのどこかに当てることが出来たようだ。俺は開発した取って置きの魔法を使おうと再度突き出した左手から魔力を放出しようと意気込んだが、ウィットニーがまだあの辺りに居ることを思い出し、新しい魔法を諦めざるを得なかった。畜生、どうする?

 散らした土煙が晴れ、ホーンドベアーがあらわになる。氷の槍は奴の左目を潰したらしい。左目に槍が突き立っている。へっ、昔氷漬けにした一つ目を思い出すぜ。

 ホーンドベアーは次に何をしてくるのか、俺を睨みつけたまま唸っている。俺も負けじと睨み返す。胸が苦しいままだが、意地でも負けるもんか。俺は再度複数の槍を出す。と、どうしたことか、それを見たホーンドベアーは意外に素早い動作でくるりと振り返るとかなりのスピードで走り去っていった。

 やっとウィットニーも恐慌から脱したのだろうか、剣を構え直していたが、彼もこのホーンドベアーの退却は意外だったようで咄嗟に対応することが出来なかったようだ。念の為ウィットニーを鑑定して怪我がないことを確かめると、俺は我慢できずに倒れてしまった。

 意識を失った訳ではないので倒れながらも自分を鑑定したがHPは半減していたものの、状態は良好だった。骨折はしていないようだが胸に体当たりをされたので肺が圧迫されて苦しいのだろう。だが、これならじきに回復するだろう。

 念の為に自分に治癒の魔法をかけてみるがHPは回復するものの胸の苦しさはそのままだった。そのとき、やっとジェイミーともう一人の従士がやって来た。倒れている俺を見て声を掛けながら駆け寄ってくるが、直ぐに恐慌しているコボルドに気がついたようだ。ジェイミーが俺を護衛するように傍にいて油断なく構えている間にもう一人の従士が残っている二匹のコボルドの始末をしたようだ。

 ほどなく俺も回復したので顛末を話した。最初はコボルドが四匹でウィットニーに襲いかかっていたこと。俺が突っ込み一匹倒して援軍を待とうと防御に徹したこと。その間にいつの間にかホーンドベアーが現れ、強襲をかけてきたこと。手傷を負わせたもののホーンドベアーを仕留めるには至らず、退却されてしまったこと。順を追って全部話した。

 多分以前の犠牲者はあのホーンドベアーにやられたのだろう。退却するホーンドベアーの鑑定は忘れてしまったが、最初に見上げる格好でコボルドに腕を振り上げていた姿。こちらを睨みつけ唸り声を上げる姿。そして退却し走っていく後ろ姿。どれも俺にとって印象深い姿だった。暫くは忘れられそうにない。

 意外だったのはあれだけ大きく見えていたホーンドベアーが実はそれほど大きくはなかったことだ。以前倒したホーンドベアーは解体したからよく判っているが、あんなものではなかった。多分今回の奴はまだ若い個体だったのだろう。

 俺は撤収しながらも帰りの間中、あの片目になったホーンドベアーのことばかり考えていた。今回はなんとかなったが次回はどうだろうか?

 何となく俺はあいつを倒さなければ一人前になれないような気がしていた。

 
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